(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記参照用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を前記所定の積分範囲ごとに積分して参照用の複数の角度積分値を算出する工程と、
前記被検体用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を前記所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の角度積分値を算出する工程と、
前記被検体用の角度積分値と前記参照用の角度積分値との割合である角度積分割合を前記所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記角度積分割合を求める工程と、
複数の前記振幅積分割合と複数の前記角度積分割合との差である複数の割合差分を前記積分範囲ごとに算出する工程と、
をさらに含み、
前記判定値は、前記複数の割合差分のうちの前記割合差分である
請求項1に記載の線状体の異常検知方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1の検知方法 では、ケーブル端部より超音波を送信し、受信した反射信号を検出して、ケーブルの断線を検出している。しかし、この検知方法は、断線の発生前にケーブルに発生する小さな異常、例えば減肉やき裂などの異常を検出することは困難である。なぜならば、健全なケーブルに対して取得した受信データの振幅を見ても、時間的に細かく変化するからである。この振幅変化の原因は、以下の(i)〜(iv)に示すように、様々な波が干渉することに起因すると考えられる。
【0006】
ここで、検出対象であるケーブルには、例えば、ボタンヘッドが線状体の端部に設けられた平行線ケーブル、またはくさびなどの定着具が線状体の端部に歯形を付けて定着されたPC鋼より線などが含まれる。そこで、これらケーブル端部に設けられたボタンヘッドやくさびによる歯形が付けられた部分等を通過してケーブル内を伝播した波から得られた以下の4種の反射波(i)〜(iv)が考えられる。
(i)ケーブル端部から送信し、ケーブル端部に設けられたボタンヘッドやくさびによる歯形部分等を通過して、ケーブル内を伝搬する際に、ケーブルを構成する材料の結晶粒界からの反射波。
(ii) ボタンヘッドやくさびによる歯形部分等を通過して、ケーブル内を伝搬する際に、ケーブル表面の粗さに起因する反射波。
(iii) ボタンヘッドやくさびによる歯形部分等を通過して、ケーブル内を伝搬する波のうち、伝搬速度がより遅い速度を有する波が、ケーブルを構成する材料の結晶粒界あるいはケーブル表面の粗さに起因する反射波。
(iv) ボタンヘッドやくさびによる歯形部分内で反射した後、ケーブル内を伝搬する波のうち、ケーブルを構成する材料の結晶粒界あるいはケーブル表面の粗さに起因する反射波。
【0007】
線状体の異常検知を行う場合、近距離の微小な腐食の有無や、中距離にあるき裂の有無、遠距離にある断線の有無などを検出するためには、受信信号に現れる微小な信号を処理して判断する必要がある。しかし、受信信号の振幅は、上記の(i)〜(iv)のような反射波によって時間的に変化するため、或るしきい値を設定することによって、近距離の微小な腐食の有無や、中距離にあるき裂の有無、遠距離にある断線の有無を判断することは困難である。
【0008】
ここで、上記の微小な腐食や遠距離の断線などの判別しにくい異常を検知するために、被検体の素線の反射信号から作成されたサンプリング波形を、参照用の健全な素線の反射信号から作成されたサンプリング波形と比較して、これらのサンプリング波形の振幅差の大きさによって、異常の有無を検知することが考えられる。
【0009】
しかし、検査対象の素線は端部の形状やその他の条件が個々に異なっているので、2つのサンプリング波形の振幅差によって異常の有無を検知する場合に異常の有無を決定するしきい値を一義的に設定することが難しい。そのため、素線の微小な腐食などの判別しにくい異常の有無の検知、および異常発生位置の特定をすることが難しい。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、線状体の微小な腐食などの判別しにくい異常を検知することが可能な異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明の線状体の異常検知方法は、被検体の線状体における異常を検知する異常検知方法であって、参照用の線状体の端部から当該線状体の内部へ向けて超音波を送信して参照用の受信データを取得し、当該参照用の受信データを用いて作成された参照用のサンプリング波形を準備する工程と、前記被検体の線状体の端部から当該線状体の内部へ向けて超音波を送信して、被検体用の受信データを取得する工程と、前記被検体用の受信データを用いて被検体用のサンプリング波形を作成する工程と、前記参照用のサンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して参照用の複数の振幅積分値を算出する工程と、前記被検体用のサンプリング波形の振幅の絶対値を前記所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の振幅積分値を算出する工程と、前記被検体用の振幅積分値と前記参照用の振幅積分値との割合である振幅積分割合を前記所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記振幅積分割合を求める工程と、前記複数の振幅積分割合から得られる判定値が所定のしきい値以上に有るときに、異常有り判断する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
線状体の内部において微小な腐食などの判別しにくい異常、例えば近距離の微小な腐食、中距離にあるき裂、または遠距離にある断線などがある場合でも、線状体の端部から送信された超音波が異常発生場所から反射したときには、反射信号が分散してしばらくの時間継続する。これは、反射信号に含まれるノイズとは異なる挙動を示すものである。そこで、本発明では、このような反射信号の挙動に着目し、サンプリング波形の振幅積分割合から得られた判定値を用いて線状体の異常を検出する方法を提案する。
【0013】
この方法では、被検体のサンプリング波形および参照用のサンプリング波形に基づいて、振幅積分割合を求める。
【0014】
すなわち、被検体の線状体に対して超音波を送信したときに取得した受信データを用いてサンプリング波形を作成し、当該サンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の振幅積分値を算出する。この被検体用の複数の振幅積分値を参照用の線状体について同様に算出した参照用の複数の振幅積分値とを所定の積分範囲ごとに比較して、複数の振幅積分割合を算出する。
【0015】
そして、前記複数の振幅積分割合から得られる判定値が所定のしきい値以上に有る場合には、被検体の線状体に異常が有ることを検出する。これは、被検体の線状体の内部の異常が有る場所では、反射信号が分散してしばらく持続するので、サンプリング波形の振幅積分割合の増加が持続する現象に着目して異常判定を行うものである。その結果、微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常の部分からの反射信号が小さい場合でも線状体の異常の発生を正確に検知することが可能である。このような異常の部分における振幅積分割合の増加は、被検体の線状体についての端部の形状やその他の条件が個々に異なってもほとんど変わらないことが発明者らによる実験によって明らかになっている。しかし、異常が発生している場所ではこれら振幅積分割合の増加が実験によって確認されている。そのため、異常の有無を決定するしきい値を一義的に設定することが可能になる。また、このような振幅積分割合の増加が発生する積分範囲付近に対応する位置を、線状体の異常発生場所に特定することが可能である。
【0016】
