(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
橋桁の軸線方向のプレストレスが導入されたコンクリート床版の一部に損傷が生じ、これを補修しようとするときには、上述のように損傷部分に限定して補修することが難しく、橋梁全体の床版を取り替えたり、連続桁では支間ごとの広い範囲の床版を取り替えたりすることが行われている。このため、補修工事に要する期間が長くなり、費用も嵩むことになる。
また、特許文献3に記載の方法では、損傷が生じた位置の周辺に限定した範囲で床版を取り替えることが可能となるが、床版の構築時に補修後の緊張材を配置するための孔をあらかじめ設けておく必要があり、既存の橋梁等について適用することはできない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、桁の軸線方向にプレストレスが導入されたコンクリート床版を、損傷部分を含む狭い範囲に限定して補修し、補修後の部分にもプレストレスを導入することができる床版の補修方法及びこの方法に好適に用いることができる緊張材の中間定着具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 桁の上に支持されたプレストレストコンクリートからなる床版の補修方法であって、 前記床版のコンクリートを斫り、該床版のコンクリート内で前記桁の軸線方向に配置された既設緊張材の中間部分の二か所を露出させる工程と、 露出した前記既設緊張材の二か所に中間定着具を取り付け、該既設緊張材の端部と該中間定着具との間に導入されている緊張力が、該中間定着具を介して床版のコンクリートに伝達されるように固着する工程と、 固着された二つの前記中間定着具間の床版のコンクリートを除去するとともに、二つの中間定着具間の既設緊張材を切断して除去する工程と、 二つの前記中間定着具間の除去した部分の床版のコンクリートを復元するとともに、新設緊張材を二つの前記中間定着具間に配置する工程と、 前記新設緊張材に緊張力を導入して両端を前記中間定着具に定着する工程と、を含む床版の補修方法を提供する。
【0008】
この補修方法では、桁の軸線方向に配置された既設緊張材の中間部分の二か所に中間定着具が装着され、緊張力が床版のコンクリートに伝達されるので、二つの中間定着具間で緊張材を切断し、床版のコンクリートを除去しても、既設緊張材の端部から中間定着具までの間では緊張力が維持され、床版のコンクリートはプレストレスが導入された状態が維持される。したがって、既設緊張材の軸線方向における床版の損傷が生じている部分の両側に中間定着具を装着することにより、床版に損傷が生じた部分のみを除去し、この部分の床版を修復するとともに、その両側の損傷が生じていない部分では既存の床版を取り換えることなく、そのまま維持することができる。
【0009】
そして、床版のコンクリートを修復した後には、二つの中間定着具間に新設緊張材を配置し、緊張力を導入して両端をそれぞれ中間定着具に定着することにより、新設緊張材と切断して二つに分割された既設緊張材とが中間定着具を介して接続され、これらに連続して緊張力が導入された状態となる。これにより、復元した床版のコンクリートにプレストレスが導入されるともに、既存の床版のコンクリートと復元したコンクリートとの境界にもプレストレスが導入され、修復した床版を耐久性の高いものとすることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、 桁の上に支持されたプレストレストコンクリートからなる床版の補修方法であって、 前記床版のコンクリートを斫り、該床版のコンクリート内で前記桁の軸線方向に配置された既設緊張材の中間部分の二か所を露出させる工程と、 露出した前記既設緊張材の二か所に中間定着具を取り付け、該既設緊張材の端部と該中間定着具との間に導入されている緊張力が、該中間定着具を介して床版のコンクリートに伝達されるように固着する工程と、 固着された二つの前記中間定着具間の床版のコンクリートを除去するとともに、二つの中間定着具間の既設緊張材を切断して除去する工程と、 二つの前記中間定着具間の除去した部分の床版のコンクリートを復元するとともに、切断して二つに分割された既設緊張材のそれぞれについて、前記中間定着具が固着された端部に新設緊張材を接続する工程と、 双方の前記新設緊張材を互いに引き寄せるように緊張し、一つのアンカー部材に双方の前記新設緊張材を定着する工程と、を含む床版の補修方法を提供する。
【0011】
