【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明に係るホタテ貝の貝殻の焼成粉末、その水溶液、ホタテ貝の貝殻の焼成粉末の製造方法、および、その保存方法についてより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。また、実施例、比較例における物性、特性の評価方法は以下の通りである。
【0031】
[組成分析]
あいちシンクロトロン光センターのビームライン(BL5S2)を利用した粉末X線回折法によって、下記の条件にて結晶構造解析を行った。そして、得られた回折ピークの強度から、解析ソフト((株)リガク製 PDXL2)を用いて、ホタテ貝の貝殻の焼成粉末中の酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム(CaCOH
3)の割合を求めた。
・シンクロトロン光の波長:1Å(エネルギー12.4keV)
・検出器:二次元半導体検出器PILATUS100K
【0032】
[抗菌効果試験]
25℃の雰囲気下で、得られたホタテ貝の貝殻の焼成粉末を含有させた水溶液1mL(リットル)をシャーレに滴下した後、その水溶液中に下記の各種の試験菌を接種し、それらの菌の数(生菌数)の経時変化を測定した。
・試験菌
a.Campylobacter jejuni subsp. jejuni ATCC 33560(カンピロバクター)
b.Escherichia coli ATCC 43888(大腸菌、血清型O157:H7、ベロ毒素非産生株)
c.Salmonella enterica subsp. enterica NBRC 3313(サルモネラ)
d.Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 12732(黄色ブドウ球菌)
e.Vibrio parahaemolyticus RIMD 2210100(腸炎ビブリオ)
【0033】
[ウイルス不活性化試験]
得られたホタテ貝の貝殻の焼成粉末を含有させた水溶液1mL(リットル)を、ウイルスを培養した培地に滴下し、室温℃で放置した後のウイルスの感染量の変化を測定した。なお、測定に供したウイルス、および培養方法等は以下の通りである。
(1)試験ウイルス
Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782(ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代替ウイルス))
(2)使用細胞
大日本製薬株式会社製CRFK細胞
(3)使用培地
i)細胞増殖培地
日水製薬株式会社製イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)に牛胎仔血清を10%加えたものを使用した。
ii)細胞維持培地
日水製薬株式会社製イーグルMEM培地「ニッスイ」(1)に牛胎仔血清を2%加えたものを使用した。
(3)ウイルス浮遊液の調製
i)細胞の培養
細胞増殖培地を用い,使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。
ii)ウイルスの接種
単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き,試験ウイルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO
2濃度:5%)内で1〜5日間培養した。
【0034】
[ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験]
試験動物(体重2.0〜4.0Kgの健康な6匹のウサギ)の体幹背部被毛を試験の約24時間前に剪毛した。そして、試験動物1匹につき、約6cm
2の面積で4箇所を設定し、そのうち2箇所には、18ゲージの注射針を用いて、真皮までは達しないように角化層に井桁状のすり傷を付け(有傷皮膚)、他の2箇所を無処置(無傷皮膚)とした。そして、約2cm×3cmに裁断したガーゼパッチに検体(ホタテ貝の貝殻の焼成粉末を含有させた水溶液)0.5mLを均一に塗布し、無傷および有傷皮膚の各1箇所ずつに適用した後、マルチフィックス・ロール(アルケア株式会社)で固定した。また、パッチが皮膚と接触するように、さらにブレンダームサージカルテープ(スリーエムヘルスケア株式会社)で保持した。なお、残りの無傷および有傷皮膚は対照とした。また、適用時間は4時間とし、その後にパッチを取り除き、適用部位を注射用水で清拭した。除去後1,24,48,72時間に観察を行い、下記の基準(紅斑および痂皮の形成、および、浮腫の形成)にしたがって刺激反応の採点を実施した。さらに、ISO 10993-10 Biological Evaluation of Medical Devices-Part 10(2010)に準拠した方法によって、パッチ除去後24,48,72時間の採点値を合計して6で除し、さらに各試験動物の平均を算出して一次刺激性インデックス(P.I.I.)とした。
・紅斑および痂皮の形成
0:紅斑なし
1:非常に軽度な紅斑(かろうじて識別できる)
2:はっきりした紅斑
3:中程度から高度紅斑
4:高度紅斑(暗赤色)から紅班の採点を妨げる痂皮の形成
なお、壊死、潰瘍、脱毛、瘢痕等の反応は深層損傷として点数4に分類した。
・浮腫の形成
0:浮腫なし
1:非常に軽度な浮腫(かろうじて識別できる)
2:軽度浮腫(はっきりした膨隆による明確な縁が認識できる)
3:中程度浮腫(約1mmの膨隆)
4:高度浮腫(1mm以上の膨隆と曝露範囲を超えた広がり)
