(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2において、前記体温変化予測ステップでは、前記予測情報として、前記標本抽出ステップにより抽出した前記標本中の前記体温時系列情報を平均化した一つの参照体温情報を作成することを特徴とする基礎体温予測プログラム。
請求項5〜9のいずれかにおいて、前記コンピュータシステムに、前記排卵日予測ステップで予測した排卵日に基づいて、前記現在の月経周期中で妊娠確率の高い期間を出力するステップを実行させることを特徴とする基礎体温予測プログラム。
請求項1〜10のいずれかにおいて、前記コンピュータシステムに、前記予測情報に含まれる所定の情報を出力するステップを実行させることを特徴とする基礎体温予測プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、排卵日を予測する方法としては、長期的予測法と即時的予測法がある。長期的予測法は月経周期が安定していることを前提とした予測方法である。そのため従前は月経周期が安定していたものの、現在の月経周期が体調や精神的なストレスなどの何らかの原因によって不安定になる場合には、現在の月経周期内における排卵日の予測精度が低下する。しかも女性本人は、現在の月経周期が不安定になっていることを認識することができない。また、女性の社会進出が進み、多くの女性が肉体的にも精神的にもストレスを抱えて月経周期が不安定になりやすいことを鑑みれば、長期的予測法はますます利用しにくいものとなる。
【0007】
一方、即時的予測法である基礎体温法は、上述した月経周期中における基礎体温の時系列変化に一定の傾向が見られることから、月経周期が不安定になっても、現在の月経周期については、その基礎体温の時系列変化の傾向を見極めることで排卵日の予測精度を確保することができる。一般的に、月経周期中の基礎体温の時系列は、月経周期の前半の低温期と後半の高温期に分類され、高温期の直前で基礎体温が最も低くなる最低体温日となり、この最低体温日の約1日後に排卵が起こるとされている。また低温期の後半では基礎体温の上昇傾向が見られるとされている。
【0008】
そして基礎体温法では、比較的安価に提供されている婦人体温計を用いることで家庭でのデータ(基礎体温)測定が可能である。したがって基礎体温法は、最も一般的な即時的予測法であると言える。しかしながら月経周期における基礎体温の変動傾向には個人差があり、一つの類型化された規則性に基づいて多種多様な個人の基礎体温の今後の変動状態を予測することは極めて難しい。上記特許文献1に記載の技術は、一人のユーザについての基礎体温の時系列変化を複数周期分収集することで、基準となる体温を求めておき、基礎体温の測定時点が高温相と低温相のいずれに属するかを判定して排卵日を検出するというものである。しかしながら、基礎体温の測定は難しく測定値にブレが生じやすいため、この特許文献1に記載の技術では、多くの場合測定時点が高温相と低温相のいずれかに属するかを正確に判定することは難しく、排卵日を精度良く予測することはできない。また、たとえ基礎体温を正確に測定できていても、基準となる体温との対比のみに基づいて排卵日を予測する場合、長期的予測法と同様に、現在の月経周期が何らかの原因によって不安定になってしまった場合には対応することができず、現在の月経周期における排卵日や、次の月経周期の開始時点などを精度良く予測することができない。
【0009】
そこで本発明は、ユーザが測定した自身の基礎体温の時系列情報に基づいて、現在の月経周期における今後の時系列変化を精度良く予測するためのプログラム、および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、
複数の人における1月経周期毎の基礎体温の時系列変化を表す
生データの母集団が記憶された記憶部を参照可能なコンピュータシステムにユーザの現在の月経周期の基礎体温の時系列変化を予測させるプログラムであって、
前記コンピュータシステムに、
前記生データにおける1月経周期を所定の値に正規化し、当該正規化された1月経周期における基礎体温の時系列変動を体温時系列情報として作成する体温時系列情報作成ステップと、
ユーザ入力された情報に基づいて、前記ユーザの基礎体温情報、当該基礎体温情報の測定日、前記現在の月経周期における月経開始日を取得する
とともに、前記ユーザの月経周期を設定する基礎体温情報取得ステップと、
前記基礎体温情報の取得機会ごとに、前記月経開始日から最新の前記測定日までの経過期間における基礎体温の時系列変化を、
設定した前記ユーザの月経周期を前記所定の値に正規化した時系列上で表現した現周期体温情報として作成する現周期体温情報作成ステップと、
所定数以上の前記基礎体温情報を含む前記現周期体温情報が作成された場合、
