特許第6799861号(P6799861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799861
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】核酸分子
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20201207BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20201207BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20201207BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20201207BHJP
   C12Q 1/6811 20180101ALI20201207BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   A61K31/7105ZNA
   A61K31/7088
   A61P1/18
   A61P43/00 107
   A61K48/00
   A61K31/711
   A61P3/10
   C12N15/113 Z
   C12N5/071
   C12Q1/6811 Z
   C12Q1/02
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-540036(P2017-540036)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】JP2016077575
(87)【国際公開番号】WO2017047800
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-183339(P2015-183339)
(32)【優先日】2015年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】片桐 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】突田 壮平
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/005339(WO,A1)
【文献】 特表2013−537538(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0185027(US,A1)
【文献】 Molecular Medicine Reports,2015.03, Vol.11, No.5,pp.3834-3841
【文献】 Endocrinology,2014, Vol.155, No.5,pp.1982-1990
【文献】 Mol Cell Endocrinol,2013, Vol.374, No.1-2,pp.125-129
【文献】 Diabetes Care,2014, Vol.37, No.5,pp.1375-1383
【文献】 Wound Repair and Regeneration,2014, Vol.22, No.2,p.A70
【文献】 J Endocrinol,2014, Vol.222, No.1,pp.R1-R10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤であって、
配列番号1または配列番号2を有する核酸分子のうち、少なくとも一方を含有する増殖促進剤。
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【請求項2】
前記核酸分子のヌクレオチドの一部または全部がDNA型ヌクレオチドに置換されている、請求項1に記載の増殖促進剤。
【請求項3】
膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤であって、
請求項1または2に記載の核酸分子の発現構築物を含有する増殖促進剤。
【請求項4】
骨髄移植後の膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するために用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の増殖促進剤。
【請求項5】
経静脈的に投与される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の増殖促進剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の増殖促進剤を含有する糖尿病治療薬。
【請求項7】
1型糖尿および/または2型糖尿病の治療薬である、請求項6に記載の糖尿病治療薬。
【請求項8】
膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進を調べる方法であって、
配列番号1または配列番号2において1〜6個の変異を有する塩基配列を有する核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、
前記核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するかどうか調べる工程と、
を含む、方法。
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【請求項9】
膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子またはその発現構築物を得る方法であって、
配列番号1または配列番号2において1〜6個の変異を有する塩基配列を有する複数の核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、
前記複数の核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するかどうか調べる工程と、
膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子またはその発現構築物を特定する工程と、
を含む、方法。
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【請求項10】
膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌促進を調べる方法であって、
配列番号1または配列番号2において1〜6個の変異を有する塩基配列を有する核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、
前記核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進するかどうか調べる工程と、
を含む、方法。
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【請求項11】
膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進する核酸分子またはその発現構築物を得る方法であって、
配列番号1または配列番号2において1〜6個の変異を有する塩基配列を有する複数の核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、
前記複数の核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進するかどうか調べる工程と、
膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進する核酸分子またはその発現構築物を特定する工程と、
を含む、方法。
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【請求項12】
前記核酸分子の塩基配列が、配列番号1または配列番号2において1〜3個の変異を有する配列である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓ランゲルハンス島β細胞の減少や欠失は、1型糖尿病だけでなく、2型糖尿病でも起こることが報告されている。そこで、これらの糖尿病に対する有望な治療方法として、膵臓ランゲルハンス島β細胞の再生や増殖促進が考えられる。
【0003】
最近、骨髄細胞を移植することにより、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖が促進されることが明らかになっている(非特許文献1〜3参照)。しかしながら、そのメカニズムは明らかでは無い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hasegawa, Y. et al. Bone marrow (BM) transplantation promotes beta-cell regeneration after acute injury through BM cell mobilization. Endocrinology 148, 2006-2015, doi:en.2006-1351 [pii]
【非特許文献2】Hess, D. et al. Bone marrow-derived stem cells initiate pancreatic regeneration. Nature biotechnology 21, 763-770, doi:10.1038/nbt841 (2003).
