(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799862
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】流量信号補正方法およびこれを用いた流量制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-547611(P2017-547611)
(86)(22)【出願日】2016年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2016004662
(87)【国際公開番号】WO2017073038
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-211800(P2015-211800)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100082474
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】河嶋 将慈
(72)【発明者】
【氏名】今井 嵩浩
【審査官】
堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−146416(JP,A)
【文献】
特開2004−212099(JP,A)
【文献】
特開2014−063348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り部と、前記絞り部の上流側に設けられた圧力センサと、前記圧力センサの上流側に設けられた制御弁とを有し、前記制御弁を用いて前記絞り部の上流側の圧力を制御することによって流量を制御するように構成された圧力式流量制御装置に適用され、前記制御弁に対しては流量安定期間および過渡変化期間のいずれにおいても前記圧力センサの出力に基づく同じフィードバック制御を行う一方で、外部に表示される流量出力信号を流量安定期間と過渡変化期間とで異ならせる流量信号補正方法であって、
前記制御弁がフィードバック制御されているときの前記圧力センサの出力に基づいて、量子化誤差の影響を受けたデジタルの1次信号としての流量出力信号を生成するステップと、
前記1次信号の現在値と前記1次信号の単数または複数の過去値の情報を含む値とを用いて所定の関係式により補正された現在値を導出するようにして、前記1次信号の補正信号としての量子化誤差の影響が抑制された2次信号を生成するステップと
を包含し、
前記流量安定期間において前記2次信号を前記流量出力信号として出力し、前記過渡変化期間において前記2次信号を前記流量出力信号として出力せず、流量設定信号に基づいてランプ関数制御によって生成された、時間をかけて目標値に達する制御信号を前記流量出力信号として出力する、流量信号補正方法。
【請求項2】
前記1次信号の単数または複数の過去値の情報を含む値は、前記2次信号の前回値である、請求項1に記載の流量信号補正方法。
【請求項3】
前記2次信号の現在値は、前記1次信号の現在値と前記2次信号の前回値との差に基づいて算出された補正変化量を、前記2次信号の前回値に加算することによって導出される、請求項2に記載の流量信号補正方法。
【請求項4】
前記補正変化量は、前記1次信号の現在値と前記2次信号の前回値との差を、1を超える除数で除算することによって求められる、請求項3に記載の流量信号補正方法。
【請求項5】
前記流量安定期間において前記2次信号を生成するステップおよび前記2次信号を流量出力信号として出力するステップは、流量設定信号の変化が生じてから所定時間経過後の開始点から前記流量設定信号の次の変化が生じる終了点までの間、継続的に行われる、請求項1から4のいずれかに記載の流量信号補正方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の流量信号補正方法を用いて流量出力信号の出力を行う流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量信号補正方法およびこれを用いた流量制御装置に関し、特に、半導体や化学品、薬品、精密機械部品等の製造に用いられる圧力式流量制御装置に適用される流量信号補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガス等の流量を制御するために、種々の流量計および流量制御装置が利用されている。このなかで圧力式流量制御装置は、ピエゾ素子駆動型の圧力制御弁と絞り部(例えばオリフィスプレート)とを組み合せた簡単な機構によってガス等の各種流体の流量を高精度で制御することができるので利便性高く利用されている。
【0003】
特許文献1には、絞り部の上流側に設けられた圧力センサを用いて流量を制御するように構成された圧力式流量制御装置が開示されている。特許文献1に記載の圧力式流量制御装置は、臨界膨張条件P1/P2≧約2(P1:絞り部上流側のガス圧力、P2:絞り部下流側のガス圧力)を満たすとき、絞り部を通過するガスの流速は音速に固定され、流量Qは上流側のガス圧力P1によって決まるという原理を利用して流量制御を行っている。この方式によれば、上流側のガス圧力P1を制御するだけで高精度に流量Qを制御することができる。
