(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正投影像において、前記絶縁性粒子と前記凹部が離間していることにより形成された間隙の重心位置と前記絶縁性粒子の重心位置が、前記帯電部材の長手方向に配向している請求項1に記載の帯電部材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、被帯電体への電荷注入を抑制でき、かつ、プロセススピードの高速化にも対応し得る帯電部材を得るべく検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0015】
本発明の一態様に係る帯電部材は、導電性支持体と、導電性の表面層とを備えている。
【0016】
表面層は、導電性弾性体で形成することができる。表面層の表面は複数個の互いに独立してなる凹部を有する。そして、表面層は、各々の凹部に、絶縁性粒子を保持している。なお、ここで言う「凹部」は、最終製品としての帯電部材において窪んでいる部分だけを意味するのではなく、絶縁性粒子によって占められている部分も含めた表面層(典型的には導電性弾性体の表面)における窪みを意味する。
【0017】
絶縁性粒子の各々は、帯電部材の表面に露出しており、凸部を形成している。つまり、この絶縁性粒子は、表面層の構成材料(絶縁性粒子以外)に埋没しておらず、その一部が表面層構成材料(絶縁性粒子以外)から突出している。
【0018】
凹部およびその凹部に保持された絶縁性粒子を支持体の表面に正投影した時に得られる正投影像において、凹部に由来する投影像の外縁と絶縁性粒子に由来する投影像の外縁が離間して間隙を成している。凹部の壁の一部は、帯電部材の表面の一部を構成している。つまり、凹部の壁の少なくとも一部が、絶縁性粒子によって覆われることなく、表面に露出している。
【0019】
本発明者らは、本発明の一態様に係る帯電部材の凸部が絶縁性粒子に起因するものであるにも関わらず、速いプロセススピードに対応し得る理由を以下のように推測している。
【0020】
まず、
図1に本発明の帯電部材の表面の一例を示す。
図2Aは帯電部材の表面に対し接線方向を視点とした投影図(断面図)であり、
図2Bは帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした投影図である。
【0021】
帯電部材の表面とは、被帯電体と接する面もしくは近接する面である。また、一般的に帯電部材は所定の表面粗さを有するが、帯電部材の表面に対する法線方向や接線方向を定義する基準となる面は、その表面粗さの高さ方向の平均線を通る面とする。表面層を成す材料である導電性ゴム組成物が凹部11を形成している。このようにして、表面層の外表面には、互いに独立した複数の凹部が存在する。凹部11に絶縁性粒子が存在する。帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした投影図において、絶縁性粒子の外縁と、この絶縁性粒子が存在する凹部の外縁の少なくとも一部は、離間した状態で存在している。つまり、この投影図において、絶縁性粒子に由来する投影像の外縁と、凹部に由来する投影像の外縁とが離間している部位が存在する。この部位には、絶縁性粒子の壁と凹部の壁で囲まれた間隙が存在する。絶縁性粒子は、凸部12を形成している。
【0022】
この帯電部材の表面に対し接線方向を視点とした投影図を模式的に表したものが
図2Aである。導電性の凹部の外縁のうち、絶縁性粒子の外縁と接していない部分と、絶縁性粒子との間に放電が生じ、その放電によって絶縁性粒子の凸部がチャージアップ21する。そのため、感光体と凸部の電位差が大きくなり、強い放電22が生じる。よって、絶縁性粒子の凸部であっても、同じ高さの導電性の凸部に匹敵する帯電均一性が得られると推定する。この作用は絶縁性粒子による凸部と凹部に電位差と間隙が必要であり、絶縁性粒子が導電性であったり、絶縁性粒子の外縁の全てが凹部と接していたりする場合には発現しない。
【0023】
この絶縁性粒子からなる凸部のチャージアップは、感光体と帯電部材とのニップ通過前に発生し、放電可能な感光体と帯電部材との距離になった時に放電する。ニップ通過時には、チャージアップされ蓄積された凸部の電荷は既に減少しており、感光体との接触時の電荷移動はほとんど起こらない。そのため、導電性粒子の場合に起こることのある感光体電位が上昇し続ける現象が起こりにくい。
【0024】
このような作用を得るための帯電部材の表面形状を断面
図2Cにて説明する。帯電部材表面に対し法線方向を高さとして表現する。絶縁性粒子の平均粒子径は6μm以上、30μm以下であることが好ましい。平均粒子径が6μm以上であれば、感光体の回転方向上流の放電不足に起因して下流での放電が断続的に発生するために起こる横スジ状の画像不良を容易に抑制できる。また、平均粒子径が30μm以下であれば、凸部の周囲にトナーや外添剤や紙粉が付着することにより、帯電電位が低下する事による点状の画像不良(カブリと呼ぶ)が発生する事を容易に抑制できる。
【0025】
絶縁性粒子の凸部12の高さ24は表面形状の高さの平均線23よりも高く、3μm以上高いことが好ましい。凸部の高さが高いことで、感光体の回転方向上流の放電不足に起因して下流での放電が断続的に発生するために起こる横スジ状の画像不良を容易に抑制できる。
【0026】
絶縁性粒子の壁と凹部の壁で囲まれた間隙の深さ25は表面形状の高さの平均線23よりも低く、間隙の深さは平均粒子径の1/3以上が好ましい。
【0027】
凹部に由来する投影像の外縁26とは、凹部の輪郭と高さの平均線との交点になる凹部の周囲と定義する。また、絶縁性粒子に由来する投影像の外縁とは、前記正投影像において、絶縁性粒子の輪郭によって形成される外縁を意味する。なお、本明細書において「凹部の外縁」および「絶縁性粒子の外縁」という語は、特に断りの無い限り、それぞれ「凹部に由来する投影像の外縁」および「絶縁性粒子に由来する投影像の外縁」を意味する。
【0028】
帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした投影図において、絶縁性粒子に由来する投影像の外縁と凹部に由来する投影像の外縁とが離間した部位の距離(以下、「間隙部距離」ということがある。)について説明する。間隙部距離27は、帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした面の投影図において、絶縁性粒子の外縁のある1点から法線方向に引いた線と凹部の外縁との交点がなす線分のうち、最も長い線分と定義する(
