(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには高誘電率膜が形成されており、熱処理装置1による加熱処理によって高誘電率膜の成膜後熱処理(PDA:Post Deposition Annealing)が実行される。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0022】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0023】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。上側チャンバー窓63および下側チャンバー窓64の厚さは例えば約28mmである。
【0024】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0025】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。
【0026】
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69の内周面は電解ニッケルメッキによって鏡面とされている。
【0027】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0028】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では窒素ガス(N
2)およびアンモニア(NH
3))を供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83はガス供給源85に接続されている。ガス供給源85は、制御部3の制御下にて、窒素ガス、または、アンモニアと窒素ガスとの混合ガスを処理ガスとしてガス供給管83に送給する。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84および流量調整バルブ90が介挿されている。バルブ84が開放されると、ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。ガス供給管83を流れて緩衝空間82に送給される処理ガスの流量は流量調整バルブ90によって調整される。流量調整バルブ90が規定する処理ガスの流量は制御部3の制御によって可変とされる。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。なお、処理ガスは窒素ガス、アンモニアに限定されるものではなく、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの不活性ガス、または、酸素(O
2)、水素(H
2)、塩素(Cl
2)、塩化水素(HCl)、オゾン(O
3)、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N
2O)、二酸化窒素(NO
2)などの反応性ガスであっても良い。
【0029】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
【0030】
図8は、排気部190の構成を示す図である。排気部190は、排気ポンプ191、流量調整バルブ196、3本のバイパスライン197,198,199、および、3つの排気バルブ192,193,194を備える。チャンバー6からの排気を導くガス排気管88と排気ポンプ191とは、3本のバイパスライン197,198,199によって接続されている。3本のバイパスライン197,198,199は並列に設けられている。3本のバイパスライン197,198,199は、その配管径が互いに異なる。バイパスライン197の径が最も小さく、バイパスライン199の径が最も大きく、バイパスライン198の径はそれらの間である。よって、通過可能な気体の流量はバイパスライン197,198,199の順に大きくなる。
【0031】
3つの排気バルブ192,193,194は、それぞれ3本のバイパスライン197,198,199に設けられる。すなわち、バイパスライン197には排気バルブ192が介挿され、バイパスライン198には排気バルブ193が介挿され、バイパスライン199には排気バルブ194が介挿される。排気ポンプ191を作動させつつ、3つの排気バルブ192,193,194を開放すると、ガス排気管88によって導かれたチャンバー6からの排気が対応するバイパスライン197,198,199を通過して排気ポンプ191に吸引される。
【0032】
3本のバイパスライン197,198,199は配管径が異なるため、排気能力が異なる。配管径が大きいほど排気能力も大きくなり、バイパスライン197,198,199の順に排気能力は大きくなる。従って、3つの排気バルブ192,193,194のうちのいずれを開閉するかによってチャンバー6からの排気流量を制御することができる。3つの排気バルブ192,193,194のいずれか1つのみを開放しても良いし、2つまたは3つを開放しても良い。例えば、排気バルブ193,194を閉止して排気バルブ192のみを開放した場合には、最も小さな排気流量での排気が行われる。また、3つの排気バルブ192,193,194の全てを開放した場合には、最も大きな排気流量での排気が行われる。
【0033】
また、3本のバイパスライン197,198,199の合流部分と排気ポンプ191との間に流量調整バルブ196が介挿されている。ガス排気管88の排気流量は流量調整バルブ196によっても調整可能である。流量調整バルブ196が規定する排気流量は制御部3の制御によって可変とされる。3本のバイパスライン197,198,199が不連続かつ多段に排気流量を調整する機構であるのに対して、流量調整バルブ196は連続的に無段階で排気流量を調整する機構である。