前記複数の人についての前記体温時系列情報から前記経過期間に対応する期間相当分の基礎体温の時系列変化を取得し、当該取得した時系列変化と前記現周期体温情報との近似度が高い方から所定数の体温時系列情報を標本として抽出する標本抽出ステップと、
前記抽出した標本に含まれる前記体温時系列情報に基づいて、前記ユーザの現在の月経周期の基礎体温の時系列変化の予測情報を作成する体温変化予測ステップと、
を実行させ、
前記体温変化予測ステップでは、前記時系列を前記設定されたユーザの1月経周期に換算した前記予測情報を作成する、
ことを特徴とする基礎体温予測プログラムとしている。
【0011】
また前記標本抽出ステップでは、1月経周期が、前記ユーザの月経周期に対して所定の範囲内にある前記体温時系列情報の集団を前記標本の抽出対象にすることとしてもよい。
あるいは、前記体温変化予測ステップでは、前記予測情報として、前記標本抽出ステップにより抽出した前記標本中の前記体温時系列情報を平均化した一つの参照体温情報を作成することとしてもよい。
【0013】
前記コンピュータシステ
ムに、前記参照体温情報に基づいて排卵の直前に基礎体温が低下する最低体温日を特定
させるとともに、当該最低体温日に基づいて前記現在の月経周期中の排卵日を予測する排卵日予測ステップを実行させることを特徴とする基礎体温予測プログラムとしてもよい。
【0014】
前記体温時系列情報には、事実として確定されている排卵日が付帯し、
前記コンピュータシステムに、前記標本中の前記体温時系列情報に付帯した前記確定されている排卵日に基づいて前記現在の月経周期中の排卵日を予測する排卵日予測ステップを実行させる、
ことを特徴とする基礎体温予測プログラムとすることもできる。
【0015】
前記排卵日予測ステップ
では、前記確定された排卵日を、当該ユーザの現在の月経周期における前記月経開始日からの経過日に換算することとしてもよい。
【0016】
前記体温時系列情報には、事実として確定されている排卵日が付帯し、
前記排卵日予測ステップは、
前記参照体温情報に基づいて、排卵直前に基礎体温が低下する最低体温日を特定するとともに、当該最低体温日に基づいて前記現在の月経周期中の排卵日Aを予測する第1ステップと、
前記標本中の前記体温時系列情報に付帯した前記確定されている排卵日に基づいて前記現在の月経周期中の排卵日Bを予測する第2ステップと、
前記排卵日Aと前記排卵日Bのいずれか一方を排卵日として予測する第3ステップと、
を含むことを特徴とする基礎体温予測プログラムすることもできる。
【0017】
さらに、前記第1ステップでは、前記現周期体温情報が作成される機会ごとに、当該機会における最低体温日と、当該機会を含めたこれまでの最低体温日の平均値のうち何れか一方に基づいて予測した排卵日を前記排卵日Aとして予測し、
前記第2ステップでは、前記現周期体温情報が作成される機会ごとに、当該機会においていて前記確定されている排卵日に基づいて予測した排卵日と、当該機会を含めたこれまでの確定されている排卵日に基づいて予測した排卵日の平均値のいずれか一方を前記排卵日Bとして予測する、
こととしてもよい。
【0018】
前記コンピュータシステムに、前記排卵日予測ステップで予測した排卵日に基づいて、前記現在の月経周期中で妊娠確率の高い期間を出力するステップを実行させることとしてもよい。前記コンピュータシステムに、前記予測情報に含まれる所定の情報を出力するステップを実行させる基礎体温予測プログラムとすることもできる。前記コンピュータシステムに、
1月経周期分の前記現周期体温情報が作成された時点で、当該現周期体温情報を前記
生データとして前記母集団に追加する母集団更新ステップを実行させる基礎体温予測プログラムとしてもよい。
【0019】
本発明の範囲には、基礎体温予測方法も含まれ、当該方法は、
複数の人における1月経周期毎の基礎体温の時系列変化を表す
生データの母集団が記憶された記憶部を参照可能なコンピュータシステムを用いてユーザの現在の月経周期の基礎体温の時系列変化を予測する方法であって、
前記生データにおける1月経周期を所定の値に正規化し、当該正規化された1月経周期における基礎体温の時系列変動を体温時系列情報として作成し、
ユーザ入力された情報に基づいて、前記ユーザの基礎体温情報、当該基礎体温情報の測定日、前記現在の月経周期における月経開始日を取得する
とともに、前記ユーザの月経周期を設定し、
前記基礎体温情報の取得機会ごとに、前記月経開始日から最新の前記測定日までの経過期間における基礎体温の時系列変化を、
設定した前記ユーザの月経周期を前記一定の周期に正規化した時系列上で表現した現周期体温情報として作成し、
所定数以上の前記基礎体温情報を含む前記現周期体温情報が作成された場合、