図2D)。間隙部距離27は、10μm以上、70μm以下である事が好ましい。間隙部距離27が10μm以上、70μm以下であれば、凸部と凹部の外縁に存在する凹部の角部分の間で放電が起こり、絶縁性の凸部がチャージアップすることで感光体とのギャップの局所的な電界が強くなる。よって、強い放電が起き、帯電均一性が容易に得られる。
【0029】
間隙の深さは、間隙部距離27を100%とした時に、表面形状の高さの平均線に対し10%以上、50%以下の深さである事が好ましい。この比率が10%以上であると、帯電均一性を得ることが容易であり、50%以下であると間隙の底部の放電を良好とし、間隙の底と感光体の間の局所的な放電が不足する事に起因した点状の画像不良(カブリと呼ぶ)が発生する事を容易に抑制できる。
【0030】
凹部の形状は、半球状、半楕円球状、不定形等特に限定は無い。凹部の形状の例を
図6に示す。
図6A〜
図6Fはそれぞれ、帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした投影図である。なお
図6A〜
図6Fにおいては、絶縁性粒子112を黒抜き円で示す。絶縁性粒子112の外縁と凹部の外縁26の離間した部位の少なくとも一部が、一点鎖線で示した絶縁性粒子との距離が10μmの線と、二点鎖線で示した絶縁性粒子との距離が70μmの線の間にあれば更に好ましい。
【0031】
さらに、帯電部材の表面に対し法線方向を視点とした投影図において、絶縁性粒子の外縁と凹部の外縁で囲まれた間隙の重心位置は、絶縁性粒子の重心位置に対し、帯電部材の長手方向(帯電ローラであれば軸方向)に配向していることが好ましい。帯電部材の長手方向に広がる横スジ状の画像不良を更に改善する効果が高いからである。配向の度合いは、帯電部材の表面に対する法線方向を視点とした投影図(
図7)において、絶縁性粒子の重心と間隙の重心とを結んだ方向71と、帯電部材長手方向72とのなす成す鋭角73の平均値で表す事ができる。この値は0°から90°の値になり、90°は長手方向と直交する方向(帯電ローラであれば回転方向)に配向している事を示し、45°であると無配向であることを示し、0°は長手方向に配向している事を示す。この角度が45°未満であれば、絶縁性粒子と間隙が、帯電部材の長手方向に配向していることになる。この角度は、0°以上、20°以下であることが好ましい。
【0032】
凹部(絶縁性粒子が存在している凹部)の数は、特に限定されないが、表面層の表面において100μm角あたり、0.2個以上、10個以下程度を例示することができる。絶縁性粒子が存在していない凹部や、凹部に存在していない絶縁性粒子が存在していてもよい。
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
<帯電部材>
図3に、本発明の帯電部材の一例として帯電ローラの構成図を示す。
帯電ローラ30は、導電性支持体としての芯金31と、芯金31上に形成した表面層32とからなっている。
続いて、帯電部材を構成する各要素について順に説明する。
【0035】
(絶縁性粒子)
表面層には絶縁性粒子が露出している。絶縁性粒子としては、体積抵抗が10
10Ωcm以上の絶縁性を有していればよい。絶縁性粒子の体積抵抗は、絶縁性粒子を加圧することによってペレット化し、このペレットの体積抵抗を測定する粉体抵抗測定装置(商品名:粉体抵抗測定システム MCP−PD51型、三菱化学アナリテック社製)によって測定することができる。
【0036】
ペレット化するため、粉体抵抗測定装置の直径20mmの円筒状のチャンバーに測定する絶縁性粒子を入れる。充填量は、20kNで加圧した時のペレットの厚みが3〜5mmになるようにする。測定は、23℃/50%RH(相対湿度)の環境下で、印加電圧90V、荷重4kNにて測定する。
【0037】
絶縁性粒子の材質は特に限定されるものではないが、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、ナイロン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂等から選ばれる少なくとも一つの樹脂でできた樹脂粒子や、シリカ、アルミナ、ジルコニアから選ばれる少なくとも一つの無機物からできた無機粒子等が例示される。
【0038】
上記の、絶縁性粒子と凹部の形状(平均粒子径:6から30μm、間隙部距離:10から70μm)を満たした上で、表面粗さは十点平均粗さRzが、6μm以上、30μm以下であることが好ましい。RzはJIS B0601:1982による。
【0039】
6μm以上であれば、表面粗さが小さいことによる回転方向上流の放電不足に起因して下流での放電が断続的に発生するために起こる横スジ状の画像不良を容易に抑制できる。30μm以下であれば、表面形状の谷の部分と感光体の間の局所的な放電が不足する事に起因したカブリが発生する事を容易に抑制できる。
【0040】
絶縁性粒子の平均粒子径は以下の方法によって求められる「長さ平均粒子径」である。まず、絶縁性粒子を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JEOL LV5910)で観察、画像撮影を実施し、撮影画像を画像解析ソフト(商品名:Image−Pro Plus、プラネトロン社製)を用いて解析する。解析は写真撮影時のミクロンバーから単位長さあたりの画素数をキャリブレーションし、写真から無作為に選択した100個の粒子について、画像上の画素数から定方向径を測定し、算術平均粒子直径を求め、絶縁性粒子の平均粒子径とする。
【0041】
さらに、絶縁性粒子の球形度に関しては下記に示す形状係数SF1の平均値が100以上、160以下であることが好ましい。ここで、形状係数SF1は、下記式(1)で表される指数であり、100に近いほど球形に近いことを意味している。形状係数の平均値が160以下であれば、絶縁性粒子が表面層に露出して感光体に直接接触していても、感光体の摩耗や傷つきを容易に抑制できる。
【0042】
絶縁性粒子の形状係数SF1の測定は以下の方法によって行える。粒子径の測定と同様に走査型電子顕微鏡で撮影した画像情報を画像解析装置(ニレコ社製、商品名:Lusex3)に入力し、無作為に選んだ100個の粒子像について、それぞれSF1を下記式(1)によって算出する。平均値はその算術平均をとることで得られる。
