特許第6799951号(P6799951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6799951内面防食性に優れたアルミニウム押出扁平多穴管及びそれを用いてなるアルミニウム製熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799951
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】内面防食性に優れたアルミニウム押出扁平多穴管及びそれを用いてなるアルミニウム製熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/02 20060101AFI20201207BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20201207BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   F28F1/02 B
   F28F19/06 A
   F28F21/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-123855(P2016-123855)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-36906(P2017-36906A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-159193(P2015-159193)
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一
(72)【発明者】
【氏名】山下 尚希
(72)【発明者】
【氏名】永尾 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 聡
(72)【発明者】
【氏名】内藤 壽久
(72)【発明者】
【氏名】沖ノ谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】市川 晋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
【審査官】 安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−142755(JP,A)
【文献】 特開2014−095524(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0118282(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/02
F28F 19/06
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料の押出加工によって得られた、全体として扁平な断面形状を呈する押出管であって、管軸方向に互いに独立して平行に延びる複数の流路を有し、且つそれら流路が、管軸方向に延びる内部隔壁部を介して、扁平形状の長手方向に配列せしめられているアルミニウム押出扁平多穴管にして、
前記アルミニウム材料としてアルミニウム管本体材料とこのアルミニウム管本体材料よりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とを用いた押出加工によって形成されていると共に、前記複数の流路のそれぞれの横断面における流路内周部の少なくとも一部において、該アルミニウム犠牲陽極材料が露呈せしめられて、犠牲陽極部が形成され、且つかかる犠牲陽極部の露呈面積が、前記扁平形状の長手方向における中央部側に位置する流路よりも該長手方向における両端部に位置する流路において、少なく、更に前記複数の流路の隣り合うものの間に存在する前記内部隔壁部のうち、前記扁平形状の長手方向の両端部に位置する内部隔壁部は、それぞれ、他の内部隔壁部よりも厚さが厚くされていることを特徴とする内面防食性に優れたアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項2】
前記複数の流路の隣り合うものの間に位置する前記内部隔壁部において、前記犠牲陽極部が、該内部隔壁部の厚さの100%以下の割合で存在せしめられている請求項1に記載のアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項3】
前記内部隔壁部以外の管周壁部において、前記犠牲陽極部が、該管周壁部の厚さの90%以下の割合で存在せしめられている請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項4】
前記アルミニウム犠牲陽極材料と前記アルミニウム管本体材料との電位差は、5mV以上、300mV以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項5】
前記犠牲陽極部が、管横断面において、前記流路の周長の少なくとも10%以上の長さに亘って形成されて、該流路内面に露呈せしめられている請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項6】
前記複数の流路の隣り合うものの間に位置する前記内部隔壁部が、その壁厚の最も薄い部位から、該内部隔壁部によって接続される両側の管周壁部に向かって連続的に若しくは段階的に増大する壁厚において延び、該両側の管周壁部に対して、該内部隔壁部の最も薄い壁厚部位の厚さよりも大なる厚さの連結部にてそれぞれ連結せしめられている請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のアルミニウム押出扁平多穴管。