前記複数の人についての前記体温時系列情報から前記経過期間に対応する期間相当分の基礎体温の時系列変化を取得し、当該取得した時系列変化と前記現周期体温情報との近似度が高い方から所定数の体温時系列情報を標本として抽出し、
前記
抽出した標本に含まれる前記体温時系列情報に基づいて、前記ユーザの現在の月経周期の基礎体温の時系列変化の予測情報を作成し、
前記予測情報として、前記ユーザの現在の月経周期の基礎体温の時系列変化を、
前記設定されたユーザの1月経周期に換算された時系列での変化で表現した情報を作成する、
ことを特徴とする基礎体温予測方法としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の基礎体温予測プログラム、および基礎体温予測方法によれば、ユーザが測定した自身の基礎体温の時系列情報に基づいて、現在の月経周期における今後の時系列変化を精度良く予測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0024】
<コンピュータシステム>
本発明の一実施形態として、インターネット上に設置されたコンピュータシステムにインストールされたプログラムを挙げる。コンピュータシステムは、大容量の記憶装置を備え、パーソナル・コンピュータやスマートフォンなどのユーザ端末をクライアントとしたサーバ装置であり、当該サーバ装置は、本実施形態に係るプログラムを実行することで、ユーザ端末とのデータ通信を通じて入力された情報や記憶装置に格納されている情報を用いてユーザの現在の月経周期における基礎体温の変動を予測し、その変動に関わる各種情報を利用端末を介してユーザに提示するサービス(以下、基礎体温予測サービスとも言う)を提供するものである。
【0025】
図1にサーバ装置1とユーザ端末20を含むネットワーク構成の概略を示した。サーバ装置1は、インターネット30を介してユーザ端末20と通信するための通信部12、大容量の記憶装置11、および一台以上のコンピュータによって構成された制御部10などを含む。制御部10には、通信部12を介してユーザ端末20と通信するための通信制御プログラムが実装されているとともに、記憶装置11に構築されたデータベースを管理するプログラム(以下、データベース管理プログラムとも言う)と、ユーザの現在の月経周期(以下、現月経周期)における基礎体温の変動を予測する専用のプログラム(以下、基礎体温予測プログラムとも言う)が実装されている。そして基礎体温予測プログラムが実質的に本発明の実施形態であり、制御部10が当該基礎体温予測プログラムを通信制御プログラムやデータベース管理プログラムと連携させながら実行する。それによってサーバ装置1による基礎体温予測サービスがユーザに提供される。
【0026】
<基礎体温の変動予測原理>
本実施形態における基礎体温の変動予測原理について説明すると、まず、母集団として、1周期分の基礎体温の時系列変化を表す情報を多数用意しておき、ユーザは基礎体温を継続して測定する。母集団に含まれる基礎体温の時系列変化を表す情報の中にユーザにおける現月経周期のそれまでの基礎体温の変動傾向に近似しているものがあれば、ユーザのその後の基礎体温はその近似した基礎体温の時系列にほぼ従うものとしている。そして、その近似した基礎体温の時系列を予測結果としてユーザに提示する。
【0027】
このように本実施形態に係る基礎体温予測プログラムによれば、すべてのユーザの基礎体温の変動傾向を、膨大な量の情報を含む母集団の中には異なるユーザ同士であっても基礎体温の時系列変化が極めて近似したものがあるとの予測に基づき、母集団に含まれているその近似した基礎体温の時系列変化をユーザの基礎体温の時系列変化と見なす、という手法を用いて予測している。そのためユーザごとに異なる基礎体温の変動傾向、あるいは一時的に不規則になった月経周期における基礎体温の変動傾向も予測することが可能となる。しかも本実施形態に係るプログラムでは、母集団として用意しておく情報や近似する情報の抽出手順などに特徴を有し、より精度の高い予測が可能となっている。以下では、ユーザ端末20とサーバ装置1の基本的な機能やデータベースの構造などについて説明し、その上で、基礎体温予測サービスの実施手順について説明する。
【0029】
本実施形態では、ユーザ端末としてスマートフォンを用いることとしており、ユーザ端末には、サーバ装置と通信して基礎体温予測サービスを利用するための専用のアプリケーションプログラム(以下、ユーザアプリとも言う)がインストールされている。当該ユーザアプリは、サーバ装置にダウンロード可能に用意されていてもよいし、スマートフォン向けの周知のデジタルコンテンツ配信サービス(例えば、Google Play(登録商標)、App Store(登録商標)など)によって配布されるものであってもよい。
【0030】
