特許第6799364号(P6799364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ブレーキ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799364
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材および摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20201207BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C09K3/14 520C
   C09K3/14 520G
   C09K3/14 520K
   C09K3/14 520L
   F16D69/02 G
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-15813(P2015-15813)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-141690(P2016-141690A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月28日
【審判番号】不服2019-12404(P2019-12404/J1)
【審判請求日】2019年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】391033078
【氏名又は名称】日本ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】光本 真理
【合議体】
【審判長】 門前 浩一
【審判官】 木村 敏康
【審判官】 天野 斉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、
前記繊維基材としてフィブリル化アラミド繊維を含有するとともに、
無機充填材として、粉末状の亜鉛、水酸化カルシウム、および炭酸ナトリウムを含有し、
前記水酸化カルシウムの含有量が2.5〜10質量%であり、
前記炭酸ナトリウムの含有量が0.2〜4質量%であり、
さらにスチール繊維を2〜8質量%含有することを特徴とする摩擦材組成物。
【請求項2】
前記粉末状の亜鉛の含有量が1〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記粉末状の亜鉛の粒子径が10〜500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
前記スチール繊維の含有量が2〜4質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項5】
前記無機充填材として、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項6】
記炭酸ナトリウムの含有量が0.2〜2.0質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項7】
さらに硫化錫を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦材組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金を用いて形成される摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の制動に用いられるディスクブレーキパッド等の摩擦材に適した摩擦材組成物に関し、特にアスベストを含まないノンアスベスト摩擦材組成物に関する。また、該摩擦材組成物を用いた摩擦材および摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローター、ブレーキドラム等の対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、良好な摩擦係数、耐摩耗性(摩擦材の寿命が長いこと)、強度、音振性(ブレーキ鳴きや異音が発生しにくいこと)等が要求される。摩擦係数は車速、減速度やブレーキ温度によらず安定であることが要求される。また、摩擦界面で発生した錆によって摩擦材が摩擦対面材と固着し、発車時の異音発生や摩擦材の表面剥離(錆剥離)などの問題が生じる場合がある。錆固着性能を改善するために、犠牲陽極として作用する亜鉛やpHを上げるアルカリ金属塩を添加するなどの摩擦材組成が提案されている。(特許文献1〜2)
【0003】
摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材および有機充填材等を含む摩擦材組成物が用いられ、前記特性を発現させるために、一般的に、各成分を1種または2種以上を組合せた摩擦材組成物が用いられる。中でも銅は繊維や粉末の形態で摩擦材に配合され、高温での制動条件下での摩擦係数の保持(耐フェード性)や高温での耐摩耗性改善、摩擦材の強度向上に有効な成分である。しかし、銅を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染等の原因となる可能性が示唆されているため、使用を制限する動きが高まっている。
【0004】
このような銅の使用量を制限する動きの中、特許文献3には、銅を含有しない組成における強度、耐摩耗性を改善する手法として、複数の凸形状を有するチタン酸カリウムと生体溶解性無機繊維とを含有させることを特徴とする摩擦材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−107026号公報
【特許文献2】特開2001−107027号公報
【特許文献3】特開2013−076058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環境有害性の高い銅を含まない摩擦材は材料強度が低く、錆剥離が問題となる。特許文献1〜2で提案されている防錆効果や、特許文献3で提案されている銅を含有しない組成における摩擦材強度向上では、銅を含有しない摩擦材の錆剥離の改善効果は充分ではなかった。
【0007】
本発明では、上記事情を鑑みなされたもので、環境負荷の高い銅を含有しない、または銅の含有量が0.5質量%以下の摩擦材において、錆固着力、錆剥離の少ない摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、銅を含有せず、摩擦材の材料強度を向上するためにフィブリル化アラミド繊維を含有する組成において、特定量の水酸化カルシウムと粉末状の亜鉛を組合わせて含有することで、錆固着力を効果的に低減し、錆剥離を抑制させることができることを見出した。
【0009】
水酸化カルシウムはpHが高く、摩擦対面材の防錆効果があるだけでなく摩擦材の成形時にフェノール樹脂の硬化触媒として作用し、摩擦材強度を向上させるが、過度に添加するとフィブリル化アラミド繊維の強度を低下させることを見出した。この水酸化カルシウムについて、錆固着力と錆剥離の抑制効果が最大となる添加量範囲を検討した。
