特許第6799648号(P6799648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6799648選ばれた処方物によるガランタミンの向上した脳バイオアベイラビリティおよび親油性プロドラッグの経粘膜投与
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799648
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】選ばれた処方物によるガランタミンの向上した脳バイオアベイラビリティおよび親油性プロドラッグの経粘膜投与
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20201207BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/34 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   A61K31/55
   A61P25/28
   A61K9/19
   A61K9/107
   A61K9/20
   A61P25/16
   A61P25/18
   A61P9/00
   A61P25/00
   A61P21/00
   A61P29/00
   A61P25/04
   A61P25/32
   A61P25/36
   A61P25/34
   A61K47/22
   A61K47/14
   A61K47/10
   A61K47/36
   A61K47/32
   A61K47/12
   A61K47/38
【請求項の数】16
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2019-148915(P2019-148915)
(22)【出願日】2019年8月14日
(62)【分割の表示】特願2018-60(P2018-60)の分割
【原出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2019-214595(P2019-214595A)
(43)【公開日】2019年12月19日
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】61/676,348
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12178187.6
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515019180
【氏名又は名称】ニューロダイン ライフ サイエンシズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Neurodyn Life Sciences Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】メリッケ,アルフレッド
【審査官】 梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6574002(JP,B2)
【文献】 特表2011−516588(JP,A)
【文献】 特表2009−508903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/55
A61K 9/107
A61K 9/19
A61K 9/20
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/14
A61K 47/22
A61K 47/32
A61K 47/36
A61K 47/38
A61P 9/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/04
A61P 25/16
A61P 25/18
A61P 25/28
A61P 25/32
A61P 25/34
A61P 25/36
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物であって、前記薬学的組成物が、化合物GLN 1062

またはその塩と、1種以上の薬学的に受容可能なキャリアとを含み、
前記処置が、治療有効量のGLN 1062またはその塩の舌下投与または頬投与から選択される経粘膜投与を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記化合物GLN 1062が塩として存在することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記化合物GLN 1062がマレイン酸塩として存在することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記化合物GLN 1062またはその塩が、体積当たり少なくとも10重量%(w/v)の水への溶解度を有することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記化合物GLN 1062またはその塩が、1日1〜3回、1〜100mgの投薬量で投与されることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記化合物GLN 1062またはその塩が、1日2回、2〜40mgの投薬量で投与されることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記舌下投与が
(i)舌下錠によって;
(ii)1滴以上の溶液または凍結乾燥された粉末もしくはエマルションの形態のある量の微粒子を舌の下側に置くことによっておよび/あるい
(iii)予め選択された体積の液体組成物を舌の裏側に噴霧することによって、
舌下に治療有効量の前記化合物GLN 1062またはその塩を投与することで行われることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記頬投与が、治療有効量の前記化合物GLN 1062またはその塩を、凍結乾燥された粉末もしくはエマルションとして、生体内で徐々に破壊される(bioeroding)高分子キャリアを含む頬投薬単位として、または、口腔内崩壊錠もしくは口腔内分散錠(ODT)として、口内の頬と歯茎との間の頬前庭に投与することにより行われることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、処置されるべき前記脳疾患が、アルツハイマー病および/もしくはパーキンソン病、他の種類の認知症、統合失調症、癲癇、脳卒中、小児麻痺、神経炎、筋障害、低酸素症、無酸素症、窒息、心拍停止後の脳における酸素および栄養素欠乏、慢性疲労症候群、様々な種類の中毒、知覚麻痺、特に神経遮断性知覚麻痺、脊髄障害、炎症、特に中枢性炎症性障害、術後せん妄および/もしくは亜症候群性術後せん妄、神経障害疼痛、アルコールおよび薬物の乱用、中毒性のアルコールおよびニコチン渇望、ならびに/または放射線治療の影響から選択されることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、N−エチルピロリドンを含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、カプリル酸グリセリル、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよび/またはジエチレングリコールモノエチルエーテルを含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項12】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、キトサンを含む徐放性処方物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項13】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、ラクトース一水和物、トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)および/またはステアリン酸マグネシウムと、任意選択で着香料とを含む、舌下錠を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、マンニトール、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロース、アスコルビン酸および/またはステアリン酸マグネシウムと、任意選択で着香料とを含む、舌下錠を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項15】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、消化酸耐性被覆を有する多層錠剤を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置のための薬学的組成物において、前記薬学的組成物が、舌下錠またはバッカル錠の形態で重量当たり2〜40重量%(w/w)で投与される前記化合物GLN 1062またはその塩を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の化合物の投与様式および化学的性質により最適な脳送達を有するCNS(中枢神経系)治療薬およびその高溶解性塩、溶液、エマルションまたは粉末処方物のための選ばれた投与経路に関する。本発明の治療用化合物は、プロドラッグとしてはCNSにおけるそれらの主要な標的、特にコリンエステラーゼおよび/またはニコチン性アセチルコリン受容体に対して不活性である、薬学的に活性な化合物の親油性プロドラッグに関する。内因性酵素による切断により、薬学的に活性な親薬物が産出され、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対してアロステリック増強リガンド(allosterically potentiating ligand)(APL)として、ならびに/またはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)および他のコリンエステラーゼ(ChE)の可逆的阻害剤として作用する。血液脳関門(BBB)を介した輸送を最大化するために、かつ本発明のプロドラッグをそれらの作用部位に向かってBBBを横切る前の内因性エステラーゼによる切断から保護するために、プロドラッグは、高度に親油性(logP>2.5)であるように設計され、口腔または鼻腔における経粘膜吸収経路によって送達される。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、アルツハイマー病(AD)のための薬物処置の第一線は、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、リバスチグミンおよびガランタミン)の使用である。これらの中で、ガランタミンは、異なる第2の作用様式(すなわち、ニコチン性アセチルコリン受容体のアロステリックな増感)を有することが示されている(Maelicke A;Albuquerque E X(1996)New approaches to drug therapy in Alzheimer’s dementia.Drug Discovery Today 1,53−59)。ガランタミンは、最大下濃度のアセチルコリン(ACh)、またはコリン(Ch)、または他のnAChRアゴニストにより誘導されるチャネル開口の可能性を高める。ADの進行はnAChRの増加していく喪失に関連しているので、ニコチン性受容体のAPLにより増強される活性は、ADおよび他の形態の認知症のための好適な対症療法でありかつ恐らくは疾患修飾療法でもある(Storch A et al.(1995).Physostigmine,galantamine and codeine act as noncompetitive nicotinic agonists on clonal rat pheochromocytoma cells.Eur J Biochem 290:207−219;Kihara T et al.(2004)Galantamine modulates nicotinic receptors and blocks Aβ−enhanced glutamate toxicity.Biochem Biophys Res Commun 325:976−982;Akata K et al.(2011)Galantamine−induced amyloid−clearance mediated via stimulation of microglial nicotinic acetylcholine receptors.J Biol Chem 286;Maelicke A(2006)Allosteric sensitisation of brain nicotinic receptors as a treatment strategy in Alzheimer’s dementia.In:Therapeutic Strategies in Dementia(Eds:Ritchie CW,Ames DJ,Masters CL,Cummings J)、Clinical Publishing,Oxford,2006;153−172))。
