(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799479
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】金属−セラミックス回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20201207BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20201207BHJP
H05K 3/24 20060101ALI20201207BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20201207BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20201207BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H05K3/38 D
H05K3/24 A
H01L23/12 D
B23K35/30 310B
C22C5/06 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-40825(P2017-40825)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-145047(P2018-145047A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】出野 尭
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸司
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−035874(JP,A)
【文献】
特開2003−110222(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/029478(WO,A1)
【文献】
特開平10−125821(JP,A)
【文献】
特開2006−228918(JP,A)
【文献】
特開2004−059375(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/002407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
B23K 35/30
C22C 5/06
H01L 23/12
H05K 3/24
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に、銀を含む活性金属含有ろう材を介して銅板を接合した後、銅板と活性金属含有ろう材の不要部分を除去し、その後、化学研磨により銅板の側面部から活性金属含有ろう材がはみ出すように銅板の不要部分を除去し、この化学研磨によって銅板の表面に付着した銀を除去することを特徴とする、金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記活性金属含有ろう材が銀と銅と活性金属からなることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記活性金属含有ろう材が錫を含むことを特徴とする、請求項2に記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記活性金属含有ろう材中の銀の含有量が70質量%以上であることを特徴とする、請求項2または3に記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記銀の除去後に、銅板と活性金属含有ろう材の露出面にめっき皮膜を形成することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記めっき皮膜が無電解Ni合金めっきにより形成されることを特徴とする、請求項5に記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記化学研磨が、銅の溶解速度が銀の溶解速度の10倍以上の化学研磨液により行われることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記銀の除去が、銀の溶解速度が銅の溶解速度の10倍以上の銀除去液により行われることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の金属−セラミックス回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス回路基板の製造方法に関し、特に、活性金属含有ろう材により金属板がセラミックス部材に接合された金属−セラミックス回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、電車、工作機械などの大電力を制御するために、パワーモジュールが使用されている。このようなパワーモジュール用の絶縁基板として、セラミックス基板の一方の面に接合された金属回路板上のチップ部品や端子の半田付けが必要な部分などにめっきが施された金属−セラミックス回路基板が使用されている。
【0003】
このような金属−セラミックス回路基板では、接合後の熱衝撃によりセラミックス基板と金属回路板との間に発生する熱膨張差による熱応力により、セラミックス基板にクラックが発生し易い。
【0004】