ユーザアプリがユーザ端末において起動されると、当該ユーザアプリは、基礎体温予測サービスを利用するためのユーザインタフェース環境をユーザに提供する。概略的には、ユーザ端末にてユーザアプリが起動されると、当該ユーザ端末は、サーバ装置との通信機能、この通信機能によりサーバ装置に送信するための各種情報の入力機能、およびサーバ装置から送付されてきた各種情報をディスプレイに表示するための出力機能を備える。
【0031】
ユーザアプリにおける入力機能では、当該アプリが提供するユーザインタフェースを介してユーザが自身の月経周期、月経開始日、基礎体温とその測定日など、月経周期に関わる各種情報を入力することができる。そしてその入力情報が通信機能によってサーバ装置に送られる。出力機能では、サーバ装置がユーザ端末から受け取った入力情報を上述した基礎体温予測プログラムを用いて処理し、その処理結果に関わる情報が送付されてくると、その送付されてきた情報をディスプレイに表示する。
【0032】
===サーバ装置===
<データベース>
サーバ装置の記憶装置には、不特定多数のユーザ、あるいは基礎体温予測サービスのユーザなどから様々な方法で収集した膨大な量の1月経周期分の基礎体温の測定記録が格納されている。各記録は、基礎体温予測サービスのユーザからのものであれば、ユーザアプリの機能により、ユーザに日々の基礎体温を入力させることで収集することができる。またインターネット上には個人向けの月経日予測サービスや妊娠支援サービスを提供しているWebサイトが数多くあり、これらのサービスにおいてもユーザから1月経周期分の基礎体温の測定記録を収集しており、その収集したデータを記憶装置に格納することもできる。もちろん学術的な研究成果として蓄積されている記録もある。いずれにしても、記憶装置には、1月経周期分の基礎体温を記録した情報(以下、生データとも言う)が格納されている。なお膨大な数の生データの中には、基礎体温の予測に適さないものもあることから、基礎体温予測サービスに供される生データには所定の条件が設定されている。当該条件としては、例えば、同じユーザにおける5回の月経周期の変動幅がそのユーザの月経周期に対して0.8倍以上1.2倍以下であること、月経周期が22日以上34日以下の生データであることなどである。予測精度をさらに向上させるためには、例えば、月経開始日の基礎体温が記録されていること、1月経周期を通じて基礎体温の欠落が20%以下であること、および連続する二日で基礎体温の欠落がないことなどの条件を設定しておいてもよい。
【0033】
なお本実施形態に係る基礎体温予測プログラムは、生データを処理の対象にしておらず、生データを加工することで得た情報を処理の対象としている。記憶装置には22日以上34日以下の範囲で月経周期が異なるものが混在し、さらに生データは月経開始日を起点とした日数と基礎体温の測定値を記録したもので、単位が日なので時間について離散的である。そこで月経周期の長短によらず、1周期分の時系列変化を評価できる情報となるように生データを加工している。
【0034】
図2に生データの加工処理の概略を示した。
図2(A)に示したように、生データ100では月経開始日T1からの経過日数と基礎体温との関係が折れ線グラフによって表現され、時間について離散的である。そこで
図2(B)に示したように、生データを構成する各要素にガウシアンフィルタを適用して月経開始日からの日数と基礎体温との関係を連続した関数で表現できるように平滑化する。周知のごとく、ガウシアンフィルタは、以下の数式(数1)で記述され、当該式1におけるσの値を適宜に設定することで(例えば、σ=4)、平滑化の度合いを調整することができる。
【数1】
【0035】
このように、平滑化により、月経開始日からの連続した経過時間と基礎体温についての増減傾向を示す曲線101で表現される。つぎに生データにおける月経周期には幅があることから、すなわち22≦T2≦34であることから、
図2(C)に示したように、月経周期T2を一律に所定の値(例えば、1)となるように正規化する。それによって生データが一定の期間における基礎体温の連続的な時系列変動を示す情報102に加工される。そしてこの基礎体温の連続的な時系列変動を示す情報(以下、体温時系列情報とも言う)に、その起源となった生データに付帯していた月経周期を対応付けしておく。
【0036】