【0010】
また、水酸化カルシウムとともに粉末状の亜鉛を摩擦材中に分散させると、亜鉛が制動により摩擦界面に延展し、摩擦界面に延展した亜鉛の犠牲陽極作用により摩擦界面全体の防錆効果を示すとともに、上記の水酸化カルシウムのpH、摩擦材強度向上効果との相乗効果で、銅を含有しない組成における錆固着力、錆剥離を大幅に抑制させることが可能であることを見出した。
【0011】
さらに、摩擦材強度を向上せしめかつ発錆量が少なくなる特定量のスチール繊維の添加や、同じく摩擦材強度を向上せしめる複数の凸部形状を有するチタン酸カリウム、易溶性で水酸化カルシウムと反応し水酸化ナトリウムを生成することで高い防錆効果を付与する炭酸ナトリウムの添加により、本発明の摩擦材組成における錆固着力、錆剥離の改善効果を更に向上させることができることを見出した。
【0012】
本発明はこれらの知見に基づくものであり、本発明の摩擦材組成物は、具体的に、結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中に元素としての銅を含まない、または銅の含有量が0.5質量%以下であり、前記繊維基材としてフィブリル化アラミド繊維を含有するとともに、無機充填材として、粉末状の亜鉛、および水酸化カルシウムを含有し、前記水酸化カルシウムの含有量が2.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の摩擦材組成物においては、前記粉末状の亜鉛の含有量が1〜10質量%であることが好ましく、前記粉末状の亜鉛の粒子径が10〜500μmであることが好ましい。また、前記繊維基材としてスチール繊維を2〜8質量%で含有することが好ましく、前記無機充填材として、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムを含有することが好ましい。また、炭酸ナトリウムを含有することが好ましい。
【0014】
本発明の摩擦材は、上記の本発明の摩擦材組成物を成形してなることを特徴とするものであり、本発明の摩擦部材は、上記の本発明の摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自動車用ディスクブレーキパッド等の摩擦材に用いた際に、環境負荷の高い銅を用いなくとも、錆固着力が小さく錆剥離の少ない摩擦材組成物、摩擦材および摩擦部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の摩擦材組成物、これを用いた摩擦材および摩擦部材について詳述する。なお、本発明の摩擦材組成物は、アスベストを含まない、いわゆるノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0017】
[摩擦材組成物]
本実施形態の摩擦材組成物は、銅を含有しない、もしくは銅を含有する場合において銅の含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする摩擦材組成物である。すなわち、環境有害性の高い銅および銅合金を実質的に含有せず、元素としての銅の含有量が0.5重量%以下であり、好ましくは含有量0質量%の摩擦材である。このため、制動時に摩耗粉が生成しても、河川、湖や海洋汚染の原因とならない。
【0018】
(フィブリル化アラミド繊維)
本発明の摩擦材組成物は、フィブリル化アラミド繊維を含む。本発明のフィブリル化アラミド繊維とは、複数の枝分かれを有し、BET比表面積が5〜15m/gであることが特徴であり、帝人株式会社製Twaron1099,1095,3091、東レ・デュポン株式会社製ケブラー1F538,1F1710などが挙げられる。本発明におけるフィブリル化アラミド繊維は、繊維強度が高く多数の枝分かれを有するため、銅を含有しない組成においても効果的に摩擦材強度を向上させるが、高いpHの水溶液に長時間曝露することで、加水分解により強度が低下する。
【0019】
(水酸化カルシウム)
本発明の摩擦材組成物は、特定量の水酸化カルシウムを含む。水酸化カルシウムは、pHが高く、摩擦対面材の防錆効果があるだけでなく摩擦材の成形時にフェノール樹脂の硬化触媒として作用し、摩擦材の強度を向上させる効果がある。この効果を得るため水酸化カルシウムを2.5質量%以上含有させる。その一方で、水酸化カルシウムを過度に添加すると、フィブリル化アラミド繊維の強度が低下することとなる。このため、水酸化カルシウムの含有量は10質量%以下とする。水酸化カルシウムは、通常摩擦材に用いられる粉末状の水酸化カルシウムを用いることができるが、水溶性の観点で、粒径の細かいもの、特に100μm以下の粉末が好ましい。
【0020】
(亜鉛粉)
本発明の摩擦材組成物は、粉末状の亜鉛を含む。粉末状の亜鉛は、制動により摩擦材の摩擦界面に延展して摩擦界面を被覆する状態となるが、亜鉛は酸化しやすいことから摩擦界面を被覆した亜鉛が、犠牲陽極作用により選択的に酸化されることで、摩擦材中の他の成分の酸化すなわち発錆を防止して摩擦界面全体の防錆を行う。粉末状の亜鉛としては、アトマイズなどで製造される通常摩擦材に用いられる粉末状の亜鉛を用いることができるが、摩擦材表面での延展による防錆効果の観点で粒径は細かいほどよく、10〜500μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。また、亜鉛の添加量は、防錆効果の観点で1質量%以上が好ましく、2質量%がより好ましい。また、亜鉛の過剰添加は、高温使用時における摩擦材の耐摩耗性の悪化を引き起こすため、10質量%以下の添加量で用いることが好ましく、8質量%がより好ましい。
【0021】
(スチール繊維)
本発明の摩擦材組成物は、スチール繊維を含むことが好ましい。スチール繊維は、びびり振動切削法などで得られるストレート繊維と、長繊維のカットなどで得られるカール状繊維がある。ストレート繊維が直線状の繊維形状なのに対し、カール状繊維は曲線部を有する形状を示すものであり、単純な円弧状のものや、うねったもの、螺旋状あるいは渦巻き状に曲がったもの等を含む。スチール繊維は、ストレート繊維やカール状繊維のいずれのものであっても、摩擦界面で摩擦熱を拡散し、不均一な温度上昇を抑制するだけでなく、摩擦界面で生成する有機分解物を適度にクリーニングする効果を有するため、制動中に発生するブレーキトルクの変動が小さくなり、ブレーキ振動を発生しにくくして抑制することができる。ただし、カール状繊維のほうが摩擦界面において摩擦材からの脱落が少なく、高温制動における摩擦特性保持の観点で好ましい。さらに、カール状繊維としては、曲率半径が100μm以下の部分を含むものであると、摩擦材への固着がより強固となり、摩擦界面における摩擦材の脱落がより少なくなるので、より好ましい。カール状のスチール繊維は、日本スチールウール株式会社製カットウールなど、市販されているものを使用することができる。
【0022】
スチール繊維は、摩擦材の強度を向上させ錆剥離を抑制するが、スチール繊維自体が錆びることで、多量の添加により錆固着力を増加させてしまう。スチール繊維の含有量を2〜8質量%とすることで、本発明の摩擦材組成において、錆固着力と錆剥離を両立して抑制することができる。スチール繊維の繊維径は、高温における耐摩耗性の観点で100μm以下が好ましい。スチール繊維の繊維長は、高温における耐摩耗性の観点で2500μm以下が好ましい。
