特許第6799428号(P6799428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799428
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】紙の製造方法および歩留り向上剤キット
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/44 20060101AFI20201207BHJP
   D21H 17/42 20060101ALI20201207BHJP
   D21H 21/10 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   D21H17/44
   D21H17/42
   D21H21/10
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-188974(P2016-188974)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-66581(P2017-66581A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-197225(P2015-197225)
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】但木 孝一
(72)【発明者】
【氏名】春日 一孝
(72)【発明者】
【氏名】大石 浩之
(72)【発明者】
【氏名】望月 裕太
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077546(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/053349(WO,A1)
【文献】 特表2009−522456(JP,A)
【文献】 特表2010−523835(JP,A)
【文献】 特表2002−523644(JP,A)
【文献】 特開2013−166691(JP,A)
【文献】 特開2002−339291(JP,A)
【文献】 特開2009−209490(JP,A)
【文献】 特開2008−248398(JP,A)
【文献】 特開2014−070289(JP,A)
【文献】 特開2010−236125(JP,A)
【文献】 紙パルプ製造技術シリーズ5 紙料の調成,紙パルプ技術協会,1992年 4月 1日,117〜118頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ含有水性スラリーにカチオン性高分子化合物を添加した後、アニオン性高分子化合物を添加して抄紙する紙の製造方法であって、
前記カチオン性高分子化合物が1000万以下の粘度平均分子量を有し、
前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有することを特徴とする紙の製造方法。
【請求項2】
前記カチオン性高分子化合物が0.4〜12.0meq/gのカチオン電荷密度を有する請求項記載の紙の製造方法。
【請求項3】
カチオン性高分子化合物を含有する第一添加剤およびアニオン性高分子化合物を含有する第二添加剤を含む歩留り向上剤キットであって、
前記カチオン性高分子化合物が1000万以下の粘度平均分子量を有し、
前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有し、
前記第一添加剤を添加した後、第二添加剤を添加して用いることを特徴とする歩留り向上剤キット。
【請求項4】
前記カチオン性高分子化合物が0.4〜12.0meq/gのカチオン電荷密度を有する請求項記載の歩留り向上剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙の製造方法および歩留り向上剤キットに関し、詳しくは、得られる紙の地合い物性を損なうことなく、パルプ成分への製紙用添加助剤の定着性を向上させ、前記製紙用添加助剤の添加量を低減することが可能な紙の製造方法および歩留り向上剤キットに関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造においては、抄紙機の高速化に伴い、生産性や操業性を向上し、得られる紙の白色度、不透明度、印刷適性、強度等を改善するために、歩留り剤、濾水向上剤、紙力剤、サイズ剤等の製紙用添加助剤や填料が用いられている。
【0003】
例えば、紙の地合いを損なうことなく、歩留りの向上、濾水性、搾水性の改善および生産性の向上を図るために、抄紙工程において、一段目としてカチオン性あるいは両性のアクリルアミド系共重合体からなる歩留り向上剤を添加し、二段目として前記歩留り向上剤より分子量の低い水溶性重合体を添加する紙の製造方法(特許文献1)が提案されている。この方法では、パルプ成分の凝集体(以下、「フロック」という)を作り出し、このフロックの凝集性を高めることはできるが、スクリーン通過後、シェアがかけられた際にフロックが細かくなり過ぎ、不均一な形状となり、結果として歩留りが不十分で地合いを損ねることがあったり、パルプ成分への製紙用添加助剤の定着性が乏しくなる問題があった。
【0004】
