【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について
図1〜
図7を参照して説明する。なお本実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0035】
工業電気めっきとして、ねじへの大量生産が確立されているニッケルめっきと亜鉛めっきとがあるが、ニッケルめっきはその被膜硬度が比較的高いめっきとして知られており、また、亜鉛めっきは、潤滑性および低摩擦性の高い被膜を得られるめっきとして知られている。
【0036】
<比較例1〜3>
まず本発明の実施例に含まれない比較例として、光輝焼入(真空窒化)したSUS410製ねじである比較例1に加え、上述した2種類のめっきを光輝焼入したSUS410製ねじにそれぞれ被覆した比較例2(ニッケルめっき)及び比較例3(亜鉛めっき)として設定し、SUS304製のステンレス板(焼入れ無し)に対してセルフタップが可能にならないか検討した。
【0037】
<実施例1〜3>
そして本実施例では、潤滑性および低摩擦性を示す亜鉛めっきと高い被膜硬度特性を有するニッケルめっきを合わせた「亜鉛ニッケル合金めっき」を塗布して、同様にセルフタップ実験を実施した。
【0038】
その際、ニッケル含有量は、下記の三種類であり、下記ニッケル量を除いた被膜の成分は、全て亜鉛成分である。
実施例1:ニッケル量大 15〜18wt.%:中央ニッケル量 16.5wt.%
実施例2:ニッケル量中 12〜16wt.%:中央ニッケル量 14wt.%
実施例3:ニッケル量小 10〜14wt.%:中央ニッケル量 12wt.%
【0039】
<試験方法>
上記比較例1〜3、実施例1〜3ともに、ねじ本体として光輝焼入(真空窒化)を施したSUS410製のねじ(φ4×10mm)を用いた。そして相手材としてはねじ本体に用いたSUS410よりも硬度が高いSUS304製、厚さ2mm(実測値1.87mm)のステンレス板を用いた。当該ステンレス板に対し下穴としてφ3.6mm(実測値φ3.59〜3.60mm)のパンチ穴を施した部分に上記比較例1〜3、実施例1〜3に係るタッピンねじを締結した。当該試験では、試験機としてAX100(日東精工(株)製ACサーボモータ搭載のねじ締めドライバ)を用い、回転数100rpm、推力196N(20Kgf)にてタッピンねじの締結試験を行った。当該試験に際し、ねじ込み(最大)トルク(TS)、ナノインデンテーション硬さ(HIT)及び、ねじ山の破損度合い並びに被膜の破損度合いを調査した。
【0040】
<試験結果>
図1では、今回用いるねじ本体と相手材の硬度をビッカース硬さ(Hv)により表している。
図2では、
図1のねじ本体および相手材、実施例1〜3における亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をナノインデンテーション硬さ(HIT)により表している。
【0041】
ここで
図3においては敢えて実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)により便宜上図示している。具体的に説明すると、ねじ本体に被膜されためっきの硬度測定は、その被膜厚さが薄いため、ビッカース硬さ(Hv)を測定できないことから、ナノインデンテーション硬さ(HIT)を採用しなければならない。そこで本明細書では説明の便宜上、ねじ本体と亜鉛ニッケル合金めっきとの相対的なナノインデンテーション硬さ(HIT)の値に基づき、敢えて実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)に換算し直して図示している。詳細には、
図2における実施例1と、表面からの距離が
0.5mmであるねじ本体のナノインデンテーション硬さ(HIT)の値が略同じである点から、実施例1〜3に係る亜鉛ニッケル合金めっきの硬度をビッカース硬さ(Hv)に換算し、
図3において図示している。
【0042】
図4では、実施例1〜3に加え、比較例1〜3に関しての、ねじ込み(最大)トルク(TS)、ナノインデンテーション硬さ(HIT)の数値を示している。このようにこれら実施例1〜3では、ねじ本体の心部の硬度がビッカース硬さHV350〜HV500であるとともに硬化層の硬度がビッカース硬さHV500〜HV650であり、亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がビッカース硬さHV300〜HV500であること、並びに、亜鉛ニッケル合金めっきの硬度がナノインデンテーション硬さ(HIT)5000〜7000N/mm
2であること、という条件を共に満たしている。
【0043】
加えて
図5では、上記実施形態1〜3、比較例1、2に加え、亜鉛めっきを処理した比較例1〜3におけるねじのねじ込み最大トルクの値をそれぞれ示したものである。同図によるとねじ込み最大トルク(TS)は、めっきを何ら施していない未処理品である比較例1の4.1Nmに対し、比較例3では2.2Nmまで低下し、潤滑性および低摩擦性を有することを示した。しかしながら、セルフタップ後のねじ山を元素分析すると、比較例3では被膜が完全に剥離していることが判った。
【0044】
また、ニッケルめっきを施した比較例2は、ねじ込み最大トルク(TS)が比較例3とは逆に、未処理品の4.1Nmに対し、4.4Nmと若干高くなった。セルフタップ後のねじ山を同様に分析すると、亜鉛めっきほどではないが、部分的に被膜が大きく剥がれていた。すなわち被膜が剥がれると、「ねじ山つぶれ」が発生しやすくなるため、なるべく剥がれない方が良いことが明らかとなった。
【0045】
そしてなんらめっきを施していない比較例1ではねじ山が破損される、換言すればセルフタップが有効に実現されていないという結果となった。
【0046】
続いて、実施例1〜3について説明する。まず、中央ニッケル量が約15wt.%以下の実施例2と実施例3では、被膜の剥離量は、ニッケルめっきを施した比較例2と同様に部分的であるが大きく剥がれた。しかし、ニッケル量大の実施例1であれば、ねじ込みトルクが最も低い値を示し、剥離量が最も少ない結果を得た。
【0047】
図6では実施例1〜3、比較例2、3におけるねじ込み(最大)トルク(TS)及び
ナノインデンテーション硬さ(HIT)の関係を示している。
図7は同図において特に実施例1〜3に着目し、要部を図示している。ねじ込みトルクは、ニッケル含有量が多くなるにつれて、低下する傾向を示した。これは、ニッケルが多くなることによって被膜硬度が高くなることから、被膜自体の強度が上がることによって、相手材との摩擦によって引き起こされる被膜剥離を抑制したと思われる。ニッケル量が18wt.%を超えると、被膜の耐食性が低下することが既に分かっている。従って、亜鉛ニッケル合金めっきの適正ニッケル量は、耐食性とねじ込み性を両立した、15〜18wt.%である実施例1が最も良いということが判明した。