このような熱応力を緩和させる方法として、金属回路板の沿面部分を薄くする方法、すなわち金属回路板の周縁部に段構造またはフィレット(金属回路板をセラミックス基板に接合するためのろう材のはみ出し部)を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
しかし、(銅回路板などの)金属回路板をセラミックス基板に接合するための活性金属含有ろう材のはみ出し部(フィレット)を形成した金属−セラミックス回路基板をパワーモジュールに組み込むと、セラミックス基板上の金属回路板の回路パターン間などにおいて、活性金属含有ろう材中の金属(例えば、活性金属と銀と銅からなるろう材を使用した場合に銀または銅)のマイグレーションが生じて、絶縁不良を起こすおそれがある。
【0006】
このようなマイグレーションを防止する方法として、金属板の端部からはみ出したろう材のはみ出し部の表面に無電解Ni−Pめっきを施す方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−125821号公報(段落番号0008)
【特許文献1】特開2001−332854号公報(段落番号0014−0019)
【特許文献3】特開2004−307307号公報(段落番号0012−0014)
【特許文献4】特開2006−228918号公報(段落番号0021−0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、活性金属含有ろう材のはみ出し部にNi−Pめっきを施しても、金属−セラミックス回路基板をパワーモジュールに組み込む際のアセンブリ工程における(半田付けなどの)熱処理や絶縁ゲルによる被覆によってマイグレーションが発生するのを十分に抑制することができない。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、活性金属含有ろう材によりセラミックス基板に金属板を接合した金属−セラミックス回路基板の製造方法において、マイグレーションの発生を十分に抑制することができる金属−セラミックス回路基板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、セラミックス基板の少なくとも一方の面に、銀を含む活性金属含有ろう材を介して銅板を接合した後、銅板と活性金属含有ろう材の不要部分を除去し、その後、化学研磨により銅板の側面部から活性金属含有ろう材がはみ出すように銅板の不要部分を除去し、この化学研磨によって銅板の表面に付着した銀を除去することにより、活性金属含有ろう材によりセラミックス基板に金属板を接合した金属−セラミックス回路基板の製造方法において、マイグレーションの発生を十分に抑制することができる金属−セラミックス回路基板を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に、銀を含む活性金属含有ろう材を介して銅板を接合した後、銅板と活性金属含有ろう材の不要部分を除去し、その後、化学研磨により銅板の側面部から活性金属含有ろう材がはみ出すように銅板の不要部分を除去し、この化学研磨によって銅板の表面に付着した銀を除去することを特徴とする。
【0012】
この金属−セラミックス回路基板の製造方法において、活性金属含有ろう材が、銀と銅と活性金属からなるのが好ましく、錫を含んでもよい。また、活性金属含有ろう材中の銀の含有量が70質量%以上であるのが好ましい。また、銀の除去後に、銅板と活性金属含有ろう材の露出面にめっき皮膜を形成するのが好ましく、めっき皮膜が無電解Ni合金めっきにより形成されるのが好ましい。また、化学研磨が、銅の溶解速度が銀の溶解速度の10倍以上の化学研磨液により行われるのが好ましく、銀の除去が、銀の溶解速度が銅の溶解速度の10倍以上の銀除去液により行われるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、活性金属含有ろう材によりセラミックス基板に金属板を接合した金属−セラミックス回路基板の製造方法において、マイグレーションの発生を十分に抑制することができる金属−セラミックス回路基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、セラミックス基板に活性金属含有ろう材を印刷した状態を示す断面図である。
【
図1B】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、活性金属含有ろう材を介してセラミックス基板に金属板を接合した状態を示す断面図である。
【
図1C】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法実施の形態において、金属板の表面に所望の回路パターンのレジストを塗布した状態を示す断面図である。
【
図1D】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、金属板の不要な部分をエッチング除去した状態を示す断面図である。
【
図1E】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、金属板からレジストを除去した状態を示す断面図である。
【
図1F】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、活性金属含有ろう材の不要な部分を除去した状態を示す断面図である。
【
図1G】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、金属板の表面に金属板の表面を化学研磨した後に銅板に銀が付着して銀層が形成された状態を示す断面図である。
【
図1H】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、金属板の表面から銀層を除去した状態を示す断面図である。