【非特許文献3】Nakayama, S. et al. Impact of whole body irradiation and vascular endothelial growth factor-A on increased beta cell mass after bone marrow transplantation in a mouse model of diabetes induced by streptozotocin. Diabetologia 52, 115-124, doi:10.1007/s00125-008-1172-z (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、骨髄細胞を移植することにより、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖が促進されるという現象のメカニズムを明らかにするため、鋭意努力していたところ、マイクロRNAmiR-106b-5p及びmiR-222-3pが膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進を調節していることを見いだし、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明の一実施態様は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤であって、配列番号1または配列番号2を有する核酸分子、またはその発現構築物のうち、少なくとも一つを含有する増殖促進剤である。前記核酸分子がRNA分子であってもよい。これは、骨髄移植後の膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するために用いられてもよい。また、経静脈的に投与されてもよい。
【0008】
本発明の他の実施態様は、上記いずれかの増殖促進剤を含有する糖尿病治療薬である。これは、1型糖尿病および/または2型糖尿病の治療薬であってもよい。
【0009】
本発明のさらなる実施態様は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進を調べる方法であって、配列番号1または配列番号2において1〜12個の変異を有する塩基配列を有する核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、前記核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するかどうか調べる工程と、を含む。
【0010】
本発明のさらなる実施態様は、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子またはその発現構築物を得る方法であって、配列番号1または配列番号2において1〜12個の変異を有する塩基配列を有する複数の核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、前記複数の核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進するかどうか調べる工程と、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子またはその発現構築物を特定する工程と、を含む。
【0011】
本発明のさらなる実施態様は、膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌促進を調べる方法であって、配列番号1または配列番号2において1〜12個の変異を有する塩基配列を有する核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、前記核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進するかどうか調べる工程と、を含む。
【0012】
本発明のさらなる実施態様は、膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進する核酸分子またはその発現構築物を得る方法であって、配列番号1または配列番号2において1〜12個の変異を有する塩基配列を有する複数の核酸分子またはその発現構築物を合成する工程と、前記複数の核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進するかどうか調べる工程と、膵臓ランゲルハンス島β細胞のインスリン分泌を促進する核酸分子またはその発現構築物を特定する工程と、
を含む。
【0013】
上記いずれかの方法において、前記核酸分子の塩基配列が、配列番号1または配列番号2において1〜6個の変異を有する配列であってもよく、1〜3個の変異を有する配列であってもよい。
【0014】
なお、配列番号1及び2の配列は、以下の通りである。
【0015】
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
【0016】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2015年9月16日付で出願した日本国特許出願2015−183339に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスにおける、マイクロRNAのランゲルハンス島への集積を示す顕微鏡写真である。
図2】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスの空腹時血糖の測定結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスの血中インスリン濃度の測定結果を示す図である。
図4】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスの膵臓内インスリン濃度の測定結果を示す図である。
図5】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスの(A)インスリン陽性細胞数(色の濃い部分)、(B)インスリン陽性細胞数(薄いグレー)及びグルカゴン陽性α細胞数(濃いグレー)、および(C)ランゲルハンス島β細胞数の測定結果を示す図である。
図6】本発明の一実施例において、STZ-miRNAsマウスの体重および脂肪蓄積の測定結果を示す図である。
図7】本発明の一実施例において、STZ-mir222RNAマウスの空腹時血糖の測定結果を示す図である。
図8】本発明の一実施例において、in vitroにおけるランゲルハンス島β細胞の増殖に対するmiR-106b/222の効果を調べた結果を示す図である。
図9】本発明の一実施例において、miR-106b/miR-222の肝臓および腎臓に対する影響を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0019】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、M. R. Green & J. Sambrook (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