【0034】
ガス供給管83、ガス排気管88、および、3本のバイパスライン197,198,199は強度と耐食性に優れたステンレススチールによって構成されている。また、チャンバー6内には熱処理空間65の圧力を測定する圧力計180が設けられている。圧力計180としては、約5Pa〜0.2MPaを測定範囲とするものが好ましい。
【0035】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、
図3は保持部7を上面から見た平面図であり、
図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプター74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプター74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0036】
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
【0037】
平板状のサセプター74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。サセプター74は石英にて形成された略円形の平板状部材である。サセプター74の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、サセプター74は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。サセプター74の上面には複数個(本実施形態では5個)のガイドピン76が立設されている。5個のガイドピン76はサセプター74の外周円と同心円の周上に沿って設けられている。5個のガイドピン76を配置した円の径は半導体ウェハーWの径よりも若干大きい。各ガイドピン76も石英にて形成されている。なお、ガイドピン76は、サセプター74と一体に石英のインゴットから加工するようにしても良いし、別途に加工したものをサセプター74に溶接等によって取り付けるようにしても良い。
【0038】
基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプター74の周縁部の下面とが溶接によって固着される。すなわち、サセプター74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、略円板形状のサセプター74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプター74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。半導体ウェハーWは、5個のガイドピン76によって形成される円の内側に載置されることにより、水平方向の位置ずれが防止される。なお、ガイドピン76の個数は5個に限定されるものではなく、半導体ウェハーWの位置ずれを防止できる数であれば良い。
【0039】
また、
図2および
図3に示すように、サセプター74には、上下に貫通して開口部78および切り欠き部77が形成されている。切り欠き部77は、熱電対を使用した接触式温度計130のプローブ先端部を通すために設けられている。一方、開口部78は、放射温度計120がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。さらに、サセプター74には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0040】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0041】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプター74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプター74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。
【0042】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0043】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0044】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0045】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0046】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する光照射部である。
【0047】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0048】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0049】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0050】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0051】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(
図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0052】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、制御部3は、バルブ84、バルブ89、流量調整バルブ90、流量調整バルブ196排気ポンプ191、および、3つの排気バルブ192,193,194を制御してチャンバー6内の熱処理空間65の圧力、給気流量および排気レートを調整する。