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のアルミニウム押出扁平多穴管と、該アルミニウム押出扁平多穴管の外面にろう付け接合されたアルミニウム製アウターフィンとを含んで構成されていることを特徴とするアルミニウム製熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面防食性に優れたアルミニウム押出扁平多穴管とそれを用いてなるアルミニウム製熱交換器に係り、特に、熱交換器、中でもカーエアコン、ラジエータ等の自動車用熱交換器の伝熱管として好適に用いることが出来る、冷却液の流通せしめられる流路内面の耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム押出扁平多穴管と、それを用いて得られたアルミニウム製の熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ラジエータやヒータ等、伝熱チューブが冷却液の流路となる熱交換器では、かかる伝熱チューブの内面防食のために、チューブ内面側となる面に犠牲材料がクラッドされてなる板材を、チューブ状に折り曲げて形成される板製の伝熱チューブが、用いられてきている。特に、熱交換器の高性能化には、流路数を増加させることが有効であるところから、板製の伝熱チューブにおいては、インナーフィンを設けることによって、複数の流路がチューブ内に形成されているのである。しかし、そのような構造は、接合点が多いために、ろう付け接合不良が生じやすく、耐圧強度不足によるバーストが懸念される問題がある。また、ろう付け時に用いられるフラックスによって、内面に形成される流路の目詰まり等の問題も内在している。これら問題を解決するには、各流路の仕切り壁がろう付けされたものではなく、フラックスも使用することなく製造される押出扁平多穴管を使用することが有効である。
【0003】
そして、かかる押出扁平多穴管としては、通常、アルミニウム若しくはアルミニウム合金をポートホール押出しして得られるものが用いられており、例えば、特開平6−142755号公報(特許文献1)、特開平5−222480号公報(特許文献2)、WO2013/125625(特許文献3)等に示される如き断面形状を有する扁平多穴管が、明らかにされている。
【0004】
ところで、そのような熱交換器の伝熱チューブとして用いられる、押出加工によって得られる扁平多穴管にあっては、上述せるように、その内面側の流路(通路)に冷却液が流通せしめられるものであるところから、そのような冷却液に起因して、流路内面に腐食が惹起されるという問題が内在しており、そしてそのような腐食の進行によって、管壁(外周壁)を貫通する腐食孔等が生じたりすると、熱交換器としての機能を全く喪失することとなるのである。
【0005】
そこで、上記した押出扁平多穴管にあっては、前記特開平5−222480号公報(特許文献2)にも明らかにされている如く、特定の成分組成のアルミニウム合金を単一で用いて、押出加工することによって、適切な防食性を具備する扁平多穴管を製造することが提案されているのであるが、流路内面の防食性においては充分でなく、近年における高い防食性の要請に充分に応え得ないのみならず、チューブ全体を特定材質のアルミニウム合金にて構成するものであるところから、得られるチューブの特性が、かかる特定合金組成のアルミニウム合金によって制限を受けるという問題も内在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−142755号公報
【特許文献2】特開平5−222480号公報
【特許文献3】WO2013/125625
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況下、本発明者らは、アルミニウム材料の押出加工によって得られるアルミニウム押出扁平多穴管において、その管軸方向に互いに独立して平行に延びるように設けられる複数の流路の内面防食性を向上させるべく、鋭意検討した結果、押出加工されるアルミニウム材料として、通常のアルミニウム管本体材料と、それよりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とを用いて、熱間押出加工することにより、得られるアルミニウム押出扁平多穴管の複数の流路の内面に、かかるアルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部を有利に露呈せしめることが出来、そしてその犠牲陽極部の存在によって発揮される犠牲陽極効果により、そのようなアルミニウム押出扁平多穴管の流路に対して優れた内面防食性を付与し得ることを見出したのである。
【0008】
従って、本発明は、かくの如き知見に基づいて完成されたものであって、その解決課題とするところは、アルミニウム材料の押出加工によって得られる、全体として扁平な断面形状を呈するアルミニウム押出扁平多穴管において、その管軸方向に互いに独立して平行に延びるように設けられた流路の内面における防食性を効果的に高めることにあり、また他の課題とするところは、流路内面の防食性を犠牲陽極効果によって著しく高めたアルミニウム押出扁平多穴管と、それを用いて得られる防食性に優れたアルミニウム製熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題の解決のために、アルミニウム材料の押出加工によって得られた、全体として扁平な断面形状を呈する押出管であって、管軸方向に互いに独立して平行に延びる複数の流路を有し、且つそれら流路が、管軸方向に延びる内部隔壁部を介して、扁平形状の長手方向に配列せしめられているアルミニウム押出扁平多穴管にして、前記アルミニウム材料としてアルミニウム管本体材料とこのアルミニウム管本体材料よりも電気化学的に卑なアルミニウム犠牲陽極材料とを用いた押出加工によって形成されていると共に、前記複数の流路のそれぞれの横断面における流路内周部の少なくとも一部において、該アルミニウム犠牲陽極材料が露呈せしめられて、犠牲陽極部が形成されていることを特徴とする内面防食性に優れたアルミニウム押出扁平多穴管を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、本発明においては、有利には、前記複数の流路の隣り合うものの間に位置する内部隔壁部において、前記犠牲陽極部が、かかる内部隔壁部の厚さの100%以下の割合で存在せしめられており、また内部隔壁部以外の管周壁部において、前記犠牲陽極部が、管周壁部の厚さの90%以下の割合で存在せしめられている。
【0011】
