(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の試験片(SH)および試験片(SL)のうちで最も材料特性が低い試験片について実施された機械試験の結果と、未使用のガスタービン部品から取得した試験片(SN)について実施された機械試験の結果とを利用して作成された検量線を外挿することによって、前記の運転に用いられたガスタービン部品の寿命評価を行なう、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスタービン部品の寿命評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「ガスタービン」とは、「作動流体の熱エネルギーを機械的仕事に変換する機械で、1台以上の圧縮機、作動流体を加熱する装置、1台以上のタービン、制御装置及び必要に応じて、熱交換機その他の補機から構成される装置」(JIS B0128:2005 1101 参照)を言う。従って、本発明の実施形態における「ガスタービン部品」とは、上記のガスタービンを構成する各機械ないし装置等において採用されている各種部品を言う。
【0014】
このような本発明の実施形態によるガスタービン部品の寿命評価方法は、特に、高温の作動条件に曝される部品(例えば、高温のガス流に接触する部品)、例えば、発電用のガスタービンの動翼、静翼、燃焼器ライナおよびトランジションピース、シュラウドセグメント、ロータ等の寿命評価に特に適したものである。
【0015】
上述のガスタービン部品は、一般的に、鋳造Ni基超合金、鋳造Co基超合金あるいは圧延Ni基超合金などの金属によって形成されることが多いが、本発明の実施形態による寿命評価方法によれば、上記の各合金ならびに上記以外の金属から形成されるガスタービン部品の寿命評価を行うことができる。
【0016】
従来、ガスタービン部品の寿命管理は、運転時間によって行われることが一般的であったが、本発明の実施形態による寿命評価方法によれば、実際に運転に用いられたガスタービン部品について、より精度よく寿命評価を行うことができる。このことから、ガスタービンの運転状況(例えば、起動停止、負荷変化等)に応じた最適な保守管理作業、交換作業等を効率的に行うことができるので、安全性の更なる向上、稼働状況の高効率化を達成することができる。
【0017】
なお、本発明の実施形態によるガスタービン部品の寿命評価方法による評価は、個々に具体的に寿命評価されたその部品だけでなく、場合により、同一のガスタービンプラント内の同一ないし同等の運転環境にある他の部品についての寿命評価に適用または参照可能なものであり、また、同一機種あるいは同一運転形態をとる他のガスタービンプラントの寿命評価の際に適用または参照することができる。
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態によるガスタービン部品の寿命評価方法を、必要に応じて図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、実施形態によるガスタービン部品の寿命評価方法の手順を示すものである。
【0020】
この寿命評価方法は、運転に用いられたガスタービン部品を、非破壊検査1によって、相対的に高温の熱履歴を受けた領域と、相対的に低温の熱履歴を受けた領域とを識別する工程(A)、
この工程(A)で識別された相対的に高温の熱履歴を受けた領域(H)から試験片(SH)を取得する工程(B1)、および
前記工程(A)で識別された相対的に低温の熱履歴を受けた領域(L)から試験片(SL)を取得する工程(B2)を実施し、次いで、
前記の試験片(SH)および試験片(SL)をそれぞれ機械試験に付す工程(C)、および
前記の機械試験の結果からガスタービン部品の寿命を評価する工程(D)を、
具備してなるものである。
【0021】
ここで、「相対的に高温の熱履歴を受けた領域」とは、運転時間が同一の単一のガスタービン部品において、運転中に「相対的に高温の熱履歴を受けた領域」を言う。従って、このような領域には、典型的には、単一のガスタービン部品において、「運転中の最高到達温度が最も高い熱履歴を受けた領域」が包含される。
【0022】
一方、上記において、「相対的に低温の熱履歴を受けた領域」とは、運転時間が同一の単一のガスタービン部品において、運転中に「相対的に低温の熱履歴を受けた領域」を言う。従って、このような領域には、典型的には、単一のガスタービン部品において、「運転中の最高到達温度が最も低い熱履歴を受けた領域」が包含される。
【0023】