【0003】
リバスチグミンおよびドネペジルとは対照的に、ガランタミンは、ヒト脳において血漿に比べて著しく富化することはない。これは、合理的に設計された薬物ではなく植物アルカロイドであるガランタミンが、ADにおいて薬物として使用される他の2つのコリンエステラーゼ阻害剤よりもはるかに親油性が低く、したがって定常状態においてはかなり低い脳対血液濃度比(BBCR<2)しか示さないからである。
【0004】
CNS薬物の親油性およびそれらの血液脳関門通過を向上させるために、欧州特許第1940817B1号明細書および国際公開第2009/127218A1号パンフレットに記載されているように、疎水性側鎖が、塩基性アルカロイド構造に付加された。取り付けられた基は、BBRCを5より上に高めるように選択された。
【0005】
他のコリンエステラーゼ阻害剤と同様、ガランタミンは、臨床的に有意なレベルの、機序に基づく胃腸(GI)副作用(悪心、嘔吐および下痢を含む)を有する(Loy C et al.,Galantamine for Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment.Cochrane Database of Systematic Reviews 2006,Issue 1)。これらの副作用に患者を適応させるために、通常、コリンエステラーゼ阻害剤は、最初に低い(有効でない)用量で投与され、用量は、数か月の期間の内に有効な用量へと注意深く上方滴定される。さらに、維持量は、多くの場合、許容可能なレベルのGI副作用として患者が経験するものに調整され、このことにより、全てではないにしてもほとんどの患者が最も有効な用量での処置を恐らくは一度も達成することがないものとなっている。したがって、コリンエステラーゼ阻害剤は、一般的に、低い有効性しかないものとして、かつ好ましくない副作用に関連するものとして認識されている。ガランタミンの投与に関する先行技術を考慮すると、乏しい脳対血液濃度比、および乏しい脳送達から生じる著しい末梢性副作用により、ガランタミンの潜在的な治療有効性は、その完全な程度にまでヒト被験体において適用され得ることは決してなかったことが明らかになる。
【0006】
ガランタミンは腸組織の運動および排出機能に影響を及ぼすことが知られている(Turiiski VI et al.(2004),in vivo and in vitro study of the influence of the anticholinesterase drug galantamine on motor and evacuative functions of rat gastrointestinal tract.Eur J Pharmacol 498,233−239)ので、ガランタミンのGI副作用の低減は、薬物の経口投与ではなく鼻腔内投与によって試みられた(Leonard AK et al.(2007),In vitro formulation optimization of intranasal galantamine leading to enhanced bioavailability and reduced emetic response in vivo.Int J Pharmaceut 335:138−146)。
【0007】
各鼻孔に1回ずつのスプレー事象で適用され得るスプレーの体積は限られているため、鼻腔内投与経路は、高溶解性薬物製品処方物を必要とする。これは、薬物の臭化水素酸塩において臭化物イオンをラクテートまたはグルコネートに置き換えることによってガランタミンについて部分的にだけ達成された。塩形態におけるこの変更は、ガランタミンのBBBを通る輸送を著しくは改善しなかった。というのは、これは、鼻上皮で吸収され(resorbed)、次いで血液脳関門を横切って輸送される、かなり親水性でかつ極性のあるガランタミン塩基であるからである。これらの物理化学的な制約のために、ガランタミンならびにその第3級および第4級窒素塩は、2より低い脳対血液濃度比を示し、このことは、そのような薬物が、標的器官である脳において有意な薬物レベルを達成するためにはかなり多くの量で投与されなければならないことを意味している。したがって、そのような親水性薬物の脳内で十分に有効な用量は、相当なレベルの末梢性副作用、特に胃腸副作用という犠牲を払って達成される。ガランタミンの塩処方物は、BBBを介した脳薬物分布を向上させるための満足のいく解決策を提供していないと結論付けられ得る。
【0008】
先に記載された(国際公開第2009/127218A1号パンフレット)ように、関心のある比較的親水性の親薬物は、親油性エステルプロドラッグへの化学変換によって再処方され得る。アルコールOH基が、親薬物に脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族のカルボン酸を結合させるために使用されており、それにより(i)それらを部分的または完全に薬理学的に不活性にし、(ii)それらの親油性およびBBB透過を著しく向上させる。
【0009】
エステル形成は、限られたBBB透過を有する極性分子の親油性を高めるための一般的に使用されるアプローチであるが、脳および末梢組織における非特異的エステラーゼの豊富さが、薬物の脳/血漿濃度比を向上させることにおけるこのアプローチの有効性を制限する。プロドラッグアプローチにより脳薬物レベルを最大化するためには、吸収、BBB透過および標的器官である脳におけるプロドラッグから薬物への生物変換の速度が、より親油性の低い薬物のその生成後の脳からの排除に成功裏に対抗するのに十分に速くなければならない。したがって、処置の間に多くの場合に相当な副作用に繋がる身体の他の器官または組織内での切断に繋がることなしに脳内に向上した量の活性物質を提供するための、BBBの確かな透過を可能にするまたはそのような透過を示しかつ標的器官(脳)において切断される戦略、方法および/または医用薬剤の開発において、かなり大きな困難が残っている。
【0010】
ガランタミン誘導体の鼻腔内投与が可能なことは、米国特許出願公開第2009/0253654A1号明細書に開示されている。脳への向上した送達については言及されておらず、投与後のエステルプロドラッグ化合物の内因性エステラーゼによるインビボ酵素切断を回避する手段についても言及されていない。米国特許出願公開第2009/0253654A1号明細書に開示される化合物の塩および濃度は、化合物のインビボ特性に関係のない、恣意的な開示である。GLN 1062に関して具体的な塩も経粘膜投与経路も開示されていない。
【0011】
国際公開第2009/127218A1号パンフレットおよびMaelicke et al(J Mol Neurosci,2010,40:135−137)は、GLN 1062それ自体および認知欠陥を伴う脳障害の処置におけるその投与を開示している。特定の投与様式については言及されておらず、特定の塩についても言及されていない。これらの先の開示は、そこで開示される化合物の静脈内投与に基づいている。そのようなボーラス注射は、血液から他の器官(脳を含む)への非常に速い分布を可能にし、したがって、BBBに到達し脳に分布する前の酵素切断の可能性を低減する。しかしながら、静脈内投与は、毎日の患者の自己投与には許容されない。より容易に投与されるがしかし同等に有効な代替物が必要とされている。
【0012】
Leonard AK et al.(2007,Int J Pharmaceut 335:138−146)は、ガランタミンの乳酸塩の鼻腔内投与を開示している。その乳酸塩の使用に関して特定の効果は何ら規定されていない。極性のガランタミン塩基は、鼻上皮で吸収され(resorbed)、次いで血液脳関門を横切って輸送されるが、BBBを介しての脳薬物分布に対するその限られた傾向に応じて不十分に輸送されるにすぎない。米国特許出願公開第2004/0254146号明細書は、ガランタミンの種々の塩(乳酸塩およびグルコン酸塩を含む)およびアルツハイマー病におけるそれらの投与を開示している。米国特許出願公開第2004/0254146号明細書もLeonard AK et al.も、GLN 1062の塩の投与とは関係ない。GLN 1062は、そのプロドラッグ特性により、ガランタミンと比べて全く異なる技術的課題に対する解決策である。
【発明の概要】
【0013】
口腔および鼻腔における本明細書に記載される化合物のための経粘膜送達経路が、薬物の向上した脳内レベルを達成するのに最もよく適した非侵襲性のプロドラッグ投与経路として調査された。全身性薬物送達のために、経粘膜経路は、特定の吸収領域の構造および環境に適合するプロドラッグ塩処方物によって増強される。
【0014】
本明細書で述べられるプロドラッグの有利な輸送特性は、プロドラッグが静脈内注射によって投与される場合には達成され得るが、それらが錠剤として経口投与される場合には、より不十分に達成され得るか、または非常に小さい程度までしか達成され得ない。これは、当該プロドラッグが、(例えば胃に存在する)酸性環境において不安定であることがこれまでに分かっておりかつ多くの組織内(腸内および肝臓内を含む)で酵素により切断されもする(初回通過効果)エステルであるからである。これらの知見および先行技術の投与方法の問題を考慮して、CNS疾患の処置において当該プロドラッグの性質を利用するために、本発明は、胃腸管および初回通過効果を回避する投与経路を使用する。これらの経路は、著しい医療リスクにより確かな自己投与に通常適していない静脈内注射とほぼ同程度に効率的に脳送達を提供する。本発明は、迅速な吸収(resorption)および脳へのプロドラッグの取り込みを最適化する選ばれた投与経路のために使用される特殊な薬学的処方物を提供する。
【0015】
先行技術を考慮すると、本発明の根底にある技術的課題は、本明細書に記載されるCNS治療薬の向上したバイオアベイラビリティのための代替的なまたは改善された手段を提供し、それにより、認知障害に関連する脳疾患の有効な処置を提供することである。
【0016】
この課題は、独立請求項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0017】
したがって、本発明の目的は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための式Iに従う化学物質
[式中、
R1=芳香族もしくはヘテロ芳香族の5員環もしくは6員環(例えば、任意選択で置換されているベンゼン、ナフタリン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール);または直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族残基(例えば、CH(C2H5)CH3、CH2−C(CH3)3)、シクロプロパン、好ましくは6個以上のC原子、より好ましくは6個のC原子もしくは11個以上のC原子を含む脂肪族残基(例えば、脂肪酸残基)である]
であって、前記処置が、治療有効量の前記物質の鼻腔内投与、舌下投与または頬投与から選択される経粘膜投与を含む化学物質を提供することである。
【0018】
したがって、本発明は主として、鼻腔内投与、頬投与および/または舌下投与から選択される経粘膜経路により治療有効量の本明細書に記載される化学物質を投与することによる認知障害に関連する脳疾患の処置のための前記化学物質の使用、または前記化学物質の投与を含む処置の方法に関する。
【0019】
好ましい実施形態において、本発明の化学物質は、当該物質が、式II
[式中、
R2〜R6は、H、ハロゲン、任意選択で置換されているC〜Cアルキルまたはシクロプロピル、OH、O−アルキル、SH、S−アルキル、NH、NH−アルキル、N−ジアルキル、任意選択で置換されているアリールまたはヘテロアリールから選択される任意の置換基からなる(ここで、隣接する置換基は、共同してさらなる環を形成し得る)]
から選択されることを特徴とする。
【0020】
式IおよびIIに記載される物質の任意選択の置換は、アルキル、OH、ハロゲン、NH、アルキル−NHもしくはNO2基、または表2に与えられる化合物に関して記載される他の置換基による置換に関する。