==本発明に用いられる核酸分子およびその発現構築物==
本発明にかかる膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤、インスリン分泌増強剤、及び糖尿病治療薬は、配列番号1の配列を有する核酸分子及び配列番号2の配列を有する核酸分子のいずれかまたは両方を含有する。
【0022】
miR-106b-5p:UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU (配列番号1)
miR-222-3p:AGCUACAUCUGGCUACUGGGUCUC (配列番号2)
核酸分子は、天然型ヌクレオチド(塩基としてアデニン、グアニン、ウラシル、シトシンを有するRNA型リボヌクレオチド、あるいはアデニン、グアニン、チミン、シトシンを有するDNA型デオキシリボヌクレオチド)または非天然型ヌクレオチド(例えば、イノシンを有するヌクレオチド、天然型ヌクレオチドのα-エナンチオマー型など)から構成されてもよく、両方から構成されたキメラ分子であってもよいが、リボヌクレオチドからなるRNAであることが好ましい。
【0023】
ヌクレオチドは、細胞に吸収しやすくしたり、ヌクレアーゼに分解されにくくしたりすることなどを目的とし、糖および/または塩基(プリンおよび/またはピリミジン)において修飾してもよい。糖の修飾としては、例えば1つ以上のヒドロキシル基が、ハロゲン、アルキル、アミン、およびアジドによって置換されてもよく、エーテル化またはエステル化されてもよい。また、全体の糖が、アザ糖および炭素環糖アナログのような立体的および電子的に等価な構造に置換されてもよい。塩基の修飾としては、例えばアルキル化および/またはアシル化されてもよく、あるいは複素環式置換をうけていてもよい。
【0024】
本発明にかかる膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤、インスリン分泌増強剤、及び糖尿病治療薬は、配列番号1の配列を有する核酸分子及び配列番号2の配列を有する核酸分子のいずれかまたは両方を発現する発現構築物を含有してもよい。この発現構築物は、発現ベクター部分と、発現したときに当該核酸分子を構成する挿入部分とを含む。発現ベクターは、公知の物を用いることができ、プラスミドベクターであってもウイルスベクターであってもよい。ウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが例示できる。発現ベクターが有する発現プロモーターは、特に限定されず、CMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーター、アクチンプロモーターなどの恒常的プロモーターであってもよく、HSPプロモーターなどの条件的に発現するプロモーターであってもよいが、インスリンプロモーターなどの膵臓ランゲルハンス島β細胞で特異的に機能するプロモーターであることが好ましい。
【0025】
==膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤==
本発明にかかる膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤は、配列番号1の配列を有する核酸分子及び配列番号2の配列を有する核酸分子のいずれかまたは両方、またはその発現構築物を含有する。この増殖促進剤の用途は特に限定されず、試薬にも医薬にも用いることができる。
【0026】
試薬としては、in vitroで培養された膵臓ランゲルハンス島β細胞に上記核酸分子またはその発現構築物を導入することによって、細胞を増殖させることができる。導入方法は特に限定されず、公知のトランスフェクション法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。
【0027】
医薬としては、特にインスリン分泌増強剤、糖尿病治療薬、及び糖尿病の合併症治療薬などとしてin vivoで用いることができる。上記核酸分子またはその発現構築物の投与対象は特に限定されず、上記疾患に罹患したヒトやマウスを含む動物であれば、特に限定されない。以下に、糖尿病治療薬を例として、その使用方法等を詳述する。
【0028】
==糖尿病治療薬==
本発明にかかる糖尿病治療薬は、配列番号1の配列を有する核酸分子及び配列番号2の配列を有する核酸分子のいずれかまたは両方を含有する。
【0029】
糖尿病治療薬の剤形は、特に限定されず、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤;経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤;坐剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。また本発明に係る薬剤は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0030】
経口用固形製剤を調製する場合は、有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などを製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などを、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどを、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などを、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどを、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などを例示できる。
【0031】
経口用液体製剤を調製する場合は、有効成分に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤などを加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などを製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウムなどが、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどを挙げることができる。
【0032】
注射剤を調製する場合は、有効成分にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、 エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などを挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどを挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが例示できる。
