(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799581
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】モノマー生成で使用するための材料の不活性度を決定する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/35 20060101AFI20201207BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20201207BHJP
C07C 57/05 20060101ALI20201207BHJP
C07C 51/21 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
C07C45/35
C07C47/22 G
C07C57/05
C07C51/21
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-506399(P2018-506399)
(86)(22)【出願日】2016年8月22日
(65)【公表番号】特表2018-525384(P2018-525384A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】US2016047977
(87)【国際公開番号】WO2017035055
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】62/209,003
(32)【優先日】2015年8月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジンスオ・シュー
【審査官】
池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−130722(JP,A)
【文献】
特開昭63−066147(JP,A)
【文献】
特開平02−022242(JP,A)
【文献】
特開平01−006225(JP,A)
【文献】
特開昭58−126831(JP,A)
【文献】
特開平01−029339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/32
C07C 47/22
C07C 51/21
C07C 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー生成で使用するための不活性材料を選択するための方法であって、
(a)プロピレン、アクロレイン、及びアクリル酸を含むガス状混合物(P1)を提供するステップと、
(b)少なくとも3秒の接触時間の間、200〜450℃の床温度を有する、前記不活性材料を含有する固定床反応器管に、1〜1.5atmの圧力で気相のP1を供給して、アクロレイン及びアクリル酸を含む第2の混合物(P2)を生成するステップと、
(c)1atmの圧力で少なくとも20℃の沸点を有するP2の成分を選択的に凝縮するステップと、
(d)前記凝縮された成分をフタル酸、アクロレイン、及びアクリル酸に関して分析するステップと、
(e)前記分析に基づいて、前記不活性材料のPTAinertを決定するステップであって、PTAinertは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、
(f)前記固定床反応器管が不活性材料を含有しないことを除いて、ステップ(a)〜(d)を繰り返すことによって、不活性材料を含有しない固定床反応器管のPTAemptyを決定するステップであって、前記PTAemptyは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、
(g)前記PTAinertが、前記PTAempty以下である場合、モノマー生成で使用するための前記不活性材料を選択するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(b)における前記床温度が250〜350℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー生成が、プロピレンの、アクロレイン及びアクリル酸への気相酸化である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマー生成が、アクロレインの、アクリル酸への気相酸化である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー生成が、イソブテン及び/またはtert−ブタノールの、メタクロレイン及びメタクリル酸への前記気相酸化である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマー生成が、メタクロレインの、メタクリル酸への前記気相酸化である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