前記判定値は、前記複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合であるのが好ましい。
【0017】
かかる特徴によれば、判定値として、複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合そのものが用いられるので、複雑なデータ処理をすることなく、迅速に線状体の異常発生場所に特定することが可能である。
【0018】
前記参照用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を前記所定の積分範囲ごとに積分して参照用の複数の角度積分値を算出する工程と、前記被検体用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を前記所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の角度積分値を算出する工程と、前記被検体用の角度積分値と前記参照用の角度積分値との割合である角度積分割合を前記所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記角度積分割合を求める工程と、複数の前記振幅積分割合と複数の前記角度積分割合との差である複数の割合差分を前記積分範囲ごとに算出する工程と、をさらに含み、前記判定値は、前記複数の割合差分のうちの前記割合差分であるのが好ましい。
【0019】
かかる特徴によれば、サンプリング波形の振幅積分割合から得られた判定値として、振幅積分割合と角度積分割合との差分である割合差分を用いることにより、線状体の異常を精度よく検出することが可能である。
【0020】
この方法では、被検体のサンプリング波形および参照用のサンプリング波形に基づいて、上記の振幅積分割合の他に、角度積分割合を求める。すなわち、被検体用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の角度積分値を算出する。この被検体用の複数の角度積分値を参照用の線状体について同様に算出した参照用の複数の角度積分値とを所定の積分範囲ごとに比較して、複数の角度積分割合を算出する。
【0021】
その後、複数の前記振幅積分割合と複数の前記角度積分割合との差である複数の割合差分を前記積分範囲ごとに算出する。そして、複数の割合差分のうちの前記割合差分を判定値として用いて、当該割合差分が所定のしきい値以上に有る場合には、被検体の線状体に異常が有ることを検出する。これは、被検体の線状体の内部の異常が有る場所では、反射信号が分散してしばらく持続するので、サンプリング波形の振幅の変化が角度の変化よりも大きくなって、上記の振幅積分割合と角度積分割合との乖離が持続する現象に着目して異常判定を行うものである。この場合、振幅積分割合が種々の要因によって、例えば、超音波が送受信される線状体の端部(例えばボタンヘッド等)の形状や超音波探触子の接触状態などの要因によって、影響を受けても上記の乖離が持続する現象は変わらない。その結果、微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常の部分からの反射信号が小さい場合でも線状体の異常の発生をより正確に検知することが可能である。このような振幅積分割合と角度積分割合との差は、被検体の線状体についての端部の形状やその他の条件が個々に異なっても、上記の振幅積分割合の増加よりもさらに変わりにくくなっていることが発明者らによる実験によって明らかになっている。しかし、異常が発生している場所ではこれら振幅積分割合と角度積分割合とが乖離することが実験によって確認されている。そのため、異常の有無を決定するしきい値を一義的に設定することが可能になる。また、このような振幅積分割合と角度積分割合との乖離が発生する積分範囲付近に対応する位置を、線状体の異常発生場所に特定することが可能である。
【0022】
前記角度関連値は、90度に対する前記傾斜角度の割合である角度換算値であるのが好ましい。
【0023】
かかる特徴によれば、90度に対する前記傾斜角度の割合である角度換算値を角度関連値として用いることにより、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。
【0024】
前記角度関連値は、前記傾斜角度そのものであってもよい。傾斜角度そのものを角度関連値として用いることにより、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。
【0025】
前記角度関連値は、前記傾斜角度をθとしたときのsinθであってもよい。傾斜角度をθとしたときのsinθを角度関連値として用いることにより、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。
【0026】
前記サンプリング波形を作成するときのサンプリング周波数は、前記超音波の周波数の2〜10倍であるのが好ましい。
【0027】
この範囲であれば、受信データとのずれが小さいサンプリング波形が得られ、かつ、サンプリング波形を形成するために必要なデータ数の増大を抑制することが可能である。
【0028】
前記積分範囲は前記超音波の波長の10〜100倍の範囲であるのが好ましい。
【0029】
この範囲であれば、サンプリング波形の振幅変化の影響を過度に受けて異常を過度に検出することもなく、かつ、当該振幅変化の影響を受けにくくなって異常を見逃すおそれもない。
【0030】
前記線状体は、その端部において当該線状体の径方向に拡大した形状のボタンヘッドを有するのが好ましい。
【0031】
このようなボタンヘッドを有する線状体の場合、超音波をボタンヘッドから線状体の内部へ1パルスだけ発射しても、ボタンヘッド内部において多重反射し、また、線状体の内部における超音波の分散が顕著になるので、線状体内部の異常検出が難しい。しかし、上記の異常検知方法であれば、上記の振幅積分割合から得られた判定値を用いることにより、ボタンヘッドの表面形状に起因する反射信号の乱れの影響が小さくなるので、線状体の内部の微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常を正確に検出することが可能である。また、ボタンヘッドと同様に、くさびなどの定着具が線状体の端部に歯形を付けて定着されたPC鋼より線などの表面形状の場合も、当該歯形部分に起因する反射信号の乱れの影響が小さくなるので、線状体の内部の微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常を正確に検出することが可能である。
【0032】
前記被検体の線状体は、複数の素線によって構成されたワイヤケーブルにおける当該素線であり、前記参照用の線状体として、前記複数の素線のうち当該ワイヤケーブルの中心に最も近い素線が選ばれるのが好ましい。
【0033】
複数の素線によって構成されたワイヤケーブルの各素線の異常を検出する場合、異常の発生が最も低いワイヤケーブル中心部に最も近い素線を参照用の線状体に選択することにより、参照用の線状体を検査作業の現場で調達(準備)することが可能になるので、参照用の線状体を当該現場等に搬入する必要が無くなる。とくに橋梁用のワイヤケーブルの検査の場合など高所の検査作業の場合に有利である。
【0034】
本発明の線状体の異常検知装置は、被検体の線状体における異常を検知する異常検知装置であって、前記線状体の端部に接触可能な部分を有し、当該端部から当該線状体の内部へ向けて超音波を送信し、かつ、当該線状体からの受信データを取得する超音波探触子と、前記受信データに基づいてサンプリング波形を形成するサンプリング波形形成部と、前記サンプリング波形形成部によって形成された前記被検体の線状体に関するサンプリング波形を記憶する被検体データ記憶部と、前記サンプリング波形形成部によって形成された参照用の線状体に関するサンプリング波形を記憶する参照用データ記憶部と、前記被検体データ記憶部および前記参照用データ記憶部にそれぞれ記憶された前記サンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用および参照用の複数の振幅積分値を算出する振幅積分部と、前記被検体用の振幅積分値と前記参照用の振幅積分値との割合である振幅積分割合を前記所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記振幅積分割合を求める振幅積分比較部と、前記複数の振幅積分割合から得られる判定値が所定のしきい値以上に有るときに、異常有り判断する異常判断部とを備えることを特徴とする。