また、かかる本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管の望ましい態様の一つにあっては、前記アルミニウム犠牲陽極材料は、前記アルミニウム管本体材料よりも電気化学的に卑であり、その電位差は、5mV以上、300mV以下であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明にあっては、上記した犠牲陽極部は、管横断面において、前記流路の周長の少なくとも10%以上の長さに亘って形成されて、該流路内面に露呈せしめられていることが望ましいのである。
【0013】
加えて、本発明の望ましい態様の一つによれば、前記複数の流路の隣り合うものの間に存在する内部隔壁部のうち、前記扁平形状の長手方向の両端部に位置する内部隔壁部は、それぞれ、他の内部隔壁部よりも厚さが厚くされている。
【0014】
また、本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管の更に望ましい他の態様の一つによれば、前記複数の流路の隣り合うものの間に位置する内部隔壁部が、その壁厚の最も薄い部位から、該内部隔壁部によって接続される両側の管周壁部に向かって連続的に若しくは段階的に増大する壁厚において延び、該両側の管周壁部に対して、かかる内部隔壁部の最も薄い壁厚部位の厚さよりも大なる厚さの連結部にてそれぞれ連結せしめられている。
【0015】
そして、本発明にあっては、上述の如き本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管と、このアルミニウム押出扁平多穴管の外面にろう付け接合されたアルミニウム製アウターフィンとを含んで構成されていることを特徴とするアルミニウム製熱交換器をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う構成とされたアルミニウム押出扁平多穴管においては、その管軸方向に互いに独立して平行に延びる複数の流路の内面に、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部が露呈されて存在せしめられているところから、犠牲陽極効果によって、内面防食性が効果的に高められ得ることとなるのであり、これによって、ラジエータやヒータ等、チューブ内面側が冷却液となる熱交換器の伝熱管として有利に用いられ得ることとなったのである。
【0017】
また、かかる本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管は、アルミニウム管本体材料とアルミニウム犠牲陽極材料とから構成され、それら2つの材料の同時押出加工によって形成されるものであるところから、管としての特性はアルミニウム管本体材料にて確保しつつ、内面防食性はアルミニウム犠牲陽極材料にて効果的に発揮せしめ得ることとなるのであって、これにより、目的とする押出扁平多穴管の設計自由度を有利に高め得る利点も有しているのである。
【0018】
さらに、本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管を用いて、それとアルミニウム製アウターフィンとを組み付け、ろう付け加熱により接合して構成されるアルミニウム製熱交換器にあっては、かかるアルミニウム押出扁平多穴管の優れた内面防食特性によって、熱交換器としての防食性も有利に高められ得るものとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管の一例を模式的に示す断面説明図であって、(a)は、その全体図を示し、(b)は、その一部を拡大して示し、(c)は、犠牲陽極部が異なる露呈割合である例の一部を拡大して示す説明図である。
図2】本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管のそれぞれ異なる他の例を模式的に示す断面部分説明図であって、(a)は、図1(c)に相当する異なる例を示し、(b)は、図1(b)に相当する異なる例を概念的に示すものである。
図3】本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管における内部隔壁部の各種形態を模式的に示す断面説明図であって、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、内部隔壁部の異なる例を示す説明図である。
図4】本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管における内部隔壁部の別の形態を模式的に示す断面説明図である。
図5】実施例において用いられた複合ビレットの横断面を示す説明図である。
図6】比較例において用いられた単体ビレットの横断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管の一例が、その長手方向(管軸方向)に対して直角な方向の断面となる横断面の形態において、模式的に示されている。そこにおいて、本発明に従う扁平多穴管10は、全体として扁平な横断面形状を呈するアルミニウム材料の押出管であって、互いに独立して管軸方向に平行に延びる矩形形状の空孔からなる流路12の複数を備えていると共に、それら複数の流路12が、扁平形状の長手方向(図において左右方向)に所定間隔を隔てて配列せしめられてなる構造とされている。なお、この扁平多穴管10の対向する上面と下面は、それぞれ平坦面とされて、そこに、従来と同様に、アルミニウム又はその合金からなる公知のプレートフィンやコルゲートフィンの如きアウターフィン(図示せず)が、ろう付け等の接合手法により取り付けられて、熱交換器として用いられ得るようになっている。また、流路12の横断面形状は、ここでは、矩形形状とされているが、公知の円形、楕円形、三角形、台形等の形状、又は、それらを組み合わせた各種の形状を採用することが可能である。
【0022】
そして、本発明にあっては、このような構造の扁平多穴管10において、図1の(a)から明らかな如く、その管周壁部14の少なくとも外周部が、通常のアルミニウム管本体材料にて構成されるようにする一方、隣り合う流路12,12の間に位置する内部隔壁部16を含む流路12の周囲に、アルミニウム犠牲陽極材料からなる犠牲陽極部18が存在せしめられて、この犠牲陽極部18が、流路12の内周部の少なくとも一部において(ここでは、全周において)、露呈せしめられるようになっている。なお、ここで、管周壁部14は、図示の如く、扁平多穴管10の外周壁を構成するものであって、各流路12に対して外部隔壁部として機能するものである。また、そのような犠牲陽極部18は、図1の(b)に示される如く、内部隔壁部16に位置する場合においては、かかる内部隔壁部16の厚さTwの100%以下の割合で存在せしめられ、その下限は、好ましくは内部隔壁部16の厚さTwの少なくとも1%以上、より好ましくは5%以上となるように、存在せしめられることとなる。このように、犠牲陽極部18にて内部隔壁部16を構成することにより、内部隔壁部16においては、犠牲陽極効果により優先して腐食が進行することとなり、以て管周壁部14の腐食による早期に冷却液漏れを生じる貫通を抑制乃至は阻止する効果が、有利に発揮されるのである。