近年では、地球の温暖化、資源の有効利用等の環境問題から、古紙や填料の高配合化がさらに高まってきているため、製紙用添加助剤の効果が発揮されにくくなり、それに伴い、各添加量が増加傾向に見られ、ピッチの処理が不十分でマシン汚れによる紙面欠陥の要因となっている。そのため、地合いや歩留り物性の向上のみならず、製紙用添加助剤のパルプ成分への定着性が重要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−280925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先に、本発明者らは、超高分子量で低電荷密度のカチオン性またはアニオン性の高分子化合物を含有する歩留り剤を、パルプ含有水性スラリーに添加することにより、製紙工程における操業性や紙の地合い物性を損なうことなく、古紙や填料が高含有で、かつ均一に分散された紙を製造することができることを見出した。しかしながら、系内の電荷状態や各種パルプや白水(紙の製造工程にて循環使用される水)中に含まれるアニオントラッシュや夾雑物は全ての系においては共通ではなく、製紙用添加助剤、特に紙力剤とサイズ剤のパルプ成分への定着性において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、得られる紙の地合い物性を損なうことなく、パルプ成分への製紙用添加助剤の定着性を向上させ、前記製紙用添加助剤の添加量を低減することが可能な紙の製造方法および歩留り向上剤キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するためにさらに鋭意研究を重ねた結果、先にカチオン性高分子化合物を添加した後、3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有するアニオン性高分子化合物を添加することにより、パルプ成分への製紙用添加助剤成分の定着性が向上し、前記製紙用添加助剤の添加量を低減することが可能であって、地合い物性を低下させずに高い品質で抄紙することが可能であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の紙の製造方法は、パルプ含有水性スラリーにカチオン性高分子化合物を添加した後、アニオン性高分子化合物を添加して抄紙する紙の製造方法であって、前記カチオン性高分子化合物が1000万以下の粘度平均分子量を有し、前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の紙の製造方法においては、前記カチオン性高分子化合物が0.4〜12.0meq/gのカチオン電荷密度を有することが好ましい。
【0011】
本発明の歩留り向上剤キットは、カチオン性高分子化合物を含有する第一添加剤およびアニオン性高分子化合物を含有する第二添加剤を含む歩留り向上剤キットであって、前記カチオン性高分子化合物が1000万以下の粘度平均分子量を有し、前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有し、前記第一添加剤を添加した後、第二添加剤を添加して用いることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の歩留り向上剤キットにおいては、前記カチオン性高分子化合物が0.4〜12.0meq/gのカチオン電荷密度を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、得られる紙の地合い物性を損なうことなく、パルプ成分への製紙用添加助剤の定着性を向上させ、前記製紙用添加助剤の添加量を低減することが可能な紙の製造方法および歩留り向上剤キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明の紙の製造方法について説明する。本発明は、パルプ含有水性スラリーにカチオン性高分子化合物を添加した後、アニオン性高分子化合物を添加して抄紙する紙の製造方法であって、前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有する紙の製造方法に係るものである。
【0017】
ここで、粘度平均分子量とは、極限粘度法により測定したポリビニルアルコール換算の粘度平均分子量である。具体的にはウベローデ粘度計(柴田科学株式会社製、商品名「粘度計 ウベローデ」)を用いて極限粘度(固有粘度)を測定し換算した数値を指す。
【0018】
また、アニオン電荷密度とは高分子化合物を構成するモノマー単位中のアニオン電荷の当量数(meq/g)をいう。さらにまた、後述するカチオン電荷密度とは高分子化合物を構成するモノマー単位中のカチオン電荷の当量数(meq/g)をいう。具体的には、アニオン性高分子の場合は、メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬株式会社製、商品名「メチルグリコールキトサン溶液(N/200)」)を添加後、過剰分をポリビニル硫酸カリウム(和光純薬株式会社製、商品名「ポリビニル硫酸カリウム滴定液(N/400)」を用いたコロイド滴定法により求められた数値を指す。カチオン性高分子の場合は、ポリビニル硫酸カリウム(和光純薬株式会社製、商品名「ポリビニル硫酸カリウム滴定液(N/400)」を用いたコロイド滴定法により求められた数値を指す。
【0019】
以下、本発明の紙の製造方法で使用される「カチオン性高分子化合物」、「アニオン性高分子化合物」および「パルプ含有水性スラリー」について説明する。
【0020】
<カチオン性高分子化合物>
本発明において用いられるカチオン性高分子化合物は、その電荷密度や化学構造に特に限定はなく、直鎖状、分岐状、架橋型のいずれのものも用いることができるが、粘度平均分子量を1000万以下に調整することが好ましい。カチオン性高分子化合物の粘度平均分子量が1000万を超えると、パルプ成分に対する凝集力が低い上、ピッチを過凝集させてしまうおそれがある。ただし、粘度平均分子量が低すぎると、ピッチのパルプ成分への定着性が不十分になるおそれがある。カチオン性高分子化合物の粘度平均分子量は300万〜800万の範囲であることがより好ましい。カチオン性高分子化合物の粘度平均分子量をかかる範囲に調整することにより、カチオン性高分子化合物の分散性が良好となるため、後続で用いるアニオン性高分子化合物との相乗効果がより高まり、ピッチや製紙用添加助剤、特にサイズ剤や紙力剤との定着性を上げることができる。
【0021】
本発明に用いられるカチオン性高分子化合物のカチオン電荷密度は、パルプ含有水性スラリーに含まれる填料やパルプ等の各種成分、このスラリーの物性等に応じて、適宜選択すればよいが、通常0.4〜12.0meq/g、好ましくは1.0〜10.0meq/g、特に好ましくは、1.5〜7.0meq/gの範囲に調整することが適している。この範囲に調整することにより、アニオン性高分子化合物の添加量を所望の添加量に容易に調整することができる。なお、カチオン性高分子化合物中にアニオン性基を有している場合もカチオン電荷密度を同様の範囲に調整することが適している。