【0053】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0054】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWは、ゲート絶縁膜として高誘電率膜が形成された半導体基板である。その半導体ウェハーWに対して熱処理装置1がフラッシュ光を照射して成膜後熱処理(PDA)を行うことにより、高誘電率膜中の欠陥を消滅させる。
【0055】
図9は、半導体ウェハーWに高誘電率膜が成膜されたスタック構造を示す図である。半導体ウェハーWのシリコンの基材101上にシリコン酸化膜(SiO
2)102が形成されている。シリコン酸化膜102はシリコンの基材101と高誘電率膜103との間の界面層膜として必要な層である。シリコン酸化膜102の膜厚は極めて薄く、例えば約1nmである。シリコン酸化膜102の形成手法としては、例えば熱酸化法などの公知の種々の方法を採用することが可能である。
【0056】
そして、シリコン酸化膜102の上にゲート絶縁膜としての高誘電率膜103が形成されている。高誘電率膜103としては、例えばHfO
2,ZrO
2,Al
2O
3,La
2O
3等の高誘電率材料を用いることができる(本実施形態では、HfO
2)。高誘電率膜103は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)によって高誘電率材料をシリコン酸化膜102の上に堆積させることにより成膜される。シリコン酸化膜102上に堆積される高誘電率膜103の膜厚は数nmであるが、そのシリコン酸化膜換算膜厚(EOT:Equivalent oxide thickness)は1nm程度である。高誘電率膜103の形成手法はALDに限定されるものではなく、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等の公知の手法を採用することができる。いずれの手法であっても、堆積されたまま特段の処理を受けていない高誘電率膜103中には多数の点欠陥等の欠陥が存在している。なお、
図9に示す構造では、高誘電率膜103の両側方にSiNのサイドウォール104が形成されているが、このサイドウォール104は、例えばゲートラストプロセスでは高誘電率膜103よりも先に形成されている。また、熱処理装置1による加熱処理の終了後に、高誘電率膜103の上にチタン(Ti)或いはチタンの窒化物(TiN)がメタルゲートして堆積される。
【0057】
図9に示すようなシリコンの基材101上にシリコン酸化膜102を挟み込んで高誘電率膜103が成膜された半導体ウェハーWに対する熱処理が熱処理装置1によって行われる。以下、熱処理装置1における動作手順について説明する。熱処理装置1での動作手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0058】
まず、界面層膜であるシリコン酸化膜102の上に高誘電率膜103が形成された半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6に搬入される。半導体ウェハーWの搬入時には、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して高誘電率膜103が形成された半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。この際に、チャンバー6の内外はともに大気圧であるため、半導体ウェハーWの搬入にともなってチャンバー6内の熱処理空間65に空気が巻き込まれる。そこで、バルブ84を開放してガス供給源85からチャンバー6内に窒素ガスを供給し続けることによって搬送開口部66から窒素ガス流を流出させ、装置外部の雰囲気がチャンバー6内の流入するのを最小限に抑制するようにしても良い。また、ゲートバルブ185の開放時には、半導体ウェハーWの熱処理時よりも窒素ガスの供給流量を増大させるのが好ましい(例えば、熱処理時に通常30リットル/分であれば、ゲートバルブ185の開放時には120リットル/分とする)。さらに、窒素ガスの供給流量を増大させるとともに、バルブ89を閉止してチャンバー6からの排気を停止するのが好ましい。これにより、チャンバー6内に供給された窒素ガスは搬送開口部66のみから流出することとなるため、外部空気の流入をより効果的に防ぐことができる。
【0059】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプター74の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。
【0060】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプター74に受け渡されて水平姿勢に保持される。半導体ウェハーWは、高誘電率膜103が形成された表面を上面としてサセプター74に保持される。また、半導体ウェハーWは、サセプター74の上面にて5個のガイドピン76の内側に保持される。サセプター74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0061】
半導体ウェハーWがチャンバー6に収容され、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖された後、チャンバー6内の雰囲気調整および半導体ウェハーWの熱処理が
開始される。
図10は、チャンバー6内の圧力変化および半導体ウェハーWの温度変化を示す図である。同図の下段にはチャンバー6内の圧力変化を示し、上段には半導体ウェハーWの温度変化を示す。上段下段ともに横軸は時刻を示し、上段の縦軸は半導体ウェハーWの表面温度を示し、下段の縦軸はチャンバー6内の圧力を示す。