【0023】
一方、かかる犠牲陽極部18が、内部隔壁部16以外の管周壁部14に位置する場合には、その厚さTaは、かかる管周壁部14の厚さTsの90%以下、望ましくは80%以下の割合において存在せしめられ、その下限としては、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上の割合となるように、存在せしめられることとなる。即ち、Ta≦0.9×Tsであり、またTa≧0.01×Tsが好ましいのである。なお、犠牲陽極部18が管周壁部14の肉厚Tsの90%を超えるようになると、犠牲陽極部18の腐食消耗後に、管周壁部14の厚さが薄くなり過ぎて、扁平多穴管10としての耐圧強度が低下する等の問題を惹起する。
【0024】
また、上述の如き犠牲陽極部18は、扁平多穴管10に設けられた複数の流路12の全ての内面において、露呈せしめられるものであり、更にそのような犠牲陽極部18は、それぞれの流路12の内面において、管軸方向に連続して露呈せしめられていることが望ましいのであるが、また部分的に非連続となっていたり、或いは所定長さにおいて管周方向の複数の位置で管軸方向に延びる形態において露呈せしめられていても、何等差し支えない。本発明にあっては、有利には、そのような犠牲陽極部18が、扁平多穴管10の任意の横断面において、常に流路12の内面に露呈せしめられてなる構造が、採用されることとなる。
【0025】
さらに、そのような犠牲陽極部18の流路12内面における露呈領域としては、図1の(b)に示される流路12の横断面における周長Lの少なくとも10%以上に相当する範囲において露呈するように構成されていることが望ましく、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上が有利に採用されることとなる。このように、犠牲陽極部18が流路12の周長Lのより長い領域に亘って露呈せしめられていることにより、犠牲陽極効果による防食性が、より有利に発現され得ることとなるのであり、特に、最も好ましい状態としては、図1の(a)や(b)に示される如く、犠牲陽極部18が流路12の周長Lの全長に亘って存在している場合である。なお、各流路12における犠牲陽極部18の露呈領域を全て同一とする必要はなく、例えば、図1の(c)に示されるように、流路12毎に異なる露呈割合において、犠牲陽極部18を露呈させることも可能である。
【0026】
なお、本発明において用いられるアルミニウム犠牲陽極材料は、アルミニウム管本体材料よりも、電気化学的に卑となるものである。従って、それら材料の電位差は、0mV超
えとなるものであるが、好ましくは5mV以上、300mV以下の範囲である。この電位
差が5mV以上となることで、より厳しい腐食環境下においても、確実に犠牲陽極効果を
発揮しやすくなるのである。一方、電位差が300mV超えとなると、犠牲陽極効果が顕
著となり、犠牲陽極材の腐食消耗が激しくなる等の問題が惹起される。このように、犠牲陽極部18が、アルミニウム管本体材料からなる管周壁部14等より電位的に卑であることによって、有効な犠牲陽極効果が発揮され得て、流路内面の防食性が、より有利に発現され得ることとなるのである。
【0027】
ところで、かくの如き扁平多穴管10において、その管周壁部16の少なくとも外周部を構成する管本体材料としては、従来から押出加工による扁平多穴管の製造に用いられているアルミニウム材料がそのまま用いられ得るものであって、例えば、JIS称呼のA1000系純アルミニウム材料や、A3000系アルミニウム合金材料等を用いることが出来、更には、そのようなアルミニウム材料に、電位を貴にするため、合金成分としてCuが所定量含有せしめられていてもよい。また、犠牲陽極部18を与える犠牲陽極材料には、上記の管本体材料よりも電気化学的に卑、換言すれば自然電位が卑となる公知のアルミニウム合金材料が用いられ、例えば、Znを所定量含むアルミニウム合金等が用いられることとなる。
【0028】
そして、上述の如き本発明に従う扁平多穴管10は、押出加工されるアルミニウム材料として、上記した管本体材料と犠牲陽極材料とを用い、それら材料を同時押出加工することによって、製造されるものであるが、それら管本体材料と犠牲陽極材料とは、一般に、芯鞘構造の複合ビレットとして用いられることとなる。具体的には、管本体材料の内部(中心部)に設けた空洞部に、例えば矩形形状(角部が曲線状のものを含む)、円形、長円形、楕円形、長円形と楕円形との組合せ、多角形などの、該空洞部に対応した断面形状を有すると共に、断面寸法を最適化した犠牲陽極材料を配置せしめて、それらを溶接等によって接合して、一体化することにより、犠牲陽極材料からなる芯部分の周りに、管本体材料からなる鞘部分が形成されてなる構造の複合ビレットが、用いられるのである。なお、この複合ビレットの製造には、公知の各種の手段が採用され得、例えば、管本体材料からなるビレットの中心部に所定大きさの貫通孔を設けて鞘ビレットを形成し、そしてその貫通孔内に犠牲陽極材料からなる芯ビレットを挿入して、一体化せしめる手法の他、そのような鞘ビレットを二つ割りにした形態において作製し、そしてそれら二つ割りの鞘ビレットの空所に、芯ビレットを配置した形態において、全体を溶接等により固定して、一体化せしめる手法等によって、目的とする複合ビレットを形成することが可能である。
【0029】
