特許第6799440号(P6799440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799440
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20201207BHJP
   F16H 61/18 20060101ALI20201207BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20201207BHJP
   F16H 61/28 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   F16H61/00
   F16H61/18
   F16H59/04
   F16H61/28
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-223983(P2016-223983)
(22)【出願日】2016年11月17日
(65)【公開番号】特開2018-80772(P2018-80772A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 隆
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−263152(JP,A)
【文献】 特開2003−301939(JP,A)
【文献】 特開2014−134243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00− 61/12
F16H 61/16− 61/24
F16H 61/66− 61/70
F16H 63/40− 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1受圧室で受圧し、選択レンジに応じてレンジを切り替えるレンジ切替用ピストンと、
第2受圧室を有する締結要素と、
前記第1受圧室の上流に位置する第1油圧アクチュエータと、
前記第2受圧室の上流に位置する第2油圧アクチュエータと、
前記第1油圧アクチュエータの上流に位置するスプールと、
を有し、
前記スプールは、前記第2油圧アクチュエータの下流に受圧面を有し、
前記受圧面に油圧が作用すると、前記第1油圧アクチュエータへの油圧供給が阻止される、
ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機であって、
前記レンジ切替用ピストンの手動切替機構を有し、
前記第1油圧アクチュエータの異常を検知すると、前記第2油圧アクチュエータの下流へ油圧が供給される、
ことを特徴とする変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変速機であって、
前記レンジ切替用ピストンとともに移動するレンジ切替用バルブを有し、
前記第2受圧室は、前記レンジ切替用バルブを介して、前記第2油圧アクチュエータと接続される、
ことを特徴とする変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
マニュアルバルブを油圧アクチュエータで移動させて、変速機のレンジに応じたポジションを実現する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−316862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機のレンジに応じたポジションを実現するにあたっては例えば、互いに対向するピストン推力をリニアソレノイドバルブで調整することにより、マニュアルバルブを移動させることも考えられる。ところがこの場合、走行中にリニアソレノイドバルブの油圧アクチュエータに不具合が生じると、走行中にレンジが切り替わってしまう虞がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、走行中に油圧アクチュエータに不具合が生じても、レンジが切り替わることを防止可能な変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の変速機は、第1受圧室で受圧し、選択レンジに応じてレンジを切り替えるレンジ切替用ピストンと、第2受圧室を有する締結要素と、前記第1受圧室の上流に位置する第1油圧アクチュエータと、前記第2受圧室の上流に位置する第2油圧アクチュエータと、前記第1油圧アクチュエータの上流に位置するスプールと、を有し、前記スプールは、前記第2油圧アクチュエータの下流に受圧面を有し、前記受圧面に油圧が作用すると、前記第1油圧アクチュエータへの油圧供給が阻止される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、走行中には第2油圧アクチュエータを介して油圧を供給することで、締結要素を締結する。その一方で、上記態様によれば、走行中に第2油圧アクチュエータの下流に位置するスプールの受圧面に対しても油圧が供給される。
