特許第6799420号(P6799420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6799420茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799420
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/20 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   A23F3/20
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-166033(P2016-166033)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-29567(P2018-29567A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2018年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能町 真実
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲典
(72)【発明者】
【氏名】別府 佳紀
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−535256(JP,A)
【文献】 特開2015−148031(JP,A)
【文献】 特開平06−303904(JP,A)
【文献】 特開平02−131543(JP,A)
【文献】 特開2003−219799(JP,A)
【文献】 日本農芸化学会大会講演要旨集 2004年度(平成16年度)大会,2004年 3月 5日,p. 228, 3A22a07
【文献】 水野卓 等,茶葉蛋白質の分別およびアミノ酸組成,日本食品工学会誌,日本,1965年,Vol. 12,pp. 327-331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00−5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料茶抽出物と、グルテリンを接触させることによって、茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させる工程を含み、原料茶抽出物とグルテリンを接触させる工程における、グルテリンの重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)が2〜10であることを特徴とする茶抽出物の製造方法。
【請求項2】
グルテリンが、コメ、ムギ又はチャノキ由来のグルテリンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
チャノキ由来のグルテリンが、茶殻由来のグルテリンである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
茶抽出物からグルテリンを除去する工程を含む請求項1〜のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減して、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)を低減する請求項1〜のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
原料茶抽出物と、グルテリンを接触させることによって、茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させる工程を含み、原料茶抽出物とグルテリンを接触させる工程における、グルテリンの重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)が2〜10であることを特徴とする茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法。
【請求項7】
原料茶抽出物と、グルテリンを接触させることによって、茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させる工程を含み、原料茶抽出物とグルテリンを接触させる工程における、グルテリンの重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)が2〜10であることを特徴とする茶抽出物の渋味低減方法。
【請求項8】
原料茶抽出物と、グルテリンを接触させることによって、茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させる工程を含み、原料茶抽出物とグルテリンを接触させる工程における、グルテリンの重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)が2〜10であることを特徴とする茶抽出物中のガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)を低減する方法。
【請求項9】
茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減して、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)を低減するための、グルテリンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレート型カテキン類が低減された茶抽出物の製造方法に関する。本発明はまた、容器詰め緑茶飲料に関する。本発明はさらに、茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法及び茶抽出物の渋味低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料には、カテキン類等の種々の成分が含まれている。例えば緑茶を水系溶媒で抽出した緑茶飲料には、非重合体カテキン類、カフェイン、アミノ酸類、ビタミンCなどの有用成分が含まれている。中でも、非重合体カテキン類はその抗酸化作用や抗菌作用などの様々な健康機能性が注目されている。一方、非重合体カテキン類は渋味や収斂味を呈する成分であり、渋味が強過ぎると不快感ないし嫌悪感を伴うようになる。非重合体カテキン類の中でも特にガレート型カテキン類(エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びカテキンガレート)は後口に残る渋味が強い点が課題であり、飲みやすさの観点から渋味や収斂味を一定強度以内に抑えることが望ましい。