【0022】
このカチオン性高分子化合物の具体例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ジメチルジアリルアミン−二酸化硫黄共重合体、ポリアクリルアミドカチオン変性物、ポリアミノアクリル酸の他、第四級アンモニウム塩残基を有するカチオン性モノマーを構成単位として含む単独重合体または共重合体、エピハロヒドリン−アルキルアミン付加重合物およびアリルアミン重合体の塩あるいは四級アンモニウム塩、ならびにジシアンジアミド−ホルムアルデヒド−塩化アンモニウム縮合ポリマー等が挙げられ、特に第四級アンモニウム塩残基を有するカチオン性モノマーを構成単位として含む単独重合体または共重合体が好ましい。
【0023】
このようなカチオン性高分子化合物を構成する第四級アンモニウム塩残基を有するカチオン性モノマーとしては、例えば、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルベンジルアンモニウムクロリド、3‐(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3‐(メタ)アクリルアミドプロピルトリエチルアンモニウムクロリド、3‐(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムサルフェート、2‐(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムブロミド、3‐(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルエチルアンモニウムクロリド、3‐メタクリロイルオキシ‐2‐ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3‐メタクリロイルオキシ‐2‐ヒドロキシプロピルメチルジエチルアンモニウムクロリド、3‐メタクリロイルオキシ‐2‐ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、3‐(メタ)アクリロイルアミノ‐2‐ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2‐(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらの中でも、2‐(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドを用いた単独重合体または共重合体がカチオン電荷密度と粘度平均分子量とを所望の値に調節しやすいので好ましい。なお、(メタ)アクリロイルという用語は、アクリロイルまたはメタクリロイルを意味する。
【0024】
このカチオン性高分子化合物は前記カチオン性モノマーとこれと共重合可能な単量体、例えば、エチレン性不飽和化合物との共重合体であってもよい。この共重合体を構成するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸類やジカルボン酸類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、芳香族ビニル化合物、不飽和アミド化合物および不飽和ニトリル化合物等が挙げられる。このようなものの例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸2‐メチルブチル、(メタ)アクリル酸tert‐ブチル、(メタ)アクリル酸2‐エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシヘキシル、スチレン、α‐メチルスチレン、(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド、N‐メチロールアクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。中でも入手が容易で、重合が容易に行われるという点で、(メタ)アクリルアミド、特にアクリルアミドが好ましい。また、カチオン化デンプン等のカチオン性内添薬剤を効率よく取り込める点で、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸も好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、(メタ)アクリルという用語は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0025】
カチオン性高分子化合物が共重合体の場合、カチオン性高分子化合物中の第四級アンモニウム塩残基を有するカチオン性モノマー単位の含有量は、3モル%以上40モル%未満の範囲が好ましい。このカチオン性モノマー単位の含有量が3モル%未満では、所望のカチオン電荷密度が得られにくいし、40モル%以上ではパルプや填料の歩留りを向上させにくい上、使用する慣用の歩留り剤の使用量も削減しにくい。より好ましい配合割合は、5〜30モル%の範囲である。さらに、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸のようなアニオン性モノマー単位を有する場合、共重合体中のアニオン性モノマー単位の含有量はカチオン性モノマー単位よりも少なくして、共重合体のカチオン性を保つ必要がある。具体的には、カチオン性モノマー単位の含有量からアニオン性モノマー単位の含有量を差し引いた値が3モル%以上40モル%未満の範囲が好ましく、5モル%以上30モル%未満の範囲がより好ましい。この差し引き値が3モル%未満では、所望のカチオン電荷密度が得られにくいし、40モル%以上ではパルプや填料の歩留りを向上させにくい上、使用する慣用の歩留り剤の使用量も削減しにくい。
【0026】
また、アリルアミン重合体の塩は、下記一般式[I]、
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、Xは塩素原子、臭素原子、硫酸残基、硝酸残基、有機カルボン酸残基または有機スルホン酸残基、nは重合度を示す)で表されるものである。
