(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱されたエミッタ先端からエクストラクタ電極に印加した正電圧により引っ張られて放出される電子のうち任意の方向の電子を光軸上に放出されるように調整する電子ビーム放出方向調整方法において、
前記エミッタ先端が前記エクストラクタ電極の穴の中心から測定されたずれ量に対応する角度と移動量を有する機構を選択する機構選択ステップと、
前記機構選択ステップで選択された機構を、前記エミッタの保持部とそれの固定部の間に挿入して固定する機構設定ステップと
を備え、
前記機構設定ステップで挿入されて固定された後のエミッタの先端から所望の角度方向と移動方向の電子を光軸上に放出されるように調整したことを特徴とする電子ビーム放出方向調整方法。
前記エミッタ先端のタングステン結晶の100面から電子を、あるいは100面と110面との境界部分から電子を、光軸上に放出されるように調整したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電子ビーム放出方向調整方法。
前記エミッタ先端にZrOを、当該エミッタの先端から若干根本部分に配置したリザバから自動補給したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電子ビーム放出方向調整方法。
加熱されたエミッタの先端からエクストラクタ電極に印加した正電圧により引っ張られて放出される電子のうち任意の方向の電子を光軸上に放出されるように調整した電子ビームエミッタ装置において、
前記エミッタ先端が前記エクストラクタ電極の穴の中心から測定されたずれ量に対応する角度と移動量を有する機構と、
前記機構を、前記エミッタの保持部とそれの固定部の間に挿入して固定する固定機構と、
を備え、
前記固定機構で固定された後のエミッタの先端から所望の角度方向と移動方向の電子を光軸上に放出されるように調整したことを特徴とする電子ビームエミッタ装置。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の1実施例説明図を示す。
【0024】
図1の(a)はエミッタ上面図の例を示し、
図1の(b)は先端位置の算出式の例を示す。
【0025】
図1の(a)において、エクストラクタ電極1は、エミッタ2の先端(所定温度に加熱状態にある先端)から電子を放出させる正の電圧を印加する穴を有する電極である(
図11、
図12等参照)。
【0026】
エクストラクタ電極中心11は、エクストラクタ電極1の穴12の中心であって、エクストラクタ電極1の外周に設けた例えば図示の2つのアライメントマークX13および2つのアライメントマークY14をもとに算出した穴の中心(X、Y)である。
【0027】
エミッタ2は、図示のタングステンチップ先端であって、例えば後述する
図5、
図12等のエミッタ(タングステンチップ先端)であり、電子を放出する部分(例えば単結晶タングステンから研磨して作製した特定の面(100面あるいは110面等))である。
【0028】
以上の構成のもとで、エミッタ(タングステンチップ先端)2のエクストラクタ電極の穴12の中心からのずれ量(X、Y)を光学顕微鏡などで実測することにより、ずれ量を測定する。
【0029】
図1の(b)は、先端位置の算出式の例を示す。ここでは図示の下式で算出する。
【0030】
・R
2=X
2+Y
2 ・・・・・・(式1)
・θ=arctan(X/Y)・・・・・・(式2)
・ε=傾斜角度(仰ぎ角度)・・・(式3)
ここで、X、Yは、エクストラクタ電極1の穴の中心からのX方向の距離、Y方向の距離である。Rは、エクストラクタ電極1の穴の中心からの半径方向の距離である。θはX軸方向からの回転角度である(式2参照)。εは(式1)で算出したRと、エミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心との高さ方向の差Hとから決まる電子ビームの仰ぎ角度(傾斜角度)εである。
【0031】