また生データには、事実として確定された排卵日を含んでいるものもある。本実施形態における事実として確定された排卵日とは、医療機関などでの検査によって排卵があったものと把握される日(以下、確定排卵日とも言う)のことを言う。この確定排卵日が付帯している生データを起源として生成された体温時系列情報については、確定排卵日についても一律の値に正規化された月経周期内において所定の値で示すための正規化を行い、月経周期とともに対応付けしておく。記憶装置に構築されたデータベースには、上述した膨大な量の生データから生成された体温時系列情報が母集団として格納されている。またデータベースでは、基礎体温予測サービスの享受者となるユーザが固有の識別情報(以下、ユーザIDとも言う)で管理されているとともに、各ユーザのユーザIDにユーザ端末から送信されてきた各種入力情報が対応付けされている。なお生データについては記憶装置に格納されていなくてもよい。体温時系列情報は、サーバ装置にて生成されてもよいし、当初から用意されていたものをサーバ装置が参照可能な記憶装置に格納したものであってもよい。
【0037】
===基礎体温予測サービス===
基礎体温予測サービスは、制御部が基礎体温予測プログラムを実行して上述した体温時系列情報とユーザ端末からインターネットを介して送付されてくる各種入力情報とを処理することでユーザに提供される。以下に基礎体温予測サービスの実施手順と、その実施過程における基礎体温予測プログラムによるデータ処理の内容について説明する。
【0038】
ここではユーザ端末にユーザアプリがすでにインストールされ、ユーザIDが配信サーバのデータベースに登録されており、ユーザは基礎体温予測サービスを享受する準備ができているものとする。
図3に基礎体温予測サービスの提供過程における基礎体温予測プログラムによるデータ処理の流れを示した。ユーザは、基礎体温予測サービスの利用を開始するのに当たり、まず、自身の月経周期を入力する。自身の月経周期が分からない場合は、月経周期の入力を省略する。サーバ装置は、月経周期が入力された場合は、その周期の日数を、入力されなかった場合は、平均的な月経周期である28日をこのユーザの月経周期として設定し、その月経周期をこのユーザのユーザIDに対応付けしてデータベースに登録する(s1→s2,s1→s3)。もちろん、ユーザが継続して基礎体温予測サービスを利用しており、過去複数周期分の基礎体温の入力実績があれば、その実績に基づく平均の月経周期を当該ユーザの月経周期として設定することもできる。いずれにしても、何らかのユーザ入力に基づいて、そのユーザの月経周期を設定すればよい。
【0039】
サーバ装置は、ユーザIDに月経周期を対応付けしてデータベースに登録したならば、その月経周期に近い月経周期の情報を付帯する体温時系列情報を特定する。そしてユーザの基礎体温の変動に近似する体温時系列情報を抽出する際には、その特定した体温時系列情報のみを抽出の範囲とする(s4)。本実施形態では、設定したユーザの月経周期に対して±1日以内の月経周期が付帯する体温時系列情報を抽出範囲としている。そしてユーザが基礎体温とその測定日をユーザ端末を用いて入力すると(s5,s6)、サーバ装置がその入力情報をインターネットを介して受け取り、基礎体温と測定日の関係をこのユーザに対応付けして管理する。
【0040】
そして月経が始まったならば、ユーザはその月経開始日をユーザ端末に入力する。サーバ装置は、この月経開始日以降、次の月経開始日が入力される前日までをこのユーザの現月経周期として管理し、月経開始日を起点とした経過日数と基礎体温との関係を表す情報(以下、現周期体温情報とも言う)を新規に作成する(s7→s8)。また当該月経開始日以降に基礎体温とその測定日が入力されると、その入力機会ごとに現周期体温情報を更新する(s7→s9)。なお本実施形態にて用いられる現周期体温情報は、経過日数と基礎体温との関係を上記のガウシアンフィルタを用いて平滑化しつつ、先に設定したユーザの月経周期を体温時系列情報と同じ尺度で正規化したものである。また月経開始日の直後である場合、あるいは基礎体温の入力回数が少ない場合は、基礎体温の変動傾向自体が不明確であることから、基礎体温が所定回数以上入力されるまでは基礎体温の予測を行わない。すなわち現周期体温情報に近似する体温時系列情報を標本として抽出する処理を行わない(s10→s5)。
【0041】
しかし、所定数の基礎体温が入力されて標本抽出条件が満たされると、それ以降、現周期体温情報と上記の抽出範囲にある全ての体温時系列情報との近似度を調べ、近似度が高い方から所定数の体温時系列情報を標本として抽出する(s10→s11、s12)。もちろん標本の抽出条件は、月経開始日からの経過日数に依らず、単純に所定数以上の基礎体温が入力されたことであってよいし(例えば、6回以上)、月経開始日から所定の日数が経過した時点までに入力された基礎体温が所定数以上であることであってもよい(例えば、経過日数が6日以上で基礎体温の入力回数が経過日数の50%以上)。
【0042】
図4に標本の抽出方法の概略を示した。
図4(A)に示したように、現周期体温情報103は、月経周期に相当する日数が所定の数値(図中では1)となるように正規化されており、当然のことながら、最後の測定日に対応する時点t1以降についてはデータが存在しない。そこで抽出対象に含まれる全ての体温時系列情報について、この1周期の一部に対応する領域を現周期体温情報103と比較し、近似度が高い方から所定数の体温時系列情報を標本として抽出する。