【0027】
この一般式[I]で表されるアリルアミン重合体の塩は、Rが水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であり、Xが塩素原子、臭素原子、硫酸残基、硝酸残基、有機カルボン酸残基、有機スルホン酸残基である。アリルアミン重合体の塩の例としては、ポリアリルアミンの塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩や、ポリN−アルキルアリルアミンの塩である、ポリメチルアリルアミン塩酸塩、ポリエチルアリルアミン塩酸塩、ポリプロピルアリルアミン塩酸塩、ポリイソプロピルアリルアミン臭化水素酸塩等が挙げられる。
【0028】
このカチオン性高分子化合物の重合方法としては、特に制限はなく、溶液重合法、乳化重合法、固体重合法等、任意の方法を用いることができる。この際用いる重合開始剤としては、水溶性のアゾ化合物や過酸化物、例えば、過酸化水素、2,2’‐アゾビス(2‐アミジノプロパン)二塩酸塩、水溶性無機過酸化物、または水溶性還元剤と水溶性無機過酸化物や有機過酸化物との組合せ等が挙げられる。
【0029】
水溶性無機過酸化物の例としては、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウム等が挙げられる。また、水溶性還元剤の例としては、水に可溶な通常のラジカル酸化還元重合触媒成分として用いられる還元剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸またはそのナトリウム塩やカリウム塩、あるいはこれらと鉄、銅、クロム等の重金属との錯化合物、スルフィン酸またはそのナトリウム塩やカリウム塩、L‐アスコルビン酸またはそのナトリウム塩やカリウム塩やカルシウム塩、ピロリン酸第一鉄、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
一方、水溶性有機過酸化物としては、例えば、クメンヒドロペルオキシド、p‐サイメンヒドロペルオキシド、tert‐ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p‐メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、tert‐アミルヒドロペルオキシド、tert‐ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等が挙げられる。
【0031】
また、この乳化重合における乳化剤としては、通常アニオン性界面活性剤またはそれとノニオン性界面活性剤との組合せが用いられる。このアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤としては、通常の乳化重合に用いられるものの中から任意に選んで用いることができる。このようなアニオン性界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸金属塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等が挙げられる。
【0032】
また、ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等、ポリオキシエチレン鎖を分子内に有し、界面活性能を有する化合物および前記化合物のポリオキシエチレン鎖がオキシエチレン、オキシプロピレンの共重合体で代替されている化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0033】
本発明において用いられるカチオン性高分子化合物を乳化重合法で合成する場合、例えば、重合開始剤および乳化剤を含有する水性媒体中において、エチレン性不飽和化合物およびカチオン性モノマーを所定の割合で混合し、通常30〜80℃の範囲の温度において重合させることにより、所望の共重合体微粒子が均質に分散したエマルションを得ることができる。この方法で得られるエマルションは、本発明のカチオン性高分子化合物としてそのままパルプ含有水性スラリーに配合することもできるし、所望ならば塩析または噴霧乾燥等により共重合体を固形物として取り出し、これを用いてセルロース含有懸濁液に配合してもよい。分枝型および架橋型のカチオン性ポリマーの製造方法としては、前記した各重合方法において、二重結合、アルデヒド結合あるいはエポキシ結合からなる群から選ばれる2種以上の試薬群を有する多官能化合物によって構成される分枝剤または二重結合、アルデヒド結合あるいはエポキシ結合からなる群から選ばれる2種以上の試薬群を有する多官能化合物によって構成される架橋剤(この架橋剤には、多価金属塩、ホルムアルデヒド、グリオキザールのようなイオン系架橋剤、モノマーと共重合する共有結合架橋剤を含む)を用いて重合するものである。
【0034】
本発明のカチオン性高分子化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
<アニオン性高分子化合物>
本発明において用いられるアニオン性高分子化合物は、3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有していれば、化学構造に特に限定はなく、直鎖状、分岐状、架橋型のいずれのものも用いることができる。
【0036】
本発明のアニオン性高分子化合物の粘度平均分子量については、3500万を超えると、前記カチオン性高分子化合物との相乗効果により、パルプ成分等に対する製紙用添加助剤の高い定着力が得られ、歩留り性も良好である。特に、粘度平均分子量が3800万以上であれば、フロック形成後にスクリーンのようなせん断下で微細パルプ繊維や填料、ピッチ成分が脱落することがなく、歩留り率が向上し、抄紙機の汚染を防止することができる。また、粘度平均分子量が8000万以下であれば、良好な凝集力となり、所望する紙の地合い物性を得ることができる。したがって、本発明のアニオン性高分子化合物の好ましい粘度平均分子量は3800万〜8000万の範囲であり、特に好ましい粘度平均分子量の上限値は7000万である。