【0023】
(複数の凸形状を有するチタン酸カリウム)
本発明の摩擦材組成物は、通常の摩擦材組成物において用いられるチタン酸塩を用いることができる。チタン酸塩は、銅を含有しない組成における高温制動におけるブレーキ振動低減とロータ摩耗量の低減に寄与する。このようなチタン酸塩としては、複数の凸形状を有するチタン酸塩を含むことが好ましい。本発明の複数の凸形状を有するチタン酸カリウムとは、不規則な方向に複数の凸部が延びる形状を有する不定形のチタン酸カリウムのことで、摩擦調整剤として用いることができることが知られている(特許文献3)。例えば、大塚化学株式会社製「テラセスJP」が挙げられる。このような不規則な方向に複数の凸部が延びる形状を有する不定形のチタン酸カリウムは、凸部が摩擦材の強度向上に効果的であり、特に本発明の摩擦材組成物の錆剥離の抑制に効果的である。本発明の摩擦材組成物中における複数の凸形状を有するチタン酸カリウムの含有量は、錆剥離抑制の観点で1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
【0024】
(炭酸ナトリウム)
本発明の摩擦材組成物は炭酸ナトリウムを含むことが好ましい。炭酸ナトリウムは、pHが水酸化カルシウムより低いが、易溶性であるため、水酸化ナトリウムと併用することで、水酸化カルシウムによる防錆効果および摩擦材の強度向上効果をより高め、銅を含有しない組成における錆固着力を大幅に低減し、錆剥離を効果的に抑制することができるようになる。炭酸ナトリウムを併用する場合、上記効果を得るため炭酸ナトリウムの含有量は0.2質量%以上とすることが好ましい。その一方で、炭酸ナトリウムの含有量が過多となると、pHが高くなって、フィブリル化アラミド繊維の強度が低下することとなるため、炭酸ナトリウムの含有量は2質量%以下とすることが好ましい。炭酸ナトリウムは、通常摩擦材に用いられる粉末状の炭酸ナトリウムを用いることができるが、水溶性の観点で、粒径の細かいもの、特に100μm以下の粉末が好ましい。
【0025】
(結合材)
結合剤は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材および繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明の摩擦材用組成物に含まれる結合材としては、特に制限は無く、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0026】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂およびシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂などの各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂およびアルキルベンゼン変性フェノール樹脂などの各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性および摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
本発明の摩擦材組成物中における、結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化をより抑制できる。
【0028】
(有機充填剤)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明の摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分などを用いることができる。
【0029】
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
【0030】
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、などが挙げられ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用される。
【0031】
本発明の摩擦材組成物中における、有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることが特に好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなること、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。
【0032】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるためや、耐摩耗性を向上させるため、摩擦係数を向上する目的で添加される摩擦調整剤として含まれるものである。本発明の摩擦材用組成物は、通常、摩擦材に用いられる無機充填剤であれば特に制限はない。
【0033】
上記無機充填材としては、例えば、マイカ、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、酸化カルシウム、硫酸バリウム、コークス、黒鉛、マイカ、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、γアルミナ、珪酸ジルコニウム、二酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化セリウム、ジルコニア、酸化鉄などを用いることができ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、前記複数の凸形状を有するチタン酸カリウムの他に粒状または板状のチタン酸塩を組合わせて用いることができる。粒状または板状のチタン酸塩としては、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0034】
本発明の摩擦材組成物中における、無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましく、50〜60質量%であることが特に好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦材のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
【0035】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
【0036】
本発明の摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維などを用いることができ、これらを単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維などを用いることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら、無機繊維の中では、SiO、Al、CaO、MgO、FeO、NaOなどを任意の組み合わせで含有した生分解性鉱物繊維が好ましく、市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。
