【発明が解決しようとする課題】
【0007】
飲料用の紙パックは、液体を収容するというその機能ゆえに、一定の体積を持つよう立体的に構成されている。
市場でよく見かける1000ミリリットルの容量をもつ牛乳パックは、
図2(a)に示すように四角柱型の胴体部分(容体)を持ち、上部が三角屋根型に形成されたものが多い。なお、胴体部分は一般に、幅70mm・奥行70mm・高さ194mmの内寸が採用される。
【0008】
消費者の環境意識を高めるため、市販の紙パックには、資源回収時における紙パック形状の模範例として、
図2(b)のような1層のみのシートに展開された形状が表示(印刷)されているのをしばしば見かける。
すなわち、隣合う2枚の側面に共通する長辺(以下、「コーナー稜線」という)に沿って紙パックを切断し、かつ紙パックの底面ちかくにおいて3枚の側面を水平方向に切断する。
図2(a)の紙パックPKを例にとると、まず三角屋根部TPを開いてから、コーナー稜線RG−1に沿って紙パックを切断し、最後に、側面部分SD−1・SD−3・SD−4を底面部BTよりもわずかに上の位置で水平方向に切断することで、
図2(b)の模範形状を得ることができる。
【0009】
上述した特許文献1〜4の技術は、
図2(b)の模範形状を参考に、切断後において紙パックの各側面がたがいに重なり合うことなく1層のみ(一重)のシートとなるよう、紙パックを加工する技術内容となっている。
【0010】
特許文献1の技術によれば、紙パック胴体部分(四角柱型)の軸方向に、ある1つの側面(たとえば
図2(a)のSD1)の中央部分を切り開く。
これと同時に、W字型の切断刃をパック容器軸方向と垂直に押当てることで、パック容器の底面部分BTを胴体部分から切離す。
すなわち、切断後の紙パックの形状として、
図3(a)の形状を得る。
【0011】
また、特許文献2〜4の技術においては、隣接する2つの側面に共通するコーナー稜線沿いに紙パックを切断する。
特許文献2の技術では、紙パックの胴体部分をいずれか1本のコーナー稜線RG(たとえば
図2(a)のRG−1)に沿って切断しつつ、正方形型の底面部BTを重心から各頂点にむけて切ることで、切断後の形状として
図3(b)の形状を得る。
また、特許文献3の技術は、隣接する各側面の間にある4本のコーナー稜線RG−1〜RG−4すべてを切断することで、切断後の紙パック形状として
図4の形状を得る。
【0012】
図2(b)に示した展開図は、回収時における理想的な模範形状の1つであることに相違ない。
実際、市場流通している紙パックには、この模範形状が印刷されたものが多く見受けられる。
そのため、特許文献1・2に代表されるように、紙パック切断後の形状が
図2(b)の模範形状に近しくなることを目指した既存技術が非常に多く看取される。
また、特許文献4の紙容器切断補助装置を用いた場合にも、同文献4の
図10(a)に明示されるように、本願・
図2(b)に示す模範形状に紙パックが解体される。
【0013】
特許文献1・2の技術は、切断後の形状を模範形状に近づけるべく、紙パック胴体部分の側面SDもしくはコーナー稜線RGを垂直方向に一刀両断する機能を備えている。
それゆえに、同文献1・2の器具は、直方体形状の紙パックを器具内部に完全に収容する構造になっている。
そのため、特許文献1・2では器具のサイズが紙パックのサイズを上回ってしまい、発明の原理上、紙パック切断器具の「小型化が図れない」という技術的宿命がある。
同様に、特許文献4の技術についても、紙パック胴体部分をコーナー稜線RGに沿って軸方向に切断するため、紙容器切断補助装置のサイズが、最低限、紙パックのサイズと同寸法であることが必要となり、やはり装置を小型化することは難しい。
【0014】
さらに、紙パック切断器具のサイズがかさばってしまうと、自然、携帯性も損ねることになる。
携帯性は、消費者目線からすると往々にして、器具利用の手軽さにつながる。そのため、いかに優れた機能を備えていても、外寸が大きく手軽さの感じられない紙パック切断器具は使用頻度も少なくなりかねない。
特に、一般家庭向けに購入・使用してもらうためには、小型・軽量かつ構造が簡易で、製造コストがかさまず、廉価に提供(販売)できることが望ましい。
【0015】
また、特許文献1〜3の技術においてはいずれも、紙パックが実際に挿入されていない非使用時であっても、紙パックを切断する刃がむき出しの状態となっている。