以上のように、エミッタ(タングステンチップ先端)2を作製した状態におけるエクストラクタ電極1の穴の中心からのずれ量(R、θ、ε)を光学顕微鏡等を用いて測定することが可能となる(
図3、
図4等を用いて詳述する)。
【0032】
次に、
図1の構成の概略を説明する。
【0033】
(1)エミッタ2は、図示外の固定台座に対してヒーターとなる2本のタングステンワイヤーを立てて、その先端に後述する
図12のZrOリザバを有する先端鋭利な単結晶Wエミッタチップが配置される。
【0034】
(2)Wエミッタチップは大凡支持台座水平面に対して垂直方向に延びており、後述する
図12のサプレッサー電極5の中心孔に対してアライメントされる。アライメント精度は数十から数百ミクロン程度である。エクストラクタ電極1はこのサプレッサー電極5に対して位置決めが成され、エミッタ2とエクストラクタ電極1のアライメント精度はサプレッサー電極5の位置決め誤差にさらにエクストラクタの加工精度を加えた大きさである。
【0035】
(3)エミッタ2から放出される電子の方向は、エミッタ2に加えられる電界の強度分布で決定される。電界分布はエクストラクタ電極1の形状およびエクストラクタ電極1とエミッタ2の先端位置の関係で決定される。通常はタングステンチップ先端2に同心円状電界を加えるため、エクストラクタ電極1に設けられた穴12の形状は真円が用いられる。エクストラクタ電極1の穴12は、放電加工やエッチング加工等で加工され、1ミクロンよりも良い精度で穴加工されているものを利用する。
【0036】
(4)エミッタ2がエクストラクタ電極1の中心にあれば、エミッタ2に加えられる電界は等方性となるため、エミッタ2から放出される電子はエミッタ2から真っ直ぐの方向となる。エミッタ2の先端位置がエクストラクタ電極1の中心からずれると、ずれた方向の電極間距離が短くなって電界が強まり、電子ビームはその方向に傾いて放射される。
【0037】
(5)以上のようにエミッタ2の先端から放出される電子の方向はエミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心の位置関係で決定されるので、エミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心の位置関係を測定できれば、電子ビーム放射方向を知ることが出来る。エミッタ2の先端に存在する特定の電子放出ポイントから放出される電子ビームの放出方向はエクストラクタ電極に印加する電圧の強さによってはほとんど変化しないので、電子ビームエミッタ動作条件に無関係に放出方向が決定できる。つまり、電子ビーム放出方向は1つの電子ビームエミッタ装置に対して、エミッタ2の先端とエクストラクタ電極1との空間配置を変えない限り固有の量となる。
【0038】
(6)電子ビームエミッタには、電子ビームの放出方向あるいは電子ビームエミッタの実装方向が定義できるように位置だし用の精密アライメントマーク(図示のアライメントマークX13,アライメントマークY14)を予め設けて置く。
【0039】
(7)アライメントマークは顕微鏡で確認しやすいようにエクストラクタ電極1の表面、および、顕微鏡から外して、実際の電子ビーム装置に組み込む際に、電子ビームエミッタを一定方向に固定出来るように、電子ビームエミッタの筒に設ける。同一平面にある4つのアライメントマークの内お互いに対向する2つのアライメントマークを結んだ線が直角に交わり、それぞれ、X軸、Y軸に対応していると実用上便利である。また、エクストラクタ表面のアライメントマークと筒に設けたアライメントマークは認識しやすいように同じ位置方向に対応していることが望ましい。
【0040】
(8)先ず、エクストラクタ電極1の表面にあるアライメントマークX13,Y14を用いて、電子ビームエミッタ2を測定顕微鏡上で一定方向に設置する。
【0041】
(9)その状態で測定顕微鏡を用いて、実装対象エミッタ2の、エクストラクタ電極1の開口部(穴)の中心座標を求める。最近の測定顕微鏡ではエクストラクタ電極1の穴12の場所に測定カーソルを置くと自動的に中心座標を計算してくれる。次にエミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心との距離をアライメントマークX13,Y14を基準に水平軸成分をX、垂直軸成分をYとして測定する。
