【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
なお、以下に示される実施例、及び比較例におけるスパッタリングによる成膜では、ロール・トウ・ロール方式のマグネトロンスパッタリング装置を用いた。また、スパッタリング装置の各チャンバー内に供給されるガス(例えば、アルゴンガス、窒素ガス)の流量は、所定のマスフローコントローラを用いて、適宜、調節した。
【0046】
〔実施例1〕
基材として、PETからなる芯層(厚み:50μm)の両面にハードコート層(紫外線硬化型アクリル樹脂、厚み:2μm)が形成されているHC付きPET(総厚み:52μm)を用意した。そのHC付きPETの片面上に、スパッタリングにより、NiCrの膜からなる密着層を形成した。次いで、密着層上に、スパッタリングにより、酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)の膜からなる第1高屈折率層を形成した。続いて、第1高屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ケイ素(SiO
x、1<x≦2)の膜からなる第1低屈折率層を形成した。そして更に、第1低屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ニオブ(V)(Nb
2O
5)の膜からなる第2高屈折率層を形成した。そして更に、第2高屈折率層上に、スパッタリングにより、酸化ケイ素(SiO
x、1<x≦2)の膜からなる第2低屈折率層を形成した。このようにして、基材(HC付きPET)上に、スパッタリングにより、密着層、第1高屈折率層、第1低屈折率層、第2高屈折率層及び第2低屈折率層を形成した。実施例1におけるスパッタリングの成膜条件は、以下の通りである。
【0047】
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Ni−20Crターゲット(住友金属鉱山社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.2W/cm
2
<成膜条件:第1高屈折率層>
ターゲット:導電性Nb
2O
5ターゲット(三菱マテリアル社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:2.5W/cm
2
<成膜条件:第1低屈折率層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
2
<成膜条件:第2高屈折率層>
ターゲット:導電性Nb
2O
5ターゲット(三菱マテリアル社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:2.5W/cm
2
<成膜条件:第2低屈折率層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
2
【0048】
続いて、第2低屈折率層上に、フッ素コーティング剤(製品名「デュラサーフ DS−2504P」(ハーベス社製)を塗布して、フッ素系材料を含む保護層を形成した。
【0049】
このようにして、基材(HC付きPET)上に、各層を形成して実施例1の光学シートを作製した。この光学シートを構成する密着層の厚みは0.4nmであり、第1高屈折率層の厚みは15nmであり、第1低屈折率層の厚みは30nmであり、第2高屈折率層の厚みは110nmであり、第2低屈折率層の厚みは90nmであり、保護層の厚みは5nmであった。各層の厚みは、蛍光X線分析(リガク社製、ZSX−100e)等によって測定した。なお、以降の実施例、比較例についても同様にして、各層の厚みを測定した。
【0050】
〔実施例2〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.6nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の光学シートを作製した。
【0051】
〔実施例3〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを1.3nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の光学シートを作製した。
【0052】
〔実施例4〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるSUS(Cr含有率:24〜26質量%)からなる膜(厚み0.6nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:SUS310Sターゲット(YAKIN川崎社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.2W/cm
2
【0053】
〔比較例1〕
密着層を形成せずに、基材上に第1高屈折率層等を形成したこと、及び保護層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の光学シートを作製した。
【0054】
〔比較例2〕
保護層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の光学シートを作製した。
【0055】
〔比較例3〕
密着層を形成せずに、基材上に第1高屈折率層等を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の光学シートを作製した。
【0056】