【0021】
式IのR1位置に芳香族またはヘテロ芳香族の5員環または6員環を有する式IまたはIIに従う化合物が好ましい。そのような化合物の例は、表2において見出される(すなわち、GLN−1062、GLN−1081、GLN−1082、GLN−1083、GLN−1084、GLN−1085、GLN−1086、GLN−1088、GLN−1089、GLN−1090、GLN−1091、GLN−1092、GLN−1093、GLN−1094、GLN−1095、GLN−1096、GLN−1097、GLN−1098、GLN−1099、GLN−1100、GLN−1101、GLN−1102、GLN−1103、GLN−1104、GLN−1105、GLN−1113)。
【0022】
特に好ましい実施形態において、本発明の化学物質は、当該物質がGLN−1062であることを特徴とする(ここで、GLN−1062は、
により表される)。
【0023】
本発明の経粘膜投与は、本発明の化合物が経口投与によって投与された場合に比較的低い安定性を示すという予想外の認識に基づいている。エステル基の切断は、身体の他の組織に加えて消化管および肝臓で起こる。経粘膜投与は、胃腸管および他の器官の通過の間のプロドラッグの初回通過効果および切断を回避することにより、脳および血液内への向上した輸送ならびに対応する向上した有効性を提供する。
【0024】
先行技術に従うガランタミンの経粘膜投与は、そのような向上を何ら提供しない。というのは、ガランタミンは、内因性エステラーゼによる切断に感受性ではないからである。本発明の驚くべき概念は、投与後ではあるがBBBによる分配前のプロドラッグの切断の回避に基づいており、これにより、脳輸送を向上させ、提案された投与経路および薬物処方物の条件下においては主として脳内で起こる切断の後の活性物質の相対濃度の増加を向上させる。
【0025】
本明細書に記載されるプロドラッグの経粘膜投与は、プロドラッグの脳送達のさらなる向上に繋がり、そして最終的に(プロドラッグの切断後に)被験体の脳における有効用量のガランタミンに繋がることになるということは、全く驚くべきことであった。
【0026】
したがって、本発明は、本明細書に記載される認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための化学物質であって、経粘膜投与が、内因性エステラーゼによる前記物質のエステル基の投与後切断の回避および/または低減をもたらす化学物質に関する。
【0027】
本発明のこの態様は、当該技術分野において以前には開示も示唆もされていない新規の技術的効果である。胃腸管および肝臓におけるMemogainのエステル部分の比較的低い安定性は、当該技術分野において以前には記載されていない。したがって、当業者は、切断されていない化合物の脳への送達を改善するために、本明細書に記載される投与様式または塩を提供しようと試みることはしなかったであろう。本明細書で与えられる実施例において実証されるように、錠剤の形態での経口投与後の投与後切断の認識が、本明細書に記載される塩に加えて、本発明の経粘膜投与の提供を可能にした。
【0028】
経粘膜投与により得られる著しい改善および本明細書に記載される塩の向上した送達に関して、インビボエステラーゼ切断の回避は、経口投与された錠剤に関連する強い胃腸副作用のためにChE阻害剤での処置を以前は回避してきた患者の処置を可能にする。特にMemogain塩の高濃度水溶液の、経粘膜投与による改善された脳送達は、ガランタミンそれ自体(著しい副作用のため)またはMemogain(インビボ分解のため)のいずれを用いても今まで全く可能ではなかった投薬レジメンを可能にする。
【0029】
有望な効果を示すにも関わらず、ガランタミン処置は、強い望ましくない副作用のために、(およそ30%の)低コンプライアンスと関連付けられ、このことは、より持続可能な治療アプローチに対する当該分野における強い必要性を示している。本明細書に記載される投与経路および塩は、Memogainおよびその有効成分であるガランタミンを用いては以前には決して達成されなかった処置レジメンを可能にし、本発明の手段および方法を用いての、以前は望ましくない副作用のために効果的に処置され得なかった患者における、重篤な神経変性疾患の処置を潜在的に可能にする。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明の化学物質は、当該化学物質が、塩、好ましくは乳酸塩、グルコン酸塩、マレイン酸塩またはサッカリン酸塩として存在することを特徴とする。
【0031】
好ましい実施形態において、塩は、式I、IIまたはIIIに従う化学物質の化学量論塩および/または非化学量論塩および/または水和物からなる(ここで、当該塩は、好ましくは、
式I、IIまたはIIIの物質・nHX・mH2O
と記述され、
ここで、n、m=0〜5でありかつnおよびmは同じかまたは異なり得、HX=乳酸、グルコン酸、マレイン酸またはサッカリン酸から好ましくは選択される酸である)。
【0032】
本発明はまた、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための化学物質であって、当該化学物質が、GLN 1062のサッカリン酸塩であることを特徴とする化学物質に関する。本発明のサッカリン酸塩は、驚くべきことに、水中70%までの高い濃度を可能にし、プロドラッグの高経粘膜用量のための改善された安定溶液を提供する。
【0033】
本発明の1つの好ましい実施例は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための化学物質であって、当該化学物質が、GLN−1062のグルコン酸塩である化学物質に関する。
【0034】
GLN 1062のグルコン酸塩は、特に摂氏約25〜50度の温度において、水に対して40%以上の高い溶解度を有する。高温でのこの高い溶解度は、比較的安定な、溶液の生成から数日後に投与され得る、GLN 1062のグルコン酸塩の高濃度液体溶液を作製するために使用され得る。
【0035】
本発明はまた、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための化学物質であって、当該化学物質が、GLN 1062のマレイン酸塩である化学物質に関する。
【0036】
本発明はまた、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための化学物質であって、当該化学物質が、GLN 1062の乳酸塩である化学物質に関する。
【0037】
本発明の塩はまた、さらに、改善された味(減少した苦味)という驚くべき特性を示し、組成物における味マスキング成分の必要性を低減する。本発明の塩はまた、ガランタミンについて知られているような麻痺させる(numbing)作用の減少を、経粘膜投与された場合に示す。それらの速くかつ効率的な取り込みのため、麻痺させる(無痛覚)作用および好ましくない味は、当該技術分野において記載された組成物に比べて低減される。
【0038】
1つの実施形態において、本発明の化学物質は、当該化学物質が、体積当たり少なくとも10重量%、好ましくは>20重量%、より好ましくは>30重量%(w/v)の水への溶解度を有することを特徴とする。
【0039】
本明細書に記載される塩の向上した溶解度は、驚くべきかつ有益な発展である。本明細書に記載される塩の溶解度は、より高い濃度の化合物がより小さい体積で投与されることを可能にし、それによりさらに、本明細書に記載される経粘膜投与による脳への直接的な投与を向上させる。
【0040】
本発明のプロドラッグの塩と組み合わせた経粘膜投与は相乗効果を示す。向上した溶解度は、より高い濃度の化学物質が投与されることを可能にし、それにより、より多くの量の切断後の活性物質(ガランタミン)が脳内で活性であることを可能にする。(脳内の物質それ自体またはプロドラッグの切断後の脳内のガランタミンレベルのいずれかにより測定される)物質の輸送は、経粘膜投与、塩の投与、およびプロドラッグの投与による効果が個々に検討される場合に予想される合計よりも大きい。
【0041】
本明細書に記載される化合物のプロドラッグ特性は、それらの塩の経粘膜適用によって相乗的な様式で利用され、増強される。(高溶解度を有する)プロドラッグの塩の経粘膜投与は、ガランタミン、またはガランタミンの塩を用いては以前は可能でなかった投薬レジメンを可能にする投与パラメータの特異な組み合わせを提供する。
【0042】
1つの実施形態において、本発明は、化学物質が、0.1〜200mg、1〜100mg、好ましくは2〜40mgの投薬量で、好ましくは1日1〜3回、より好ましくは1日2回、さらにより好ましくは1日1回だけ投与されることを特徴とする。
【0043】
本明細書に記載される投薬レジメンは、有効なガランタミン処置に関して先行技術と比較して新規でかつ驚くほど有益な発展である。ガランタミンの生物学的および医学的効果は、高用量での投与によりもたらされる潜在的な効果については以前には一度も試験されたことがない。ガランタミン処置を必要としている多くの患者は、通常用量のガランタミンを用いて生じる著しい副作用のために処置され得なかった。被験体の脳内の有意なガランタミンレベルを得るために、先行技術は、高用量ではあるが高毒性でもある用量を教示している。経口投与または鼻腔内投与されるガランタミン薬物のほんの僅かな部分しか脳に到達しないので、脳疾患の処置の間に効果を示すのに必要とされる用量は、身体の他の組織における多量のガランタミン(これにより望ましくない副作用が引き起こされる)のため、多くの場合、許容できないほど高い。
【0044】
本発明の投薬量は、本明細書に開示されるプロドラッグの経粘膜投与によって可能にされる。経粘膜投与によりさらに向上した送達と組み合わせた、疎水性プロドラッグの向上した脳送達により、より少ない用量のプロドラッグが、プロドラッグ切断および活性化合物の放出後の脳内のガランタミンの同じかまたはより大きな効果を達成するために必要とされる。また、本発明の範囲内のより少ない用量の本発明のプロドラッグ(例えば、GLN 1062)が、ガランタミンの経口投与に比べて認知回復においてより顕著なかつ/またはより強力な効果に繋がることは、全く驚くべきことである。
【0045】
これらの投薬レジメンは、本明細書に記載される化合物の塩の形態で投与される場合に特に有益である。
【0046】
1つの実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、当該化学物質またはその塩が、体積当たり2〜40重量%(w/v)の溶液として、好ましくは単一の(鼻腔内または口腔内)スプレー事象において、20〜100マイクロリットルの量で、1日1〜3回、鼻腔内投与、頬投与または舌下投与される化学物質に関する。
【0047】
これらの用量で、有効な認知回復が、観察できる副作用を何ら(または極めて小さなものしか)伴わずに脳疾患に罹っている患者において可能である。プロドラッグ(好ましくはGLN 1062)および経粘膜投与の組み合わせを通じて、そのような投薬量が、(スプレーまたは口腔経粘膜処方物の投与による)比較的小さい体積の活性化合物の比較的少ない数の投与事象を含む投薬レジメンによって有効なガランタミン処置に繋がり得ることは、発明時には予想外のことであった。
【0048】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、当該化学物質またはその塩が、体積当たり10重量%(w/v)の溶液として、好ましくは単一の(鼻腔内または口腔内)スプレー事象において、50マイクロリットルの量で、1日1〜3回、鼻腔内投与、頬投与または舌下投与される化学物質に関する。
【0049】
1つの実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、処置されるべき脳疾患が、アルツハイマー病および/またはパーキンソン病であり、当該化学物質が、GLN 1062のグルコン酸塩またはサッカリン酸塩であり、当該GLN 1062のグルコン酸塩またはサッカリン酸塩が、体積当たり2〜40重量%(w/v)の溶液として、好ましくは単一の(鼻腔内または口腔内)スプレー事象において、20〜100マイクロリットルの量で、1日1〜3回、鼻腔内投与、頬投与または舌下投与される化学物質に関する。
【0050】
GLN 1062の塩処方物は、驚くほど高い溶解度を示し、高用量のGLN 1062が、小体積で患者自身により容易に適用されることを可能にし、はるかに高い用量のプロドラッグまたはそれらの活性親薬物であるガランタミンの必要性なしにかつ著しい副作用の発生なしに、治療的に適切な結果をもたらす。
【0051】