【0042】
(10)エミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心との距離は
図1の(b)の(式1)で求められる。一番距離の大きい方角が電子ビームの放出される方向θ(
図1の(b)の(式2)参照)であり、その距離とエミッタ2の先端とエクストラクタ電極1の中心の高さの差Hから電子ビームの仰ぎ角度(傾斜角度)εが計算できる(
図1の(b)の(式3))。測定顕微鏡は、エミッタ2とエクストラクタ電極1の中心の方向を自動的に計算表示してくれる。
【0043】
(11)電子ビームの放出方向(θ、ε)(更に、水平方向を加えた(θ、ε、R))が計算できたので、それを用いて例えば垂直方向(装置の光軸方向)に電子が放出されるように電子ビームエミッタを傾斜させる(更に水平方向に移動させる)ことが出来る。
【0044】
以下順次詳細に説明する。
【0045】
図2は、本発明の説明図(その1)である。
【0046】
図2の(a)はエミッタが傾斜した場合の電流量を模式的に示し、
図2の(b)はエミッタがシフトした場合の電流量を模式的に示す。
【0047】
図2の(a)において、エミッタ2が図示のように傾斜した場合には、光軸方向の所定立体角範囲内に放出される電子ビームは図示のようにA2に減少する。
【0048】
図2の(b)において、エミッタ2が図示のようにシフト(水平方向に移動)した場合には、光軸方向の所定立体角範囲内に放出される電子ビームは図示のようにB2に減少する。
【0049】
以上のように、エミッタ2の先端がエクストラクタ電極1の穴の中心(中心位置)に対して傾斜した場合には
図2の(a)のように光軸方向の所定立体角範囲内に放出される電子ビームの電流量が減少し、同様に、シフト(水平方向に移動)した場合には
図2の(b)のように光軸方向の所定立体角範囲内に放出される電子ビームの電流量が減少する。傾斜((式3)のε)しても、シフト((式1)(式2)のR、θ)してもいずれも光軸方向の所定立体角範囲内に放出される電子ビーム量が減少するので、これら減少を無くすように、傾斜した分やシフトした分を戻す補正(本発明の傾斜板あるいは傾斜機構を用いた傾斜、シフト(水平方向)補正)を行うことにより、最大の電子ビームの電流量を得るように調整することを可能にする。
【0050】
図3は、本発明の動作説明フローチャートを示す。
【0051】
図3において、S1は、エミッタを測定顕微鏡にアライメントして固定する。これは、例えば
図11、
図12に示すようにタングステンチップ先端(エミッタ)2をエクストラクタ電極1に固定した状態(取り外し、取り付けを繰り返しても常に同じ位置に固定されるようになっている)で、測定顕微鏡に取り付ける
S2は、エクストラクタ電極の穴の中心座標を測定する。これは、既述した
図1のエクストラクタ電極1の穴12の中心座標を測定、すなわち、2つのアライメントマークX13および2つのアライメントマークY14をもとに穴12の中心座標を測定する。
【0052】
S3は、チップ先端とエクストラクタ電極1の穴12の中心の距離を測定する。これは、S2で測定した穴12の中心座標を基点とし、チップ先端(タングステンチップ先端)2の中心の距離Rを測定する(式(1)参照)。
【0053】
S4は、チップ先端とエクストラクタ電極の穴の中心との距離を勘案して、電子ビームの放出角度(傾斜角度)εおよび方向θを求める((式3)、(式2)参照)。
【0054】
S5は、テーブルに合致したθとεの傾斜板、あるいは傾斜筒を選択する。これは、S3、S4で測定した放出角度(傾斜角度)ε、方向θに合致する傾斜板、傾斜筒を選択(あるいは傾斜機構に該ε、θを設定)する。
【0055】