P1が、混合金属酸化物触媒の存在下で固定床反応器管においてガス状プロピレンを酸化させることによって提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記混合金属酸化物触媒がMo及びBiを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
モノマー生成で使用するための不活性材料の不活性度を決定するための方法であって、 (a)ガス状プロピレンを、混合金属酸化物触媒の存在下で固定床反応器管において酸化させて、プロピレン、アクロレイン、及びアクリル酸を含むガス状混合物(P1)を生成するステップであって、前記混合金属酸化物触媒が、Mo及びBiを含有する、ステップと、
(b)少なくとも3秒の接触時間の間、200〜450℃の床温度を有する、不活性材料を含有する第2の固定床反応器管に、1〜1.5atmの圧力で気相のP1を供給して、アクリル酸を含む第2の生成物混合物(P2)を生成するステップと、
(c)0〜5℃に制御されたトラップ表面温度を有する第1のトラップ(T1)にP2を収集するステップであって、T1からの未凝縮蒸気が、0〜5℃に制御されたトラップ表面温度を有する第2の、好ましくは、ステンレス鋼のトラップ(T2)で凝縮され、T2からの未凝縮蒸気が、−60〜−80℃に制御されたトラップ表面温度を有する第3のステンレス鋼トラップ(T3)で凝縮され、各トラップが、溶媒、好ましくはイソプロパノール、及び重合防止剤、好ましくはハイドロキノンまたはフェノチアジンを含有する、ステップと、
(d)T3からの未凝縮蒸気をプロピレン、O2、N2、CO、及びCO2に関して分析するステップと、
(e)各トラップからの前記凝縮蒸気をフタル酸、アクロレイン、及びアクリル酸に関して分析するステップと、
(f)前記分析に基づいて、前記不活性材料のPTAinertを決定するステップであって、PTAinertは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、
(g)前記第2の固定床反応器管が不活性材料を含有しないことを除いて、ステップ(a)〜(e)を繰り返すことによって、不活性材料を含有しない固定床反応器管のPTAemptyを決定するステップであって、前記PTAemptyは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、
(h)前記PTAinertが、前記PTAempty以下である場合、モノマー生成で使用するための前記不活性材料を選択するステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー、特にアクリル酸を調製するための方法、及びその方法で使用される材料をそれらの不活性度に基づいて選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸(AA)、アクロレイン(ACR)等のモノマー、及びそれらの対応する誘導体、例えば、アクリル酸エステルは、塗装、接着剤、樹脂、プラスチック、及び特殊化学製品等の多くの最終使用製品のための構成要素である。AAは、現在、プロピレンの、混合金属酸化物触媒上での気相酸化によって化学的に生成されている。この2ステップ方法では、ACRは、まず、蒸気の存在下でプロピレンの酸化によって第1段階の反応器(R1)内で中間体として生成され、その後、第2段階の反応器(R2)内でAAに更に酸化される。管の中に充填された触媒、及び表面温度を制御するために管の間で循環するHITEC(登録商標)塩またはDowtherm(商標)等の伝熱媒体と共に、複数のシェルアンドチューブ反応器が使用される。タンデム型反応器及び単一反応器シェル(SRS)反応器は、使用される2つの典型的な種類の反応器である。R1及びR2触媒は、タンデム型反応器では2つの別々の管に充填されるが、SRS反応器ではR1及びR2触媒の両方が1つの管に充填される。反応器は、不活性材料の床も有し得、触媒は、不活性材料で希釈され得、不活性材料上に支持され得る。AAは、部分的な凝縮及び分別蒸留によって回収され、精製される。
【0003】
高いAA収率を保ち、良好な生成率を維持するために、低い管入口圧力を維持することが重要である。しかしながら、触媒床にわたる圧力損失(DP)が、触媒床で、ならびにR1の出口、R1とR2との間の段間部、及びR2の上部または下部等の触媒床の前及び/または後に、触媒微粉、昇華された酸化モリブデン、及び重質副生成物または重質物とも称される高沸点副生成物を含むがこれらに限定されない粒子の蓄積及び堆積のために、通常、徐々に増加する。
【0004】
より高いDPは、一定の供給量下でより高い反応器入口圧力を引き起こす。結果として、より高い入口圧力は、低下した生成物収率をもたらし、AAの生成率が犠牲にならざるを得ない。生成率及び/または収率が、操作者によって非経済的と見なされる程度まで落下すると、反応器は停止され、新しい触媒(複数可)で充填される。そのような予定外の停止は、費用がかかり、AAの供給を妨害する。
【0005】
本明細書に上述される通り、不活性無機材料は、酸化反応器の「予熱」区分で、または生成物を冷却されるための触媒床の端部でのいずれかで、酸化反応器において広く使用される。不活性材料はまた、床のピーク温度を低下させるために、触媒床の全てまたは一部を希釈するために使用され得る。触媒床に混合された不活性材料は、頻繁に、「希釈剤」と称される。