【0035】
かかる構成によれば、超音波探触子が被検体の線状体に対して超音波を送信したときに取得した受信データを用いて、サンプリング波形形成部が被検体用のサンプリング波形を作成する。振幅積分部は、当該サンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の振幅積分値を算出する。振幅積分比較部は、この被検体用の複数の振幅積分値を参照用の線状体について同様に算出した参照用の複数の振幅積分値とを所定の積分範囲ごとに比較して、複数の振幅積分割合を算出する。そして、異常判断部は、前記複数の振幅積分割合から得られる判定値が所定のしきい値以上に有る場合には、被検体の線状体に異常が有ることを検出する。これは、被検体の線状体の内部の異常が有る場所では、反射信号が分散してしばらく持続するので、サンプリング波形の振幅積分割合の増加が持続する現象に着目して異常判定を行うものである。その結果、微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常の部分からの反射信号が小さい場合でも線状体の異常の発生を正確に検知することが可能である。
【0036】
上記の線状体の異常検知装置において、複数の線状体を備えた線状体アセンブリの端部に取付け可能な枠部と、当該枠部と連関して、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する保持部とを有する
治具をさらに備えているのが好ましい。
【0037】
かかる構成によれば、線状体アセンブリの複数の線状体のうちの個々の線状体の異常を検知する場合には、上記の治具を用いて超音波探触子を線状体の端面に固定される。すなわち、線状体アセンブリの端部に治具の枠部を取り付け、当該枠部と連関して、保持部が、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する。これにより、超音波探触子を線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから当接させることが可能になり、超音波探触子と線状体の端面との接触状態のばらつきを抑え、それによって受信信号のばらつきを低減することが可能である。
【0038】
本発明に係る治具は、上記の線状体の異常検知装置に用いられる治具であって、複数の線状体を備えた線状体アセンブリの端部に取付け可能な枠部と、当該枠部と連関して、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する保持部とを有し、前記線状
体アセンブリが前記複数の線状体の端部を束ねた状態で当該複数の線状体の外周を覆う定着部をさらに備えている構成において、前記枠部は、前記定着部の端面に取り付け可能な構成を有する
ことを特徴とする。
【0039】
かかる構成によれば、
線状体アセンブリの複数の線状体のうちの個々の線状体の異常を検知する場合には、上記の治具を用いて超音波探触子を線状体の端面に固定される。すなわち、線状体アセンブリの端部に治具の枠部を取り付け、当該枠部と連関して、保持部が、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する。これにより、超音波探触子を線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから当接させることが可能になり、超音波探触子と線状体の端面との接触状態のばらつきを抑え、それによって受信信号のばらつきを低減することが可能である。
さらに、上記の構成によれば、枠部を線状アセンブリの定着部の端面に固定することにより、超音波探触子を治具を介して線状アセンブリの端部に安定して固定することが可能である。
【0040】
本発明に係る治具は、上記の線状体の異常検知装置に用いられる治具であって、複数の線状体を備えた線状体アセンブリの端部に取付け可能な枠部と、当該枠部と連関して、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する保持部とを有し、前記保持部は、前記超音波探触子が嵌合可能な貫通孔を有し、前記貫通孔は、前記超音波探触子が嵌合した状態で、当該超音波探触子を前記線状体の端面に対して前記線状体の端面の法線方向に一致する向きに保持することが可能な大きさの内径を有する
ことを特徴とする。
【0041】
かかる構成によれば、
線状体アセンブリの複数の線状体のうちの個々の線状体の異常を検知する場合には、上記の治具を用いて超音波探触子を線状体の端面に固定される。すなわち、線状体アセンブリの端部に治具の枠部を取り付け、当該枠部と連関して、保持部が、超音波探触子を前記線状体のそれぞれの端面に対応する位置で、かつ、当該線状体の端面の法線方向に一致する向きに向くように保持する。これにより、超音波探触子を線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから当接させることが可能になり、超音波探触子と線状体の端面との接触状態のばらつきを抑え、それによって受信信号のばらつきを低減することが可能である。
さらに、上記の構成によれば、超音波探触子を保持部の貫通孔に嵌合するだけで、超音波探触子を線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから当接させることが可能になる。その結果、検査作業の作業性が向上する。
【0042】
前記枠部は、前記複数の線状体の端面を露出することが可能な開口面積を有する開口部を有しており、前記保持部は、前記貫通孔を有する測定用パーツと、前記測定用パーツを前記開口部内部に固定する固定用パーツとを有しており、前記測定用パーツと前記固定用パーツとが前記開口部の内部に嵌め込まれることによって、前記測定用パーツの前記貫通孔が前記線状体の端面に一致する位置に配置されてもよい。
【0043】
かかる構成によれば、複数の線状体のうち検査したい線状体の端面の位置に測定用パーツの貫通孔を正確にセットすることが可能である。これにより、当該貫通孔に超音波探触子を嵌合させることにより、超音波探触子を線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから当接させることが可能になる。
【0044】
前記保持部は、複数の前記超音波探触子を保持することが可能な構成を有するのが好ましい。
【0045】
かかる構成によれば、複数の前記超音波探触子を被検体である複数の線状体に同時に接触させることが可能であり、検査作業の作業性が向上する。
【0046】
前記保持部は、前記超音波探触子を三角形に配置するように保持することが可能な構成を有してもよい。
【0047】
かかる構成によれば、保持部によって超音波探触子を三角形に配置することが可能になり、その結果、3本の超音波探触子をそれぞれ線状体の端面に対して当該線状体の端面の法線方向と一致する向きから正確に当接させることが可能になる。
【0048】
前記複数の超音波探触子のいずれか1つを選択して外部機器に選択的に接続する選択接続部をさらに備えているのが好ましい。
【0049】
かかる構成によれば、保持部が複数の超音波探触子を保持している場合でも、選択接続部によって超音波探触子を個別に外部機器に接続することが可能である。
【発明の効果】
【0050】
以上説明したように、本発明の線状体の異常検知方法および異常検知装置によれば、線状体の微小な腐食などの判別しにくい異常、例えば、近距離の微小な腐食、中距離にあるき裂、または遠距離にある断線などがある場合などを検知することができる。
【0051】