【0062】
半導体ウェハーWの搬入後に搬送開口部66が閉鎖されることによって、チャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間となる。この時点では、チャンバー6内の圧力は常圧Ps(=大気圧=約101325Pa)である。そして、時刻t1にチャンバー6内の減圧が開始される。減圧時には、給気のためのバルブ84を閉止しつつ、排気のためのバルブ89を開放する。また、減圧の初期段階では、制御部3は、排気ポンプ191を作動させつつ、3本のバイパスライン197,198,199のうち最も配管径が小さいバイパスライン197に設けられた排気バルブ192を開放する。他の排気バルブ193,194は閉止されている。これにより、チャンバー6内に対してはガス供給が行われることなく排気が行われることとなり、チャンバー6内の熱処理空間65が減圧される。減圧の初期段階では、3本のバイパスライン197,198,199のうち最も配管径が小さいバイパスライン197のみを使用しているため、排気流量が小さく排気速度も比較的遅い。なお、この時点では半導体ウェハーWに対する熱処理は行われておらず、半導体ウェハーWの温度は室温RTのままである。
【0063】
次に、時刻t2にチャンバー6内の圧力が約20kPaに到達した時点で制御部3が3つの排気バルブ192,193,194の全てを開放する。これにより、チャンバー6からの排気流量が増大し、排気速度も速くなる。そして、時刻t3にチャンバー6の圧力(真空度)が気圧P1に到達する。気圧P1は、例えば約10Paである。すなわち、減圧の初期段階では小さな排気流量で排気を行った後に、それよりも大きな排気流量に切り換えて排気を行っているのである。なお、本実施形態では、流量調整バルブ196の流量は一定である。
【0064】
減圧の開始時から大きな排気流量にて急速に排気を行うと、チャンバー6内に大きな気流変化が生じてチャンバー6の構造物(例えば、下側チャンバー窓64)に付着していたパーティクルが巻き上げられて半導体ウェハーWに再付着して汚染するおそれがある。減圧の初期段階では小さな排気流量で静かに排気を行った後に、大きな排気流量に切り換えて排気を行うようにすれば、そのようなチャンバー6内のパーティクルの巻き上げを防止することができる。
【0065】
チャンバー6内の圧力が気圧P1に到達した時刻t3に、チャンバー6に対する窒素ガスの供給流量とチャンバー6からの排気流量とを等しくしてチャンバー6内の圧力を気圧P1に維持する。具体的には、バルブ84を開放して流量調整バルブ90によってチャンバー6内に極微量の供給流量にて窒素ガスを供給するとともに、流量調整バルブ196によって排気流量を減少させてチャンバー6内の圧力を気圧P1に維持する。すなわち、流量調整バルブ90が規定する窒素ガスの供給流量と流量調整バルブ196が規定する排気流量とのバランスによってチャンバー6内の圧力を気圧P1に維持するのである。
【0066】
また、チャンバー6内の圧力が気圧P1に到達した時刻t3に、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLを一斉に点灯させて半導体ウェハーWの予備加熱(アシスト加熱)を開始する。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過して半導体ウェハーWの裏面から照射される。半導体ウェハーWの裏面とは、高誘電率膜103が形成された表面とは反対側の主面である。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWの温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0067】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面に切り欠き部77を介して接触して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の第1予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が第1予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。第1予備加熱温度T1は100℃以上200℃以下であり、本実施形態では150℃である。なお、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWを昇温するときには、放射温度計120による温度測定は行わない。これは、ハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が放射温度計120に外乱光として入射し、正確な温度測定ができないためである。
【0068】
半導体ウェハーWの温度が第1予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその第1予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される半導体ウェハーWの温度が第1予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ第1予備加熱温度T1に維持している。半導体ウェハーWの温度が第1予備加熱温度T1に維持されている間は、チャンバー6内の圧力が気圧P1に維持されている。
【0069】
約10Paの減圧雰囲気下にて半導体ウェハーWを100℃以上200℃以下の比較的低温の第1予備加熱温度T1に加熱することによって、半導体ウェハーWの表面に微量に吸着していた水分等を当該表面から脱離させることができる(脱ガス処理)。半導体ウェハーWの表面から脱離した水分等の成分は熱処理空間65に放出された後にガス排気管88からチャンバー6の外部に排出される。