また、上記の「相対的に高温の熱履歴を受けた領域」と「相対的に低温の熱履歴を受けた領域」とは、運転中の最高到達温度の差が100℃以上異なることが好ましく、特に最高到達温度の差が200℃以上異なることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明のガスタービン部品の寿命評価方法は、上記の各工程(即ち、工程(A)、(B1)、(B2)、(C)および(D))のみを採用するもののみに限定されず、上記の各工程に加えて上記以外の他の工程ないし処理等を具備してなる寿命評価方法をも包含している。
【0025】
<工程(A)>
本発明の実施形態では、「相対的に高温の熱履歴を受けた領域」と「相対的に低温の熱履歴を受けた領域」とを、非破壊検査、好ましくは目視検査(具体的には、ガスタービン部品の表面色の相違を肉眼で目視することからなる検査)によって的確に識別する。例えば、一般的にNi基超合金にMCrAlYコーティングが施されたガスタービン第1段動翼においては、外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低いことから黒褐色となり、一方、メタル温度が高い領域では酸化物が付着しないため白色となることを利用して、目視検査によって識別することができる。また、例えば、一般的にCo基超合金で形成されたガスタービン第1段静翼においては、外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低いことから黒褐色となり、一方、メタル温度が高い領域では酸化物が付着しないため茶褐色となることを利用して、目視検査によって識別することができる。また、例えば、一般的にNi基超合金の圧延材で形成されたガスタービン燃焼器のライナーでは、外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低いことから茶褐色となり、一方、メタル温度が高い領域では基材の酸化が顕著であることから黒褐色または緑褐色となることを利用して、目視検査によって識別することができる。また、このような目視検査によれば、「運転中の最高到達温度が最も低い熱履歴を受けた領域」と「運転中の最高到達温度が最も低い熱履歴を受けた領域」とを識別することできる。
【0026】
なお、このような相対的な高温または低温の熱履歴を受けた領域は、部品の具体的機能、形状、加熱流体との接触条件、および部品の冷却条件等の相違から、当該技術分野の技術者であるならばその者の知識ならびに経験等に基づいて、識別ないし推測することができる場合があるが、本発明の実施形態では、確実に所定の領域を識別するために非破壊検査を実施する。
【0027】
<工程(B1)および工程(B2)>
本発明の実施形態では、
上記の工程(A)で識別された相対的に高温の熱履歴を受けた領域(H)から試験片(SH)を取得する工程(B1)、および
前記工程(A)で識別された相対的に低温の熱履歴を受けた領域(L)から試験片(SL)を取得する工程(B2)が実施される。
【0028】
上記の試験片(SH)と試験片(SL)とは、それぞれ後述の工程(C)および工程(D)において特性が比較検討されるものであることから、これらがガスタービン部品の熱履歴が異なる領域から取得されたこと以外の要件については出来るだけ同一ないし類似していることが好ましい。
【0029】
なお、本発明の実施形態では、試験片(SH)と試験片(SL)とは、具体的に寿命評価を行う対象となる同一のガスタービン部品(即ち、実機での運転時間が同一のガスタービン部品)から、それぞれ少なくとも一つずつ取得する必要があるが、試験片(SH)および試験片(SL)は、同一のガスタービン部品から、それぞれ複数取得することが好ましく、そして、こららの複数の試験片(SH)および複数の試験片(SL)について、後述の工程(C)および工程(D)を実施することが好ましい。複数の試験片によって評価した方が、より精度が高い寿命評価を行えるからである。また、一般的に、寿命評価の結果に応じて行われれるガスタービン部品の交換ないし補修作業は、最も材料特性が低下した部品もしくは箇所を基準にして行われることが多いが、複数の試験片を取得した方がそのような最も材料特性が低下した部品もしくは箇所から試験片を取得できる可能性が高くなり、より精度よく寿命評価を行えるようになるからである。
【0030】
本発明の実施形態では、ガスタービン部品の所定の領域に存在する金属材を切削または研削等の加工に付すことによって、例えば
図8Aおよび
図8Bに示されるような中央部にくびれた平行部を有する中実丸棒試験片を取得し、寿命評価に供することができる。
【0031】
<工程(C)>
本発明の実施形態によるガスタービン部品の寿命評価方法における工程(C)は、前記の試験片(SH)および試験片(SL)をそれぞれ機械試験に付す工程である。好ましい機械試験としては、低サイクル疲労試験、クリープ試験、引張試験、衝撃試験を挙げることができる。
【0032】