【0006】
不活性材料の多くの例が文献に報告される。例えば、US7,518,015は、有機出発化合物の不均一系触媒気相部分酸化の大部分に対して有用な不活性材料が、例えば、多孔または無孔酸化アルミニウム、炭化ケイ素、及びケイ酸マグネシウムもしくはケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩、または凍石であることを教示する。US2008/0253943は、希釈剤の具体例としては、アルミナ、炭化ケイ素、シリカ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタン等の触媒担体に使用される化合物が挙げられることを述べる。US2013/0274508は、6mm×6mmのアルミニウムラシヒリング、直径5mmの炭化ケイ素球体、1インチ当たり20個の孔がある連続気泡セラミック発泡体、直径16mmのステンレス鋼ポールリング、及び13mmのMacroTrap(商標)Media 1.5を含む安定した高面積不活性材料の例を開示する。
【0007】
不活性材料または希釈剤は、反応物及び/または所望の生成物に対して実質的に反応性
を有しないと一般的に記述されていることを除いて、先行技術において
特性または性能
のいずれに関して
も通常特定されていない。
【0008】
プロピレンまたはアクロレインの部分酸化に頻繁に使用されるものを含む、酸化触媒の調製で使用される担体、またはキャリアは、頻繁に、「不活性度」について記載される。例えば、US7,884,238は、有用な担体材料は、慣習的に不活性な多孔または無孔酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化トリウム、二酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、またはケイ酸マグネシウムもしくはケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩であることを教示する。US2011/0137078では、不活性材料は、適切な反応に対する触媒粉末の活性が、プロピレン酸化との関連で100と指定される場合、20以下の活性を有すると定義される。材料の例としては、α−アルミナ、炭化ケイ素、軽石、シリカ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンが挙げられる。活性を決定する方法は、特定されていない。
【0009】
EP1,714,955は、固定床反応器における、有機固体等の触媒抑制剤の堆積を抑制するために、固体酸を酸化反応器に充填することを開示する。酸強度のある範囲内にある「固体酸」は、反応器内における有機固体の体積を抑制するために効果的であり得るが、これらの固体酸が酸化反応に関与するか、または有機固体の形成率を変化されるかどうかは知られていない。更に、固体酸の活性は、その酸強度と関連がないだけではなく、固体酸の面積に依存する。しかしながら、固体酸の面積は、開示または特定されていない。したがって、EP1,714,955に開示される方法は、プロピレン酸化方法における固定材料の不活性度を定義するために効果的に使用されることができない。
【0010】
先行技術の不足を考慮すると、1atmの沸点が、プロピレンの、アクロレイン及びアクリル酸への気相酸化において少なくとも150℃である、フタル酸等の高沸点副生成物の形成に対して材料の活性を決定するための改善された方法を有することが望ましい。
【0011】
発明の陳述
本発明の一態様は、モノマー生成で使用するための不活性材料を選択するための方法を提供し、本方法は、(a)プロピレン、アクロレイン、及びアクリル酸を含むガス状混合物(P1)を提供するステップと、(b)少なくとも3秒の接触時間の間、200〜450℃の床温度を有する、不活性材料を含有する固定床反応器管に、1〜1.5atmの圧力で気相のP1を供給して、アクロレイン及びアクリル酸を含む第2の混合物(P2)を生成するステップと、(c)1atmの圧力で少なくとも20℃の沸点を有するP2の成分を選択的に凝縮するステップと、(d)凝縮された成分をフタル酸、アクロレイン、及びアクリル酸に関して分析するステップと、(e)分析に基づいて、不活性材料のPTA
inertを決定するステップであって、PTA
inertは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率であるステップと、(f)固定床反応器管が不活性材料を含有しないことを除いて、ステップ(a)〜(d)を繰り返すことによって、不活性材料を含有しない固定床反応器管のPTA
emptyを決定するステップであって、PTA
emptyは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、(g)PTA
inertが、PTA
empty以下である場合、モノマー生成で使用するための不活性材料を選択するステップと、を含む。
【0012】