この補修方法では、請求項1に係る補修方法と同様に、二つの中間定着具間で緊張材を切断し、床版のコンクリートを除去しても、既設緊張材の端部から中間定着具までの間では緊張力が維持され、床版のコンクリートにプレストレスが導入された状態が維持される。したがって、床版に損傷が生じた部分のみを除去し、この部分の床版を修復するとともに、その両側の損傷が生じていない部分では既存の床版を取り換えることなく、そのまま維持することができる。
【0012】
そして、床版のコンクリートを修復した後には、切断して二つに分割された既設緊張材のそれぞれに新設緊張材を接続し、双方の新設緊張材を互いに引き寄せるように緊張して一つのアンカー部材に定着することにより、二つに分割された既設緊張材が新設緊張材を介して接続され、連続して緊張力が導入された状態となる。これにより、復元した床版のコンクリートにプレストレスが導入されるともに、既存の床版のコンクリートと復元したコンクリートとの境界にもプレストレスが導入され、修復した床版を耐久性の高いものとすることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の床版の補修方法において、 前記床版は、プレキャストコンクリート版を前記桁の軸線方向に複数を配列して連結したものであり、 前記床版のコンクリートを斫り、前記既設緊張材を露出させる工程は、補修が必要なプレキャストコンクリート版の他のプレキャストコンクリート版と隣接する部分を斫るものとし、 前記中間定着具は、前記既設緊張材の緊張力が、補修が必要なプレキャストコンクリート版と隣接する他のプレキャストコンクリート版に伝達されるように固着するものとする。
【0014】
この補修方法では、損傷が生じたコンクリートの床版をプレキャストコンクリート版毎に撤去して修復することができる。これにより、損傷が生じている部分の周辺に及ぼす影響を少なくした状態で、損傷が生じている部分のみを迅速に修復することが可能となる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の床版の補修方法において、 前記中間定着具は、緊張力が導入されている既設緊張材の中間部分に固着するための中間固着部と、 該中間固着部と一体にとなるように形成され、前記既設緊張材の軸線方向に配置される前記新設緊張材の端部が挿通される筒状部とを有し、 前記筒状部は、前記新設緊張材の端部を前記既設緊張材の軸線に沿った方向から湾曲させて前記床版の下面側へ案内するものとなっており、 前記新設緊張材に緊張力を導入して両端を前記中間定着具に定着する工程は、該床版の下側から前記筒状部に反力を負担させて該新設緊張材に緊張力を導入し、該筒状部に定着するものとする。
【0016】
この方法では、既設緊張材に緊張力が導入されている状態で該既設緊張材の中間部分に中間定着具を固着するとともに、床版に損傷が生じた部分のコンクリートを修復した後に床版の下側から新設緊張材にジャッキ等を装着し、緊張力を導入することができる。そして、中間定着具に緊張力が導入された新設緊張材を定着することによって既設緊張材から新設緊張材に連続して緊張力が導入されている状態とすることができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、 緊張力が導入されている既設緊張材の中間部分に固着するための中間固着部と、 該中間固着部と一体にとなるように形成され、前記既設緊張材の軸線方向に配置される新設緊張材の端部が挿通される筒状部とを有し、 前記筒状部は、前記新設緊張材の端部を前記既設緊張材の軸線に沿った方向から湾曲させ、該筒状部に反力を負担させて該新設緊張材に緊張力を導入し、該筒状部に定着することができるものである中間定着具を提供する。
【0018】
この中間定着具では、緊張力が導入されている既設緊張材の中間部分に固着して既設緊張材の緊張力を既設緊張材の周囲にある構造部材に定着することができる。そして、筒状部に挿通した新設緊張材の端部は湾曲して既設緊張材の軸線方向から角度を有する方向に引き出すことができ、該筒状部に反力を負担させて、既設緊張材及び周囲の構造部材に阻害されることなく緊張力を導入するが可能となる。これにより、中間固着部が構造部材であるコンクリート等に埋め込まれた状態であっても新設緊張材を緊張し、既設緊張材と新設緊張材とが連結された状態で連続するように緊張力を導入することができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の中間定着具において、 前記中間固着部は、第1の鋼ブロックと該第1の鋼ブロックと接合される第2の鋼ブロックとを有し、 前記第1の鋼ブロックと前記第2の鋼ブロックとの一方の接合面又は双方の接合面には、接合したときに前記既設緊張材が挿通される貫通孔となる溝が形成されており、 前記第1の鋼ブロック又は前記第2の鋼ブロックのいずれか一方と前記筒状部が一体となっているものとする。