本発明の治具によれば、超音波探触子と線状体の端面との接触状態のばらつきを抑え、それによって受信信号のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る線状体の異常検知装置の基本構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の探触子およびワイヤケーブルの素線の端部を示す拡大断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る線状体の異常検知方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図1の探触子から発信された超音波がワイヤケーブルの素線の内部を伝わる様子を概略的に示す説明図である。
【
図5】
図1の探触子によって受信された参照用の健全な素線からの取得した受信データによる受信波形を示すグラフである。
【
図6】サンプリング波形の形成を模式的に示した図である。
【
図7】
図6のサンプリング波形の振幅の絶対値を積分することを説明するためのグラフである。
【
図8】
図5の受信波形から形成されたサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに振幅の絶対値を積分することを説明するグラフである。
【
図9】
図8のサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに振幅の絶対値を積分したことによって算出された積分区間ごとの参照用の振幅積分値を示すグラフである。
【
図10】被検体の素線の受信波形から形成されたサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに振幅の絶対値を積分することを説明するグラフである。
【
図11】
図10のサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに振幅の絶対値を積分したことによって算出された積分区間ごとの被検体用の振幅積分値を示すグラフである。
【
図12】(a)は参照用のサンプリング波形の一例を示すグラフであり、(b)は(a)の参照用のサンプリング波形から求められた複数の振幅積分値を示すグラフである。
【
図13】(a)は被検体用のサンプリング波形の一例(50日腐食の例)を示すグラフであり、(b)は(a)の被検体用のサンプリング波形から求められた複数の振幅積分値を示すグラフである。
【
図14】
図12(b)の参照用の複数の振幅積分値に対する
図13(b)の被検体用の複数の振幅積分値の割合である振幅積分割合を示すグラフである。
【
図15】(a)は被検体用のサンプリング波形の他の例(100日腐食の例)を示すグラフであり、(b)は(a)の被検体用のサンプリング波形から求められた複数の振幅積分値を示すグラフである。
【
図16】
図12(b)の参照用の複数の振幅積分値に対する
図15(b)の被検体用の複数の振幅積分値の割合である振幅積分割合を示すグラフである。
【
図17】本発明の第2実施形態に係る線状体の異常検知装置の基本構成を示すブロック図である。
【
図18】本発明の第2実施形態に係る線状体の異常検知方法の手順を示すフローチャートである。
【
図19】サンプリング波形の所定時間Δtごとの時間軸に対する傾斜角度θを示すグラフである。
【
図20】
図8のサンプリング波形から算出された参照用の角度換算値のグラフである。
【
図21】
図20の参照用の角度換算値の絶対値を所定の積分区間T1ごとに積分したことによって算出された積分区間ごとの参照用の角度積分値を示すグラフである。
【
図22】被検体の素線からの受信データをサンプリングして形成された被検体のサンプリング波形から算出された被検体用の角度換算値のグラフである。
【
図23】
図22の被検体用の角度換算値の絶対値を所定の積分区間T1ごとに積分したことによって算出された積分区間ごとの被検体用角度積分値を示すグラフである。
【
図24】積分区間ごとの振幅積分割合および角度積分割合を示し、積分区間No.9以降で当該振幅積分割合と角度積分割合とが大きく乖離している様子を示すグラフである。
【
図25】(a)はサンプリング波形における振幅の変化および角度の変化をそれぞれ示すグラフ、(b)は振幅積分値と角度積分値の変化の度合いを示すグラフである。
【
図26】素線端部からの距離と割合比較の差との関係から、素線の異常判定の目安を示すグラフである。
【
図27】ケーブルの各素線の端部に探触子を当接させる際に、探触子が素線の端面に垂直に当たらない様子を示す図である。
【
図28】本発明の第3実施形態に係る線状体の異常検知装置に用いられる治具を用いて探触子を素線に対して垂直に当接させる状態を示す説明図である。
【
図29】
図28の治具を用いて複数の探触子を一括してケーブルの各素線に当接させる状態を示す説明図である。
【
図30】本発明の第3実施形態に係る分割式の治具を構成する外枠を示す図である。
【
図31】本発明の第3実施形態に係る分割式の治具を構成する、
図30の外枠に対応する測定用パーツを示す図である。
【
図32】本発明の第3実施形態に係る分割式の治具を構成する、
図30の外枠に対応する固定用パーツを示す図である。
【
図34】
図30の外枠をケーブルの端面に固定した状態を示す図である。
【
図35】
図30の外枠と
図31の測定用パーツと
図32の固定用パーツとを組み合わせた分割式の分割式の治具を用いて、探触子を三角形に配置して、ケーブルの複数の素線の端面に同時に当接させる様子を示す図である。
【
図36】
図30の外枠と
図31の測定用パーツと
図32の固定用パーツとを組み合わせた分割式の治具を用いて、探触子を直線状に配置して、ケーブルの複数の素線の端面に同時に当接させる様子を示す図である。
【
図37】ケーブルの複数の素線の端面に同時に当接させることが可能な探触子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図面を参照しながら本発明の異常検知方法および異常検知装置の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0054】
(第1実施形態)
図1に示される第1実施形態の異常検知装置1は、被検体の線状体における異常を検知する装置である。この異常検知装置1は、被検体の線状体として、例えば、複数の素線100によって構成されたケーブル(例えば、
図27に示されるような橋桁を吊り下げて支持するための橋梁用ケーブル200など)のうち各素線100の異常(例えば、小さな腐食部分102)を超音波で検知する。
【0055】
橋梁用のケーブルを構成する素線100は、例えば、直径7mm程度の亜鉛メッキ鋼線などからなり、その素線100の端部において当該素線100の径方向に拡大した形状を有するボタンヘッド101を有する。ボタンヘッド101は、例えば、略半球形状を有し、その表面は湾曲している。なお、被検体となる線状体およびその端部形状については、本発明ではとくに限定されない。本発明における線状体は、単線だけでなく、複数の素線を含むものでもよい。例えば、複数の素線を平行に束ねた平行線ケーブル、または、複数の素線を撚り合わせたワイヤロープやPC鋼より線なども、本発明の線状体に含まれる。
【0056】
異常検知装置1は、探触子2(以下、探触子2という)と、当該探触子2に信号線を介して電気的に接続された測定器12とから構成される。測定器12は、受信データ記憶部3と、サンプリング波形形成部4と、被検体データ記憶部5と、参照用データ記憶部6と、振幅積分部7と、振幅積分比較部8と、異常判断部9とを備える。
【0057】
探触子2は、素線100の端部のボタンヘッド101に接触可能な部分を有し、当該端部から当該素線100の内部へ向けて超音波を送信し、かつ、当該素線100からの受信データを取得する構成を有する。
【0058】
例えば、
図2に示される探触子2は、筒状の本体ケース2aと、本体ケース2aの内部に収容された圧電素子2bおよびくさび遅延材2cと、本体ケース2aの前側の開口に取り付けられた軟質遅延材2dとを有する。圧電素子2bは、超音波を発信するとともに被検体である素線100から戻ってきた反射波を受信して受信データを取得することが可能である。圧電素子2bから発信される超音波は、例えば、鉄鋼材料の探傷用の2〜5MHz程度の周波数の超音波が用いられるが、それ以外の周波数の範囲の超音波でもよい。