S6は、θ、εの方向に合わせてソケット等に固定する。これは、S5で選択(設定)した傾斜板、傾斜筒(あるいはε、θを設定した傾斜機構)を、該θ、εの方向に合わせてソケット等の固定機構に固定し、エミッタ2の先端から放出される電子ビームが光軸上に放出されるように調整(補正)する。この際、顕微鏡を用いて現物合わせ(電子ビームが光軸上に放出されるように調整)してもよい。
【0056】
以上によって、作製されたエミッタ2について、測定顕微鏡でその先端のエクストラクタ電極1の中心からの距離R((式1)参照),傾斜角ε((式3)参照)、方向θ((式2)参照)を測定し、これを補正するに合致した傾斜板、傾斜筒を選択(あるいはε、θ、更にRを傾斜機構に設定)し、これをエミッタ2のソケット等に固定することにより、作製されたエミッタ−2が常に電子ビームを光軸上に放出するように調整(補正)することが可能となる。
【0057】
図4は、本発明の説明図(その2)を示す。これは、既述した
図3のフローチャートで求めた先端の位置(X,Y)、距離R,電子ビームの方向θ、傾斜角度εを設定して管理するものであって、図示の下記の情報を登録して管理するものである。
【0058】
・iD:
・先端の位置:
・X:
・Y:
・距離R:
・ビーム方向θ:
・傾斜角度ε:
ここで、iDはエミッタ2毎に一意に付与した管理番号であり、先端の位置はエミッタ2の先端の位置(X、Y)であり、距離Rはエクストラクタ電極1の穴の中心からエミッタ2の先端までの距離Rであり((式1)参照)、ビーム方向θはエミッタ2の先端のX方向からの角度であり((式2)参照)、傾斜角度εはエミッタ2の先端からエクストラクタ電極1の穴の中心を見た傾斜角度である((式3)参照)。
【0059】
管理番号に対応する傾斜板等を用意しておけば、組み立てあるいはメンテナンス時に容易に目的とする電子放出方向を実現できる。
【0060】
図5は、本発明の説明図(その3)を示す。これは、
図1から
図4で求めた情報(傾斜角ε((式3)参照)、方向θ((式2)参照)、距離R((式1)参照))を用い、電子ビームエミッタ2から放出される電子が電子ビーム装置に対して所望の方向に電子ビームを安定照射出来る方法例を開示したものである。
【0061】
図5において、エミッタ2の固定台座の下に、X軸、Y軸傾斜機構を設けたことに特徴がある。厚みを出来るだけ薄くしたいので、一番簡単な方法としては、傾斜機構として三脚状に調整ねじ31を電子ビームのエミッタ2の台座の下部に設けて、調整する方法である。
【0062】
<調整方法>電子ビームの放出角度や仰角を利用して、例えば電子ビームがWチップの軸方向に真っ直ぐになるように傾斜機構3(三脚状の調整ネジ31)を調節する。例えば、X軸方向に1度傾斜して電子ビームが放出されると上記情報から計算された場合、電子ビームのエミッタ2の全体をX軸方向にマイナス1度傾ける。これにより電子ビームは電子光学系の光軸に対して平行に出るようになる。傾斜することによって、エミッタ2の先端の水平位置が変化してしまうが、XY移動機構を別途設けることで、電子ビームの軸を移動させ、電子光学系の光軸に一致した位置に電子ビームを放出することが可能となる。全ての調整が終了した後、可動部が移動しないように、固定する。
【0063】
以上の作業により、エミッタ2とエクストラクタ電極1の中心位置が大きくずれていたとしても、傾斜機構3を設けて調整することで、電子ビームのエミッタ2から外部に飛び出す電子の角度を電子ビーム装置に設置した時に該電子ビーム装置の光軸に一致させて、最大輝度の電子ビームの電流量を得ることが可能となる。
【0064】
図6は、本発明の説明図(その4)を示す。これは、エミッタ2の固定台座の下に、予め傾斜加工した板(傾斜板)を敷くことによって電子ビーム放出方向を制御する方法を開示したものである。
【0065】
図6において、電子ビームの放出方向は、1つの傾斜平面あるいはベクトルで定義できる。従って、その傾斜平面が所望の傾斜になるように補正用の傾斜板32を電子ビームのエミッタ2の下に敷くことで、簡単、かつ安定に電子ビームの放出方法を所望の方向に変えることが出来る。
【0066】
傾斜板32は10のマイナス8乗以上の超高真空で利用できるように、脱ガスが起こりにくいセラミック材料あるいは高融点金属材料で作ることが望ましい。真空度向上のために数百度で焼き出しを行うので、300度以上の高温に耐えることが必要である。
