特許第6799516号(P6799516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799516
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ロック装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 83/00 20140101AFI20201207BHJP
   B62J 1/12 20060101ALI20201207BHJP
   E05C 19/06 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   E05B83/00 H
   E05B83/00 D
   B62J1/12 C
   E05C19/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-184040(P2017-184040)
(22)【出願日】2017年9月25日
(65)【公開番号】特開2019-60090(P2019-60090A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 光仁
【審査官】 藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−169162(JP,U)
【文献】 特開2010−043405(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/170688(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/074077(WO,A1)
【文献】 特開2001−227222(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02138389(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00 − 85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部材(31)に固定されて前記可動部材(31)の動きに応じてロック位置および解除位置の間で移動するロック部材(39)の移動経路を横切る案内路に、保持位置および退避位置の間で変位自在に案内されるスライダー(41)を備え、
前記スライダー(41)には、
前記保持位置で前記ロック位置の前記ロック部材(39)に係り合って前記ロック位置に前記ロック部材(39)を保持する係り合い面(56)と、
前記係り合い面(56)よりも前方に位置して、前記保持位置から前記退避位置へ向かう変位に応じて前記係り合い面(56)が前記ロック部材(39)から離脱すると前記ロック部材(39)に接触して前記解除位置に向かう前記ロック部材(39)の推進力を前記退避位置に向かう前記スライダー(41)の推進力に変換するカム面(57)と
が形成されることを特徴とするロック装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロック装置において、前記ロック位置が確立される際に前記可動部材(31)を支持する不動部材(43)および前記可動部材(31)の間に配置され、前記ロック位置から前記解除位置に向かって前記ロック部材(39)の推進力を生み出す弾性体(63)を備えることを特徴とするロック装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロック装置において、前記係り合い面(56)は、前記保持位置から前記退避位置に変位する際に、前記解除位置の逆向きに前記ロック部材(39)を押し下げる傾斜面で前記カム面(57)に接続されることを特徴とするロック装置。
【請求項4】
請求項3に記載のロック装置において、前記傾斜面は、前記係り合い面(56)から連続する部分円筒面で構成されることを特徴とするロック装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のロック装置において、前記カム面(57)は平面で構成されることを特徴とするロック装置。
【請求項6】
請求項1に記載のロック装置において、前記ロック位置が確立される際に前記可動部材(31)を支持する不動部材(43)であって、前記ロック部材(39)の進入を受け入れるスリット(45)を区画し、前記ロック部材(39)を両側から挟んで前記可動部材(31)のがたつきを防止する不動部材(43)を備えることを特徴とするロック装置。
【請求項7】