【0037】
通常、3500万を超えるような超高分子量を有する高分子化合物を添加すると、高分子化合物がパルプ含有水性スラリーに均一に分散せず、地合い物性が低下すると考えられていた。しかしながら、本発明においては、アニオン性高分子化合物の電荷密度を0.6〜4.0meq/gの範囲内とすることにより、アニオン性高分子化合物がパルプ含有水性スラリーに均一に分散し、大きさが揃ったフロックを形成することができ、地合い物性が向上する。
【0038】
つまり、本発明に用いられるアニオン性高分子化合物の電荷密度をかかる範囲内に調整することにより、前記高分子化合物は、分子内での電荷状態により良好な凝集力が得られるように分子鎖が広げられるため、従来の歩留り剤として用いられる高分子化合物とは異なり、パルプ繊維と相互作用する際、電荷のみに頼らずに歩留り向上効果を発揮することができる。そのため、酸性紙や中性紙等、得られる紙の種類を問わず用いることができ、パルプ含有水性スラリー内の電荷密度が高い場合でも、地合い物性を損なわず、高い歩留りで紙を製造することができる。この電荷密度が0.6meq/g以上であり、4.0meq/g以下であれば、特に、歩留り性、濾水性および地合い物性を向上することができるとともに、ピッチ量を削減することができる。好ましい電荷密度は0.6meq/g以上3.8meq/g以下、特に好ましくは0.8meq/g以上3.0meq/g以下の範囲である。
【0039】
本発明に用いられるアニオン性高分子化合物の具体例としては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸を含有する水溶性単量体を構成単位とする重合体、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムや前記水溶性単量体とこれと共重合可能な構成単位、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル等の構成単位との共重合体、例えば、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体、メタクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体等が挙げられ、特にアニオン性モノマーとしてアクリル酸ナトリウムを構成単位として含む単独重合体または共重合体が好ましい。
【0040】
アニオン性高分子化合物が共重合体の場合、アニオン性高分子化合物中の前記水溶性単量体の含有量は、3モル%以上40モル%未満の範囲が好ましい。この範囲より水溶性単量体の含有量が少ないと有効なアニオン性高分子化合物を得ることができないし、この範囲を超えると共重合体とする必要がなくなる。より好ましい配合割合は5〜30モル%の範囲である。
【0041】
本発明のアニオン性高分子化合物の重合方法としては、特に制限はなく、前記カチオン性高分子化合物の重合方法と同様、溶液重合法、乳化重合法、固体重合法等、任意の方法を用いることができる。
【0042】
本発明のアニオン性高分子化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<パルプ含有水性スラリー>
本発明のカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物は、パルプ含有水性スラリーに添加することにより用いられる。パルプ含有水性スラリーには、従来紙を製造する際に用いられているパルプ成分が含有されている。前記パルプ成分としては、特に制限されず、機械パルプ、化学パルプ、古紙パルプ等から選ばれた1種または2種以上のパルプから選択されたものを使用することができる。機械パルプとしては、砕木パルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)等が挙げられる。化学パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)や針葉樹クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ、サルファイドパルプ、アルカリパルプ等が挙げられる。古紙パルプとしては、新聞紙、段ボールやシュレッダーダスト等を原料とするパルプや脱墨処理を施したDIP等が挙げられる。環境に対する意識向上によりこのような古紙パルプ利用率は上昇する傾向にあるが、本発明においてはバージンパルプも用いることができる。パルプの原木としては、エゾマツ、トドマツ、アカマツのような針葉樹や、ブナ、ポプラ、カバのような広葉樹等が挙げられる。
【0044】
本発明のパルプ含有水性スラリーは、パルプ成分を3〜5質量%程度含む濃厚パルプスラリーを調製後、白水のような希釈液により0.5〜2.0質量%濃度に調製したものや、前記濃厚水性パルプスラリーを調製することなく、パルプ成分を0.5〜2.0質量%に調製したものであってもよい。
【0045】
パルプ含有水性スラリーには、従来紙を製造する際に用いられている慣用の填料や製紙用添加助剤を添加してもよい。前記填料としては、特に制限はないが、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、タルク、クレー、カオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、ベントナイト、ホワイトカーボン等の無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等が挙げられる。填料は単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。填料の添加量は、製造する紙の種類により適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、パルプ成分に対して1〜70質量%の範囲である。
【0046】
前記製紙用添加助剤としては、例えば、硫酸バンド、サイズ剤、紙力剤、濾水向上剤、凝結剤、ピッチコントロール剤、嵩高剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。