【
図1I】本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態において、めっき皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態では、セラミックス基板の少なくとも一方の面に、銀を含む活性金属含有ろう材を介して銅板を接合した後、銅板と活性金属含有ろう材の不要部分を除去し、その後、化学研磨により銅板の側面部から活性金属含有ろう材がはみ出すように銅板の不要部分を除去して活性金属含有ろう材からなるフィレットを形成し、この化学研磨によって銅板の表面に付着した銀を(銀除去液により)除去する。
【0016】
上記の金属−セラミックス回路基板およびその製造方法において、セラミックス基板として、アルミナやシリカなどを主成分とする酸化物、または窒化アルミニウムや窒化ケイ素や炭化ケイ素などを主成分とする非酸化物からなり、5〜200mm×5〜200mm程度の大きさで0.25〜3.0mm(好ましくは0.3〜1.0mm)の厚さの基板を使用することができる。
【0017】
活性金属含有ろう材は、金属元素として銀と銅と活性金属とを含むのが好ましく、金属元素の合計に対して10質量%以下の錫を含んでもよい。また、活性金属含有ろう材中の金属元素の合計に対する銀の含有量は、70質量%以上であるのが好ましく、70〜95質量%であるのがさらに好ましく、75〜93質量%であるのが最も好ましい。また、活性金属含有ろう材中の金属元素の合計に対する活性金属の含有量は、1〜5質量%であるのが好ましく、1〜3質量%であるのがさらに好ましい。この活性金属含有ろう材の活性金属成分として、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの水素化物の少なくとも1種以上を使用することができる。なお、マイグレーションの発生を十分に抑制することができる金属−セラミックス回路基板を製造するためには、活性金属含有ろう材中に錫が含まれるのが好ましい。
【0018】
銅板の不要部分の除去は、例えば、塩化銅や塩化鉄を含むエッチング液に浸漬するか、このエッチング液をスプレーすることより行うことができる。また、活性金属含有ろう材の不要部分の除去は、キレート含有薬液やフッ酸系の薬液に浸漬するか、その薬液をスプレーすることにより行うことができる。
【0019】
化学研磨は、化学研磨液に浸漬するか、化学研磨液をスプレーすることによって行われるのが好ましく、この化学研磨液は、銅の溶解速度が銀の溶解速度の10倍以上であるのが好ましく、50倍以上であるのがさらに好ましい。このような化学研磨液として、硫酸と過酸化水素と残部の水とからなる化学研磨液や、市販の銅用化学研磨液などを使用することができる。この化学研磨により、金属−セラミックス回路基板の外観、ワイヤボンディング性、半田濡れ性などを向上させることができるとともに、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmの幅(活性金属含有ろう材がセラミックス基板に沿って延びて銅板の側面からはみ出した部分の長さ)のフィレットを形成して、金属−セラミックス回路基板の耐熱衝撃性を向上させることができる。このフィレットとして形成された活性金属ろう材のはみ出し部分の厚さは、3〜50μmであるのが好ましく、5〜20μmであるのがさらに好ましい。なお、化学研磨液の銅の溶解速度と銀の溶解速度の比は、同じ形状の純銅(無酸素銅)板と純銀板を同じ条件(温度、時間などの条件)で化学研磨液に浸漬した後の純銅板と純銀板のそれぞれの重量の減少量から算出することができる。
【0020】
この化学研磨では、主として銅を溶解する薬液を使用するため、活性金属含有ろう材や銅板中に存在していた銀が、銅の溶解により露出し、液中に不溶な銀の残渣として存在し、この銀が銅板の表面に弱い力で付着して、1μm程度の厚さの層状に形成され、金属−セラミックス回路基板の耐マイグレーション特性を劣化させることがわかった。そのため、本発明による金属−セラミックス回路基板の実施の形態では、マイグレーションの発生を十分に抑制するために、銅板の表面に付着した銀を除去している。
【0021】
銅板の表面に付着した銀の除去は、銀除去液に浸漬することによって行われるのが好ましく、この銀除去液は、銀の溶解速度が銅の溶解速度の10倍以上であるのが好ましく、50〜71倍(銅の溶解速度0.042〜0.050μm/分に対して銀の溶解速度が2.5〜3.0μm/分)であるのがさらに好ましい。このような銀除去液として、酢酸と過酸化水素と残部の水とからなる薬液を使用するのが好ましく、市販の銀めっき剥離剤(例えば、佐々木化学薬品株式会社製のエスバックAG−601)と過酸化水素と残部の水とからなる銀除去液を使用することができる。なお、銀除去液の銅の溶解速度と銀の溶解速度の比は、同じ形状の純銅(無酸素銅)板と純銀板を同じ条件(温度、時間などの条件)で銀除去液に浸漬した後の純銅板と純銀板のそれぞれの重量の減少量から算出することができる。
【0022】
この銀の除去後、銅板と活性金属含有ろう材の露出面にめっき皮膜を形成するのが好ましく、このめっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜であるのが好ましく、無電解Ni合金めっきにより形成されるのが好ましい。このめっき皮膜の形成に代えて、防錆処理を行ってもよい。
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1A〜
図1Bに示すように、セラミックス基板10の両面にペースト状の活性金属含有ろう材12をスクリーン印刷し、その活性金属含有ろう材12上に銅板14を配置し、実質的に真空または非酸化性雰囲気中において加熱した後に冷却することにより、セラミックス基板10の両面に銅板14を接合する。この接合により、活性金属含有ろう材12は、