請求項6に記載のロック装置において、前記スリット(45)は、前記スライダー(41)よりも前記移動経路に沿って前記解除位置側に配置され、前記移動経路に沿って前記ロック位置から遠ざかるにつれて前記移動経路から離れるテーパー面(45a)を有することを特徴とするロック装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のロック装置において、前記可動部材(31)はヒンジ(33)の軸線回りで動き、前記スリット(45)は前記軸線に直交する面(RP)で仕切られることを特徴とするロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部材に固定されて前記可動部材の動きに応じてロック位置および解除位置の間で移動するロック部材の移動経路を横切る案内路に、保持位置および退避位置の間で変位自在に案内されるスライダーを備えるロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスクーターの乗員シートには、乗員シートの開閉動作に応じてロック位置および解除位置の間で移動するリング形状のロックフックが固定される。ロックフックの移動経路に直交する案内路に、保持位置および退避位置の間で線形に変位自在にスライダーが案内される。スライダーは、ロックフックの移動経路に直交しつつ移動経路を横切る平面を有する。ロックフックが解除位置に向かう推進力を発揮しても、推進力ベクトルは平面に直交することから、スライダーに推進力は生じず、スライダーはロック位置にロックフックを保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−218474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解錠にあたってスライダーには所定の操作量が与えられる。スライダーの平面はロックフックの移動経路から退避する。退避にあたってスライダーには大きな操作量が要求される。操作量を生み出す機構は大型化してしまう。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、これまでに比べて少ない操作量で解錠を実現するロック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によれば、可動部材に固定されて前記可動部材の動きに応じてロック位置および解除位置の間で移動するロック部材の移動経路を横切る案内路に、保持位置および退避位置の間で変位自在に案内されるスライダーを備え、前記スライダーには、前記保持位置で前記ロック位置の前記ロック部材に係り合って前記ロック位置に前記ロック部材を保持する係り合い面と、前記係り合い面よりも前方に位置して、前記保持位置から前記退避位置へ向かう変位に応じて前記係り合い面が前記ロック部材から離脱すると前記ロック部材に接触して前記解除位置に向かう前記ロック部材の推進力を前記退避位置に向かう前記スライダーの推進力に変換するカム面とが形成されるロック装置が提供される。
【0007】
第2側面によれば、第1側面の構成に加えて、ロック装置は、前記ロック位置が確立される際に前記可動部材を支持する不動部材および前記可動部材の間に配置され、前記ロック位置から前記解除位置に向かって前記ロック部材の推進力を生み出す弾性体を備える。
【0008】
第3側面によれば、第1または第2側面の構成に加えて、前記係り合い面は、前記保持位置から前記退避位置に変位する際に、前記解除位置の逆向きに前記ロック部材を押し下げる傾斜面で前記カム面に接続される。
【0009】
第4側面によれば、第3側面の構成に加えて、前記傾斜面は、前記係り合い面から連続する部分円筒面で構成される。
【0010】
第5側面によれば、第1〜第4側面のいずれかの構成に加えて、前記カム面は平面で構成される。
【0011】
第6側面によれば、第1側面の構成に加えて、ロック装置は、前記ロック位置が確立される際に前記可動部材を支持する不動部材であって、前記ロック部材の進入を受け入れるスリットを区画し、前記ロック部材を両側から挟んで前記可動部材のがたつきを防止する不動部材を備える。
【0012】
第7側面によれば、第6側面の構成に加えて、前記スリットは、前記スライダーよりも前記移動経路に沿って前記解除位置側に配置され、前記移動経路に沿って前記ロック位置から遠ざかるにつれて前記移動経路から離れるテーパー面を有する。
【0013】
第8側面によれば、第6または第7側面の構成に加えて、前記可動部材はヒンジの軸線回りで動き、前記スリットは前記軸線に直交する面で仕切られる。
【発明の効果】
【0014】
第1側面によれば、スライダーが保持位置に位置すると、スライダーの係り合い面はロック位置のロック部材に係り合ってロック位置にロック部材を保持する。こうして施錠状態は確立される。可動部材の動きは規制される。スライダーが保持位置から退避位置に向かって変位すると、係り合い面はロック部材から離脱し、スライダーのカム面はロック部材に接触する。このとき、ロック部材が解除位置に向かう推進力を発揮すると、ロック部材の推進力はカム面によって退避位置に向かうスライダーの推進力に変換される。スライダーはロック部材から駆動力を得て退避位置に達することができる。スライダーがロック部材の移動経路から完全に退避しなくても、係り合い面がロック部材から離脱すれば可動部材の規制は解除されることができる。規制の解除にあたってスライダーの操作量は少なくて済む。