【0059】
くさび遅延材2cは、アクリルなどの樹脂からなり、圧電素子2bの前面に接着などによって固定されている。軟質遅延材2dは、くさび遅延材2cよりも柔らかい材料、例えばゴムなどからなり、くさび遅延材2cの前面に接着などによって固定されている。軟質遅延材2cは、ボタンヘッド101の湾曲した表面に対応するように凹んだ形状の接触面2eを有する。したがって、柔らかい材料の軟質遅延材2cの接触面2eがボタンヘッド101の湾曲した表面に密着することにより、圧電素子2bは、くさび遅延材2cを介して素線100から戻ってきた反射波を受信して安定性や再現性の高い受信データを取得することが可能である。
【0060】
受信データ記憶部3は、探触子2が取得した受信データを記憶する。
【0061】
サンプリング波形形成部4は、受信データ記憶部3に記憶された受信データに基づいてサンプリング波形(例えば、
図6のサンプリング波形W2)を形成する。
【0062】
被検体データ記憶部5は、サンプリング波形形成部4によって形成された被検体の素線100に関するサンプリング波形を記憶する。
【0063】
参照用データ記憶部6は、サンプリング波形形成部4によって形成された参照用の素線100に関するサンプリング波形を記憶する。参照用の素線100としては、例えば、被検体の素線100と同一形状の素線であって、異常が全くない健全な素線が採用される。
【0064】
なお、参照用の素線100としては、橋梁用ケーブルを構成する複数の素線のうち異常がない可能性が高い素線、具体的には、複数の素線のうち当該ワイヤケーブルの中心に最も近い素線が選ばれてもよい。複数の素線によって構成されたワイヤケーブルの各素線の異常を検出する場合、上記のように異常の発生が最も低いワイヤケーブル中心部に最も近い素線を参照用の素線100に選択することにより、被検体のワイヤケーブルの素線とは別に参照用の素線100を検査作業の現場で調達(準備)することが可能になる。そのため、参照用の素線を当該現場等に搬入する必要が無くなる。とくに橋梁用のワイヤケーブルの検査の場合など高所の検査作業の場合に有利である。
【0065】
振幅積分部7は、被検体データ記憶部5および参照用データ記憶部6にそれぞれ記憶されたサンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用および参照用の複数の振幅積分値を算出する。
【0066】
振幅積分比較部8は、被検体用の振幅積分値と参照用の振幅積分値との割合である振幅積分割合を所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記振幅積分割合を求める。
【0067】
異常判断部9は、複数の振幅積分割合から得られる判定値として、前記複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合を用い、当該振幅積分割合が所定のしきい値以上に有るときに 異常有りと判断する。
【0068】
上記のように構成された異常検知装置1を用いた被検体の線状体(具体的には、橋梁用ケーブルの素線100)における異常検知方法は、
図3のフローチャートに示される手順で実行される。
【0069】
まず、参照用の素線100の端部から当該素線100の内部へ向けて超音波を送信して参照用の受信データを取得し、当該参照用の受信データを用いて作成された参照用のサンプリング波形を準備する(
図3のステップS1)。ここで、参照用の素線100は、ボタンヘッド101を有する直径7mm程度、長さ1mの亜鉛メッキ鋼線であって、異常が全くない健全な素線が用いられる。
【0070】
参照用の受信データを取得するためには、具体的には、
図4に示されるように、探触子2を参照用の素線100のボタンヘッド101に接触させて超音波Sを素線100内部へ送る。超音波Sは、例えば周波数5MHzで1パルスだけ送る(この超音波Sの素線内部を伝わる速度は約5700m/s、波長は約1.1mmである。)。探触子2は、素線100から
図5に示される受信波形で示される受信データを受け取る。
【0071】
素線100内部に送られた超音波Sは、
図4に示されるようにボタンヘッド101の内部で多重反射される。そのため、
図5に示される受信波形では、探触子2に近い範囲D1では、ボタンヘッド101内部での多重反射により振幅Aが大きくなる。また、素線100内部の中間の範囲D2においても、ボタンヘッド101での多重反射や素線100内部での反射の重なりによって振幅Aに若干影響を受ける。範囲D3には、素線100における探触子2から遠い側の端面での反射波に対応する振幅変化がみられる。この範囲D3では、反射波が分散することによってしばらくの時間持続していることが分かる。反射波の持続時間は、ボタンヘッド101における多重反射の影響を受けることによって長くなる傾向が有る。
【0072】
ついで、サンプリング波形形成部4は、
図5に示される受信波形における検査範囲Dの受信データからサンプリング波形を形成する。具体的には、
図6に示されるように、受信波形W1を時間Δtごとにサンプリングして、時間Δtごとの振幅値を抽出し、抽出された振幅値のグループによってサンプリング波形W2が形成される。
【0073】
時間Δtは、サンプリング波形を作成するときのサンプリング周波数によって決まる。すなわち、時間Δtはサンプリング周波数の逆数として求められる。このサンプリング周波数は、探触子2から発信される超音波の周波数の2〜10倍であるのが好ましい(例えば、5MHzの超音波に対してサンプリング周波数が10MHz程度であるのが好ましい)。この範囲であれば、受信データとのずれが小さいサンプリング波形が得られ、かつ、サンプリング波形を形成するために必要なデータ数の増大を抑制することが可能である。
【0074】
なお、参照用サンプリング波形は、被検体の線状体の検査前に準備しておけば、被検体の線状体の検査のたびにサンプリング波形を作成する必要がない。
【0075】
つぎに、参照用の素線100と同様に、被検体の素線100の端部から当該素線100の内部へ向けて超音波を送信して、被検体用の受信データを取得する(
図3のステップS2)。そして、被検体用の受信データを用いて被検体用のサンプリング波形を作成する(同ステップS3)。
【0076】
被検体用の素線100としては、
図1に示されるように小さい異常として、中央付近に腐食部分102(例えば、直径が約0.4〜0.6mm減肉されている部分)を有する素線が用いられる。その他の点については、参照用の素線100と同じ仕様(すなわち、ボタンヘッド101を有する直径7mm、長さ1m程度の亜鉛メッキ鋼線)である。
【0077】
つぎに、振幅積分部7は、参照用のサンプリング波形の振幅の絶対値を所定の積分範囲T1ごとに積分して参照用の複数の振幅積分値を算出する(同ステップS4)。概略的には、
図6に示されるサンプリング波形W2の振幅の絶対値(振幅の負の成分を正にする全波整流をしたもの)を、
図7に示されるように所定の積分範囲T1ごとに積分することによって求められる。
【0078】
さらに詳しく言えば、
図8に示されるように、
図5の参照用の素線から得た受信波形から形成されたサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに例えば15個に分割する(各積分区間には積分区間ナンバーNo.1〜15が付される)。そして、
図9に示されるように、
図8のサンプリング波形を所定の積分区間T1ごとに振幅の絶対値を積分したことによって、
図9に示されるように、積分区間T1ごとの参照用の振幅積分値を算出する。
【0079】
ここで、積分範囲T1は、探触子2から発信される超音波の波長の10〜100倍の範囲であるのが好ましい(例えば、超音波の波長が約1.1mmである場合には、積分範囲T1はその波長の約50倍程度の約60mmであるのが好ましい。)。この範囲であれば、サンプリング波形の振幅変化の影響を過度に受けて異常を過度に検出することもなく、かつ、当該振幅変化の影響を受けにくくなって異常を見逃すおそれもない。したがって、異常の信号とノイズとの区別が付きやすくなる(すなわち、S/N比が増大する。)。