図1Bに示すように、主に活性金属含有ろう材12の活性金属とセラミックス基板10のセラミックスとの反応生成物によって形成された層(反応生成物層)12aと、主に活性金属含有ろう材12の活性金属以外の金属によって形成された層(金属層)12bになる。反応生成物層12aは、活性金属以外の金属の含有量が低い層であり、金属層12bは、活性金属以外の金属の含有量が高い層である。なお、活性金属含有ろう材12が反応生成物層12aと金属層12bになることは、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)などにより、容易に確認することができるが、活性金属含有ろう材12の組成によって、反応生成物層12aと金属層12bの境界がEPMAでは確認することができない場合もある。
【0025】
次に、
図1Cに示すように、セラミックス基板10の両面に接合した銅板14の表面に、所望の回路パターンのレジスト16を塗布し、
図1Dに示すように、塩化第2銅エッチング液や塩化鉄エッチング液などにより銅板14の不要な部分をエッチング除去した後、
図1Eに示すように、レジスト16を除去する。
【0026】
次に、
図1Fに示すように、活性金属含有ろう材12の不要な部分を、例えば、フッ酸を含む水溶液や、エチレン時アミン四酢酸(EDTA)などの活性金属と錯体を形成する化合物を含む水溶液により除去する。
【0027】
次に、銅板14の表面を化学研磨液により化学研磨すると、
図1Gに示すように、銅板14の側面からはみ出したフィレットが形成されるとともに、銅板14の表面に銀が付着して銀層18が形成される。
【0028】
次に、
図1Hに示すように、銀除去液により銅板14の表面の銀層18を除去した後、
図1Iに示すように、銅板14および活性金属含有ろう材12上にめっき皮膜20を形成して、所定の幅のフィレット(活性金属含有ろう材12がセラミックス基板10の両面の各々に沿って延びて銅板14の側面からはみ出た部分)が形成された金属−セラミックス回路基板を得る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明による金属−セラミックス回路基板の製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0030】
[実施例1]
34mm×34mm×0.6mmの大きさの窒化アルミニウム基板の両面に、90質量%の銀と8質量%の銅と(活性金属成分としての)2質量%のチタン(Ag:Cu:Ti=90:8:2)とをビヒクルに加えて混練した活性金属含有ろう材を厚さ20μmになるようにスクリーン印刷し、その上に34mm×34mm×0.25mmの無酸素銅板を配置し、真空中で850℃に加熱して窒化アルミニウム基板の両面に銅板を接合した。
【0031】
次に、両面の銅板上に所定の回路パターンの紫外線硬化アルカリ剥離型レジストをスクリーン印刷により塗布し、レジストに紫外線を照射して硬化させた後、塩化銅と塩酸と残部の水とからなるエッチング液により銅板の不要な部分をエッチングし、水酸化ナトリウム水溶液によりレジストを除去して銅回路を形成した。
【0032】
次に、希硫酸に20秒間浸漬して酸洗し、1.6質量%のEDTA・4Naと3質量%のアンモニア水(28質量%のアンモニアを含むアンモニア水)と5質量%の過酸化水素水(35質量%の過酸化水素を含む過酸化水素水)を含むキレート水溶液に20℃で20分間浸漬し、2質量%のエチレントリアミン五酢酸(DTPA)・5Naと5質量%の過酸化水素水を含むキレート水溶液に20℃で52分間浸漬することにより、活性金属含有ろう材の不要な部分を除去した。
【0033】
次に、14質量%の硫酸と3.2質量%の過酸化水素と残部の水とからなる化学研磨液に銅回路板を45℃で5分間浸漬して銅回路板の不要部分を化学研磨により除去して、活性金属含有ろう材を銅回路板の側面部からはみ出させた後、10質量%の銀めっき剥離剤(佐々木化学薬品株式会社製のエスバックAG−601)と(34質量%の過酸化水素を含む)過酸化水素水50質量%と残部の水とからなる銀除去液に室温で3分間浸漬して(化学研磨によって付着した)銅回路板の表面の銀を除去した。なお、使用した化学研磨液の銅の溶解速度は銀の溶解速度の50倍以上であり、銀除去液の銀の溶解速度は銅の溶解速度の60倍以上であった。
【0034】
次に、銅板および活性金属含有ろう材を覆うように無電解Ni−Pめっきにより厚さ3μmのめっき皮膜を形成して、金属−セラミックス回路基板を得た。
【0035】
このようにして作製した金属−セラミックス回路基板について、以下のような硫黄華試験を行って、マイグレーションの発生の有無を評価した。まず、金属−セラミックス回路基板を270℃で3分間熱処理した後、金属−セラミックス回路基板にゲル(モメンティブ社製のTSE3051)を厚さ1〜2mm程度に塗布し、150℃で1時間加熱して硬化させた。この金属−セラミックス回路基板を、硫黄華4gと相対湿度制御用のイオン交換水20mLを入れておいた容積約1200cm
3のガラス容器内に投入し、密閉して80℃で500時間静置した。その後、銅板の周縁部の幅1mm程度の部分を上方から電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)により500倍で観察し、Ni−Pめっき皮膜からAg(とS)がはみ出した部分(幅5μm以上の点状または線状の部分)を特性X線で確認し、その部分をマイグレーション発生箇所として、その発生箇所の数が0〜10個未満の場合はマイグレーションの発生なし、10〜20個の場合はマイグレーションの発生が軽微、21〜100個の場合はマイグレーションの発生が多数と評価し、100個を超える場合、幅100μm以上の箇所がある場合、観察領域のほぼ全てにマイグレーション発生箇所がある場合には、マイグレーションの発生が顕著として評価した。その結果、本実施例で作製した金属−セラミックス回路基板では、マイグレーション発生箇所は15個であり、マイグレーションの発生は軽微であった。