【0070】
次に、半導体ウェハーWの温度が第1予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t4に制御部3がハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLの出力を上昇させて半導体ウェハーWを第1予備加熱温度T1からさらに昇温させる。制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が第2予備加熱温度T2となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。第2予備加熱温度T2は、500℃以上700℃以下であり、本実施形態では600℃である。半導体ウェハーWの温度が第2予備加熱温度T2に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその第2予備加熱温度T2に暫時維持する。
【0071】
また、時刻t4に、ハロゲンランプHLの出力を増大させるのと同時に、流量調整バルブ90が規定する供給流量を増大させつつ、ガス供給源85からチャンバー6内の熱処理空間65にアンモニアと希釈ガスとしての窒素ガスとの混合ガスを供給する。その結果、チャンバー6内にて保持部7に保持された半導体ウェハーWの周辺にはアンモニア雰囲気が形成される。アンモニア雰囲気中におけるアンモニアの濃度(つまり、アンモニアと窒素ガスとの混合比)は、特に限定されるものではなく適宜の値とすることができるが、例えば10vol.%以下であれば良い(本実施形態では約2.5vol.%)。なお、チャンバー6にアンモニア・窒素混合ガスを供給している間も、チャンバー6からの排気を継続するようにしても良い。この場合、混合ガスの供給流量が排気流量よりも大きいのは勿論である。
【0072】
チャンバー6内に混合ガスが供給されることによって、チャンバー6内の圧力が気圧P1から上昇して気圧P2にまで復圧する。気圧P2は、気圧P1より高く、かつ、常圧Psよりも低く、例えば約5000Paである。本実施形態においては、チャンバー6内を一旦気圧P1にまで減圧してからそれよりも高い気圧P2に復圧しているため、復圧後のチャンバー6内の酸素濃度を約200ppb以下とすることができる。
【0073】
チャンバー6内の圧力が気圧P2にまで復圧した時点以降は、チャンバー6に対するアンモニア・窒素混合ガスの供給流量とチャンバー6からの排気流量とを等しくしてチャンバー6内の圧力を気圧P2に維持する。半導体ウェハーWの温度が第2予備加熱温度T2に維持されている間は、チャンバー6内の圧力が気圧P2に維持されている。
【0074】
約5000Paの減圧雰囲気下にて半導体ウェハーWを500℃以上700℃以下の第2予備加熱温度T2に加熱することによって、高誘電率膜103を含む半導体ウェハーWの全体を均一に予備加熱している。なお、ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0075】
続いて、半導体ウェハーWの温度が第2予備加熱温度T2に到達して所定時間が経過した時刻t5にフラッシュランプFLから閃光を照射することによるフラッシュ加熱処理を実行する。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0076】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。基材101上にシリコン酸化膜102を挟み込んで高誘電率膜103が成膜された半導体ウェハーWの表面にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによって、高誘電率膜103を含む半導体ウェハーWの表面は瞬間的に処理温度T3にまで昇温して成膜後熱処理が実行される。フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面が到達する最高温度(ピーク温度)である処理温度T3は1000℃以上1100℃以下であり、本実施形態では1000℃である。
【0077】
アンモニア雰囲気中にて半導体ウェハーWの表面が処理温度T3にまで昇温して成膜後熱処理が実行されると、高誘電率膜103の窒化が促進されるとともに、高誘電率膜103中に存在していた点欠陥等の欠陥が消滅する。なお、フラッシュランプFLからの照射時間は0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の短時間であるため、半導体ウェハーWの表面温度が第2予備加熱温度T2から処理温度T3にまで昇温するのに要する時間も1秒未満の極めて短時間である。フラッシュ光照射後の半導体ウェハーWの表面温度は処理温度T3からただちに急速に下降する。
【0078】
フラッシュ加熱処理の終了後、給気のためのバルブ84を閉止するとともにチャンバー6からの排気流量を増大してチャンバー6内を再び気圧P1にまで減圧する。このとき、上述したのと同様に、排気流量を2段階に切り換えるようにしても良い。チャンバー6内を再び気圧P1にまで減圧することによって、チャンバー6内の熱処理空間65から有害なアンモニアを排出することができる。続いて、排気のためのバルブ89を閉止して給気のためのバルブ84を開放し、ガス供給源85からチャンバー6内に窒素ガスを供給して常圧Psにまで復圧する。
【0079】