【0008】
このため、上記態様によれば、走行中に第1油圧アクチュエータへの油圧供給を阻止することができる。したがって、走行中に第1油圧アクチュエータに不具合が生じても、レンジが切り替わることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】中間ポジションを実現している状態で変速機の要部を示す図である。
図2】第1ポジションを実現している状態で変速機の要部を示す図である。
図3】第2ポジションを実現している状態で変速機の要部を示す図である。
図4A】異常発生時のポジション選択装置を説明する図の第1図である。
図4B】異常発生時のポジション選択装置を説明する図の第2図である。
図5】変速機の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1から図3は、本実施形態の変速機の要部を示す図である。変速機は、ポジション選択装置100を有して構成される。ポジション選択装置100は、変速機の選択レンジに応じて油の流通経路を切り替える。ポジション選択装置100は、変速機のレンジに応じたポジションとして、第1ポジションと、第2ポジションと、第1ポジションと第2ポジションとの間の中間ポジションと、を有する。
【0012】
第1ポジションは、Dレンジつまり前進レンジに対応するポジションとされる。第2ポジションは、Rレンジつまり後進レンジに対応するポジションとされる。中間ポジションは、Nレンジつまりニュートラルレンジに対応するポジションとされる。
【0013】
図1では、中間ポジションを実現している状態で、ポジション選択装置100を示す。また、図2では、第1ポジションを実現している状態で、図3では、第2ポジションを実現している状態で、ポジション選択装置100をそれぞれ示す。
【0014】
ポジション選択装置100は、第1ピストン1と、第2ピストン2と、ハウジング3と、制御油路4と、供給油路5と、第1SOL6と、第2SOL7と、クラッチSOL8と、遮断弁10と、レバー20とを備える。SOLは、ソレノイドバルブの略である。
【0015】
第1ピストン1及び第2ピストン2は、ハウジング3に収容される。第1ピストン1は概ね円柱状の形状を有し、第2ピストン2は、円筒状の形状を有する。第1ピストン1は、ピストン部1aと、バルブ部1bと、駆動部1cとを備える。
【0016】
ピストン部1aは、選択レンジに応じて変速機のレンジを切り替えるレンジ切替用ピストンを構成する。レンジ切替用ピストンは、ハウジング3、具体的には後述する第1収容部3a及び第2収容部3bをさらに有して構成されていると把握されてもよい。ピストン部1aは、小径部と大径部とを備える段付きピストンで構成される。
【0017】
小径部は、第2ピストン2に摺動可能に挿入される。小径部は、一端側に第1受圧面S1を有する。大径部は、一端側に第1当接面E1を有する。第1当接面E1は、第2ピストン2と当接する。大径部は、他端側に第2受圧面S2を有する。第2受圧面S2は、リング状に設けられ、第1受圧面S1よりも大きな面積を有する。第2受圧面S2は、第1当接面E1及び第1受圧面S1に対し背面側の面を構成する。なお、「第1所定面(例えば、第2受圧面S2)が、第2所定面(例えば、第1当接面E1、第1受圧面S1)に対して背面側の面を構成する」とは、第1所定面及び第2所定面の一方を押す方向に力が加わると、第1所定面及び第2所定面の他方が、第1所定面及び第2所定面の他方を引く方向に移動する関係を意味する。
【0018】
バルブ部1bは、他端側からピストン部1aと接続される。バルブ部1bは、後述するように、選択レンジに応じて変速機のレンジを切り替えるレンジ切替用バルブを構成する。レンジ切替バルブは、ハウジング3、具体的には後述する第3収容部3dをさらに有して構成されていると把握されてもよい。
【0019】
駆動部1cは、他端側からバルブ部1bと接続される。駆動部1cには、レバー20の作用部が設置される。駆動部1cは、レバー20によって駆動され、レバー20は、運転者の操作力によって駆動される。
【0020】
レバー20は、運転者が正常時にレンジ選択操作で用いる操作レバーとは異なるバックアップ用のレバーであり、駆動部1cとともにピストン部1aの手動切替機構Mを構成する。レバー20は、運転者が直接操作する操作レバーとされてもよく、運転者が直接操作する操作レバーからリンク機構等の操作力伝達機構を介して操作力が伝達されるレバーとされてもよい。
