特許第6799850号(P6799850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799850
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】光学シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20201207BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20201207BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20201207BHJP
   G02B 1/115 20150101ALN20201207BHJP
【FI】
   B32B15/08 P
   B32B7/023
   G02B1/14
   !G02B1/115
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-222419(P2016-222419)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2018-79599(P2018-79599A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 健
(72)【発明者】
【氏名】塩野 涼介
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−166104(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/118383(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/097483(WO,A1)
【文献】 特開2003−043937(JP,A)
【文献】 特表2005−524113(JP,A)
【文献】 特開2003−139907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02B 1/10−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の芯層と、前記芯層の少なくとも片面に積層されるハードコート層とを有する基材と、
クロム系金属からなる、前記ハードコート層に積層される、厚みが0.3nm〜1.4nmの密着層と、
前記密着層に積層される光調整層と、
フッ素系材料を含み、前記光調整層に積層される保護層とを備える光学シート。
【請求項2】
前記光調整層は、高屈折率層と低屈折率層との積層物からなる請求項1に記載の光学シート。
【請求項3】
前記高屈折率層は、第1高屈折率層と、第2高屈折率層とを有し、
前記低屈折率層は、第1低屈折率層と、第2低屈折率層とを有し、
前記基材側から順に、前記第1高屈折率層、前記第1低屈折率層、前記第2高屈折率層及び前記第2低屈折率層が積層される請求項2に記載の光学シート。
【請求項4】
前記密着層は、NiCr、又はSUSからなる請求項1〜3の何れか一項に記載の光学シート。
【請求項5】
視感反射率(%)が1%未満である請求項1〜4の何れか一項に記載の光学シート。
【請求項6】
全光線透過率(%)が85%以上である請求項1〜5の何れか一項に記載の光学シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学シートに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の表示面に光学シートを貼り付けることで、周囲の映り込みの低減や、コントラストの改善等が行われている。この種の光学シートは、例えば、特許文献1に示されるように、透明な樹脂製の基材と、その基材上で支持される反射防止層とを備えたものからなる。反射防止層は、金属酸化物等からなる高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されたものからなり、入射した光を互いに干渉させて打ち消す光調整機能を備えている。このような反射防止層は、前記基材に対して、酸化ケイ素(SiO)等からなる密着層を介して積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−139907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用の表示装置(例えば、インストルメントパネル)等に利用される光学シートには、アルカリに対する耐久性(耐アルカリ性)が要求される。しかしながら、従来の光学シートは、アルカリ溶液と接触すると、反射防止層が基材から剥離してしまい、問題となっていた。
【0005】
本発明の目的は、耐アルカリ性に優れた光学シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、所定の厚みを有するクロム系金属からなる密着層で、基材と光調整層とを密着させ、かつ光調整層にフッ素系材料を含む保護層を形成すると、光学シートの耐アルカリ性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 樹脂製の芯層と、前記芯層の少なくとも片面に積層されるハードコート層とを有する基材と、クロム系金属からなる、前記ハードコート層に積層される、厚みが0.3nm〜1.4nmの密着層と、前記密着層に積層される光調整層と、フッ素系材料を含み、前記光調整層に積層される保護層とを備える光学シート。