別の態様では、本発明は、モノマー生成で使用するための不活性材料の不活性度を決定するための方法を提供し、本方法は、(a)ガス状プロピレンを、混合金属酸化物触媒の存在下で固定床反応器管において酸化させて、プロピレン、アクロレイン、及びアクリル酸を含むガス状混合物(P1)を生成するステップであって、混合金属酸化物触媒が、Mo及びBiを含有するステップと、(b)少なくとも3秒の接触時間の間、200〜450℃の床温度を有する、不活性材料を含有する第2の固定床反応器管に、1〜1.5atmの圧力で気相のP1を供給して、アクリル酸を含む第2の生成物混合物(P2)を生成するステップと、(c)0〜5℃に制御されたトラップ表面温度を有する第1のトラップ(T1)にP2を収集するステップであって、T1からの未凝縮蒸気が、0〜5℃に制御されたトラップ表面温度を有する第2の、好ましくは、ステンレス鋼のトラップ(T2)で凝縮され、T2からの未凝縮蒸気が、−60〜−80℃に制御されたトラップ表面温度を有する第3のステンレス鋼トラップ(T3)で凝縮され、各トラップが、溶媒、好ましくはイソプロパノール、及び重合防止剤、好ましくはハイドロキノンまたはフェノチアジンを含有する、ステップと、(d)T3からの未凝縮蒸気をプロピレン、O
2、N
2、CO、及びCO
2に関して分析するステップと、(e)各トラップからの凝縮蒸気をフタル酸、アクロレイン、及びアクリル酸に関して分析するステップと、(f)分析に基づいて、不活性材料のPTA
inertを決定するステップであって、PTA
inertは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、(g)固定床反応器管が不活性材料を含有しないことを除いて、ステップ(a)〜(d)を繰り返すことによって、不活性材料を含有しない固定床反応器管のPTA
emptyを決定するステップであって、PTA
emptyは、P2中のフタル酸の質量の、P2から収集されたアクロレイン及びアクリル酸の全質量に対する比率である、ステップと、(h)PTA
inertが、PTA
empty以下である場合、モノマー生成で使用するための不活性材料を選択するステップと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その」、「少なくとも1つ」、及び「1つ以上」は、同じ意味で使用される。用語「含む(comprise)」、「含む(include)」、及びその変形は、これらの用語が説明及び特許請求の範囲に現れる場合、限定する意味を有さない。したがって、例えば、「1つの」疎水性ポリマーの粒子を含む水性組成物は、組成物が「1つ以上」の疎水性ポリマーの粒子を含むことを意味すると解釈されることができる。
【0014】
また、本明細書において、終点による数字範囲の列挙は、その範囲に組み込まれる全ての数字を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5等を含む)。本発明の目的で、当業者の1人が理解するであろうことと一致して、数値範囲が、その範囲に含まれる全ての可能な部分的な範囲を含み、支持することを意図することが理解される。例えば、1〜100の範囲は、1.01〜100、1〜99.99、1.01〜99.99、40〜60、1〜55等であることを伝えることが意図される。
【0015】
また、本明細書において、数値範囲及び/または数値の列挙は、特許請求の範囲におけるそのような列挙を含んで、用語「約」を含むように読まれることができる。そのような場合、用語「約」は、本明細書において列挙されるものと実質的に同じ数値範囲及び/または数値を指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「重質副生成物」は、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸等の1気圧の圧力で150℃を超える沸点を有する化合物を意味する。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「ppm」は、重量百万分率を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、アクリレート等の別の用語によって後続される用語「(メタ)」の使用は、アクリレート及びメタクリレートの両方を指す。例えば、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートのいずれかを指し、用語「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルのいずれかを指し、用語「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸のいずれかを指す。
【0019】
逆に記載されているか、または文脈から黙示的でない限り、全ての部分及び割合が重量に基づき、全ての試験方法が、本出願の出願日現在で最新である。米国特許実務の目的で、いかなる参照される特許、特許出願、または広報の内容も、特に、当技術分野における定義(本開示に具体的に提供されるいかなる定義とも矛盾しない程度まで)及び一般知識の開示に関して、その全体が参照により組み込まれる(または米国版が参照によりそのように組み込まれる同等のもの)。
【0020】