【0015】
第2側面によれば、弾性体の働きでロック位置から解除位置に向かってロック部材は推進力を発揮するので、ロック部材がスライダーのカム面に接触する際にロック部材は退避位置に向かってスライダーを押しやることができる。スライダーは利用者の操作力を受けずにロック部材から駆動力を得て退避位置に達することができる。こうして係り合い面がロック部材から離脱するだけで可動部材の解錠は実現されることができる。
【0016】
第3側面によれば、スライダーが保持位置から退避位置に移動する際にスライダーの操作荷重が高まるので、良好な操作感が得られる。操作に抵抗が加わることで不用意な解錠は回避されることができる。
【0017】
第4側面によれば、傾斜面と係り合い面とは部分円筒面として連続するので、係り合い面の一部として傾斜面は一体化されることができ、スライダーの製造作業は軽減されることができる。
【0018】
第5側面によれば、ロック部材は平面に沿って線形に変位するので、カム面に対してロック部材の追随性が向上し、ロック部材はスムースにスライダーから離脱することができる。
【0019】
第6側面によれば、ロック部材は両側から挟まれるので、可動部材のがたつきは防止される。
【0020】
第7側面によれば、スリットはロック部材を両側から挟むものの、ロック部材の進入はテーパー面で案内されるので、ロック部材は確実にスリットに進入することができる。
【0021】
第8側面によれば、スリットはヒンジの軸線に直交する面で仕切られることから、可動部材がヒンジの軸線回りで揺動してもロック部材と不動部材との干渉は回避されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の全体像を概略的に示す側面図である。
図2】シートロック装置の構成を概略的に示す乗員シートの後端の拡大部分垂直断面図である。
図3】ブラケットの構成を概略的に示す拡大斜視図である。
図4】メインスイッチとの関連性を示すとともにシートキャッチの構造を概略的に示す拡大垂直断面図である。
図5】メインスイッチの拡大断面図である。
図6】シートキャッチの(A)平面図、および(B)6B−6B線に沿った断面図である。
図7】スライダーの動作を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、前後、上下および左右の各方向は自動二輪車に搭乗した乗員から見た方向をいう。
【0024】
図1は鞍乗り型車両の一実施形態に係るスクーター型自動二輪車を概略的に示す。自動二輪車11は車体フレーム12および車体カバー13を備える。車体フレーム12は、その前端のヘッドパイプ14と、前端でヘッドパイプ14に結合されて後下がりに延びるメインフレーム15と、メインフレーム15の後端に結合されて下方に延びるピボットフレーム16と、メインフレーム15の後端から後上がりに延びるリアフレーム17とを備える。ヘッドパイプ14には、車軸18回りに回転自在に前輪WFを支持するフロントフォーク19と操向ハンドル21とが操向可能に支持される。
【0025】
ピボットフレーム16にはピボット22回りで揺動自在にスイングアーム23が取り付けられる。スイングアーム23の後端には車軸24回りに回転自在に後輪WRが支持される。スイングアーム23の後端とリアフレーム17との間にはリアクッションユニット25が配置される。前輪WFおよび後輪WRの間でメインフレーム15にはエンジン26が懸架される。
【0026】
車体カバー13は車体フレーム12に装着される。車体カバー13は、ヘッドパイプ14を覆うフロントカバー27と、フロントカバー27から連続してエンジン26の上方でメインフレーム15を覆うセンターカバー28と、センターカバー28から連続して後方に延び、リアフレーム17を覆うメインカバー29とを備える。リアフレーム17の上方でメインカバー29には乗員シート(可動部材)31が搭載される。ピボットフレーム16の上方でメインカバー29には収納ボックス32が形成される。乗員シート31は収納ボックス32のリッドとして機能する。乗員シート31の前端は収納ボックス32の前端にヒンジ33で結合される。乗員シート31はヒンジ33の働きで収納ボックス32の開口を開閉する。乗員シート31はヒンジ33の軸線回りで動く。ヒンジ33の軸線は車軸24に平行に延びる。
【0027】
ヘッドパイプ14の後方でセンターカバー28にはメインスイッチ35が組み込まれる。メインスイッチ35にはキー36が差し込まれることができる。軸線37回りでキー36が回転すると、電気回路のオンオフや、ハンドルロック、乗員シート31の解錠は実施されることができる。
【0028】