【0067】
セラミックを用いる場合は、アルミナ、ムライト、サファイヤ、ダイヤモンドなどを使用できる。
【0068】
金属を用いる場合は、酸化が進行しにくいアルミ、真鍮、銅やステンレス、タングステンやモリブデンなどの材料を利用できる。電子ビームは電磁気に敏感なので、非磁性材料が望ましい。固定に使用するねじ類も非磁性材料が望ましい。
【0069】
エミッタ2はWワイヤに通電することで1800°K程度まで加熱されて用いられる。Wを加熱するために利用するWワイヤを通過させるための穴を傾斜板32に設ける。
【0070】
電子ビーム放出方向は通常市販品の場合、±10度程度の範囲には入る。実用上電子ビーム放出角度が±1度以内にあれば、光軸に電子ビームが放出されると予測できる。
【0071】
例えば、0から5度まで1度刻みの角度で傾斜加工した円形傾斜板32を用意する。 計測結果(ε、θ、R)に基づいて、適切な傾斜板32を選択して電子ビームのエミッタ2の固定台座の下に敷くことによって、最終的に得られる電子ビーム放出方向を光軸に対して±1度以内にすることが出来る。電子が放出される方向に、合うように傾斜板32を置く方向を回転して、電子ビーム軸が光軸に一致するように設置する。
【0072】
製造される複数の電子ビームエミッタの先端とエクストラクタ電極1の穴の中心との距離測定値を統計処理して、中央値とそのばらつきを求め、その統計量に合わせて傾斜板32を作製しても良い。例えば、3度傾斜が中央値で、3シグマが2.5度であれば、3度を中心に±0.5刻みで±2.5どの範囲の傾斜板32を作っても良い。あるいは、0、0.5、1、2、3度の傾斜を持つ板を作り組み合わせて傾斜を実現する方法もある。このようにすると、0から5度まで0.5度刻みで角度を実現できる。板を重ねるので、それぞれの板がずれないように、板の表面等にアライメント用の凹凸部を付けて互いの位置を固定する。設置した傾斜板32が移動しないように、しっかり押さえつけてねじなどで固定する。
【0073】
より精密な電子ビーム放射角度調整を行う場合は、得られた情報(ε、θ、更にR)にぴったり合うように傾斜板32を作製してもよい。
【0074】
以上によって、
図1から
図4で測定したエミッタ2の情報(ε、θ、更にR)をもとに、たとえ光軸からずれた方向に電子ビームが放出されていたとしても該エミッタ2の台座の部分に所定の傾斜板を挿入して固定して補正することにより、電子ビームの放出方向を丁度、光軸に一致させ、最大輝度の電子ビームを電子光学系に入射させることが可能となった。
【0075】
図7は、本発明の説明図(その5)を示す。これは、
図6の傾斜板を使用する代わりに、傾斜筒33を利用したものである。電子ビームのエミッタ2は電子ビーム装置に固定する際にインローで固定する場合がある。その場合、エミッタ2の筒に丁度接するミクロンオーダー程度のクリアランスをもった、内径を有するもう1つの筒状支持部分を用いて、電子ビームのエミッタ2を支持する。ここで、インローを構成する筒に傾斜を持たせた傾斜筒33を用いることで、任意の方向に電子ビームのエミッタ2を配置することが出来る。
【0076】
図7において、1度刻みで傾斜壁を有する傾斜筒33を作り、その中に電子ビームのエミッタ2を配置することで電子ビームを所望の方向に放出することが可能となる。より厳密に調整を必要とする場合には、
図1から
図4で測定した情報(ε、θ、更にR)を用いて、その角度に合うように傾斜筒33の傾斜を加工し、利用することが出来る。この場合には、完全に光軸に一致させて電子ビームを放出することが可能となる。
【0077】
図8は、本発明の説明図(その6)を示す。これは、
図7の傾斜筒33の代わりに、電子ビームのエミッタ2から特定方向に放出される電子ビームのみを容易に選択利用できるように、測定値に合わせて1度刻みで傾斜筒34の角度を調整使用した例を示す。
【0078】
以上のように、測定値に合わせて傾斜筒34の角度を有するものを作製し、これを用いて調整することにより、任意の角度方法に放出される電子ビームの方向を、光軸に一致させて放出されるようにすることが可能となる。
