(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する切削工具と、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを相対的に回転させる回転手段と、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを相対的に往復振動させる振動手段と、を有し、前記振動手段による往動時の加工部分と復動時の加工部分とが重複するように、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを所定の送り方向に沿って相対的に移動させることによって、前記ワークの振動切削加工を行う工作機械の制御装置であって、
前記切削工具の温度に基づいて、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との重複状態を調節する振動調節手段を有する、工作機械の制御装置。
前記振動調節手段は、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との重複期間、または、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との非重複期間を設定する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
前記振動調節手段は、前記往復振動における前記送り方向に対する前進量にかかる時間と後退量にかかる時間の比率を設定することによって、前記重複状態を調節する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の工作機械の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、ワークを切削工具に対して振動させて切削加工するような振動切削加工を行う場合の切削工具の温度に応じた切削条件の調節については考慮されていない。
【0005】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、切削工具の温度に応じた振動切削加工を行う工作機械の制御装置および工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、ワークを保持するワーク保持手段と、前記ワークを切削加工する切削工具と、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを相対的に回転させる回転手段と、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを相対的に往復振動させる振動手段と、を有し、前記振動手段による往動時の加工部分と復動時の加工部分とが重複するように、前記切削工具と前記ワーク保持手段とを所定の送り方向に沿って相対的に移動させることによって、前記ワークの振動切削加工を行う工作機械の制御装置であって、前記切削工具の温度に基づいて、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との重複状態を調節する振動調節手段を有することを特徴とする。
【0007】
第2に、前記振動調節手段は、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との重複期間、または、前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との非重複期間を設定することを特徴とする。
【0008】
第3に、前記振動調節手段は、前記切削工具の温度が所定の範囲内に維持されるように、前記重複状態を調節することを特徴とする。
【0009】
第4に、前記振動調節手段は、前記往復振動の振幅を設定することによって、前記重複状態を調節することを特徴とする。
【0010】
第5に、前記振動調節手段は、前記往復振動における前記送り方向に対する前進量にかかる時間と後退量にかかる時間の比率を設定することによって、前記重複状態を調節することを特徴とする。
【0011】
第6に、前記振動調節手段は、前記往復振動の振動数を設定することによって、前記重複状態を調節することを特徴とする。
【0012】
第7に、上記のいずれかの工作機械の制御装置を備えた工作機械であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以下の効果を得ることができる。
(1)振動調節手段が、往復振動条件、詳しくは往復振動による加工部分の重複状態を切削工具の温度に基づいて調節することによって切削工具に生じる発熱量を制御できるため、例えば切削の効率を低下させることなく、切削部分の温度を抑制して加工を行うことができる等、切削工具の温度に応じた振動切削加工を行うことができる。