1つの実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、処置されるべき脳疾患が、アルツハイマー病であり、当該化学物質が、GLN 1062のグルコン酸塩であり、当該GLN 1062のグルコン酸塩が、体積当たり10重量%(w/v)の溶液として、好ましくは単一の鼻腔内スプレー事象において、50マイクロリットルの量で、1日2回、鼻腔内投与、頬投与または舌下投与される化学物質に関する。
【0052】
1つの実施形態において、本発明の化学物質は、鼻腔内適用が、好適な定量デバイス(例えば、アトマイザー、噴霧器、ポンプ式スプレー、ドロッパー、スクィーズチューブ、スクィーズボトル、ピペット、アンプル、鼻カニューレ、定量デバイス、鼻内噴霧吸入器、経鼻的持続的陽気圧デバイス(nasal continuous positive air pressure device)、および/または呼吸作動式二方向送達デバイス)を用いて治療有効量の前記化学物質を投与することにより行われることを特徴とする。
【0053】
1つの実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、舌下投与が、1滴以上の溶液またはある量の凍結乾燥された粉末もしくはエマルションの形態の微粒子を舌の下側に置くことによって、および/あるいは当該化学物質を含む予め選択された体積の液体組成物を舌の裏側に噴霧することによって、舌下に治療有効量の当該化学物質を投与することにより行われる化学物質に関する。
【0054】
1つの実施形態において、本発明は、認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本明細書に記載される化学物質であって、頬投与が、治療有効量の当該化学物質を、凍結乾燥された粉末もしくはエマルションまたは口腔内崩壊錠もしくは口腔内分散錠(orodispersible tablet)(ODT)として、口内の頬と歯茎との間の頬前庭に投与することにより行われる化学物質に関する。
【0055】
1つの実施形態において、本発明の化学物質は、被験体が、哺乳動物、好ましくはヒトであることを特徴とする。
【0056】
1つの実施形態において、本発明の化学物質は、処置されるべき脳疾患が、アルツハイマー病および/もしくはパーキンソン病、他の種類の認知症、統合失調症、癲癇、脳卒中、小児麻痺、神経炎、筋障害、低酸素症、無酸素症、窒息、心拍停止後の脳における酸素および栄養素欠乏、慢性疲労症候群、様々な種類の中毒、知覚麻痺(特に神経遮断性知覚麻痺(neuroleptic anaesthesia))、脊髄障害、炎症(特に中枢性炎症性障害)、術後せん妄および/もしくは亜症候群性(subsyndronal)術後せん妄、神経障害疼痛、アルコールおよび薬物の乱用、中毒性のアルコールおよびニコチン渇望、ならびに/または放射線治療の影響から選択されることを特徴とする。
【0057】
1つの実施形態において、本発明の化学物質は、投与後の患者における当該化学物質の分布が、5より高い、好ましくは10より高い、より好ましくは15〜25の間の脳対血液濃度比を示すことを特徴とする。
【0058】
本発明はさらに、鼻腔内投与、頬投与および/または舌下投与からなる群から選択される経粘膜経路により治療有効量の本明細書に記載される化学物質を投与することによる、認知障害に関連する脳疾患の処置のための前記化学物質の使用に関する。
【0059】
別の態様において、本発明は、本発明の式I、IIまたはGLN 1062に従う化学物質と、好ましくは1種以上の薬学的に受容可能なキャリアとを含む、哺乳動物における認知障害に関連する脳疾患の処置における使用のための薬学的組成物において、当該組成物が、鼻腔内適用、頬適用および/または舌下適用に好適なものであることを特徴とする薬学的組成物に関する。したがって、本発明は、鼻粘膜または口粘膜を介した経粘膜投与のための液体組成物の形態の点鼻薬または舌下滴剤に関する。
【0060】
本発明は、経粘膜投与による認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本発明の式I、IIまたはGLN 1062に従う化学物質を含む薬学的組成物であって、当該組成物が、体積当たり2〜40重量%、好ましくは5〜15重量%、より好ましくは10重量%(w/v)の化学物質を含む水溶液である薬学的組成物に関する。
【0061】
1つの実施形態において、本発明は、薬学的組成物であって、当該組成物が、N−エチルピロリドンを含むことを特徴とする薬学的組成物に関する。好ましい実施形態において、本発明は、薬学的組成物であって、当該組成物が、自己マイクロ乳化薬物送達(SMEDD)系を含む薬学的組成物に関する。そのような組成物は、好ましくは、カプリル酸グリセリル、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよび/またはジエチレングリコールモノエチルエーテルを含む。
【0062】
本発明はまた、経粘膜投与による認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本発明の式I、IIまたはGLN 1062に従う化学物質を含む薬学的組成物であって、当該組成物が、キトサンを含む徐放性処方物を含む薬学的組成物に関する。
【0063】
本発明のさらなる実施形態は、0.01〜1000ミクロン、好ましくは0.1〜100または1〜10ミクロンの粒径を好ましくは有する、投与されるべき化学物質の微粉化された粉末処方物を含む、薬学的組成物に関する。
【0064】
本発明は、経粘膜投与による認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本発明の式I、IIまたはGLN 1062に従う化学物質を含む薬学的組成物であって、当該組成物が、好ましくはラクトース一水和物、トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)および/またはステアリン酸マグネシウムと、任意選択で着香料とを含む、舌下錠を含む薬学的組成物に関する。あるいは、当該組成物は、マンニトール、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロース、アスコルビン酸および/またはステアリン酸マグネシウムと、任意選択で着香料とを含む、舌下錠を含み得る。
【0065】
本発明はまた、経粘膜投与による認知障害に関連する脳疾患の処置における医薬としての使用のための本発明の式I、IIまたはGLN 1062に従う化学物質を含む薬学的組成物であって、当該組成物が、消化酸耐性被覆を有する(例えば、オイドラギットを含む)多層錠剤を含む薬学的組成物に関する。
【0066】
好ましい実施形態において、本発明の薬学的組成物は、自己マイクロ乳化薬物送達(SMEDD)系、キトサンを含む徐放性処方物、微粉化された粉末処方物、または舌下もしくはバッカル錠の形態の組成物中に、投与されるべき物質を、重量当たり2〜40重量%(w/w)、好ましくは重量当たり10〜30重量%、より好ましくは5、10、20または30重量%(w/w)で含む。
【0067】
特に好ましい実施形態において、CNS治療薬は、確立された抗認知症薬(anti−dementive drug)であるガランタミンであり、プロドラッグは、ガランタミンの安息香酸エステル(安息香酸ガランタミン、GLN 1062、その他の場合は「Memogain」と述べられる)であり、鼻腔内送達のために使用される塩形態は、好ましくは、GLN 1062の前記ベンゾイルエステルの乳酸塩、グルコン酸塩、マレイン酸塩またはサッカリン酸塩である。GLN 1062はまた、(4aS,6R,8aS)−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−6H−ベンゾフロ[3a,3,2−ef][2]ベンゾアゼピン−6−オール6−ベンゾエートとしても知られている。例えば、Memogainのグルコン酸塩は、安息香酸ガランタミングルコン酸塩としても知られている。
【0068】
したがって、本発明はまた、鼻腔内投与、頬投与および/または舌下投与からなる群から選択される経粘膜経路により治療有効量の上記の化学物質を投与することによる認知障害に関連する脳疾患のための処置の方法に関する。本発明の処置の方法はまた、本明細書に示される本発明の実施形態により、投与レジメン、当該物質それ自体および/または他の投与パラメータに関してさらに定義され得る。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明の詳細な説明は、以下の発展を包含する。
【0070】
(1)好ましい実施形態において、ガランタミンのプロドラッグが提供され、当該プロドラッグは、それらの親化合物よりも著しく親油性が高く、それにより脳内への血液脳関門(BBB)を介したそれらの受動的輸送を向上させる。
【0071】
(2)これらのプロドラッグは、薬理学的に不活性であり、したがって、それらが特定の組織内において切断されていない状態のままである限り、何ら著しいGIまたは他の副作用を生じない。酵素切断後、各プロドラッグ分子から1個の親薬物分子が形成され、それにより、薬物の完全な薬理学的効果を生じる。切断が優先的に脳内で行われるならば、この器官内への分布の向上およびそこにおける好適な内因性酵素の利用可能性のために、CNS内の標的部位での著しくより高い薬物濃度が達成され、その結果としてより大きな医学的に有益な効果が達成される。
【0072】
(3)標的器官である脳への優先的輸送は、口腔または鼻腔における経粘膜投与経路により驚くべきかつ有益な様式でさらに最適化される。
【0073】
(4)プロドラッグの高用量処方物および徐放性処方物はさらに、脳内への取り込みの薬物動態を最適化し、作用の最適な有効性のためにそこにおける薬物レベルを維持する。
【0074】
全体として考えると、本明細書に記載されるプロドラッグの処方物のこれらの特徴は、非修飾薬物の錠剤の形態での経口投与により達成され得るよりもはるかに高い濃度の薬物の脳への送達を促進する。脳への薬物の改善された分布は、GI管において局所的に引き起こされるあらゆる副作用を飛躍的に低減し、それにより、有効用量の薬物をCNSに位置するその標的分子(例えば、ニコチン性受容体およびコリンエステラーゼ)に直ちに適用することを可能にする。
【0075】
脳毛細血管のレベルに位置する血液脳関門(BBB)は、血液コンパートメントから脳への薬物の通過に対する主要な障壁であるので、プロドラッグのBBB透過を最適化することに対する当初の注目は、有望な結果を生じた。BBBを構成する脳微細血管内皮細胞は、典型的な形態的特性として、細胞間の密着結合、窓の不在および減少した飲作用活性を有する。様々な酵素が、BBBの制限的性質にさらに寄与する。BBBを横切る薬物の能力は、それらの物理化学的性質(例えば、それらの親油性)に主として依存している。したがって、本開示において考慮される化合物は全て、それらの親化合物に比べて改善された親油性を有するプロドラッグである。
【0076】
BBCRは、BBBを介した輸送平衡が達成された後の脳対血液濃度比として理解されるべきである。
【0077】
一般的に、およそ1.3のガランタミン誘導体のLogP値は、およそ2または2より少し低いBBRC(脳対血液濃度比)に繋がり、およそ2のlogP値は、およそ5〜10のBBRCに繋がり、およそ3のlogP値は、およそ20または20を超えるBBRCに繋がる。これは、logP値とBBB透過性とを比較するための指針として意図されており、いくつかの特定の化合物については異なり得る。この指針は、本発明を限定する特徴ではない。
【0078】
プロドラッグは、予想通りに身体の特定の位置において活性な代謝産物に変換される、それ自体は治療的に不活性な薬剤と定義される。この意味において、プロドラッグは、予想可能な様式で酵素切断または化学的自発的プロセスによる活性薬剤への変換をインビボで受ける、親薬物の不活性な前駆体である。ここで述べられるプロドラッグにおいて、好ましくは親薬物と選ばれた輸送促進部分(transport pro−moiety)との間に共有エステル結合が存在し、不活性なプロドラッグは、理想的には標的器官である脳における、このエステル結合の切断時に、CNS内のその標的部位またはその近くにおいて活性な親薬物を放出する。
【0079】