【0047】
次に、本発明の紙の製造方法におけるカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物の添加量および添加位置について説明する。
【0048】
本発明のカチオン性高分子化合物とアニオン性高分子化合物の添加量は特に制限はないが、パルプ成分に対して各々1000ppm未満でよい。本発明のカチオン性およびアニオン性高分子化合物をかかる添加条件でパルプ含有スラリーに添加することにより、パルプ成分が過凝集を引き起こすことなく地合い物性を維持することができる。なお、各々1000ppm未満のカチオン性およびアニオン性高分子化合物の添加量とは、パルプ含有水性スラリーに添加されるカチオン性およびアニオン性高分子化合物の添加量がパルプ成分に対して各々1000ppm未満であることを意味する。
【0049】
本発明のカチオン性高分子化合物とアニオン性高分子化合物の添加場所は、カチオン性高分子化合物がアニオン性高分子化合物よりも先に添加することのできる場所であれば特に制限はない。
【0050】
本発明のカチオン性高分子化合物の添加場所としては、例えば、フィルター、デッカー、エキストラクター、シックナー、リファイナー、ストックチェスト、DDR、ブレンダー、ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱、ファンポンプ、スクリーン、インレット、並びにそれらにつながる配管などが挙げられる。中でも、種箱とファンポンプとの間またはファンポンプとスクリーンとの間が、分散性が高まりパルプ成分により均一に定着可能であるため、好ましい。
【0051】
アニオン性高分子化合物の添加場所のとしては、パルプ含有水性スラリーが種箱を通過してからインレットに送液されるまでの間が好ましい。中でも、スクリーンの前後、例えば、ファンポンプとスクリーンとの間またはスクリーンとインレットとの間が、先に添加したカチオン性高分子化合物との相互作用がしやすいため、好ましい。
【0052】
本発明の紙の製造方法におけるカチオン性およびアニオン性高分子化合物の添加場所と添加量は、得られる紙の品質を重視するか、コストを重視するかによっても決定することができる。得られる紙の品質、つまり、地合い物性を重視して製紙する場合は、スクリーン通過前のパルプ含有水性スラリーにカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物をパルプ成分に対する高分子化合物の各々の濃度が1000ppm未満、好適には10〜800ppmとなるように添加することが好ましい。この位置で高分子化合物を添加した場合には、得られる紙の地合い物性を制御しやすい。また、コストを重視、つまり、歩留り性および本発明の高分子化合物の添加量の軽減を重視して製紙する場合は、ファンポンプ通過後のパルプ含有スラリーにカチオン性高分子化合物を、スクリーン通過後のパルプ含有水性スラリーにアニオン性高分子化合物を、パルプ成分に対してカチオン・アニオン高分子化合物の各々の濃度が1000ppm未満、好適には10〜800ppmとなるように添加することが好ましい。この位置でカチオン性およびアニオン性高分子化合物を添加した場合には、低添加量でありながらも高い歩留り性が得られやすい。
【0053】
本発明のカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物の添加割合は質量比で1:99〜99:1の中から適宜選択すればよいが、好ましくは1:3〜3:1、さらに好ましくは1:2〜2:1である。
【0054】
次に、本発明の歩留り向上剤キットについて説明する。本発明に用いられる歩留り向上剤キットとは、カチオン性高分子化合物を含有する第一添加剤およびアニオン性高分子化合物を含有する第二添加剤を含むものであって、前記アニオン性高分子化合物が3500万を超える粘度平均分子量を有し、かつ、0.6〜4.0meq/gのアニオン電荷密度を有することを特徴とするものである。
【0055】
本発明の歩留り向上剤キットに用いられるカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物は、本発明の紙の製造方法において用いられるカチオン性高分子化合物およびアニオン性高分子化合物を用いることができる。
【0056】
本発明の歩留り向上剤キットに用いられる第一添加剤と第二添加剤の性状はどのようなものでもよく、特に制限されないが、例えば、油中水型エマルション、粉体、溶液等が挙げられる。
【0057】
本発明の紙の製造方法および歩留り向上剤キットによって製造される紙の種類に特に制限はないが、例えば、塗工紙、微塗工紙、上質紙、中質紙、新聞紙、PPC紙、ライナー原紙、中芯原紙、白板紙等が挙げられる。本発明の紙の製造方法および歩留り向上剤キットによれば、サイズ度や紙力を向上させることができるので、上質紙と塗工原紙の製造に好適である。
【0058】
本発明の紙の製造方法および歩留り向上剤キットによって、得られる紙の地合い物性を損なうことなく、パルプ成分への製紙用添加助剤の定着性を向上させ、前記製紙用添加助剤の添加量を低減することが可能である上、さらに、古紙に由来するピッチ成分や、各種パルプや白水中に含まれるアニオントラッシュや夾雑物による抄紙機の汚れや紙面欠陥等を軽減または防止することもできる。さらにまた、本発明のカチオン性高分子化合物の粘度平均分子量を1000万以下に調整すれば、溶解タンクを設けることなく希釈水とインラインで混合してカチオン性高分子化合物の連続添加が可能となる。このため、溶解タンクは本発明のアニオン性高分子化合物を膨潤させるための1台のみでよく、従来の溶解タンクを2台使用する歩留り剤2液システムよりも管理面およびコスト面においても有利である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の紙の製造方法および歩留り向上剤キットにつき実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の製造方法および歩留り向上剤キットはこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