【0021】
第2ピストン2は、一端側に第3受圧面S3を有するとともに、ピストン部1aの大径部よりも大きな外径を有する。このため、第1受圧面S1の面積と第3受圧面S3の面積との和は、第2受圧面S2の面積よりも大きくなる。
【0022】
ハウジング3は、受圧室R1と、受圧室R2とを有する。受圧室R1には、第1受圧面S1と第3受圧面S3とが位置し、受圧室R2には、第2受圧面S2が位置する。換言すれば、第1受圧面S1と第3受圧面S3とは受圧室R1で受圧し、第2受圧面S2は受圧室R2で受圧する。
【0023】
受圧室R1及び受圧室R2は、ピストン部1aに対向推力を発生させる一方側の受圧室及び他方側の受圧室を構成する。受圧室R1及び受圧室R2のいずれかは、第1受圧室に相当する。
【0024】
ハウジング3は、第1収容部3aと、第2収容部3bと、段差部3cと、第3収容部3dとを有する。第1収容部3aは、第2ピストン2を摺動可能に収容し、第2収容部3bは、ピストン部1aの大径部を摺動可能に収容する。
【0025】
第1収容部3aは、第2収容部3bよりも大きな内径を有し、段差部3cは、第1収容部3aと第2収容部3bとを接続する。段差部3cには、第2ピストン2が当接し、これにより第2ピストン2の移動が規制される。段差部3cは、ストッパを構成する。第3収容部3dは、バルブ部1bを摺動可能に収容する。
【0026】
ハウジング3は、第1制御ポート部P1と、第2制御ポート部P2と、入口ポート部P3と、第1出口ポート部P4と、第2出口ポート部P5と、ドレンポート部P6とを有する。第1制御ポート部P1は第1収容部3aに設けられ、第2制御ポート部P2は第2収容部3bに設けられる。その他のポート部P3からP6は、第3収容部3dに設けられる。各ポート部P1からP6は、リング状に設けられる。
【0027】
第1制御ポート部P1は、受圧室R1に連通し、第2制御ポート部P2は、受圧室R2に連通する。入口ポート部P3は、内部通路を介して第1出口ポート部P4又は第2出口ポート部P5と連通する。
【0028】
第1出口ポート部P4は、図1に示す中間ポジションが実現されている状態で、入口ポート部P3と連通する。第1出口ポート部P4には、前進クラッチFWD/Cが接続される。
【0029】
第2出口ポート部P5は、図2に示す第1ポジションが実現されている状態で、入口ポート部P3と連通する。第2出口ポート部P5には、後進ブレーキREV/Bが接続される。第2出口ポート部P5は、図3に示す第2ポジションが実現されている状態で、ドレンポート部P6と連通する。
【0030】
制御油路4は、第1制御ポート部P1及び第2制御ポート部P2に接続する。このため、受圧室R1と受圧室R2とには、制御油路4から共通の油圧が供給される。制御油路4は具体的には、第1制御ポート部P1及び第2制御ポート部P2に分岐して接続する第1分岐油路4a及び第2分岐油路4bを有した構成とされる。
【0031】
供給油路5は、入口ポート部P3に接続する。供給油路5は、前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bに油を供給する油路を構成する。供給油路5は、図2に示す第1ポジションが実現されている状態で、前進クラッチFWD/Cに油を供給する。また、供給油路5は、図3に示す第2ポジションが実現されている状態で、後進ブレーキREV/Bに油を供給する。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bのいずれかは、第2受圧室を有する締結要素を構成する。
【0032】
供給油路5には、クラッチSOL8が設けられる。供給油路5は、供給油路5のうちクラッチSOL8よりも下流の部分から分岐する分岐油路5aを有する。
【0033】
SOL6及びSOL7は、制御油路4に設けられる。具体的にはSOL6は、第1分岐油路4aに設けられ、SOL7は、第2分岐油路4bに設けられる。このため、受圧室R1には、制御油路4からSOL6を介して油圧が供給され、受圧室R2には、制御油路4からSOL7を介して油圧が供給される。
【0034】
SOL6とSOL7とはともに、制御油路4を連通、遮断する。制御油路4を遮断する場合、SOL6は、受圧室R1とドレンポートとを連通し、SOL7は、受圧室R2とドレンポートとを連通する。SOL6とSOL7とはともに、油圧アクチュエータを構成する。油圧アクチュエータは、油圧制御用のアクチュエータであり、SOL6とSOL7とは具体的には、油の供給、ドレンによって下流の油圧を制御する。SOL6及びSOL7のうちいずれかは、第1油圧アクチュエータに相当する。