【0014】
(2)前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との重複期間または前記往動時の加工部分と前記復動時の加工部分との非重複期間を設定可能とすることによって、例えば切削工具の温度が高くなった場合には、前記重複期間を前記非重複期間に対して長期間に設定し、加工中の切削工具の温度上昇を防止することが可能になる。
【0015】
(3)以上によって、前記切削工具の温度を所定の範囲に維持できることから、前記重複期間を調節して、加工中の切削工具の温度上昇を防止可能になる。
【0016】
(4)なお切削工具の温度が例えば高くなった場合に、振幅を例えば大きな値に設定することによって、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複している期間を長期間化し、切削工具の冷却時間を延長して、加工中の切削工具の温度上昇を防止することができる。
【0017】
(5)また切削工具の温度が例えば高くなった場合は、前進と後退にかかる時間比率を例えば変更前とは異なる値に設定し、重複期間を延長して切削工具の冷却時間を延長し、加工中の切削工具の温度上昇を防止することができる。
【0018】
(6)切削工具の温度が例えば高くなった場合は、振動数を例えば上昇させることによって、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複していない期間を短縮し、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複している期間を速やかに開始して、加工中の切削工具の温度上昇を防止することができる。
【0019】
(7)切削工具の温度に応じた振動切削加工を行うことが可能な工作機械を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の工作機械の制御装置および工作機械について説明する。
図1に示すように、本発明に係る工作機械100は、主軸110と、切削工具台130Aと、制御装置180とを備えている。
【0022】
主軸110の先端にはチャック120が設けられている。主軸110をワーク保持手段とし、ワークWはチャック120を介して主軸110に保持されている。主軸110は、主軸台110Aに回転自在に支持され、主軸モータの動力によって回転駆動される。前記主軸モータは、例えば主軸台110Aと主軸110との間に設けられる公知のビルトインモータとすることができる。
【0023】
Z軸方向送り機構160が工作機械100のベッドに設けられている。
Z軸方向送り機構160は、ベッドと一体的なベース161と、ベース161に固定されたZ軸方向ガイドレール162とを備えている。Z軸方向ガイドレール162には、Z軸方向送りテーブル163がZ軸方向ガイド164を介してスライド自在に支持されている。Z軸方向送りテーブル163に主軸台110Aが搭載される。主軸台110Aは、主軸110の軸線方向がZ軸方向ガイドレール162の延出方向と一致するように配置されている。
【0024】
リニアサーボモータ165は可動子165aおよび固定子165bを有し、可動子165aはZ軸方向送りテーブル163に設けられ、固定子165bはベース161に設けられている。Z軸方向送りテーブル163が、リニアサーボモータ165の駆動によってZ軸方向ガイドレール162に沿って移動すると、主軸台110Aが主軸110の軸線方向(図示のZ軸方向)に移動し、主軸110がZ軸方向に沿って移動する。
【0025】
切削工具台130Aは、ワークWを加工するバイト等の切削工具130が装着され、切削工具を保持する刃物台を構成している。
X軸方向送り機構150が工作機械100のベッド側に設けられている。
【0026】
X軸方向送り機構150は、前記ベッド側と一体的なベース151と、Z軸方向に対して上下方向で直交するX軸方向に延びるX軸方向ガイドレール152とを備えている。X軸方向ガイドレール152はベース151に固定され、X軸方向ガイドレール152には、X軸方向送りテーブル153がX軸方向ガイド154を介してスライド自在に支持されている。X軸方向送りテーブル153には切削工具台130Aが搭載される。
【0027】
リニアサーボモータ155は可動子155aおよび固定子155bを有し、可動子155aは送りテーブル153に設けられ、固定子155bはベース151に設けられている。X軸方向送りテーブル153がリニアサーボモータ155の駆動によってX軸方向ガイドレール152に沿ってX軸方向に移動すると、切削工具台130AがX軸方向に移動し、切削工具130がX軸方向に移動する。