図4(B)は1周期分の体温時系列情報102を示しており、この体温時系列情報102から現周期体温情報103と比較する領域(0〜t1)のみを抽出する。そして
図4(C)に当該領域を拡大して示したように、現周期体温情報103と体温時系列情報102を同じ期間(0〜t1)同士で比較する。具体的には、現周期体温情報103および体温時系列情報102のそれぞれを、時間tの関数f(t)およびg(t)とし、ある時点tでの値の差分δ=f(t)―g(t)を二乗した値を全ての時点で積分し、その積分値の平方根を近似度とした。近似度をαとすると、当該近似度αは以下の数式(数2)で表すことができる。
【数2】
【0043】
近似度αは、その値が小さいほど近似度が高い。そして本実施形態では、近似度が高い方から300個の体温時系列情報を標本として抽出した。そして抽出した300個の関数の相加平均をとり一つの体温時系列情報を作成する。それによってユーザの1月経周期分と同じ期間にわたる体温時系列情報(以下、参照体温情報)が作成される(
図3、s13)。そしてその参照体温情報に基づいてユーザの今後の基礎体温の変動傾向を予測する。
【0044】
図5に参照体温情報104の例を示した。本実施形態では、参照体温情報104において、排卵の直前に体温が低下する最低体温となる日(以下、最低体温日t
bbtとも言う)に基づいて排卵日を予測している。なお排卵の直前以外でも体温が低下する場合もあることから、本実施形態では、月経開始日から10日目以降で基礎体温が最低となる日を最低体温日t
bbtとしている。また、最低体温日t
bbtから排卵日までは約1日程度あることから排卵日を参照体温情報104における最低体温日t
bbtから所定の日数(以下、加算値n
bbtとも言う)を加算した時点を排卵日としている。この加算値n
bbtは、生データや母集団における体温時系列情報に基づいて設定することができる。例えば、確定排卵日が付帯する全ての体温時系列情報について、最低体温日から確定排卵日までの日数を取得し、その日数の平均値を求めておく。そして、この平均日数を加算値n
bbtとして参照体温情報における最低体温日t
bbtに加算する。なお最低体温日t
bbtから確定排卵日までの平均値は、抽出した300件分の体温時系列情報に含まれる確定排卵日付きの体温時系列情報についての平均値であってもよいし、データベースに格納されている全ての体温時系列情報についての平均値であってもよい。あるいは標本の抽出範囲として、月経周期がユーザの月経周期に対して±1日の範囲内にある体温時系列情報についての平均値であってもよい。いずれにしても、サーバ装置では参照体温情報における最低体温日t
bbtに基づいて排卵日を予測する(
図3、s17,s18)。なお以下では最低体温日t
bbtに基づいて予測した排卵日を予測排卵日Aとする。
【0045】
一方、上述したように、確定排卵日を付帯する体温時系列情報もあることから、抽出した標本中の確定排卵日付きの体温時系列情報に基づいて確定排卵日を排卵日として予測することもできる。ここでは、標本中の確定排卵日の平均値(以下、t
ovlとする)に基づいて予測した排卵日を予測排卵日Bとしている(
図3、s14→s15,s16)。なお本実施形態では、標本中の確定排卵日の平均値t
ovlに対してさらに補正項(以下、n
ovlとする)を加味した値(以下、加算値n
ovlとする)を加算して確定排卵日に基づく予測排卵日Bを特定している。そして上述したように予測排卵日Aと予測排卵日Bが特定されたならば、いずれか一方を予測排卵日として採用する。本実施形態では、予測排卵日Aと予測排卵日Bについて、現状での母集団の規模や予測的中率などの予測実績とから月経開始日に対してより遠い日を予測排卵日としている。なお標本中に確定排卵日を含む体温時系列情報がなかった場合には、予測排卵日Aを予測排卵日として採用する(
図3、s14→s17)。
【0046】
ところで現月経周期における予測精度は、ユーザによる基礎体温の入力回数が増えるほど、すなわち月経開始日からの日数が経過するほど情報が増え、また、予測する排卵日が近づくため高まっていく。そこで本実施形態では、ユーザが基礎体温とその測定日を入力する機会ごとに、その都度近似度の高い順から標本を抽出し、参照体温情報を再作成している。そして、参照時系列情報における最低体温日t