【0035】
クラッチSOL8は、供給油路5に設けられ、前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bへの供給油圧を調整する。クラッチSOL8は、閉弁状態でクラッチSOL8の下流とドレンポートとを連通する。クラッチSOL8は、前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bの上流に位置する第2油圧アクチュエータを構成する。
【0036】
遮断弁10は、制御油路4に設けられる。具体的には遮断弁10は、第1分岐油路4a及び第2分岐油路4bよりも上流に設けられる。遮断弁10は、スプール11と、ハウジング12と、スプリング13とを有する。
【0037】
スプール11は、ハウジング12内に設けられ、制御油路4の連通、遮断を切り替える。スプール11は、他端側に受圧面11aを有する。スプール11は、受圧室R1及び受圧室R2のいずれかで構成される第1受圧室の上流に位置する。
【0038】
ハウジング12は、スプール11を摺動可能に収容する。ハウジング12は、入口ポート部P11と、出口ポート部P12とを有する。ハウジング12は、制御油路4に介在するように設けられ、制御油路4は、入口ポート部P11及び出口ポート部P12を介して繋がった状態となる。
【0039】
ハウジング12は、ドレンポート部P13と、パイロットポート部P14とをさらに有する。ドレンポート部P13は、スプール11が制御油路4を遮断している場合に、内部通路を介して出口ポート部P12と連通する。パイロットポート部P14には、分岐油路5aが接続される。このため、スプール11は、クラッチSOL8の下流に受圧面11aを有する。
【0040】
パイロットポート部P14に供給された油圧は、スプール11の受圧面11aに作用する。油圧が受圧面11aに作用すると、制御油路4を遮断する方向にスプール11を移動させる推力が発生する。
【0041】
スプリング13は、ハウジング12内の一端部に設けられる。スプリング13は、制御油路4を連通する方向にスプール11を付勢する。
【0042】
ポジション選択装置100は、コントローラ30によって制御される。コントローラ30は、変速機コントローラであり、正常時に用いられる操作レバーを用いた運転者のレンジ選択操作に応じて、SOL6及びSOL7を制御する。
【0043】
Nレンジが選択された場合、コントローラ30は、クラッチSOL8を閉弁状態にする。これにより、クラッチSOL8の下流からクラッチSOL8のドレンポートを介して油がドレンされる。結果、スプリング13の付勢力によってスプール11が移動し、制御油路4が連通される。
【0044】
コントローラ30はさらに、制御油路4を連通するようにSOL6及びSOL7を制御する。これにより、図1に示す中間ポジションが実現される。
【0045】
NレンジからDレンジが選択された場合、コントローラ30は、制御油路4を連通するようにSOL6を制御するとともに、制御油路4を遮断するようにSOL7を制御する。これにより、図2に示す第1ポジションが選択される。
【0046】
第1ポジションが選択された後、コントローラ30はさらに、クラッチSOL8を開弁状態にする。これにより、前進クラッチFWD/Cに油圧が供給され、変速機のレンジがDレンジになる。また、スプール11の受圧面11aに油圧が作用して、制御油路4が遮断される。
【0047】
NレンジからRレンジが選択された場合、コントローラ30は、制御油路4を遮断するようにSOL6を制御するとともに、制御油路4を連通するようにSOL7を制御する。これにより、図3に示す第2ポジションが選択される。第2ポジションが選択された後は、Dレンジの場合と同様、クラッチSOL8が開弁状態とされる。結果、変速機のレンジがRレンジになり、制御油路4が遮断される。
【0048】
コントローラ30は、Dレンジが選択された場合に、まず中間ポジションを実現してから、第1ポジションを実現するように構成することができる。Rレンジについても同様である。コントローラ30は、Pレンジつまり駐車レンジが選択された場合にも、中間ポジションを実現するように構成することができる。
【0049】
コントローラ30はさらに、SOL6又はSOL7の異常が発生した場合に、クラッチSOL8を開弁状態に維持する。SOL6又はSOL7の異常は例えば、開弁したままの状態になる開故障や、閉弁したままの状態になる閉故障である。SOL6又はSOL7の異常は、公知技術のほか適宜の技術で検出されてよい。
【0050】
図4A図4Bは、異常発生時のポジション選択装置100の説明図である。図4A図4Bでは、異常発生時に手動操作によってNレンジからDレンジを選択する場合を示す。図4A図4Bでは、SOL7に開故障が発生した場合を示す。