【0028】
なお、Y軸方向送り機構を設けてもよい。Y軸方向は図示のZ軸方向およびX軸方向に直交する方向である。前記Y軸方向送り機構はX軸方向送り機構150と同様の構造とすることができる。X軸方向送り機構150をY軸方向送り機構を介してベッドに搭載することにより、Y軸方向送りテーブルをリニアサーボモータの駆動によってY軸方向に移動させ、切削工具台130AをX軸方向に加えてY軸方向に移動させ、切削工具130をX軸方向およびY軸方向に移動させることができる。
前記Y軸方向送り機構を、X軸方向送り機構150を介してベッドに搭載し、前記Y軸方向送りテーブルに切削工具台130Aを搭載してもよい。
【0029】
主軸110の回転、X軸方向送り機構150やZ軸方向送り機構160等の移動は、制御装置180で制御される。
X軸方向送り機構150とZ軸方向送り機構160によって、あるいはY軸方向送り機構を含めて送り手段が構成され、X軸方向送り機構150あるいはY軸方向送り機構とZ軸方向送り機構160との協動により、主軸台110Aと切削工具台130Aとを所定の位置に移動させることができる。主軸台110Aと切削工具台130Aとを所定の位置に移動させることによって、切削工具130を主軸110に対して相対的に移動させるとともに、主軸モータを、主軸110と切削工具130とを相対的に回転させる回転手段として駆動させ、
図2に示すように、ワークWを切削工具130に対して回転させることによって、ワークWを所望の形状に加工することができる。
【0030】
本実施形態においては、主軸台110Aと切削工具台130Aの両方が移動できる構成としたが、主軸台110Aをベッドに固定し、切削工具台130AをX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能にしてもよい。この場合、前記送り手段は切削工具台130Aを移動させる送り機構によって構成される。あるいは、切削工具台130Aを固定し、主軸台110AをX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動可能にしてもよい。この場合、前記送り手段は前記ベッドに設けた送り機構によって構成される。
【0031】
本実施形態においては、X軸方向送り機構150やZ軸方向送り機構160にリニアサーボモータを用いた例を挙げて説明したが、公知のボールネジとサーボモータを用いてもよい。
本実施形態においては、切削工具130に対してワークWを回転させているが、切削工具130にドリル等の回転工具を用い、ワークWに対して切削工具130を回転させてもよい。この場合、切削工具130を回転させるモータが本発明の回転手段に相当する。
【0032】
制御装置180は、主軸台110Aに対して切削工具台130Aを、所定の送り方向に沿って、
図3に示すように所定の前進量だけ前進(往動)移動させた後、所定の後退量だけ後退(復動)移動させることにより、ワークWに対して切削工具130を前進量と後退量との差(進行量)だけ送ることができる。
X軸方向送り機構150とZ軸方向送り機構160、あるいはY軸方向送り機構を含めた送り手段によって振動手段が構成され、主軸台110Aと切削工具台130Aとを往動移動および復動移動させることにより、ワークWに対して切削工具130を往復振動させることができる。
【0033】
切削工具台130Aは、前記振動手段により、往動移動と復動移動とを繰り返して振動を行いながら、前記送り手段によって送り方向に沿って送られ、主軸110の1回転分、すなわち、主軸位相0°から360°まで変化する間の上記進行量の合計が送り量になる。
切削工具130が送り方向に沿って往動移動と復動移動を繰り返してワークWを加工することで、ワークWの周面は、
図4に示すように、切削工具130によって正弦曲線状に加工される。
図4は、主軸110の1回転当たりにおける主軸台110Aの振動数Dが3.5の例を示す。
【0034】
切削工具130で加工された主軸110のn(nは1以上の整数)回転目におけるワークWの周面形状(
図4に実線で示す)と、主軸110のn+1回転目におけるワークWの周面形状(
図4に破線で示す)とは、主軸位相方向(
図4のグラフの横軸方向)でずれている。
図4に破線で示したワークWの周面形状の谷の最低点(切削工具130における山の最高点)の位置が、
図4に実線で示したワークWの周面形状の谷の最低点(切削工具130における山の最高点)の位置に対して、主軸位相方向で一致しない。
【0035】