この中で特に好ましいのは低サイクル疲労試験である。本発明の実施形態では、例えば、JIS Z2279:1992 「金属材料の高温低サイクル疲労試験方法」に準拠して、高温低サイクル疲労試験を行って、試験片が破損するまでの繰返し数(以下、本明細書において「破損繰返し数」と言うことがある)を求めることができる。
【0033】
低サイクル疲労試験の具体的な試験条件は、例えばガスタービン部品を形成している金属材料、コーティング材料等に応じて適宜定めることができるが、温度は600〜1000℃、全歪み範囲が0.2〜2%の範囲内で選定することができる。
【0034】
<工程(D)>
本発明の実施形態による寿命評価方法における工程(D)は、前記の機械試験の結果からガスタービン部品の寿命を評価する工程(D)である。
【0035】
この工程(D)では、前記の工程(C)での機械試験の結果、試験片(SH)および試験片(SL)のうちで最も材料特性が低い試験片を利用してガスタービン部品の寿命を評価することが好ましい。特に、同一のガスタービン部品から試験片(SH)および試験片(SL)を、それぞれ複数取得し、これらの試験片に同条件にて前記の機械試験を行って、これらの試験片のうちで最も材料特性の低い試験片の結果を利用することが好ましい。具体的には、工程(C)の機械試験として、例えば低サイクル疲労試験を採用した場合には、最も破損繰返し数が少ない試験片の結果を利用することが好ましい。
【0036】
そして、このような本発明の好ましい実施形態による寿命評価方法では、上記の最も材料特性が低い試験片について実施された機械試験の結果と、未使用のガスタービン部品から取得した試験片(SN)について実施された機械試験の結果とを利用して作成された検量を外挿することによって、ガスタービン部品の寿命評価を行なうことができる。
【0037】
好ましくは、例えば
図5に示されるように、未使用(即ち、運転時間0時間)のガスタービン部品の試験片(SN)の結果と、所定時間運転に用いられた試験片の機械試験の結果(
図5では、例えば30000時間(または50000時間、あるいは30000時間および50000時間の両方の結果)から定められる検量線である寿命消費線から、ガスタービン部品の疲労寿命消費を評価することができ、かつガスタービンの残寿命を推定することができる。ここで、上記の試験片(SH)、試験片(SL)および試験片(SN)とは、寿命評価の精度を高く保つために、試験片の形状および機械試験の条件に関し同一とすることが好ましい。
【0038】
本発明の実施形態では、例えば未使用のガスタービン部品の試験片に対する疲労寿命比が、所定の値(例えば、0.2)になると見込まれる運転時間を、タービン部品の寿命と判断して、このタービン部品を補修または交換することができる。
【0039】
<他の工程、処理ないし操作(任意の工程等)>
本発明の実施形態による寿命評価方法においては、必要に応じて、
図1中の(E)または(F)で示されるように、非破壊検査で検出した損傷結果を加味してガスタービン部品の寿命評価をすることができる。
【0040】
このような非破壊検査としては、ガスタービン部品の損傷の有無等の評価のために従来から採用されてきた工程、処理ないし操作等の中から選択して適宜用いることができる。そのようなもののうち、特に適したものとしては、例えば、蛍光浸透深傷検査法、レプリカ法、超音波深傷法、放射線深傷法、渦電流深傷法等を挙げることができる。
このような非破壊検査で検出した損傷結果を加味し総合的評価することによって、ガスタービン部品の寿命評価をより精度よく実施することができる。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
本実施例は、ここではNi基超合金のガスタービン第1段動翼に用いられている材料を用いて低サイクル疲労寿命に及ぼす材料劣化の影響を事前に把握した実施例である。
【0042】
ここで試験に用いた材料は、Ni基超合金のIN738LC材であり、材料劣化の影響を把握するために、750℃および900℃で1000時間、3000時間の人工劣化材を作成した。その後、この人工劣化材より、
図8Aに示される試験片を切り出し、低サイクル疲労試験を行った。ここでの試験条件として、試験温度は900℃、全歪み範囲は0.5%とした。
【0043】
750℃の人工劣化材の低サイクル疲労試験結果を
図2に示す。新材の破損繰返し数に対する劣化材の破損繰返し数を比で示すが、1000時間の時効で上昇し、その後、3000時間の時効でも大きな変化は生じていなかった。一方、900℃の人工劣化材でも、
図3に示されるように同様の結果が得られた。
以上のことから、材料劣化はむしろ低サイクル疲労強度を向上させることが判明した。
【0044】
<実施例2>
本実施例2は、Ni基超合金のガスタービン第1段動翼に用いられている多結晶材を対象とした実施例である。この実施例2では、
