(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
振動素子が配置されたパネルの振動素子に対して、超音波帯域の搬送波を可聴波帯域の音声信号で変調して生成される駆動電圧を印加することで、前記パネルに縞状の共振領域を形成する工程と、
前記共振領域から発生した互いに異なる方向へ進行する第1および第2の超音波の少なくとも一方の超音波を反射して前記第1の超音波の進行方向と前記第2の超音波の進行方向とを近づける工程と、を含む
ことを特徴とするスピーカの指向性調整方法。
振動素子が配置されたパネルの振動素子に対して、超音波帯域の搬送波を可聴波帯域の音声信号で変調して生成される駆動電圧を印加することで、前記パネルに縞状の共振領域を形成する工程と、
前記パネルに荷重を与えて前記パネルに前記共振領域が生成されることを抑制し、前記パネルから発生する超音波の指向性を低下させる工程と、を含む
ことを特徴とするスピーカの指向性調整方法。
パネルに配置された振動素子に対して、超音波帯域の搬送波を可聴波帯域の音声信号で変調して生成される第1の駆動電圧を印加することで、前記パネルに縞状の共振領域を形成する工程と、
前記振動素子に印加する駆動電圧を、前記第1の駆動電圧から、前記音声信号から生成される第2の駆動電圧に切り替える工程と、を含む
ことを特徴とするスピーカの指向性調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するスピーカ装置、スピーカシステムおよびスピーカの指向性調整方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、
図1を含む複数の図には、説明を分かり易くするために、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を付している。そして、かかる直交座標系において、Y軸の正方向がスピーカ装置の前方を指し、X軸の正方向がスピーカ装置の左方を指し、Z軸の正方向がスピーカ装置の上方を指すものとする。
【0010】
[1.第1の実施形態]
[1.1.スピーカ装置]
図1は、第1の実施形態に係るスピーカ装置の概略構成を示す模式的斜視図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係るスピーカ装置1は、音出力部2と、音出力部2を駆動する駆動部3とを備える。音出力部2は、パネル10と、パネル10に配置された振動素子11と、パネル10を支持する支持部12と、パネル10から発生した超音波の一部を反射する反射部13とを備える。
【0011】
パネル10は、振動素子11の振動に応じて振動する板状部材であり、例えば、ガラスなどの剛体で形成される。パネル10は、支持部12に固定部材を介して固定され、支持部12によって支持される。振動素子11は、例えば、ピエゾ素子であり、パネル10の端部に設けられる。振動素子11は、例えば、印加される交流電圧の駆動電圧に応じて伸縮することで、パネル10を振動させる。
【0012】
振動素子11に印加される駆動電圧は、駆動部3によって生成される。駆動部3は、パネル10に縞状の共振領域Asを発生させるように、超音波帯域(20kHz以上の周波数帯域)の周波数成分を含む駆動電圧を生成する。具体的には、駆動部3は、超音波帯域の搬送波を可聴波帯域(20kHz未満)の音声信号で変調した信号を増幅することによって振動素子11へ印加する駆動電圧を生成する。
【0013】
振動素子11への駆動電圧の印加によって、パネル10が振動し定在波が発生してパネル10に縞状の共振領域Asが形成される。縞状の共振領域Asは、複数の線状共振領域Agを含んでおり、かかる線状共振領域Agは音声信号で変調された超音波を放射する線音源として機能する。
【0014】
図1に示す例では、パネル10の長手方向(Y軸方向)の両端部に、パネル10の短手方向(X軸方向)に延伸する振動素子11がそれぞれ設けられる。そして、振動素子11の振動によってパネル10の長手方向に定在波が形成され、パネル10の短手方向に延伸する複数の線状共振領域Agがパネル10の長手方向に等間隔で形成される。
【0015】
かかるスピーカ装置1は、上述のように形成される複数の線状共振領域Agから発生した超音波同士の強調および干渉、および、変調処理をした超音波の非線形歪みによる自然復調現象によって特定方向に音声信号に応じた音波が生成される。これにより、スピーカ装置1は、狭い指向性を有するスピーカ装置として機能する。
【0016】
ところで、超音波同士の空間上での位相干渉の影響によってパネル10に対して垂直な方向に指向性を出すことが難しい。また、各線状共振領域Agからは、第1の方向に進行する第1の超音波S1に加え、パネル10の短手方向(X軸方向)から見てパネル10に直交する方向を軸として、第1の方向とは対称の方向である第2の方向に進行する第2の超音波S2が出力される。
図2は、各線状共振領域Agから発生する第1の超音波S1と第2の超音波S2との進行方向を示す図である。
【0017】
図2に示すように、第1の超音波S1と第2の超音波S2とはパネル10に直交する方向を軸として対称に進行する。そのため、
図2に示す反射部13がない場合、パネル10における長手方向の中央部Oを中心として第1の超音波S1と第2の超音波S2が異なる方向に進行する。すなわち、反射部13がない場合、パネル10における長手方向の一方側の領域R1と他方側の領域R2にそれぞれ所定角を持ってスピーカ装置1から第1の超音波S1と第2の超音波S2とが出力される。
【0018】
本実施形態に係るスピーカ装置1は、上述したように反射部13を有する。そのため、各線状共振領域Agから互いに異なる方向へ進行する第1および第2の超音波S1,S2のうち第2の超音波S2が反射部13の反射面13aで反射されて第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とが近づく。
【0019】