SF1={(MXLNG)
2/AREA}×(π/4)×(100)・・・・(1)
(ただし、MXLNGは粒子の絶対最大長を、AREAは粒子の投影面積を表す)。
【0043】
表面層の表面に露出する絶縁性粒子は、2種類以上の絶縁性粒子を併用してもよいし、各樹脂の共重合体からなる絶縁性粒子でも構わない。
【0044】
(凹部)
導電性の凹部の存在状態の一例として、表面層の表面に形成された導電性エラストマー組成物の一部が窪むことにより形成される凹部を挙げることができる。導電性エラストマー組成物は、好ましくは体積抵抗が10
3Ωcm以上10
9Ωcm以下であり、原料エラストマーに導電剤、架橋剤等を適宜配合したエラストマー組成物である。
【0045】
導電性エラストマー組成物の体積抵抗は、4端子4探針法で測定でき、抵抗率計(商品名:ロレスタGP、三菱化学アナリテック社製)によって測定することができる。サンプル作製のため、ゴム組成物を厚み2mmの金型に入れ、10MPa、160℃、10分架橋して、厚さ2mmのゴムシートを得る。このゴムシートの体積抵抗率を4端子4探針法で測定する。測定の条件としては、23℃/50%RH(相対湿度)の環境下で、プローブはESPプローブ、補正係数は4.532、印加電圧は90V、荷重は10Nとする。
【0046】
上記導電性エラストマー組成物としては、従来から帯電部材の導電性弾性層、例えば電子写真装置用の帯電ローラの導電性弾性層に用いられている、ゴムや熱可塑性エラストマー等で形成された導電性エラストマー組成物を用いることができる。
【0047】
ゴムとしては、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム等を含むゴムもしくはゴム組成物が好適に用いられる。
【0048】
熱可塑性エラストマーとしては、その種類には特に制限はなく、汎用のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマーなどから選ばれる1種あるいは複数種の熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマーもしくは熱可塑性エラストマー組成物を好適に用いることができる。
【0049】
導電性エラストマー組成物の導電機構は、イオン導電機構と電子導電機構の二つに大別される。
【0050】
イオン導電機構の導電性エラストマー組成物は、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)に代表される極性エラストマーと、イオン導電剤からなるものが一般的である。このイオン導電剤は、前記極性エラストマーの中で電離し、かつその電離したイオンの移動度が高いイオン導電剤である。しかし、イオン導電機構の導電性エラストマー組成物は、電気抵抗の環境依存性が大きく、イオンが移行することによって導電性が発現するという機構に起因してブリードやブルームを起こしやすいことがある。
【0051】
それに対し、電子導電機構による導電性エラストマー組成物は、エラストマー中に導電性粒子として、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、金属微粉末、金属酸化物等を分散し、複合したものが一般的である。電子導電機構の導電性エラストマー組成物は、イオン導電機構の導電性エラストマー組成物に比べ、電気抵抗の温湿度依存性が小さい、ブリードやブルームが少ない、安価であるなどの長所がある。
【0052】
帯電部材においては、感光体と帯電部材の電位差および周速差がある場合に接触部の電荷移動によって感光体が帯電する現象が少ないため、電子導電機構の導電性ゴム組成物を用いるのが好ましい。
【0053】
導電性粒子としては、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラック等の導電性カーボン、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、銅、銀等の金属及び金属酸化物、酸化処理を施したカラー(インク)用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。導電性粒子は大きな凸部とならない事が好ましく、平均粒子径が10nmから300nmであるものを用いることが好ましい。
【0054】
これらの導電性粒子の充填量は、原料エラストマー、導電性粒子、及びその他配合剤の種類によって、導電性弾性層(表面層)が所望の電気抵抗となるように、適宜選択することができる。例えば、ポリマー(原料エラストマー)100質量部に対して、0.5質量部以上、100質量部以下、好ましくは2質量部以上、60質量部以下などとすることができる。
【0055】
また、導電性エラストマー組成物中には、他の導電剤、充填剤、加工助剤、老化防止剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、分散剤等を含有させることができる。
【0056】
(表面層)
表面層は弾性体からなる表面層を意味する。表面層は多層化することも可能である。ただし、多層化する場合は最表面に絶縁性粒子を含有する層を形成する必要がある。また、導電性支持体と弾性層との間には接着層を形成することも出来る。
【0057】
本態様において、表面層は単層であることが好ましい。生産工程を簡素化にも資するためである。そして、この場合における表面層の厚さとしては、感光体とのニップ幅を確保するために、0.8mm以上、4.0mm以下、特には、1.2mm以上、3.0mm以下の範囲が好ましい。
【0058】
さらに、本態様の帯電部材が有する特定の表面を形成する手段として、クロスヘッド押出によって形成した弾性層の表面をそのまま用いる手段が、生産工程の簡素化のために好ましい。
【0059】
さらに、表面層の非粘着化、表面層内部からのブリードおよびブルーム防止等の目的で紫外線や電子線を照射することによる表面処理を行ってもよい。
【0060】
(導電性の支持体)
導電性支持体は、導電性を有し、表面層等を支持可能であって、かつ、帯電部材としての、典型的には帯電ローラとしての強度を維持し得るものであればよい。
【0061】
<帯電部材の製造方法>