【0033】
坐剤を調製する場合は、有効成分に当業界において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライドなどを、さらに必要に応じてツイーン(登録商標)のような界面活性剤などを加えた後、常法により製造することができる。
【0034】
軟膏剤を調製する場合は、有効成分に通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤などが必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどを挙げることができる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどを挙げることができる。
【0035】
貼付剤を製造する場合は、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペーストなどを常法により塗布すれば良い。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタンなどのフィルムあるいは発泡体シートが適当である。
【0036】
薬剤に含有される有効成分の量は、該有効成分の用量範囲や投薬の回数などにより適宜決定できる。また、用量は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断など応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができる。
【0037】
==膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進またはインスリン分泌促進を調べる方法== 本発明にかかる膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖促進またはインスリン分泌促進を調べる方法は、配列番号1または配列番号2に変が導入された塩基配列を有する核酸分子またはその発現構築物を作製する工程と、作製した核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖またはインスリン分泌促進を促進するかどうか調べる工程と、を含む。以下に、その具体的な方法について詳細に説明する。
【0038】
まず、配列番号1または配列番号2において変異を有する塩基配列を設計する。変異を有する塩基数は特に限定されないが、6つ以内であることが好ましく、4つ以内であることがより好ましく、3つ以内であることがさらに好ましく、2つ以内であることがさらに好ましく、1つであることがさらに好ましい。こうして設計された塩基配列を有する核酸分子を合成する。合成方法は特に限定されず、細胞を用いて作製しても、化学合成しても構わない。その発現構築物を用いる場合は、発現ベクターなどに当該塩基配列を有するDNAを挿入するなどして、発現構築物を作製する。
【0039】
核酸分子またはその発現構築物が膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖またはインスリン分泌促進を促進するかどうか調べる方法は特に限定されない。培養された膵臓ランゲルハンス島β細胞に導入して、その増殖能またはインスリン分泌能を調べたり、in vivoで糖尿病罹患動物に投与して、そのランゲルハンス島β細胞の増殖能またはインスリン分泌促進能を調べたりしても良い。細胞の増殖能を調べる方法は特に限定されず、例えばKi-67陽性細胞の細胞数を数える方法が例示できる。また、インスリン分泌促進能を調べる方法も特に限定されず、例えば抗インスリン抗体を用いて、培養細胞の上清中あるいは動物個体の血液中のインスリン濃度を測定することができる。
【0040】
なお、異なる変異を有する複数の核酸分子またはその発現構築物を設計し、それらについて、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖能またはインスリン分泌能を調べ、各能力を有する核酸分子またはその発現構築物を特定し、選択することにより、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖またはインスリン分泌を促進する新たな核酸分子またはその発現構築物を得ることができる。
<実施例>
【0041】
(1)STZマウス及びマイクロRNA投与マウスの作製
C57BL/6Jマウス(6週令)に対し、50mg/kg体重のスロレプトゾトシン(STZ)(シグマ社)を腹腔内に5日間、連日投与して、高血糖症を誘導した(以下、STZマウスと称する)。なお、STZは、0.05Mのクエン酸バッファー(pH4.5)に溶解させた溶液を用いた。
【0042】
一方、それぞれローダミン及びFITCでラベルされた、配列番号1及び配列番号2を有するマイクロRNA(それぞれmiR-106bおよびmiR-222と称する)(コスモバイオ社)混合溶液(各0.025重量%)とKoken社, AteloGene(登録商標) Systemic Use, 製品番号#1393)を同容量で混合した。
【0043】
まず、1〜5日目にSTZを投与したSTZマウスに対し、5日目に、200μlのマイクロRNA/アテロコラーゲン混合溶液を尾静脈から注入した。その24時間後(6日目)または48時間後(7日目)に膵臓の凍結切片と作製し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図1に示すように、(A)24時間後及び(B)48時間後ともに、注入したマイクロRNAは、図の点線部分にあるランゲルハンス島に集積した。
【0044】
(2)空腹時血糖の測定
STZマウスに対し、STZ投与日を1日目とし、5日目、8日目、11日目に、200μlのマイクロRNA/アテロコラーゲン混合溶液(図ではmiRNAsと記載)を尾静脈から注入した(以下、STZ-miRNAsマウスと称する)。STZ投与後1、5、15、20、30、40、50日目に空腹時血糖を測定した。すなわち、昼間の9時間食餌させず、その後、0、15、30、60、120分で尾静脈から採血し、Glutest Mint(三和化学社)を用いて血糖値を測定した。なお、比較例としては、上記マイクロRNAの代わりに、遺伝子発現に影響のないマイクロRNAであるmirVana miRNA mimic Negative Control #1(Ambion社(図ではNTと記載))を用いた(以下、STZ-NTマウスと称する)。またコントロールマウス(健常マウス)には、STZ及びマイクロRNAを含有しない200μlの0.05Mのクエン酸バッファー(pH4.5)を、STZの代わりとして最初の5日間だけ注入した。
【0045】
その結果、図2に示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、STZ投与後15日目で空腹時血糖は有意に低下し、低下したグルコースレベルは少なくともSTZ投与後50日目まで持続した。
【0046】
このように、miR-106bおよびmiR-222は、糖尿病罹患動物において、空腹時血糖を下げる効果がある。