さらに、かかる複合ビレットには、従来の押出扁平多穴管の製造の場合と同様な、複数の押出口を有するダイス、所謂ポートホールダイスを用いて、熱間押出加工する手法が適用され、これにより、目的とする押出扁平多穴管を得ることが出来ることとなるのであるが、その際、扁平多穴管の複数の流路に対応するように配設された長手の押出口を有するダイスに対して、複合ビレットの内部に配置せしめられた犠牲陽極材料の所定の断面形状における長手方向が、かかるダイスの押出口の長手方向と一致するように、当該複合ビレットを配置して、熱間押出加工が実施されるのである。このような複合ビレットのポートホールダイスに対する押出形態の採用により、得られる扁平多穴管の扁平形状の両端部に位置する流路を仕切る隔壁部にまで、複合ビレット中の犠牲陽極材料を効果的に配分せしめ得て、犠牲陽極部を流路の内周面に有利に露出せしめ得ることとなる。
【0030】
なお、上述の如くして、アルミニウム管本体材料とアルミニウム犠牲陽極材料とを同時押出加工することによって製造される、本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管にあっては、一般に、先の図1(c)に示されるように、流路12の存在位置によって、流路内面に露呈せしめられている犠牲陽極部18の割合(面積)が異なる構造となり、これによって、内部隔壁部16における犠牲陽極部18の腐食に差が生じやすくなるのである。即ち、扁平形状の長手方向の両端部となる、扁平多穴管10の幅方向両端部の流路12aにおいては、それよりも扁平形状の長手方向の中央部側となる他の流路12bよりも、犠牲陽極部18の露呈割合(面積)が少なく、それによって、流路12aを区画する内部隔壁部16aと流路12bの扁平形状の長手方向中央部側の内部隔壁部16bとの間における犠牲陽極部18の腐食に差が生じるようになるのである。このため、本発明にあっては、図2(a)に示される如く、扁平多穴管10の幅方向両端部に位置して、両端部の流路12aを区画する内部隔壁部16aの厚さTweを、それよりも幅方向中央部側に位置する他の内部隔壁部16bの厚さTwiよりも厚くなるように構成して、腐食による両端部側の内部隔壁部16aの残存厚さを改善することが推奨されるのである。
【0031】
また、図1(c)や図2(a)に示されるように、犠牲陽極部18が内部隔壁部16(16a,16b)に存在し、管周壁部14には殆ど存在しないか、或いは存在しても、その厚さが内部隔壁部16の厚さよりも薄い場合には、内部隔壁部16が主として腐食されることとなるのであるが、その際、内部隔壁部16の管周壁部14に対する連結部16cにおいて、優先的に腐食され易くなる。このため、本発明にあっては、図2の(b)に示される如く、かかる内部隔壁部16の管周壁部14に対する連結部16cの幅Tbを、内部隔壁部16の最小厚さ(壁厚の最も薄い部位の厚さ)Tmin よりも大きくする構成が有利に採用され、これによって、内部隔壁部16の連結部16cの腐食減少が有利に改善せしめられ得ることとなる。即ち、複数の流路の隣り合うものの間に位置する内部隔壁部16が、その壁厚の最も薄い部位から、そのような内部隔壁部16によって接続される両側の(図2(b)において上下に位置する)管周壁部14に向かって連続的に若しくは段階的に増大する壁厚において延び、かかる両側の管周壁部14に対して、内部隔壁部16の最も薄い壁厚部位の厚さTmin よりも大なる厚さ(幅)の連結部16c、16cにて、それぞれ、連結せしめられていることが望ましいのである。なお、ここで、連結部16cの幅Tbは、内部隔壁部16の両側において、管周壁部14からそれぞれ立ち上がり、内部周壁部16(連結部16c)を与える部位間の距離を意味するものとする。
【0032】
そして、かかる本発明の好ましい連結部16cの形態は、図2(b)に示される形状に限定されるものでは決してなく、例えば図3図4に示される如き形状を採用することも可能である。具体的には、図3(a)においては、内部隔壁部16の最小厚さ部位から、内部隔壁部16の厚さが直線的に変化する形状が採用されており、また図3(b)においては、内部隔壁部16の最小厚さ部位の厚さTmin より曲線的に厚さが厚くなる形態が示されており、更に図3(c)においては、図における上側の管周壁部14に近接した位置に、内部隔壁部16の最小厚さ部位が位置せしめられ、そこから、上下方向の両側に位置する管周壁部14に向かって、壁厚が直線的に又は曲線的に増大せしめられて、上下の管周壁部14、14にそれぞれ連結せしめられるようになっているのである。しかも、図3(c)に示される形態においては、内部隔壁部16の上下の連結部16c、16cの幅が異なる(T’b<Tb)構造とされている。更にまた、図4には、内部隔壁部16の最小厚さ部位が上下方向に所定長さに渡って存在せしめられ、そしてその上下の端部から、壁厚が段階的に(段付構造において)増大せしめられて、上下の管周壁部14、14に対して、それぞれ連結されているのである。なお、例示の内部隔壁部16の両側の形状は、何れも、同一形状とされているが、勿論、異なる形状とすることも可能である。このように、本発明に従う連結部16cを介して、管周壁部14に連結される内部隔壁部16の形状は、当業者の知識に基づいて、種々変更せしめられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0033】
ところで、上述の如き本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管は、熱交換器における冷媒流路部材として、好適に用いられ得るものである。そして、本発明に従うアルミニウム押出扁平多穴管を冷媒通路管として用いる場合においては、例えば、互いに間隔を置いて配置された一対のアルミニウム製ヘッダータンクと、両ヘッダータンク間に、幅方向を通風方向に向けた状態で、ヘッダータンクの長手方向に間隔を置いて互いに平行に配列され、かつ両端部が両ヘッダータンクに接続された複数のアルミニウム押出扁平多穴管と、隣り合う扁平多穴管同士の間及び両端の扁平多穴管の外側に配置されて、それら扁平多穴管にろう付けされた、アウターフィンであるアルミニウム製コルゲート状フィンと、両端のコルゲート状フィンの外側に配置されて、かかるフィンにろう付けされたアルミニウム製サイドプレートとを備えてなる構造において、熱交換器が構成されることとなるが、勿論、そのような構造の熱交換器の他にも、公知の各種の熱交換器における冷媒通路管として、本発明従うアルミニウム押出扁平多穴管を用いることが出来ることは、言うまでもないところである。
【0034】