メインカバー29にはシートロック装置(ロック装置)38が組み込まれる。シートロック装置38は、図2に示されるように、乗員シート31の底板31aに固定されて、乗員シート31の動きに応じてロック位置および解除位置の間で移動するリング形状のロックフック(ロック部材)39と、ロック位置のロックフック39にスライダー41で係り合ってロック位置にロックフック39を保持するシートキャッチ42とを備える。ロックフック39は、車両前方側で乗員シート31の底板31aに埋め込まれる上端を有する第1脚39aと、第1脚39aの下端から連続し、第1脚39aから折り曲げられて乗員シート31の底板31aから離れた位置で水平方向に延びてスライダー41に係り合う被キャッチ片39bと、被キャッチ片39bから連続し、被キャッチ片39bから折り曲げられて乗員シート31の底板31aに埋め込まれる上端を有する第2脚39cとを有する。ロックフック39では少なくとも第1脚39a、被キャッチ片39bおよび第2脚39cは丸棒材の折り曲げ成形で形成される。シートキャッチ42は、リアフレーム17の後端に結合されるブラケット43に固定される。ブラケット43は例えばアルミニウム材のダイカスト等で成型される。ブラケット43はリアフレーム17に例えばボルト44で締結される。ブラケット43は不動部材として乗員シート31を支持する。シートロック装置38はケーブルCBでメインスイッチ35に接続される。
【0029】
図3に示されるように、ブラケット43は、車体前後方向に長い長孔で形成されるスリット45を区画する平板部46を備える。ブラケット43に乗員シート31が受け止められる際にロックフック39はスリット45に進入する。スリット45は、ヒンジ33の軸線に直交する1対の仮想平面RPで仕切られ平板部46を貫通する。仮想平面RPは被キャッチ片39bの移動経路を両側から挟む。平板部46には、裏側から(重力方向下方から)シートキャッチ42が重ねられる。シートキャッチ42には平板部46を貫通するボルト48がねじ込まれる。こうしてシートキャッチ42はブラケット43に取り付けられる。平板部46にはシートキャッチ42の位置決めピン42aを受け入れるピン孔49が形成される。ピン孔49にシートキャッチ42の位置決めピン42aが嵌まることでボルト48の軸心回りにシートキャッチ42の回転は規制される。
【0030】
図4に示されるように、シートキャッチ42は、ロック位置および解除位置の間で移動するロックフック48の被キャッチ片39bの移動経路を横切る案内路を形成する案内部材51を備える。スライダー41は、保持位置および退避位置の間で変位自在に案内路に案内される。案内部材51には、ブラケット43の平板部46の下側でブラケット43のスリット45から連続して被キャッチ片39bの移動経路に沿って閉じた空間を区画する腕52が形成される。腕52は、平面53に平行に広がって平面53との間に被キャッチ片39bの移動経路を規定する平行平面54と、平行平面54よりも後退してスライダー41の前端を受け止める受け面55とを規定する。スリット45は、スライダー41よりも被キャッチ片39bの移動経路に沿って解除位置側に配置され、被キャッチ片39bの移動経路に沿ってロック位置から遠ざかるにつれて移動経路から離れるテーパー面45aを有する。スリット45の最下端で最小幅は確立される。最小幅は仮想平面RPの間隔に相当する。最小幅はロックフック39の丸棒材の径に合わせ込まれる。したがって、スリット45の最下端はブラケット43を両側から挟んでロックフック39のがたつきを防止する。
【0031】
案内部材51は、保持位置と退避位置との間で、ブラケット43の板面に平行に線形にスライダー41の変位を案内する。保持位置が確立されると、スライダー41の前端は案内部材51の受け面55に受け止められる。受け面55はスライダー41の前進を規制する。退避位置が確立されると、スライダー41の前端は被キャッチ片39bの移動経路から退避する。こうしてスライダー41がロックフック39の移動経路から退避すると、ロックフック39はスライダー41に妨げられずに移動経路に沿って移動することができる。
【0032】
スライダー41には、保持位置でロック位置のロックフック39に係り合ってロック位置にロックフック39を保持する係り合い面56と、係り合い面56よりも前方に位置して、保持位置から退避位置へ向かう変位に応じて係り合い面56がロックフック39から離脱するとロックフック39に接触して解除位置に向かうロックフック39の推進力を退避位置に向かうスライダー41の推進力に変換する第1カム面57と、スライダー41が保持位置に位置する際に解除位置からロック位置に向かうロックフック39の推進力を退避位置に向かうスライダー41の推進力に変換する第2カム面58とが形成される。係り合い面56は被キャッチ片39bの断面形状に則って部分円筒面の窪みを形成する。第1カム面57は、スライダー41の移動方向に係り合い面56から遠ざかるにつれて被キャッチ片39bの移動方向に係り合い面56から遠ざかる平面で構成される。第1カム面57の前端はスライダー41の前端で途切れる。第2カム面58は、受け面55に接触する先端から、スライダー41の移動方向に後上がりに傾斜する平面で構成される。第2カム面58は、スライダー41が保持位置に位置する際に十分に被キャッチ片39bの移動経路を横切るスライド方向長さを有する。係り合い面56は、部分円筒面の窪みを維持しつつ、被キャッチ片39bの断面形状で最上端を越えて受け面55に近づくことから、係り合い面56は、保持位置から退避位置に変位する際に解除位置の逆向きにロックフック39を押し下げる。