【0047】
(3)血中及び膵臓内インスリン濃度の測定
(2)で作製したマウスにおいて、STZ投与後45日目にブドウ糖負荷試験を行ったところ、(2)と同様にSTZ-miRNAsマウスでは耐糖性が改善されていた。これらのマウスの血清中のインスリン濃度を、ELISA kit(森永生化学研究所)と用いて測定したところ、図3に示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、血中インスリン濃度が増加していた。
【0048】
また、膵臓組織の一部を、塩酸エタノール(0.18M塩酸/75%エタノール)中で切り刻み、24時間、−20℃で放置後、超音波処理することを2度繰り返した。上清を1mM EDTA/1% BSA含有PBSで希釈し、ELISA kitを用いて、膵臓組織内のインスリン濃度を測定したところ、図4に示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、組織内インスリン濃度も増加していた。
【0049】
このように、miR-106bおよびmiR-222は、糖尿病罹患動物において、耐糖性を改善し、血中及び膵臓内インスリン濃度を上げる効果がある。
【0050】
(4)インスリン陽性細胞数、グルカゴン陽性α細胞数、およびランゲルハンス島β細胞数の測定
(3)で用いたのと同じ膵臓組織の一部を用いてパラフィン切片を作製し、HRP結合抗インスリンモノクローナル抗体(シグマ社)(2000倍希釈)及びDABと用いてインスリン発現細胞を検出したところ、図5Aに示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、インスリン陽性細胞数が増加していた。
【0051】
一方、1次抗体として、マウス抗インスリンモノクローナル抗体(シグマ社)(2000倍希釈)とウサギ抗グルカゴンポリクローナル抗体(Dako社)(3000倍)を用い、2次抗体として、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG及びAlexa Fluor 546標識ヤギ抗ウサギIgGを用いて2重染色したところ、図5Bに示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、インスリン陽性β細胞数が増加し、グルカゴン陽性α細胞数が減少していた。
【0052】
同様に、ランゲルハンス島β細胞の増殖細胞を検出するKi-67陽性細胞を、ウサギ抗Ki-67(D3B5)モノクローナル抗体(CST社)(1000倍希釈)を用いて検出し、その細胞数を測定したところ、図5Bに示すように、STZ-miRNAsマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、有意にKi-67陽性細胞の割合が増加していた。なお、TUNELアッセイを用いて、アポトーシスを調べたが、STZ-miRNAsマウス、STZ-NTマウス、コントロールマウスの三者で差がなかった。
【0053】
このように、miR-106bおよびmiR-222は、膵臓において、ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進し、インスリン陽性細胞を増加させる効果がある。
【0054】
(5)体重および脂肪蓄積の測定
STZ-miRNAsマウス及びSTZ-NTマウスに対し、STZ投与後50日目で、体重を測定し、その後、精巣上体白色脂肪組織を摘出し、重量を測定した。その結果、図6に示すように、
STZ-NTマウスでは体重及び脂肪蓄積が減少するが、STZ-miRNAsマウスでは、体重及び脂肪蓄積の減少は改善した。この効果は、miR-106bおよびmiR-222投与による糖尿病改善の結果であると考えられる。
【0055】
(6)mir222の単独投与
(1)に記載のmiR-106bとmiR-222の混合溶液(各0.025重量%)の代わりに、0.050重量%のmir222(コスモバイオ社)溶液をマウスに注射し(以下、STZ- mir222RNAマウスと記載する)、(2)と同様に空腹時血糖を測定した。
【0056】
その結果、図7に示すように、STZ- mir222RNAマウスでは、STZ-NTマウスに比べ、STZ投与後15日目で空腹時血糖は有意に低下し、低下したグルコースレベルは少なくともSTZ投与後50日目まで持続した。
【0057】
(7)in vitroにおけるランゲルハンス島β細胞の増殖に対するmiR-106b/222の効果
本実施例では、in vitroにおけるランゲルハンス島β細胞の増殖に対するmiR-106b/222の効果を調べた。
コラゲナーゼ灌流法を用いてマウスの膵臓から単離した40個の膵島を、トリプシン処置することで分散させ、in vitroでプレートに播種した後、LipofectamineTMRNAiMAX Transfection Reagentを用いてtotal 20pmolのmiR-106b/miR-222 (各々10pmol)をトランスフェクトした。72時間培養後、細胞を回収し、細胞増殖のマーカーであるKi-67のmRNAレベルでの発現を、リアルタイムPCR法により測定した。
図8に示すように、miR-106b/222を導入した細胞では、有意にKi-67発現レベルが亢進していた。
このように、in vitroにおいても、miR-106b/222は、膵島細胞に対して、ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する。
【0058】
(8)miR-106b/miR-222の肝臓および腎臓に対する影響
本実施例では、miR-106b/miR-222の肝臓および腎臓に対する影響を調べた。
まず、図9Aに示すように、1〜5日目にSTZ(50mg/kg体重)を腹腔注射によって投与したSTZマウスに対し、5日目と9日目に、200μlのmiR-106b/miR-222マイクロRNA/アテロコラーゲン混合溶液(miRNAs/atelo)(マウス5匹)、または対照としてネガティブコントロールmiRNA/アテロコラーゲン混合溶液(NT/atelo)(マウス6匹)を尾静脈から注入した(各マウスをSTZ-miRNA(106b/222)及びSTZ-NTと称する)。9日目に肝臓および腎臓の重量を計測するとともに、パラフィン包埋組織切片を作製し、HE染色後、顕微鏡で観察した。それぞれの結果を図9B及び図9Cに示す。
肝重量および腎重量については、STZ-miRNA(106b/222)とSTZ-NTとでは、有意差がなかった(図9B)。また、組織像についても、STZ-miRNA(106b/222)とSTZ-NTとでは、違いが認められなかった(図9C)。
このように、miR-106b/miR-222の投与は、肝臓や腎臓には悪影響を与えない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によって、膵臓ランゲルハンス島β細胞の増殖を促進する核酸分子を提供することができるようになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]