【0038】
上記金属繊維としては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、前記亜鉛粉末以外に、アルミニウム、鉄、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどの銅および銅合金以外の金属単体または合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられる。
【0039】
なお、本発明品は、環境有害性の高い銅および銅合金を実質的に含有せず、元素としての銅の含有量が0.5重量%以下であり、好ましくは含有量0質量%である。
【0040】
上記有機繊維としては、前記フィブリル化アラミド繊維以外に、チョップドアラミド繊維などの枝分かれを持たないアラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維などを用いることができ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維などを用いることができ、これらを単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明の摩擦材組成物における、繊維基材の含有量は、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが特に好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
【0043】
[摩擦材]
本実施形態の摩擦材は、本発明の摩擦材組成物を一般に使用されている方法で成形して製造することができ、好ましくは加熱加圧成形して製造される。詳細には、例えば、本発明の摩擦材組成物をレーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130〜160℃、成形圧力20〜50MPa、成形時間2〜10分間の条件で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理することで製造される。また更に、必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことで製造される。
【0044】
[摩擦部材]
本実施形態の摩擦部材は、上記の本実施形態の摩擦材を摩擦面となる摩擦材として用いてなる。上記摩擦部材としては、例えば、下記の構成が挙げられる。
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、および、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層を更に介在させた構成。
【0045】
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属または繊維強化プラスチック等、具体的には、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層および接着層は、通常、ブレーキシュー等の摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0046】
本実施形態の摩擦材組成物は、錆固着力が小さく、錆剥離が少ないため、自動車等のディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の上張り材として特に有用であるが、摩擦部材の下張り材として成形して用いることもできる。なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近のせん断強度、耐クラック性向上等を目的とした層のことである。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の摩擦材組成物、摩擦材および摩擦部材について、実施例および比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらに制限されるものではない。
【0048】
[実施例1〜8および比較例1〜4](ディスクブレーキパッドの作製)
表1および表2に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜8および比較例1〜4の摩擦材組成物を得た。表中の配合比率は質量%である。
【0049】
この摩擦材組成物をレーディゲミキサー(株式会社マツボー製、商品名:レーディゲミキサーM20)で混合し、得られた混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形した。得られた予備成形物を成形温度140〜160℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で、成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて鉄製の裏金(日立オートモティブシステムズ株式会社製)と共に加熱加圧成形した。得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、実施例1〜8および比較例1〜4のディスクブレーキパッドを得た。なお、実施例および比較例では、裏金の厚さ6mm、摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cmのディスクブレーキパッドを作製した。
【0050】
(錆固着力および錆剥離の評価)
JIS D4414「さび固着試験方法」に準拠し、錆固着試験を行い、錆固着力を下記基準にて評価を行い、錆固着力50N未満のものを「◎」、錆固着力50N以上かつ100N未満のものを「○」、錆固着力100N以上のものを「×」として評価し、表1および表2に併せて記載した。
【0051】
また、上記錆固着試験後、摩擦材の表面が剥離してロータ表面に転移しているかどうかを確認し、錆剥離として評価し、錆剥離が生じていないものを「○」、錆剥離が生じているものを「×」として評価し、この評価結果を表1および表2に併せて記載した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
本発明の実施例1〜8は、銅を含有する比較例2と同様、錆剥離は発生せず、小さい錆固着力を示した。また、銅を含有せず水酸化カルシウムの含有量が本発明の特定量を満足しない比較例1,3,4に対し、本発明の摩擦材組成物は錆固着力が小さく、錆剥離が発生しにくいことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の摩擦材組成物は、従来品と比較して、環境負荷の高い銅を用いなくとも、錆固着力が小さく、錆剥離も起こしにくいため、該摩擦材組成物は乗用車用ブレーキパッド等の摩擦材および摩擦部材に好適である。