開示された方法は、プロピレンの、アクロレイン及び/またはアクリル酸への反応の間の重質副生成物の形成に関して材料の不活性度を決定する方法である。反応器の実行時間が増加するにつれて、流量制限が、SRS反応器の段間部で、またはタンデム型反応器の第2の触媒床上部で生じることを見出した。理論によって拘束されるものではないが、本発明者らは、重質副生成物及び酸化モリブデン蒸気が、後にDP増加を引き起こす、これらの「冷」点で凝縮及び堆積し得ると考える。
【0021】
多種多様の材料が、反応器及び付属装置における不活性材料としての使用に提案されている。これらの不活性材料例としては、例えば、α−アルミナ等の多孔または無孔酸化アルミニウム、二酸化トリウム、二酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、シリカ、軽石、炭化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩、凍石、シリカ、6mm×6mmのアルミニウムラシヒリング、直径5mmの炭化ケイ素球体、1インチ当たり20個の孔がある連続気泡セラミック発泡体、直径16mmのステンレス鋼ポールリング、及び13mmのMacroTrap(商標)Media1.5を含む安定した高面積不活性材料が挙げられる。本発明の様々な実施形態では、所望のモノマーの生成に使用される不活性材料は、異なる不活性材料が比較される時に形成されるより低い、または最も低いプタル酸を有することが好ましい。
【0022】
驚くべきことに、多くのいわゆる不活性材料が、実際には、多量の重質副生成物の生成に起因する。そのような副生成物を生成するための材料の傾向は、主要な反応物及び生成物に対して、その活性またはその不足しているものから予測不可能である。
【0023】
ある実施形態では、他の重質副生成物単独または組み合わせて、不活性材料の不活性度を評価するためにフタル酸に加えて、または代わりに使用されることができる。そのような重質副生成物としては、例えば、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸が挙げられる。
【0024】
開示された方法は、所望のモノマーを生成するために十分な条件下の反応器系を操作する。アクリル酸及びアクロレイン、ならびにそこで使用するための触媒の生成に対する選択的な酸化方法は、当業者に周知であり、例えば、US2013/0274508を参照されたく、アクリル酸及びアクロレイン、ならびにそこで使用するための触媒の生成に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。同様に、メタクロレイン及びメタクリル酸、ならびにそこで使用するための触媒の生成に対する選択的な酸化方法は、当業者に周知であり、例えば、US特許第5,087,744号及び同第5,532,199号を参照されたく、メタクロレイン及びメタクリル酸、ならびにそこで使用するための触媒の生成に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本発明の一実施形態では、所望のモノマーがアクリル酸である場合、プロピレンは、プロピレン、アクロレイン、及びアクリル酸を含むガス状混合物(P1)を生成するための第1段階の反応器で酸化される。ある実施形態では、P1は、0〜0.5モル%のプロピレン、0.1〜1.0モル%のアクリル酸、及び1〜10モル%のアクロレインを含む。ある実施形態では、P1は、混合金属酸化物触媒の存在下で固定床反応器管においてガス状プロピレンを酸化させることによって提供される。ある実施形態では、混合金属酸化物触媒は、Mo及びBiを含有する。その後、P1は、気相で、アクロレイン及びアクリル酸を含む第2の生成物混合物(P2)を生成するために十分な接触時間及び圧力で200〜450℃、好ましくは250〜350℃の床温度を有する不活性材料を含有する第2段階の反応器に供給される。本発明の一実施形態では、第2段階の反応器内の圧力は、1〜1.5atmであり、接触時間は、少なくとも3秒である。P2は、1atmの圧力で少なくとも20℃の沸点を有するその成分を凝縮するために十分な条件を受ける。未凝縮蒸気は、プロピレン、O
2、N
2、CO、及びCO
2含有量に関して分析される。凝縮された成分は、フタル酸、アクロレイン、及びアクリル酸含有量に関して分析される。本手順は、不活性材料を含有しない第2段階の反応器を使用して繰り返される。不活性材料は、それが、不活性材料を含有しない反応器のフタル酸含有量以下であるフタル酸含有量を有する場合、所望のモノマーの生成のために選択される。
【0026】
ある実施形態では、酸化方法は、アクロレインの、アクリル酸への気相酸化である。ある実施形態では、酸化方法は、イソブテン及び/またはtert−ブタノールの、メタクロレイン及びメタクリル酸への気相酸化である。ある実施形態では、酸化方法は、イソブテン、tert−ブタノール、及びその組み合わせから選択される化合物の、メタクロレイン及びメタクリル酸への気相酸化である。ある実施形態では、酸化方法は、メタクロレインの、メタクリル酸への気相酸化である。
【0027】
手順は、(メタ)アクリル酸等のアクリルモノマー等のアルファ、ベータ不飽和カルボン酸等のモノマー、及び(メタ)アクロレイン等の不飽和アルデヒドに使用されることができる。