なお、よく知られているように、熱交換器における一対のヘッダータンクは、一方のヘッダータンクから扁平多穴管に冷媒若しくは冷却液を分配して流入させると共に、他方のヘッダータンクは、扁平多穴管から流出した冷媒若しくは冷却液を集合させるものであって、例えば、公知の如く、ヘッダープレートとヘッダープレートとを対向してろう付けしたものや、板を環状に曲げ成形して、管部を溶接又はろう付けして構成されたものの他、環状に押し出された押出管等が、用いられることとなる。
【0035】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0036】
そして、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、またそのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことも、また、理解されるべきである。
【0038】
−実施例1−
本発明に従う扁平多穴管として、下記表1に示される成分組成(%:質量基準)を有する管本体材料と犠牲陽極材料からなる複合ビレットa〜hを製作し、その熱間押出加工によって、それぞれ、扁平多穴管A〜Hを得た。また、比較例として、下記表1に示される成分組成の単体若しくは複合ビレットi,jを同様に製作し、その熱間押出加工によって、扁平多穴管I及びJをそれぞれ得た。そして、それら得られた扁平多穴管A〜Jを用いて、以下の(1)犠牲陽極部の形成範囲の測定、(2)電位測定、及び(3)防食性評価を実施した。
【0039】
【表1】
【0040】
具体的には、先ず、かかる表1に示される本発明ビレットa〜h及び比較ビレットjにおける管本体材料用成分を用いて、常法に従って、DC鋳造により、90mmφの各種の管本体用ビレットを作製した。一方、上記表1に示される本発明ビレットa〜h及び比較ビレットjにおける犠牲陽極材料用成分を用いて同様に作製した犠牲陽極用ビレットを、矩形の縦・横寸法が30mm〜85mmの範囲内において種々組み合せて、所定の寸法に成形・加工した。なお、比較ビレットjにおける犠牲陽極用ビレットは、70mm×70mmの正方形状とした。そして、前記管本体用ビレットの断面中央部に、かかる加工済みの犠牲陽極用ビレットを挿入し得る貫通孔を形成せしめて、その貫通孔内に、犠牲陽極用ビレットを嵌入し、更にそれら管本体用ビレットと犠牲陽極用ビレットとを、それらの長手方向両端面において、MIG溶接により固定・接合せしめて、それぞれの複合ビレットa〜h及びjを、図5に示される如き断面形態を有する、一体的な複合ビレット20として、作製した。また、比較例として、上記表1に示される比較ビレットiにおける管本体材料用成分からなる単体ビレットを作製した。この比較ビレットiに係る合金成分の単体ビレットは、犠牲陽極用ビレットを用いていない従来材と同様な、図6において、30として示される単体ビレットである。なお、図5、6において、22及び32は、管本体用ビレットであり、24は犠牲陽極用ビレットである。
【0041】
次いで、かかる得られた複合ビレット20又は単体ビレット30を、ビレットヒータにて500℃まで加熱した後、8穴の矩形穴(8個の流路)を形成するための押出口を備えた、従来と同様なポートホールダイスを用いて、熱間押出加工することにより、図1に示される如き8穴の扁平多穴管A〜H及びI〜J(全体厚さ:2.0mm、扁平方向の幅:16mm、管周壁部及び内部隔壁部の肉厚:0.25mm)を、それぞれ製造した。
【0042】
(1)犠牲陽極部の形成範囲の測定
かくして得られた8穴の各種の扁平多穴管(10)を押出長手方向の1/2の位置で切断して、その断面を観察した。即ち、かかる断面のミクロ組織を倍率25倍で撮影した写真を用いて、その犠牲陽極部(18)の領域を物差しで計測することにより、犠牲陽極部(18)の形成範囲を測定した。そして、このような犠牲陽極部(18)の形成範囲の測定において、犠牲陽極部(18)の形成範囲が、流路(12)の周長(矩形の流路の4つの壁面の合計長さ)の10%以上である場合は(〇)とし、周長の0%以上、10%未満である場合は(×)として、評価した。また、流路が隣り合う内部隔壁部(16)における犠牲陽極部(18)の厚さが内部隔壁部(16)の厚さの0%を超え100%以下の場合は(○)とし、0%の場合は(×)として、評価した。さらに、管周壁部(14)における犠牲陽極部(18)の厚さが管周壁部(14)の厚さの90%以下の場合は(○)とし、90%を超える場合は(×)として、評価した。下記の表2には、本発明に係る扁平多穴管A〜H及び比較例に係る扁平多穴管I及びJについて、上記の犠牲陽極部18の形成範囲を測定した結果が、各流路で露呈される犠牲陽極部(18)の周長が最小となる値、内部隔壁部(16)や管周壁部(14)における犠牲陽極部(18)の最大厚さとして、示されている。
【0043】
【表2】
【0044】
かかる断面観察の結果、上記の押出加工によって得られた本発明に係る扁平多穴管A〜Hにおいては、隣接する流路(12)の間に位置する内部隔壁部(16)の全てに、犠牲陽極用ビレットからなる犠牲陽極部(18)が内部隔壁部(16)の厚さの100%以下の厚さで露呈されていることが確認された。また、管周壁部(14)に形成される犠牲陽極部(18)の厚さは、何れも、内部隔壁部(16)の厚さの80%以下であり、更に、そのような扁平多穴管(10)の全ての流路(12)では、周長の0%を超えた長さ範囲において、犠牲陽極部(18)が露呈されていることが認められた。
【0045】
また、このように熱間押出して得られた扁平多穴管(10)にあっては、その押出長手方向において、犠牲陽極用ビレットにて形成される犠牲陽極部(18)が、流路(12)の内面に安定して露呈せしめられていることも、確認された。
【0046】
一方、比較例に係るビレット組成iの単体ビレット30を用いて、ポートホールダイスによる熱間押出加工を実施して得られた扁平多穴管Iは、犠牲陽極用ビレットを用いていないため、犠牲陽極部18の露呈部位は、何等存在していなかった。また、犠牲陽極用ビレットとして、70mm×70mmの正方形状に加工されたビレットを用いて作製された複合ビレットjから得られた比較例に係る扁平多穴管Jは、その幅方向中央部の内部隔壁部(16)において、犠牲陽極用ビレットからなる犠牲陽極部(18)が内部隔壁部(16)の厚さの100%以下の厚さで露呈されていることが確認された。また、管周壁部(14)に形成された犠牲陽極部(18)の厚さは、最も厚い部位で管周壁部(14)の厚さの93%であった。しかしながら、幅方向両端部の流路(12)において犠牲陽極部(18)が全く露呈していない部位が存在し、その範囲は、流路(12)の周長の0%となるものであった。