【0003】
このような不快な渋味や収斂味を緩和させる方法はこれまでに複数提案されている。例えばコラーゲンを添加する方法(特許文献1)、カゼインを添加する方法(特許文献2)、プロタミン及び/又はその塩を添加する方法(特許文献3)、糖アルコール類を一定量添加する方法(特許文献4及び5)、キシログルカンを添加する方法(特許文献6)、サイクロデキストリンを添加する方法(特許文献7及び8)、甘蔗由来の抽出物を含有せしめる方法(特許文献9)、スクラロースを添加する方法(特許文献10)、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ルチンおよびメチルヘスペリジンの1種又は2種以上を添加する方法(特許文献11)、脱NaCl処理した海水を用いる方法(特許文献12)、タンナーゼ処理する方法(特許文献13)、活性炭を用いる方法(特許文献14)、ポリビニルピロリドンを添加してカテキン類を減少させる茶飲料の方法(特許文献15)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−18103号公報
【特許文献2】特開2005−124540号公報
【特許文献3】特開平6−153875号公報
【特許文献4】特開平7−274829号公報
【特許文献5】特開平11−253102号公報
【特許文献6】特開2005−245291号公報
【特許文献7】特開平10−4919号公報
【特許文献8】特開2005−73534号公報
【特許文献9】特開2002−34471号公報
【特許文献10】特許第3938968号
【特許文献11】特開2013−110989号公報
【特許文献12】特開2004−113253号公報
【特許文献13】特開2012−183079号公報
【特許文献14】国際公開第2011/074538号
【特許文献15】特開平9−220053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜12に記載の方法では、渋味低減のためにコラーゲン等の食品添加物を使用する。しかしながら、例えば緑茶が緑茶以外の食品添加物等を含むと、渋味低減と同時に食品添加物等由来の香味を呈し、緑茶本来の香味を損なってしまう。また、原材料表示において食品添加物等を使用している旨を明記する必要があり、緑茶等の茶の健康イメージに相応しくない。特許文献1〜12では、茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させることについて検討されていない。
特許文献13に記載のタンナーゼ処理では、没食子酸含量が増加して酸味が強くなるという欠点がある。特許文献14に記載の活性炭処理では、渋味成分以外にも多様な成分を吸着し、緑茶としての風味が損なわれるという欠点がある。特許文献15に記載の方法は、合成樹脂であるポリビニルピロリドン(PVPP)を使用することから、より安全に茶抽出液の渋味を低減する改善の余地があった。
【0006】
本発明は、ガレート型カテキン類が低減された茶抽出物の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、ガレート型カテキン類が減少した結果、渋味が低減されて飲みやすい容器詰め緑茶飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、原料茶抽出物とグルテリン及び/又はグリアジンを接触させることにより、該茶抽出物中のガレート型カテキン類が低減され、渋味が低減された茶抽出物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
本発明の茶抽出物の製造方法は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含むことを特徴とする。
原料茶抽出物と上記タンパク質を接触させることにより、該タンパク質を接触させる前と比較して、茶抽出物中のガレート型カテキン類が低減される。このため、渋味が低減された茶抽出物を得ることができる。また、ガレート型カテキンが低減されることにより、茶抽出物中のガレート型カテキン類/非ガレート型カテキン類の濃度比が低減され、例えば原料茶抽出物が緑茶抽出物であれば、緑茶本来の爽快な香味を損なうことなく、渋味が低減された緑茶抽出物を得ることができる。ガレート型カテキン類が低減される理由としては、グルテリンやグリアジンにガレート型カテキン類が吸着されるためと推測される。なお、本明細書中、各成分の濃度は重量濃度を意味する。
【0009】
また、グルテリン及びグリアジンは、通常茶抽出物に難溶性であるため、茶抽出物と接触させても茶抽出物から簡単に除去することができる。さらに、これらのタンパク質はコメ、ムギ等の可食性の植物に含まれるタンパク質であり、人体や環境に対して安全性が高く、かつガレート型カテキンに対する選択性が高い。比較例に示すようにポリビニルピロリドンもガレート型カテキン類を吸着するが、グルテリンやグリアジンの使用は、ポリビニルピロリドンのような合成樹脂を使用するより安全性に優れる点からも好ましい。このように本発明によれば、簡便な操作で、安全に、茶の香味を損なうことなく渋味を低減させることができる。
本発明の茶抽出物の製造方法は、ガレート型カテキン類が低減された茶抽出物の製造方法ともいえる。
【0010】
本発明においては、タンパク質が、グルテリンであることが好ましい。グルテリンは、ガレート型カテキン類を低減させる効果が高く、茶抽出物中のガレート型カテキン類/非ガレート型カテキン類の濃度比をより充分に低減させることができる。このため茶本来の香味を損なうことなく、渋味を低減することができる。例えば原料茶抽出物が緑茶抽出物の場合は、緑茶本来の爽快な香味を損なうことなく、渋味が低減された緑茶抽出物を得ることができる。
また、グルテリンは、コメ、ムギ又はチャノキ由来のグルテリンであることが好ましい。このようなグルテリンを使用すると、茶抽出物中のガレート型カテキン類がより低減され、茶抽出物の渋味をより低減させることができる。チャノキ由来のグルテリンは、茶殻由来のグルテリンであることが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法においては、原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程における、タンパク質の重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)が0.1〜100であることが好ましい。