口腔内での迅速な吸収は、舌下投与により最もよく達成される。というのは、角質化が著しくより少ないことに加えて、この領域の粘膜厚さは、他の口内領域においてよりも薄いからである(Shojaei A(1998)Buccal mucosa as a route for systemic drug delivery:a review.J Pharm Pharmaceut Sci 1:15−30)。速やかに溶解する舌下処方物(例えば、迅速に崩壊する錠剤または液体充填カプセル)は、唾液中でのプロドラッグの酵素分解を低減するのをさらに助け得る。鼻腔はまた、その大きな表面積、高度に発達した脈管構造および劣等な酵素環境を以って、代替的投与レジメンの有望な出発点を提供する。鼻腔内送達は、静脈内投与と同様に高いレベルのバイオアベイラビリティを、後者と比べて非侵襲性、自己投与の容易性、患者の安心感および患者のコンプライアンスという利点を伴って提供することが可能である。これらの利点は、当該技術分野の専門家により一般に知られているかもしれないが、そのような適用経路を開発するためには著しい困難が残っている。長期的全身送達のためには、上皮損傷および毒性の問題が解決される必要があり、しかも、十分なバイオアベイラビリティのためには、小体積のビヒクル中の高濃度の薬物が提供される。これは、まず必要とされる処方物および濃度を可能にする好適な化合物の選択を、投与に適した方法を見出すことならびに最終的には脳への有効物質の最適な投与を可能にするその好ましい塩および/または溶液を開発することに加えて必要とする。
【0080】
したがって、先行技術を考慮すると、代替的な投与様式に関してどの化合物が好結果をもたらすか予想できなかった。また、先行技術からは、どの塩および/または処方物が、本発明のプロドラッグのために生成され得るか予想され得ず、これらの製品が有効なBBB透過および脳内での活性物質への切断をもたらすか否かも予想され得ない。
【0081】
本発明に従う好適なプロドラッグ処方物は、次のように選択された。プロドラッグの動物への静脈内注射後に全脳および血漿中のプロドラッグの濃度をモニタリングすることによって、本発明者らはそれらの基礎BBCRを決定した。
【0082】
脳および血液中の放出された親薬物の濃度をさらにモニタリングすることにより、本発明者らは、プロドラッグから薬物への変換の割合および有効性を決定した。これらの調査は、プロドラッグの脳内への取り込みが本当に非常に速いこと、そしてその速い取り込みが、プロドラッグから薬物への変換が脳内で起こるのに非常に有利であるということを実証した。調査下の親薬物のほとんどが、コリンエステラーゼ阻害剤として作用することが知られているので、本発明者らは、関連するプロドラッグがブチリルエステラーゼおよびカルボキシエステラーゼ型のエステラーゼによってそれらの活性親薬物に切断されると判断し、次いでこれを証明した。
【0083】
次いで、本発明者らは、口腔および鼻腔における経粘膜送達に変更し、再度動物モデルにおいて、脳への取り込みの速度、そこで達成される薬物レベル、ならびに誘導体および親薬物の経口送達と比べて達成される薬力学を決定した。経粘膜経路による本明細書に記載される化学物質の投与は、以前から知られている経口投与方法と比べて驚くべきかつ予想外の利点を示す。ガランタミンの特定の誘導体が経粘膜投与により脳内に優先的に輸送され得ることは、先行技術においては開示も示唆もされなかった。上に記載したように、ガランタミンの鼻腔内適用の先の試みは、好ましくない物理化学的特性のために失敗した。驚くべきことに、好ましい化学物質として本明細書に記載されるガランタミン誘導体の経粘膜適用は、改善された脳対血液濃度比を確かに可能にする。この効果は、ガランタミンそれ自体についての同様の投与レジメンの先の失敗を考慮すると驚くべきことである。
【0084】
したがって、本発明の目的は、親油性プロドラッグとして処方されかつ口腔または鼻腔における経粘膜吸収経路によって投与されることにより最適な脳バイオアベイラビリティを有する新規のCNS治療薬を提供することである。
【0085】
本発明は、基礎化合物それ自体(すなわち、ガランタミン)が血液脳関門を横切ることにより脳に送達されなければならないという基本的な理解に基づいている。ガランタミンそれ自体が非常に低いLogP値を有しており、したがって十分に有効な量で血液脳関門を通過することができないという事実のため、基礎化合物を、当該物質が血液脳関門をより効率的に横切るためにより親油性にされるように改変することが必要である。改変された基礎化合物、好ましくは式Iまたは式IIに従う化学物質(CS)が脳に到達すると、当該物質は、R1残基上のエステル結合の酵素切断により、有効な基礎化合物それ自体(すなわち、ガランタミン)に再変換される。
【0086】
本発明の目的は、特に後の基礎化合物であるガランタミンのより高いバイオアベイラビリティを確実にするために、(血液脳関門を横切ることに続く脳内での切断後の)有効量の基礎化合物が確実に脳内で利用可能であるようにするように、なんとか脳内に化合物を送達することである。
【0087】
先に記載されたように(Maelicke et al.,Memogain is a galantamine Pro−drug having Dramatically Reduced Adverse Effects and Enhanced Efficacy,J Mol Neurosci(2010)40:135−137)、式Iに従う物質は、同用量のガランタミンよりも10倍を超えて高い脳内バイオアベイラビリティを有するガランタミンの不活性プロドラッグである。ガランタミンの前記誘導体は、親薬物(ガランタミン)の1段階の化学修飾によって得られ得る。この修飾は、ガランタミンの、人体におけるそれの2つの主要な標的、すなわちニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)に対する薬理学的活性をほぼ完全に無効にする。1μMという生理学的に興味深い濃度において、Memogainは、同濃度のガランタミンによって誘導されるエステラーゼ阻害の4%未満を有する。
【0088】
式Iに従う物質の合成、調製および薬物動態データは、国際公開第2009/127218A1号パンフレットおよび米国特許出願公開第2009/0253654A1号明細書に先に詳細に記載されており、これらの両方が、参照により本明細書に援用される。
【0089】
鼻腔内投与、頬(舌下を含む)投与および/または静脈内投与からなる群から選択される経路によって、本発明の化学物質を投与することが好ましい。この投与方法は、適用の部位(すなわち、口、鼻、舌、頬、静脈内)から脳への比較的短い生体内輸送(bio−transport)を保証する。したがって、当該化学物質の分解の可能性は低く、近くの適用場所から血液脳関門への有効な輸送の見込みは高い。
【0090】
好ましい実施形態において、当該化学物質は、少なくとも10%の、優先的には20%より高い水への溶解度を有する塩、好ましくは第4級アンモニウム塩、好ましくは乳酸塩、グルコン酸塩、マレイン酸塩またはサッカリン酸塩として使用される。
【0091】
投与後の患者における当該化学物質の、5より高い、好ましくは10より高い、より好ましくは15〜25の間の脳対血液濃度比での分布を可能にするように、当該化学物質を使用することが意図されている。
【0092】
好ましい実施形態において、CNS治療薬は、ガランタミンおよび構造的に関連する化合物であり、プロドラッグは、当該治療薬の薬理活性にとって必須のアルコールOH基の脂肪族、芳香族およびヘテロ芳香族エステルである。口腔または鼻腔における経粘膜送達に好適であるために、それらは、高濃度塩水溶液として、またはエマルションとして、または自己マイクロ乳化薬物送達系(SMEDDs)として、または微粉化された粉末処方物として処方される。Memogain塩の薬学的に受容可能な溶液が、以下の表1に記載されるように、鼻腔内適用のための溶液における適切な安定性、濃度、pH、容積モル浸透圧濃度、臭いおよび鼻粘膜耐性についての基準を満たすことは驚くべきことであった。
【0093】
薬学的組成物は、好ましくは、体積当たり2〜20重量%(w/v)、好ましくは体積当たり5〜15重量%(w/v)、より好ましくは体積当たり10重量%(w/v)の当該化学物質を含む水溶液である。口腔または鼻腔における経粘膜送達に好適であるために、それらは、高濃度塩水溶液として、またはエマルジョンとして、または自己マイクロ乳化薬物送達系(SMEDDs)として、または微粉化された粉末処方物として処方される。
【0094】
経粘膜投与という用語は、粘膜を通ってまたは横切っての薬学的薬剤の進入に関する。本発明の経粘膜投与経路は、鼻腔内、頬および/または舌下と定義される。
【0095】
経鼻または鼻腔内投与は、鼻腔へのプロドラッグまたはその薬学的組成物の適用の任意の形態に関する。鼻腔は、よく血管を発達させた薄い粘膜によって覆われている。したがって、薬物分子は、初回通過の肝臓および腸の代謝なしに単一の上皮細胞層を横切って迅速に移動させられ得る。したがって、鼻腔内投与は、消化管および/または肝臓での大規模な分解に繋がる例えば錠剤およびカプセル剤の経口投与に対する代替法として使用される。
【0096】
頬投与は、頬粘膜を横切っての吸収に繋がる適用の任意の形態に関し、好ましくは、頬の内側、歯の表面、または頬のそばの歯茎における吸着に関する。
【0097】
舌下投与は、舌下への投与をいい、ここで、化学物質は、舌の下側の粘膜と接触し、それを通って拡散する。
【0098】
頬および/または舌下投与に好適な薬学的組成物は、さらなる薬学的に受容可能なキャリアを含み得、例えば、頬投薬単位は、生体内で徐々に破壊され(bioerode)所定の期間にわたり活性薬剤の送達を提供する高分子キャリアおよび好ましくは滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)に加えて、投与されるべき活性薬剤を含み得る。さらなるキャリア薬剤は、当業者に知られている。この活性薬剤は、pH制御手段、保存剤、粘度制御剤、吸収増強剤、安定剤、溶媒、およびキャリアビヒクルとして機能する成分のクラスのうちの一部または全部のものの材料と共に物理的に配合され得る。そのような薬剤は、固体または液体のいずれかの形態の薬学的組成物中に存在し得る。
【0099】
自己マイクロ乳化薬物送達系(SMEDDS)は、前記薬学的組成物中に存在し得るものであり、機械的手段ではなく化学的手段によって達成されるマイクロエマルションを使用する薬物送達系を意味する。すなわち、特別な混合および処理によるのではなく薬物処方物の本質的な特性による。これは、多くのアニス風味酒中のアネトールにより示されるよく知られている効果を利用する。マイクロエマルションは、薬物送達における使用に関して著しい可能性を有しており、SMEDDS(所謂U型マイクロエマルションを含む)は、今までに発見されたこうした系の中で最高のものである。SMEDDSは、口により摂取される親油性薬物の吸収を増大させることにおいて特に有用である。SMEDDSは、非限定的な様式で、薬物アネトールトリチオン、オリドニン、クルクミン、ビンポセチン、タクロリムス、ベルベリン塩酸塩、ノビレチンおよび/またはピロキシカムの処方物を含み得る。
【0100】
塩は、式I〜IIの化合物またはGLN1062それ自体の任意の塩に関する。塩という用語は、好ましくは、基礎化合物の7員環構造中に、プロトン化された、正に帯電しているN原子を含む化合物をいう。
【0101】
「投与」または「処置」とは、それが動物、ヒト、実験被験体、細胞、組織、器官、または生体液に適用される場合、薬学的、治療的、診断的な薬剤、化合物、または組成物の、動物、ヒト、被験体、細胞、組織、器官、または生体液への接触をいう。「投与」および「処置」は、例えば、治療方法、プラセボ方法、薬物動態学的方法、診断方法、研究方法、および実験方法をいい得る。「処置」とは、それがヒト被験体、獣医学的被験体、または研究被験体に適用される場合、治療的処置、予防的または防止的措置、研究および診断的適用をいう。
【0102】
本発明は、有効量の本明細書に記載される化学物質の、それを必要としている患者への投与を包含する。「有効量」または「治療有効量」とは、障害もしくは生理学的状態の症状または兆候を改善するのに十分な量または障害もしくは生理学的状態の診断を可能にするまたは容易にするのに十分な量を意味する。特定の患者または獣医学的被験体のための有効量は、処置される状態、患者の総合的な健康状態、投与の方法経路および用量、ならびに副作用の重症度などの要因によって変わり得る。有効量は、著しい副作用または毒作用を回避する最大用量または投与プロトコルであり得る。その効果は、少なくとも5%、普通には少なくとも10%、より普通には少なくとも20%、最も普通には少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%、理想的には少なくとも70%、より理想的には少なくとも80%、最も理想的には少なくとも90%の診断手段、パラメータ、または検出可能な徴候の改善を結果としてもたらす。ここで100%は、正常な被験体により示される診断パラメータと定義される。
【0103】
「有効量」はまた、障害、状態、または病理学的状態の症状または兆候の改善および/または診断を可能にするまたは容易にするのに十分な、プロドラッグ物質またはその薬学的組成物の量に関する。