【0080】
振幅積分部7は、上記と同様に、被検体用のサンプリング波形についても、
図10に示されるようにその振幅の絶対値を所定の積分範囲T1ごとに積分して、
図11に示されるように積分範囲T1ごとの被検体用の複数の振幅積分値を算出する(同ステップ4)。
【0081】
つぎに、振幅積分比較部8は、被検体用の振幅積分値と参照用の振幅積分値との割合である振幅積分割合を所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記振幅積分割合B1を求める(同ステップ5)。
【0082】
そして、異常判断部9は、複数の振幅積分割合から得られる判定値として、前記複数の振幅積分割合のうちの振幅積分割合を用い、当該振幅積分割合が所定のしきい値以上に有るときに 異常有りと判断する。
【0083】
例えば、参照用の振幅積分値は、振幅積分部7によって、
図12(a)に示される参照用のサンプリング波形(参照用の健全なワイヤケーブルの端部から100〜1000mmの位置に対応するもの)から
図12(b)に示される15個に分割された積分範囲についてそれぞれ求められる。
【0084】
同様に、被検体用の振幅積分値は、振幅積分部7によって、
図13(a)に示される被検体用のサンプリング波形(例えば、ワイヤケーブルの端部から500mm付近に塩水を付けて50日腐食させたもの)から
図13(b)に示される15個の積分範囲についてそれぞれ求められる。
【0085】
ついで、振幅積分比較部8によって、上記の
図12(b)の参照用の振幅積分値に対する上記の
図13(b)の被検体用の振幅積分値の割合である振幅積分割合B1が、
図14に示される15個の積分範囲についてそれぞれ求められる。
【0086】
その後、異常判断部9は、
図14に示される振幅積分割合B1が所定のしきい値として、例えば、2以上に有るときに 異常有りと判断する。
【0087】
また、このような振幅積分割合B1が所定のしきい値以上になる積分範囲が分かれば、その積分範囲付近に対応する位置を、素線100の異常発生場所に特定することが可能である。
【0088】
また、他の被検体として、100日腐食したワイヤケーブルについて
図15(a)のサンプリング波形から
図15(b)の振幅積分値を求めた場合も、当該振幅積分値から得られる振幅積分割合B1は、
図16に示されるようになる。この場合も、異常判断部9は、
図16に示される振幅積分割合B1が所定のしきい値(2以上)に有るときに 異常有りと判断することが可能である。
【0089】
上記の
図3のフローチャートに示されるように第1実施形態の異常検知装置1を用いた異常検知方法では、被検体のサンプリング波形および参照用のサンプリング波形に基づいて、振幅積分割合B1を積分範囲T1ごとにそれぞれ求める。その後、複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合B1が所定のしきい値以上に有る場合には、被検体の素線100に異常が有ることを検出する。これは、被検体の素線100の内部の異常が有る場所では、反射信号が分散してしばらく持続するので、振幅積分割合の増加が持続する現象に着目して異常判定を行うものである。その結果、微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常の部分からの反射信号が小さい場合でも素線100の異常の発生を正確に検知することが可能である。
【0090】
また、第1実施形態の異常検知方法では、複数の振幅積分割合から得られる判定値として、複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合そのものが用いられる。その結果、複雑なデータ処理をすることなく、迅速に線状体の異常発生場所に特定することが可能である。
【0091】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態の異常検知方法では、複数の振幅積分割合から得られる判定値として、複数の振幅積分割合のうちの前記振幅積分割合そのものが用いられるが、本発明はこれに限定されるものではない。複数の振幅積分割合から得られる判定値であれば、他の判定値を用いてもよい。
【0092】
第2実施形態の異常検知方法では、サンプリング波形の振幅積分割合から得られた判定値として、振幅積分割合と角度積分割合との差分である割合差分を用いることにより、線状体の異常を精度よく検出することが可能である。
【0093】
第2実施形態の異常検知方法に用いられる異常検知装置1は、
図17に示されるように構成される。
図17に示される異常検知装置1は、
図1に示される第1実施形態の異常検知装置1と同様に、探触子2と、測定器12とから構成され、当該測定器12は、受信データ記憶部3と、サンプリング波形形成部4と、被検体データ記憶部5と、参照用データ記憶部6と、振幅積分部7と、振幅積分比較部8と、異常判断部9とを備える。これらの構成については、第1実施形態で既に説明されているので、省略する。
【0094】
ただし、
図17に示される異常検知装置1は、角度積分部10、および角度積分比較部11をさらに備えている点で、
図1に示される第1実施形態の異常検知装置1と異なる。
【0095】
角度積分部10は、被検体データ記憶部5および参照用データ記憶部6にそれぞれ記憶されたサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用および参照用の複数の角度積分値を算出する。角度関連値としては、例えば、90度に対する傾斜角度の割合である角度換算値が用いられる。なお、角度関連値は、傾斜角度そのものでもよいし、傾斜角度θに対するsinθであってもよい。
【0096】
角度積分比較部11は、被検体用の角度積分値と参照用の角度積分値との割合である角度積分割合を所定の積分範囲ごとに算出して、複数の前記角度積分割合を求める。
【0097】
この第2実施形態の異常検知方法では、被検体のサンプリング波形および参照用のサンプリング波形に基づいて、上記の振幅積分割合の他に、角度積分割合を求める。すなわち、被検体用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して被検体用の複数の角度積分値を算出する。この被検体用の複数の角度積分値を参照用の線状体について同様に算出した参照用の複数の角度積分値とを所定の積分範囲ごとに比較して、複数の角度積分割合を算出する。
【0098】
第2実施形態の異常検知方法は、具体的には、
図18のフローチャートに示される手順で実行される。
【0099】
この第2実施形態の異常検知方法では、まず、第1実施形態の異常検知方法の
図3のフローチャートと同様に、参照用ケーブルのサンプリング波形の準備(ステップS1)、被検体ケーブルの受信データの取得(ステップS2)、被検体ケーブルのサンプリング波形の作成(ステップS3)、参照用ケーブルおよび被検体ケーブルのそれぞれのサンプリング波形の振幅積分(ステップS4)、振幅積分割合の算出(ステップS5)を行う。これらステップS1〜S5の具体的な説明は、第1実施形態で既に説明されているので省略する。
【0100】
つぎに、角度積分部10は、参照用のサンプリング波形における所定時間ごとの時間軸に対する傾斜角度に関連する角度関連値の絶対値を所定の積分範囲ごとに積分して参照用の複数の角度積分値を算出する(同ステップS11)。具体的には、まず、
図19に示されるように、サンプリング波形W2のサンプリング時間Δtごとに傾斜角度θ
1〜θ
10・・・を求める。そして、角度関連値として、90度に対する傾斜角度の割合である角度換算値Rを採用した場合、まず、
図20に示される当該角度換算値Rの時系列変化のグラフを求める。そして、角度換算値Rの絶対値を所定の積分範囲T1ごとに積分して、
図21に示されるような参照用の複数の角度積分値を算出する。
【0101】