本態様に係る帯電部材の製造方法の一例として、製造工程が簡略であるという観点から有効な方法を説明する。すなわち、押出成型によって、凹部に絶縁性粒子が存在し、その絶縁性粒子によって形成された凸部を有し、凹部と凸部の外縁の少なくとも一部が離間して間隙を成している表面を形成する製造方法を説明する。
【0062】
その製造方法とは、次の2つの工程を含む、絶縁性粒子と導電性ゴム組成物の界面が剥離した間隙を表面に形成する帯電ローラの製造方法である。
・導電性ゴム組成物と平均粒子径が6μm以上、30μm以下の絶縁性粒子からなり、破断点伸度を適度な値に制御した未加硫ゴム組成物を調製する工程。
・押出成型における引取率(後述)が100%以下になるように、未加硫ゴム組成物を伸長させながら芯金と一体にクロスヘッド押出成型する工程。
【0063】
まず、表面層を構成する導電性ゴム組成物と絶縁性粒子を含む未加硫ゴム組成物を調製する。
【0064】
未加硫ゴム組成物中の絶縁性粒子の含有量は、原料ゴムの100質量部に対して、5質量部以上、50質量部以下が好ましい。5質量部以上であれば絶縁性粒子が充分な量、表面に存在することが容易であり、感光体との接触面積を特に小さくする事ができる。また、50質量部以下であれば絶縁性粒子の配合量が多くなって表面層が硬くなることを容易に抑制できる。
【0065】
本発明者らは、間隙部距離を、未加硫ゴムの引張試験における破断点伸度によって制御できることを見出した。
【0066】
破断点伸度の測定は、引張試験機(商品名:RTG−1225、株式会社エー・アンド・デイ製)を用い、JIS K6254−1993に準拠して行う。その際、引張速度は500mm/分、破断点計測感度は0.01N、標線間距離は20mm、サンプル幅は10mm、厚みは2mm、試験温度は25℃、測定回数は2回として行う。
【0067】
破断点伸度は、直径3μm以下の微小な亀裂(空孔)が発生することにより応力が緩和していることの指標になると考えている。そのため、絶縁性粒子と導電性ゴム組成物の界面で応力が集中した際に界面が剥離することによってできる間隙は、微小な亀裂により応力が緩和しやすい場合に発生しにくい。つまり、間隙は、破断点伸度が小さい未加硫ゴムにおいて発生しにくいと言える。微小な亀裂による応力緩和を制御するためには、補強性の低い充填剤を混合することが好ましい。特に炭酸カルシウムは、添加量による破断点伸度の調整幅が広いため好ましい。適切な大きさの間隙を形成するために、破断点伸度は50%以上、80%以下であることが好ましい。
【0068】
その他、未加硫ゴム組成物のムーニー粘度や絶縁性粒子と導電性ゴム組成物の極性差や粘着性によっても、剥離による間隙の形成を制御する事ができる。原料ゴムとしては、ムーニー粘度が高いほど間隙を大きくする事ができる。
【0069】
この未加硫ゴム組成物を用いて、絶縁性粒子と導電性ゴム組成物との界面を剥離させて間隙を形成するため、クロスヘッド押出し成形機を用い、未加硫ゴム組成物を引き延ばしながら成型する。クロスヘッド押出成型機とは、未加硫ゴム組成物と所定の長さの芯金とが同時に送り込まれ、芯金の外周に所定の厚さのゴム材料が均等に被覆された未加硫ゴムローラがクロスヘッドの出口から押し出される成型機である。
【0070】
図4Aは、クロスヘッド押出し成形機4の概略構成図である。クロスヘッド押出し成形機4は、芯金41の全周にわたって未加硫ゴム組成物42を均等に被覆して、中心に芯金41が入った未加硫ゴムローラ43を製造するための装置である。
【0071】
クロスヘッド押出し成形機4には、芯金41と未加硫ゴム組成物42が送り込まれるクロスヘッド44と、クロスヘッド44に芯金41を送り込む搬送ローラ45と、クロスヘッド44に未加硫ゴム組成物42を送り込むシリンダ46と、が設けられている。
【0072】
搬送ローラ45は、複数本の芯金41を軸方向に連続的にクロスヘッド44に送り込む。シリンダ46は内部にスクリュ47を備え、スクリュ47の回転により未加硫ゴム組成物42をクロスヘッド44内に送り込む。
【0073】
芯金41は、クロスヘッド44内に送り込まれると、シリンダ46からクロスヘッド内に送り込まれた未加硫ゴム組成物42に全周を覆われる。そして、芯金41は、クロスヘッド44の出口のダイス48から、表面に未加硫ゴム組成物42が被覆された未加硫ゴムローラ43として送り出される。
【0074】
クロスヘッドの押出口の隙間に比べ未加硫ゴム組成物の厚みが薄くなるように成型することで、つまり、未加硫ゴムを引き延ばしながら成型することで、絶縁性粒子と導電性ゴム組成物の界面が剥離し、間隙が形成される。
図4Bに、クロスヘッド押出口付近の模式図を示す。クロスヘッド押出口のダイスの内径をD、未加硫ゴムローラの外径をd、芯金の外径をd
0とした際に、「(未加硫ゴム組成物の厚み)÷(押出口の隙間)」に相当する(d−d
0)/(D−d
0)を引取率(%)と定義する。この値は100%のとき押出口の隙間と同じ未加硫ゴム組成物の厚みを意味する。この引取率が小さいほど引き延ばしながら成型することを示し、大きな間隙が形成される。引取率としては、90%以下、80%以上であると適度な大きさの間隙ができるため好ましい。一般的な成形においては通常、押出口から吐出された未加硫ゴム組成物はダイスウェルによって収縮し、引取率は100%以上になる。
【0075】
引取率の調整は、芯金41の搬送ローラ45による芯金送り速度と、シリンダ46からの未加硫ゴム組成物送り速度との相対比を変化させることで行う。この時、シリンダ46からクロスヘッド44への未加硫ゴム組成物42の送り速度は一定とする。芯金41の送り速度と未加硫ゴム組成部42の送り速度の比によって、未加硫ゴム組成物42の肉厚が決定される。
【0076】
未加硫ゴム組成物は、各芯金41の長手方向の中央部において端部より外径(肉厚)が大きい、いわゆるクラウン形状に成型する。こうして未加硫ゴムローラ43を得る。
【0077】
次いで、架橋が必要な場合には未加硫ゴムローラを加熱して、加硫ゴムローラを得る。加熱処理の方法の具体例としては、ギアオーブンによる熱風炉加熱、遠赤外線による加熱加硫、加硫缶による水蒸気加熱などを挙げることができる。中でも熱風炉加熱や遠赤外線加熱は、連続生産に適しているため好ましい。熱可塑性エラストマーを用いて表面層を形成する場合など、架橋が必要無い場合には、熱可塑性エラストマーからなる未加硫ゴムローラを適宜冷却するなどして、そのまま加硫ゴムローラの代わりに用いる事ができる。
【0078】