これにより、パネル10における長手方向(Y軸方向)の一方側の領域R1に対して第1および第2の超音波S1,S2を共に出力することができ、第2の超音波S2を無駄にすることなく、領域R1に対して指向性を有するスピーカ装置を形成することができる。
【0020】
なお、
図2に示す例では、反射部13の反射面13aは、パネル10に対して直交する方向に配置されている。そのため、第1の超音波S1と第2の超音波S2とを同一方向に出力することができるが、反射部13の反射面13aは、パネル10に対して直交する方向に配置されていなくてもよい。
【0021】
また、反射部13は、第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とが近づくように第1および第2の超音波S1,S2のうち少なくとも一方を反射する構成であればよい。以下、第1の実施形態に係るスピーカ装置1の構成についてさらに具体的に説明する。
【0022】
[1.2.スピーカ装置1の具体的構成]
図3は、第1の実施形態に係るスピーカ装置1の構成の一例を示す模式的外観図である。
図3に示すように、第1の実施形態に係るスピーカ装置1は、音出力部2と、駆動部3と、筐体部15とを備える。以下、音出力部2、筐体部15、および駆動部3の順に具体的に説明する。
【0023】
[1.2.1.音出力部2]
スピーカ装置1は、上述したように、パネル10と、振動素子11と、支持部12と、反射部13とを備える。
【0024】
パネル10は、振動素子11の振動に応じて振動する矩形状の板状部材であり、例えば、ガラスなどの剛体で形成されるが、ガラスに限られず、金属やプラスチックなど他の部材を用いることもできる。また、パネル10は、矩形状に限られず、正方形状、円形状、三角形状など、その他の形状であってもよい。また、支持部12は、例えば、ガラスなどの剛体で形成されているが、金属やプラスチックなど他の部材を用いることもできる。
【0025】
パネル10は、固定部材14によって支持部12に固定される。固定部材14は、例えば、熱により硬化する熱硬化樹脂であるが、接着テープ、または、パネル10および支持部12を挟み込んで固定する固定具(例えば、ネジ)などを適宜用いることもできる。固定部材14は、振動素子11の振動が固定部材14によって吸収されることを防ぐため、固定後に変形しにくい部材を用いることが好ましい。
【0026】
図3に示す例では、パネル10における短手方向(X軸方向)の両端縁部が固定部材14によって支持部12に固定される。このように、パネル10における短手方向の両端部をパネル10の長手方向(Y軸方向)に沿って固定することで、パネル10の振動により生じるパネル10のたわみが抑制される。そのため、パネル10において定在波の発生が阻害されたり、音圧が低下したりすることを抑制することができる。なお、パネル10と支持部12との固定位置は、パネル10のたわみを抑制することができればよく、パネル10における短手方向の両端縁部に限定されない。
【0027】
また、パネル10における長手方向の両端は、固定部材14によって固定されておらず、支持部12に対して隙間をあけて固定される。そのため、パネル10の裏面側(Z軸の負方向側)に発生する圧力である背圧を上述の隙間から逃がすことができ、背圧がパネル10に跳ね返ってパネル10の振動が阻害されることを抑制することができる。なお、固定部材14以外の部材を用いてかかる隙間を生じさせてもよく、あるいは、パネル10の背面側に背圧を吸収する制振材を設けてもよい。
【0028】
振動素子11は、上述したように、ピエゾ素子であるが、駆動部3から供給される駆動電圧Voの周波数で振動できる構成であればよく、ピエゾ素子以外の振動素子であってもよい。また、
図3に示す例では、振動素子11が2つである場合を示したが、振動素子11は、1つであっても3つ以上であってもよい。
【0029】
反射部13は、反射板であり、かかる反射部13の反射面13aは、パネル10から発生した超音波の一部を反射することができるように、パネル10の表面に対して交差する方向に配置される。かかる反射部13については後で詳述する。
【0030】
[1.2.2.筐体部15]
筐体部15は、支持部12および反射部13を支持し、また、内部空間に駆動部3を収容する。なお、
図3に示す筐体部15は、箱状に形成されているが、筐体部15は、
図3に示す例に限定されない。
【0031】
[1.2.3.駆動部3]
駆動部3は、振動素子11を振動させるための駆動電圧Voを生成して、振動素子11に印加する。振動素子11は、駆動部3から供給される駆動電圧Voによって伸縮することでパネル10を振動させ、パネル10に複数の線状共振領域Agを含む縞状の共振領域Asを発生させる。
【0032】
図4は、第1の実施形態に係るスピーカ装置1のブロック図である。
図4に示すように、スピーカ装置1は、外部装置60と接続されており、外部装置60から入力される音声信号Ssに基づいて、パネル10を振動させ、音声信号Ssで変調された搬送波Scに応じた超音波を発生する。
【0033】
外部装置60は、可聴波帯域(20kHz未満の帯域)の音声信号Ssをスピーカ装置1へ出力する装置であり、例えば、オーディオ装置、カーナビゲーション装置、スマートフォン、PC(Personal Computer)などのように外部に音声信号Ssを出力できる装置である。
【0034】
駆動部3は、取得部21と、搬送波生成部22と、変調部23と、増幅部24とを備え、振動素子11を振動させるための駆動電圧Voを生成し、生成した駆動電圧Voを振動素子11に印加する。かかる駆動部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Desk Drive)、入出力ポートなどを有するコンピュータや増幅回路などの各種回路を含む。
【0035】