(調製例1:カチオン性高分子化合物含有第一添加剤Aの調製)
カチオン性高分子化合物として、下記表1〜4に示す粘度平均分子量およびカチオン電荷密度を有する直鎖構造のアクリルアミド−アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド共重合体(表中「カチオン性A1〜A7」)を用いて第一添加剤Aを調製した。各カチオン性高分子化合物中のアクリルアミド単位とアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド単位の含有割合は各単量体換算モル比で、A−1が90:10、A−2が80:20、A−3が80:20、A−4が70:30、A−5が80:20、A−6が80:20、A−7が80:20であった。尚、粘度平均分子量およびカチオン電荷密度は以下の方法によって測定した。
【0061】
(調製例2:カチオン性高分子化合物含有第一添加剤Bの調製)
カチオン性高分子化合物として、下記表1〜4に示す粘度平均分子量およびカチオン電荷密度を有する直鎖構造のアクリルアミド−アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド−アクリル酸共重合体(表中「カチオン性B−1」)を用いて第一添加剤Bを調製した。カチオン性高分子化合物中のアクリルアミド単位、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド単位とアクリル酸単位の含有割合は各単量体換算モル比で、75:20:5であった。尚、粘度平均分子量およびカチオン電荷密度は以下の方法によって測定した。
【0062】
(調製例3:アニオン性高分子化合物含有第二添加剤の調製)
アニオン性高分子化合物として、下記表1〜4に示す粘度平均分子量およびアニオン電荷密度を有する直鎖構造のアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体(表中「アニオン性C−1〜C−6」」)を用いて第二添加剤を調製した。各アニオン性高分子化合物中のアクリルアミド単位とアクリル酸ナトリウム単位の含有割合は各単量体換算モル比で、C−1が70:30、C−2が70:30、C−3が70:30、C−4が70:30、C−5が70:30、C−6が70:30であった。尚、粘度平均分子量およびアニオン電荷密度は以下の方法によって測定した。
【0063】
[粘度平均分子量の測定]
高分子化合物の粘度平均分子量は、極限粘度法に従って、ウベローデ粘度計(柴田科学株式会社製、商品名「粘度計 ウベローデ」)を用いて極限粘度を測定し、ポリビニルアルコール換算して求めた。
【0064】
[カチオンおよびアニオン電荷密度の測定]
各カチオン性高分子化合物の電荷密度は、コロイド滴定法に従って、ポリビニル硫酸カリウム(和光純薬株式会社製、商品名「ポリビニル硫酸カリウム滴定液(N/400)」を用いて測定した。また、各アニオン性高分子化合物の電荷密度は、コロイド滴定法に従って、メチルグリコールキトサン溶液(和光純薬株式会社製、商品名「メチルグリコールキトサン溶液(N/200)」)を添加後、過剰分をポリビニル硫酸カリウム(和光純薬株式会社製、商品名「ポリビニル硫酸カリウム滴定液(N/400)」を用いて測定した。
【0065】
実施例1および比較例1(塗工原紙の製造および評価)
パルプ成分(LBKP:DIP=80:20)3.2質量%濃度のパルプ含有水性スラリーを白水で希釈し、スラリー濃度1.0質量%の塗工原紙用パルプ含有水性スラリーを調製した。このパルプ含有水性スラリーにポリアクリルアミド系紙力剤をパルプ成分に対し0.25質量%添加し、ブリット式ダイナミックドレイネージジャーテスター(40メッシュのスクリーンとタービン翼を備えた撹拌機を装備。以下、「ブリットジャー」と略す。)に入れた後、撹拌機を用いて毎分1200回転にて撹拌しながら、10秒間隔で硫酸バンドを0.5質量%、アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AKD)を0.05質量%、填料として軽質炭酸カルシウムを6.1質量%の添加量で添加し、調製例1または2で得られた第一添加剤AまたはBを表1および表2に示す時間と添加量で添加し、10秒経過後、回転数を600回転に変更して、調製例3で得られた第二添加剤を表1および表2に示す時間と添加量で添加し、さらに15秒撹拌した。填料を添加後20秒後に添加剤を添加した場合をスクリーン前添加、填料を添加後30秒後、すなわち回転数が600回転に変更されてから添加剤を添加した場合をスクリーン後添加と想定し、得られた結果を表1および2に示す。なお、各製紙用添加助剤、填料および添加剤を加えた後のパルプ含有水性スラリー(以下、「試料スラリー」という。)のpHは7.6となるように調整した。尚、実施例1−3では紙力剤の添加量を20%減量して添加した。さらに、実施例1−9では第一添加剤および第二添加剤をそれぞれ填料を添加後10秒および20秒後(スクリーン前添加と想定)に添加した。填料を添加後10秒後に添加剤を添加した場合はファンポンプ前と想定した。また、比較例1−6では、表中に示すように第一添加剤としてアニオン性高分子化合物を添加し、第二添加剤としてカチオン性高分子化合物を添加した。
【0066】
[歩留り性]
各例で得られた試料スラリー100mlをワットマンNo.4濾紙を用いて濾過し、得られた濾液を110℃で60分間乾燥し、乾燥後の質量を測定することにより、全歩留り(%)を求めた。また、乾燥後の濾紙を550℃で2時間加熱したときの灰分より、灰分歩留り(%)を測定した。
【0067】
[濁度]
各例で得られた試料スラリーを撹拌機で撹拌したまま下穴から50mlを採取し、ワットマンNo.4濾紙にて吸引濾過し、その濾液についてJIS K0101によりホルマジン濁度を測定した。この濁度は、歩留り、製紙用添加助剤、填料、ピッチの定着性を評価するためのものであり、この値が小さいほど歩留りが高く、製紙用添加助剤、填料、ピッチの定着率が高いものであることを意味する。
【0068】
[カチオン要求量]