上記比(P)/(C)が上記範囲であると、上記タンパク質により茶抽出物中のガレート型カテキン類をより充分に低減させることができる。
本発明の製造方法は、茶抽出物からタンパク質を除去する工程を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の容器詰め緑茶飲料は、非ガレート型カテキン類の濃度が300ppm以上であり、かつ、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)が0.001〜0.4であることを特徴とする。
本発明の容器詰め緑茶飲料は、非ガレート型カテキン類濃度が300ppm以上であり、かつ、(C1)/(C2)が上記範囲であることにより、渋味が少なく飲みやすいうえに、緑茶本来の爽快な香味を呈するものである。上述した本発明の製造方法により製造される緑茶抽出物は、このような緑茶飲料を製造するために好適に使用される。
本発明の容器詰め緑茶飲料は、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比(CF)/(C1)が1以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含むことを特徴とする。本発明の茶抽出物の渋味低減方法は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含むことを特徴とする。
本発明の方法によれば、簡便な操作で、安全に、茶の香味を損なうことなく茶抽出物中のガレート型カテキン類を低減させることができる。また、茶の香味を損なうことなく茶抽出物の渋味を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガレート型カテキン類が低減され、渋味が低減された茶抽出物を製造することができる。また、簡便な操作で、安全に、茶抽出物の香味を損なうことなく渋味を低減させることができる。本発明の製造方法により得られる緑茶抽出物は、渋味が低減されて、飲みやすい緑茶飲料の原料として有用である。本発明によれば、渋味が低減されて飲みやすい容器詰め緑茶飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、グルテリン添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。
図2図2は、グリアジン添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。
図3図3は、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中、ガレート型カテキン類とは、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート及び(−)−カテキンガレートの4種のガレート型カテキンの総称である。ガレート型カテキン類の濃度は、上記4種の合計量に基づいて定義される。
非ガレート型カテキン類とは、(−)−エピガロカテキン、(−)−ガロカテキン、(−)−エピカテキン及び(+)−カテキンの4種の非ガレート型カテキンの総称である。非ガレート型カテキン類の濃度は、上記4種の合計量に基づいて定義される。
さらに、カテキン類とは、ガレート型カテキン類及び非ガレート型カテキン類の8種を併せての総称である。カテキン類の濃度は、ガレート型カテキン類及び非ガレート型カテキン類の8種の合計量に基づいて定義される。
ガレート型カテキン類及び非ガレート型カテキン類の濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、実施例に記載の方法によって測定される。
【0017】
<茶抽出物の製造方法>
本発明の茶抽出物の製造方法は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
本発明の製造方法では、原料茶抽出物と上記のタンパク質を接触させることにより、該茶抽出物中のガレート型カテキン類が低減される。また、茶抽出物と上記タンパク質を接触させると、通常、茶抽出物中の非ガレート型カテキン類も低減されるが、非ガレート型カテキン類よりもガレート型カテキン類の低減率が大きい。このため非ガレート型カテキン類による爽快な香味は損なわれにくい。本発明によれば、茶抽出物中のガレート型カテキン類/非ガレート型カテキン類の濃度比を低減することができ、茶本来の爽快な香味を損なうことなく、渋味を低減することができる。例えば原料茶抽出物が緑茶抽出物であれば、緑茶本来の爽快な香味を損なうことなく、渋味を低減することができる。また、グルテリン及びグリアジンは、通常茶抽出液等の茶抽出物に難溶性であることから、茶抽出物と接触させても該タンパク質の香味を付与することがなく、しかも茶抽出物から簡単に除去することができる。このため、本発明によれば、簡便な操作で、茶の香味を損なうことなく渋味が低減された茶抽出物を得ることができる。また上記タンパク質は人体や環境に対して安全性が高いため、飲食品の製造に好適に使用される。
【0018】
本発明の製造方法は、原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程以外の工程を有していてもよい。例えば、原料茶抽出物を調製する工程、茶抽出物からタンパク質を除去する工程等の1又は2以上の工程を有していてもよい。
【0019】
(原料茶抽出物)
本発明において、原料茶抽出物とは、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質と接触させる茶抽出物をいう。
本発明で使用される原料茶抽出物としては、茶葉の抽出物が挙げられる。例えば、茶葉を水系溶媒で抽出することにより得られる茶抽出液をそのまま原料茶抽出物として使用することができる。抽出に使用される水系溶媒としては、水、アルコール水溶液(例えば、エタノール水溶液)等が挙げられ、好ましくは水である。抽出の際の温度は特に限定されず、適宜設定すればよい。また、茶抽出液を濃縮した濃縮物も原料茶抽出物として使用できる。茶抽出液の濃縮物とは、茶抽出液から溶媒の一部を除去し、カテキン類等の濃度を高めたものである。茶葉から抽出する代わりに、茶抽出液の濃縮物又は乾燥物を水に溶解又は希釈して原料茶抽出物として用いてもよい。さらに、茶葉からの抽出液と茶抽出液の濃縮物又は乾燥物とを併用してもよい。原料茶抽出物の形態としては、液体又はスラリー状が好ましく、より好ましくは液体である。
【0020】