【0008】
<2> 前記光調整層は、高屈折率層と低屈折率層との積層物からなる前記<1>に記載の光学シート。
【0009】
<3> 前記高屈折率層は、第1高屈折率層と、第2高屈折率層とを有し、前記基材側から順に、前記第1高屈折率層、前記第1低屈折率層、前記第2高屈折率層及び前記第2低屈折率層が積層される前記<2>に記載の光学シート。
【0010】
<4> 前記密着層は、NiCr、又はSUSからなる前記<1>〜<3>の何れか1つに記載の光学シート。
【0011】
<5> 視感反射率(%)が1%未満である前記<1>〜<4>の何れか1つに記載の光学シート。
【0012】
<6> 全光線透過率(%)が85%以上である前記<1>〜<5>の何れか1つに記載の光学シート。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、耐アルカリ性に優れた光学シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る光学シートの構成を模式的に表した断面図
図2】他の実施形態に係る光学シートの構成を模式的に表した断面図
図3】他の実施形態に係る光学シートの構成を模式的に表した断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る光学シートについて、図面を参照しつつ説明する。図1は、一実施形態に係る光学シート1の構成を模式的に表した断面図である。光学シート1は、図1に示されるように、基材2、密着層3、光調整層4、及び保護層5を備えている。
【0016】
(基材)
基材2は、光透過性を有し、光調整層4等を支持する部材であり、樹脂製の芯層21と、芯層21の少なくとも片面に積層されるハードコート層22とを備える。芯層21は、光透過性に優れ、光調整層4等の他の層を支持可能であり、適度な可撓性を備えたものであれば特に制限はない。基材2の芯層21を構成する具体的な樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)、シクロオレフィン樹脂(COP)、ポリカーボネート樹脂とポリメタクリル酸メチルの積層品(PC/PMMA)等が挙げられる。これらのうち、芯層21を構成する樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0017】
芯層21の厚みは、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、25μm〜5mmが好ましい。なお、芯層21を成膜手法により、バッチ式で成膜する場合はシート形状が好ましく、その厚みは0.5μm〜2mmがより好ましい。また、芯層21をロールトゥロール式で成膜する場合は、ロールフィルム形状が好ましく、その厚みは50μm〜125μmが好ましい。
【0018】
ハードコート層22は、基材2と密着層3との間の密着性の確保等を目的として、芯層21の少なくとも片面に形成される。ハードコート層22としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、紫外線硬化型アクリル樹脂等の公知の透明な樹脂が利用される。なお、ハードコート層22を芯層21上に形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、ハードコート層22用の塗布液を、芯層21上に公知の塗布方法で塗布し、適宜、塗布液を硬化(光硬化、熱硬化等)する方法等が挙げられる。前記公知の塗布方法としては、例えば、カーテンフローコート法、ディップ法、バーコート法、ドクターブレード法、リバースロールコート法、グラビアロールコート法等が挙げられる。
【0019】
本実施形態では、ハードコート層22は、芯層21の片面のみに形成されていたが、他の実施形態においては、芯層21の両面にハードコート層22が形成されてもよい。
【0020】
ハードコート層22の厚みは、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm〜10μmが好ましく、1μm〜5μmがより好ましい。
【0021】
なお、光調整層4等が形成されない側の基材2の表面には、粘着剤層等の他の層が形成されてもよい。
【0022】
(密着層)
密着層3は、クロム系金属の膜からなり、基材2と光調整層4とを密着させる機能等を備えている。密着層3は、基材2のハードコート層22に積層する形で設けられる。クロム系金属は、クロム(Cr)の含有量が20質量%以上の金属又は合金からなる。クロム系金属としては、例えば、クロム(Cr)、NiCr、SUS(Crの含有量が20質量%以上のステンレス鋼)等が挙げられる。なお、クロム系金属のうち、成膜性、耐アルカリ性、密着性等の観点より、NiCr、SUSが好ましく、特にNiCrが好ましい。
【0023】
密着層(クロム系金属)3の厚みは、0.3nm〜1.4nmである。密着層3の厚みがこのような範囲であると、光学シート1の耐アルカリ性、密着性等に優れるとともに、光学シート1の光透過性等が確保される。
【0024】
(光調整層)