コンピュータのCPUは、たとえば、ROMに記憶された各種プログラムを読み出して実行することによって、駆動部3の取得部21、搬送波生成部22、および変調部23として機能する。また、駆動部3の取得部21、搬送波生成部22、および変調部23の少なくともいずれか一つまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することもできる。また、増幅部24は、例えば、パワーアンプなどの増幅回路によって構成される。
【0036】
取得部21は、外部装置60から出力される音声信号Ssを取得し、取得した音声信号Ssを変調部23へ出力する。なお、取得部21は、音声信号Ssのゲイン(振幅)を調整し、調整後の音声信号Ssを変調部23へ出力することもできる。また、取得部21は、可聴波帯域の信号を通過させるローパスフィルタを有していてもよく、かかるローパスフィルタによって可聴波帯域以外の信号を除去することができる。
【0037】
搬送波生成部22は、搬送波Scを生成し、変調部23へ出力する。搬送波Scは、超音波帯域の正弦波信号であり、パネル10に定在波を発生させ、縞状の共振領域Asを形成する周波数を有する。
【0038】
変調部23は、搬送波生成部22から入力される搬送波Scを取得部21から入力される音声信号Ssで変調した信号である変調信号Smを生成し、増幅部24へ出力する。変調部23による変調は、AM(Amplitude Modulation)変調、または、FM(Frequency Modulation)変調によって行われる。なお、AM変調は、例えば、DSB(Double Sideband)変調、または、SSB(Single Sideband)変調である。
【0039】
変調部23から増幅部24へ出力された変調信号Smは、各増幅部24によって増幅され、変調信号Smの波形に応じた交流電圧の駆動電圧Voとして各振動素子11へ印加される。振動素子11は、印加された駆動電圧Voに応じて伸縮し、パネル10に定在波を発生させる。かかる定在波の腹が線状共振領域Agとなる。
【0040】
図5は、パネル10に形成される線状共振領域Agと定在波との関係を示す図である。
図5において、定在波Wの腹を実線で示し、定在波Wの節を破線で示しており、定在波Wの腹部分が線状共振領域Agとして機能する。定在波Wの腹部分は、パネル10の長手方向に沿って等間隔で発生するため、線状共振領域Agは、パネル10の長手方向(Y軸方向)に沿って等間隔で発生する。なお、
図5では、説明をわかりやすくするために、パネル10の長手方向に定在波Wによって6つの線状共振領域Agが発生している例を示しているが、線状共振領域Agの数は、6つに限定されず、また、搬送波Scの周波数を高くするほど多くすることができる。
【0041】
次に、スピーカ装置1の指向性について説明する。
図6は、パネル10に形成される定在波Wとスピーカ装置1の指向性との関係を説明するための図である。
図6においては、説明を分かりやすくするために、定在波Wを部分的に示している。また、定在波Wにおいて位相が等しく、隣り合う腹を線状共振領域Ag1,Ag2とし、線状共振領域Ag1,Ag2で発生する超音波のパネル10に対する角度θを表している。
【0042】
任意の角度θに対して、線状共振領域Ag1,Ag2で発生する超音波は、距離d
cosθだけ位相がずれる。搬送波Scの波長をλとすると、距離d
cosθが波長λ/2の奇数倍となる角度θにおいて線状共振領域Ag1,Ag2で発生する超音波は互いに打消し合う。つまり、距離d
cosθが波長λ/2の奇数倍となる角度θでは、超音波がキャンセルされる。一方で、距離d
cosθが波長λの整数倍(波長λ/2の偶数倍)となる角度θでは、線状共振領域Ag1,Ag2で発生する超音波が互いに強め合う。そして、超音波が空間を伝搬する際や超音波が剛体に反射する際の超音波の非線形歪みによる自然復調現象により、可聴波帯域の音波が生成される。
【0043】
このように、複数の線状共振領域Agから発生する超音波は位相干渉(強調および打ち消し)することで、特定方向に超音波を進行させることができる。そして、超音波の非線形歪みによる自然復調現象により可聴波帯域の音波が生成されることによって、スピーカ装置1は、特定方向に狭い指向性を有することができる。
【0044】
[1.2.4.反射部13]
次に、反射部13についてさらに詳細に説明する。反射部13は、反射板であり、音に対する反射率が高い材質によって形成される。反射部13は、例えば、金属部材やガラスなどの板材によって形成される。
【0045】
上述したように、スピーカ装置1は、特定方向に狭い指向性を有するが、超音波が互いに強め合う角度θ(以下、角度θdと記載する)は、パネル10に直交する線に対して対称に存在する。
【0046】
図7は、超音波が互いに強め合う角度θdと超音波の進行方向との関係を示す図である。
図7に示すように、各線状共振領域Agから角度θdで発生した第1の超音波S1と第2の超音波S2とは、パネル10に直交する線L1に対して対称の方向に進行する。
【0047】
そこで、スピーカ装置1は、反射部13を有し、かかる反射部13によって第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とを近づけ、第1および第2の超音波S1,S2を共に活用して、指向性を有するスピーカ装置を形成している。反射部13は、反射板であり、かかる反射部13の反射面13aは、音に対する反射率が高い材質によって形成される。例えば、反射面13aは、金属部材やガラスなどによって形成される。
【0048】
図8は、各線状共振領域Agから発生する第1の超音波S1と第2の超音波S2の進行方向を示す図である。
図3および
図8に示す反射部13は、その反射面13aがパネル10の表面に対して垂直になるように配置される。そのため、
図8に示すように、第2の超音波S2は、反射部13の反射面13aでの反射によって進行方向が逆方向になり、これにより、第2の超音波S2の進行方向と第1の超音波S1の進行方向とが同一方向になる。
【0049】
なお、反射部13の反射面13aとパネル10の表面とがなす角度θs(