原料茶抽出物の製造に使用される茶葉として、Camellia属、例えばC. sinensis、C. assamica、やぶきた種及びそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された茶葉が好ましい。製茶された茶葉として、緑茶などの不発酵茶類;烏龍茶(鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶など)などの半発酵茶;紅茶(ダージリン、アッサム、スリランカなど)などの発酵茶類が挙げられる。茶葉は1種であってもよいし、2種以上の茶葉を用いてもよい。本発明における原料茶抽出物は、いずれの茶葉由来の茶抽出物であってもよいが、緑茶、紅茶及び烏龍茶の1又は2種以上の茶葉の抽出物が好ましく、緑茶の茶葉の抽出物(緑茶抽出物)が特に好ましい。本発明で用いられる原料茶抽出物としては、緑茶抽出物が好ましい。
【0021】
原料茶抽出物の一例として、緑茶抽出物である緑茶抽出液の調製方法の一例を以下に説明する。
緑茶の茶葉としては、ツバキ科に属するチャノキ(学名:C. sinensis)の葉を原料として、収穫後に速やかに酵素失活させた後に乾燥させる工程によって製造される荒茶、仕上茶等の製茶された茶葉が好適に使用される。緑茶の茶葉として、より好ましくは仕上茶を使用する。本発明に用いることのできる茶葉は緑茶であればその品種、産地、栽培方法、茶期などは特に限定されない。
【0022】
チャノキの品種としては、例えば、やぶきた、ゆたかみどり、おくみどり、さやまかおり、かなやみどり、さえみどり、あさつゆ等が挙げられる。産地としては、例えば、京都、奈良、滋賀、静岡、鹿児島、三重、熊本、福岡、宮崎、埼玉等が挙げられる。栽培方法としては露地、かぶせ、玉露等が挙げられる。茶期としては、例えば、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶、冬春秋番茶、刈番等を挙げることができる。本発明で使用される緑茶の茶葉は、これらのいずれであってもよい。また、茶葉は1種用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。生葉の収穫(摘採)は、通常実施される態様でよく、摘採方法としては、手摘み、鋏摘み、機械摘みなどその方法には限定されず、いずれの方法でも良い。
【0023】
生葉を加工して荒茶が得られる。荒茶を得るための加工方法は特に限定されない。普通煎茶の荒茶加工工程は一般的に、蒸熱、粗揉、揉捻、中揉、精揉及び乾燥などの工程を含む。本発明においては、普通煎茶の他、深蒸し茶、釜炒り茶、玉緑茶、手揉み茶、かぶせ茶、玉露、碾茶等で行われるいずれの荒茶加工方法であってもよい。普通煎茶の製造方法から精揉を省略して中揉後に乾燥させても良い。また、碾茶に加工してもよい。すなわち、生葉を蒸した後、散茶機、碾茶炉、乾燥機を経て、碾茶の荒茶を得ることもできる。そして、碾茶の荒茶から抹茶を製造することができる。
【0024】
荒茶を加工して仕上茶が得られる。荒茶から仕上茶を得る仕上げ加工工程は一般的に、荒茶の篩い分け、大きい茶の切断、粉や木茎の分離、火入れ、合組などの工程からなるが、本発明においてはその仕上げ加工方法は特に限定されない。
緑茶の茶葉は、煎茶の他、深蒸し茶、釜炒り茶、玉緑茶、手揉み茶、かぶせ茶、玉露、碾茶等のいずれでもよい。好ましくは煎茶及び碾茶である。
【0025】
緑茶の茶葉を水系溶媒で抽出する際の抽出方法及び抽出条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができる。例えば抽出温度は、5〜95℃が好ましい。水系溶媒は、例えば、緑茶の茶葉に対して重量で5〜200倍使用することが好ましい。緑茶抽出液の調製においては、抽出により得られる緑茶抽出液から抽出残渣である茶殻を取り除く工程を行うことが好ましい。本発明で使用される緑茶抽出液等の原料茶抽出物としては、茶殻が取り除かれた茶抽出物が好ましい。茶殻を取り除く方法は特に限定されず、濾過等の方法が挙げられる。
このようにして得られた緑茶抽出液は、そのままでも、濃縮等しても本発明における原料茶抽出物として使用できる。所望により、緑茶抽出液を冷却する工程、緑茶抽出液から細かな固形分を取り除く工程(例えば、濾過、遠心分離等)、緑茶抽出液に水や緑茶抽出物、酸化防止剤、pH調整剤等を添加する工程、緑茶抽出液を濃縮する工程、緑茶抽出液を殺菌する工程等の1又は2以上の工程を行ってもよい。ただし、これらの工程はあくまで一例であり、これに限定するものではなく、例えば、工程の順序も特に限定されない。また、さらに別工程を行ってもよい。
【0026】
上記では、原料茶抽出物として緑茶抽出物を調製する場合を例に挙げて説明したが、原料茶抽出物を調製する際の抽出の条件等は特に限定されず、茶葉に応じて適宜設定することができる。例えば、上記の緑茶抽出液の製造方法において、茶葉として紅茶の茶葉を用いると紅茶抽出液を、烏龍茶の茶葉を用いると烏龍茶抽出液を得ることができる。
【0027】
原料茶抽出物のpHは、5〜7が好ましい。また、原料茶抽出物のBrixは、0.05〜2%が好ましい。Brixは濃度計(例えば、デジタル示差濃度計、型式DD−7、ATAGO社製等)にて測定することができる。Brixは、20℃で測定した値を使用する。
タンパク質としてグリアジンを使用する場合には、原料茶抽出物のアルコール濃度は50%以下が好ましい。
【0028】
(タンパク質)
本発明で使用されるタンパク質は、グルテリン及び/又はグリアジンである。タンパク質は、1種用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
グルテリンは、コメ、ムギ(例えば、コムギ、オオムギ)、チャノキ等に含まれるタンパク質であり、グリアジンは、コムギ、オオムギ等に含まれるタンパク質である。グルテリンは通常、希酸又は希アルカリには可溶性であり、水及びアルコールには難溶性である。グリアジンは、通常、80%アルコールに可溶性であり、水には難溶性である。
グルテリン及びグリアジンは特に限定されず、いずれの植物由来のものも使用することができる。
【0029】
本発明におけるタンパク質としては、ガレート型カテキン類の低減効果が高いことから、グルテリンが好ましい。グルテリンを使用すると、非ガレート型カテキン類よりもガレート型カテキン類の低減率をより大きくすることができる。このため茶抽出物中のガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)をより充分に低減することができ、例えば比(C1)/(C2)が0.4以下(好ましくは0.3以下)の茶抽出物を得ることができる。
グルテリンは、コメ、ムギ又はチャノキ由来のグルテリンが好ましく、コメ又はムギ(ムギは、好ましくはコムギ)由来のグルテリンがより好ましく、コメ由来のグルテリンがさらに好ましい。チャノキ由来のグルテリンとしては、茶殻由来のグルテリンがより好ましい。