図1に示す手順で寿命評価を行った。
【0045】
このガスタービンの第1段動翼の外面には、高温の燃焼ガスから基材を保護するためにコーティングが施されている。
【0046】
非破壊検査は、約30000時間の実機運転後、この動翼の表面を目視、浸透探傷検査で表面の酸化状況や損傷を確認することによって行った。実機運転中、この第1段動翼では内部が400〜500℃程度の空気で冷却されており、その冷却構造よる部位の違いによりメタル温度に差が生じる。その結果として、表面の酸化の程度が変わってくるため、表面の色彩が異なる。外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低く、黒褐色となる。メタル温度が高い領域では酸化物が付着しないため、白色となり、本実施例でもこのような色彩の結果を示していた。
【0047】
次に、評価対象となっている動翼の基材から試験片を採取するが、非破壊検査で把握した表面の変色状況より、高温部と低温部に相当する領域から
図8Bに示される形状の低サイクル疲労試験片を採取した。その後、得られた試験片(SH)ならびに試験片(SL)を用いて低サイクル疲労試験を行った。試験温度はガスタービンの機種の違いにより設定されるが、ここでは900℃の雰囲気で、全歪み範囲は0.5%で実施した。一方、未使用の同種の第1段動翼から採取された同様の試験片(SN)についても、前記と同じ条件で低サイクル疲労試験を行った。その結果を
図4に示す。
【0048】
図4に示されるように、高温部の破損繰返し数は新翼に対して高めの値を示し、低サイクル寿命の低下は認められなかった。一方、低温部から採取した試験片から得られた破損繰返し数は新翼より低い値を示し、低サイクル疲労寿命の低下が認められた。非破壊検査で得られた表面の酸化や変色状況と基材から採取した低サイクル疲労試験のデータをもとに総合評価した。
【0049】
図5は、横軸に運転時間を、縦軸に低サイクル疲労寿命比(試験片(SN)の破損繰返し数に対する対象試験片(SHまたはSL)の破損繰返し数の比)とり、上記の結果を整理したもので、約50000時間使用した翼のデータも追記している。また、図中の寿命消費線は、材料特性が最も低いデータを用いて作成している。これは、最も寿命消費速度が大きい部位がその部品の寿命を支配することになるからである。
【0050】
これにより、タービン部品の、約30000時間の実機運転時点の疲労寿命比は、0.7、約50000時間の実機運転時点の疲労寿命比は0.55である。一方、所定の疲労寿命比値(例えば、0.2)になると見込まれる運転時間は、前記寿命消費線を外挿することで求めることができ、本実施例では約85000時間であることが判った。
【0051】
このようにして、その評価する部品の冷却構造によっては材料劣化が顕著に生じている部位よりも比較的低温の部位で寿命消費する場合があるため、材料劣化が生じている部位のみならず、材料劣化が軽微である部位も併せて評価部位を複合的に評価することが合理的である。
なお、本実施例では機械試験として低サイクル疲労試験を行ったが、引張試験、衝撃試験、クリープ試験等も併せて実施することも可能であり、これにより材料特性を総合的に評価することで、寿命評価の精度が向上する。
【0052】
<実施例3>
本実施例3は、Co基超合金のガスタービン第1段静翼を対象とした実施例である。この実施例3も、
図1に示す手順で寿命評価を行った。
非破壊検査は、約30000時間の実機運転後に表面を目視検査で表面の酸化状況や損傷を確認することによって行った。
【0053】
第1段静翼は内部を400〜500℃程度の空気で冷却しており、その冷却構造による部位の違いによりメタル温度に差が生じる。その結果として、表面の酸化の程度が変わってくるため、表面の色彩が異なる。外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低く、黒褐色となる。メタル温度が高い領域では酸化物が付着しないため、茶褐色となり、本実施例でもこのような色彩の結果を示していた。
【0054】
次に、評価対象となっている静翼より試験片を採取するが、非破壊検査で把握した表面の変色状況より、高温部と低温部に相当する領域から
図8Bに示される低サイクル疲労試験片を採取した。その後、得られた試験片(SH)ならびに試験片(SL)を用いて低サイクル疲労試験を行った。試験温度はガスタービンの機種の違いにより設定されるが、ここでは900℃の雰囲気で、全歪み範囲は0.5%で実施した。一方、未使用の同種の第1段動翼から採取された同様の試験片(SN)についても、前記と同じ条件で低サイクル疲労試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0055】