図8参照)は、90°に限定されない。すなわち、第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2のの進行方向とを近づけるように反射する角度であればよい。例えば、θd=45度である場合、45°<θs<135°とすることで、反射部13と反対側へ第1の超音波S1と第2の超音波S2とを出力することができる。
【0050】
なお、上述した例では、音出力部2と駆動部3とを含むスピーカ装置1について説明したが、音出力部2と駆動部3とを別体にしたスピーカシステムであってもよい。
図9は、第1の実施形態に係るスピーカシステム100の構成の一例を示す図である。
【0051】
図9に示すように、スピーカシステム100は、音出力部2を含むスピーカ101と、駆動部3を含む駆動装置102とを備える。スピーカ101と駆動装置102とは、無線または有線によって接続されており、駆動装置102から出力される駆動電圧によってスピーカ101から超音波が出力される。スピーカ101と駆動装置102とを無線で接続する場合、スピーカ101と駆動装置102にはそれぞれ無線通信部が設けられ、また、スピーカ101には無線通信部から出力される信号を増幅して振動素子11に印加する増幅部を備える。
【0052】
図10は、
図9に示すスピーカ101の模試的側面図である。
図10に示すスピーカ101は、側面視(X軸方向から見た場合)でL字状の反射板を反射部13として用いており、反射部13のうちパネル10と平行な領域上に支持部12が固定され、反射部13のうちパネル10と交差する領域に反射面13aが形成される。
【0053】
そのため、パネル10と支持部12とを含む構成体に反射部13を容易に取り付けることができる。なお、音出力部2と駆動部3とを一体的に形成するスピーカ装置の場合においても、L字状の反射板を反射部13として用いてもよい。なお、本明細書では、音出力部2と駆動部3とを含む構成をスピーカ装置と記載し、音出力部2をスピーカと記載するが、音出力部2と駆動部3とを含む構成をスピーカと呼ぶこともできる。
【0054】
図11は、駆動部3が実行する処理手順の一例を示すフローチャートであり、繰り返し実行される処理である。
図11に示すように、駆動部3は、外部装置60から音声信号Ssを取得する(ステップS10)。また、駆動部3は、搬送波Scを生成する(ステップS11)。
【0055】
駆動部3は、ステップS11で生成した搬送波ScをステップS10で取得した音声信号Ssによって変調して変調信号Smを生成し(ステップS12)、変調信号Smを増幅した駆動電圧を振動素子11へ印加する(ステップS13)。これにより、パネル10に縞状の共振領域Asが形成される。そして、共振領域Asから発生した互いに異なる方向へ進行する第1および第2の超音波S1,S2の少なくとも一方の超音波を反射部13で反射することで第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とを近づける。
【0056】
以上のように、第1の実施形態に係るスピーカ装置1は、パネル10と、パネル10を振動させる振動素子11と、駆動部3と、反射部13とを備える。駆動部3は、超音波帯域の搬送波Scを可聴波帯域の音声信号Ssで変調した駆動電圧を振動素子11へ印加して、パネル10に縞状の共振領域Asを形成する。反射部13は、パネル10に形成された縞状の共振領域Asから発生する互いに異なる方向へ進行する第1および第2の超音波S1,S2の少なくとも一方の超音波を反射して第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とを近づける。このように、スピーカ装置1は、パネル10と振動素子11とによって指向性を有する振動部分を構成することができ、反射部13によって指向性が変化するため、複数の超音波振動子をアレイ状に配置する構成に比べ、振動部分の小型化を図りつつ指向性を変化させて指向性を調整することができる。しかも、第1および第2の超音波S1,S2を共に活用して、指向性を有するスピーカ装置を形成することができる。
【0057】
また、反射部13は、パネル10の端部側に配置され、パネル10と交差する方向に延伸する反射板である。これにより、反射部13を容易に形成することができる。また、超音波が互いに強め合う角度θが小さいほど、反射部13の上下方向(Z軸方向)の長さを短くすることができるため、スピーカ装置1全体の小型化を図ることもできる。
【0058】
[2.第2の実施形態]
第1の実施形態に係るスピーカ装置1の反射部13は、パネル10の端部側に配置される反射板によって構成されるが、第2の実施形態に係るスピーカ装置の反射部は、パネル10の上面と対向する位置に配置された複数の反射部材を備える点で第1の実施形態と異なる。以下においては、第1の実施形態と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、第1の実施形態のスピーカ装置1と異なる点を中心に説明する。
【0059】
図12は、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aの構成の一例を示す模式的外観図である。
図12に示すように、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aは、音出力部2Aと、不図示の駆動部3と、筐体部15とを備える。筐体部15は、支持部12に支持され振動素子11が配置されたパネル10と不図示の駆動部3とを内部領域に収納する。
【0060】
音出力部2Aは、音出力部2の反射部13に代えて、カバー部材16を有する。カバー部材16には、反射部13Aが形成されており、支持部12に支持され振動素子11が配置されたパネル10をカバーする機能に加え、超音波の進行方向を変更する反射部としての機能を有している。
【0061】
カバー部材16は、枠部材17を有しており、反射部13Aは枠部材17によって支持される。反射部13Aは、パネル10の長手方向(Y軸方向)において所定間隔を開けて配列された複数の反射部材18を備えており、各反射部材18は、パネル10の短手方向(X軸方向)に延伸し枠部材17に支持される。カバー部材16は、反射部材18間でスリットが形成されるため、スリット構造のカバー部材ということができる。