また、ハロゲンランプHLも消灯し、これによって半導体ウェハーWが第2予備加熱温度T2からも降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は接触式温度計130または放射温度計120によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプター74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプター74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0080】
本実施形態においては、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWを100℃以上200℃以下の第1予備加熱温度T1に加熱した後に、当該半導体ウェハーWを500℃以上700℃以下の第2予備加熱温度T2に昇温して予備加熱を行っている。従来より行われている予備加熱を実行する前に、半導体ウェハーWを100℃以上200℃以下の比較的低温の第1予備加熱温度T1に加熱することによって、半導体ウェハーWの表面に微量に吸着していた水分等を当該表面から脱離させることができる。
【0081】
既述したように、堆積されたまま特段の処理を受けていない高誘電率膜103中には多数の点欠陥等の欠陥が存在しているため、成膜後熱処理(PDA)によってそのような欠陥を消滅させる必要がある。成膜後熱処理を実行するときに酸素が存在していると、その酸素を取り込んで高誘電率膜103の下地のシリコン酸化膜102が成長して膜厚が増大し、高い誘電率が得られなくなる。本実施形態においては、フラッシュ加熱処理前に半導体ウェハーWの表面に吸着していた水分等を脱離させているため、そのような吸着水分等に由来する酸素を極力排除した状態でフラッシュ加熱処理を行うことができる。従って、フラッシュ加熱処理中に高誘電率膜103の下地のシリコン酸化膜102の膜厚が酸化により増大するのを抑制することができる。
【0082】
また、チャンバー6内を一旦大気圧よりも低い気圧P1に減圧した後にアンモニア・窒素混合ガスを供給して復圧しているため、復圧後のチャンバー6内の酸素濃度を約200ppb以下とすることができる。これにより、チャンバー6内に残留する酸素を極力排除した状態でフラッシュ加熱処理を行うことができる。
【0083】
さらに、堆積された直後の高誘電率膜103中には酸素も含まれており、成膜後熱処理の処理時間が数秒程度以上となると、その酸素が拡散してシリコン酸化膜102の膜厚が増大することにもなる。本実施形態では、半導体ウェハーWの表面にフラッシュランプFLから1秒未満の照射時間にてフラッシュ光を照射して極短時間でウェハー表面を処理温度T3に昇温しているため、成膜後熱処理の処理時間が極めて短く、酸素の拡散する時間的余裕が無いため、高誘電率膜103の下地のシリコン酸化膜102の膜厚が増大するのを抑制することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、チャンバー6内を一旦気圧P1に減圧した後に大気圧よりも低い気圧P2に復圧していたが、これに代えて、常圧Psに復圧するようにしても良いし、大気圧よりも高い気圧(例えば、約0.15MPa)に復圧するようにしても良い。チャンバー6内を大気圧よりも高い気圧に復圧した場合には、加圧下にてフラッシュ加熱処理が行われることとなるため、アンモニアの分圧も高くなり、処理温度T3をより低温にすることが可能となる。
【0085】
また、上記実施形態においては、チャンバー6からの排気を行う際に、排気流量を2段階に切り換えていたが、これを3段階以上の多段階に切り換えるようにしても良い。さらには、チャンバー6からの排気流量を流量調整バルブ196によって連続的に無段階で増加させるようにしても良い。このようにすれば、排気流量の急激な変化に起因したパーティクルの巻き上げを効果的に防止することができる。
【0086】
また、チャンバー6内を気圧P1から復圧する際にも、チャンバー6への給気流量を2段階以上の多段階または無段階にて変化させるようにしても良い。
【0087】
また、熱処理装置1にて処理対象となる半導体ウェハーWはシリコン酸化膜102の上にゲート絶縁膜としての高誘電率膜103が形成された半導体ウェハーWに限定されるものではなく、高誘電率膜103の上にさらにメタルゲートを堆積した半導体ウェハーWであっても良い。メタルゲートの素材としては例えばチタンナイトライド(TiN)、チタンアルミ(TiAl)、タングステン(W)等を用いることができる。或いは、処理対象となる半導体ウェハーWは、金属膜を成膜してフラッシュ加熱処理によってシリサイドまたはゲルマナイドを形成するものであっても良い。さらには、処理対象となる半導体ウェハーWは、注入された不純物をフラッシュ加熱処理によって活性化するものであっても良い。
【0088】
また、上記実施形態においては、ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光を下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過させて半導体ウェハーWの裏面から照射することにより、半導体ウェハーWを第1予備加熱温度T1に予備加熱していたが、これに限られるものではない。例えば、半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入される前にハロゲンランプHLのハロゲン光の照射によってサセプター74を所定温度(例えば200℃程度)まで予め加熱しておき、半導体ウェハーWがサセプター74に受け渡されてサセプター74上に保持されることにより、かかるサセプター74からの熱放射によって半導体ウェハーWを第1予備加熱温度T1(100℃以上200℃以下の例えば150℃)まで予備加熱するようにしてもよい。なお、サセプター74を前記所定温度まで予め加熱する他の方法としてサセプター74に対して加熱された窒素などの不活性ガスを吹き付けるようにすることもできる。