光調整層4は、光学シート1に入射した光に対して、光学的に作用する機能(例えば、反射防止、透過光の選択等)を備えたものからなる。光学調整層4は、密着層3を介して基材2に支持される。光調整層4の一例としては、例えば、図1に示されるような、反射防止機能を備えたものが挙げられる。図1に示される光調整層4は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されたものからなる。その場合、最も基材2(密着層3)側に配される層は、高屈折率層であり、最も外側(保護層5側)に配される層は、低屈折率層となる。高屈折率層及び低屈折率層は、反射防止機能を確保し易い等の観点より、4層以上に積層されることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、高屈折率層は、波長500〜550nmにおける光の屈折率が1.9以上の層であり、低屈折率層は、波長500〜550nmにおける光の屈折率が1.5以下の層である。
【0026】
高屈折率層を構成する材料としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、Nb、ZrO、TiO、SiO、ZnO、In、Ta等の金属酸化物が挙げられる。また、これらの例示された材料(金属酸化物)に対して、異なる元素をドーピングしたものも、高屈折率層の材料として用いることができる。高屈折率層の厚みは、特に制限はないが、例えば、30nm〜300nmが好ましい。
【0027】
低屈折率層を構成する材料としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、SiO(1<x≦2)、MgF、NaAl14(チオライト)、NaAlF(クリオライト)等が挙げられる。なお、低屈折率層については、ウェットコーティングによって形成可能であるため、上述したSiO等の材料を含むウェットコーティング材から低屈折率層が形成されてもよい。低屈折率層の厚みは、特に制限はないが、例えば、15nm〜120nmが好ましい。
【0028】
ここで、図1に示されるように、基材2側から順に、高屈折率層41、低屈折率層42、高屈折率層43、及び低屈折率層44が積層された光調整層4について説明する。なお、基材2に近い方の高屈折率層41を第1高屈折率層41と称し、外側に配される高屈折率層43を第2高屈折率層43と称する。また、基材2に近い方の低屈折率層42を第1低屈折率層42と称し、外側に配される低屈折率層44を第2低屈折率層44と称する。
【0029】
図1に示される4層構造の光調整層4は、反射防止層として機能するものであり、基材2側から順に、第1高屈折率層41、第1低屈折率層42、第2高屈折率層43、及び第2低屈折率層44が積層されたものからなる。
【0030】
第1高屈折率層41の厚みは、10nm〜50nmが好ましく、第1低屈折率層42の厚みは、15nm〜45nmが好ましく、第2高屈折率層43の厚みは、30nm〜130nmが好ましく、第2低屈折率層44の厚みは、70nm〜120nmが好ましい。光調整層4を構成する各層の厚みがこのような範囲であると、反射防止機能等が確保される。
【0031】
(成膜方法)
密着層3、光調整層4(高屈折率層、低屈折率層)を、基材2上に成膜する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。成膜方法としては、例えば、真空蒸着法(電子線ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法)、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法、イオンアシスト法、レーザーアブレーション法等の物理的気相成長(PVD)法、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法等の化学的気相成長(CVD)法等が挙げられる。これらの中でも、物理的気相成長(PVD)法が好ましく、基材2に対して確実に積層し易い等の理由により、スパッタリング法が特に好ましい。
【0032】
また、スパッタリング法としては、成膜速度の観点より、金属を成膜する場合は、DC電源を用いたマグネトロンスパッタリング法が好ましく、導電性の金属酸化物を成膜する場合は、DCpulse電源を用いた反応性スパッタリング法が好ましく、絶縁性の高いSiOを成膜する場合は、MF電源を用いたデュアルマグネトロンカソードによる反応性スパッタリング法が好ましい。なお、スパッタリング法により多層成膜する場合、1つのチャンバで複数のターゲットから交互又は順番に成膜する1チャンバ法であってもよいし、複数のチャンバで連続的に成膜するマルチチャンバ法であってもよいが、生産性及び材料コンタミネーションを防止する等の観点より、マルチチャンバ法が好ましい。
【0033】
なお、上述したように、光調整層4を構成する低屈折率層については、上記成膜方法に加え、ウェットコーティングにより形成することが可能である。特に、光調整層4の最表面に位置する低屈折率層(例えば、第2低屈折率層44)については、ウェットコーティングによって形成してもよい。
【0034】
(保護層)
