(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者が行った実験および検討等によれば、導電体と低融点体との接触箇所では、低融点体の融点よりも低い温度であっても(低融点体が固相であっても)、導電体と低融点体とが徐々に合金層を構成し、この合金層に起因してヒューズエレメントが設計通りに機能しない場合があることが明らかになった。
【0007】
具体的には、上記検討等によれば、導電体と低融点体との合金層の融点は、低融点体の融点よりも高い。例えば、導電体が銅(Cu)から構成され、低融点体が錫(Sn)から構成される場合、低融点体の融点(純Sn:232℃)よりも、合金層の融点(Cu
6Sn
5(η相):415℃,Cu
6Sn
5(ε相):676℃)は高温である。その結果、ヒューズエレメントが溶断温度(低融点体の融点)に達しても、溶融した低融点体が(溶融していない)合金層上に表面張力によって留まり、導電体に接触できない場合がある(例えば、
図4を参照。)。
【0008】
上記の場合、液相の低融点体と導電体とが接触していないため、導電体の拡散(侵食)は生じない。その結果、導電体の温度が設計した溶断温度(低融点体の融点)に達しても導電体が溶断されず、同温度が合金層の融点に達した際にようやく導電体が溶断されることになる。換言すると、ヒューズエレメントが設計通りに機能しないことになる。
【0009】
以上の理由から、上述した従来のヒューズエレメントは、場合によっては(合金層の形成の度合いによっては)設計通りに機能しない可能性があると考えられる。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒューズエレメントを出来る限り設計通りの温度にて確実に溶断させることが可能なヒューズエレメント、及び、そのヒューズエレメントを用いたヒューズユニット、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係る「ヒューズエレメント」は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1)
金属材料から構成された導電体と、前記金属材料の融点よりも低い融点を有する低融点金属材料から構成された低融点体と、を備えたヒューズエレメントであって、
前記導電体は、
該導電体における所定の目標溶断箇所と、前記低融点体と、を繋ぐ案内路であって、溶融した前記低融点体の濡れ広がりの度合いが該案内路とは異なる部分よりも大きいことにより、溶融した前記低融点体を前記目標溶断箇所に向けて案内可能な案内路、を有し、
前記低融点体は、
前記案内路のうちの該低融点体に近い部分
のみに該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメントであること。
(2)
上記(1)に記載のヒューズエレメントにおいて、
前記案内路が、
前記低融点体から前記目標溶断箇所に向けて延びるように前記導電体に設けられた溝を含み、
前記低融点体が、
前記溝のうちの該低融点体に近い部分
のみに該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメントであること。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載のヒューズエレメントにおいて
前記案内路が、
前記導電体に形成された貫通孔と、前記貫通孔の一端から前記目標溶断箇所に向けて延びるように前記導電体に設けられた溝と、を含み、
前記低融点体が、
前記貫通孔の他端
のみに該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメントであること。
(4)
上記(1)〜上記(3)の何れか一つに記載のヒューズエレメントにおいて、
前記導電体が、
該導電体の本体部から延出した延出部であって、前記本体部を覆うように折り返されて前記本体部と該延出部との間に空隙を画成する延出部、を含み、
前記案内路が、
前記延出部に形成された貫通孔であって該貫通孔の一端が前記空隙に開口した貫通孔と、前記貫通孔の前記一端と前記目標溶断箇所との間の前記空隙と、を含み、
前記低融点体が、
前記貫通孔の他端
のみに該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメントであること。
【0012】