【0047】
(2)電位測定
上記で得られた、本発明に従う扁平多穴管A〜Hと、比較例に係る扁平多穴管I及びJを用いて、それぞれ、管本体材料と犠牲陽極材料の電位を測定した。なお、比較例に係る扁平多穴管Iは管本体材料のみで構成された単一ビレットから製造されており、犠牲陽極部(18)は形成されていない。
【0048】
具体的には、本発明に係る扁平多穴管A〜Hと比較例に係る扁平多穴管I及びJに対して、それらが熱交換器における伝熱管として用いられる際の、フィン接合のためのろう付け加熱を想定して、600℃×3分の加熱処理を施した後、それらを押出長手方向に40mmの長さでそれぞれ切断した。そして、管本体材料の電位を測定する供試材は、その周壁部の片側の外表面の幅方向中央部に10mm×10mmの管本体材料の露出面を残し、切断端面の片側に電位測定用のリード線を接続する部位を除く全てをシリコーン樹脂にてマスキングすることにより、電気的に絶縁した。また、犠牲陽極部(18)(犠牲陽極材料)の電位を測定する供試材は、その扁平形状の長手方向(管軸方向)に延びる切断面において、厚さ1/2に切断し、その半体の幅方向中央部に10mm×10mmの犠牲陽極部(18)の露出面を残して、切断端面の片側に電位測定用のリード線を接続する部位を除く全てをシリコーン樹脂にてマスキングすることにより、電気的に絶縁した。
【0049】
また、電位の測定方法としては、参照電極として、飽和KClカロメル電極(SCE:Saturated Calomel Electrode )を用いる一方、試験溶液としては、酢酸にてpH3に調整された5%NaCl水溶液を用い、それを室温下にて撹拌しつつ、その溶液に供試材を24h浸漬した後、それぞれの電位を測定する方法を、採用した。
【0050】
そして、上記測定で得られた管本体材料と犠牲陽極材料との電位差の結果を、下記表3に示す。なお、かかる管本体材料と犠牲陽極材料との電位差が、5mV以上、300mV
以下の場合は(◎)とし、その電位差が0mVを超え、5mV未満の場合及び300mV
を超える場合は(〇)とし、0mVの場合は(×)として、評価した。
【0051】
【表3】
【0052】
かかる表3に示される電位測定結果より明らかな如く、本発明に係る扁平多穴管A〜Hの、想定されるろう付け加熱後における犠牲陽極部(18)(犠牲陽極材料)と管本体材料との電位差は、3〜350mVであり、何れも、有効な犠牲陽極効果を有する結果を示
すものであった。
【0053】
これに対して、比較例に係る扁平多穴管Iを供試材とした場合にあっては、比較例に係る扁平多穴管Iは、犠牲陽極材料を用いることなく、従来材と同様の、管本体材料のみで構成された扁平多穴管であるところから、その電位差は0mVであった。
【0054】
また、同じく比較例に係る扁平多穴管Jを供試材として、上記と同様な電位測定を行ったところ、比較例に係る扁平多穴管Jの、想定されるろう付け加熱後における犠牲陽極部(18)(犠牲陽極材料)と管本体材料との電位差は150mVとなり、犠牲陽極効果を
有する結果となった。
【0055】
(3)防食性評価
前記で得られた、本発明に係る扁平多穴管A〜Hと比較例に係る扁平多穴管I及びJを供試材として、それぞれ、OY水浸漬試験を実施し、それぞれの内面防食の効果を検証した。このOY水浸漬試験は、純水1Lに、塩化ナトリウム:0.026g、硫酸ナトリウム(無水):0.089g、塩化第二銅(2水和物):0.003g、及び塩化第二鉄(6水和物):0.145gを溶かして得られた試験液に対して、上記の供試材を内面のみを暴露して浸漬し、80℃の温度で8時間保持した後、室温で16時間保持することを1サイクルとして、それを30サイクル、60サイクル又は90サイクル繰り返すことにより、内面防食性を評価するものである。
【0056】
具体的には、本発明に係る扁平多穴管A〜Hと比較例に係る扁平多穴管I及びJに対して、それらが熱交換器における伝熱管として用いられる際の、フィン接合のためのろう付け加熱を想定して、600℃×3分の加熱処理を施した後、それらを押出長手方向に100mmの長さで切断し、その外表面及び切断端面の全てをシリコーン樹脂にてマスキングすることにより、電気的に絶縁した。次いで、このシリコーン樹脂でマスキングされた供試材を、上記のOY試験液に浸漬せしめて、撹拌下、80℃の温度で8時間浸漬した後、加熱及び撹拌を停止した状態において、更に16時間保持することを1サイクルとして、それを30、60又は90サイクル繰り返すことにより、3水準の期間での防食性の評価試験を実施した。
【0057】
そして、かかる防食性の評価試験の終了した供試材に対しては、表面のシリコーンシーラント樹脂を剥離した後、ヒータで昇温したリン酸クロム酸液に投入して、供試材表面の腐食生成物を除去して、供試材表面における貫通孔の有無を調べた。更に、その腐食生成物を除去した供試材を、その扁平形状の長手方向(管軸方向)に延びる切断面において、厚さ1/2に切断して、その半体を、埋め込み樹脂で埋包した後、最大腐食部に対して耐水ペーパーによる断面出しを施し、更にバフ研磨にて鏡面仕上げすることにより、それぞれの供試材の流路内面の腐食状況を観察した。なお、上記試験で使用された供試材について、OY水浸漬試験において、60サイクルでは貫通は発生せず、90サイクル後に貫通が見られた場合或いは未貫通の場合は(◎)とし、30サイクルでは貫通は発生せず、60サイクル後に貫通が見られた場合は(○)とし、30サイクル後に貫通が見られた場合を(×)として、評価した。
【0058】
以下の表4には、本発明に係る扁平多穴管A〜H及び比較例に係る扁平多穴管I及びJについて、上記のOY水浸漬試験を30、60、又は90サイクルにおいて実施した結果が、それぞれ示されている。
【0059】
【表4】
【0060】
かかる表4の結果より明らかな如く、本発明材に係る扁平多穴管A〜Hは、OY水浸漬試験の30サイクル後の評価において、管周壁部を貫通する貫通孔が生じていないことが認められた。また、60サイクル後の評価においては、扁平多穴管B、C、F、Hにおいて、管周壁部を貫通する貫通孔が確認された。更に、90サイクル後の評価においては、B、C、F、H以外の何れの扁平多穴管にも、貫通孔は認められなかった。従って、本発明に従う扁平多穴管A〜Hは、何れも、犠牲陽極部(18)の存在による犠牲陽極効果によって、有効な内面防食が施されていることが、認められた。