保護層5は、フッ素系材料を含み、光調整層4の外側(つまり、基材2の反対側)に積層されるものである。保護層5は、上述した密着層3と共に使用されることで、光学シート1に対して、優れた耐アルカリ性を付与することができる。また、保護層5は、光学シート1の使用時や製造過程において、ユーザや作業者等が、光学シート1に触れた際に、光学シート1の表面に油分等の汚れが付着するのを防止する機能も備えている。保護層5としては、例えば、フッ素コーティング剤からなる膜が利用される。フッ素コーティング剤を塗布する方法としては、公知の塗布方法が利用される。
【0035】
保護層5の厚みとしては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、5nm〜20nmが好ましい。
【0036】
(その他の層)
光学シート1は、本発明の目的を損なわない限り、粘着剤層、バリア層、中間層等の他の層を備えてもよい。
【0037】
(光学シートの総厚み)
光学シートの総厚みは、25μm〜5mmであってもよい。
【0038】
(他の光学シート)
図2は、他の実施形態に係る光学シート1Aの構成を模式的に表した断面図である。図2の光学シート1Aは、光調整層4A以外の基本的な構成は、上記実施形態と同様である。光学シート1Aの光調整層4Aは、上記実施形態の光調整層4とは異なり、基材2側から順に、低屈折率層44A、高屈折率層43A、低屈折率層42A、及び高屈折率層41Aが積層されたものからなる。そのため、光学シート1Aの密着層3は、基材2のハードコート層22と、光調整層4Aの低屈折率層44Aとの間に介在される。また、光学シート1Aの保護層5は、光調整層4Aの高屈折率層41Aに積層される。このような構成の光調整層4Aは、特定の光を反射させる等の機能を備えている。本発明は、このような光調整層4Aを有する光学シート1Aであってもよい。
【0039】
(効果・用途等)
本発明の光学シートは、所定の厚みを有するクロム系金属からなる密着層を備えることで、基材と光調整層との間の密着性に優れる。また、本発明の光学シートは、前記密着層と保護層とを備えることで、耐アルカリ性に優れる。光学シートの耐アルカリ性の評価方法は、後述する。本発明の光学シートは、アルカリ溶液と接触しても、アルカリ溶液に対する耐久性に優れるため、反射特性の劣化が抑制される。そのため、光学シートを構成する各層が剥離せず、しかも光学的な性能(視感反射率、全光線透過率等)が確保される。なお、本発明の光学シートは、アルカリ溶液以外の耐溶剤性にも優れている。
【0040】
本発明の光学シートのうち、光調整層が反射防止層として機能する光学シートの視感反射率(%)は、1%未満(好ましくは、0.5%以下、より好ましくは0.4%以下)であり、反射防止性に優れる。なお、視感反射率(%)の測定方法は後述する。
【0041】
また、本発明の光学シートは、全光線透過率(%)が85%以上であり、光透過性(特に、可視光透過性)に優れる。なお、全光線透過率(%)の測定方法は後述する。
【0042】
本発明の光学シートは、例えば、自動車等の乗り物のディスプレイ、インストルメントパネル、メーターパネル、カーナビゲーションシステム等の表示面や、スマートフォン、タブレット端末等の携帯型機器の表示面等に貼り付けて、反射防止やそれ以外の目的で用いることができる。また、本発明の光学シートは、その他の表示装置の表示面や、光透過性を有する部材(例えば、窓ガラス等のガラス製品)に貼り付けて使用することができる。
【0043】
(他の光学シート1B)
図3は、他の実施形態に係る光学シート1Bの構成を模式的に表した断面図である。図3の光学シート1Bは、上記実施形態と同じ基材2、及び密着層3を備えている。光学シート1Bの光調整層4Bは、上記実施形態と同様、高屈折率層41B,43Bと低屈折率層42B,44Bとが交互に積層されてなる反射防止機能を備えたものからなる。ただし、光調整層4Bを構成する4層のうち、最も外側に配される低屈折率層44B中には、非相溶性のフッ素系材料が添加されている。つまり、光調整層4Bを構成する層のうち、最も外側に配される層の中に、フッ素系材料を配合することで、最も外側に配される層(低屈折率層44B)が、上述したような保護層5(図1等参照)としても機能する。そのため、光学シート1Bでは、光調整層4B上に、保護層5(図1等参照)を設ける必要がなくなる。このような構成の光学シート1Bであっても、本発明の技術的効果(耐アルカリ性等)が得られる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
なお、以下に示される実施例、及び比較例におけるスパッタリングによる成膜では、ロール・トウ・ロール方式のマグネトロンスパッタリング装置を用いた。また、スパッタリング装置の各チャンバー内に供給されるガス(例えば、アルゴンガス、窒素ガス)の流量は、所定のマスフローコントローラを用いて、適宜、調節した。
【0046】
〔実施例1〕