これにより、切削工具130の刃先軌跡は、今回の往動時の切削加工部分と次回の復動時の切削加工部分とが重複し、例えば主軸110のn+1回転目におけるワークWの周面形状に、主軸110のn回転目におけるワークWの周面形状が含まれるので、切削工具130にはワークWを加工しない空振り動作が生じる。往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複期間によるこの空振り動作時に、ワークWから生じた切屑は分断される。工作機械100は、切屑を分断しながらワークWの外形等を加工し、切削工具130は、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複が発生しない非重複期間でワークWの加工(切削)を行う。
【0036】
主軸110(ワークW)の1回転当たりにおける切削工具台130A(切削工具130)の振動数Dは、例えば1.1や1.25回等とすることができ、1回よりも小さな値に設定することもできる。振動数Dを1回よりも小さな値に設定した場合、切削工具台130Aが1往復するまでに、主軸110は1回転よりも多く回転する。振動数Dは、1振動当たりの主軸110の回転数として設定することもできる。
【0037】
図5に示されるように、制御装置180は、制御部181、温度検出部182、記憶部184を有し、これらはバスを介して接続される。
制御部181は、CPU等からなり、前記各モータの作動を制御するモータ制御部190や前記振動手段の作動を制御して前記振動を調節する振動調節部191を備える。制御部181は、記憶部184の例えばROMに格納されている各種のプログラムやデータをRAMにロードし、前記各種プログラムを実行することにより、プログラムに基づいて、モータ制御部190や振動調節部191を介して、工作機械100の動作を制御することができる。
【0038】
振動手段による切削工具130の往復振動は、制御部181により所定の指令周期Tに基づく指令周波数fcで実行される。
制御部181が、例えば1秒間に250回の動作指令を送ることが可能であった場合、動作指令は1÷250=4(ms)周期(基準周期ITともいう)で出力可能である。一般的には、指令周期Tはこの基準周期の整数倍である。
【0039】
指令周期Tが例えば基準周期4(ms)の4倍の16(ms)である場合、モータ制御部190は、切削工具130が送り方向に沿って16(ms)毎に往復振動を実行するように、Z軸方向送り機構160やX軸方向送り機構150、あるいはY軸方向送り機構に対して駆動信号を出力する。この場合、切削工具130は指令周期T=16(ms)に起因する指令周波数fc=1/T=1÷(0.004×4)=62.5(Hz)で往復振動を行う。
【0040】
主軸110の回転数をS(r/min)、ワークWの回転に対する切削工具130の振動数をD(回/r)、ワークWに対する切削工具130の振動周波数f(Hz)とすると、振動数Dは、D=f×60/Sとなる。回転数Sと振動数Dとは、振動周波数fを定数として反比例し、主軸110は、振動周波数fを高くするほど高速回転することができ、また振動数Dを小さくするほど高速回転することができる。
【0041】
制御部181は、ワークWを所定の形状に加工するために、回転数Sで主軸110を回転させるとともに、振動数Dで切削工具130を振動させながら送り方向に送る。モータ制御部190は、基準周期IT毎に、リニアサーボモータ155等に対して動作指令を出力し、主軸台110Aまたは切削工具台130Aが動作指令される座標位置に追従して移動することによって、指令周波数fcで切削工具130を振動させることができる。
【0042】
制御装置180では、
図6に示されるように、加工が開始されると(ステップS1)、制御部181が、温度検出部182の出力に基づき、切削工具130の先端(刃先)の温度Tを算出する(ステップS2)。
温度検出部182は、刃先付近に取り付けられる熱電対や、赤外線検出素子などによって構成することができる。制御部181は、温度Tを算出すると、算出した温度Tから切削工具130の温度維持制御を行うか否かを、例えば記憶部184に格納された閾値となる設定値と温度Tとの比較によって判定する(ステップS3)。
【0043】
前記設定値は、例えば150℃〜200℃のような温度範囲とすることができる。また設定値を、上限温度または下限温度としたり、「初期温度に対して+40%の変化」、「飽和温度からの−10%の変化」とするように所定温度に対する変化率で指定したり、所定温度に対して「−10%〜+20%」のように変化率の範囲とすることもできる。予め算出された加工時の平均温度としたり、非切削開始時からの増加率としたりすることもできる。前記設定値は、例えば、工作機械の作業者によってキーボード等の入力部を介して設定することができる。
【0044】