【0030】
グルテリン及びグリアジンは、公知の方法により製造することができる。グルテリンは、例えば、秋田らのhakkokogaku kaishi 62(6), 407-413に記載の方法によって製造することができる。グリアジンは、例えば、相原らの京都大学食糧科学研究所報告 (50), p46-49に記載の方法によって製造することができる。グルテリン及びグリアジンは市販されており、市販品を使用することもできる。本発明で使用可能な市販品の一例として、例えば、和光純薬工業(株)製のコメ由来のグルテリン、MP Biomedicals, Inc.社製のコムギ由来のグリアジン等が挙げられる。
【0031】
(原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程)
原料茶抽出物とタンパク質を接触させる方法は特に限定されず、例えば、容器中で原料茶抽出物にタンパク質を浸漬させる方法、樹脂等の担体に固定化したタンパク質をカラム等に充填して原料茶抽出物を通液させる方法等が挙げられる。中でも、容器中で原料茶抽出物にタンパク質を浸漬させる方法が好ましい。タンパク質を浸漬させた原料茶抽出物は、撹拌してもよい。原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程は、1回行えばよいが、2回以上行ってもよい。
【0032】
タンパク質と接触させる原料茶抽出物の温度は、0〜50℃が好ましい。原料茶抽出物の温度が上記温度範囲であると、タンパク質の熱変性を防ぐことができるため好ましい。タンパク質と接触させる原料茶抽出物の温度は、より好ましくは0〜40℃である。
【0033】
原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程の時間は特に限定されないが、例えば、1〜180分が好ましい。原料茶抽出物とタンパク質を1〜180分接触させると、該茶抽出物中のガレート型カテキン類をより低減させることができる。ガレート型カテキン類をより充分に低減できることから、原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程の時間は、5分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましい。上記工程の時間は、例えば、5〜150分がさらにより好ましく、15〜120分が特に好ましい。
【0034】
原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程では、例えば、該茶抽出物の重量に対してタンパク質を0.01〜10重量%使用することが好ましく、0.1〜1重量%使用することがより好ましい。タンパク質を上記量使用すると、茶抽出物中のガレート型カテキン類をより充分に低減できる。このため、茶抽出物中のガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)をより充分に低減することができる。
【0035】
原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程における、タンパク質の重量(P)と、原料茶抽出物中のカテキン類の重量(C)との比(P)/(C)は、0.1〜100が好ましい。(P)/(C)の比が上記範囲であると、茶抽出物中のガレート型カテキン類をより充分に低減させることができる。
上記重量の比(P)/(C)は、原料茶抽出物とタンパク質を接触させる開始時点で上記範囲であればよい。上記比(P)/(C)は、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20であり、特に好ましくは2〜10である。
【0036】
原料茶抽出物とタンパク質を所定時間接触させた後は、茶抽出物からタンパク質を除去することが好ましい。本発明の製造方法においては、原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程の後、茶抽出物からタンパク質を除去する工程を行うことが好ましい。本発明の製造方法は、茶抽出物からタンパク質を除去する工程を含むことが好ましい。タンパク質の除去方法は特に限定されず、濾過、遠心分離等の公知の方法を採用することができる。
【0037】
本発明の製造方法の実施態様の一例として、原料緑茶抽出物と上記タンパク質を接触させる工程を含む緑茶抽出物の製造方法;原料烏龍茶抽出物と上記タンパク質を接触させる工程を含む烏龍茶抽出物の製造方法;原料紅茶抽出物と上記タンパク質を接触させる工程を含む紅茶抽出物の製造方法等が挙げられる。中でも、本発明の特に好ましい実施態様として、原料緑茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質と接触させる工程を含む緑茶抽出物の製造方法が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法により製造される茶抽出物は、タンパク質と接触させる前(原料茶抽出物)と比較してガレート型カテキン類が低減されている。このため本発明の製造方法により得られる茶抽出物は、原料茶抽出物と比較して、渋味が低減されている。また、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)が低減されている。得られる茶抽出物には、所望によりL−アスコルビン酸又はその塩等の酸化防止剤、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を添加してもよい。また、茶抽出物から溶媒の一部を除去して濃縮することもできる。濃縮方法は特に限定されず、常圧濃縮、減圧濃縮、膜濃縮等を挙げることができる。茶抽出物又はこれを濃縮した濃縮物を水等で希釈することにより、茶飲料とすることができる。さらに、茶抽出物を乾燥させて乾燥物(粉末)として用いることもできる。
【0039】
本発明の製造方法により製造される茶抽出物の好ましい態様の一例として、例えば、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)が0.001〜0.4である緑茶抽出物が挙げられる。このような緑茶抽出物は、渋味が少ないことから、渋味が少なく飲みやすい緑茶飲料の原料に好適に使用される。このような緑茶抽出物は、例えば、本発明の製造方法においてタンパク質としてグルテリンを使用して製造することができる。本発明の緑茶抽出物の製造方法により製造される緑茶抽出物を含む緑茶飲料は、渋味が少なく飲みやすいものである。このような緑茶飲料も、本発明の1つである。