基材として、PETからなる芯層(厚み:50μm)の両面にハードコート層(紫外線硬化型アクリル樹脂、厚み:2μm)が形成されているHC付きPET(総厚み:52μm)を用意した。そのHC付きPETの片面上に、スパッタリングにより、NiCrの膜からなる密着層を形成した。次いで、密着層上に、スパッタリングにより、酸化ニオブ(V)(Nb)の膜からなる第1高屈折率層を形成した。続いて、第1高屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ケイ素(SiO、1<x≦2)の膜からなる第1低屈折率層を形成した。そして更に、第1低屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ニオブ(V)(Nb)の膜からなる第2高屈折率層を形成した。そして更に、第2高屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ケイ素(SiO、1<x≦2)の膜からなる第2低屈折率層を形成した。このようにして、基材(HC付きPET)上に、スパッタリングにより、密着層、第1高屈折率層、第1低屈折率層、第2高屈折率層及び第2低屈折率層を形成した。実施例1におけるスパッタリングの成膜条件は、以下の通りである。
【0047】
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Ni−20Crターゲット(住友金属鉱山社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.2W/cm
<成膜条件:第1高屈折率層>
ターゲット:導電性Nbターゲット(三菱マテリアル社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:2.5W/cm
<成膜条件:第1低屈折率層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
<成膜条件:第2高屈折率層>
ターゲット:導電性Nbターゲット(三菱マテリアル社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:2.5W/cm
<成膜条件:第2低屈折率層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
【0048】
続いて、第2低屈折率層上に、フッ素コーティング剤(製品名「デュラサーフ DS−2504P」(ハーベス社製)を塗布して、フッ素系材料を含む保護層を形成した。
【0049】
このようにして、基材(HC付きPET)上に、各層を形成して実施例1の光学シートを作製した。この光学シートを構成する密着層の厚みは0.4nmであり、第1高屈折率層の厚みは15nmであり、第1低屈折率層の厚みは30nmであり、第2高屈折率層の厚みは110nmであり、第2低屈折率層の厚みは90nmであり、保護層の厚みは5nmであった。各層の厚みは、蛍光X線分析(リガク社製、ZSX−100e)等によって測定した。なお、以降の実施例、比較例についても同様にして、各層の厚みを測定した。
【0050】
〔実施例2〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.6nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光学シートを作製した。
【0051】
〔実施例3〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを1.3nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光学シートを作製した。
【0052】
〔実施例4〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるSUS(Cr含有率:24〜26質量%)からなる膜(厚み0.6nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:SUS310Sターゲット(YAKIN川崎社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.2W/cm
【0053】
〔比較例1〕
密着層を形成せずに、基材上に第1高屈折率層等を形成したこと、及び保護層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の光学シートを作製した。
【0054】
〔比較例2〕
保護層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の光学シートを作製した。
【0055】
〔比較例3〕
密着層を形成せずに、基材上に第1高屈折率層等を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の光学シートを作製した。
【0056】
〔比較例4〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.1nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の光学シートを作製した。
【0057】
〔比較例5〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.2nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の光学シートを作製した。
【0058】
〔比較例6〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを1.5nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の光学シートを作製した。
【0059】
〔比較例7〕