【0028】
以降、本発明のいくつかの実施形態を、以下の実施例において詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
評価方法
アクロレイン及びアクリル酸へのプロピレン酸化を二段階で実行する。プロピレンの酸化を第1の反応器で実行して、アクリル酸を生成するための二段階プロピレン酸化方法における工業用の第1段階の反応器からの流出物と同様の反応中間体を生成する。15mlの、Nippon Kayaku co.から入手可能な工業用の第1段階の触媒を、1インチODステンレス鋼(SS)の第1の段階の管反応器(0.834インチID)に充填する前に、Saint−Gobain Norpro、オハイオ州、米国から入手可能な15mlの1/8インチDenstone(登録商標)57ビーズと混合する。管をクラムシェル型電気炉で367℃に加熱する。第1の段階の管反応器への供給物は、24.0ml/分のプロピレン、211.6ml/分の空気、34.0ml/分のN
2、及び1.44グラム/時間の脱イオン水の混合物である。全てのガス流速の値は、標準温度(0℃)及び標準圧力(1atm)条件下である。水を、180℃に加熱したSSミキサー容器に注射器ポンプによって注入する。他のガスを、質量流コントローラによって制御する。約150mlの不活性材料を、クラムシェル型電気炉内に存在する第2の反応器管としての機能を果たす別の1インチOD×18インチ長さのSS管に充填する。P1と表される第1段階の反応器からの流出物を、4分の1インチのSS移送管を介して第2の反応器の不活性床に直接供給する。両方の反応器は、縦方向に配向し、下降流構成であり、すなわち、供給物は、各反応器の上部に供給される。
【0030】
反応器の間の生成物移送管を、反応生成物、特に、重質副生成物の凝縮を防止するために、テープを260℃に加熱することによって加熱する。1段階の反応器から、または第2の反応器からの流出物を定期的に収集し、分析する。流出物は、まず、0〜2℃の再循環冷却装置によって冷却される、T1と指定される第1のトラップを通って流れる。第1のトラップを逃れるガスは、水/氷に浸される、T2と指定される第2のトラップ、その後、ドライアイス/イソプロパノール混合物に浸される、T3と指定される第3のトラップを通って流れる。トラップ収集時間は、典型的に、3〜4時間である。6〜12グラムの重合防止剤水溶液を、ポリマー形成を防止するために試料収集の前に各トラップに注入する。イソプロパノール中の2重量%のハイドロキノン、またはイソプロパノール中の1000ppmのフェノチアジンを防止剤水溶液として使用する。
【0031】
T3からのオフガスを、熱伝導度検出器及び5Åの分子篩/シリカゲルカラムを備えたガスクロマトグラフ(GC)によってオンラインで分析する。オフガス中の主要なガス成分は、典型的に、窒素、酸素、未反応プロピレン、一酸化炭素、及び二酸化炭素を含む。T1及びT2から収集された液体を、オフライン分析の前に、TS−12と標識を付けられた1つの試料に組み合わせる。T3から収集された液体を、TS−3と標識を付ける。TS−12及びTS−3試料を、Agilent Technologies、米国から取得可能な炎イオン化検出器及びキャピラリーカラムDB−FFAP123‐3232Eを備えたGCによるオフライン分析のために送信する。アクリル酸、アクロレイン、アセトアルデヒド、アセトン、プロピオン酸、酢酸等の主要な生成物の量を記録する。
【0032】
TS−12及びTS−3試料を、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してフタル濃度に関して更に分析する。HPLC機器パラメーターは、表1に提供される。
【0033】
【表1】
【0034】
フタル酸標準材料を、Sigma−Aldrichから得た。初期保存標準溶液を、10〜1000ppmの様々な濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)中で調製する。希釈標準溶液を、0.2gの保存標準液を2mlのアセトニトリル中に希釈することによって調製する。希釈標準溶液を、0.45μmのシリンジフィルターで濾過し、HPLCへ注入するための2mlのオートサンプラーバイアルに送る。
【0035】
第1段階の反応器の反応器温度を367℃に維持して、工業用の第1段階の反応器の流出物のものと同様の生成物混合物を得る。流出物の組成物をGCによって分析し、主要成分を表2に記載する。個々の成分の濃度は、実験制御または触媒性能の変動によって異なり得る。P1は、第2段階の反応器に充填された不活性材料の活性を試験するために有効な供給物であるために、少なくともアクロレイン、アクリル酸、及びプロピレンを含有することが推奨される。
【0036】
【表2】
【0037】
プロピレン転化、アクロレイン及びアクリル酸の収率、及びフタル酸の相対量を、以下の式に従って計算する。
【0038】
プロピレン転化(%)=(供給されたプロピレンのモル−未反応のプロピレンのモル)/供給されたプロピレンのモル。
【0039】