加硫ゴムローラの両端部の加硫ゴム組成物は、後の別工程にて除去され、加硫ゴムローラが完成する。したがって、完成した加硫ゴムローラは芯金の両端部が露出している。
【0079】
芯金の両端部の露出した部分を把持する電子写真装置の場合には、帯電ローラ端部の荷重が大きくなり、電子導電性の導電性ゴム組成物の場合には、荷重による劣化によって端部が高抵抗になり、横スジ状の画像不良が発生しやすいことがある。この製造方法において、クラウン形状にする場合には、引取率はローラの中央部に比べ端部で小さく、端部の方が大きな間隙が形成される。そのため、端部の横スジ状の画像不良を抑制する効果が特に高い。端部と中央部の間隙部距離の比率は、中央部の間隙部距離を1とした時に端部の間隙部距離が1.1以上、1.3以下であると更に好ましい。
【0080】
表面層には、紫外線や電子線を照射することによる表面処理を行ってもよい。
【0081】
その他の製造方法としては、次の様な例があげられる。
まず、発泡剤を含有した未加硫ゴム組成物を調製する。この未加硫ゴム組成物を押出成型により加硫ゴムローラにする。加硫ゴムローラの表面を研磨し、発泡してできた空孔による凹部を露出させる。この凹部に凹部の長径よりも短い直径の熱可塑性絶縁性粒子を塗布する。その後、熱可塑性絶縁性粒子の融点より高い温度で加熱し、絶縁性粒子を密着させる。
【0082】
この方法に比べて、破断点伸度や引取率を制御しながら押し出す製造方法で得られた帯電ローラは、絶縁性粒子と間隙の重心位置が、帯電ローラの軸方向に配向する。そのため、横スジ状の画像ムラを改善する効果が高く、好ましい。
【0083】
続いて、本態様に係る帯電部材を有する電子写真装置の例の構成図(
図5)を用い、電子写真画像形成プロセスを説明する。被帯電部材としての電子写真感光体(感光体)51は、導電性支持体51bと、支持体51b上に形成した感光層51aとからなり、円筒形状を有する。そして、軸51cを中心に図上時計周りに所定の周速度をもって駆動される。被帯電部材(感光体51)は、帯電部材(帯電ローラ52)によって帯電可能である。帯電部材の汚れ除去の観点から、被帯電部材の周速度に対し、帯電部材の周速度を1.05倍以上、もしくは0.95倍以下で帯電部材を駆動可能であることが好ましい。
【0084】
帯電ローラ52は感光体51に接触配置されて感光体51を所定の電位に帯電する。帯電ローラ52は、芯金52aと、芯金52a上に形成した表面層52bとからなる。芯金52aの両端部が不図示の押圧手段で電子写真感光体51に押圧されており、帯電ローラは感光体51に対し従動回転もしくは一定の速度差を持って回転する。電源53から摺擦電極53aを介して、芯金52aに所定の直流電圧が印加されることで、感光体51が所定の電位に帯電される。
【0085】
帯電された感光体51は、次いで露光手段54により、その周面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。その静電潜像は、次いで、現像部材55により、トナー画像として順次に可視像化される。このトナー画像は、転写材57に順次転写されていく。転写材57は不図示の給紙手段部から感光体51の回転と同期取りされて適正なタイミングをもって感光体51と転写手段56との間の転写部へ搬送される。転写手段56は転写ローラであり、転写材57の裏からトナーと逆極性の帯電を行うことで感光体51側のトナー画像が転写材57に転写される。表面にトナー画像の転写を受けた転写材57は、感光体51から分離されて不図示の定着手段へ搬送されてトナーが定着され、画像形成物として出力される。像転写後の感光体51の周面は、弾性ブレードに代表されるクリーニング部材58によって感光体51の表面に残留しているトナーなどが除去される。クリーニングされた感光体51の周面は次のサイクルの電子写真画像形成プロセスに移る。
【実施例】
【0086】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは、本発明を限定するものではない。なお、以下、特に明記しない限り、試薬等で指定のないものは市販の高純度品を用いた。なお各例では、帯電ローラを作製した。
【0087】
〔実施例1〕
(表面層用の未加硫ゴム組成物の調製)
表1に示す材料を混合してA練りゴム組成物を得た。混合機は、6リットル加圧ニーダー(製品名:TD6−15MDX、トーシン社製)を用いた。混合条件は、充填率70vol%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0088】
【表1】
【0089】
次いで、上記A練ゴム組成物と表2に示す材料を混合し、未加硫ゴム組成物−1を得た。混合機は、ロール径12インチ(0.30m)のオープンロールを用いた。混合条件は、前ロール回転数10rpm、後ロール回転数8rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。
【0090】
【表2】
【0091】
さらに、未加硫ゴム組成物−1と絶縁性粒子として球状PMMA粒子(商品名:ガンツパールGM−0801、アイカ工業株式会社製、以下、「粒子No.3」ともいう)20質量部と混合し、粒子No.3を含む未加硫ゴム組成物−1Aを得た。混合機は、ロール径12インチ(0.30m)のオープンロールを用いた。混合条件は、前ロール回転数8rpm、後ロール回転数10rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。なおPMMAはポリメタクリル酸メチル樹脂を意味する。
【0092】
(破断点伸度の測定)
引っ張り試験機を用い、未加硫ゴムシートの破断点伸度を測定した。未加硫ゴムシートは、表面層用の未加硫ゴム組成物−1Aを用い、厚さ2mmの長方形型の金型で成形した。成形条件は、温度:80℃、圧力:10MPaとした。測定はテンシロン万能試験機RTG−1225(商品名:株式会社オリエンテック製)を用いJIS K−6251に則って行った。このとき、未加硫ゴムシートはダンベル状1号形の試験片とし、引っ張り速度は500mm/min、23℃/50%RH(相対湿度)の環境下とした。
破断点伸度は、72%であった。
【0093】
(ゴム組成物の体積抵抗率測定)