チャンバー内に酸素ガスを供給し、かつ成膜条件を適宜、調節して、密着層として、酸素が導入されたNiCr(NiCr+O)の膜(厚み8.3nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の光学シートを作製した。
【0060】
〔比較例8〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成される酸化ケイ素(SiO、1<X≦2)からなる膜(厚み10.0nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
【0061】
〔比較例9〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるジルコニウム(Zr)からなる膜(厚み1.5nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例9の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Zrターゲット(ニラコ社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.5W/cm
【0062】
〔比較例10〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるアルミニウム(Al)からなる膜(厚み0.7nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例10の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Al(A5052)ターゲット(青山特殊鋼社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.4W/cm
【0063】
〔比較例11〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成される銀銅合金(AgCu)からなる膜(厚み2.6nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例11の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:AgCu(Cu:11質量%)ターゲット(住友金属鉱山社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.1W/cm
【0064】
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、以下に示される評価1〜4を行った。
【0065】
〔評価1:密着性〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、碁盤目試験(クロスカット試験)を行って密着性を評価した。試験方法は、以下の通りである。
【0066】
(煮沸前の場合)
各光学シートを、保護層側(保護層を備えていない比較例1,2は、第2低屈折率層側)から、カッターナイフを用いて100マス(1マス:1mm×1mm)の碁盤目状に切り込んだ。次いで、その切り込まれた膜を覆うように粘着テープを貼り付けた。その際、粘着テープが膜に密着するように、粘着テープを消しゴムで擦って膜に貼り付けた。その後、粘着テープを貼り付けた状態で1〜2分間放置してから、粘着テープの端を持って膜面に対して直角に保った状態から、瞬間的に粘着テープを膜から引き剥がした。密着性(碁盤目試験)の評価基準は、以下の通りである。結果は、表1に示した。
【0067】
<評価基準>
100マス中、100マスすべてが剥離しなかった場合
・・・密着性良好「〇」
100マス中、1つ以上のマスが剥離した場合
・・・密着性不十分「×」
【0068】
(1時間煮沸後の場合)
各光学シートを、1時間煮沸し、その後の各光学シートについて、上述した煮沸前の場合と同様に、碁盤目試験を行った。結果は、表1に示した。なお、上述した煮沸前の場合において、既に密着性不十分と評価されたものについては、1時間煮沸後の碁盤目試験は行わなかった。試験を行わなかった場合を、表1では、「−」と表記した。
【0069】
〔評価2:視感反射率〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、後述する耐アルカリ性の評価を行う前に、視感反射率(%)を測定した。測定方法は、JIST7330に準拠し測定装置(UH4250、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行った。視感反射率(%)は、光学シートの保護層側から測定した。なお、裏面反射の影響を除くために、光学シートは、裏面が黒塗りされた状態で測定された。結果は、表1に示した。
【0070】
〔評価3:全光線透過率〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、後述する耐アルカリ性の評価を行う前に、JIS K7375に準拠して全光線透過率(%)を測定した。結果は、表1に示した。
【0071】
〔評価4:耐アルカリ性〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、以下に示されるように、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の剥離の有無、及び浸漬後の視感反射率(%)の結果より、耐アルカリ性を評価した。