本発明により製造される緑茶抽出物における上記濃度の比(C1)/(C2)は、より好ましくは0.005〜0.35、さらに好ましくは0.01〜0.3、特に好ましくは0.01〜0.15である。
【0040】
本発明においては、茶抽出物中のガレート型カテキン類が低減されることにより、クリームダウンが起こりにくい茶抽出物を製造することができる。クリームダウンは、茶抽出物や茶飲料を冷却時に白濁(クリーム)を生じる現象であり、ガレート型カテキン類がカフェインと複合体を形成することにより引き起こされる(石井剛志、東洋食品研究所 研究報告書,29,183-189(2013))。ガレート型カテキン類が低減することにより、茶抽出物及び該茶抽出物を含む茶飲料におけるクリームダウンの発生を抑制することができる。
【0041】
原料茶抽出物と上記タンパク質を接触させると上述したようにガレート型カテキン類が低減されるが、カフェインはあまり低減されない。このため本発明により製造される茶抽出物では、通常、原料茶抽出物と比較して、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比(CF)/(C1)が増加する。
例えば、本発明により製造される緑茶抽出物は、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比(CF)/(C1)が1以上であることが好ましい。上記比(CF)/(C1)が1以上であると、緑茶抽出物の香味が良好であり、嗜好性を確保しつつ渋味を低く抑えることができるため好ましい。また、緑茶抽出物において、クリームダウンが起こりにくいため好ましい。緑茶抽出物の上記比(CF)/(C1)は、1〜20がより好ましく、1.2〜18がさらに好ましく、1.4〜17が特に好ましい。
カフェイン濃度は、HPLCを用いて、実施例に記載の方法によって測定される。
また、本発明により製造される緑茶抽出物は、非ガレート型カテキン類濃度が300〜1000ppm(より好ましくは300〜500ppm)が好ましい。このような緑茶抽出物は、飲みやすく、そのまま緑茶飲料とすることができるため好ましい。
【0042】
本発明の製造方法により得られる茶抽出物又はその濃縮物若しくは乾燥物は、茶飲料の原料として好適であるが、茶飲料以外の飲食品(例えば、アルコール飲料、加工食品)の原料としても好適に使用することができる。特に、本発明の製造方法により原料緑茶抽出物と茶殻を接触させて得られる緑茶抽出物又はその濃縮物若しくは乾燥物は、緑茶飲料の原料として好適である。
【0043】
本発明の製造方法により製造される茶抽出物又はその濃縮物若しくは乾燥物を含む茶飲料等の飲食品も、本発明に包含される。好ましい態様として、本発明の製造方法により製造される緑茶抽出物、烏龍茶抽出物、紅茶抽出物等の茶抽出物を含む緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料等の茶飲料等が挙げられる。このような茶飲料を製造する方法は特に限定されない。例えば、本発明の製造方法により製造される茶抽出物をそのまま又は所望により水等で希釈して茶飲料とすることができる。また、本発明の製造方法により得られた茶抽出物と、別の茶抽出液とを混合して茶飲料を製造することもできる。さらに、本発明の製造方法により得られた茶抽出物の濃縮物又は乾燥物を水等で希釈することにより、茶飲料とすることもできる。なお、茶抽出物が、その製造に使用したタンパク質(グルテリン及び/又はグリアジン)を含む場合は、茶飲料から該タンパク質を除去することが好ましい。本発明の茶抽出物を含む茶飲料は、渋味が少なく飲みやすいものである。茶飲料の形態は特に限定されないが、容器詰めの茶飲料とすることが好ましい。容器詰め茶飲料は、茶飲料を用いて常法により製造することができる。
【0044】
茶飲料を充填する容器としては特に限定されず、金属製容器、樹脂製容器、紙容器、ガラス製容器等の通常用いられる容器のいずれも用いることができる。具体例を挙げると、アルミ缶、スチール缶等の金属容器;PETボトル等の樹脂製容器;紙パック等の紙容器;ガラス瓶等のガラス容器等が挙げられる。
【0045】
(緑茶飲料)
非ガレート型カテキン類の含量が300ppm以上であり、かつ、ガレート型カテキン類濃度(C1)と、非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比(C1)/(C2)が0.001〜0.4である緑茶飲料も、本発明に包含される。
本発明の緑茶飲料の形態は特に限定されないが、容器詰めの緑茶飲料とすることが好ましい。非ガレート型カテキン類の含量が300ppm以上であり、かつ、上記濃度の比(C1)/(C2)が0.001〜0.4である容器詰め緑茶飲料も、本発明の1つである。
このような緑茶飲料は、非ガレート型カテキン類を300ppm以上含み、かつ上記濃度の比(C1)/(C2)が低いことから、緑茶本来の爽快な香味を有し、しかも渋味が少なく飲みやすいものである。
【0046】
緑茶飲料の非ガレート型カテキン類含量は、350ppm以上が好ましく、400ppm以上がより好ましい。また、緑茶飲料の香味の観点から、非ガレート型カテキン類含量は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましい。
緑茶飲料中の上記濃度の比(C1)/(C2)は、飲みやすさの観点から、好ましくは0.005〜0.35であり、より好ましくは0.01〜0.3であり、さらに好ましくは0.01〜0.15である。
【0047】
緑茶飲料は、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比(CF)/(C1)が1以上が好ましい。上記濃度の比(CF)/(C1)が1以上であると、緑茶飲料が、嗜好性を確保しつつ渋味を低く抑えることができるため好ましい。また、緑茶飲料の冷却時にクリームダウンが起こりにくいため好ましい。カフェインに対するガレート型カテキン類の比率が低いとクリームダウンがより起こりにくいことから、上記比(CF)/(C1)は1〜20がより好ましく、1.2〜18がさらに好ましく、1.4〜17が特に好ましい。
【0048】
緑茶飲料の製造方法は特に限定されず、本発明の製造方法により製造される緑茶抽出物をそのまま又は所望により水等で希釈して緑茶飲料とすることができる。また、本発明の製造方法により得られた緑茶抽出物と、別の緑茶抽出液とを混合して緑茶飲料を製造することもできる。さらに、本発明の製造方法により得られた緑茶抽出物の濃縮物又は乾燥物を水等で希釈することにより、緑茶飲料とすることもできる。なお、緑茶抽出物が、その製造に使用したタンパク質(グルテリン及び/又はグリアジン)を含む場合は、緑茶飲料から該タンパク質を除去することが好ましい。