〔比較例4〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.1nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の光学シートを作製した。
【0057】
〔比較例5〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを0.2nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の光学シートを作製した。
【0058】
〔比較例6〕
成膜条件を適宜、調節して、密着層の厚みを1.5nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の光学シートを作製した。
【0059】
〔比較例7〕
チャンバー内に酸素ガスを供給し、かつ成膜条件を適宜、調節して、密着層として、酸素が導入されたNiCr(NiCr+O
2)の膜(厚み8.3nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の光学シートを作製した。
【0060】
〔比較例8〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成される酸化ケイ素(SiO
x、1<X≦2)からなる膜(厚み10.0nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例8の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Siターゲット(アルバック社製)、成膜圧力:0.3Pa、DCパワー:1.9W/cm
2
【0061】
〔比較例9〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるジルコニウム(Zr)からなる膜(厚み1.5nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例9の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Zrターゲット(ニラコ社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.5W/cm
2
【0062】
〔比較例10〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成されるアルミニウム(Al)からなる膜(厚み0.7nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例10の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:Al(A5052)ターゲット(青山特殊鋼社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.4W/cm
2
【0063】
〔比較例11〕
密着層として、以下に示される成膜条件に基づいて形成される銀銅合金(AgCu)からなる膜(厚み2.6nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例11の光学シートを作製した。
<成膜条件:密着層>
ターゲット:AgCu(Cu:11質量%)ターゲット(住友金属鉱山社製)、成膜圧力:0.4Pa、DCパワー:0.1W/cm
2
【0064】
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、以下に示される評価1〜4を行った。
【0065】
〔評価1:密着性〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、碁盤目試験(クロスカット試験)を行って密着性を評価した。試験方法は、以下の通りである。
【0066】
(煮沸前の場合)
各光学シートを、保護層側(保護層を備えていない比較例1,2は、第2低屈折率層側)から、カッターナイフを用いて100マス(1マス:1mm×1mm)の碁盤目状に切り込んだ。次いで、その切り込まれた膜を覆うように粘着テープを貼り付けた。その際、粘着テープが膜に密着するように、粘着テープを消しゴムで擦って膜に貼り付けた。その後、粘着テープを貼り付けた状態で1〜2分間放置してから、粘着テープの端を持って膜面に対して直角に保った状態から、瞬間的に粘着テープを膜から引き剥がした。密着性(碁盤目試験)の評価基準は、以下の通りである。結果は、表1に示した。
【0067】
<評価基準>
100マス中、100マスすべてが剥離しなかった場合
・・・密着性良好「〇」
100マス中、1つ以上のマスが剥離した場合
・・・密着性不十分「×」
【0068】
(1時間煮沸後の場合)
各光学シートを、1時間煮沸し、その後の各光学シートについて、上述した煮沸前の場合と同様に、碁盤目試験を行った。結果は、表1に示した。なお、上述した煮沸前の場合において、既に密着性不十分と評価されたものについては、1時間煮沸後の碁盤目試験は行わなかった。試験を行わなかった場合を、表1では、「−」と表記した。
【0069】
〔評価2:視感反射率〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、後述する耐アルカリ性の評価を行う前に、視感反射率(%)を測定した。測定方法は、JIST7330に準拠し測定装置(UH4250、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行った。視感反射率(%)は、光学シートの保護層側から測定した。なお、裏面反射の影響を除くために、光学シートは、裏面が黒塗りされた状態で測定された。結果は、表1に示した。