球状PMMA粒子を含有する未加硫ゴム組成物−1Aの球状PMMA粒子を除いたゴム組成物の体積抵抗率を測定するため、前述の(表面層用の未加硫ゴム組成物の調製)において、球状PMMA粒子を添加しない以外は同様の方法で、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を厚み2mmの金型に入れ、10MPa、160℃、10分架橋して、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートの体積抵抗率を4端子4探針法で測定した。測定の条件としては抵抗率計(商品名:ロレスタGP、三菱化学アナリテック社製)にて、23℃/50%RH(相対湿度)の環境下で、印加電圧90V、荷重10Nとした。体積抵抗率は2500Ωcmであった。
【0094】
(絶縁性粒子の粉体抵抗率測定)
粒子No.3、すなわち、球状PMMA粒子(商品名:ガンツパールGM−0801、アイカ工業株式会社製)の体積抵抗を粉体抵抗率測定装置(商品名:粉体抵抗測定システム MCP−PD51型、三菱化学アナリテック社製)によって測定した。測定は、23℃/50%RH(相対湿度)の環境下で、印加電圧90V、荷重4kNにて測定した。体積抵抗率は10
10Ωcm以上の絶縁性であった。以後の実施例および比較例を含め、用いる絶縁性粒子は10
10Ωcm以上であれば絶縁性、10
3Ωcm以下であれば導電性として表3に示す。
【0095】
(加硫ゴム層の成形)
まず、加硫ゴム層を接着する接着層を有する芯金を得るため、次の操作を行った。すなわち、直径6mm、長さ252mmの円柱形の導電性芯金(鋼製、表面はニッケルメッキ)の軸方向の中央部222mmに導電性加硫接着剤(商品名:メタロックU−20;東洋化学研究所製)を塗布し、80℃で30分間乾燥した。
【0096】
この接着層を有する芯金に表面層用の未加硫ゴム組成物−1Aをクロスヘッド押出成型機にて被覆し、クラウン形状の未加硫ゴムローラを得た。成型温度は100℃、スクリュ回転数は10rpmとして、芯金の送り速度を変えながら成型した。未加硫ゴムローラの軸方向を平均した引取率は87%とした。クロスヘッド押出成型機のダイス内径は8.9mm、未加硫ゴムローラの軸方向の中央の外径は8.6mm、端部の外径は8.4mmであった。
【0097】
その後、電気炉にて温度160℃で40分間加熱して未加硫ゴム組成物の層を加硫して加硫ゴム層とした。加硫ゴム層の両端部を切断し、軸方向の長さを232mmとした。
【0098】
(押出後の加硫ゴム層の電子線照射)
得られた押出後の加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して、弾性層(表面層)の表面に硬化された領域を有する帯電ローラを得た。電子線の照射には、最大加速電圧150kV・最大電子電流40mAの電子線照射装置(岩崎電気株式会社製)を用い、照射時には窒素を充填した。電子線の照射条件は加速電圧:150kV、電子電流:35mA、線量:1323kGy、処理速度:1m/min、酸素濃度:100ppmであった。
【0099】
(表面粗さの測定)
弾性層表面の十点平均粗さRzを測定した。測定器は表面粗さ測定器(商品名:サーフコーダーSE3400、小坂研究所社製)を、プローブは先端半径2μmのダイヤモンド製接触針を用いた。測定はJIS B0601:1982に基づき、測定スピードは0.5mm/s、カットオフ周波数λcは0.8mm、基準長さは0.8mm、評価長さは8.0mmとした。帯電ローラのRzの値としては、帯電ローラ1本当たり、軸方向3点×周方向2点の計6点について測定して、それら6点の平均値を用いた。
その結果、Rzは15μmであった。
【0100】
(絶縁性粒子の観察)
コンフォーカル顕微鏡(商品名:オプティクスハイブリッド、レーザーテック株式会社製)により、帯電ローラ表面の絶縁性粒子を観察した。観察条件は、対物レンズ50倍、画素数1024ピクセル、高さ分解能0.1μmとした。絶縁性粒子は露出した状態で存在していた。
【0101】
(間隙部距離の測定)
間隙部距離とは、表面に対し法線方向を視点とした面の投影図において、絶縁性粒子の外縁から法線方向に引いた線と凹部の外縁との交点がなす線分のうち、最も長い線分の長さである。間隙部距離を以下の方法で測定した。まず、コンフォーカル顕微鏡(商品名:オプティクスハイブリッド、レーザーテック株式会社製)により、帯電ローラ表面の高さ像を測定した。観察条件は、対物レンズ50倍、画素数1024ピクセル、高さ分解能0.1μmとし、取得した画像を2次曲面にて平面補正した値を高さの値とした。
【0102】
続いて、画像処理ソフト(商品名「Image−Pro Plus」:プラネトロン株式会社製)を用いて、間隙部距離を計算した。まず、高さの平均値を閾値として、高さ像を2値化した。次に、カウント/サイズによって高さの平均値より低い部分のオブジェクトを自動抽出した。このオブジェクトに接する絶縁性粒子の外縁から法線を引き、凹部の外縁との距離が最も長くなる部分の距離を計測した。抽出された高さの平均値より低い部分のオブジェクトについて面積の大きな順に、このような操作をローラの軸方向中央付近の100点および加硫ゴム層の端部から20mm付近の100点について行って、平均値を抽出した。この平均値を、間隙部距離とした。この距離が10μm以上、70μm以下であれば、本発明の効果を優れて発揮することができる。
【0103】
間隙部距離は、38μmであった。また、中央部の間隙部距離に対する、端部の間隙部距離の比は1.2であった。なお、中央部の間隙部距離は、前述の軸方向中央付近の100点の距離の平均値であり、端部の間隙部距離は、前述の加硫ゴム層端部から20mm付近の100点の距離の平均値である。
【0104】
(絶縁性粒子の凸部の高さ、間隙の深さの長径に対する比率の測定)
絶縁性粒子の凸部の高さ、および、間隙の深さの間隙部距離に対する比率を以下の方法で測定した。まず、コンフォーカル顕微鏡(商品名:オプティクスハイブリッド、レーザーテック株式会社製)により、帯電ローラ表面の高さ像を測定した。観察条件は、対物レンズ50倍、画素数1024ピクセル、高さ分解能0.1μmとし、取得した画像を2次曲面にて平面補正した値を高さの値とした。
【0105】
この高さ像のから、絶縁性粒子の凸部の周囲にできた間隙の周辺部分の断面プロファイルを抜き出し、高さの平均線から凸部の頂点までの距離を求めた。この値を100点(100個の凸部)平均した値を凸部の高さとした。同様に高さの平均線から間隙の底までの距離を出し、間隙部距離で割った値を求めた。この値を100点(100個の凹部)平均した値を間隙の深さの間隙部距離に対する比率(百分率)とした。