上記(1)の構成のヒューズエレメントによれば、導電体が、溶融した(液相の)低融点体を導電体の目標溶断箇所に案内可能な案内路を備えている。そして、その案内路のうちの低融点体に近い部分に(固相の)低融点体の一部が入り込むように、低融点体が配置されている。このとき、従来のヒューズエレメントと同様、低融点体と導電体とが接触している箇所(案内路の中であっても)には、上述した合金層が形成され得る。
【0013】
しかし、導電体の温度が設計した溶断温度に達したとき、溶融した(液相の)低融点体のうちの一部でも案内路に接触すれば、案内路の特性(低融点体の濡れ広がりの度合いが大きい)から、溶融した低融点体が、案内路に引き込まれるように移動し得る。換言すると、溶融した低融点体が、表面張力に打ち勝って合金層の外側に向けて流れ出ることが可能となる。そして、低融点体が案内路に一旦流れ込めば、低融点体が目標溶断箇所に案内され、設計通りに目標溶断箇所が溶断(低融点体によって侵食)されることになる。
【0014】
よって、上述した案内路が存在しない場合、又は、案内路に低融点体の一部が入り込むように配置されていない場合に比べ、溶融した低融点体が表面張力に打ち勝って合金層の外側に(ひいては、目標溶断箇所に向けて)移動し易いことになる。
【0015】
したがって、本構成のヒューズエレメントは、ヒューズエレメントを出来る限り設計した温度にて確実に溶断させることが可能である。
【0016】
上記(2)の構成のヒューズエレメントによれば、案内路の一例として、溝が導電体に形成される。この溝に低融点体の一部が入り込むように配置されていれば、低融点体が溶融したとき、例えば溝の形状に起因した毛細管現象によって溶融した低融点体が溝の中に引き込まれ、溶融した低融点体が合金層の外側に移動することになる。よって、本構成のヒューズエレメントは、ヒューズエレメントを出来る限り設計通りの温度にて確実に溶断させることが可能である。
【0017】
上記(3)の構成のヒューズエレメントによれば、案内路の一例として、貫通孔および溝が導電体に形成される。この貫通孔に低融点体の一部が入り込むように配置されていれば、低融点体が溶融したとき、溶融した低融点体は、まず、貫通孔を通り抜けるように移動し、次いで、毛細管現象などによって溝に沿って目標溶断箇所に向けて案内されることになる。これにより、案内路が溝のみである場合に比べ、溶融した低融点体の流れを制御し易い等の効果が期待される。よって、本構成のヒューズエレメントは、ヒューズエレメントを出来る限り設計通りの温度にて確実に溶断させることが可能である。
【0018】
上記(4)の構成のヒューズエレメントによれば、案内路の一例として、延出部に設けられた貫通孔および延出部と本体部との間の空隙が、導電体に形成される。この貫通孔に低融点体の一部が入り込むように配置されていれば、低融点体が溶融したとき、溶融した低融点体は、まず、貫通孔を通り抜けるように移動し、次いで、毛細管現象などによって隙間を通じて目標溶断箇所に向けて案内されることになる。これにより、案内路が溝のみである場合に比べ、溶融した低融点体の流れを制御し易い等の効果が期待される。更に、導電体(本体部)に溝および貫通孔を設けないため、導電体(本体部)の通電断面積への影響がない(例えば、意図せず、目標溶断箇所よりも通電断面積が小さくなることがない)。よって、本構成のヒューズエレメントは、ヒューズエレメントの導電特性(本体部の通電断面積)に影響を及ぼすことなく、ヒューズエレメントを出来る限り設計通りの温度にて確実に溶断させることが可能である。
【0019】
更に、前述した目的を達成するために、本発明に係る「ヒューズユニット」は、下記(5)を特徴としている。
(5)
上記(1)〜上記(4)の何れか一つに記載のヒューズエレメントと、前記ヒューズエレメントを収容するハウジングと、を備えたヒューズユニットであること。
【0020】
上記(5)の構成のヒューズユニットによれば、ヒューズエレメントが上記(1)〜(4)と同様、出来る限り設計した温度にて確実に溶断される。よって、このようなヒューズエレメントを備えた本構成のヒューズユニットは、出来る限り設計した温度にて確実に回路を遮断(ヒューズエレメントを溶断)させることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ヒューズエレメントを出来る限り設計した温度にて確実に溶断させることが可能なヒューズエレメント、及び、そのヒューズエレメントを用いたヒューズユニット、を提供できる。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るヒューズエレメント、及び、ヒューズユニットについて説明する。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るヒューズユニット1は、ヒューズエレメント10と、樹脂製のハウジング20と、を備える。ハウジング20は、ヒューズエレメント10の大部分を覆う(収容する)ように、樹脂材料によりヒューズエレメント10と一体的に成形(モールド成形)されている。ヒューズユニット1は、バッテリ(図示省略)と各種外部負荷(図示省略)から延びる各種電線(図示省略)とを電気的に接続すると共に、電線に定格を超える電流が流れたときにバッテリと電線との電気的接続を断つ機能を有する。