高温部の破損繰返し数は新翼に対して低めの値を示し、低サイクル寿命の低下が認められた。一方、低温部から採取した試験片(SL)から得られた破損繰返し数は新翼より若干低下した程度であり、低サイクル疲労寿命の大幅な低下は認められなかった。
【0056】
非破壊検査で得られた表面の酸化や変色状況と基材から採取した低サイクル疲労試験のデータをもとに総合評価するが、図示していないが、
図5に示した第1段動翼で実施したものと同様に運転時間ごとに各部位のデータを整理した。すなわち、横軸に運転時間を、縦軸に低サイクル疲労寿命比(試験片(SN)の破損繰返し数に対する対象試験片(SHまたはSL)の破損繰返し数の比)をとり、上記の結果を整理するとともに、材料特性の最も低いデータを用いて寿命消費線を求めた。これにより、タービン部品の約30000時間の実機運転時点の疲労寿命比は0.68、約50000時間の実機運転時点の疲労寿命比は0.42であり、所定の疲労寿命比値(例えば、0.2)になると見込まれる運転時間は、前記寿命消費線を外挿することで求め、約71000時間であることが判った。
【0057】
以上の通り、静翼に用いられる材料については材料劣化が顕著に生じている部位が低温部よりも寿命消費するため、材料劣化が軽微である部位も含めて高温部も複合的に評価することが合理的であることが分かる。
なお、本実施例では機械試験として低サイクル疲労試験を行ったが、引張試験、衝撃試験、クリープ試験等も併せて実施することも可能であり、これにより材料特性を総合的に評価することで、寿命評価の精度が向上する。
【0058】
<実施例4>
本実施例4は、Ni基超合金の圧延材を用いたガスタービン燃焼器を対象とした実施例である。この実施例4も、実施例2と同様に
図1の示す手順で寿命評価を行った。
非破壊検査は、実機運転後に表面を目視検査で表面の酸化状況や損傷を確認した。燃焼器ライナは外面を400〜500℃程度の空気で冷却しており、その冷却構造による部位の違いによりメタル温度に差が生じる。その結果として、表面の酸化の程度が変わってくるため、表面の色彩が異なる。外部からの飛来した酸化物が付着する表面ではメタル温度が低く、茶褐色となる。メタル温度が高い領域では基材の酸化が顕著であり、黒褐色または緑褐色となる。
【0059】
次に、評価対象となっている燃焼器ライナより試験片を採取するが、非破壊検査で把握した表面の変色状況より、高温部と低温部に相当する領域から
図8Bに示される低サイクル疲労試験片を採取した。その後、得られた試験片(SH)ならびに試験片(SL)を用いて低サイクル疲労試験を行った。試験温度はガスタービンの機種の違いにより設定されるが、ここでは900℃の雰囲気で、全歪み範囲は0.5%で実施した。一方、未使用の同種の燃焼器ライナから採取された同様の試験片(SN)についても、前記と同じ条件で低サイクル疲労試験を行った。その結果を
図7に示す。
【0060】
高温部の破損繰返し数は未使用品に対して低めの値を示し、低サイクル寿命の低下が認められた。一方、低温部から採取した試験片から得られた破損繰返し数は未使用品とほぼ同等の値を示し、低サイクル疲労寿命の低下は認められなかった。非破壊検査で得られた表面の酸化や変色状況と基材から採取した低サイクル疲労試験のデータをもとに総合評価するが、図示していないが、
図5で示した第1段動翼で実施したものと同様に運転時間ごとに各部位のデータを整理した。すなわち、横軸に運転時間を、縦軸に低サイクル疲労寿命比(試験片(SN)の破損繰返し数に対する対象試験片(SHまたはSL)の破損繰返し数の比)をとり、上記の結果を整理するとともに、材料特性の最も低いデータを用いて寿命消費線を求めた。これにより、タービン部品の、約30000時間の実機運転時点の疲労寿命比は0.61、約50000時間の実機運転時点の疲労寿命比は0.38であり、所定の疲労寿命比値(例えば、0.2)になると見込まれる運転時間は、前記寿命消費線を外挿することで求め、約64000時間であることが判った。
【0061】
以上の通り、燃焼器ライナに用いられる材料については材料劣化が顕著に生じている部位が低温部よりも寿命消費するため、材料劣化が軽微である部位も含めて高温部も複合的に評価することが合理的であることが分かる。
【0062】
なお、本実施例では機械試験として低サイクル疲労試験を行ったが、引張試験、衝撃試験、クリープ試験等も併せて実施することも可能であり、これにより材料特性を総合的に評価することで、寿命評価の精度が向上する。
【0063】
上記の実施例から明らかな通り、本発明に係るガスタービン高温部品の寿命評価手法および評価した部品において、実機で使用した高温部品の正確な疲労寿命消費を把握でき、残寿命が推定できた。
【0064】
以上の通り、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。