アクロレイン&アクリル酸の収率(%)=(形成されたアクロレインのモル+形成されたAAのモル)/供給されたプロピレンのモル。
【0040】
TS−12及びTS−3試料からのフタル酸の相対総量対形成されたアクロレイン及びAAとの総量を、以下の式に従って計算する。
PTA
inert(ppm)=(第2の反応器管内に充填された不活性材料を有するTS−12及びTS−3試料におけるフタル酸の質量)/(第2の反応器管内に充填された不活性材料を有するTS−12及びTS−3試料におけるアクロレイン及びAAの全質量)*1,000,000
【0041】
第2の反応器管内に不活性材料がないことを除いて、上記評価方法を繰り返して、PTA
empty(ppm)の値を決定する。
【0042】
PTA
empty(ppm)=(第2の反応器管内に不活性材料を有しないTS−12及びTS−3試料におけるフタル酸の質量)/(第2の反応器管内に不活性材料を有しないTS−12及びTS−3試料におけるアクロレイン及びAAの全質量)*1,000,000
【0043】
比較実施例1
比較実験1(C.E.1)の評価
第2段階の反応器管内に不活性材料を有さずに上記評価方法を実行した。第2段階の反応器を270及び320℃に制御した。プロピレン転化、「アクロレイン及びAA」の収率、及びフタル酸を表3に記載する。320℃でのデータが、2つの試料の平均である。
【0044】
比較実施例2
比較実験2(C.E.2)の評価
第2段階の反応器が用いられないことを除いて、比較実験Aのように、上記評価方法を実行した。第2段階の反応器からの流出物を、上述の通りに収集し、分析した。プロピレン転化、「アクロレイン及びAA」の収率、及びフタル酸を表3に記載する。データは4つの試料の平均である。
【0045】
実施例1
Denstone(登録商標)99の不活性度の評価(Ex.1)
上記評価方法を、第2段階の反応器管に充填された、Saint Gobain Norpro、米国から入手可能な165mlのDenstone(登録商標)99の1/8インチ球体で実行した。第1段階の反応器の供給物混合物に基づく接触時間は、33秒であった。第2段階の反応器からの流出物を、上述の通りに収集し、分析した。第2段階の反応器を270及び320℃に制御した。プロピレン転化、「アクロレイン及びAA」の収率、及びフタル酸を表3に記載する。320℃でのデータが、2つの試料の平均である。
【0046】
実施例2
SC5532炭化ケイ素の不活性度の評価(Ex.2)
上記評価方法を、第2段階の反応器管に充填された、Saint−Gobain Norpro、米国から入手可能な185mlのSC5532炭化ケイ素10mmのリングで実行した。第1段階の反応器の供給物混合物に基づく接触時間は、37秒であった。第2段階の反応器からの流出物を、上述の通りに収集し、分析した。第2段階の反応器を270及び320℃に制御した。プロピレン転化、「アクロレイン及びAA」の収率、及びフタル酸を表3に記載する。320℃でのデータが、3つの試料の平均である。
【0047】
実施例3
LSA SA5218シリカアルミナの不活性度の評価(Ex.3)
上記評価方法を、第2段階の反応器管に充填された、Saint Gobain Norpro、米国から入手可能な160mlの低面積LSA SA5218の3〜4mmのシリカアルミナ球体で実行した。第1段階の反応器の供給物混合物に基づく接触時間は、32秒であった。第2段階の反応器からの流出物を、上述の通りに収集し、分析した。第2段階の反応器を270及び320℃に制御した。プロピレン転化、「アクロレイン及びAA」の収率、及びフタル酸を表3に記載する。320℃でのデータが、2つの試料の平均である。
【0048】
実施例4
不活性材料の選択
比較実施例1及び2のPTA
emptyならびに上記実施例1〜3のPTA
inertは、表3に示される。
【0049】
【表3】
【0050】
表3の結果は、R1溶出物が熱い不活性材料床を通って流れた後、プロピレン転化に目立った変化がなかったため、全ての不活性材料がプロピレンに対して無視できる活性を呈することを示す。
【0051】
実施例1は、270℃及び320℃の両方の反応条件で、C.E.1のPTA
emptyを超えるPTA
inertを有し、したがって、モノマー生成で使用するために選択されることはないだろう。
【0052】
実施例2は、270℃の反応温度で、C.E.1のPTA
emptyより低いPTA
inertを有するが、230℃の反応温度で、C.E.1のPTA
emptyを超えるPTA
inertを有し、したがて、反応条件が270〜320℃の範囲の温度を含む場合、モノマー生成で使用するために選択されることはないだろう。
【0053】
実施例3は、270℃及び320℃の両方の反応条件で、PTA
emptyより低いPTA
inertを有し、したがって、これらの反応条件のいずれかにおいて、モノマー生成で使用するために選択されるであろう。
【0054】
フタル酸形成の機構は理解されていない。しかしながら、本データに基づき、固体材料のPTA(ppm)が、反応物プロピレン、または生成物であるアクロレイン及びAAに対するその活性に直接的に比例しないことが明らかである。既定の固体材料に対する温度によるPTA(ppm)の変化も予測不可能であると見られる。