【0033】
スライダー41には、ケーブルCBの一端に連結される連結片59が固定される。連結片59には、スライダー41の移動方向に長い長孔61が形成される。長孔61には、ケーブルCBの先端に連結されるスライド片62が嵌め込まれる。スライド片62はスライダー41の移動方向に長孔61内をスライドする。スライド片62の移動距離MDはカム面57のスライド方向長さLに相当する。
【0034】
ブラケット43の平板部46には弾性体としてのシートストッパー63が固定される。シートストッパー63は例えばゴム材から成形される。ロックフック39のロック位置が確立される際に乗員シート31を支持するブラケット43および乗員シート31の間にシートストッパー63は配置される。シートストッパー63は、ロック位置から解除位置に向かってロックフック39の推進力を生み出す。シートストッパー63の弾性力はスライダー41に向かってロックフック39の被キャッチ片39bを押し付ける。
【0035】
ケーブルCBにはメインスイッチ35が接続される。メインスイッチ35は、キー36を受け入れるキー孔64を有するタンブラー65と、軸線37回りに回転自在にタンブラー65を収容するシリンダー66と、タンブラー65に固定されて、軸線37回りのタンブラー65の回転に応じて軸線37回りに変位する解除レバー67と、シリンダー66に固定されて、ケーブルCBの軸方向移動を案内する鞘体68とを備える。タンブラー65はロックオン位置およびロックオフ位置の間で軸線37回りに回転する。解除レバー67にはケーブルCBが連結される。タンブラー65がロックオン位置からロックオフ位置に回転すると、解除レバー67は軸方向にケーブルCBを引っ張る。
【0036】
図5に示されるように、シリンダー66には、タンブラー65に同軸に軸線37回りで回転自在に回転体69が支持される。回転体69に解除レバー67は固定される。回転体69には、キー36の先端を受け入れる凹溝71が区画される。ここで、タンブラー65は、通常動作位置と、通常動作位置から回転体69に向かって押し込まれたシートロック操作位置との間で軸方向に変位自在にシリンダー66に支持される。タンブラー65と回転体69との間には回転体69からタンブラー65を遠ざける弾性力を発揮するばね体72が挟まれる。タンブラー65はばね体72の働きで通常動作位置に保持される。通常動作位置でタンブラー65が回転すると、メインスイッチ35は電気回路のオンオフやイグニションスイッチとして機能する。ばね体72の弾性力に抗してタンブラー65が回転体69に向かって押し込まれると、シートロック操作位置が確立され、キー36の先端は回転体69の凹溝71に嵌まる。シートロック操作位置でタンブラー65が回転すると、メインスイッチ35はシートロック装置38の解錠装置として機能する。
【0037】
図6に示されるように、案内部材51は、水平方向にスライダー41の変位を規制する1対の案内片73を備える。案内片73は案内路の側壁を形成する。スライダー41は水平方向に案内片73に挟まれる。案内片73は、被キャッチ片39bの移動経路を含む垂直面VPに直交する仮想垂直面内に広がる案内面73a同士で向き合わせられる。案内片73には上方から案内路に被さる拘束板74が固定される。拘束板74は基準となるスライド平面75との間にスライダー41を挟み込む。拘束板74は垂直方向にスライダー41の変位を規制する。拘束板74は、被キャッチ片39bの移動経路を含む垂直面VPに直交する仮想水平面内に広がる案内面74aを有する。案内面74aは、スライド平面75に平行に広がって案内片73の案内面73aに直交する。案内面74aに沿ってスライダー41は変位する。
【0038】
案内部材51は、スライド平面75の後端に形成される突片76を備える。突片76とスライダー41との間にはスライド平面75に沿ってばね部材77が挟まれる。ばね部材77には例えば蔓巻ばねが用いられる。ばね部材77は受け面55に向かってスライダー41を押し付ける弾性力を発揮する。タンブラー65の回転に応じてケーブルCBが引っ張られると、ばね部材77の弾性力に抗してスライダー41は保持位置から退避位置に向かって後退する。
【0039】
次にシートロック装置38の動作を説明する。乗員シート31が収納ボックス32の開口を閉じると、ロックフック39はブラケット43のスリット45に進入する。ロックフック39の被キャッチ片39bはロック位置に位置する。スライダー41にはばね部材77から前進方向に弾性力が作用する。図7(A)に示されるように、弾性力の働きでスライダー41の先端は受け面55に押し付けられる。こうしてスライダー41の保持位置は確立される。
【0040】
スライダー41が保持位置に位置すると、スライダー41の係り合い面56はロック位置の被キャッチ片39bに係り合ってロック位置にロックフック39を保持する。こうして施錠状態は確立される。開き方向に乗員シート31の動きは規制される。ロックフック39が解除位置に向かう推進力を発揮しても、被キャッチ片39bは係り合い面39aの窪みに嵌まり込むことから、スライダー41に推進力は生じず、スライダー41はロック位置にロックフック39を保持することができる。