【0026】
図2に示すように、ヒューズエレメント10は、バスバー30(板状の金属部材)と、バスバー30における複数(本例では、3つ)のヒューズ部40にそれぞれ配置された複数(本例では、3つ)の低融点体60と、を備える。
【0027】
バスバー30は、ハウジング20から外部に(少なくとも一部が)露出している部位として、バッテリ接続部31と、第1接続部32と、第2接続部33と、第3接続部34と、複数のヒューズ部40と、を備える。バスバー30の板厚は、本例では、全域に亘って一定である。
【0028】
ヒューズユニット1(ヒューズエレメント10)は、バッテリ端子(図示省略)を介して、バッテリに接続される。具体的には、このバッテリ端子は、バッテリの上面に配置されたバッテリポスト(図示省略)に接続されると共に、円柱状の電極(スタッドボルト。図示省略)を有している。バッテリ接続部31は、自身に設けられた貫通孔31aにこのスタッドボルトが挿通されてボルト締結されることにより、スタッドボルトに固定される。これにより、バッテリ接続部31が、バッテリ端子を介してバッテリポスト(ひいてはバッテリ)に電気的に接続された状態にて固定されることになる。
【0029】
第1接続部32は、自身の端子部32aを電線の端子部(図示省略)と接続することにより、その電線と電気的に接続される。また、第1接続部32は、自身の貫通孔32bに挿通される円柱状の電極21(オルタネータ用ボルト。
図1を参照)を用いて、オルタネータに接続される電線の端末に設けられた端子部(図示省略)と接続されることにより、オルタネータと電気的に接続される。第2接続部33は、自身の端子部33aを他の電線の端子部(図示省略)と接続することにより、その電線と電気的に接続される。第3接続部34は、自身の端子部34aを更に他の電線の端子部(図示省略)と接続することにより、その電線と電気的に接続される。
【0030】
図2に示すように、板状のバッテリ接続部31は、板状の第1〜第3接続部32〜34と、対応する略矩形状の板状のヒューズ部40を介してそれぞれ接続されている。換言すると、バッテリと、各電線(及び、オルタネータに接続される電線)とは、対応するヒューズ部40を介してそれぞれ電気的に接続されている。
【0031】
各ヒューズ部40は、定格を超える電流が流れたときにジュール熱により、溶断されるように設計されている。ヒューズ部40が溶断されると、第1〜第3接続部32〜34のうち溶断したヒューズ部40と接続されている接続部と、バッテリ接続部31との電気的接続が断たれる。複数のヒューズ部40の形状は同形である。以下、説明の便宜上、第1〜第3接続部32〜34を、「第1接続部32等」と総称することもある。
【0032】
以下、
図3〜
図6を参照しながら、ヒューズ部40について説明する。
図3に示すように、ヒューズ部40は、第1接続部32等からバッテリ接続部31に向けて延びる矩形状の延在部41と、バッテリ接続部31から第1接続部32等に向けて延びる矩形状の溶断部42と、延在部41及び溶断部42の双方の先端部を繋ぐ円形状の載置部43と、から構成される。
【0033】
載置部43の表(おもて)面(
図3における上面)には、固相の低融点体60が載置されている。本例では、低融点体60は半球状の形状を有する。低融点体60を構成する材料(低融点金属材料)は、例えば、錫(Sn)を主成分とする合金である。一方、ヒューズ部40(バスバー30)を構成する金属材料は、例えば、銅(Cu)を主成分とする合金である。低融点体60を構成する低融点金属材料の融点(純Sn:232℃)は、ヒューズ部40を構成する金属材料の融点(純Cu:1085℃)よりも低い。
【0034】
溶断部42の幅は延在部41の幅より狭く、載置部43の幅は延在部41の幅より大きい。即ち、ヒューズ部40において、電流が流れる面積(以下「通電断面積」という。)が最も小さいのは溶断部42である。通電断面積が小さいほど、電気抵抗がより大きくなるため、ジュール熱がより多く発生する。よって、ヒューズ部40に電流が流れる際、溶断部42の温度がヒューズ部40の他の部分の温度よりも高くなる。
【0035】