凸部の高さは、4μmであった。また、間隙の深さの、間隙部距離に対する比率は23%であった。
【0106】
(絶縁性粒子と凹部が離間している事により形成された間隙の重心位置と絶縁性粒子の重心位置の配向の測定)
絶縁性粒子と凹部が離間している事により形成された間隙の重心位置と絶縁性粒子の重心位置の配向を測定するため、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)(以降「TEM」と略)の画像を取得した。TEMで観察するサンプルとしては、表面形状の高さの平均面に沿って凹部を切断するように表面層を切断した薄片を用いた。薄片は超薄切片法によって調製した。切削装置は、クライオミクロトーム(商品名「Leica EM FCS」、ライカマイクロシステムズ株式会社製)を用いた。切削温度は、−100℃とした。この切片を観察するTEMとしては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H−7100FA(商品名)を用いた。加速電圧は100kVに、視野は明視野にした。この薄片をTEMで観察した画像を、間隙(空孔)、絶縁性粒子、導電性ゴム組成物のそれぞれにコントラスト差があるよう撮影した。必要であれば、画像処理により間隙(空孔)、絶縁性粒子、導電性ゴム組成物を3値化した画像を用いた。
【0107】
この画像の各凹部にある絶縁性粒子と間隙の重心X座標、重心Y座標を画像処理ソフト(商品名「Image−Pro Plus」:プラネトロン株式会社製)のカウント/サイズ機能で計測した。その2点の座標を結ぶ方向とローラ軸方向とのなす鋭角を100点(100個の凹部)について測定し、その平均値を絶縁性粒子と凹部が離間している事により形成された間隙の重心位置と絶縁性粒子の重心位置の配向角とした。配向角は0°であった。以上、実施例1の帯電ローラの詳細および粒子No.3を含む未加硫ゴム組成物1Aの破断点強度を表3−1に示す。
【0108】
(評価1)帯電均一性の評価
作製した帯電ローラを、電子写真装置(商品名:LBP7200C キヤノン株式会社製、A4紙縦出力用、)の記録メディアの出力スピードが200mm/secになるよう改造した改造機のブラックカートリッジに装着した。この改造機により、15℃/10%RH(相対湿度)の環境下で、画像の出力を行った。
【0109】
画像出力条件としては、A4紙の画像形成領域の1面積%にランダムに印字した画像を使用し、1枚画像を出力すると電子写真装置を停止させ、10秒後また画像形成動作を再開するという動作を繰り返し3万枚の画像出力耐久試験を行った。3万枚耐久後の評価用画像の出力条件は、ハーフトーン画像(感光体の回転方向に対して垂直な方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く、中間濃度の画像)を1枚出力した。この画像を用い、以下の基準で横スジ状の画像ムラの有無による帯電均一性の評価を行った。評価は帯電ローラの軸方向中央部付近および、加硫ゴム層の両端部から20mm付近の画像を観察することで行った。
A:横スジ状の画像ムラがなかった。
B:横スジ状の画像ムラはなかったが、画像にやや粒状感があった。
C:実用上問題にならない程度の、軽微な横スジ状の画像ムラがあった。
D:横スジ状の画像ムラがあり、画像品位を損なっていた。
E:横スジ状の画像ムラがあり、画像品位を著しく損なっていた。
【0110】
実施例1では、凸部の高さ、間隙部距離、絶縁性粒子と凹部が離間している事により形成された間隙の重心位置と絶縁性粒子の重心位置の配向、中央部と端部の間隙部距離の比、Rzといった表面形状が適正であった。そのため、横スジ状の画像ムラの有無による帯電均一性の評価はランクAになり、高い画像品位を保っていた。
【0111】
(評価2)耐久試験前後の電位評価
上記の電子写真装置の感光体の帯電ローラは従動回転する。この電子写真装置の感光体と帯電ローラを独立に駆動することのできる治具に組み込み、上記の耐久試験前後の電位の変化を測定した。評価は、接触による電荷の移動を評価するため、30℃/90%RHの環境下、帯電ローラ電位500V、感光体の回転速度200mm/sec、帯電ローラの回転速度220mm/secで行った。この条件で感光体が1回転した時の電位を耐久試験前後の帯電ローラについて測定し、その差を耐久試験前後の電位差とした。
その結果、実施例1の帯電ローラの耐久試験前後の電位差は28Vであった。
【0112】
(評価3)帯電不足による評価3
評価1で用いた電子写真装置で、1枚目に、評価用のハーフトーン画像(感光体の回転方向に対して垂直な方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く、中間濃度の画像)を1枚出力した。この画像を用い、以下の基準でカブリの評価を行った。
A:点状の画像ムラがなかった。
B:ごく軽微な点状の画像ムラがあった。
C:実用上問題にならない程度の、軽微な点状の画像ムラがあった。
D:点状の画像ムラが画像の広範囲にあり、画像品位を著しく損なっていた。
【0113】
この評価は、間隙からの放電が不足する事によって点状の画像ムラ(カブリと呼ぶ)を評価するものである。
【0114】
実施例1では、間隙部距離、間隙部距離に対する間隙の深さの比、Rzといった表面形状が適正であった。そのため、点状の画像ムラの評価はランクAになり、高い画像品位を保っていた。上記評価1〜3の結果を表5−1に示す。
【0115】
【表3-1】
【0116】
【表3-2】
【0117】
〔実施例2〜12、比較例1〜3〕
実施例1における、粒子No.3を含む未加硫ゴム組成物−1Aを、表3−1および表3−2に示す通りの配合割合の、粒子含有未加硫ゴム組成物を調製した。また、押出成型時の引取率を変えた。これら以外は、実施例1と同様の方法で実施例2〜12および比較例1〜3の帯電ローラを作製し、評価した。なお、実施例12では、NBRに替えてヒドリンゴムを用いた。また、比較例2では絶縁性粒子を添加しなかった。実施例2〜12および比較例1〜3の帯電ローラの詳細および加工条件を表3−1、表3−2に示す。また、評価結果を表5−1、表5−2に示す。さらに、各実施例および各比較例に用いた粒子の材料および平均粒子径を表6にまとめて示す。
【0118】
〔比較例4〕
実施例1と同様に成型した加硫ゴムローラの表面に、被覆層を形成した帯電ローラを作成し、実施例1と同様の測定および評価を行った。帯電ローラは次のようにして作成した。