【0020】
この中間定着具では、緊張力が導入されている既設緊張材を挟んで両側方から第1の鋼ブロックと第2の鋼ブロックとを対向させ、既設緊張材が溝内に収容されるように当接させて双方を強固に結合することができる。これによって既設緊張材の中間部分に中間定着具を装着することができる。そして、第1の鋼ブロックと第2の鋼ブロックとが結合された中間固着部と既設緊張材とをくさびによって固着するか、又は中間固着部に形成された貫通孔内に充填材を充填することによって既設緊張材と中間固着部と固着することができる。一方、筒状部は、第1の鋼ブロック又は第2の鋼ブロックのいずれか一方と一体となっているので、第1の鋼ブロックと第2の鋼ブロックとを既設緊張材に固着することによって筒状部は中間固着部と一体となった状態で正確な位置に配置され、既設緊張材と新設緊張材とが連結される。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の中間定着具において、 前記中間固着部は、第1の鋼ブロックと該第1の鋼ブロックと接合される第2の鋼ブロックとを有し、 前記第1の鋼ブロックと前記第2の鋼ブロックとの一方の接合面又は双方の接合面には、接合したときに前記既設緊張材が挿通される貫通孔となる溝が形成されており、 前記筒状部は、前記第1の鋼ブロックと前記第2の鋼ブロックとが接合されることによって形成されるものであって、前記第1の鋼ブロック及び前記第2の鋼ブロックは、接合するときに対向する面が双方の間に湾曲した筒状部の挿通孔を形成する形状となっているものとする。
【0022】
この中間定着具では、請求項6に記載の中間定着具と同様に、既設緊張材の中間部分に装着することができるとともに、第1の鋼ブロックと第2の鋼ブロックとを既設緊張材に固着することによって筒状部は正確な位置に形成される。そして、筒状部に挿通した新設緊張材の端部を湾曲させて緊張力を導入し、該中間定着具に定着することができる。これにより、既設緊張材と新設緊張材とが連結され、連続するように緊張力が導入された状態となる。また、筒状部は、第1の鋼ブロックと第2の鋼ブロックとのいずれか一方又は双方に溝を設けておくことによって形成され、中間定着具の製造が容易となる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る床版の補修方法では、桁の軸線方向にプレストレスが導入されたコンクリート床版を、損傷部分を含む狭い範囲に限定して補修し、補修後の部分にもプレストレスを導入することができる。
また、本発明に係る中間定着具では、緊張力が導入されている既設緊張材の中間部分に固着して既設緊張材の緊張力を周囲にある構造部材に定着することができるとともに、既設緊張材の軸線方向に沿って該既設緊張材を延長する方向に配置される新設緊張材に緊張力を導入し該中間定着具に定着して既設緊張材と新設緊張材とに連続するように緊張力を導入することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の補修方法を適用することができるコンクリートの床版の一例を示す概略斜視図である。
この床版は、道路橋の床版として用いられるものであり、複数の鋼桁1を架け渡した上にプレキャストコンクリート版2を並べて形成されるものである。
【0026】
上記鋼桁1は、上フランジ11と下フランジ12とこれらを上下に連結するウェブ13とを有し、断面がほぼI型となっており、橋の幅方向に所定の間隔を設けて複数が配列されている。これらの鋼桁1は、両端付近の二点に支承(図示しない)を設けて単純支持されたものであってもよいし、複数の径間に連続した連続桁とされるもの、ラーメン構造とされるもの等であってもよい。
【0027】
上記プレキャストコンクリート版2は、予め工場又は製作ヤード等においてコンクリートを打設し、形成されたものであって、鉄筋コンクリート構造又は鋼桁1の軸線と直角方向に緊張材が配置されたプレストレストコンクリート構造とされる。また、多数の繊維がコンクリートにほぼ一様に混入された繊維補強コンクリートで形成されたものであってもよい。