【0061】
これに対して、比較例に係る扁平多穴管Iは、犠牲陽極材料を用いることなく、従来材と同様の管本体材料のみを用いた扁平多穴管であるため、OY水浸漬試験を30、60及び90サイクル実施したところ、全てのサイクル後の評価において、管周壁部を貫通する腐食孔が生じていることが、認められた。これは、本発明に係る扁平多穴管の如く、犠牲陽極部(18)が流路の周りに存在しないために、犠牲陽極効果が得られず、内面防食効果が発揮され得なかったことにより、早期に貫通が生じたものと認められた。
【0062】
また、比較例に係る扁平多穴管Jは、上記と同様なOY水浸漬試験を30、60又は90サイクル実施したところ、全てのサイクル後の評価において、管周壁部を貫通する腐食孔が生じていることが認められた。この貫通部は、何れも、犠牲陽極部(18)が形成されていない扁平多穴管の幅方向両端部で確認された。これは、上記の扁平多穴管Iと同様に、犠牲陽極部(18)が流路の周りに存在しないために、犠牲陽極効果が得られず、内面防食効果が発揮され得なかったことにより、早期に貫通が生じたものと認められた。
【0063】
−実施例2−
実施例1において製作された複合ビレットaを用い、実施例1と同様にして、ポートホールのサイズの異なるポートホールダイスからの熱間押出加工を実施することにより、図2(a)又は(b)に示されるような、8穴の矩形穴(8個の流路)を有する、下記表5に示される如き扁平多穴管AA乃至AHをそれぞれ製造した。なお、それら得られた各種の扁平多穴管について、それらの横断面を調べ、管幅方向中央部側の内部隔壁部(16b)の厚さ(Twi)、管幅方向端部側の内部隔壁部(16a)の厚さ(Twe)、内部隔壁部(16)の最薄壁部位の厚さ(Tmin )、及び内部隔壁部(16)の上下の連結部(16c)の幅(Tb)を、それぞれ測定して、その結果を、下記表5に示した。
【0064】
【表5】
【0065】
また、かかる得られた扁平多穴管AA乃至AHについて、実施例1と同様にして、その横断面における犠牲陽極部(18)の形成範囲を測定し、犠牲陽極部(18)の存在状態として、下記表6に示した。更に、それぞれの扁平多穴管について、実施例1と同様なOY水浸漬試験を30,60又は90サイクル繰り返して、防食性評価を行い、その結果も、下記表6に併せ示した。なお、OY水浸漬試験において、60サイクルでは貫通は発生しないが、90サイクル後に、内部隔壁部(16)に貫通が見られた場合或いは未貫通の場合は、(◎)とし、30サイクルでは貫通は発生しないが、60サイクル後に、内部隔壁部(16)に貫通が見られた場合は、(○)とし、30サイクル後に、内部隔壁部(16)に貫通が見られた場合は、(×)として、評価した。
【0066】
【表6】
【0067】
かかる表6に示されるように、扁平多穴管AA乃至AHは、何れも、両端部に位置する流路(12a)を区画する管周壁部(14)における犠牲陽極部(18)の存在は0%であり、流路内面には管本体材料が露出している一方、両端部に位置する流路(12a)とその隣に位置する流路(12b)とを仕切る端部内部隔壁部(16a)においては、その厚さに相当する厚さにおいて、犠牲陽極部(18)が形成されており、そして端部流路(12a)の周長全体に占める犠牲陽極部(18)の露呈割合は20%となるものであった。また、扁平多穴管の幅方向の両端部以外に位置する流路(12b)を区画する管周壁部(14)において存在する犠牲陽極部(18)は、0%であり、流路内面には、管本体材料が露出している一方、扁平管の幅方向両端部以外に位置する流路(12b)を区画する内部隔壁部(16b)の厚さに相当する100%の割合の犠牲陽極部(18)が存在し、そして流路(12b)の周長全体に占める犠牲陽極部(18)の露呈(存在)領域の最小値は、50%となるものであった。
【0068】
そして、かかる扁平多穴管AA乃至AHに対するOY水浸漬試験の結果、何れの扁平多穴管に対する90サイクルの繰返し試験後においても、その管周壁部(14)を貫通するような腐食孔の発生は、何等認められなかった。
【0069】
また、各扁平多穴管における内部隔壁部(16)の腐食に関して、扁平多穴管AA、AE及びAGにおいては、それぞれ、幅方向端部に位置する流路(12a)を区画する内部隔壁部(16a)における犠牲陽極部(18)が優先腐食され、OY水浸漬試験における30サイクル後において、かかる内部隔壁部(16a)を貫通する腐食孔が生じていることを認めた。そして、扁平多穴管AB乃至AD及びAFにおいては、多穴管幅方向の両端部に位置する流路(12a)を区画する内部隔壁部(16a)の厚さ(Twe)が、そのような端部以外に位置する、換言すれば該内部隔壁部(16a)よりも多穴管幅方向中央部側に位置する内部隔壁部(16b)の厚さ(Twi)より、厚く構成されているところから、OY水浸漬試験の60サイクル後においても、腐食による貫通孔は発生せず、更に90サイクル後においても、一部の扁平多穴管には、その端部の内部隔壁部(16a)を貫通する腐食孔が生じていないことを認めた。
【0070】
さらに、扁平多穴管AG及びAHにおいては、内部隔壁部(16)の連結部(16c)の幅が十分でないために、管周壁部(14)において、流路(12)内に露呈する管本体材料との電位差によって、内部隔壁部(16)の上下の連結部(16c)が優先的に腐食され、それによって、OY水浸漬試験の30サイクル後に、内部隔壁部(16)の貫通腐食が認められた。これに対して、扁平多穴管AD乃至AFにあっては、内部隔壁部(16)の上下の連結部(16c)の幅(Tb)が、内部隔壁部(16)の最小壁厚さ(最小幅)Tmin よりも大きく構成されているところから、かかる内部隔壁部(16)の連結部(16c)側に位置する犠牲陽極部(18)の優先腐食が有利に抑制され、OY水浸漬試験の60サイクル後においては、かかる内部隔壁部(16)において貫通腐食孔は認められず、90サイクル後においても、一部の扁平多穴管には、そのような貫通腐食孔の存在を認めることが出来なかった。
【符号の説明】
【0071】
10 扁平多穴管 12 流路(空孔)
14 管周壁部 16 内部隔壁部
18 犠牲陽極部
20 複合ビレット
30 単体ビレット
22,32 管本体ビレット
24 犠牲陽極ビレット
図1
図2
図3
図4
図5
図6