溶断部42と載置部43との境界部の表(おもて)面には、ヒューズ部40の延在方向に沿って両者を跨ぐように延びるガイド溝44が設けられている。本例では、同形の2本のガイド溝44が、ヒューズ部40の延在方向と直交する方向に並ぶように設けられている。
図3(c)等に示すように、低融点体60の一部は、ガイド溝44に入り込んでいる。
【0036】
後述するように、ガイド溝44は、溶融した低融点体60を目標溶断箇所45(
図3(c)等を参照)に向けて案内するために設けられている。目標溶断箇所45とは、ヒューズ部40において溶断させる目標とする箇所である。目標溶断箇所45は、ヒューズ部40における固相の低融点体60が載置されていない面に対応する箇所に設定されている。
図3(c)等に示すように、本例では、目標溶断箇所45は、溶断部42側に位置するガイド溝44の端部(バッテリ接続部31に近い方の端部)の近傍に位置している。
【0037】
ガイド溝44の断面形状は、特に制限されないが、溶融した低融点体60を毛細管現象によって案内可能な程度の溝幅を有している。更に、ガイド溝44の内壁面の表面は、平滑な面であってもよく、微細な凹凸が形成された面であってもよい。換言すると、ガイド溝44は、液相の低融点体60の濡れ性(濡れ広がりの度合い)が、ヒューズ部40の他の部分における液相の低融点体60の濡れ性と比べて大きくなるように構成されている。なお、ガイド溝44の表面に微細な凹凸を形成する手法として、例えば、ガイド溝44を切削加工で形成すること等が挙げられる。
【0038】
以下、
図3に示すヒューズ部40における溶断動作を説明するにあたり、その準備として、まず、
図4に示す比較例における溶断動作を説明する。
図4に示すように、この比較例のヒューズ部では、
図3に示すヒューズ部40とは異なり、ガイド溝44が形成されていない。そして、半球状の固相の低融点体60の全体が、円形の載置部43の上面(平面)に載置されている。
【0039】
なお、この種のヒューズ部の溶断原理は、以下の通りである。まず、ヒューズ部に電流が流れたときの発熱(ジュール熱)により、低融点体が優先的に溶融する。溶融した低融点体がヒューズ部に接触するとヒューズ部は融点に達していなくても、ヒューズ部と液相の低融点体との接触箇所において、ヒューズ部を構成する金属材料が液相の低融点体の中に拡散する。この拡散により、ヒューズ部が徐々に侵食され、最終的にヒューズ部が溶断(切断)される。このように、ヒューズの温度が低融点体の融点に達した時点で(ヒューズ部を構成する金属材料の融点に達していなくても)、ヒューズ部を溶断することができる。換言すると、ヒューズ部をより実用的な温度(低融点体の融点)にて溶断することができる。
【0040】
以上の原理から、
図4に示す比較例のヒューズ部では、目標溶断箇所45は、固相の低融点体60が載置されている面(即ち、載置部43)に対応する箇所に位置している。換言すると、低融点体60が目標溶断箇所45に配置されている。
【0041】
ところで、発明者が行った実験および検討等によれば、低融点体の融点よりも低い温度(例えば、室温)であっても、ヒューズ部と低融点体との接触箇所(界面)にて、両者の合金層が徐々に形成されることが明らかになった。更に、この合金層の融点は、低融点体の融点よりも高いことが明らかになった。例えば、導電体が銅(Cu)から構成され、低融点体が錫(Sn)から構成される場合、低融点体の融点(純Sn:232℃)よりも、合金層の融点(Cu
6Sn
5(η相):415℃,Cu
6Sn
5(ε相):676℃)は高温である。
【0042】
その結果、
図4に示す比較例では、
図4(a)に示すように、低融点体60が固相の状態であっても、ヒューズ部(具体的には、載置部43)と低融点体60との接触箇所(界面)に、合金層46が形成されている。
【0043】
このように合金層46が形成されている状態では、
図4(b)に示すように、低融点体60が溶融して液相になっても、液相の低融点体60が合金層46上に表面張力によって留まり、ヒューズ部(具体的には、載置部43)に接触しない場合があることが明らかになった。この理由は、液相の低融点体60の周縁部が、表面張力に打ち勝って径方向外側に移動しようとする際の移動のし易さが、全周に亘って同程度になっている(バランスしている)ことに因ると考えられる。
【0044】
この場合、液相の低融点体60とヒューズ部(具体的には、載置部43の表面)とが接触しないため、上述したヒューズ部を構成する金属材料の拡散(侵食)は生じない。そのため、
図4に示す比較例では、設計した溶断温度(低融点体60の融点)に達しても、ヒューズ部が溶断されない場合が発生し得る。