プレストレストコンクリート構造とするときには、プレストレスをいわゆるポストテンション方式として導入するものであっても、いわゆるプレテンション方式として導入するものであってもよいが、プレテンション方式とするのが望ましい。
【0028】
上記プレキャストコンクリート版2は、鋼桁1の軸線方向の寸法が所定の値に設定されており、鋼桁の軸線と直角となる方向には、橋の幅員にほぼ相当する長さとなっている。これらのプレキャストコンクリート版2を、
図1に示すように吊り支持し、複数が配列された鋼桁1上に架け渡すように載置する。このときプレキャストコンクリート版2の両端部が橋の両側で鋼桁1より張り出すように支持される。そして、複数のプレキャストコンクリート版2が鋼桁1の軸線方向に順次に配列される。プレキャストコンクリート版2には鋼桁1の軸線方向に配置する緊張材を挿通するための貫通孔(図示しない)が複数設けられており、鋼桁1の軸線方向に所定数のプレキャストコンクリート版2の配列が完了した後、軸線方向の緊張材が貫通孔に挿通される。これらの緊張材に緊張力を導入することによって軸線方向に隣り合うプレキャストコンクリート版2を互いに連結するとともに、軸線方向のプレストレスが導入される。
【0029】
鋼桁1の上フランジ11の上面には、所定の位置にスタッドジベル14が設けられており、この上に配列するプレキャストコンクリート版2の対応する位置には上下に貫通する孔21が形成されている。そして、プレキャストコンクリート版2を鋼桁1上に載置したときには、スタッドジベル14がプレキャストコンクリート版2に形成された孔21内に挿入される。これらの孔21には、プレキャストコンクリート版2を所定の位置に載置して軸線方向のプレストレスが導入された後に、上側からコンクリート又はモルタルを孔21内に充填する。これにより鋼桁1とプレキャストコンクリート版2とを固定することができるものとなっている。
【0030】
隣り合うプレキャストコンクリート版2が互い連結される接合面はほぼ鉛直方向に形成され、双方のプレキャストコンクリート版2を突き合わせたときに、接合面間に大きな隙間が生じないように正確に接合面が形成されている。そして、双方のプレキャストコンクリート版2の接合面間に合成樹脂等の接着剤又はモルタルを充填し、相互間が連続するように接合される。
【0031】
図2は、本発明の一実施形態である床版の補修方法を示す概略断面図である。
この補修方法は、
図2(a)に示すようにプレキャストコンクリート版2が配列され、鋼桁1の軸線方向にプレストレスが導入された床版の一部に損傷が生じたときに、損傷部分22を含むプレキャストコンクリート版2aを撤去し、
図2(b)に示すように新たに製作したプレキャストコンクリート版2bに取り替えることによって修復するものである。そして、修復した部分及びその両側の既存の部分にわたって、鋼桁1の軸線方向のプレストレスを導入する。
【0032】
図2に示す床版の補修方法は、次のような工程で行うことができる。
まず、補修が必要となっているプレキャストコンクリート版2a、つまり損傷部分22を含むことによって取り替えようとするプレキャストコンクリート版2aを特定する。取り替えるプレキャストコンクリート版2aは1つであってもよいし、連続する2つ以上を取り替えるものであってもよい。そして、
図3(a)に示すように、このプレキャストコンクリート版2aの、他の取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dとの隣接部分23A,23Bを斫り、鋼桁の軸線方向に配置されている既設緊張材31を二か所で露出させる。なお、このように既設緊張材31を露出させる作業は、鋼桁1の軸線方向に配置されて取り替えるプレキャストコンクリート版2aに埋め込まれているすべての既設緊張材31について行う。また、以下に説明する既設緊張材及び新たに配置する新設緊張材についての各工程も同様である。
【0033】
露出させた既設緊張材31には、
図3(b)に示すように、取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dとの隣接部分において中間定着具32A,32Bを強固に固着する。中間定着具32A,32Bは既設緊張材31に導入されている緊張力を取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに伝達して既設緊張材31を定着することができるように、取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに密接して固着するか、もしくはプレキャストコンクリート版2c,2dとの間にモルタル等を充填する。