【0062】
図13は、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aの縦断面図である。なお、
図13に示すスピーカ装置1Aの音出力部2Aは、パネル10、振動素子11、支持部12、およびカバー部材16とを含んで構成される。
【0063】
図13に示すように、カバー部材16に形成された複数の反射部材18がパネル10の表面に対向配置されており、各反射部材18は、第1の超音波S1と第2の超音波S2とを反射する反射面18aを有している。かかる反射面18aは、線状共振領域Agの延伸方向(X軸方向)に沿って延伸しており、各反射部材18の側面に形成される。
【0064】
また、反射面18aは、音に対する反射率が高い材質によって形成され、例えば、金属部材やガラスなどによって形成される。なお、反射部13Aおよび枠部材17を同一材料によって構成し、反射部13Aおよび枠部材17を一体成形して構成することもできる。
【0065】
図14は、反射部材18の反射面18aと第1および第2の超音波S1,S2との関係を示す図である。
図14において、「θd」は複数の線状共振領域Agの超音波が互いに強め合う角度であり、「θr」は、反射部材18の反射面18aとパネル10の表面とがなす角度である。第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aでは、角度θdと角度θrとが下記式(1)を満たすように設定する。下記式(1)において、0<θd<60°である
2θd+θr=180 ・・・(1)
【0066】
上記式(1)を満たすように、角度θd,θrを設定することによって、スピーカ装置1Aから出力される第1の超音波S1の進行方向θ1と第2の超音波S2の進行方向θ2とは下記式(2),(3)に示す角度になる。
θ1=2θr−θd ・・・(2)
θ2=180°−2θr ・・・(3)
【0067】
これにより、スピーカ装置1Aから出力される第1の超音波S1の進行方向θ1および第2の超音波S2の進行方向θ2との差Δθを、パネル10から出力される第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向との差Δθoよりも小さな値にできる。すなわち、第1の超音波S1の進行方向θ1と第2の超音波S2の進行方向θ2とが近づくように第1および第2の超音波S1,S2を反射部13Aによって反射することができる。なお、Δθ=|θ2−θ1|であり、Δθo=|180°−2θd|である。
【0068】
図15は、θd=45°とし、θr=67.5°とした場合の第1の超音波S1の進行方向θ1と第2の超音波S2の進行方向θ2の一例を示す図である。なお、
図14および
図15に示す例では、対向する2つの反射部材18の反射面18aのうち一方の反射面18aを反射面18a1とし、他方の反射面18aを反射面18a2としている。
【0069】
図15に示すように、第1の超音波S1は、一方の反射面18a1に対して22.5°の角度で入射し反射面18a1で反射する。そのため、第1の超音波S1は、パネル10の表面に対して90°の角度でスピーカ装置1Aから出力され、θ1=90°になる。
【0070】
第2の超音波S2は、他方の反射面18a2に対して67.5°の角度で入射して反射面18a2で反射し、その後、一方の反射面18a1に対して67.5°の角度で進行し反射面18a1で反射する。そのため、第2の超音波S2はパネル10の表面に対して45°の角度でスピーカ装置1Aから出力され、θ2=45°になる。
【0071】
したがって、パネル10から出力される際には互いの進行方向が90°ずれている第1の超音波S1と第2の超音波S2とが、複数の反射部材18によって、互いの進行方向が45°ずれた状態でスピーカ装置1Aから出力される。
【0072】
なお、θdに対するθrの関係は、上記式(1)に示す例に限定されず、Δθ<Δθoとなるようにθdに対するθrの関係が設定されればよい。すなわち、第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とが近づくように反射部材18においてθdに対するθrが設定されていればよい。また、
図13〜
図15に示す例では、反射部材18の反射面18aは平坦面で形成されるが、縦断面視で弧状に形成されていてもよい。
【0073】
また、上述した例では、第1および第2の超音波S1,S2は共に反射部材18で反射するものである。しかし、反射部材18は、第1および第2の超音波S1,S2の少なくとも一方の超音波を反射して第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とを近づけることができればよく、上述した構成に限定されない。
【0074】
以上のように、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aの反射部13Aは、パネル10の表面と対向する位置に配置され、縞状の共振領域Asを形成する複数の線状共振領域Agの延伸方向(
図13に示すX軸方向)に沿って延在し且つ複数の線状共振領域Agの配列方向(
図13に示すY軸方向)に沿って配列される複数の反射部材18を備える。第1の実施形態に係るスピーカ装置1では、各線状共振領域Agの超音波が互いに強め合う角度θdが大きくなればなるほど、反射部13の上下方向の長さを長くする必要があるが、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aは、カバー部材16に反射部13Aを形成する。したがって、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aは、角度θdにかかわらず、上下方向の長さを抑えることができるため、指向性を変化させて指向性を調整しつつスピーカ装置1Aの薄型化を図ることができる。
【0075】