【0041】
メインスイッチ35でキー孔64にキー36が差し込まれ、ばね体72の弾性力に抗してタンブラー65が押し込まれると、タンブラー65のシートロック操作位置が確立される。キー36の先端は回転体69の凹溝71に刺さる。軸線37回りにキー36が操作されると、解除レバー67は軸方向にケーブルCBを引っ張る。スライド片62は長孔61の最後端に位置することから、スライダー41は保持位置から退避位置に向かって変位する。すると、図7(B)に示されるように、係り合い面56はロックフック39から離脱し、スライダー41の第1カム面57はロックフック39に接触する。
【0042】
このとき、シートストッパー63はロック位置から解除位置に向かってロックフック39の推進力を生み出す。ロックフック39の推進力は第1カム面57によって退避位置に向かうスライダー41の推進力に変換される。被キャッチ片39bの上昇に伴ってスライダー41は退避位置に向かって押しやられる。図7(C)に示されるように、スライダー41はケーブルCBの引っ張り力を受けずにロックフック39から駆動力を得て退避位置に達することができる。スライダー41の係り合い面56が被キャッチ片39bから離脱した後にはスライダー41の変位に伴ってスライド片62は長孔61内で最後端から最前端に移動するだけである。スライダー41が被キャッチ片39bの移動経路から完全に退避しなくても、係り合い面56が被キャッチ片39bから離脱すれば乗員シート31の規制は解除される。規制の解除にあたってスライダー41の操作量は少なくて済む。こうして係り合い面56が被キャッチ片39bから離脱するだけで乗員シート31の解錠は実現される。
【0043】
しかも、係り合い面56は、保持位置から退避位置に変位する際に、解除位置の逆向きに下方に向かってロックフック39の被キャッチ片39bを押し下げる傾斜面を有する。スライダー41が保持位置から退避位置に移動する際にスライダー41の操作荷重が高まるので、キー36の操作にあたって良好な操作感が得られる。操作に抵抗が加わることで不用意な解錠は回避されることができる。傾斜面と係り合い面56とは部分円筒面として連続するので、係り合い面56の一部として傾斜面は一体化されることができ、スライダー41の製造作業は軽減されることができる。
【0044】
本実施形態では第1カム面57は平面で構成されることから、ロックフック39の被キャッチ片39bは平面に沿って線形に変位する。したがって、第1カム面57に対して被キャッチ片39bの追随性が向上し、ロックフック39はスムースにスライダー41から離脱することができる。
【0045】
ロックフック39がスリット45から離脱すると、スライダー41はばね部材77の弾性力を受けて保持位置に復帰する。ここでは、ばね部材77に、ケーブルCBを介してタンブラー65の回転を引き起こす弾性力が付与されてもよい。あるいは、タンブラー65の回転に応じてスライダー41がケーブルCBの引っ張り力から解放されると、ばね部材77の弾性力でスライダー41は保持位置に向かって変位してもよい。
【0046】
乗員シート31が閉じられると、ロックフック39の被キャッチ片39bはスライダー41の第2カム面58に接触する。ロックフック39が押し下げられると、ロックフック39の駆動力は第2カム面58の働きで後退方向にスライダー41の推進力に変換される。スライダー41はばね部材77の弾性力に抗して退避位置に向かって変位する。スライダー41が退避位置に達すると、ロックフック39の被キャッチ片39bは下降する。被キャッチ片39bがスライダー41の移動経路を通り過ぎると、ばね部材77の弾性力の働きでスライダー41は再び保持位置に復帰する。こうしてロックフック39のロック位置は確立される。
【0047】
本実施形態ではブラケット43はスリット45を区画する。スリット45はロックフック39の進入を受け入れる。スリット45ではロックフック39は両側から挟まれ乗員シート31のがたつきは防止される。このとき、スリット45はロックフック39を両側から挟むものの、ロックフック39の進入はテーパー面45aで案内されるので、ロックフック39は確実にスリット45に進入することができる。しかも、スリット45はヒンジ33の軸線に直交する仮想平面RPで仕切られることから、乗員シート31がヒンジ33の軸線回りで揺動してもロックフック39とブラケット43との干渉は回避されることができる。
【符号の説明】
【0048】
31…可動部材(乗員シート)、38…ロック装置(シートロック装置)、39…ロック部材(ロックフック)、41…スライダー、43…不動部材(ブラケット)、45…スリット、45a…テーパー面、56…係り合い面、57…カム面(第1カム面)、63…弾性体(シートストッパー)、RP…ヒンジの軸線に直交する面(仮想平面)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7