【0104】
本発明に従う好ましい化学物質を表2に示す。
【0105】
本発明は、図によりさらに説明される。これらは、本発明の範囲を限定するように意図されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1図1は、ジオキサンを用いて得られたグルコン酸Memogainの粉末回折図。
図2図2は、グルコン酸Memogain一水和物の吸着/脱着等温線。
図3図3は、グルコン酸Memogain一水和物の加熱減量。
図4図4は、グルコン酸Memogainの湿潤ケークの示差走査熱量測定(DSC)。
図5図5は、エタノールを用いて得られたグルコン酸Memogainの粉末回折図。
図6図6は、ガランタミンおよびいくつかのプロガランタミンについての実験から得られた脳対血液濃度比。
図7図7は、鼻腔内Memogainは、ガランタミンよりも強力である。マウスはスコポラミンで攻撃され、マウスT迷路モデルでの性能評価の前に、増大していく濃度の経口ガランタミンおよび鼻腔内Memogainで投薬された。
図8図8は、Gln−1062の初回通過効果を、Wistarラットにおいて3mg/kgの静脈内および門脈内投薬後に評価した。
図9図9は、Memogainの鼻腔内投与は、少量の血漿中遊離ガランタミンに繋がる。
図10図10は、Memogainは、ガランタミンよりも少ない胃腸副作用を生じる。
図11図11は、Memogainのより低い毒性は、プロドラッグの酵素切断の結果として生じるガランタミンのより低い定常状態血漿レベルのためである。
図12図12は、水中10%NEP中5%Memogain塩の鼻腔内適用(1鼻孔当たり10μL、合計20μL(1mg含有))後の雌WistarラットにおけるMemogainおよびガランタミンの薬物動態プロファイルが以下に示される。
図13図13は、マウスにMemogainまたはガランタミンのいずれかを3mg/kg(i.v.)注射した。これらのデータは、ガランタミンがMemogainに比べてうまく脳に浸透しないことを実証している。
図14図14は、ラットPK調査におけるMemogainの鼻腔内投与。5mg/kgの鼻腔内(i.n.)Memogain投薬をGLPのような条件下で行った。
【実施例】
【0107】
本発明を、以下の実施例によりさらに説明する。これらの実施例は、実践的な例として本発明をさらに説明するように意図されているものであり、本発明を限定する記載ではない。
【0108】
実施例1.プロドラッグの高濃度塩水溶液および有機溶媒溶液
本明細書で検討される薬物のうちの1つであるガランタミンについて、鼻腔内処方物が、高溶解性塩の水溶液に基づき以前に開発された(国際公開第2005/102275A1号パンフレット;Leonhard AK et al.(2005)Development of a novel high−concentration galantamine formulation suitable for intranasal delivery.J Pharmaceut Sciences 94:1736−1746;Leonard AK et al.(2007)in vitro formulation optimization of intranasal galantamine leading to enhanced bioavailability and reduced emetic response in vivo.Int J Pharmaceutics 335:138−146)。
【0109】
報告されたガランタミン塩処方物は、錠剤の経口投与について推奨されるのと同様に高い用量でのガランタミンの投与を可能にしたが、鼻腔内投与は、ガランタミンの脳/血液濃度比を改善しなかった。というのは、薬物の物理化学的特性、したがってBBBを通る透過は、このアプローチによっては変化しなかったからである。それに対して、同じ塩処方物が本明細書に開示されるプロドラッグから形成される場合、親油性(logP)の大きな上昇が、はるかに良好なBBBを通る透過と同時に達成される。これは図1に見られ得る。
【0110】
特にGLN 1062についての塩形成とプロドラッグ特性との組み合わせは、改善された粘膜を通る吸収および脳への直接的な取り込みの相乗効果を示し、それにより、作用部位への向上した送達を可能にする。
【0111】
ガランタミン基礎化合物の両方と比較して、だが誘導体それ自体の経口投与と比較しても、本発明の種々の塩により達成される血液脳関門透過は、予想外の著しい様式で増大される。
【0112】
1.1.Memogainと酢酸との塩:(一般手順A):
Memogainの溶液(2mlの96%エタノール中502mg、1.28mmol)に、酢酸(463mg、7.71mmol)を添加し、結果として生じた溶液を、いくらかの時間の間撹拌し、塩形成のために一晩放置しておいて、酢酸塩の沈殿を結果としてもたらした。収率をジエチルエーテルの添加により改善し、沈殿物を濾過し、96%エタノールで洗浄した。沈殿物を、室温にて40mbarで20時間にわたりデシケーター中で乾燥させた。結果:無色の固体(吸湿性)。収率:62%、融点:89.3〜91.2℃、HPLC>95%。元素分析:C2425NO1.5CHCOOHについての計算値 C:71.24、H:6.46、N:3.32 実測値 C:71.36、H:6.17、N:3.43。
【0113】
1〜2モル当量の酢酸を含有するいくつかの他の結晶形態を、Memogainおよび酸の相対量ならびに沈殿方法を変更することによって同様にして得た。
【0114】
1.2.Memogainと乳酸との塩:(一般手順B):
メタノール(4ml)中の2.5gのMemogain(6.4mmol)の溶液に、メタノール(2ml)中95%のラセミ乳酸(7.85mmol)の溶液を40〜50℃で添加し、20分間撹拌した。溶媒を蒸発させ、結果として生じた残渣をまず回転蒸発器を用いて9mbarおよび50〜60℃で2時間乾燥させ、続いて、40mbarで室温にて一晩乾燥させて、吸湿性の高い固体淡黄色泡沫を結果としてもたらした。収率:98.92%、融点:62.9〜64.1℃、元素分析:C2425NO1.1Cについての計算値 C:66.84、H:6.49、N:2.86。実測値:C:66.69、H:6.45、N:2.80 HPLC純度>97%。
【0115】
同様にして、(+)−乳酸との対応する塩を得た。C2425NO1.5Cについての計算値 C:65.01、H:6.51、N:2.66。実測値:C:64.91、H:6.28、N:2.70。
【0116】
1.3.Memogainとクエン酸との塩:
溶媒として乾燥エタノールを用いる以外は一般手順Bを用いて、クエン酸塩を、粘着性の固体として91.0%の収率で得た。これは、乾燥ジエチルエーテルを用いた粉砕、それに続く高真空蒸発後に融点:117.5〜119℃を有する無色の固体に変わった。元素分析:計算値 C:73.64、H:6.44、N:3.58 実測値 C:59.61、H:5.93、N:2.26。HPLC>97%
【0117】
1.4.Memogainとサッカリン酸との塩(一般手順C):
96%エタノール(4ml)中のMemogain(1120mg)の溶液に、60°の96%エタノール(3ml)中のサッカロラクトン(200〜604mg)の溶液を添加した。この高温溶液を酢酸エチルで即座に希釈して、無色の沈殿物の形成を結果としてもたらし、これを2時間にわたり5°まで冷却した後に濾過し、酢酸エチルで洗浄し、40mbarで20時間にわたり室温にて乾燥させて、融点:132〜134℃および>97%のHPLC純度を有する無色の固体として83.7%収率のサッカリン酸塩を得た。元素分析:C2425NO10についての計算値 C:59.89、H:5.86、N:2.33。実測値:C:60.10、H:5.61、N:2.37。サッカリン酸のラクトンは、これらの条件下に存在する水により加水分解されて、記載される塩を結果としてもたらす。
【0118】
1.5.Memogainとグルコン酸との塩:
溶媒としてジオキサンを用い、水(13mg、0.76mmol)を含有するジオキサン中のD−グルコン酸δ−ラクトン(68.2mg、0.38mmol)の溶液を用いること以外はMemogain(150mg、0.38mmol)から出発する一般手順Cに従い、透明な溶液が得られるまで50〜60℃で30分間撹拌し、続いて乾燥ジエチルエーテル(10ml)を冷却した溶液に添加して、無色の沈殿物を結果としてもたらし、これを濾過し、ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥させて、170mg(75.6%)の塩を無色の結晶質固体として得た。融点:159.3〜159.4℃ HPLC純度>98% 元素分析:C2425NO1.5C12についての計算値 C:57.80、H:6.32、N:2.04。実測値:C:58.22、H:5.98、N:2.28。この塩の粉末回折図を図1に示す。
【0119】
沈殿のためにジエチルエーテルを添加しないこと以外は同様の2倍の規模の実験から、自発的結晶が、室温で3日間放置した際に形成され、これを濾過し、ジオキサンで洗浄し、乾燥させて、145mg(32%)の1:1塩を173.3〜173.4℃の融点を有する無色の結晶として得た。C2425NO12についての計算値 C:61.32、H:6.35、N:2.38。実測値:C:61.65、H:6.27、N:2.64。この塩の微量滴定により、元素分析から計算される化学量論が実証された。
【0120】
延長した乾燥以外は同様の条件下において、結晶中に0〜2当量の水を含有する他の塩形態を得た。D−グルコン酸δ−ラクトンは水によりグルコン酸に加水分解されることが知られている。
【0121】
代替的な手順において、エタノールを溶媒として使用した。したがって、Memogain(96%エタノール中9.4g、24mmol))を、96%エタノール(10ml)中のD−グルコン酸δ−ラクトン(6416mg、36mmol)の溶液に添加し、透明な溶液が得られるまで50〜60℃に30分間加熱し、これを無色の沈殿物の形成を伴って室温で2日間保持し、これを濾過し、乾燥エタノール(2×20ml)およびイソプロパノール(60lm)で洗浄し、40mbarで室温にて20時間乾燥させて、7.91g(84.2%)の生成物を無色の結晶質固体として得た(融点:122〜126℃、HPLC純度>98%)。元素分析:C2425NO12Oについての計算値 C:59.50、H:6.49、N:2.31。実測値:C:59.60、H:6.59、N:2.32。
【0122】
この塩を用いて水の吸着/脱着等温線(図2)および加熱減量(図3)を得た。さらに、グルコン酸Memogainの湿潤ケークの示差走査熱量測定(DSC)により、乾燥が53〜87℃の間で起こり、融解がおよそ123℃で起こることが決定された(図4)。この塩の粉末回折図を図5に示す。
1HNMR(200MHz,D2O):δ7.35−7.46(d,2H),7.09−6.94(t,1H),6.92−6.80(t,2H),6.59−6.36(m,2H),6.14−6.00(d,1H),5.85−5,72(m,1H),5.16−5.07(s,1H),4.48−4.31(m,4H),4.13−3.84(m,5H),3.73−3.53(m,6H),3.53−3.39(m,5H),2.76−2.58(s,3H)2.39−2.21(d,1H),2.06−1.69(m,3H)
13CNMR(50MHz,D2O):δ178.39(s,1C),167.03(s,1C),146.09(s,1C),145.11(s,1C),133.09(s,1C),131.57(s,1C),129.26
(s,1C),128.04(s,1C),123.75(s,1C),123.40(s,1C),119.02(s,1C),118.74(s,1C)118.67(s,1C),112.05(s,1C),85.82(s,1C),73.93(s,1C),73.52(s,1C),72.46(s,1C),71.07(s,1C),70.81(s,1C),64.23(s,1C),62.54(s,1C),58.51(s,1C),55.52(s,1C),53.98(s,1C),46.50(s,1C),40.96(s,1C)40.82(s,1C),32.07(s,1C),26.83(s,1C)。
【0123】
一般手順A、BおよびCを用いて、以下の塩を、0.5〜10mmolの規模で同様にして調製し、42〜91%の最適化されていない収率を得た。結晶質状態で得られた塩については融点が示される。10%より高いまたはさらには20%より高い水への溶解度を示す塩をさらに調査した。
【0124】