【0045】
以下、
図3に示した本発明の実施形態に係るヒューズ部40における溶断動作について説明する。
図5(a)に示すように、このヒューズ部40においても、
図4に示す比較例と同様、低融点体60が固相の状態であっても、ヒューズ部40と低融点体60との接触箇所において合金層46が形成され得る。
図5(a)に示す例では、合金層46は、載置部43の上面、及び、ガイド溝44における低融点体60の一部が入り込んだ部分の表面44aに形成されている。
【0046】
ここで、ヒューズ部40に電流が流れて低融点体60が溶融すると、低融点体60の一部がガイド溝44に入り込んでいるため、ガイド溝44の幅が狭いことに起因する毛細管現象により、低融点体60のガイド溝44に入り込んだ部分が、目標溶断箇所45に向けてガイド溝44内に引き込まれるように移動する。これにより、溶融した低融点体60が、表面張力に打ち勝って合金層46の外側に向けて流れ出ることが可能となる。そして、低融点体60がガイド溝44に一旦流れ込めば、低融点体60が目標溶断箇所45に案内され、設計通りに目標溶断箇所45が溶断(後述するように、低融点体60によって侵食)されることになる。
【0047】
更に、ヒューズ部40では、
図4に示す比較例と異なり、延在部41と、幅が狭い溶断部42と、が載置部43によって接続されている(
図3を参照。)。よって、
図5(c)に示すように、ヒューズ部40に電流が流れる際、溶断部42の温度がヒューズ部40の他の部分(載置部43等)の温度より高くなる。その結果、溶断部42の温度が低融点体60の融点に達し且つヒューズ部40の他の部分の温度が同融点に達していない状態が発生し得る。
【0048】
そのため、
図5(b)に示すように、載置部43に載置されている低融点体60のうち溶融部42側(図中の左側)の部分(特に、ガイド溝44に入り込んだ部分)が優先的に溶融し得る。なお、
図5(b)に示す例では、低融点体60のうち溶融部42と反対側(図中の右側)の部分は未だ溶融していない(固相のまま)である。発明者が行った実験等によれば、このようなヒューズ部40の温度勾配により、低融点体60におけるガイド溝44に入り込んだ部分を中心に液相の領域が広がりながら、液相の低融点体60がガイド溝44に向けて集まり、最終的に表面張力に打ち勝ってガイド溝44(目標溶断箇所45)に向けて流れ込むことが明らかになった。
【0049】
更に、ヒューズエレメント10が実際に使用される際、ガイド溝44と低融点体60との上下関係が
図5に示す通りであれば、ガイド溝44の底面が載置部43より低い位置にあることになる。そのため、溶融した低融点体60に働く重力の影響によっても、液相の低融点体60がガイド溝44に向けて集まり、最終的に表面張力に打ち勝ってガイド溝44(目標溶断箇所45)に向けて流れ込み得る。
【0050】
更に、ガイド溝44の表面の微細な凹凸を設けた場合、ガイド溝44の内壁面における液相の低融点体60の濡れ性がヒューズ部40の他の部分の表面と比べて更に大きくなる。そのため、この濡れ性の相違によっても、液相の低融点体60が、表面張力に打ち勝ってガイド溝44(目標溶断箇所45)に向けて流れ込み得る。
【0051】
以上のように、ヒューズ部40では、ガイド溝44の存在(更に、温度勾配の存在)により、液相の低融点体60の周縁部における径方向外側への移動のし易さにアンバランスが生じ、低融点体60におけるガイド溝44に入り込んだ部分が、表面張力に打ち勝って径方向外側(目標溶断箇所45)に向けて移動し易くなっている。
【0052】
このため、溶断部42の温度が所定の溶断温度(低融点体60の融点)に達すると、
図5(b)に太い黒矢印で示すように、低融点体60におけるガイド溝44に入り込んだ部分が、表面張力に打ち勝って、目標溶断箇所45に向けてガイド溝44に引き込まれ、これに続いて低融点体60のうちガイド溝44の外にあった部分がガイド溝44に流れ込む。
【0053】
これにより、
図6に示すように、液相の低融点体60が、ガイド溝44における合金層46が形成されていない表面44b上を移動し(図中の太い黒矢印を参照)、目標溶断箇所45に到達する。その結果、液相の低融点体60とヒューズ部40(具体的には、表面44b)とが接触し、上述したヒューズ部40を構成する金属材料の拡散(侵食)が発生する。この金属材料の拡散(侵食)が進行することにより、最終的に、目標溶断箇所45の近傍にてヒューズ部40が溶断する。
【0054】
以上のように、本発明の実施形態に係るヒューズエレメント10、及び、ヒューズユニット1によれば、ヒューズ部40が、溶融した低融点体60をヒューズ部40の目標溶断箇所45に案内可能なガイド溝44を備えており、そのガイド溝44のうちの低融点体60に近い部分に低融点体60の一部が入り込むように、低融点体60が配置されている。