また、スピーカ装置1Aは、パネル10の上面を覆うカバー部材16を備え、複数の反射部材18は、カバー部材16に形成されている。このように、カバー部材16に反射機能を設けることから、カバー機能と反射機能とで共通の部品を用いることができ、スピーカ装置1Aの薄型化および低コスト化を図ることができる。
【0076】
[3.第3の実施形態]
第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aのカバー部材16は、音波の進行方向を制御する反射機能に加え、スピーカ装置の内部をカバーするカバー機能を有する構成である。一方、第3の実施形態に係るスピーカ装置のカバー部材は、反射機能およびカバー機能に加え、振動素子11などから発生する熱を放射する放熱機能を有する点で第2の実施形態と異なる。以下においては、第2の実施形態と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、第2の実施形態のスピーカ装置1Aと異なる点を中心に説明する。
【0077】
図16は、第3の実施形態に係るスピーカ装置の縦断面図である。
図16に示すスピーカ装置1Bは、
図12および
図13に示すカバー部材16に代えて、ヒートシンク機能を持たせたカバー部材16Bを備える点で、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aと異なり、それ以外の構成は、第2の実施形態に係るスピーカ装置1Aと同様の構成である。
【0078】
図16に示すように、スピーカ装置1Bの音出力部2Bは、パネル10、振動素子11、支持部12、およびカバー部材16Bとを含む構成である。カバー部材16Bは、放熱機能を有する反射部13Bが形成されている。カバー部材16Bは、枠部材17と同様の枠部材17Bを有しており、反射部13Bは枠部材17Bによって支持される。
【0079】
反射部13Bは、スピーカ装置1Bの長手方向において所定間隔を開けて配列された複数の反射部材18Bを備える。複数の反射部材18Bは、線状共振領域Agの延伸方向に延伸しており、複数の線状共振領域Agの配列方向に沿って配列される。かかる反射部材18Bの反射面18bは、反射部材18の反射面18aと同様の角度で形成される。これにより、反射部材18Bは、第1の超音波S1の進行方向と第2の超音波S2の進行方向とが近づくように第1および第2の超音波S1,S2の少なくとも一方を反射部13Bによって反射することができる。
【0080】
以上のように、第3の実施形態に係るスピーカ装置1Bの反射部13Bは、パネル10の表面と対向する位置に配置される。縞状の共振領域Asを形成する複数の線状共振領域Agの延伸方向(
図16に示すX軸方向)に沿って延在し且つ複数の線状共振領域Agの配列方向(
図16に示すY軸方向)に沿って配列される複数の反射部材18Bを備える。そして、複数の反射部材18Bは、放熱機能を有する。したがって、放熱部材を別途設ける場合に比べ、スピーカ装置1Bの薄型化および低コスト化を図ることができる。
【0081】
[4.第4の実施形態]
第4の実施形態に係るスピーカ装置は、狭指向性と広指向性とを切り替える機能を有する点で、第1〜第3の実施形態に係るスピーカ装置1,1A,1Bと異なる。なお、第4の実施形態に係るスピーカ装置は、反射部13,13A,13Bのいずれかを有するものであるが、以下においては、反射部13Aを有するものとして説明する。また、第1〜第3の実施形態と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、第2の実施形態のスピーカ装置1Aと異なる点を中心に説明する。
【0082】
図17は、第4の実施形態に係るスピーカ装置のブロック図である。
図17に示すように、第4の実施形態に係るスピーカ装置1Cは、音出力部2Cと、駆動部3Cとを備える。
【0083】
音出力部2Cは、音出力部2Aと同様に、パネル10と、複数の振動素子11と、不図示の支持部12および反射部13Aとを備えると共に、さらに荷重付与部19を備える。荷重付与部19は、パネル10に荷重を与えてパネル10に定在波W(
図6参照)が生成されることを抑制する。
【0084】
スピーカ装置1Cでは、スピーカ装置1,1A,1Bと同様に、パネル10に発生する定在波Wによってパネル10から超音波が出力される。かかる超音波は、例えば、基準周波数の第1の超音波と、基準周波数から周波数のずれた第2の超音波とを含み、かつ、高音圧(例えば、100sBSPL)である場合に、空気伝搬の非線形性から第1の超音波と第2の超音波との周波数差が可聴波帯域の音波(以下、差音と記載する場合がある)として出力される。かかる非線形性は、超音波が剛体に反射する際や空気中の分子の衝突によって引き起こされるものである。
【0085】
スピーカ装置1Cの荷重付与部19は、パネル10に定在波Wが生成されることを抑制するようにパネル10に荷重を与えることで、強制的にパネル10において非線形を作り出し、パネル10の表面上で、第1の超音波と第2の超音波との差音を作り出す。パネル10に定在波が生成されないため、パネル10から超音波が放射されることが抑制される一方、第1の超音波と第2の超音波との差音がパネル10の表面上で形成されるため、可聴波帯域における広指向性の音波を出力することができる。
【0086】
図18は、スピーカ装置1Cの一例を示す模式的断面図である。なお、
図18に示す例では、反射部13Aは図示していない。
図18に示すように、荷重付与部19は、パネル10の背面に対向配置された接触部41と、接触部41の下面に接続されたシャフト42と、シャフト42を上下方向(Z軸方向)に駆動す駆動部43とを備える。支持部12の中央部には開孔40が形成されており、かかる開孔40に接触部41およびシャフト42が挿通されている。
【0087】
接触部41は、例えば、樹脂(例えば、シリコン製樹脂)やゴムなどで構成されており、駆動部43によってシャフト42を上方(Z軸の正方向)に移動させることによって、接触部41が上方に移動してパネル10の背面を押圧する。荷重付与部19によるパネル10の押圧力は、パネル10に定在波が生成されることを抑制する荷重をパネル10に与えるように設定される。