bbtに基づいて予測する排卵日Aについて、最新の参照時系列情報から予測される排卵日(以下、A1とする)と、当該予測排卵日A1を含めた前回までの全ての予測排卵日の平均値(以下、A2とする)のうちいずれかを今回の予測排卵日Aとする。本実施形態では、月経開始日から遠い日を今回の予測排卵日Aとしている。同様に、今回抽出した標本に含まれている確定排卵日から予測した排卵日B1と、当該予測排卵日B1を含めた前回までの確定排卵日に基づく予測排卵日B2の平均値のうちいずれかを今回の予測排卵日Bとする。本実施形態では、月経開始日から遠い日を今回の予測排卵日Bとしている。そして、これらの予測排卵日AとBのうち月経開始日に対して遠い日を最終的な予測排卵日とする。なお、本実施形態では、月経開始日に対して遠い日を予測排卵日としているが、複数の予測排卵日を比較しいずれかを採用することが本旨であり、月経開始日に対して近い日を予測排卵日として採用するように構成してもよい。
【0047】
サーバ装置は、以上のようにして採用する予測排卵日を決定したら、所定の値に正規化されている1月経周期を、ユーザの1月経周期に換算し、正規化された値としての予測排卵日ではなく、単位を日とした当該ユーザの予測排卵日を確定する。なお、「日」単位にする際には小数点を四捨五入する。その予測排卵日に基づく妊娠確率の高い日をさらに特定する(
図3、s20)。なお妊娠確率の高い日は、事前に設定されている日数であり、本実施形態では、排卵日を0日とすると、−1日から−3日までとしている。また妊娠確率の高い日は実際に収集されたデータに基づく妊娠率を根拠にしており、妊娠率は、ある日(例えば、排卵日)に交接した人数に対して実際に妊娠した人数の割合である。そして妊娠率は、本実施形態における生データと同様にして収集された膨大な情報から求められる。
図6に排卵日前後の交接日と妊娠率との関係の一例を示した。
図6では、確定排卵日の前後に一回だけ交接した人についての妊娠率分布が示されている。
【0048】
そして上述した手順によって、妊娠確率の高い日が特定できたならば、その日をユーザ端末に向けて出力し(
図3、s21)、ユーザ端末は、ユーザアプリにより当該妊娠確率の高い日を表示出力する。
図7に、基礎体温予測サービスの実施過程でユーザ端末に表示される画面の遷移を示した。まず
図7(A)は、ユーザアプリの起動画面 21aであり、確認したい情報や利用したいサービスを選択するためのボタン22や、現時点における予測結果など、基礎体温予測サービスに関わる情報23が表示されている。ここで「基礎体温」のボタン22aを指示すると、
図7(B)に示したように、基礎体温と測定日を入力するための画面21bが表示される。ユーザがこの画面21bの所定欄(24,25)に基礎体温と測定日を入力したならば、同じ画面21bに配設されている「登録」ボタン26により登録指示をする。それによって、基礎体温と測定日を含む情報がサーバ装置に送信される。サーバ装置側では基礎体温予測プログラムにより排卵日に基づく妊娠確率の高い日が計算され、その計算結果がユーザ端末に返送される。そして
図7(C)に示した画面21cのように、基礎体温とその測定日の確認欄27と、妊娠確率の高い日が「仲良しタイミング」28として表示される。
【0049】
なお上述したように、基礎体温予測サービスでは現月経周期において所定数以上の基礎体温が入力されていない状態では、標本の抽出条件が満たされないため、サーバ装置は、ユーザ端末からの入力情報を受け付けるだけで、予測結果を提示しない。また予測排卵日が過ぎた後では、次の月経周期になるまで、排卵日に基づく妊娠確率の高い日を提示することができない。そこでサーバ装置は、このような場合については、予測結果を提示できない旨の情報をユーザ端末に向けて出力する。
図8に標本の抽出条件が満たされていない場合および現月経周期において、排卵日が過ぎてしまった場合にユーザ端末に表示される画面の例を示した。
図8(A)に示すように、標本の抽出条件が満たされていない場合では、基礎体温とその測定日の確認欄27と、妊娠確率の高い日が出力されるのに要する残りの基礎体温の測定日数128を含む画面21dが表示される。また
図8(B)に示すように、予測排卵日が過ぎてしまった場合では、基礎体温とその測定日の確認欄27と、妊娠確率の高い日が出力されるのに要する基礎体温の入力条件228を含む画面21eが表示される。なおサーバ装置は、次に月経開始日を知らせるユーザ入力があった時点で、それまでの現周期体温情報あるいは生データに相当する基礎体温と測定日との対応関係をそのユーザのユーザIDに対応付けしてデータベースに登録する。それによってデータベースに生データが追加され、その生データに基づいて体温時系列情報が生成されて母集団が更新される。
【0050】
以上のように本実施形態に係る基礎体温予測プログラムによれば、実測値に基づく生データから生成された膨大な数の体温時系列情報の中からユーザの基礎体温の変動傾向と近似するものを抽出するという手法を用いてユーザの現月経周期における基礎体温の変動を予測している。すなわち全てのユーザの基礎体温の変動傾向を一つの類型化されたモデル言い換えれば理想化されたモデルに当てはめるのではなく、ユーザのデータ入力に対して、膨大な数の他のユーザの中の近似したユーザデータから都度モデルを生成することで高精度の即時的予測を可能にしている。