例えば前記設定値を上限温度とし、刃先の温度Tが設定値以上になり、温度維持制御が必要と判定する場合(ステップS3のYES)、振動調節部191によって、刃先の温度が所定の範囲内に維持されるように、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複状態と非重複期間とをそれぞれ設定して、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複状態を調節し(ステップS4)、ステップS1に戻り、新たに調節された重複状態で切削加工を継続する。
振動調節部191が本発明の振動調節手段に相当する。
なおステップS3で温度維持制御が不要と判定する(ステップS3のNO)と、加工終了をチェックし(ステップS5)、加工を終了しない場合はステップS2に戻り、加工を終了する場合は、フローを終了する。
【0045】
非重複期間では、ワークWと切削工具130とが送り方向で接触して切削加工が行われるため、切削に伴う摩擦熱が生じ、切削工具130の刃先の温度が上昇する。一方、重複期間では、ワークWと切削工具130とが送り方向では接触しないため、切削工具130に生じた熱が放熱され、刃先の温度が下降する。重複期間の放熱と非重複期間の刃先の温度上昇に基づき、切削工具130に発生する熱量を制御することができる。
重複期間または非重複期間が予め定められた所定期間になるように、振動条件を設定することができる。
【0046】
重複期間と非重複期間は、
図7、
図8に示されるように、振動調節部191による往復振動における振幅の調節によって設定することができる。前記振幅は、例えば、前記送り量に所定の振幅送り比率Qを乗ずることによって定めることができる。この場合、振幅の調節は、振幅送り比率Qの設定を変更することによって行うことができる。振幅送り比率Qは、加工プログラムに振幅送り比率Qの値を記載することによって設定することができる。
例えば、刃先の温度Tが設定値を超えたときに、振幅送り比率Qの値を高くすることにより、振幅送り比率Qの変更前に比較して、重複期間を延長し、非重複期間を短縮することができる。
【0047】
図7は、主軸110のn回転目の刃先経路を実線で、主軸110のn+1回転目の刃先経路を破線で、主軸110のn+2回転目の刃先経路を一点鎖線で示しており、(A)〜(C)は各々、振幅送り比率Qをそれぞれ2.0、3.0、4.0とし、Q=2.0のときの重複期間をO
Aで、Q=3.0のときの重複期間をO
Bで、Q=4.0のときの重複期間をO
Cで示す。
【0048】
図7に示すように、重複期間は、O
A、O
B、O
Cの順に大きくなり(O
A<O
B<O
C)、振幅送り比率Qを大きくするに従って刃先の放熱される期間(放熱量)を増やすことができる。
例えば、振幅送り比率Qを2.0から3.0に変更するための第1の閾値と、振幅送り比率Qを3.0から4.0に変更するための第2の閾値を前記設定値として設けた場合、
図8に示されるように、振動条件として、刃先の温度Tが第1の閾値に達すると、振幅送り比率Qが3.0に設定され、刃先の温度の上昇を抑制し、刃先の温度Tが第2の閾値に達すると、振幅送り比率Qが4.0に設定され、刃先の温度を概ね維持することが可能となる。
【0049】
切削工具130の温度Tに基づいて、振幅送り比率Qを変更し、重複期間または非重複期間を調節することによって、切削工具130の刃先の温度を所定の温度範囲に維持して振動切削加工を行うことができる。
振幅送り比率Qは、刃先の温度Tが第1の閾値や第2の閾値を超える毎に順次自動的に変更して設定することができる。
なお振幅送り比率Qを1.0刻みで増加させる他、所定値に対して20%増加させる等のように振幅送り比率Qの変化率を設定したり、計算式やテーブルを予め設け、計算式やテーブルから所定の振幅送り比率Qを求めて設定したりすることもできる。
【0050】
重複期間と非重複期間は、
図9、
図10に示されるように、振動調節部191による往復振動の1振動における後退量の割合(前進後退比率K)の調節によって設定することができる。前記後退量の割合は、例えば、往復振動の送り方向に対する前進量にかかる時間と後退量にかかる時間の比率によって定めることができる。前進後退比率Kは、加工プログラムに前進後退比率Kの値を記載することによって設定することができる。
例えば、刃先の温度Tが設定値を超えたときに、前進後退比率Kの値を高くすることにより、前進後退比率Kの変更前に比較して、重複期間を延長し、非重複期間を短縮することができる。
【0051】
図9は、主軸110のn回転目の刃先経路を実線で、主軸110のn+1回転目の刃先経路を破線で、主軸110のn+2回転目の刃先経路を一点鎖線で示しており、(A)、(B)は各々、前進後退比率Kをそれぞれ0.5、0.9とし、K=0.5のときの重複期間をO
Dで、K=0.9のときの重複期間をO
Eで示す。
【0052】
図9に示すように、重複期間は、O
D、O
Eの順に大きくなり(O
D<O