【0088】
なお、荷重付与部19は、パネル10の表面を押圧する構成であってもよく、また、荷重付与部19は、
図18に示す構成に限定されず、パネル10に定在波が生成されることを抑制する荷重をパネル10に与えることができる構成であればよい。
【0089】
かかる荷重付与部19は、
図17に示す駆動部3Cによって制御される。駆動部3Cは、
図17に示すように、取得部21Cと、搬送波生成部22と、変調部23と、増幅部24と、指向性切替部25とを備える。
【0090】
駆動部3Cは、駆動部3と同様に、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種回路を含む。CPUは、たとえば、ROMに記憶された各種プログラムを読み出して実行することによって、取得部21Cの機能を実現する。なお、取得部21Cの少なくともいずれか一つまたは全部をASICやFPGAなどのハードウェアで構成することもできる。また、指向性切替部25は、例えば、駆動部43に対して駆動電圧を出力するパワーアンプなどの増幅回路などによって構成することができる。
【0091】
取得部21Cは、音声信号Ssの他に指向性指令を外部装置60から取得することができ、取得部21Cは、指向性指令を取得した場合、かかる指向性指令を指向性切替部25へ通知する。指向性指令には、指向性の種別を特定する情報が含まれており、指向性の種別には、例えば、狭指向性と広指向性とが含まれる。
【0092】
指向性切替部25は、取得部21Cから通知された指向性指令に広指向性を特定する情報が含まれている場合、荷重付与部19を駆動し、荷重付与部19にパネル10に荷重を与えさせ、パネル10に定在波が生成されることを抑制する。これにより、駆動部3Cから変調信号Smに応じた駆動電圧の振動素子11への出力を継続した状態でスピーカ装置1Cの指向性を狭指向性から広指向性へ変化させることができる。
【0093】
指向性切替部25は、取得部21Cから通知された指向性指令に狭指向性を特定する情報が含まれている場合、または、指向性指令が外部装置60から出力されない場合、荷重付与部19を駆動しない。そのため、スピーカ装置1Cは、上述した狭指向性のスピーカとして機能する。なお、上述した例では、音出力部2Cに反射部13Aを設けているが、スピーカ装置1Cは、反射部13Aを設けない構成であってもよい。
【0094】
また、第1の実施形態に係るスピーカシステム100と同様に、音出力部2A(または音出力部2,2B)を含むスピーカと、駆動部3Cを含む駆動装置とを別体として、スピーカシステムを構成することもできる。この場合も、音出力部2Aは、反射部13Aを設けない構成であってもよい。
【0095】
図19は、駆動部3Cが実行する処理手順の一例を示すフローチャートであり、繰り返し実行される処理である。
図19に示すように、駆動部3Cは、外部装置60から音声信号Ssと指向性指令を取得する(ステップS20)。
【0096】
また、駆動部3Cは、搬送波Scを生成する(ステップS21)。駆動部3Cは、ステップS21で生成した搬送波ScをステップS20で取得した音声信号Ssによって変調して変調信号Smを生成し(ステップS22)、変調信号Smを増幅した駆動電圧を振動素子11へ印加する(ステップS23)。
【0097】
次に、駆動部3Cは、指向性指令が広指向性を指定しているか否かを判定する(ステップS24)。駆動部3Cは、指向性指令が広指向性を指定している場合(ステップS24;Yes)、荷重付与部19を駆動して、荷重付与部19にパネル10に荷重を与えさせ、パネル10に定在波が生成されることを抑制する(ステップS25)。
【0098】
ステップS25の処理が終了した場合、または、指向性指令が広指向性を指定していない場合(ステップS24;No)、駆動部3Cは、ステップS20の処理から繰り返し上述した処理を繰り返す。
【0099】
以上のように、第4の実施形態に係るスピーカ装置1Cは、パネル10と、パネル10を振動させる振動素子11と、駆動部3Cと、パネル10に荷重を与える荷重付与部19とを備える。駆動部3Cは、駆動部3と同様に、超音波帯域の搬送波Scを可聴波帯域の音声信号Ssで変調した駆動電圧を振動素子11に印加してパネル10に縞状の共振領域Asを形成する。さらに、駆動部3Cは、荷重付与部19を制御して、パネル10に縞状の共振領域Asが生成されることを抑制する。これにより、スピーカ装置1,1A〜1Cと同じパネル10および振動素子11を用いて、スピーカ装置1,1A〜1Cの指向性を狭指向性と広指向性とで変化させることができる。したがって、広指向性の音波を出力する振動部分を別途設ける場合に比べ、指向性を変化させて指向性を調整しつつもスピーカ装置1,1A〜1Cの薄型化および低コスト化を図ることができる。
【0100】
また、荷重付与部19は、パネル10に対向配置された接触部41と、接触部41を移動させ、パネル10へ接触部41を接触させる駆動部43とを備える。これにより、簡易な構成によって、縞状の共振領域Asが生成されることを抑制することができる。
【0101】
[5.第5の実施形態]
第5の実施形態に係るスピーカ装置は、荷重付与部19を設けることなく、狭指向性と広指向性とを切り替える機能を有する点で、第4の実施形態に係るスピーカ装置1Cと異なる。以下においては、第4の実施形態と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、第4の実施形態のスピーカ装置1Cと異なる点を中心に説明する。
【0102】
図20は、第5の実施形態に係るスピーカのブロック図である。
図20に示すように、第5の実施形態に係るスピーカ装置1Dは、音出力部2Aと、駆動部3Dとを備える。なお、スピーカ装置1Dは、音出力部2Aに代えて、音出力部2,2B,2Cのいずれかを有する構成であってもよい。
【0103】
駆動部3Dは、