【0051】
図4Aに示すように、Nレンジの場合でも、クラッチSOL8を開弁状態に維持すると、クラッチSOL8の下流に油圧が供給され、スプール11の受圧面11aに油圧が作用する。結果、制御油路4は遮断され、受圧室R1及び受圧室R2には油圧が供給されなくなる。
【0052】
さらにこの場合、開弁状態となっているSOL6及びSOL7は、受圧室R1及び受圧室R2とドレンポート部P13とを連通する。このため、受圧室R1及び受圧室R2は、ドレンポート部P13を介して油をドレン可能な状態になる。
【0053】
結果、受圧室R1や受圧室R2の油圧の影響で、手動切替機構Mを介してピストン部1aを駆動するための操作力が大きくなることが防止される。これにより、手動切替機構Mを介した手動操作によって第1ピストン1を駆動することで、図4Bに示すように、Dレンジを容易に選択することができる。このことは、NレンジからDレンジを選択する場合以外のレンジ選択についても同様である。
【0054】
次に、本実施形態にかかる変速機の主な作用効果について説明する。
【0055】
変速機は、受圧室R1、受圧室R2で受圧するピストン部1aと、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/Bと、受圧室R1、受圧室R2の上流に位置するSOL6、SOL7と、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/Bの上流に位置するクラッチSOL8と、SOL6、SOL7の上流に位置するスプール11と、を有する。スプール11は、クラッチSOL8の下流に受圧面11aを有する。変速機では、受圧面11aに油圧が作用すると、SOL6、SOL7への油圧供給が阻止される。
【0056】
このような構成によれば、走行中にはクラッチSOL8を介して油圧を供給することで、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/Bを締結する。その一方で、このような構成によれば、走行中にクラッチSOL8の下流に位置するスプール11の受圧面11aに対しても油圧が供給される。
【0057】
このため、このような構成によれば、走行中にSOL6、SOL7への油圧供給を阻止することができる。したがって、走行中にSOL6、SOL7に異常が発生しても、レンジが切り替わることを防止できる(請求項1に対応する効果)。
【0058】
変速機は、ピストン部1aの手動切替機構Mを有する。変速機では、SOL6、SOL7の異常を検知すると、クラッチSOL8の下流へ油圧が供給される。
【0059】
このような構成によれば、クラッチSOL8の下流へ油圧を供給する状態を維持することで、手動切替機構Mを介した操作を阻害する要因を取り除くことができる。このため、そのような要因によって手動切替機構Mを介した操作が阻害されることを防止できる(請求項2に対応する効果)。
【0060】
変速機は、ピストン部1aとともに移動するバルブ部1bを有する。変速機では、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/Bは、バルブ部1bを介してクラッチSOL8と接続される。
【0061】
変速機は、このような構成である場合に、走行中にSOL6、SOL7に不具合が生じても、レンジが切り替わることを防止できる(請求項3に対応する効果)。
【0062】
変速機は、次のように構成されてもよい。
【0063】
図5は、変速機の変形例を示す図である。この例では、ポジション選択装置100の駆動部1cにパークモジュール200が取り付けられ、ポジション選択装置100によって、パークモジュール200が動作する。パークモジュール200は、車両のパークロックを行うパークロックデバイスであり、次のようにパークロック及びパークロックの解除を行う。
【0064】
すなわち、パークモジュール200は、変速機のレンジがPレンジの場合に、変速機の出力軸OSを回転不能にロックすることでパークロックを行う。また、パークモジュール200は、PレンジからPレンジ以外のレンジが選択された場合に、出力軸OSのロックを解除することでパークロックを解除する。
【0065】
この例において、ポジション選択装置100は、第2ポジションがPレンジに対応するポジションとされる。また、中間ポジションがRレンジに対応するポジションとされ、第1ポジションがNレンジ及びDレンジに対応するポジションとされる。
【0066】