【0079】
図9は、本発明の説明図(その6)を示す。これは、エミッタ2である単結晶タングステンの先端に特定の結晶面が出るように電解研磨する。例えば通常のエミッタ2であれば、主面の100面が出るように研磨して従来はこの面から電子ビームを
図9の(a)のようにして使用している。本発明では、その横に110面が出るので、
図9の(b)に示すように利用することが可能となる。以下詳細に説明する。
【0080】
図9において、エミッタ2のタングステン先端に電界を加えると、印加電圧が3KVと小さい場合は100面からのみ電子が放出されるが、電界を3.8KVと高くしていくと、110面と100面の境界からの放出が始まり、さらに、電界を4.7KVと高くすると、110面境界からの放出が100面よりもずっと大きくなる性質がある。
【0081】
従来は、100面から放出された電子を利用するように電子ビームのエミッタ2が装置に通常、設置されているため(
図9の(a)参照)、100面と110面との境界から放出される大きな輝度の電子ビームを利用できず、全て不要放射となっている。この不要放射はアパチャーや真空チャンバー壁を叩き、大量のガス放出を引き起こすため真空度の低下や真空度低下によるエミッタ2の汚染や放電によってエミッタ2の寿命の低下につながるため、普通は高い電界を加えることは避けて、100面からの電子が主要電子に成る条件で使用する。従って0.1mA/sr程度の極めて低い輝度しかエミッタを利用できない。
【0082】
一方、本発明を利用すると、
図9の(b)に示すように、エミッタ2全体を傾斜させることによって、110面と100面の境界から放出される電子が電子ビーム装置の光軸に一致するように設置出来るため、110面境界から放出される強い電子を電子ビーム装置が利用出来るようになる。110面と100面の境界からの電子放出は100面と比較して約1ケタ近く大きいため、非常に大きな輝度の電子ビームを得ることが可能となる(後述する
図10参照)。電子ビームの輝度は装置の分解能あるいはスループットに比例するため、非常に高分解能、あるいは非常に高速な検査装置等を実現できるようになる。
【0083】
以下詳細に説明する。
【0084】
図9の(b)において、110面と100面の境界から放出される電子を有効に取り出すためには、110面と100面の境界の、特定領域のみに大きな電界が加わることが望ましい。
【0085】
本例では、エミッタ2の先端にある100面と110面の境界がエクストラクタ電極1に隣接するように配置して,結晶面境界に電界を局所的に強く作用させる。このようにすると、エミッタ2の先端部に生じている電界は、境界部分に集中して、境界部分から多くの電子放出が得られるようになる。
【0086】
電子ビームのエミッタ2に
図9の(b)に図示の傾斜板(傾斜筒、傾斜機構)35を設けることでどの方向にも電子ビームを向けることが出来るため、電子ビームのエミッタ2の全体を傾斜させて横方向に放出された電子が電子ビーム装置の光軸に一致する方向になるようにする。
【0087】
初期状態では10度近く電子ビームの放出方向が電子ビーム光学系の光軸に対して傾いているため、傾斜補正した後は電子ビームの光学系の光軸から直角方向に大きくずれている可能性がある。その場合には、電子ビームのエミッタ2をXY軸調整機構(水平調整機構)により、XY平面内を移動調整して電子ビームの放出位置が、電子ビーム光学系の光軸に一致するようにする。
【0088】
本実施例では利用するエミッタの先端形状は通常市場で流通している100主面の単結晶が使用可能になるため、エミッタ2のチップ自身は軸対称構造となり、作りやすく、非常に安定である。もちろん、他の角度を有するエミッタを利用してもよい。
【0089】
一般に、電子ビーム装置で使用する電子ビームは電子ビームのエミッタ2が放出する全放出電流の内、1000分の1以下の電流しか使用しないため、上記方法で得られた高電流密度を有する電子ビームを小さな制限アパチャーを用いて選択し、他の不要な電子ビームから分離して利用することで、1mA/srよりも非常に大きな電流密度をもつ電子ビームが利用可能となる。これにより、従来の何倍も高速な検査装置が実現できる。