そのため、実際に紙パックの解体を行わないときでも、鋭利な切断刃により、器具の利用者が誤って怪我を負ってしまうリスクがある。
【0016】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、紙製パックを平面的にまとめられるような形状に加工できるとともに、従来の紙パック切断器具・紙パック切断刃誘導器具にくらべ「小型かつ安全な構成」とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
ところで、上記の課題を解決するために、本願発明者は、過去に特許文献5において、自ら発明した以下のような紙パック切断器具900(
図5)を開示している。
〔特許文献5の従来技術〕
特許文献5の紙パック切断器具900は、四角柱型の胴体部分を有する立体的な紙パックを平板状にコンパクトにまとめられるよう加工する切断器具であって、
凹状刃が外縁の一部に設けられたスライダ901と、同スライダ901を差込んで摺動できる基体902と、を有している。
スライダ901は、
中央部が両端部よりも引っ込んだ凹型に切断刃が配置されてなり、薄板状の切断刃において一方が垂直面をなすとともに他方が傾斜面をなしている前記凹状刃と、
凹状刃を挟持するための支持溝が一辺に設けられた支持板と、
支持板において支持溝に対向する他辺に取付けられる部材であって、スライダを基体に対して摺動する際、使用者によって把持される持手と、
を備えている。
また、基体902は、
平たい直方体形状を有する基台と、
スライダの支持板の断面と同一形状・同一寸法の開口部であって、基台の上面に設けられた、スライダを基体に差込むためのスライダ挿入口と、
四角柱型の紙パック胴体部分の方形断面と同一寸法・同一形状の開口部であって、基体内部におけるスライダの移動方向と垂直な基台片面のみに設けられた、紙パックの底面部を基体に差込むための紙パック挿入口と、
を備えている。
紙パック切断器具900において、基体902の紙パック挿入口から紙パックPKの底面部を差込み、紙パック挿入口に対向する紙パック停止壁に同底面部を押付けた状態(
図5)にして、スライダ901先端の凹状刃を基体内にある切断刃停止壁まで押込んでいくと、
(1)凹状刃の両端部が、紙パック胴体部分の左右側面を紙パック軸方向と垂直に切断するとともに、
(2)凹状刃の刃渡り全体が、紙パック胴体部分の正面を紙パック軸方向と垂直に切断する。
【0018】
上述したように、
図2(b)に示した模範形状は、回収時における理想的な形状として、全国津々浦々まで広く浸透している。
しかしながら、この模範形状が印刷された紙パックが長きにわたり流通し続けたことで、当該形状は、日本国内において消費者の紙パック収集における強い既成概念を形成し、消費者による発想を硬直化させてしまっていたとも思える。
【0019】
特許文献5において、本願発明者は、このような既成概念と一線を画し、異なる観点から紙パック切断器具900(
図5)を発想した。
【0020】
古紙パルプの再生行程においては、古紙と温水と薬品(苛性ソーダ・脱墨剤など)をパルパーと呼ばれる大型のミキサに投入し、これらを攪拌して古紙を粥状にすることで、紙繊維からインクを剥がしやすくしている。
このような行程に鑑みると、特許文献1〜4の既存技術のごとく、紙製パック容器を構成する各側面が「2重に折り重ならない」よう1枚(1層)のシートに展開(切断)することは、紙パックの資源回収において必須要件ではないものと考えられる。
上述したように、1層のみのシートであるか、何層かが折り重なったシートであるかの分け隔てなく、いかなる形状であっても、古紙は、古紙パルプの再生行程において粥状のどろどろした状態で混ぜられてしまうからである。
【0021】
このような観点から、特許文献5において、本願発明者は、資源回収する際の紙パック形状は、
図7(b)・
図7(c)に示すごとく平板的な形状でありさえすれば、四角柱の側面がたがいに重なり合った2層形状(2枚の紙が重なった形状)であっても問題ないものと考えた。
そこで、着眼したのは「紙パックの底面部BT」である。
【0022】
紙パックを2層の平板状に加工するという着想を具体化するため、特許文献5の技術においては、紙パック胴体部分(四角柱)は原形をとどめたままとし、「底面部BT近くのみを加工」する。