このため、パークモジュール200は、第2ポジションが実現された場合に、パークロック係合状態とされ、パークロックを行うように構成される。また、パークモジュール200は、中間ポジション、第1ポジションが実現された場合に、パークロック解除状態とされるように構成される。
【0067】
ポジション選択装置100は、Pレンジ、Rレンジ及びNレンジのうち2つのレンジ間で変速機のレンジが変更される場合に、事前状態を経て選択レンジに応じた状態が達成される。事前状態では、第1SOL6及び第2SOL7は制御油路4を連通し、クラッチSOL8は供給油路5を遮断する。
【0068】
これにより、中間ポジションが実現され、受圧室R1、受圧室R2に油圧が供給される。Nレンジ及びDレンジ間で変速機のレンジが変更される場合、事前状態を経ずに選択レンジに応じた状態が達成される。
【0069】
Pレンジが選択された場合、第1SOL6は制御油路4を遮断し、第2SOL7は制御油路4を連通する。クラッチSOL8は、供給油路5を遮断する。これにより、受圧室R2に油圧が供給され、第2ポジションが実現される。結果、パークモジュール200が、パークロック係合状態とされる。この例に示すように、制御油路4は、遮断弁10の上流で供給油路5のうちクラッチSOL8よりも上流の部分に接続することができる。
【0070】
Rレンジが選択された場合、第1SOL6及び第2SOL7は制御油路4を連通し、クラッチSOL8は、供給油路5を連通する。これにより、事前状態で実現された中間ポジションのまま、後進ブレーキREV/Bに油が供給され、変速機のレンジがRレンジとされる。パークモジュール200は、パークロック解除状態とされる。
【0071】
Nレンジが選択された場合、第1SOL6は制御油路4を連通し、第2SOL7は制御油路4を遮断する。クラッチSOL8は、供給油路5を遮断する。これにより、受圧室R1に油が供給され、第1ポジションが実現される。また、第1ポジションはDレンジにも対応するところ、クラッチSOL8は下流の油をドレンできるので、変速機のレンジはNレンジとされる。パークモジュール200は、パークロック解除状態とされる。
【0072】
Dレンジが選択された場合、第1SOL6は制御油路4を連通し、第2SOL7は制御油路4を遮断する。クラッチSOL8は、供給油路5を連通する。これにより、Nレンジで実現された第1ポジションのまま、前進クラッチFWD/Cに油が供給され、変速機のレンジがDレンジとされる。パークモジュール200は、パークロック解除状態とされる。
【0073】
ポジション選択装置100がこのように構成された変速機でも、走行中にSOL6、SOL7に異常が発生して、変速機のレンジが切り替わることを防止できる。
【0074】
ポジション選択装置100がこのように構成された変速機はさらに、ピストン部1aの手動切替機構Mを有し、SOL6、SOL7の異常を検知すると、クラッチSOL8の下流へ油圧が供給される構成とされてもよい。この場合も、前述したように手動切替機構Mを介した操作を阻害する要因を取り除くことで、手動切替機構Mを介した操作が阻害されることを防止できる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0076】
例えば、図1から図3に示す変速機において、前進クラッチFWD/Cと後進ブレーキREV/Bとは入れ替えられてもよい。この場合、Rレンジが選択されると、図2に示す第1ポジションがRレンジに対応するポジションとして選択されるようにコントローラ30を構成すればよい。また、Dレンジが選択されると、図3に示す第2ポジションがDレンジに対応するポジションとして選択されるようにコントローラ30を構成すればよい。
【0077】
油圧アクチュエータは、パイロット圧を生成するソレノイド部と、ソレノイド部が生成したパイロット圧に応じて作動するバルブ部とを有して構成されるリニアSOLであってもよい。この場合、具体的にはリニアSOLのバルブ部が油圧を制御する油圧アクチュエータであって、油圧で駆動する油圧アクチュエータを構成していると把握することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 第1ピストン
1a ピストン部(レンジ切替用ピストン)
1b バルブ部(レンジ切替用バルブ)
2 第2ピストン
3 ハウジング
6 SOL(第1油圧アクチュエータ)
7 SOL(第1油圧アクチュエータ)
8 クラッチSOL(第2油圧アクチュエータ)
11 スプール
11a 受圧面
100 ポジション選択装置
R1 受圧室(第1受圧室)
R2 受圧室(第1受圧室)
FWD/C 前進クラッチ(締結要素)
REV/B 後進ブレーキ(締結要素)
M 手動切替機構
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5