各例で得られた試料スラリーを、濁度測定と同じく、撹拌機で撹拌したまま下穴から50mlを採取し、ワットマンNo.4濾紙にて吸引濾過した。得られた濾液についてカチオン要求量を粒子電荷計(ミューテック社製、商品名「Particle Charge Detector PCD03」)により測定した。このカチオン要求量は、系内の電荷状態を評価するためのものであり、この値が高ければ、系内にアニオン性物質が多く含まれることを意味する。
【0069】
[濾水性]
各例で得られた試料スラリー500mlを100メッシュを張った内径50mmのアクリル樹脂製円筒型の容器に入れ、メスシリンダーを用いて濾水量200mlとなるまでの時間を測定した。
【0070】
[地合い物性および裂断長(引張り強度)]
各例で得られた試料スラリーを坪量が59g/mとなるように抄紙機(東西精機社製、商品名「角型抄紙機」)を用いて塗工原紙を抄紙した。得られた湿紙はプレス機を用いて荷重5.25kg/cmにて5分間加圧し、さらに2分間加圧した後、脱水した。続いて、回転式ドライヤーを用いて95℃にて3分間乾燥後、25℃、湿度55%にて24時間放置し、評価用の紙を得た。この紙を光透過型光学式地合計(エムケイシステムズ(MK SYSTEMS)社製、商品名「3Dシートアナライザー」)を用いて地合い指数を測定し、以下の塗工原紙基準に従って地合い判定を行った。
◎: 40以上
〇: 35以上40未満
△: 30以上35未満
×: 30未満
また、裂断(引張り強度)は得られた評価用の紙をJIS P8113の方法に従って測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
実施例2および比較例2(上質紙)
パルプ成分(LBKP:NBKP=90:10)3.2質量%濃度のパルプ含有水性スラリーを白水で希釈し、スラリー濃度1.0質量%の上質紙用パルプ含有水性スラリーを調製した。このパルプ含有水性スラリーにポリアクリルアミド系紙力剤をパルプ成分に対し0.3質量%添加し、ブリットジャーに入れた後、撹拌機を用いて毎分1200回転にて撹拌しながら、10秒間隔で硫酸バンドを0.5質量%、ロジン系サイズ剤を0.4質量%、填料として炭酸カルシウムを2.0質量%の添加量で添加し、調製例1または2で得られた第一添加剤AまたはBを表3および4に示す時間と添加量で添加(スクリーン前添加)し、10秒経過後、回転数を600回転に変更して、調製例3で得られた第二添加剤を表3および4に示す時間と添加量で添加(スクリーン後添加)し、さらに15秒撹拌した。得られた結果を表3および4に示す。なお、各製紙用添加助剤、填料および添加剤を加えた後のパルプ含有水性スラリー(試料スラリー)のpHは7.0となるように調整した。尚、実施例2−3ではサイズ剤の添加量を20%減量して添加した。また、比較例2−6では、表中に示すように第一添加剤としてアニオン性高分子化合物を添加し、第二添加剤としてカチオン性高分子化合物を添加した。
各例で得られた試料スラリーを用いて実施例1と同様に、歩留り性(全歩留りと灰分歩留り)、濁度、カチオン要求量および濾水性について以下の通り評価した。さらに、各例で得られた試料スラリーを抄紙して得られた上質紙について地合い物性およびサイズ度評価を以下の通り行った。
【0074】
[地合い物性]
各例で得られた試料スラリーを坪量が100g/mとなるように抄紙機(東西精機社製、商品名「角型抄紙機」)を用いて上質紙を抄紙し、実施例1と同様にして、評価用の紙を得て、地合い指数を測定し、以下の上質紙基準に従って地合い判定を行った。
◎: 35以上
〇: 30以上35未満
△: 25以上30未満
×: 25未満
【0075】
[サイズ度]
各例で得られた試料スラリーを角型容器に入れ、撹拌しながら、抄紙機(東西精機社製、商品名「角形抄紙機」)に前記スラリーを入れ、撹拌棒で一定の力で2回上下に撹拌し、最後に穏やかに撹拌した。そして、前記抄紙機の排水弁を開き、メッシュ(40メッシュ)上に形成されたマット(250mm×250mm)の上に濾紙とステンレス鋼板1枚を載せ、ローラーで脱水した。マットをメッシュから剥がし、濾紙とステンレス鋼板で挟み、2枚ずつプレス機を用いて荷重5.25Kg/cm、5分の条件で1回プレスし、さらに前記荷重で2分の条件で1回プレスした。その後、ドラム式ドライヤー(ドラムの表面温度95℃)で3分間乾燥させ、一昼夜調湿(20℃、湿度55%)し、評価用の紙を得た。この紙のサイズ度をステキヒト法(JIS P8122:2004)に準拠し、
サイズ度を測定した。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
表1〜4から明らかなように、実施例1および2では、濁度が向上していることから、製紙用添加助剤やピッチ成分のパルプ成分や填料への定着性が高いことが分かる。さらに、実施例1および2では、紙の地合い物性を損なうことなく高い歩留り性と濾水性を与えていることが分かる。一方、カチオン要求量に着目すると、カチオン要求量が高くても低くても、全ての物性において優れた結果が得られているため、パルプ系内の電荷密度に関係なく、本発明の製造方法および歩留り向上剤キットを適用することができることが分かる。
【0079】
また、表1および2においては、水性スラリーに再生パルプが含まれていても、実施例1が比較例1よりも高い薬剤定着性を示し、優れた物性の紙が得られたことが示されている。塗工原紙においては特に地合いと引張り強度(裂断長)が紙質として重要であるが、地合い物性を損なうことなく優れた強度の紙が得られている。特に、実施例1−3では紙力剤を20%減量して添加したにもかかわらず、紙力が低下することなく高い濾水性と歩留り物性が得られている。
【0080】
さらにまた、表3および4においては、バージンパルプに対しても、実施例2は比較例2よりも高い薬剤定着性を発揮し、優れた物性の紙が得られたことが示されている。上質紙においては特に地合いとサイズ度が紙質として重要であるが、実施例2で得られた上質紙は地合いを損なうことなくサイズ度が向上していることが分かる。特に、実施例2−3ではサイズ剤を20%減量して添加したにもかかわらず、サイズ度が低下することなく高い濾水性と歩留り物性が得られている。