E)、前進後退比率Kを大きくするに従って刃先の放熱される期間(放熱量)を増やすことができる。
例えば、前進後退比率Kを0.5から0.9に変更するための第1の閾値(上限温度)と、前進後退比率Kを0.9から0.5に変更するための第2の閾値(下限温度)を前記設定値として設けた場合、
図10に示されるように、振動条件として、刃先の温度Tが第1の閾値に達すると、前進後退比率Kが0.9に設定され、刃先の温度の上昇を抑制し、刃先の温度Tが第2の閾値に達すると、前進後退比率Kが0.5に設定され、刃先の温度の下降を抑制する。
【0053】
以降、刃先の温度Tが第1の閾値または第2の閾値に達する度に、前進後退比率Kを変更することにより、刃先の温度を所定の範囲内に収めることができる。
切削工具130の温度Tに基づいて、前進後退比率Kを変更し、重複期間または非重複期間を調節することによって、切削工具130の刃先の温度を所定の温度範囲に維持して振動切削加工を行うことができる。
【0054】
前進後退比率Kは、刃先の温度Tが第1の閾値や第2の閾値を超える毎に順次自動的に変更して設定することができる。なお、刃先の温度を所定の温度に維持できる前進後退比率Kに設定し、以降はその前進後退比率Kのまま振動切削加工を継続するようにすることもできる。
【0055】
重複期間と非重複期間は、
図11、
図12、
図13に示されるように、振動調節部191による往復振動の振動数Dの調節によって設定することができる。振動数Dは、加工プログラムに、主軸110の回転数Sや、ワークWに対する切削工具130の振動周波数fの値を記載することによって設定することができる。
例えば、刃先の温度Tが設定値を超えたときに、振動数Dの値を高くすることにより、振動数Dの変更前に比較して、重複・非重複状態の回数を増加させ、非重複期間を短縮することができる。
【0056】
図11は、主軸110のn回転目の刃先経路を実線で、主軸110のn+1回転目の刃先経路を破線で、主軸110のn+2回転目の刃先経路を一点鎖線で示しており、(A)、(B)は各々、振動数Dをそれぞれ0.5、1.5とし、D=0.5のときの非重複期間をQ
Fで、D=1.5のときの非重複期間をQ
Gで示す。
【0057】
図11に示すように、非重複期間は、Q
G、Q
Fの順に大きくなり(Q
G<Q
F)、振動数Dを大きくするに従って刃先の放熱される機会を増加させて放熱量を増加させることができる。
図12に実線で示した振動数D=0.5では、刃先の温度がほぼ飽和した後に重複期間となって放熱される。
図12に破線で示した振動数D=1.5では、刃先の温度が飽和する前に重複期間となって放熱される。
このため、主軸110の2回転において、振動数D=0.5で1振動した時点の刃先の温度と、振動数D=1.5で3振動した時点の刃先の温度とを比較すると、振動数D=1.5の方がΔtだけ低くなる。
【0058】
例えば、振動数Dを0.5から1.5に変更するための閾値(上限温度)を前記設定値として設けた場合、
図13に示されるように、振動条件として、刃先の温度Tが閾値に達すると、振動数Dが1.5に設定され、刃先の温度を概ね維持することが可能となる。
切削工具130の温度Tに基づいて、振動数Dを変更し、重複期間または非重複期間を調節することによって、切削工具130の刃先の温度を所定の温度範囲に維持して振動切削加工を行うことができる。閾値を複数設けることによって、振動数Dを、刃先の温度Tが各閾値を超える毎に順次自動的に変更して設定するように構成することができる。
【0059】
なお、振幅送り比率Q、前進後退比率K、振動数Dを、往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複状態を調節して重複期間と非重複期間とを調節するパラメータとし、上記
図7、
図8の例で説明した振幅送り比率Qの設定、
図9、
図10の例で説明した前進後退比率Kの設定、
図11、
図12、
図13の例で説明した振動数Dの設定を組み合わせることも可能である。
例えば、予め優先するパラメータを定め、作業者等がパラメータの優先順位をプログラム等に入力し、各パラメータによる調節範囲を超える毎に、優先順位の順に各パラメータの値を順に変更するように構成することができる。
またワークWの材質や切削工具材種の各組み合わせパターンに応じて優先するパラメータを自動で設定するようにしてもよい。
【0060】
所定のプログラムブロックに対応する加工の実行中にパラメータの値を変更すると、変更の直後は往動時の加工部分と復動時の加工部分との重複が十分に発生しない場合が考えられるため、パラメータの値の変更は、プログラムブロック毎、あるいは加工の1サイクル毎に行うようにしてもよい。
パラメータの値の変更後、所定期間は変更したパラメータの値によって継続して加工を実行するように構成することもできる。