【0090】
図10は、本発明の説明図(その7)を示す。これは、既述した
図9の(a)のタングステンチップ先端2の100面(および隣接して110面を有する)から放出される電子ビームの電流量の測定例を示す。横軸は電子ビームの軸中心からの放出角度radを表し、縦軸は電流量(輝度mA/st)を表す。
図10から判明するように、100面の平らな面から放出される電子ビーム(
図10上では上方向の電子ビーム)はグラフ中央のプラトー領域で小さなな電流である。一方、少し離れた角度の方向に放出される電子ビーム(
図10上ではグラフ中央から左右に約0.18rad程度離れた角度の方向に放出される電子ビーム)はその電流量が軸上の方向のものよりも大きい(高い)ことが判明する。この電流量が大きい(高い)方向に放出された電子ビームを、本発明の
図9の(b)のように傾斜板35を用いて光軸方向に放出されるように調整(補正)することにより、極めて電流密度の大きい電子ビームを得ることが可能となる。
【0091】
図11は、本発明の説明図(その8)を示す。
図11は、エミッタ2、エクストラクタ電極1、サプレッサー電極5の構成例(いわゆるTFEといわれる構成例)を示す。
【0092】
図11の(a)は正面図を示し、
図11の(b)は上面図を示す。
【0093】
図11において、エクストラクタ電極1は、既述したように、正の電圧を印加してエミッタ(タングステンチップ先端)2から電子ビームを放出させるものである。
【0094】
エクストラクタ固定用筒16は、エクストラクタ電極1を所定高さで保持する筒である。
【0095】
タングステンチップ先端(エミッタ)2は、既述したように、タングステンチップを電解研磨して上面に所定面(例えば100面)が出るように構成したものである。
【0096】
ZrOリザバ21は、図示のように、エミッタ2の根元の方向の部分に設けられ、加熱された状態でZrOをエミッタ2の部分に自動補給するものである。
【0097】
タングステンワイヤー22は、通電加熱してZrOリザバ21、エミッタ2を所定温度に加熱するものである。
【0098】
金属支柱23は、タングステンワイヤー22を保持し、通電加熱するためのものである。
【0099】
エミッタ台座24は、高温に加熱された金属支柱23を保持するものである。
【0100】
サプレッサー電極5は、エミッタ2に対して負の電圧を印加し、必要な電子ビームが光軸方向(
図11の上方向)に放出されるように電界を生成するものである。
【0101】
図12は、本発明の説明図(その9)を示す。
図12は、
図11の構造を詳細に示すとともに各部に印加される電圧関係を示す。
図12中と
図11中の同じ番号は、同じものを示すので説明を省略する。
【0102】
図12において、固定装置25は、エミッタ台座24に固定された金属支柱23(エミッタ台座24でもよい)を、エクストラクタ固定用筒16の部分に固定するものである。
【0103】
Z軸移動機構26は、エクストラクタ電極1とエミッタ2との間の高さ方向の距離を調整するものである。
【0104】
ロックナット27は、Z軸移動機構26をロックするものである。
【0105】
アノード6は、エクストラクタ電極1でエミッタ2から放出された電子ビームを加速する電圧を印加するものである。
【0106】
<印加電圧関係>(説明を簡単にするためにエミッタ2の電圧を以下0Vとする)
(1)エミッタ2には、0Vを印加する。
(2)サプレッサー電極5には、0以上、ー500Vの範囲内の電圧を印加する。例えばー300Vを印加する。
(3)エクストラクタ電極1には、0以上、+8KVの範囲内の電圧を印加する。例えば+4KVを印加する。
(4)アノード6には、0以上、+50KVの範囲内の電圧を印加する。例えば+1.5KV〜+5KVの範囲内の電圧を印加する。
【0107】
本実施例は、TFEに対して記述したが、室温近傍で用いる冷陰極や熱陰極に対しても同じように適用できるものである。