【0051】
類型化したモデルに当てはめる予測方法では、ユーザの現月経周期における基礎体温の変動傾向が一般的とされている月経周期における基礎体温の変動傾向に一致しない場合、その時点で予測精度が劣化する。一方、本実施形態に係るプログラムを用いた予測方法では、現月経周期における基礎体温の変動傾向に近似する他のユーザデータが存在すれば、基礎体温の変動傾向を高精度で予測することができる。
【0052】
===その他の実施例===
上記実施形態では、原則的にユーザは月経開始日から毎日基礎体温をサーバ装置に送付することとしていたが、基礎体温を測定できない日があってもよい。例えば、基礎体温の入力がなかった次の日に基礎体温が入力されたならば、その最新の基礎体温を前日の基礎体温としたり、あるいは入力がなかった日の前後の日の基礎体温の平均値を入力したりするなど、欠落したデータは適宜に補間することができる。
【0053】
上記実施形態では、ユーザは基礎体温を測定するたびに、その基礎体温と測定日をサーサーバ装置に送信することとしていた。もちろん、ユーザが基礎体温とその測定日を自身のユーザ端末に入力するタイミングと、基礎体温と測定日をサーバ装置に送信するタイミングは必ずしも一致しなくてもよい。例えば、ユーザアプリがスマートフォンにインストールされ、ユーザが、終日、移動体通信網の圏外にいるような場合では基礎体温と測定日が入力された時点でそれらの情報をサーバ装置に送信できない。このような場合、ユーザアプリは、基礎体温と測定日をユーザ端末に記憶させておき、通信可能になった時点でその記憶していた情報をサーバ装置に送付することとしてもよい。あるいはユーザが基礎体温と測定日をノートなどに書き取っておき、まとめてサーバ装置に送信するような場合にも対応し、複数の基礎体温と測定日の組み合わせを纏めて入力できるようにしておいてもよい。
【0054】
基礎体温とその測定日は、ユーザがユーザ端末に数値で入力する形態に限らない。例えば、Bluetooth機能を備えた婦人体温計をスマートフォンとペアリングさせておき、婦人体温計で基礎体温が測定されると、スマートフォンに実装されているユーザアプリがその基礎体温を受け取る。そして現在日を測定日として、受け取った基礎体温とその測定日をサーバ装置に自動的に送信する。婦人体温計にネットワーク通信機能を備えさせるとともに、婦人体温計にユーザアプリと同等の機能を実装させておけばスマートフォンも不要となる。いずれにしても、サーバ装置に実装されている基礎体温予測プログラムは、現在の月経周期における基礎体温とその測定日についての情報がユーザ端末から送付されてきたならば、その基礎体温と測定日を該当するユーザIDに対応付けして記憶装置に格納すればよい。
【0055】
上記実施形態では、基礎体温予測プログラムがインターネット上のサーバ装置に実装されており、ユーザ入力をインターネットを介して受け取ることとしていたが、ユーザ端末側に基礎体温予測プログラムをインストールしておき、体温時系列情報を格納する記憶装置のみをインターネット上に配置しておいてもよい。もちろん基礎体温予測プログラムの一部をユーザ端末に実装することもできる。また体温時系列情報を格納するインターネット上の記憶装置と随時同期する記憶装置を備えたコンピュータに基礎体温予測プログラムを実装しておくことも考えられる。
【0056】
上記実施形態では、妊娠確率の高い日をユーザ端末に表示させていたが、基礎体温の変動予測は、より確実な妊娠だけを目的としたものではない。避妊目的で利用できることはもちろん、種々の健康管理などにも活用できる。例えば、月経周期中には、ダイエットが有効な期間とそうでない期間などがあることが知られていることから、今後の基礎体温の変動、あるいはダイエットに対する助言などを適時にユーザに提示することで、ユーザはその提示された情報を計画的で効率のよいダイエットに活用することができる。基礎体温の変動を予測することは次回の月経開始日を予測することでもあることから、次回の月経開始の予測日を提示すれば、ユーザは外出や旅行の予定に備えることもできる。また周知のごとく、月経周期は脳下垂体と卵巣からのホルモンの分泌状態によって五つの期間(月経期、増殖期、排卵期、分泌期)に区分され、その各期間に応じて体調や精神の状態に起伏が見られることがある。そのため基礎体温の変動傾向から現在の期間を提示したり、あるいは現在の期間における体調や精神状態の一般的な傾向を提示したりすることもできる。それによってユーザは、心身の僅かな不調が月経周期によるものであるのか、それ以外のものであるのかをある程度認知することができる。