【0004】
ここで、圧力式流量制御装置を用いた流量制御の具体例について説明する。まず、上流側に設けられた圧力センサによって圧力P1が測定され、その測定結果が通常はディジタル信号に変換されて演算処理装置に入力される。演算処理装置は、入力された測定結果に基づいて、絞り部を通過するガスの流量Qcを演算によって求める。なお、流量Qcはガス温度にも依存するので、実際には、圧力P1とガス温度T1とに基づいて流量Qcが算出されることが多い。
【0005】
次に、算出された流量Qcとユーザが入力した設定流量Qsとの差ΔQが求められ、この差ΔQに対応する制御信号が、圧力制御弁に設けられたピエゾ素子駆動部に入力される。これを受け、圧力制御弁は開閉動作を行い、上流のガス圧力P1を変化させる。その後、ガスの流量Qcおよび差ΔQが、再度、圧力センサ(および温度センサ)の出力に基づいて求められる。この動作は差ΔQが0に達するまで繰り返し行われ、これによって、ユーザが指定した設定流量Qsに流量Qcを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−212099号公報
【特許文献2】特開平5−79873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の圧力式流量制御装置は、絞り部の上流側の圧力制御のみで流量を制御できるので、外乱の影響をほとんど受けず、また、応答性が非常に良好であるという利点を有している。しかし、応答性が高い反面、実際のガス流量が安定しているにもかかわらず、流量を示す出力信号が一定の値を示さない現象が観察される場合があった。これは、圧力センサの出力に基づいてディジタルの流量出力信号を生成するときに、量子化誤差などが影響して信号にふらつきが生じるためであると考えられる。
【0008】
このため、圧力式流量制御装置において、特に流量安定時に、信号ふらつきが抑制された流量信号を出力することが求められていた。このような信号の揺れを抑制する技術としては、例えば、特許文献2に、電磁流量計におけるノイズ除去を行うための信号処理が記載されている。ただし、特許文献2は、電磁流量計の出力全体について予め設定した変動幅に収まるようにデータを加工することを記載するのみであり、この方法を圧力式流量制御装置に適用した場合には応答性が犠牲になるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、適切な流量出力信号を得るための流量信号補正方法およびこれを用いた流量制御装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態による流量出力信号補正方法は、絞り部を有し前記絞り部の上流側の圧力を制御することによって流量を制御するように構成された圧力式流量制御装置に適用される流量信号補正方法であって、前記絞り部の上流側に設けられた圧力センサの出力に基づいて、流量を示す1次信号を生成するステップと、前記1次信号の現在値と前記1次信号の単数または複数の過去値の情報を含む値とを用いて所定の関係式により補正された現在値を導出するように、前記1次信号の補正信号としての2次信号を生成するステップとを包含し、流量安定期間において前記2次信号を流量信号として出力し、過渡変化期間において前記2次信号を流量信号として出力しない。
【0011】
ある実施形態において、前記過渡変化期間に前記1次信号を流量信号として出力する。
【0012】
ある実施形態において、前記1次信号の単数または複数の過去値の情報を含む値は、前記2次信号の前回値である。
【0013】
ある実施形態において、前記2次信号の現在値は、前記1次信号の現在値と前記2次信号の前回値との差に基づいて算出された補正変化量を、前記2次信号の前回値に加算することによって導出される。
【0014】
ある実施形態において、前記補正変化量は、前記1次信号の現在値と前記2次信号の前回値との差を1を超える除数で除算することによって求められる。
【0015】
ある実施形態において、前記2次信号を生成するステップおよび前記2次信号を流量信号として出力するステップは、前記流量設定信号の変化が生じてから所定時間経過後の開始点から前記流量設定信号の次の変化が生じる終了点までの間、継続的に行われる。
【0016】
ある実施形態において、前記圧力式制御装置は、前記絞り部および前記圧力センサの上流側に制御弁を有し、前記制御弁は、前記流量設定信号と前記圧力センサの出力とを用いてフィードバック制御されており、前記制御弁がフィードバック制御された結果得られた圧力センサの出力に基づいて前記1次信号が生成される。
【0017】
本発明の実施形態による流量制御装置は、上記のいずれかの流量信号補正方法を用いて流量信号の出力を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、圧力式流量制御装置における流量出力信号を適切に補正することができ、応答性を損なうことなく流量安定時における流量出力信号の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態による圧力式流量制御装置の構成を模式的に示す模式図である。