【0034】
二つの中間定着具32A,32Bが固着されると、これらの間で既設緊張材31を切断し、
図3(c)に示すように損傷部分22があるプレキャストコンクリート版2aを撤去する。既設緊張材31を二つの中間定着具32A,32Bの間で切断することにより、既設緊張材31は二つに分割されるとともに切断した端部が、それぞれ中間定着具32A,32Bによって取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに定着される。これにより既設緊張材31の両端部(図示しない)からそれぞれの中間定着具32A,32Bまでの間は緊張材が導入された状態で維持される。
【0035】
損傷しているプレキャストコンクリート版2aを除去した後には、
図4(a)に示すように新たに製作したプレキャストコンクリート版2bを配設する。このプレキャストコンクリート版2bには、既設緊張材31に中間定着具32A,32Bが固着された部分と対応する位置に切り欠き25を設けておき、中間定着具32A,32Bに突き当てることなく配置することができるものとする。また、新たに配置するプレキャストコンクリート版2bは、除去したプレキャストコンクリート版2aよりやや寸法を小さく製作しておき、既存のプレキャストコンクリート版2c,2dの間に配設した後、隙間にモルタル24を充填して既存のプレキャストコンクリート版2c,2dと一体に連続するものとする。また、新たに製作したプレキャストコンクリート版2bには、鋼桁1の軸線方向に新設緊張材を配置するための貫通孔26を形成しておく。
【0036】
既設緊張材31に固着された上記中間定着具32A,32Bは、既設緊張材31に固着するための中間固着部41と、新設緊張材33を挿通して緊張力を導入した状態で定着することができる筒状部42とを有し、これらが一体となったものである。新設緊張材33は、
図4(b)中の矢印Aで示すように、一方の中間定着具32Bが有する筒状部42Bから新たに配設したプレキャストコンクリート版2bの貫通孔26に挿通し、他方の中間定着具32Aの筒状部42Aに挿通する。そして、
図4(c)に示すように新たなプレキャストコンクリート版2bに設けられた切り欠き25内にコンクリート27を打設し、中間定着具32A,32Bを埋め込む。このとき筒状部42の新設緊張材33が突き出す側の端面は露出するようにコンクリート27を打設する。
打設したコンクリート27が硬化した後、
図4(c)に示すように、新設緊張材33に緊張力Pを導入し、中間定着具32A,32Bの筒状部42A,42Bに定着する。そして、新設緊張材33の余長分を切断し、緊張力を導入するために床版のコンクリートを切り欠いた部分28をコンクリート又はモルタルで修復して床版の補修が完了する。
【0037】
上記補修方法で中間定着具32は、例えば
図5に示すものを用いることができる。
この中間定着具32は、既設緊張材31に固着するための中間固着部41と、新設緊張材33が挿通され、緊張力を導入して定着することができる筒状部42とを有するものであり、中間固着部41は第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとを有するものである。そして、筒状部42は中間固着部の第2の鋼ブロック41bに一体となるように固着されている。
【0038】
上記中間固着部の第1の鋼ブロック41a及び第2の鋼ブロック41bは、鋼の厚板材によって構成されており、これらを重ね合わせて複数のボルト41cによって結合されるものである。ボルト41cは第1の鋼ブロック41a及び第2の鋼ブロック41bに設けられたボルト孔に挿通し、ナットにねじり合わせて締め付けるものであってもよいし、第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとのいずれか一方に形成されたボルト孔に挿通し、他方に設けられたボルト孔の内周面に形成された雌ねじにねじり合わされるものであってもよい。
【0039】
第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとの互いに接合される面には、断面がほぼ半円となる溝が接合面を横切るように形成されている。これらの溝は、双方の鋼ブロックを結合したときに断面がほぼ円形の貫通孔41dを形成するものとなっている。そして、該貫通孔41dの既設緊張材を切断する側の端部では、該貫通孔の所定の深さの位置から開口端までの範囲41eで内径が直線的に拡大するものとなっている。