また、角度積分部10は、上記と同様に、被検体用のサンプリング波形についても、
図22〜23に示されるように、所定時間Δtごとの時間軸に対する傾斜角度θに関連する角度関連値(具体的には、角度換算値R)の絶対値を所定の積分範囲T1ごとに積分して被検体用の複数の角度積分値を算出する(同ステップS11)。
【0102】
そして、角度積分比較部11は、被検体用の角度積分値と参照用の角度積分値との割合である角度積分割合B2を所定の積分範囲ごとに算出して、複数の角度積分割合B2を求める(同ステップS12)。
【0103】
次に、異常判断部9は、
図24に示されるように、上記のステップS5で求めた複数の振幅積分割合B1とステップS12で求めた複数の角度積分割合B2との差である複数の割合差分Gを積分範囲T1ごとに算出する。
【0104】
そして、異常判断部9は、複数の割合差分Gのうちの割合差分Gを判定値として用い、当該割合差分Gが所定のしきい値δ以上に有るときに 異常有りと判断する。
【0105】
上記の
図18のフローチャートに示されるように本実施形態の異常検知装置1を用いた異常検知方法では、被検体のサンプリング波形および参照用のサンプリング波形に基づいて、振幅積分割合B1と角度積分割合B2を積分範囲T1ごとにそれぞれ求める。その後、複数の振幅積分割合と複数の角度積分割合との差である複数の割合差分Gを積分範囲ごとに算出する。そして、複数の割合差分のうちの割合差分を判定値として用いて、当該割合差分が所定のしきい値δ以上に有る場合には、被検体の素線100に異常が有ることを検出する。これは、被検体の素線100の内部の異常が有る場所では、反射信号が分散してしばらく持続するので、サンプリング波形の振幅の変化が角度の変化よりも大きくなって、上記の振幅積分割合と角度積分割合との乖離が持続する現象に着目して異常判定を行うものである。この場合、振幅積分割合が種々の要因によって、例えば、超音波が送受信される素線100の端部(例えばボタンヘッド101等)の形状や探触子2の接触状態などの要因によって、影響を受けても上記の乖離が持続する現象は変わらない。その結果、微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常の部分からの反射信号が小さい場合でも素線100の異常の発生をより正確に検知することが可能である。
【0106】
例えば、
図25(a)に示されるサンプリング波形I、IIのように、波形Iの振幅が波形IIのように振幅Aが2倍になれば、それに比例して振幅Aの積分値も2倍になる。しかし、波形Iの振幅が波形IIのように2倍になっても、波形Iの波形IIの傾斜角度θ2は90度で上限が決まっているので、波形Iの傾斜角度θ1の2倍には単純にならない。そのため、角度θ2の積分値も角度θ1の積分値θ1の2倍にならない。したがって、
図25(b)に示されるように、振幅が大きくなるにしたがって、波形の振幅積分C1と波形の角度積分C2とは乖離していくと考えられる。
【0107】
図24に示される振幅積分割合B1と角度積分割合B2との差である割合差分Gの変化をみれば、異常が無い場所、例えば、
図24のグラフの積分区間No.1〜No.7の範囲では、被検体の素線100についての端部の形状やその他の条件が個々に異なっても、第1実施形態の異常検知方法において判定値として用いた上記の振幅積分割合の増加よりもさらに変わりにくくなっている。しかし、異常が発生している場所である積分区間No.8〜9付近を見れば、当該No.9以降の範囲では、これら振幅積分割合B1と角度積分割合B2とが乖離することが確認されている。そのため、振幅積分割合B1と角度積分割合B2との乖離の度合いの基準として、異常の有無を決定するしきい値δを一義的に設定することが可能になる。
【0108】
また、このような振幅積分割合B1と角度積分割合B2との乖離が発生する積分範囲T1の直前の積分範囲(例えば、積分区間No.8〜9)付近に対応する位置を、素線100の異常発生場所に特定することが可能である。
【0109】
上記の振幅積分割合B1と角度積分割合B2との差である割合差分Gは、素線100の端部(具体的にはボタンヘッド101)からの距離が遠くなるにつれて小さくなる傾向にある。そこで、
図26に示される端部からの距離Lと割合差分Gとを関連付けた異常診断用マップを作成しておくのが好ましい。このマップでは、距離Lと割合差分Gの2つのパラメータで規定される領域が「破断」、「異常」、または「健全」に対応する3つの領域に分けられている。これら3つの領域は、人工的な欠陥(断線、亀裂、腐食による減肉など)を有するサンプル用の素線を用いて、上記2つのパラメータ(距離Lと割合差分G)と素線の状態との関係を調べることによって設定される。このような
図26に示される診断用のマップを用いれば、端部からの距離Lと割合差分Gとがわかれば、素線の状態が「破断」、「異常」、または「健全」のいずれかの状態であるか容易かつ正確に判定することが可能である。また、このようなマップが
図1の異常検知装置1の異常判断部9などに記憶されていれば、当該異常検知装置1によって、素線の状態の自動診断を検査作業の現場で行うことが可能になる。
【0110】
上記の実施形態の異常検知方法では、角度関連値として、90度に対する傾斜角度の割合である角度換算値が用いられているので、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。なお、傾斜角度そのものを角度関連値として用いても、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。また、傾斜角度をθとしたときのsinθを角度関連値として用いても、角度積分値を容易にかつ精度よく算出することが可能である。
【0111】
上記の第1実施形態および第2実施形態の異常検知方法の被検体となる素線100は、その端部において当該素線100の径方向に拡大した形状のボタンヘッド101を有している。このようなボタンヘッドを有する素線100の場合、超音波をボタンヘッドから素線100の内部へ1パルスだけ発射しても、ボタンヘッド内部において多重反射し、また、素線100の内部における超音波の分散が顕著になるので、素線100内部の異常検出が難しい。しかし、上記の異常検知方法であれば、上記の振幅積分割合から得られた判定値(例えば、第1実施形態における振幅積分割合そのもの、または第2実施形態における振幅積分割合と角度積分割合との差分)を用いることにより、ボタンヘッドの表面形状に起因する反射信号の乱れの影響が小さくなるので、素線100の内部の微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常を正確に検出することが可能である。また、ボタンヘッドと同様に、くさびなどの定着具が線状体の端部に歯形を付けて定着されたPC鋼より線などの表面形状の場合も、当該歯形部分に起因する反射信号の乱れの影響が小さくなるので、線状体の内部の微小な腐食や遠距離における断線などの判別しにくい異常を正確に検出することが可能である。
【0112】
このように、上記の異常検知方法は、くさび等を用いて線条体を定着(把握)する方法で線条体表面に歯形を形成する手法にも有用である。
【0113】
(第3実施形態)
上記の第1実施形態および第2実施形態の異常検知方法を用いれば、
図27に示される橋梁用ケーブル200を構成する複数の素線201(線状体)を個々に異常を検知することが可能である。
【0114】
しかし、探触子2が素線201の端面201aに垂直方向から当接させて正常に面接触していなければ、探触子2から素線201への超音波の送信状態、および探触子2による反射波の受信状態が不安定になり、受信信号にばらつきが生じるおそれがある。
【0115】
そこで、本実施形態では、探触子2を橋梁用ケーブル200の各素線201の端面201aに正常に面接触させるために、
図28に示される治具21が用いられる。
【0116】
ここで、上記の
図27〜28に示される橋梁用ケーブル200は、複数の素線201(線状体)を備えた線状体アセンブリであり、例えば、複数の素線201と、当該複数の素線100の端部を束ねた状態で当該複数の素線100の外周を覆う定着部202とを備えている。