【
図2】補正前の流量出力信号(1次信号)と、補正後の流量出力信号(2次信号)との関係を示すグラフである。
【
図3】外部からの流量設定信号と、補正処理期間との関係を示すグラフである。
【
図4】(a)は1次信号を示すグラフであり、(b)は2次信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による圧力式流量制御装置10の構成を模式的に示す図である。流量制御装置10は、微細な貫通孔を有する絞り部(典型的にはオリフィスプレート)12と、絞り部12の上流側に設けられた圧力センサ14および温度センサ16と、圧力センサ14の上流側に設けられた制御弁18とを備えている。また、絞り部12の下流側は、半導体製造装置で真空プロセスを行うための真空ポンプ(図示せず)に、電磁弁やAOV(air operated valve)などの開閉弁を介して接続されている。
【0022】
圧力センサ14は上流側のガス圧力P1を測定し、その測定結果をA/Dコンバータ20に出力する。A/Dコンバータ20は、入力された測定結果からガス圧力P1を示すディジタル信号Spを生成し、これを制御回路30へと出力する。なお、流量制御装置10では、温度センサ16の出力もA/Dコンバータ22によってディジタル信号に変換されて制御回路30に出力される。
【0023】
制御回路30は、受け取ったディジタルの圧力信号Spと温度信号Stとから、流量Qcを演算する。流量制御装置10では、真空ポンプによって下流側が低圧に保たれるので、上流側圧力P1/下流側圧力P2≧約2(臨界膨張条件)を満たすものとして流量Qcを算出する。臨界膨張条件を満たすとき、流量Qcは、次の式によって与えられる。
【0024】
Qc=S・C・P1/T1
1/2
ここで、Sはオリフィス断面積、Cはガス物性によって決まる定数(フローファクタ)、T1は上流側ガス温度である。ガス温度T1およびフローファクタCが一定であるとき、流量Qcは、上流側圧力P1に比例するものとして求めることができる。つまり、流れるガスの種類が一定で温度も不変であると考えられる場合において、例えば、上流側圧力が20Torrのときに流量が10sccmであることが判っているとき、制御弁18を操作して上流側圧力を200Torrに設定することによって流量を100sccmに制御することができる。このように、本実施形態の圧力式流量制御装置10は、絞り部12の上流側の圧力P1を制御することによって流量を制御することができるように構成されている。なお、上流側圧力と下流側圧力との差が小さく上記の臨界膨張条件を満足しない場合、絞り部の下流側に設けた圧力センサ(図示せず)によって下流側圧力P2を求め、上流側圧力P1と下流側圧力P2とに基づいて、所定の計算式Qc=KP2
m(P1−P2)
n(但しK、m、nは定数)を用いて流量Qcを算出することもできる。
【0025】
圧力
式流量制御装置10において、図示しない入力装置を介してユーザは設定流量Qsを任意に設定することができる。このユーザ入力に基づいて流量設定信号Ssが生成され、流量制御装置10に入力される。これを受け、制御回路30は流量設定信号Ssにしたがって流量を制御するように制御弁18の開閉動作を制御する。制御弁18は例えば金属製ダイヤフラム弁体を備えており、これに接続されたピエゾ素子駆動部(圧電アクチュエータ)19に制御信号を送ることによって弁の開閉動作を行うことができる。
【0026】
なお、入力された流量設定信号Ssに基づいて上流側圧力P1および流量Qcを制御する動作は、公知の方法で行われてよい。例えば、上述したように、設定流量Qsと演算により求められた流量Qcとの差ΔQが0または許容誤差範囲内になるまで制御弁18の開度調整を繰り返すフィードバック制御を行うことによって、高い精度でガス流量を設定流量Qsに設定することができる。また、このような上流側の圧力制御を行う圧力制御装置は、例えば、本出願人による特開2015−109022号公報に開示されている。参考のために、特開2015−109022号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0027】
上記の制御動作において、制御弁18がフィードバック制御された結果得られた圧力センサ14の出力が、A/Dコンバータ20においてディジタルの圧力信号Spに変換され、制御部30は、入力された圧力信号Spに基づいて流量Qcを示す出力信号としての流量信号Sqを生成する。ただし、A/Dコンバータ20が出力するディジタルの圧力信号Spは量子化誤差を含んでいる。このため、圧力信号Spに基づいて算出された流量信号Sqも量子化誤差を含むものとなる。その結果、絞り部12を流れるガスの実際の流量が略一定であるにもかかわらず、外部に出力(表示)された流量信号Sqが揺れを示す場合がある。
【0028】
このような問題に対処するために、本実施形態の圧力