図20に示すように、取得部21Cと、搬送波生成部22と、変調部23と、増幅部24と、指向性切替部25Dとを備える。
【0104】
駆動部3Dは、駆動部3Cと同様に、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種回路を含む。CPUは、たとえば、ROMに記憶された各種プログラムを読み出して実行することによって、取得部21C、搬送波生成部22、変調部23、および指向性切替部25Dの機能を実現する。なお、取得部21C、搬送波生成部22、変調部23、および指向性切替部25Dの一部または全部をASICやFPGAなどのハードウェアで構成することもできる。
【0105】
指向性切替部25Dは、取得部21Cから通知された指向性指令に広指向性を特定する情報が含まれていない場合、変調部23から出力される変調信号Smを増幅部24へ出力する。これにより、変調信号Smが増幅部24によって増幅され、変調信号Smに応じた駆動電圧Vo(以下、第1の駆動電圧Vo1と記載する)で振動素子11が振動する。
【0106】
指向性切替部25Dは取得部21Cから通知された指向性指令に広指向性を特定する情報が含まれている場合、変調部23から出力される変調信号Smに代えて、取得部21Cから出力される音声信号Ssを増幅部24へ出力する。これにより、音声信号Ssが増幅部24によって増幅され、音声信号Ssに応じた駆動電圧Vo(以下、第2の駆動電圧Vo2と記載する)で振動素子11が振動する。そして、パネル10から音声信号Ssの周波数の音波が出力され、スピーカ装置1Dから出力する音波の指向性を広指向性へ変化させることができる。
【0107】
図21は、指向性切替部25Dの構成例を示す図である。
図21に示す例では、変調部23は、乗算部50と加算部51とを備え、指向性切替部25Dは、スイッチ52を備える。乗算部50によって搬送波Scが音声信号Ssで変調され、変調された信号に搬送波Scが加算されて変調信号が生成される。なお、
図21に示す変調部23の構成は、一例であり、変調部23は、搬送波Scが音声信号Ssで変調されて変調信号Smが生成される構成であれば、
図21に示す構成に限定されない。
【0108】
スイッチ52には、変調信号Smと音声信号Ssとが入力される。スイッチ52は、取得部21Cから通知される指向性指令に基づいて、変調信号Smおよび音声信号Ssのいずれかを選択的に出力する。例えば、スイッチ52は、指向性指令が狭指向性を指定している場合、変調部23から取得した変調信号Smを増幅部24へ出力する。なお、スイッチ52は、指向性指令が取得部21Cで取得されない場合も、変調部23から取得した変調信号を増幅部24へ出力することができる。
【0109】
これにより、第1の駆動電圧Vo1が音出力部2Aへ出力されて、スピーカ装置1Dは、狭指向性のスピーカ装置として機能する。また、スイッチ52は、指向性指令が広指向性を指定している場合、取得部21Cから取得した音声信号Ssを増幅部24へ出力する。これにより、第2の駆動電圧Vo2が音出力部2Aへ出力されて、スピーカ装置1Dは、広指向性のスピーカ装置として機能する。なお、上述した例では、音出力部2Aに反射部13Aを設けているが、スピーカ装置1Dは、反射部13Aを設けない構成であってもよい。
【0110】
また、第1の実施形態に係るスピーカシステム100と同様に、音出力部2A(または音出力部2,2B)を含むスピーカと、駆動部3Dを含む駆動装置とを別体として、スピーカシステムを構成することもできる。この場合も、音出力部2Aは、反射部13Aを設けない構成であってもよい。
【0111】
図22は、駆動部3Dが実行する処理手順の一例を示すフローチャートであり、繰り返し実行される処理である。なお、ステップS30〜S32の処理は、ステップS20〜S22の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0112】
図22に示すように、駆動部3Dは、指向性指令が広指向性を指定しているか否かを判定する(ステップS33)。駆動部3Dは、指向性指令が広指向性を指定していると判定した場合(ステップS33;Yes)、ステップS30で取得した音声信号Ssを増幅した駆動電圧Vo2を振動素子11へ印加する(ステップS34)。一方、駆動部3Dは、指向性指令が広指向性を指定していないと判定した場合(ステップS33;No)、変調信号Smを増幅した駆動電圧Vo1を振動素子11へ印加する(ステップS35)。
【0113】
以上のように、第5の実施形態に係るスピーカ装置1Dは、パネル10と、パネル10を振動させる振動素子11と、駆動部3Dとを備える。駆動部3Dは、超音波帯域の搬送波Scを可聴波帯域の音声信号Ssで変調して生成される第1の駆動電圧を振動素子11に印加してパネル10に縞状の共振領域Asを形成する。さらに、駆動部3Dは、第1の駆動電圧Vo1と音声信号Ssで生成される第2の駆動電圧Vo2とを切り替えて振動素子11へ印加する。これにより、音出力部2,2A,2Bに別途部材を追加することなく、スピーカ装置1,1A〜1Cと同じパネル10および振動素子11を用いて、スピーカ装置1Dの指向性を狭指向性と広指向性とで変化させることができる。したがって、広指向性の音波を出力する振動部分を別途設ける場合に比べ、指向性を変化させて指向性を調整しつつもスピーカ装置1Dの薄型化および低コスト化を図ることができる。
【0114】
また、駆動部3Dは、搬送波Scを生成する搬送波生成部22と、搬送波生成部22によって生成された搬送波Scを音声信号Ssで変調した変調信号Smを生成する変調部23と、変調部23から出力される変調信号Smと音声信号Ssとを切り替えて出力する指向性切替部25D(切替部の一例)とを備える。これにより、指向性切替部25Dを設けるだけで、スピーカ装置1Dの指向性を狭指向性と広指向性とで変化させることができ、例えば、低コスト化を図ることができる。
【0115】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。