【0040】
上記筒状部42は、新設緊張材33を挿通する挿通孔42aを備えた筒状となっており、第2の鋼ブロック41bの第1の鋼ブロック41aとの接合面の背面側に一体に固着されている。この挿通孔42aは中心軸線が湾曲しており、中間固着部41が固着される既設緊張材31の軸線方向で中間固着部41が固着される位置より延長する方向に配置された新設緊張材33の端部が挿通され、第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとの接合面とほぼ平行となる面内方向で新設緊張材33を湾曲させるものとなっている。そして、新設緊張材33の端側には、内径が段差をもって拡大する部分42bが設けられ、新設緊張材33の定着具が係止されるものとなっている。新設緊張材33の定着具は内径が直線的に変化する円筒状の雌コーン43とこの雌コーン内に差し入れられて挿通された新設緊張材33を雌コーン43に固定するくさび状の雄コーン44とを有するものである。
【0041】
このような中間定着具32は、緊張力が導入された状態で露出した既設緊張材31の両側方で、分離した状態の第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとを対向させ、溝内に既設緊張材31が収容されるように双方を当接して互いに結合する。これにより、既設緊張材31が第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとの間に形成された貫通孔41dに挿通され、くさび45を用いて既設緊張材31を中間定着具32に固着することができる。これにより、中間定着具32の後方で既設緊張材31を切断したときに、中間定着具32を介して既設緊張材31が取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに定着される。一方、中間固着部41が固着される既設緊張材31の軸線方向で、中間固着部41が固着される位置より延長する方向に配置された新設緊張材33の端部は筒状部の挿通孔42aに挿通され、湾曲する。このとき、第1の鋼ブロック41aと第2の鋼ブロック41bとの接合面がほぼ鉛直となっていると、新設緊張材33が下方に曲げ下げられ、既設緊張材31の軸線方向と角度をなす方向で下方に端部33aを突き出すことができる。したがって、この端部33aを床版2の下側から把持し、ジャッキ等を用いて緊張力を導入し、筒状部42に定着することができる。なお、新設緊張材33の端部が筒状部42から突き出したときに、取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dと干渉する時には
図5に示すようにプレキャストコンクリート版2c,2dの一部に切り欠き28を設けておき、新設緊張材33に緊張力を導入した後にコンクリート又はモルタルで埋め戻すことができる。
【0042】
なお、
図5に示す上記中間定着具32は、本件発明に係る中間定着具の一実施形態に過ぎず、他の形態で実施することもできる。例えば、
図6又は
図7に示すような形態とすることもできる。
図6に示す中間定着具51は、
図5に示す中間定着具32と同様に、既設緊張材31に固着するための中間固着部52と、新設緊張材33が挿通され、緊張力を導入して定着することができる筒状部53とを有するものであり、中間固着部52は第1の鋼ブロック52aと第2の鋼ブロック52bとを有するものである。そして、鋼の厚板材によって構成された第1の鋼ブロック52a及び第2の鋼ブロック52bの接合面に溝を形成して、これらをボルトによって結合することにより、既設緊張材31が挿通される貫通孔52cを形成するものとなっている点についても、
図5に示す中間定着具32と共通している。
【0043】
また、この中間定着具51が有する筒状部53は、中間固着部52の第2の鋼ブロック52bと一体となるように固着され、新設緊張材33の端部を挿通して定着することができる点は共通しているが、湾曲する方向は、第1の鋼ブロック52aと第2の鋼ブロック52bとの接合面とほぼ垂直となる面内方向となっている。したがって、既設緊張材31に対して第1の鋼ブロック52aと第2の鋼ブロック52bとを上下に対向させ、溝内に既設緊張材31を収容するように結合したときに、下側にある第2の鋼ブロック52bの下方で、新設緊張材33の端部が突き出す端面を下方に向けるように筒状部53が湾曲している。
【0044】