【0070】
〔評価3:全光線透過率〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、後述する耐アルカリ性の評価を行う前に、JIS K7375に準拠して全光線透過率(%)を測定した。結果は、表1に示した。
【0071】
〔評価4:耐アルカリ性〕
実施例1〜4及び比較例1〜11の各光学シートについて、以下に示されるように、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の剥離の有無、及び浸漬後の視感反射率(%)の結果より、耐アルカリ性を評価した。
【0072】
(浸漬)
光学シートを、水酸化ナトリウム水溶液(濃度:0.4質量%)に、23±2℃の環境下で、6時間浸漬した。その後、光学シートを水洗して、光学シートの高屈折率層(Nb
2O
5)の総厚み(第1高屈折率層の厚み+第2高屈折率層の厚み)、低屈折率層(SiO
x)の総厚み(第1低屈折率層の厚み+第2低屈折率層の厚み)、及び密着層の厚みを測定して、光学シートを構成する各層の剥離の有無を確認した。剥離がなかった場合、表1において、「なし」と表記し、剥離があった場合、「有」と表記した。なお、浸漬前及び浸漬後における光学シートの高屈折率層(Nb
2O
5)の総厚み、光学シートの低屈折率層(SiO
x)の総厚み、及び密着層の厚みは、表2に示した。
【0073】
(視感反射率)
上記のように水酸化ナトリウム水溶液に6時間浸漬した後の光学シートについて、剥離がなかった場合のみ、視感反射率(%)を測定した。視感反射率の測定方法は、耐アルカリ性の評価を行う前に行ったものと同様である。結果は、表1に示した。
【0074】
(耐アルカリ性の有無の判定)
上記のように6時間浸漬した後に、剥離がなく、しかも視感反射率が1%以下の場合、「耐アルカリ性に優れる」と判定した。表1では、「耐アルカリ性に優れる」を「〇」と表記した。また、6時間浸漬した後に、剥離がないものの、視感反射率が1%を超える場合、耐アルカリ性なし」と判定した。表1では、この場合の「耐アルカリ性なし」を「△」と表記した。また、6時間浸漬した後に、剥離が発生した場合、「耐アルカリ性なし」と判定した。表1では、この場合の「耐アルカリ性なし」を「×」と表記した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1に示されるように、実施例1〜4の光学シートは、耐アルカリ性に優れることが確かめられた。実施例1〜4の光学シートは、所定の厚みの密着層を備えることで、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した際に、基材(HC付きPET)が膨潤して多少、変形しても、密着層の作用により、基材と密着層との界面での剥離、及び密着層と第1高屈折率層との間で剥離が抑えられているものと推測される。また、実施例1〜4の光学シートは、フッ素系材料を含む保護層(フッ素コート)を備えることで、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した際に、第2低屈折率層等が水溶液中に溶出すること等が抑制され、視感反射率の低下が抑制されているものと推測される。
【0078】
比較例1は、密着層及び保護層を備えていない光シートであり、比較例2は、保護層を備えていない光学シートであり、比較例3は、密着層を備えていない光学シートである。これらの光学シートのように、密着層及び/又は保護層を備えていないと、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。なお、保護層を備えていない比較例2の光学シートでは、SiO
xからなる第2低屈折率層が水酸化ナトリウム溶液に溶出することで、視感反射率が高くなったものと推測される。また、密着層を備えていない比較例3では、第1高屈折率層と基材との間で剥離が生じたものと推測される。密着層及び保護層を備えていない比較例1では、第2低屈折率層の溶出、及び第1高屈折率層と基材との間での剥離が生じたものと推測される。
【0079】
比較例4,5は、密着層の厚みが、実施例よりも小さい場合である。このように、密着層の厚みが小さいと、そもそも密着性が得られないことが確かめられた。
【0080】
比較例6は、密着層の厚みが、実施例よりも大きい場合である。このように、密着層の厚みが大きいと、全光線透過率(%)が85%を下回り、光透過性が劣ることが確かめられた。
【0081】
比較例7は、密着層として、NiCrに酸素を導入したものを用いた場合である。比較例7では、密着性がなく、しかも耐アルカリ性がない結果となった。
【0082】
比較例8は、密着層として、SiO
xを用いたものである。比較例8では、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。
【0083】
比較例9は、密着層として、Zrを用いたものである。比較例9では、耐アルカリ性が得られず、そもそも密着性にも劣ることが確かめられた。
【0084】
比較例10は、密着層として、Alを用いたものである。比較例10では、耐アルカリ性が得られないことが確かめられた。また、全光線透過率も85%を下回り、光透過性が劣ることが確かめられた。
【0085】
比較例11は、密着層として、AgCuを用いたものである。比較例11では、耐アルカリ性が得られず、しかも、視感反射率が1%を超え、全光線透過率も85%を下回る結果となった。