【0055】
これにより、ヒューズ部40(具体的には、溶断部42)の温度が所定の溶断温度に達すると、低融点体60のうちのガイド溝44に入り込んでいた部分がガイド溝44に引き込まれ、これに続いて低融点体60のうちのガイド溝44の外にあった部分がガイド溝44に流れ込む。これにより、低融点体60の一部がガイド溝44に入り込んでいない形態に比べ、表面張力に打ち勝って溶融した低融点体60が目標溶断箇所45に向けて移動し易い。
【0056】
したがって、本実施形態のヒューズエレメント10、及び、ヒューズユニット1は、ヒューズエレメント10(ヒューズ部40)を出来る限り設計した温度にて確実に溶断させることが可能である。
【0057】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0058】
例えば、上記実施形態では、
図3に示すように、載置部43に貫通孔が設けられておらず、且つ、溶断部42と載置部43との境界部の表(おもて)面に両者を跨ぐようにガイド溝44が設けられている。これに対し、
図7に示すように、載置部43に貫通孔47が設けられ、且つ、溶断部42と載置部43との境界部の裏面(下面)に両者を跨ぐようにガイド溝48が設けられていてもよい。
【0059】
図7に示す例では、
図7(c)に示すように、固相の低融点体60が、貫通孔47を覆い、且つ、貫通孔47の上側部分(一方の開口端)にその一部が入り込むように、載置部43に載置されている。この場合、溶断部42の温度が所定の溶断温度(低融点体60の融点)に達すると、
図8(a)に太い黒矢印で示すように、液相の低融点体60における貫通孔47に入り込んだ部分が、毛細管現象(及び、使用時の上下関係が
図7の通りであれば、更に重力)により、表面張力に打ち勝って、貫通孔47内を下降して貫通孔47の下端部(他方の開口端)まで移動する。
【0060】
そして、貫通孔47の下端部まで移動した液相の低融点体60は、ガイド溝48の存在(濡れ性の相違、及び、毛細管現象の影響)及び温度勾配の存在(
図8(b)を参照)の存在により、ガイド溝48に引き込まれ、目標溶断箇所45に到達する。なお、貫通孔47の下端部まで移動した液相の低融点体60の一部は、
図8(a)に示すように、延在部41側(図中右側)へも移動し得るが、延在部41側へ移動した液相の低融点体60は、温度の低下によって再び固相に戻る場合もある。よって、延在部41側へ移動した液相の低融点体60が延在部41側(図中右側)へ更に移動することはない。
【0061】
このように、
図7に示す例では、溶融した低融点体60が、一旦、貫通孔47を通り抜けるように移動した後、ガイド溝48に沿って目標溶断箇所45に案内されることになる。そのため、
図3に示した上記実施形態に比べて、溶融した低融点体60の流れを制御し易い。
【0062】
更に、
図9に示すように、載置部43に、延出部49が設けられていてもよい。延出部49は、載置部43(ヒューズ部40の本体部)における幅方向一方側から延在する舌状部分を、載置部43を覆うように折り返すことにより、載置部43の上面と平行に対向配置された部分である。延出部49には貫通孔51が設けられ、且つ、載置部43の上面と延出部49の下面との間には、隙間52が設けられている。
【0063】
図9に示す例では、
図9(c)に示すように、固相の低融点体60が、貫通孔51を覆い、且つ、貫通孔51の上側部分(一方の開口端)にその一部が入り込むように、延出部49に載置されている。この場合、溶断部42の温度が所定の溶断温度(低融点体60の融点)に達すると、
図10(a)に太い黒矢印で示すように、液相の低融点体60における貫通孔51に入り込んだ部分が、毛細管現象(及び、使用時の上下関係が
図10の通りであれば、更に重力)により、表面張力に打ち勝って、貫通孔51内を下降して貫通孔51の直下の隙間52まで移動する。
【0064】
貫通孔51の直下の隙間52まで移動した液相の低融点体60は、隙間52の存在(毛細管現象の影響)及び温度勾配の存在(
図10(b)を参照)により、溶断部42側(図中左側)の隙間52に引き込まれ、目標溶断箇所45に到達する。なお、貫通孔51の直下の隙間52まで移動した液相の低融点体60の一部は、
図10(a)に示すように、延在部41側(図中右側)へも移動し得るが、延在部41側へ移動した液相の低融点体60は、温度の低下によって再び固相に戻ることにある。よって、延在部41側へ移動した液相の低融点体60が延在部41側(図中右側)へ更に移動することはない。