このような中間定着具51でも、くさび54を用いて既設緊張材31を中間定着具51に固着することができ、中間定着具51の後方で既設緊張材31を切断したときに、中間定着具51を介して既設緊張材31が取り替えないプレキャストコンクリート版2cに定着され、既設緊張材31の端部(図示しない)から中間定着具51を固着した位置までの範囲で緊張力が導入された状態を維持することができる。また、切断した既設緊張材31を延長する方向に配置された新設緊張材33の端部を筒状部53に挿通し、床版の下側から緊張力の導入及び定着を行って、補修したプレキャストコンクリート版に隣接するプレキャストコンクリート版2cから連続してプレストレスを導入することができる。
【0045】
図7に示す中間定着具61は、
図5に示す中間定着具32と同様に、既設緊張材31に固着するための中間固着部62が第1の鋼ブロック62aと第2の鋼ブロック62bによって構成され、ボルト65によって互いに結合されたこれらの鋼ブロック間に既設緊張材31を挿通する貫通孔62cが形成される点で共通している。しかし、この中間定着具61では、筒状部63が既設緊張材31を挿通する貫通孔62cの両側に二つが設けられたものとなっている。そして、筒状部63の挿通孔63aも、二つの鋼ブロック62a,62bの接合面に沿って形成されており、二つの鋼ブロック62a,62bの互いに対向する面の形状によって中心線が湾曲する挿通孔63aが形成されるものとなっている。つまり、既設緊張材31を挿通する貫通孔62cの両脇で、第1の鋼ブロック62aの第2の鋼ブロック62bとの接合面が緊張端側で凸状となり、第2の鋼ブロック62bの第1の鋼ブロック62aとの接合面が緊張端側で凹状となっている。それぞれの接合面の凸状又は凹状となった部分に溝が形成されていることによって、第1の鋼ブロック62aと第2の鋼ブロック62bとを結合したときに、新設緊張材34を挿通する湾曲した挿通孔63aが形成されるものである。この中間定着具61では、一本の既設緊張材31に対して2本の新設緊張材34が用いられ、それぞれは既設緊張材31が固着された位置の両側で該中間定着具61に定着されるものとなっている。
【0046】
このような中間定着具61でも、くさび64を用いて既設緊張材31を中間定着具61に固着し、既設緊張材31を取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに定着することができる。また、第1の鋼ブロック62aと第2の鋼ブロック62bとを結合したときに、既設緊張材31を挿通する貫通孔62cの両脇に新設緊張材34を挿通する二つの筒状部63が形成される。そして、第1の鋼ブロック62aと第2の鋼ブロック62bとを既設緊張材31の上方と下方とから対向させて結合することにより、それぞれの筒状部63の挿通孔63aに挿通する2本の新設緊張材34は緊張側の端部が下方に曲げ下げられる。これにより、新設緊張材34は床版の下側から緊張力の導入及び定着を行って、補修したプレキャストコンクリート版2bに隣接するプレキャストコンクリート版2c,2dから連続するようにプレストレスを導入することができる。
【0047】
次に、本発明に係る床版の補修方法の他の実施形態について説明する。
この補修方法も、
図2に示すように、損傷部分22を含むプレキャストコンクリート版2aを撤去し、新たに製作したプレキャストコンクリート版2bによって修復するものであり、補修した部分に、その両側の補修を行っていない部分と連続するように鋼桁1の軸線方向のプレストレスを導入するものである。
この補修方法でも、
図8(a)に示すように、損傷部分を含むプレキャストコンクリート版2aの、他の取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dとの隣接部分23を斫り、鋼桁1の軸線方向に配置されている既設緊張材31を二か所で露出させる。この既設緊張材31には、
図8(b)に示すように、取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dと隣接する部分において中間定着具71を強固に固着する。中間定着具71は既設緊張材31に導入されている緊張力を取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに伝達して既設緊張材31を定着することができるように、取り替えないプレキャストコンクリート版2c,2dに密接して固着するか、もしくはプレキャストコンクリート版2c,2dとの間にモルタル等を充填する。