式流量制御装置10は、流量安定時において、流量信号に対して補正処理を施してから出力する。この補正処理は、後に詳述するように、流量が比較的大きく変動すると見なされる期間(過渡変化期間)を除く流量安定期間において選択的に行われる。補正処理の開始および終了を示すタイミング信号は、例えば、制御回路に設けられた解析部において外部入力された流量設定信号を解析し、その結果に基づいて生成することができる。以下、流量安定時に行われる補正処理の具体例を説明する。
【0029】
図2は、実線および黒丸で示す補正前の流量出力信号S1(以下、1次信号と呼ぶ場合がある)と、破線および白丸で示す補正後の流量出力信号S2(以下、2次信号と呼ぶ場合がある)とを示すグラフである。1次信号S1はディジタル信号であり、圧力センサ14の出力をA/Dコンバータ20にて制御周期(サンプリング周期)ごとに標本化および量子化することによって得られた離散的な圧力信号Spに対応する流量出力信号である。制御周期は、例えば0.5msに設定される。
【0030】
図2に示すように、補正処理が開始された最初のタイミングt0(グラフの一番左側の点)において、2次信号の現在値V2(t0)は、1次信号の現在値V1(t0)と同じに設定される。そして、次の制御タイミングt1において1次信号の現在値V1(t1)が与えられると、2次信号の現在値V2(t1)は、2次信号の前回値V2(t0)に補正変化量ΔV’を加算した値に設定される。ここで、補正変化量ΔV’は、1次信号の現在値V1(t1)と2次信号の前回値V2(t0)との差ΔVを、1を超える所定の除数で除算した値である。除数は、例えば、(変数+1)で表され、変数を変更することによって、補正の度合いを任意に設定することができる。
【0031】
上記の補正変化量ΔV’は、上記の差ΔVを1超の除数で除算したもの(すなわち、差ΔVに1未満の乗数をかけたもの)であるので、差ΔVよりも必ず小さい値となる。言い換えると、2次信号の現在値V2(t1)は、2次信号の前回値V2(t0)と1次信号の現在値V1(t1)との間の値を取るように決定される。このため、2次信号は、1次信号に比べて信号の揺れが低減されたものとなる。
【0032】
また、上記の除数は、2次信号の現在値V2(t1)を決定する際に、1次信号の現在値V1(t1)を2次信号の前回値V2(t0)にどの程度反映させるかを表す指標に対応する。除数を大きくとればとるほど、2次信号の前回値から現在値への変化はより小さいものとなり、信号の揺れが抑制される。このため、上記の除数は、所望の信号安定度が達成される程度の大きさに適切に設定されればよい。
【0033】
再び
図2を参照して補正処理を説明する。上記のようにして制御タイミングt1での2次信号の現在値V2(t1)が得られた後、次の制御タイミングt2で1次信号の現在値V1(t2)が与えられると、上記と同様に、補正変化量ΔV’(すなわち、1次信号の現在値V1(t2)と2次信号の前回値V2(t1)との差ΔVを1超の所定の除数で割った値)を2次信号の前回値V2(t1)に加算して、2次信号の現在値V2(t2)を決定する。その後も同様であり、制御タイミングt3での2次信号の現在値V2(t3)は、1次信号の現在値V1(t3)と2次信号の前回値V2(t2)とから求められる補正変化量ΔV’を2次信号の前回値V2(t2)に加えることによって算出され、制御タイミングt4での2次信号の現在値V2(t4)は、1次信号の現在値V1(t4)と2次信号の前回値V2(t3)とから求められる補正変化量ΔV’を2次信号の前回値V2(t3)に加えることによって算出される。
【0034】
上記の態様において、現在の制御タイミングをtnとし、前回の制御タイミングをtn−1とすると、二次信号の現在値V2(tn)は下記の一般式で表すことができ、これを2次信号の現在値V2(tn)を決定するための所定の関係式として用いることができる。下記式において、αは0<α<1を満たす係数である。
V2(tn)=V2(tn−1)+α(V1(tn)−V2(tn−1))=αV1(tn)+(1−α)V2(tn−1)
【0035】
なお、上記に説明した補正処理では、1次信号の現在値と2次信号の前回値とを用いて2次信号の現在値を算出しているが、2次信号の前回値は、1次信号の前回値と2次信号の前々回値とから算出されている。そして、2次信号の前々回値は、1次信号の前々回値と、2次信号の前々々回値とから算出されている。つまり、元をたどると、上記の補正処理における2次信号の現在値は、現在および過去の全ての1次信号の値の情報を含むものとして算出されており、現在値に近い順に重みづけを大きくしたものに対応する。1次信号の現在値と2次信号の前回値とを用いる補正処理は、処理の容易さや、1次信号への適度な追従性の観点から好適な態様である。
【0036】
ただし、これに限られず、2次信号の現在値を、1次信号の現在値と、1次信号における任意の単数または複数の過去値とから求める他の態様も考えられる。本発明の実施形態では、1次信号の現在値と、1次信号の過去値に関する情報を含む値とを用いて、所定の関係式により2次信号の現在値を決定するものである限り、種々の補正方法を採用することが可能である。