【0036】
また、大気中において窒化アルミニウム基板の一方の面の銅回路板と他方の面の銅板との間に2.5kVの電圧を印加したときに、リーク電流が5mA以上になった場合に、絶縁が破壊されたと判断したところ、絶縁は破壊されておらず、絶縁耐圧が高かった。
【0037】
また、窒化アルミニウム基板の一方の面の(めっきを施した)銅回路板の表面に、超音波ワイヤボンディングにより直径0.3mmのアルミニウムワイヤをループ状に接合し、そのループの頂部を引っ張って、アルミニウムワイヤが銅回路板の表面で剥離せずに破断するか否か(ワイヤボンディング性)を調べたところ、いずれもアルミニウムワイヤが銅回路板の表面で剥離せずに破断し、ワイヤボンディングによるアルミニウムワイヤの接合が良好(ワイヤボンディング性が良好)であった。
【0038】
また、金属−セラミックス回路基板の一方の面の(めっきを施した)銅回路板の半田濡れ性を評価するために、銅回路板の半田面の半田濡れ性を評価する10mm×10mmの部分以外の部分に半田レジストを形成し、大気中において245℃のオーブン内で2分間加熱し、放冷後、半田濡れ性を評価する部分に半田ペースト(共晶半田)を厚さ約0.5mmに塗布した。次に、大気中において200℃のホットプレート上で3分間加熱し、放冷後、半田濡れ性を評価する部分の面積(100mm
2)に対して溶融半田が濡れて占有する面積の割合(半田の濡れ広がり率)を測定した。なお、半田の濡れ広がり率の評価基準として、半田の濡れ広がり率が95%以上の場合に半田濡れ性が良好であるとし、95%未満の場合に半田濡れ性が不良であるとした。その結果、(めっきを施した)銅回路板の半田濡れ性は良好であった。
【0039】
[実施例2]
活性金属含有ろう材として、83質量%の銀と10質量%の銅と5質量%の錫と(活性金属成分としての)2質量%のチタンを含む活性金属含有ろう材(Ag:Cu:Sn:Ti=83:10:5:2)を使用し、この活性金属含有ろう材を厚さ10μmになるようにスクリーン印刷した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス回路基板を得た。
【0040】
この金属−セラミックス回路基板について、実施例1と同様の方法により、マイグレーションの発生の有無、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性の評価を行ったところ、マイグレーション発生箇所は1つもなく、マイグレーションの発生はなかった。また、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性も良好であった。
【0041】
[実施例3]
活性金属含有ろう材として、83質量%の銀と10質量%の銅と5質量%の錫と(活性金属成分としての)2質量%のチタンを含む活性金属含有ろう材(Ag:Cu:Sn:Ti=83:10:5:2)を使用し、この活性金属含有ろう材を厚さ15μmになるようにスクリーン印刷した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス回路基板を得た。
【0042】
この金属−セラミックス回路基板について、実施例1と同様の方法により、マイグレーションの発生の有無および絶縁耐圧の評価を行ったところ、マイグレーション発生箇所は1つもなく、マイグレーションの発生はなかった。また、絶縁耐圧も良好であった。
【0043】
[比較例1]
銀除去液による銀の除去を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス回路基板を得た。
【0044】
この金属−セラミックス回路基板について、実施例1と同様の方法により、マイグレーションの発生の有無、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性の評価を行った。その結果、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性も良好であったが、マイグレーションの発生箇所の数が非常に多く、マイグレーションの発生が顕著であった。
【0045】
[比較例2]
銀除去液による銀の除去を行わなかった以外は、実施例2と同様の方法により、金属−セラミックス回路基板を得た。
【0046】
この金属−セラミックス回路基板について、実施例1と同様の方法により、マイグレーションの発生の有無、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性の評価を行った。その結果、絶縁耐圧、ワイヤボンディング性および半田濡れ性も良好であったが、マイグレーションの発生箇所の数が非常に多く、マイグレーションの発生が顕著であった。
【0047】
なお、実施例1〜3および比較例1〜2の金属−セラミックス回路基板の断面を観察したところ、実施例1〜3の金属−セラミックス回路基板では、銅回路板の表面とめっき皮膜との間にAgが確認されなかったが、比較例1〜2の金属−セラミックス回路基板では、銅回路板の表面とめっき皮膜との間にAgが存在していた。
【符号の説明】
【0048】
10 セラミックス基板
12 活性金属含有ろう材
12a 反応生成物層
12b 金属層
14 銅板
16 レジスト
18 銀層
20 めっき皮膜