この一覧に加えて、Pharmaceutical Salts,Properties,Selection and Uses,Stahl,P.H.and Wermuth,C.G.,eds.,VHCA Verlag 2002という本の表1に記載される薬学的に受容可能な塩が使用され得る。
【0125】
1.6.溶解度試験
10mgの対応する塩および100マイクロリットルの水を、室温で5分間超音波処理した。結果として生じた溶液または懸濁液を3分間遠心分離機にかけ、フィルターチップを用いて濾過した。1.0マイクロリットルの濾液を容量フラスコに移し、水で10.0mlに希釈して、試料溶液を得た。20マイクロリットルのこの試料溶液をHPLCのために注入し、Memogainの量をMerck Chromolith RP18カラムおよび5%〜60%のアセトニトリルおよび水(両方の溶媒が0.1%ギ酸を含有する)の勾配を用いて定量化した(注入体積:20マイクロリットル)。
【0126】
酢酸、マレイン酸、乳酸(乳酸塩)、クエン酸、サッカリン酸(サッカリン酸塩)およびグルコン酸(グルコン酸塩)のMemogain塩は全て、10%より高い水への溶解度を示した。
【0127】
Memogainの乳酸塩、グルコン酸塩、マレイン酸塩およびサッカリン酸塩は、体積当たり10重量%(w/v)より高い溶解度を示し、場合によっては、溶液中20%濃度の準安定塩を形成した。グルコン酸塩は、体積当たり40重量%(w/v)の溶解度を示し、サッカリン酸塩は、体積当たり70重量%(w/v)の溶解度を示した。
【0128】
特に好ましいのは、酢酸、マレイン酸、乳酸(乳酸塩)、クエン酸、サッカリン酸(サッカリン酸塩)およびグルコン酸(グルコン酸塩)の第4級窒素塩(その他の場合は第4級アンモニウム塩と称される)である。
【0129】
これらの酸は、水中の中性のpHにおいて70%までの溶解度を有するMemogainおよび他のガランタミンプロドラッグ窒素塩基との塩を形成する。水溶液中の高濃度のグルコン酸塩は準安定であり、後により溶解性の低い安定な塩形態に変換されるが、沈殿が消失するまで>50℃に水性混合物を温めることにより、完全に溶解した均一な溶液が回復され得る。沈殿シーディング(precipitation seeding)を低減または回避するために予防策が講じられるのであれば、これらの準安定な均一な溶液は、何時間も何日間も安定なままである。そのような準安定(ハイパークリティカル(hypercritical))溶液を形成するための溶解手順の適切な文書が、これらの溶液を、患者および医療パーソナル(medical personal)による使用のための好適な薬物製品処方物にする。投与前の(例えば5分間の手での)短時間の温めが、そのような準安定溶液の最適な投与を可能にする。
【0130】
本明細書で述べられるプロドラッグの徐放性水性処方物として、本発明者らは、天然バイオポリマーであるキトサンの粉末を水に溶解させ、それを5%(w/v)以上の鼻腔内送達用処方物を達成するようにMemogain塩基または水素塩と混合した(Illium L et al.(2002).Intranasal delivery of morphine.J Pharmacol Exp Therap 301:391−400)。Illium et alに記載される適用方法は、本発明の化学物質との使用にも好適である。
【0131】
キトサンを含むMemogain塩の徐放性処方物はまた、口腔舌下または頬投与において固体形態で適用される場合にも有効であることが分かり、長い放出時間と共に予想外に速い初期吸収を示した。
【0132】
本発明の好ましい塩は、先行技術に開示されたものまたは先行技術を考慮して当業者により予想され得たであろうものに比べて、予想外に驚くべきかつ有利な効果を示す好ましい実施形態である。特定の好ましい塩の溶解度は、予想外に優れており、薬学的組成物(すなわち、鼻腔内投与のための、だが同様に頬適用または舌下適用のための、特に好ましい実施形態における溶液の形態のもの)中のより高い濃度の医薬を可能にする。これは、鼻腔内投与、舌下投与または頬投与に好適な化合物について上述した要件を考慮すると非常に重要である。鼻腔の大きさは限られているため、溶液中の活性物質の必要とされる濃度は高い。これは、非常に溶け易いものであり得したがって高濃度で提供されるものであり得る塩が見出される必要があったということを意味する。これは、驚くべきことに、本明細書に記述される塩について、好ましくは酢酸(酢酸塩)、乳酸(乳酸塩)、クエン酸、サッカリン酸(サッカリン酸塩)およびグルコン酸(グルコン酸塩)について当てはまる。
【0133】
実施例2.エマルションおよび自己マイクロ乳化薬物送達系(SMEDDs)
エマルションおよびSMEDDsは、脳送達系の確立された手段である(Botner S,Sintov AC(2011)Intranasal delivery of two benzodiazepines,Midazolam and Diazepam,by a microemulsion system.Pharmacol Pharmacie 2:180−188)。本出願において、それらは、調査下のプロドラッグを窒素塩基としてもしくは水素塩として種々の有機溶媒と混合することにより、または透明な溶液が達成されるまで撹拌下および/もしくは超音波下において好適な界面活性剤、油および共界面活性剤(co−surfactant)(全て安全と認められる;GRAS)と混合することにより、作製された。特に、本発明者らは、鼻粘膜または口粘膜のあらゆる刺激を回避するようにアルコールまたは他の刺激性化学物質を処方物中で使用しないようにした。そのようなマイクロエマルションの典型的な成分は、Labrasol、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、オレイン酸グリセリル、PEG、プロピレングリコール、Transcutol、および好適な油(例えば、パルミチン酸エステル)であった。本発明者らは、およそ50%の最大水可溶化能力と共に10%(w/w)以上のオーダーの薬物溶解度を達成した(水含有量が少ないほどより高い油濃度が達成され得、かつより高い窒素塩基の溶解度が達成され得た)。プロドラッグ窒素塩基または塩の最も高い溶解度は、マイクロエマルション中20%程度の水濃度で得られた。
【0134】
自己マイクロ乳化薬物送達(SMEDD)処方物の好ましい実施形態は、好ましくはマレイン酸Memogainについての、以下のものに関する。
【0135】
使用した材料:
マレイン酸Memogain(No.022563−A−1−1,GALANTOS Pharma GmbH,Germany)
Capmul MCM(ロット:080726−7,BERENTZ−ABITECCORP.,USA)
(カプリル酸/カプリン酸グリセリル;欧州薬局方)
PEG 300/400(ロット:1349048−41108320、FLUKA,Vienna,Austria)
(ポリエチレングリコール;欧州薬局方)
プロピレングリコール(ロット:S44324−108,SIGMA,Vienna、Austria)
(プロピレングリコール;欧州薬局方)
Transcutol(ロット:18703CE,SIGMA,Vienna、Austria)
(ジエチレングリコールモノエチルエーテル;欧州薬局方)
【0136】
10%マレイン酸Memogain SMEDD処方物(1L)の調製:
第1の工程として、100gのマレイン酸Memogainを適切な鋼タンクに量り入れる。以下のものにおいて可溶化剤および脂肪油を順々に添加する。
170mlのCapmul MCM
500mlのPEG300
220mlのプロピレングリコール
110mlのTranscutol
【0137】
最後に、SMEDD処方物を、混合物が透明な溶液になるまで超音波で処理する。
【0138】
Memogain塩基および塩のエマルションおよびSMEDD処方物は、適用時の粘膜表面の局所的刺激の低減を示す。さらに、プロドラッグの苦味は種々の脂質およびPEG成分によって効果的にマスキングされ、経粘膜表面に対する無痛覚作用は明白ではなかった。
【0139】
実施例3.微粉化された粉末処方物およびプロドラッグ結晶のナノ懸濁液
経粘膜送達のための他の好適な処方物は、プロドラッグナノ結晶およびプロドラッグが吸着されているポリマー微粒子である。両方の場合において、より親油性の高いプロドラッグ塩基を使用した。ポリマーおよびプロドラッグの共沈により、パールミリングおよび水中での均質化により、または脂質複合体であるプロドラッグのナノ懸濁液として、処方物を得た。このような方法は当業者に知られており、本発明の化学物質および投与方法と共に適用され得た。
【0140】
GLN 1062またはその塩の微粉化された粉末組成物は、水溶液として適用される場合に比べて速い吸収および化合物の苦味の減少を可能にする。
【0141】
実施例4.Memogain処方物
【0142】
本発明の舌下錠および多層処方物は、驚くほど良好な吸着特性を示し、迅速な取り込みおよび風味の苦味の減少を、患者の口内における無痛覚作用の減少に加えて可能にする。化学物質の速い吸着は、飲み込みのリスクの低減を可能にし、それにより、投与が口腔粘膜を通して経粘膜により行われることを確実にし、プロドラッグの好ましくない分解を回避する。
【0143】
実施例5.キャリア物質およびEudragit(ポリ(メタ)アクリレート)との相互作用
実験1:1mlのHBSS−Puffer(pH7,4)中の少量(0,1mg)のマレイン酸Memogainを、37℃で2,5時間、種々のキャリアと共にインキュベートした。次いで、自由な(キャリア物質の粒子に結合していない)Memogainの量を、HPLCにより測定した。典型的なキャリア物質量を適用し、表5に示した。
【0144】
結果:Eudragit L100およびEudragit FS30DはMemogainを吸着する。
【0145】
実験2:一定量のEudragit(0,5mg/ml)を、生理食塩液(HBSS)中で2時間、種々の量のマレイン酸Memogainと共にインキュベートした。次いで、自由な(キャリア物質の粒子に結合していない)Memogainの量を、HPLCにより測定した。同時に、塩溶液中のEudragit量のみの溶解度を分析した。
【0146】
結果:L100は、与えられた濃度において完全に可溶であり、FS30Dは、濁った溶液を形成する。FS30Dは、全試験濃度範囲にわたってMemogainと結合する。0,25mg/mlの時点で、MemogainはL100の場合に沈殿物を形成するが、これは、6%Cycldodextrin(HPCD)の添加により再び可溶化され得る。
【0147】
実施例6.透過挙動、前全身的代謝(pre−systemic metabolism)および安定性のインビトロ調査
プロドラッグ処方物の透過挙動を、0.64cmの透過領域および両側に1mlの容積を呈するUssing型チャンバーに挿入された3〜4cmの新しく摘出されたブタ鼻粘膜または口粘膜の組織試料を用いて試験した。組織の頂端側が、ドナーコンパートメントに面していた。1mlの予め温めた(37℃)透過媒体を、ドナーおよびアクセプターチャンバーに添加した。チャンバー内の温度を、全実験の間中、37℃で維持した。15分の前インキュベーション時間後、ドナーチャンバー中の透過媒体を、調査下のプロドラッグ処方物の1%溶液に取り換えた。180分の時間にわたって、30分おきに、100μlのアリコートをアクセプターコンパートメントから取り出し、即座に100μlの新しい予め温めた透過媒体に置き換えた。収集されたアリコート中の化合物の濃度を、HPLCによって決定した。先に取り出された試料について補正を行った。見かけの透過係数(Papp)を算出した。180分後にドナーコンパートメントからコントロール試料を取り出し、調査下の処方物中の化合物の安定性を調査するために分析した。
【0148】
上記の透過実験の間に、10μlアリコートを、0分、60分、120分および180分の時点でドナーコンパートメントから取り出した。これらのアリコートを、経時的な前全身的代謝の程度を決定するために、HPLCにより分析した。
【0149】
これらの方法を用いて、プロドラッグ塩の水溶液、ならびに有機溶媒、補助溶媒および界面活性剤中のプロドラッグ塩基の溶液を、それらの溶解性、それらの透過係数、ならびにそれらの前全身的代謝および安定性について試験した。さらに調査した処方物は、少なくとも10%(m/v)の溶解度、およびPapp>1・10−6cm/sのプロドラッグの透過係数を有していた。試験した時間内に、両方のブタ粘膜調製物において、プロドラッグの著しい前全身的代謝は何ら存在しなかった。
【0150】
実施例7.薬物動態
鼻腔または頬腔における経粘膜送達後のプロドラッグおよび親薬物の薬物動態を、Wistarラットにおいて試験した。これらのデータは、調査下のプロドラッグの血液および脳への迅速な(数分のうち)取り込み、静脈内注射によりもたらされるものと同様のプロドラッグの脳内バイオアベイラビリティ、ならびに関連親薬物の錠剤としての経口送達に比べてはるかに高いBBRCを裏付けた。