【0037】
以上に説明した補正処理は、好適には流量安定期間において継続して行われる。以下、補正処理を行うタイミングについて説明する。
【0038】
図3は、圧力
式流量制御装置10が外部から受け取る流量設定信号(流量設定指令)Ssと、圧力
式流量制御装置10が補正処理を行う期間Dcとの関係を示すグラフである。
図3に示すように、流量設定信号Ssは、典型的には、設定流量の時間変化を表す矩形波の態様で与えられる。図示する例では、流量を0にする第1の期間D1の後に、流量を目標流量Q0とする第2の期間D2が設けられ、さらに第2の期間D2の後に、流量を再び0とする第3の期間D3が設けられている。
【0039】
圧力
式流量制御装置10の内部では、流量設定信号Ssに対応する内部流量設定信号Ss'が生成され、実際の圧力制御弁の制御は、内部流量設定信号Ss'に基づいて行われる。内部流量設定信号Ss'は、例えば、公知のランプ関数制御にしたがって生成されたものであり、目標値が時間とともに変化する設定信号であってよい。内部流量設定信号Ss'は、例えば、外部から受け取った流量設定信号において目標値Q0への遷移が示されているときに、所定の時間をかけて目標値Q0に達するような制御信号として生成される。
【0040】
図からわかるように、時刻tにおいて流量を0から目標値Q0に変化させる流量設定信号Ssが与えられた場合、圧力
式流量制御装置10は、内部流量設定信号Ss'に従って、時刻tからの所定期間Δtにおいて暫時的に制御弁18を開く動作を行う。
【0041】
上記の時刻tからの所定の期間(t〜t+Δt)には、上流側圧力P1および流量Qcが大きく変化する。このため、この期間において、上記の信号変動幅を抑制する補正処理を行うと、出力される流量信号が実際の流量と大きく異なる遅延値を示すおそれがあり、応答性の低下を招く。
【0042】
そこで、本実施形態における補正処理は、上流側圧力および流量が大きく変化する過渡変化期間を避けた流量安定期間において選択的に行われ、過渡変化期間には行われない。過渡変化期間は、例えば、
図3に示すように、内部流量設定信号Ss’が変化する時刻tからの所定の期間(t〜t+Δt)に設定されてもよい。あるいは、内部流量設定信号に対する出力信号の遅れが大きい場合には、過渡変化期間は、出力信号と内部流量設定信号との差分が一定値以下になるまでの期間に設定されてもよい。
【0043】
また、流量安定期間には2次信号S2が流量信号として出力される一方で、過渡変化期間には1次信号S1が流量信号として出力されてもよい。これによって、応答性の低下を招くことなく、流量安定時の信号ふらつきが抑制された流量信号を出力・表示することが可能になる。
【0044】
なお、上記には、過渡変化期間において、補正されていない1次信号S1を流量信号として出力する態様を説明したが、これに限られず、他の信号を流量信号として出力してもよい。例えば、流量安定時の2次信号S2よりも補正の程度を大幅に緩和した信号を出力してもよい。このためには、例えば、過渡変化期間に、上記の補正処理において1に近い除数で割った値を前回値に加算して現在値を求めた別の2次信号(例えば、上記補正処理において除数を決定する変数の値を0または0に近い数に設定することによって得られる、別の関係式に基づいて生成された2次信号)を出力するようにしてもよい。
【0045】
図4(a)は、補正処理を行わなかった場合の流量設定信号Ssおよび流量出力信号Sqを示し、
図4(b)は、補正処理を行った場合の流量設定信号および流量出力信号Sqを示す。なお
図4(b)に示すグラフは、上述した補正処理において、除数を(200+1)に設定した場合を示している。
【0046】
図4(a)からわかるように、補正処理を行わない場合、流量安定時にもかかわらず、流量出力信号は、量子化誤差などの影響によって、幅dの範囲で比較的大きく揺らいでいる。これに対して、
図4(b)に示すように、補正処理を行った場合には、揺らぎの幅が幅dから大幅に低減し、略一定の値を取ることがわかる。補正処理後の揺らぎの幅は、例えば、量子化誤差以下に設定されることが好ましい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、種々の改変が可能であることは言うまでもない。例えば、補正処理を行う期間をユーザが入力により指定する態様であってもよい。また、流量目標値によって、補正の程度を変更する態様であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の実施形態による流量信号補正方法は、絞り部の上流側の圧力を制御することによって流量を制御するように構成された圧力式流量制御装置において好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
10 圧力式流量制御装置
12 絞り部
14 圧力センサ
16 温度センサ
18 制御弁
19 ピエゾ素子駆動部
20、22 A/Dコンバータ
30 制御回路
S1 1次信号
S2 2次信号 (補正信号)
Ss 流量設定信号
Sq 流量出力信号
P1 上流側圧力
P2 下流側圧力