すなわち、特許文献5の紙パック切断器具を使用して紙パックPKを切断した場合、紙パック胴体部分は筒型を維持し、これらの全側面はいずれも互いに切り離されることはない(
図7(a)参照)。
特許文献5の器具により底面部BTを切断した後の紙パックPKは、四角柱の隣合う側面SD同士が重なり合った2層形状(
図7(b)のように2枚の紙が重なった形状)を呈するものであり、特許文献1〜4の技術により得られる紙パック形状(ひとえのシート)とは発想を異にするものである。
【0023】
なお、紙パックPKの底面部BTは、一般的に何層かに紙を折込むことで、平坦な底面を形成している。
このように複数の紙を重ねてあることで、底面部BTは、一層のみの紙で形成された胴体部分側面よりも剛性が高くなっている。
図5のように本願発明者が創作した特許文献5の紙パック切断器具900を使用し、
図6(c)に示す切断線CL沿いに凹状刃で側面SDを切断していく作用も、紙パックの底面BTが強固に作られており凹状刃からの圧力が側面部SDに充分伝達されるがゆえに達成される。
それゆえに、切断線CL(切断する位置)が底面部BTからかなり離れたところでは、凹状刃で側面を切断しようとすると凹状刃からの圧力がかかったところがたわんでしまい、うまく切断することができない。
本願発明者の試行によれば、切断線CL(切断する位置)が底面部BTから1mm〜20mm離れた範囲内であれば、本紙パック切断器具により有効に
図7(a)の形状に加工可能である。
【0024】
特許文献5の発明によれば、使用時は立体形状で飲物を収容する紙パックについて、その容積を小さくする際の作業が容易かつワンアクション(1回の動作)で済み、手間を大幅に減らすことができる。
具体的には、紙パックPKの底面部BTを紙パック挿入口にはめ込んだのち、スライダを押込むだけの単純かつ短時間の作業で済む(
図5参照)。
紙パックPKの加工に要する作業時間が短いことは使用者にとって大きなメリットをもたらし、ひいては紙パックの回収率向上にも資するものと考えられる。
【0025】
また、特許文献5によれば、切断後の紙パック形状は平板状であり(
図7(b)参照)、リサイクル業者が収集にくるまでの期間中、家庭内で保管することができる。
さらに、紙パックを収集拠点に運搬する際にも、平板状で容積がきわめて少ないことから、人手で運ぶ場合にも一度に大量に抱えることができる。
【0026】
なお、特許文献5によれば、紙パック軸方向に沿ってコーナー稜線RGを切断する発想から離れることで、紙パック切断器具1の全体形状を小型化できる(
図5)。
それゆえに、携帯性をも獲得可能となり、消費者にとって紙パックの加工作業が手軽で身近なものとなる。
【0027】
さらに、特許文献5の紙パック切断器具は小型・軽量かつ構造が簡易なことから、製造コストに加えて販売価格も低廉にすることが可能となる。
その結果、紙パック切断器具の一般家庭における普及率向上が期待でき、ひいては紙パック回収率の向上にも寄与しうる。
【0028】
今回、本願発明者は、過去発明した特許文献5の技術的思想から発想を転換し、紙パック切断器具900のように切断刃を備えた構成ではなく、使用者がもちいる任意の切断器具(たとえば、包丁・ナイフなど)の切断刃の誘導のみを行う器具を着想した(
図1(a)参照)。
〔第1発明〕
上記課題を解決するために、本願の第1発明は、四角柱型の胴体部分を有する立体的な紙パックを平板状にコンパクトにまとめられるよう加工するための紙パック切断刃誘導器具であって、
紙パック挿入口を有してなる、紙パックの断面と同一形状・同一寸法の内寸を有する四角柱型の筒からなる胴体部差込筒と、
紙パックの断面と同一形状・同一寸法の内寸を有する浅底の箱からなる、底面部差込筒と、
胴体部差込筒と底面部差込筒との間に存在するコの字状の溝であって、切断器具の刃を外部から挿通できるだけの幅を有する切断刃導入溝と、
を備え、
紙パックの底面部が底面部差込筒に収容された状態で紙パックを固定支持している際、切断刃導入溝に外部から挿通された切断器具の刃を、当該切断刃導入溝に沿って誘導する構成とした。
【0029】
第1発明に係る紙パック切断刃誘導器具によれば、同誘導器具自体は切断刃を持つように構成されていないものの、切断刃導入溝13に対して外部から挿通された切断器具の刃を誘導する。
これにより、紙パック胴体部分の連なる3つの側面を紙パック軸方向と垂直に切断することができ(
図1(b)参照)、上記特許文献5と同様の効果を奏することが可能となる。