【0119】
表4に示す材料を混合し混合液を調製した。
【0120】
【表4】
【0121】
ポリオールは、被覆層のバインダーとなるポリオール(商品名「プラクセルDC2016」:ダイセル化学工業株式会社製)(固形分70質量%)である。
IPDI(イソホロンジイソシアネート)は、被覆層のバインダーとなるイソシアネートモノマーとして添加されるブロックイソシアネートIPDI(商品名「ベスタナートB1370」:デグサ・ヒュルス社製)である。
HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)は、被覆層のバインダーとなるイソシアネートモノマーとして添加されるブロックイソシアネートHDI(商品名「デュラネートTPA−B80E」:旭化成工業株式会社製)である。
カーボンブラックは導電性粒子である。
【0122】
ガラス瓶に混合液と平均粒径0.8mmのガラスビーズとを共に入れ、ペイントシェーカー分散機を用いて60時間分散して被覆層用塗料1を調製した。実施例1と同様に成型した加硫ゴムローラに被覆層用塗料1をディッピング塗工した。その後、常温で30分間以上風乾して、160℃1時間加熱することで、本比較例の帯電ローラを得た。被覆層の膜厚は2μmであった。
比較例4の帯電ローラの詳細および評価結果を表3に示す。
【0123】
〔実施例13〕
実施例1の未加硫ゴム組成物−1(NBRを100質量部とする)と、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(商品名:セルマイク266、三協化成株式会社製)5質量部と混合し、発泡剤を含有する未加硫ゴム組成物−2を得た。混合機は、ロール径12インチ(0.30m)のオープンロールを用いた。混合条件は、前ロール回転数8rpm、後ロール回転数10rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。
【0124】
(加硫ゴム層の成形)
まず、加硫ゴム層を接着する接着層を有する芯金を得るため、次の操作を行った。すなわち、直径6mm、長さ252mmの円柱形の導電性芯金(鋼製、表面はニッケルメッキ)の軸方向の中央部222mmに導電性加硫接着剤(商品名:メタロックU−20;東洋化学研究所製)を塗布し、80℃で30分間乾燥した。
【0125】
この接着層を有する芯金に表面層用未加硫ゴム組成物−2をクロスヘッド押出成型機にて被覆し、非クラウン形状の未加硫ゴムローラを得た。成型温度は100℃、スクリュ回転数は10rpmとして、芯金の送り速度は一定にして成型した。ローラ未加硫ゴムローラの軸方向を平均した引取率は103%とした。クロスヘッド押出成型機のダイス内径は9.0mm、未加硫ゴムローラの軸方向の中央の外径は9.1mm、端部の外径は9.1mmであった。
【0126】
その後は、実施例1の(加硫ゴム層の成形)と同様に、電気炉にて温度160℃で40分間加熱して未加硫ゴム組成物の層を加硫して加硫ゴム層とした。加硫ゴム層の両端部を切断し、軸方向の長さを232mmとした。続いて、加硫ゴム層の表面をプランジカットの研磨方式の研磨機で研磨し、端部直径8.4mm、中央部直径8.6mmのクラウン形状とした。こうして発泡剤が発泡した空孔による凹部が表面に形成された加硫ゴム層を有する加硫ゴムローラを得た。
【0127】
水に対し球状ポリエチレン粒子(商品名:ミペロンPM200、三井化学株式会社製)が0.1質量%になるように絶縁性粒子と水を混合し、超音波洗浄機で分散した。この絶縁性粒子分散液に加硫ゴムローラを浸漬した後、50mm/秒の速さで未加硫ゴムローラを引き上げ、風乾して水を蒸発させ球状樹脂粒子を加硫ゴム層に塗布した。電気炉にて温度180℃で15分間加熱して球状ポリエチレン粒子を融解させることで、球状ポリエチレン粒子を加硫ゴムローラの表面に融着させた。続いて、加硫ゴムローラの両端部の芯金を把持し60rpmで回転させながら、ラッピングフィルム(商品名:3Mラッピングフィルムシート#4000、3M社製)を圧接させることで研磨して、凹部以外に付着した球状ポリエチレン粒子を除去した。こうして実施例13の帯電ローラを得た。実施例13の帯電ローラの詳細を表3に示す。また、評価結果を表5−2に示す。
【0128】
実施例1〜13、比較例1〜4に用いた絶縁性粒子の球形度(形状係数SF1)はすべて100以上160以下であった。
【0129】
表5−1および表5−2に示した通り、本発明に係る実施例1〜13の帯電部材では、帯電均一性の評価がランクA〜C、耐久試験前後の電位差が50V以下に抑えられ、カブリの評価がランクA〜Cであった。
【0130】
実施例1〜13の中では、凸部の高さが高く、間隙部距離が適正で、絶縁粒子と間隙の配向度が0°に近いほど横スジの抑制が良化する傾向が見られた。また、中央部の間隙部距離に比べ端部の間隙部距離の比が大きく、Rzが大きいほど横スジの抑制が良化する傾向が見られた。また、凸部の高さが高く、Rzが大きく、凸部の導電性が低いほど耐久試験前後の電位差が小さくなる傾向が見られた。実施例12はイオン導電性のヒドリンゴムを使用しており、接触による電荷移動がNBRに比べておこりやすく、電位差が49Vであった。カブリ評価では、間隙部距離が短く、間隙部距離に対する間隙の深さの比が小さく、Rzが小さいほどカブリは少ない傾向が見られた。
【0131】
一方、比較例1は、間隙を有しないため、帯電均一性の評価は中央部がランクC、端部がランクDであった。比較例2は、絶縁性粒子がないため、Rzが小さく、帯電均一性は中央部・端部共にE評価で、耐久試験前後電位差は87Vであった。比較例3では、導電性粒子が用いられたため、感光体との接触による電荷移動が多く、耐久後電位差が112Vであった。また、比較例4は、絶縁性粒子の表面が導電性の被覆層で被覆されているため、帯電均一性の評価が中央部・端部共にランクD、耐久試験前後の電位差が78Vであった。帯電均一性の評価がランクDであったのは、凸部と凹部が共に導電性のため凸部と凹部の間の放電によるチャージアップが起こらなかったためと推察する。また、凸部に導電性があるため、耐久試験前後の電位差が高くなった。
【0132】
なお、評価3のカブリの評価の結果から、実施例1〜13においては、トナー等による凸部の周囲の汚れも抑制されていたと判断できる。
【0133】
【表5-1】
【0134】
【表5-2】
【0135】
【表6】