本発明の緑茶飲料は、渋味が少なく飲みやすいものである。
【0049】
本発明の製造方法により得られる緑茶抽出物を含む緑茶飲料を得る際には、例えば、該緑茶抽出物を冷却する冷却工程、該抽出物から細かな固形分を取り除く濾過工程、該抽出物に水や緑茶抽出物、酸化防止剤(例えば、L−アスコルビン酸又はその塩)、pH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム)などを加えて緑茶飲料調合液を得る調合工程、緑茶飲料調合液を殺菌する殺菌工程等の1又は2以上の工程を行ってもよい。ただし、これらの工程はあくまでも一例であり、これに限定するものではなく、例えば、工程の順序を入れ替えたり、さらに別工程を付加したりすることもできる。
【0050】
緑茶飲料には、酸化防止剤を配合することが好ましい。また、pH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム)を配合することも好ましい。緑茶飲料中の酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、例えば、L−アスコルビン酸又はその塩を使用する場合は、L−アスコルビン酸として0.01〜0.08重量%が好ましく、より好ましくは、0.02〜0.06重量%である。pH調整剤の配合量は、緑茶飲料のpHが5〜7程度になるように配合量を調整するのが好ましい。
緑茶飲料のBrixは、0.05〜2%が好ましい。
【0051】
容器詰め緑茶飲料は、緑茶飲料を用いて常法により製造することができる。容器詰め緑茶飲料とする場合、緑茶飲料を容器に充填する前又は充填後に殺菌すると、長期保存が可能となるため好ましい。殺菌の方法及び条件は、緑茶飲料の殺菌に通常使用される方法や条件を適宜選択すればよい。緑茶飲料を充填する容器としては特に限定されず、上述した容器のいずれも用いることができる。
【0052】
(ガレート型カテキン類の低減方法及び茶抽出物の渋味低減方法)
本発明は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含む、茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法も包含する。本発明の方法は、緑茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法として特に好適である。本発明は、原料茶抽出物と、グルテリン及びグリアジンからなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質を接触させる工程を含む、茶抽出物の渋味低減方法も包含する。本発明の方法は、緑茶抽出物の渋味低減方法として特に好適である。
原料茶抽出物とタンパク質を接触させる工程及びその好ましい態様は、上述した渋味が低減された茶抽出物の製造方法における工程及びその好ましい態様と同じである。原料茶抽出物、グルテリン及びグリアジンについても、上述したものと同じである。本発明の茶抽出物中のガレート型カテキン類の低減方法及び茶抽出物の渋味低減方法は、原料茶抽出物を調製する工程、茶抽出物からタンパク質を除去する工程等の1又は2以上の工程を有していてもよい。ガレート型カテキン類が低減することにより、茶抽出物においてクリームダウンの発生を抑制することもできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
<カテキン類及びカフェインの分析方法>
緑茶抽出液に含まれるカテキン類及びカフェインの分析は、HPLC(高速液体クロマトグラフ)法により、以下の方法で行った。ガレート型カテキン類、非ガレート型カテキン類及びカフェインは、検量線法で測定した。
緑茶抽出液は、希釈することなくそのまま試料として分析した。
【0055】
HPLC測定条件
分析には、高速液体クロマトグラフ分析装置(システムコントローラ(CBM−20A)、PDA検出器(SPD−M20Avp)、ポンプ(LC−30AD)、デガッサー(DGU−20A5R)、カラムオーブン(CTO−20AC)、オートサンプラー(SIL−30AC)、すべて(株)島津製作所製)を使用した。
【0056】
・カラム:TSK-gel ODS-80Ts QA (4.6mmI.D.×150nm)、東ソー社製
・カラム温度:40℃
・移動相:
A液:0.1%ギ酸水溶液
B液:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
・グラジエント条件(体積%)
0min B液5%、19min B液20%、20min B液63%、25min B液63%、26min B液5%、36min B液5%
・流量:1.0mL/min
・試料注入量:10μL
・測定波長:280nm
・標準物質:(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−カテキンガレート、(−)−エピガロカテキン、(−)−ガロカテキン、(−)−エピカテキン及び(+)−カテキン並びにカフェイン(いずれもナカライテスク社製)
ガレート型カテキン類の量は、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート及び(−)−カテキンガレートの合計とした。
非ガレート型カテキン類の量は、(−)−エピガロカテキン、(−)−ガロカテキン、(−)−エピカテキン及び(+)−カテキンの合計とした。
【0057】
<調製例1>
煎茶茶葉(日本茶販売株式会社製)10gに90℃に熱したイオン交換水1000gを加え、5分間温度を一定に保った後、500メッシュのふるいを通過させ、その抽出液を回収した。この液を室温まで冷却した後、清澄液を100mLずつ取り分け、試験用の緑茶抽出液(原料緑茶抽出液)とした。
【0058】
<実施例1>
試験用の緑茶抽出液に対し、コメ由来のグルテリン(山田錦由来、和光純薬工業株式会社製)を0.15重量%、0.3重量%又は0.6重量%加え、30分後の緑茶抽出液の上澄みを採取し、抽出液1−1〜1−3(タンパク質処理緑茶抽出液)とした。抽出液1−1〜1−3について、HPLCにて各成分(ガレート型カテキン類、非ガレート型カテキン類及びカフェイン)を定量した。
【0059】
抽出液1−1〜1−3の各成分の分析結果を表1に示す。表1には、各抽出液中のガレート型カテキン類濃度(C1)と非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比((C1)/(C2))、及び、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比((CF)/(C1))も示す。