【0065】
このように、
図9に示す例では、溶融した低融点体60が、一旦、貫通孔51を通り抜けるように移動した後、隙間52に沿って目標溶断箇所45に案内されることになる。そのため、
図3に示した上記実施形態に比べて、溶融した低融点体60の流れを制御し易い。更に、ヒューズ部40(より正確には、ヒューズ部40における電流が流れる部分、通電断面積に影響を与える部分、本体部)に溝および孔を設けないため、通電断面積が変化せず、導電特性に影響を与え難い。
【0066】
更に、上記実施形態では、
図3に示すように、溶断部42と載置部43との境界部の表(おもて)面に両者を跨ぐようにガイド溝44が設けられている。しかし、
図11に示すように、ガイド溝44が設けられる領域におけるヒューズ部40の上面に、ガイド溝44(即ち、凹部)に代えて、周囲の上面との段差がなく且つ微細な凹凸が形成された平面53が形成されていてもよい。この場合、低融点体60の一部が、平面53上に載っている。
【0067】
図11に示す例では、平面53の存在に起因する上述した濡れ性の相違により、低融点体60における平面53上に載った部分が、表面張力に打ち勝って径方向外側(目標溶断箇所45)に向けて移動し易くなっている。
【0068】
加えて、上記実施形態では、溶断部42の幅が延在部41の幅より狭いことにより、溶断部42の通電断面積が延在部41と比べて小さくなっている。しかし、溶断部42の厚さが延在部41の厚さより小さいことにより、溶断部42の通電断面積を延在部41と比べて小さくしてもよい。
【0069】
ここで、上述した本発明に係るヒューズエレメント及びヒューズユニットの実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(5)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
金属材料から構成された導電体(40)と、前記金属材料の融点よりも低い融点を有する低融点金属材料から構成された低融点体(60)と、を備えたヒューズエレメント(10)であって、
前記導電体(40)は、
該導電体における所定の目標溶断箇所(45)と、前記低融点体(60)と、を繋ぐ案内路(44,47,48,51,52,53)であって、溶融した前記低融点体の濡れ広がりの度合いが該案内路とは異なる部分よりも大きいことにより、溶融した前記低融点体を前記目標溶断箇所に向けて案内可能な案内路(44,47,48,51,52,53)、を有し、
前記低融点体(60)は、
前記案内路のうちの該低融点体に近い部分(44a,47,51)に該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメント。
(2)
上記(1)に記載のヒューズエレメントにおいて、
前記案内路(44)が、
前記低融点体(60)から前記目標溶断箇所(45)に向けて延びるように前記導電体に設けられた溝(44)を含み、
前記低融点体(60)が、
前記溝のうちの該低融点体に近い部分(44a)に該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメント。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載のヒューズエレメントにおいて
前記案内路(47,48)が、
前記導電体に形成された貫通孔(47)と、前記貫通孔の一端から前記目標溶断箇所に向けて延びるように前記導電体に設けられた溝(48)と、を含み、
前記低融点体(60)が、
前記貫通孔(47)の他端に該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメント。
(4)
上記(1)〜上記(3)の何れか一つに記載のヒューズエレメントにおいて、
前記導電体(40)が、
該導電体の本体部(43)から延出した延出部(49)であって、前記本体部を覆うように折り返されて前記本体部と該延出部との間に空隙(52)を画成する延出部、を含み、
前記案内路(51,52)が、
前記延出部に形成された貫通孔(51)であって該貫通孔の一端が前記空隙(52)に開口した貫通孔と、前記貫通孔の前記一端と前記目標溶断箇所(45)との間の前記空隙(52)と、を含み、
前記低融点体(60)が、
前記貫通孔の他端に該低融点体の一部が入り込むように配置された、
ヒューズエレメント。
(5)
上記(1)〜上記(4)の何れか一つに記載のヒューズエレメント(10)と、前記ヒューズエレメントを収容するハウジング(20)と、を備えたヒューズユニット(1)。