【0117】
治具21は、
図28に示されるように、枠部22と、素線201を保持する保持部23とを備えている。
【0118】
枠部22は、橋梁用ケーブル200の端部を構成する定着部202に取付け可能な構成を有する。具体的には、枠部22は、定着部202の端面202aに当接可能な当接面22aを有し、ネジなどの固定手段によって当該端面202aに固定される。
【0119】
保持部23は、当該枠部22と連関して、探触子2を素線201のそれぞれの端面201aに対応する位置で、かつ、当該素線201の端面201aの法線方向に一致する向きに向くように保持する構成を有する。具体的には、保持部23は、枠部22と一体に形成されている。保持部23は、探触子2が嵌合可能な複数の貫通孔23aを有する。複数の貫通孔23aは、複数の素線201の端面201aにそれぞれ一致する位置に配置される。それぞれの貫通孔23aは、探触子2が嵌合した状態で、当該探触子2を素線201の端面201aに対して素線201の端面201aの法線方向に一致する向きに保持することが可能な大きさの内径を有する。なお、保持部23は、貫通孔23aの代わりに探触子2が嵌合可能な溝を有する構造であってもよい。
【0120】
橋梁ケーブル201の複数の素線201のうちの個々の素線201の異常を検知する場合には、上記の治具21を用いて探触子2を素線201の端面201aに固定される。すなわち、橋梁用ケーブル200の定着部202の端面202aに治具21の枠部23を取り付ければ、当該枠部22と一体形成された保持部23の貫通孔23aが素線201の端面201aの位置に配置される。その状態で、探触子2を被検体の素線201を露出する貫通孔23aに挿入すれば、探触子2を素線201のそれぞれの端面201aに対応する位置で、かつ、当該素線201の端面201aの法線方向に一致する向きに向くように保持することが可能である。これにより、探触子2を素線201の端面201aに対して当該素線201の端面201aの法線方向と一致する向きから当接させる(すなわち、端面201aに対して垂直方向から当接させる)ことが可能になり、探触子2と素線201の端面201aとの接触状態のばらつきを抑え、それによって受信信号のばらつきを低減することが可能である。
【0121】
また、上記治具21では、 枠部22が定着部202の端面202aに取り付け可能な構成を有している。したがって、枠部22を定着部202の端面202aに固定することにより、探触子2を治具21を介して橋梁用ケーブル200の端部に安定して固定することが可能である。
【0122】
さらに、上記の治具21では、保持部23は、探触子2が嵌合可能な複数の貫通孔23aを有している。それぞれの貫通孔23aは、探触子2が嵌合した状態で、当該探触子2を素線201の端面201aに対して素線201の端面201aの法線方向に一致する向きに保持することが可能な大きさの内径を有する。したがって、探触子2を保持部の貫通孔23aに嵌合するだけで、探触子2を素線201の端面201aに対して当該素線201の端面201aの法線方向と一致する向きから当接させることが可能になる。その結果、検査作業の作業性が向上する。
【0123】
なお、
図29に示されるように、複数の探触子2を治具21の貫通孔23aにそれぞれあらかじめ挿入しておけば、治具21を定着部202の端面202aに固定するだけで、複数の探触子2を複数の素線201の端面201aに対して法線方向から一括して当接することが可能である。したがって、検査作業の作業性がさらに向上する。
【0124】
また、治具21は、
図29に示されるように、複数の探触子2のいずれか1つを選択して外部機器である測定器12に選択的に接続する選択接続部として切換スイッチ24を備えていてもよい。その場合、保持部23が複数の探触子2を保持している場合でも、当該切換スイッチ24によって探触子2を個別に測定器12に接続することが可能である。
【0125】
さらに、治具21は、
図29に示されるように、定着部202の端面202aを向く面に凹部22bを有し、あらかじめ接触媒質25が凹部22bに充填されているのが好ましい。この場合、それぞれの探触子2とそれに対向する素線201の端面201aとの間に接触媒質25を介在させることが可能になり、超音波の受信状態のばらつきを低減することが可能である。また、それぞれの探触子2に接触媒質を塗布する作業も不要になる。
【0126】
なお、上記の
図28〜29に示される治具21では、枠部22と保持部23とが一体に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、枠部22と保持部23とを別々に構成してもよい。
【0127】
例えば、
図30に示される開口部22cを有する枠部22と、
図31〜32に示される複数の測定用パーツ28および複数の固定用パーツ29とからなる保持部23とを組み合わせることにより、
図35〜36に示される治具21を構成するようにしてもよい。
【0128】
図30に示される枠部22は、複数の素線201の端面201a(
図33参照)を露出することが可能な開口面積を有する開口部22cを有する。開口部22cの大きさおよび形状は、素線201の数や配置に合わせて適宜設定すればよい。
【0129】
図31に示される測定用パーツ28は、1つまたは複数の六角形状のブロックで構成され、各ブロックごとに探触子2が嵌合する上記の貫通孔23aを有する。複数の六角形状のブロックは、直線状に結合されたり、または三角形状に結合されたりする。
【0130】
図32に示される固定用パーツ29は、上記の測定用パーツ28と同様に、1つまたは複数の六角形状のブロックで構成されているが、貫通孔23aを有していない。
【0131】
また、
図30の枠部22の開口部22cの周壁27は、上記の
図31〜32に示される測定用パーツ28および固定用パーツ29に嵌合可能な形状を有する。
【0132】
なお、測定用パーツ28および固定用パーツ29は、六角形状のブロック以外にも、三角形状や四角形状のブロックでもよい。
【0133】
上記の
図35〜36に示される治具21を組み立てる場合、まず、
図33に示される橋梁用ケーブル200における複数の素線201の端面201aが露出している定着部202の端面202aに対して、枠部22を固定する。枠部22は、例えば、
図30および
図34に示されるように、複数のボルト26によって定着部202の端面202aに固定される。この状態では、枠部22の開口部22cを通して、すべての素線201の端面201aが露出した状態になっている。
【0134】
ついで、
図35〜36に示されるように、測定用パーツ28の貫通孔23aに探触子2を嵌合した状態で、測定用パーツの貫通孔23aが被検体の素線201の端面201aに一致する位置に配置されるように、測定用パーツ28と固定用パーツ29とを枠部22の開口部22cの内部に嵌め込む。したがって、複数の素線201のうち被検体の素線201の端面201aの位置に測定用パーツの貫通孔23aを正確にセットすることが可能である。これにより、当該貫通孔23aに嵌合された探触子2を素線201の端面201aに対して当該素線201の端面201aの法線方向と一致する向きから当接させることが可能になる。
【0135】
図35の治具21では3本の探触子2が三角形に配置され、
図36の治具21では3本の探触子2が直線状に配置される。このようにして、3本(複数)の探触子2を同時に被検体の素線201の端面201aに当接させることが可能である。これにより、検査作業の作業性が向上する。とくに、
図35の治具21のように保持部23を構成する測定用パーツ28が3本の探触子2を三角形に配置するように保持することにより、3本の探触子2をそれぞれ素線201の端面201aに対して当該素線201の端面201aの法線方向と一致する向きから正確に当接させることが可能になる。
【0136】
なお、
図35〜36に示される治具21のように、複数の探触子2が測定用パーツ28に保持される構成の代わりに、
図37に示されるように複数の素線201の端面201aに一括して接触することが可能な大型の探触子30、31を用いてもよく、その場合、検査時間を短縮することが可能になる。