【0060】
表1には、各成分の変化率(%)、及び、非ガレート型カテキン類の変化率とガレート型カテキン類の変化率との比(非ガレート型カテキン類の変化率/ガレート型カテキン類の変化率)も示す。
各成分の変化率(%)は、グルテリンを添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)中の各成分の量(A0(ppm))に対する変化率(%)である。実施例及び比較例中、各成分の変化率(%)は、各抽出液中の各成分の量(A1(ppm))及びタンパク質(又はPVPP)を添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)中の各成分の量(A0(ppm))から、下記式により求めた。
変化率(%)=100×(A1−A0)/A0
【0061】
図1は、グルテリン添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。
表1及び図1中のグルテリン添加量が0重量%は、グルテリンを添加する前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)である。
【0062】
【表1】
【0063】
グルテリンの添加により、緑茶抽出液中のガレート型カテキン類濃度を低減させることができた。非ガレート型カテキン類濃度も低減されたが、その低減率はガレート型カテキン類と比較して小さかった。このため、グルテリン添加により、緑茶抽出液のガレート型カテキン類濃度(C1)と非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比((C1)/(C2))が減少した。グルテリンはガレート型カテキン類を選択的に吸着して、その濃度を低下させると考えられた。グルテリンの添加によりカフェイン量の変化は小さかった。グルテリン添加により、緑茶抽出液のカフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比((CF)/(C1))が増加し、1以上となった。抽出液1−1〜1−3は、いずれもグルテリン添加前(試験用の緑茶抽出液)と比較して渋味が少なく飲みやすかった。一方、抽出液1−1〜1−3において、緑茶抽出液の爽快な香味は維持されていた。
【0064】
<実施例2>
試験用の緑茶抽出液に対し、コムギ由来のグリアジン(MP Biomedicals, Inc.社製)を0.15重量%、0.3重量%又は0.6重量%加え、30分後の緑茶抽出液の上澄みを採取し、抽出液2−1〜2−3とした。各抽出液について、HPLCにて各成分(ガレート型カテキン類、非ガレート型カテキン類及びカフェイン)を定量した。
【0065】
表2に、グリアジン添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)中のガレート型カテキン類濃度(C1)と非ガレート型カテキン類濃度(C2)の比(C1)/(C2)に対する、各抽出液中の(C1)/(C2)の比(添加前に対する(C1)/(C2)の比)を示す。表2には、グリアジン添加前の緑茶抽出液中のカフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)の比(CF)/(C1)に対する、各抽出液中の(CF)/(C1)の比(添加前に対する(CF)/(C1)の比)も示す。
表2に、各成分の変化率(%)、及び、非ガレート型カテキン類の変化率とガレート型カテキン類の変化率との比(非ガレート型カテキン類の変化率/ガレート型カテキン類の変化率)も示す。
各成分の変化率(%)は、グリアジン添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)中の各成分の量(A0(ppm))に対する変化率(%)である。
【0066】
図2は、グリアジンの添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。表2及び図2中、グリアジン添加量が0重量%は、グリアジン添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)である。
【0067】
【表2】
【0068】
<比較例1>
試験用の緑茶抽出液に対し、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)(商品名 ダイバガンF、BASF社製)を0.03重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.2重量%又は0.3重量%加え、30分後の緑茶抽出液の上澄みを採取し、比較抽出液1−1〜1−5とした。比較抽出液1−1〜1−5について、HPLCにて各成分(ガレート型カテキン類、非ガレート型カテキン類及びカフェイン)を定量した。
【0069】
比較抽出液1−1〜1−5の各成分の分析結果を表3に示す。表3には、各抽出液中のガレート型カテキン類濃度(C1)と非ガレート型カテキン類濃度(C2)との比((C1)/(C2))、及び、カフェイン濃度(CF)とガレート型カテキン類濃度(C1)との比((CF)/(C1))も示す。
【0070】
表3には、各成分の変化率(%)、及び、非ガレート型カテキン類の変化率とガレート型カテキン類の変化率との比(非ガレート型カテキン類の変化率/ガレート型カテキン類の変化率)も示す。
各成分の変化率(%)は、PVPP添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)中の各成分の量(A0(ppm))に対する変化率(%)である
【0071】
図3は、PVPPの添加による緑茶抽出液中の各成分の変化率(%)を示すグラフである。
表3及び図3中、PVPP添加量が0重量%は、PVPP添加前の緑茶抽出液(試験用の緑茶抽出液)である。
【0072】
【表3】
【0073】
ガレート型カテキン類の変化率と非ガレート型カテキン類の変化率との比(非ガレート型カテキン類の変化率/ガレート型カテキン類の変化率)は、グルテリンを添加した実施例1では0.24以下であり、グリアジンを添加した実施例2では0.53以下であるが、PVPPを添加した比較例1では、0.70〜0.80であった。グルテリン及びグリアジンの方が、PVPPよりもガレート型カテキン類を低減させる選択性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、安全かつ選択性に優れたグルテリンやグリアジンを用いることで、茶本来の香味を損なうことなく茶抽出物や茶飲料の渋味を低減することができる。
図1
図2
図3