また、一次刺激性インデックス(P.I.I.)と刺激性(反応カテゴリー)との関係を以下に示す。
0〜0.4:無刺激
0.5〜1.9:弱い刺激性
2.0〜4.9:中等度の刺激性
5.0〜8.0:強い刺激性
【0035】
<ホタテ貝焼成粉末の製造>
[ホタテ貝の焼成]
貝肉部分を食用に供した残りのホタテ貝の貝殻(約100kg)を、塩素入り水槽(塩素濃度約1,000ppm)中に所定の時間(約8時間)浸漬させた。しかる後、それらのホタテ貝の貝殻を太陽光に曝して十分に乾燥させた。しかる後、それらの乾燥後のホタテ貝の貝殻を約1,100℃の温度に設定した炉の内部で約3時間に亘って焼成した。
【0036】
[焼成後のホタテ貝の貝殻の粉砕]
さらに、その焼成後のホタテ貝の貝殻を、そのまま(乾燥状態を保ったまま)、超微粉砕機によって、平均粒径が9μm程度となるように粉砕することによって、ホタテ貝の貝殻の焼成粉末を得た。(かかる粉砕は、35%RHの雰囲気下で行い、粉砕中のホタテ貝の貝殻の水分率が増加しないように配慮した。なお、粉砕後のホタテ貝の貝殻の水分率は、10質量%未満であった。)そして、上記の如く粉砕させたホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末を、常温常湿下で24時間エージングさせた後に、上記した粉末X線回析法にて組成分析したところ、当該ホタテ貝の貝殻の焼成粉末中の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムの含有量は、それぞれ、表1の通りであった。
【0037】
[ホタテ貝焼成粉末含有水溶液の調整]
上記の如く得られたホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末200gを、100L(リットル)の水を入れたドラム形状の精製槽内に添加し、電動式の攪拌機によって約3時間に亘って撹拌した(200mmφの撹拌翼を360rpmの回転速度で回転させた)。さらに、その撹拌後の混合溶液を、約10時間静置した後、溶解せず沈殿したホタテ貝の貝殻の焼成粉末(乾燥質量で20g)、および上澄み(乾燥質量で5g)が混入しないように、静置後の混合溶液の中間に位置した水溶液をポンプにて採取した。しかる後、その水溶液を、フィルター(物理的濾過フィルター)にて濾過することによって、精製後のホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末含有水溶液(混合液)を得た(ホタテ貝の貝殻の焼成粉末濃度≒0.18質量%)。そして、その水溶液を用いて、上記した抗菌特性、ウイルス不活性化特性、および、皮膚への刺激性(ウサギを用いた皮膚一次刺激性)を評価した。評価結果をホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末および水溶液の性状とともに表2〜8に示す。
【0038】
[ホタテ貝焼成粉末の保存]
焼成後のホタテ貝焼成粉末を厚さ80μmのポリエチレン製袋に充填し、その開口部をヒートシールすることによって袋を密封した。そして、そのように密封して水蒸気との接触を遮断したホタテ貝焼成粉末を、40℃×90%RHの雰囲気下で120時間放置した後に、再度、組成分析した。一方、焼成後のホタテ貝焼成粉末を、上記と同様なポリエチレン製袋に充填して密封することなく(開口させたままで)同じ雰囲気下で同じ時間放置した後に、再度、組成分析した。それぞれの評価結果を表9に示す。
【0039】
[比較例1]
市販のホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末(焼成後に湿式粉砕することによって製造されたものと推定される)を用いて、実施例1と同様の方法によって組成分析を行った。また、同じホタテ貝焼成粉末を用い、実施例1と同様の方法によって水溶液(混合液)を調整した。(なお、当該水溶液は、ホタテ貝の貝殻の焼成粉末の濃度が、5質量%となるように調整した。)しかる後、その水溶液を用いて実施例1と同様な方法によって、抗菌特性、ウイルス不活性化特性、および、皮膚への刺激性(ウサギを用いた皮膚一次刺激性)を評価した。評価結果をホタテ貝の貝殻の焼成(粉砕)粉末および水溶液の性状とともに表2〜8に示す。また、比較例1のホタテ貝の貝殻の焼成粉末中の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムの含有量を、実施例1と同様な方法で分析した。その分析結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【表9】
【0048】
表1から、実施例1のホタテ貝焼成粉末は、市販のホタテ貝焼成粉末に比べて、酸化カルシウムの含有比率が高いことが分かる。また、表2〜8から、酸化カルシウムの含有比率が20質量%以上60質量%以下の範囲に調整された実施例1のホタテ貝焼成粉末含有水溶液は、酸化カルシウムの含有比率が20質量%以上60質量%以下の範囲に調整されていない比較例1の(市販の)ホタテ貝焼成粉末含有水溶液に比べて、高い抗菌性および抗ウイルス性を発現させることできる(短時間で菌を減少させ、かつ、ウイルスを不活化させることができる)とともに、皮膚への刺激性が低いことが分かる。
【0049】
一方、表9から、ポリエチレン製袋で密封したホタテ貝焼成粉末は、5日間に亘って高湿度下にて放置した場合でも、酸化カルシウムの含有比率、水酸化カルシウムの含有比率が大きく低下しないことが分かる。これに対して、開口したポリエチレン製袋内で保存したホタテ貝焼成粉末は、同様な条件下で放置した場合に、酸化カルシウム、水酸化カルシウムの含有比率が大幅に低下することが分かる。