【0151】
脳内のプロドラッグからの酵素による産生後の循環へのBBBを介した親薬物の再分布が本当に非常に速いので、薬物動態学的調査は、脳内の親薬物の瞬間濃度を正確に決定するのに十分ではない。したがって、本発明者らは、薬力学的調査を使用して、好適な実験条件(例えば、マウスにおいて調査されるT迷路認知パラダイムにおけるスコポラミン誘導性の一時的な健忘症の逆転)において親薬物の有効濃度を決定した。これらの調査は、親薬物の数倍高い(20倍までの)BBRC(および認知向上における関連した有効性)が、鼻腔または頬腔を介したプロドラッグ処方物の経粘膜送達によって達成され得ることを裏付けた。
【0152】
経口投与と経粘膜(経鼻)投与との間でMemogainの効力および減少したGI副作用を直接比較する実験はまた、鼻腔内投与されたMemogainが経口投与されたMemogainに比べて驚くほど有益な特性を示すことを実証する。
【0153】
薬物動態学的調査(Pharmacokinetc studies)を、マレイン酸Memogain塩の鼻腔内および舌下投与を用いて実施した。
【0154】
鼻腔内報告:
この実験計画は、種々の処方物中のマレイン酸Memogainおよび臭化水素酸ガランタミンの鼻腔内適用に続く雌wistarラットにおけるプロガランタミンであるマレイン酸Memogainおよびガランタミンの血液および脳薬物動態プロファイルについて記載する。
a.水中5%ガランタミン、1鼻腔当たり10μL、合計20μL(1mg5%含有)
b.水中10%NEP中のMemogain塩、1鼻腔当たり10μL、合計20μL(1mg含有)
c.エマルション中5%Memogain塩、1鼻腔当たり10μL、合計20μL(1mg含有)
d.エマルション中20%Memogain塩、1鼻腔当たり10μL、合計20μL(4mg含有)
e.5mg\kgの用量割合でのMemogain塩の静脈内投与(先にコントロールとして実施された)
【0155】
舌下報告:
この実験計画は、種々の処方物中のマレイン酸Memogainおよび臭化水素酸ガランタミンの舌下適用に続く雌wistarラットにおけるプロガランタミンであるマレイン酸Memogainおよびガランタミンの血液および脳薬物動態プロファイルについて記載する。
a.水中5%ガランタミン、舌下20μL(1mg含有)
b.水中10%NEP中5%Memogain塩、舌下20μL(1mg含有)
c.エマルション中5%Memogain塩、舌下20μL(1mg含有)
d.エマルション中20%Memogain塩、舌下20μL(4mg含有)
e.コントロールとしての5mg\kgの用量割合でのMemogain塩の静脈内投与
【0156】
鼻腔内調査および舌下調査の両方が、マレイン酸塩を用いて有益な薬物動態(PK)特性が得られたことを示す。本明細書に記載されるさらなる実験を検討し、そして本発明の全ての好ましい塩の粘膜を横切る良好な取り込みを示す鼻粘膜または口粘膜を用いた予備調査を考慮すると、同様の結果が、本発明の他の好ましい塩から予想され得る。PKデータは、Memogainが長時間にわたり脳内で検出され、高い脳対血液濃度比を示したことを示し、このことは、適用されたプロドラッグのほんの少しが、血流中に運ばれ、続いて分解されることを示している。経時的に、脳内のガランタミンレベルが上昇するにつれて、脳内のMemogainレベルは低下する。このことは、被験体の脳内でのプロドラッグのその活性形態への切断を示している。一例が、図12の試料bにおいて鼻腔内実験について示される。
【0157】
Memogain塩の鼻腔内投与は、プロドラッグを脳へと特異的に指向させる非常に有効な方法を提供し、その脳においてプロドラッグは処理され、それにより活性化合物であるガランタミンを放出する。
【0158】
グルコン酸Memogain:
さらなる試験を、グルコン酸Memogainについて行った。これは、ガランタミンよりもはるかに高いBBRCを有する(図6参照)。いくつかのガランタミン誘導体およびそれらの切断生成物であるガランタミンの薬物動態および脳対血液濃度比(BBRC)を、3mg/kgの用量でのSwiss albinoマウスにおける鼻腔内投与後に評価した。脳および血液からの抽出後に、薬物濃度をLC/MS/MSにより決定した。比較のために、親薬物であるガランタミンについてのBBRCも決定した。図に示されるように、調査されたプロガランタミンは全て、ガランタミンよりも大きなBBRCを示し、Gln−1062について特に大きなBBRCを示す。
【0159】
グルコン酸Memogainは、水溶解性が高く、かつ鼻への灼熱感を何ら有しておらず、何らの味も臭いも有していない。鼻腔内投薬は、単純なスプレーポンプ方法で行われ得るが、多くの他の方法もまた使用され得る。Memogainはガランタミンの薬理学的に不活性な前駆体であり、グルコン酸塩として鼻腔内投与されたので、GI副作用は何ら観察されなかった。
【0160】
実施例8.Memogainはガランタミンに比べて改善された脳透過および低い血中レベルを示す
データを図13に示す。マウスに、Memogainまたはガランタミンのいずれかを3mg/kg(i.v.)注射した。これらのデータは、ガランタミンは脳内にうまく分布しない(BBRC約1:1)のに対して、Memogainははるかに高いBBRC(8:1)を有するということを明示している。
【0161】
さらなるデータを、i.n.投与について図14に示す。ラットPK調査を、GLPのような条件下において行った5mg/kgの鼻腔内(i.n.)Memogain投薬により実施した。これらのデータは、Memogainがはるかに高いBBRC(10:1)を有することを実証している。
【0162】
実施例9.鼻腔内Memogainはガランタミンよりも強力である
鼻腔内Memogainがガランタミンよりもインビボで有効な認知増強剤であるか否かを試験するために、次の認知パラダイムを適用した。マウスをスコポラミンで処置して急性健忘症を誘導し、次いで、経口ガランタミンまたは鼻腔内Memogainの不在下または存在下において、T迷路における行動について試験した(図7)。明らかに、Memogainは、急性的に誘導された健忘症を逆転させることにおいてガランタミンよりも有効であった。マウスを、見当識障害/健忘症を誘導するためにT迷路アッセイにおいてスコポラミン(i.p.)で攻撃した(0%行動回復に設定した)。ガランタミン(i.p.)またはMemogain(登録商標)(i.n.)の共適用(co−application)は、用量依存的な様式でT迷路における見当識を救済する。
【0163】
実施例10.Memogainの初回通過効果
Gln−1062の初回通過効果を、Wistarラットにおいて3mg/kgの静脈内および門脈内投薬後に評価した(図8)。Gln−1062は、それがi.v.で投与されたかi.n.で投与されたかに関わらず、急速に低下する血液濃度レベルにより、初回通過効果を受けることが観察された。それに対して、酵素切断によりGln−1062から遊離されるガランタミンの濃度レベルは、同様に急速には低下しなかった。さらに、門脈内投与に比べてGln−1062のより高い最大濃度レベルが、i.v投与に続いて脳および血液中において観察された。これらのデータから、初回通過効果は35〜45%の間であると推定された。
【0164】
Gln−1062が同じ用量で鼻腔内投与された場合は、i.v.投与後と同様に高い最大濃度レベルが脳内で観察された。このことは、脳内への取り込みがi.v.投与後と同程度に効率的であり、初回通過効果による減損をほとんど伴わないことを示している。
【0165】
実施例11.Memogainの鼻腔内投与は少量の血漿中遊離ガランタミンに繋がる
この調査はイヌにおいて行われた。4mg/kgの鼻腔内Memogainの単回用量を投与し、Memogainおよび遊離ガランタミンの血漿レベルを投与後の時間の関数として決定した。Memogainは優先的に脳に分配されるので、ほんの少しのプロドラッグしか血液中に現れない。ガランタミンは迅速に代謝され排泄されるので、Memogainから遊離されたガランタミンのレベルははるかに低い(図9)。これは、i.n.投与後の血液中に存在する全身性ガランタミンが少量であることを考慮すると、副作用の可能性のかなりの減少に繋がる。
【0166】
イヌの実験からのデータは、次のことを示す:
− Memogainの脳:血液比(投与後120分の時点)=9
− ガランタミンの脳:血液比(投与後120分の時点)=1〜1.5
− 血中Memogain t=90分(意識のある動物)
− ガランタミン t=6時間(意識のある動物)
− ガランタミンの低血中レベルは、より少ない副作用を示す
− Memogainの高い脳濃度は、主として脳内におけるMemogainからのガランタミンの放出を示す。
【0167】
実施例12.Memogainはガランタミンよりも少ない胃腸副作用を生じる
これらの調査は、フェレットにおいて行われ、これらのフェレットには、20mg/kgのガランタミン(最大耐量)またはそれぞれ20、40および80mg/kgのMemogainのいずれかが、i.p.投薬された。20mg/kgのMemogainにおいて、有害作用は何ら観察されなかった。有害作用の用量依存性から、この動物モデルにおいては少なくとも4倍低い毒性が、ガランタミンに比べてMemogainについて観察された(図10)。
【0168】
同様に、ガランタミンの場合に観察されるよりもはるかに低い有害作用が、共にラットにおいて行われたIrwinアッセイ、呼吸毒性調査、およびイヌにおける心血管毒性調査において見られた。
【0169】
実施例13.Memogainはガランタミンよりも少なくとも10倍安全である
この調査はイヌにおいて行われ、両方の薬物が静脈内ボーラスとして投与された。Memogainのより低い毒性は、プロドラッグの酵素切断の結果として生じるガランタミンのはるかに低い定常状態血漿レベルのためである(図11)。
【0170】
ガランタミンプロドラッグならびに鼻腔および頬腔への経粘膜送達のためのそれらの処方物の医学的利益
重要な利益は次の通りである:
1.標的器官におけるより高いバイオアベイラビリティおよびより高い有効性
2.より低いレベルの抹消性副作用
3.薬物動態が医学的必要性に調整され得る(持続送達)
4.GI有害作用により投薬が制限されない
5.より速くかつより強力な医学的利益の開始
6.(コンプライアンスを高めるための)用量の上方滴定が必要とされない
7.有効用量の即時投与
8.改善された患者のコンプライアンス
【0171】
脳内におけるより高いバイオアベイラビリティおよび認知増強剤としてのより高い有効性が、認知障害の動物モデルにおける好適な認知パラダイムを用いた薬力学的調査により実証された。Memogainまたはガランタミンの同一用量の経口投与に比べて飛躍的に低下した胃腸有害作用(すなわち、悪心および嘔吐)の発生率が、Memogainの鼻腔内送達について示された。プロガランタミンであるMemogainの鼻腔内送達については、親油性プロドラッグのより良好な脳透過および薬物送達の間の胃腸管の回避の合わせた結果として、非常に高い用量でさえも、GI関連副作用は実質的に消失した。
【0172】
要約すると、Memogainおよびガランタミンの経口投与は投与後のMemogainの(ガランタミンへの)迅速な切断のため、匹敵するBBB透過をもたらす。Memogain塩は、同じ濃度で経口投与された場合、顕著な向上した効果を何らもたらさない。
【0173】
ガランタミンと比較したMemogainの静脈内投与(i.v.)は、Memogainについて、そのより疎水性の性質のため、非常に改善したBBB透過を示す。ガランタミンのi.v.投与は、ガランタミンの経口送達に比べて(たとえあるとしても)非常に小さな利点しか提供しない。というのは、活性化合物それ自体はMemogainと比べた場合に比較的安定であり、エステラーゼ切断に感受性ではないからである。
【0174】
経粘膜投与(鼻腔内;i.n.)は、Memogain、特にMemogainの塩に関して、予想外の向上した効果を示す。Memogainの塩のi.n.投与は、さらに改善されたBBB透過を示す。
【0175】
ガランタミンの脳透過は、ガランタミンのi.n.投与によっては向上しない。というのは、分子の親水性の性質が、投与経路に関わらず、有効な透過を妨げるからである。ガランタミンのi.n.投与は、消化管を通る投与を回避することにより、ガランタミンの一部の一般的な副作用(Leonard et al(2007))を回避し得る。しかしながら、分子の認知増強剤としての有効性は、残りの乏しいBBRCのために向上しない。

図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14