【0072】
(浸漬)
光学シートを、水酸化ナトリウム水溶液(濃度:0.4質量%)に、23±2℃の環境下で、6時間浸漬した。その後、光学シートを水洗して、光学シートの高屈折率層(Nb)の総厚み(第1高屈折率層の厚み+第2高屈折率層の厚み)、低屈折率層(SiO)の総厚み(第1低屈折率層の厚み+第2低屈折率層の厚み)、及び密着層の厚みを測定して、光学シートを構成する各層の剥離の有無を確認した。剥離がなかった場合、表1において、「なし」と表記し、剥離があった場合、「有」と表記した。なお、浸漬前及び浸漬後における光学シートの高屈折率層(Nb)の総厚み、光学シートの低屈折率層(SiO)の総厚み、及び密着層の厚みは、表2に示した。
【0073】
(視感反射率)
上記のように水酸化ナトリウム水溶液に6時間浸漬した後の光学シートについて、剥離がなかった場合のみ、視感反射率(%)を測定した。視感反射率の測定方法は、耐アルカリ性の評価を行う前に行ったものと同様である。結果は、表1に示した。
【0074】
(耐アルカリ性の有無の判定)
上記のように6時間浸漬した後に、剥離がなく、しかも視感反射率が1%以下の場合、「耐アルカリ性に優れる」と判定した。表1では、「耐アルカリ性に優れる」を「〇」と表記した。また、6時間浸漬した後に、剥離がないものの、視感反射率が1%を超える場合、耐アルカリ性なし」と判定した。表1では、この場合の「耐アルカリ性なし」を「△」と表記した。また、6時間浸漬した後に、剥離が発生した場合、「耐アルカリ性なし」と判定した。表1では、この場合の「耐アルカリ性なし」を「×」と表記した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1に示されるように、実施例1〜4の光学シートは、耐アルカリ性に優れることが確かめられた。実施例1〜4の光学シートは、所定の厚みの密着層を備えることで、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した際に、基材(HC付きPET)が膨潤して多少、変形しても、密着層の作用により、基材と密着層との界面での剥離、及び密着層と第1高屈折率層との間で剥離が抑えられているものと推測される。また、実施例1〜4の光学シートは、フッ素系材料を含む保護層(フッ素コート)を備えることで、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した際に、第2低屈折率層等が水溶液中に溶出すること等が抑制され、視感反射率の低下が抑制されているものと推測される。
【0078】
比較例1は、密着層及び保護層を備えていない光シートであり、比較例2は、保護層を備えていない光学シートであり、比較例3は、密着層を備えていない光学シートである。これらの光学シートのように、密着層及び/又は保護層を備えていないと、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。なお、保護層を備えていない比較例2の光学シートでは、SiOからなる第2低屈折率層が水酸化ナトリウム溶液に溶出することで、視感反射率が高くなったものと推測される。また、密着層を備えていない比較例3では、第1高屈折率層と基材との間で剥離が生じたものと推測される。密着層及び保護層を備えていない比較例1では、第2低屈折率層の溶出、及び第1高屈折率層と基材との間での剥離が生じたものと推測される。
【0079】
比較例4,5は、密着層の厚みが、実施例よりも小さい場合である。このように、密着層の厚みが小さいと、そもそも密着性が得られないことが確かめられた。
【0080】
比較例6は、密着層の厚みが、実施例よりも大きい場合である。このように、密着層の厚みが大きいと、全光線透過率(%)が85%を下回り、光透過性が劣ることが確かめられた。
【0081】
比較例7は、密着層として、NiCrに酸素を導入したものを用いた場合である。比較例7では、密着性がなく、しかも耐アルカリ性がない結果となった。
【0082】
比較例8は、密着層として、SiOを用いたものである。比較例8では、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。
【0083】
比較例9は、密着層として、Zrを用いたものである。比較例9では、耐アルカリ性が得られず、そもそも密着性にも劣ることが確かめられた。
【0084】
比較例10は、密着層として、Alを用いたものである。比較例10では、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。また、全光線透過率も85%を下回り、光透過性が劣ることが確かめられた。
【0085】
比較例11は、密着層として、AgCuを用いたものである。比較例11では、耐アルカリ性が得られず、しかも、視感反射率が1%を超え、全光線透過率も85%を下回る結果となった。
【符号の説明】
【0086】
1…光学シート、2…基材、21…芯層、22…ハードコート層、3…密着層、4…光調整層、41…高屈折率層(第1高屈折率層)、42…低屈折率層(第1低屈折率層)、43…高屈折率層(第2高屈折率層)、44…低屈折率層(第2低屈折率層)、5…保護層
図1
図2
図3