【0048】
この補修方法で用いられる中間定着具71は、第1の鋼ブロック71aと第2の鋼ブロック71bとを有するものであり、これらを既設緊張材31の側方から対向させ、互いに結合して既設緊張材31に固着することができるものであるが、新設緊張材を定着するための筒状部は備えていない。
これらの中間定着具71が固着されると、
図8(c)に示すように、これらの間で既設緊張材31を切断し、プレキャストコンクリート版2aを撤去する。
【0049】
損傷しているプレキャストコンクリート版2aを除去した後には、
図9(a)に示すように新たに製作したプレキャストコンクリート版2bを配設する。このプレキャストコンクリート版2bには、既設緊張材31が中間定着具71によって定着された部分と対応する位置に切り欠き25が設けられ、中間定着具71と干渉することなく所定の位置に配置することができるものとなっている。また、このプレキャストコンクリート版2bには、切断された既設緊張材31の延長線上となる位置に新設緊張材を挿通するダクト72,73が形成されている。一方、このプレキャストコンクリート版2bには、二つの中間定着具71が設けられた位置の中間部分にアンカー部材が埋め込まれている。このアンカー部材74が有する二つの筒状部75,76にそれぞれ上記ダクト72,73が連通している。
【0050】
上記アンカー部材74は、
図10に示すように、二つの筒状部75,76が一体に結合されたものとなっており、それぞれの筒状部の一端75a,76aは、ほぼ直線上の反対方向からそれぞれに新設緊張材35A,35Bの端部が挿通され、他端75a,75bから新設緊張材35A,35Bの端部を突き出すことができるものとなっている。この新設緊張材35A,35Bの端部をジャッキ等で把持し、緊張力を導入してそれぞれの筒状部75,76に定着することができるものである。そして、それぞれの筒状部75,76のが有する新設緊張材の挿通孔は中心軸線が湾曲するものであり、湾曲した筒状部がほぼX字状に一体となっている。したがって、ほぼ直線上の反対側からそれぞれ筒状部75,76に挿通された二つの新設緊張材35A,35Bを反対方向に緊張し、双方の新設緊張材35A,35Bから作用する緊張力を互いに相殺するものとなっている。
【0051】
上記アンカー部材74は、新たに製作されたプレキャストコンクリート版2bに埋め込まれ、
図9(a)に示すように新設緊張材35が挿通される筒状部75,76の一端が既設緊張材31のほぼ延長線上に設けられた上記ダクト72,73とそれぞれ連通している。そして、筒状部75,76の他端は該筒状部が湾曲することによって下方に向いており、挿通された新設緊張材35A,35Bの緊張を行うために筒状部75,76の緊張側の端面が露出するようにプレキャストコンクリート版2bの下面に切り欠き29が設けられている。
【0052】
新設緊張材35A,35Bは、
図9(b)に示すように、アンカー部材74の二つの筒状部75,76に、露出している緊張側の端面から挿入し、プレキャストコンクリート版2bに設けられたダクト72,73を通して切断された双方の既設緊張材31にそれぞれ突き合わせる。そして、接続具77を用いて新設緊張材35A,35Bと既設緊張材31とを接続する。プレキャストコンクリート版2bのダクト72,73から中間定着具71までの露出した新設緊張材35、接続具77及び既設緊張材31はシース等によって被覆して、
図9(c)に示すように新たに製作されたプレキャストコンクリート版2bの切り欠き25内にコンクリート30を打設する。打設したコンクリート30が硬化した後、
図9(c)に示すように、二つの新設緊張材35A,35Bを互いに反対方向に緊張し、緊張力Pが導入された状態でアンカー部材74に定着する。これにより、切断によって分割された既設緊張材31の緊張力は新設緊張材35を介して連続するものとなり、取り替えられたプレキャストコンクリート版2bには既存のプレキャストコンクリート版2c,2dから連続するようにプレストレスが導入される。
【0053】
以上に説明した実施の形態では、補修する床版がプレキャストコンクリート版を配列して形成されたものとなっているが、これに限らず、場所打ちコンクリートで形成された床版についても、同様に補修することができる。また、プレキャストコンクリート版を配列して形成された床版も、損傷が生じたプレキャストコンクリート版を撤去した後、場所打ちコンクリートを打設して補修するものであってもよい。このときには、損傷が生じているプレキャストコンクリート版を撤去した後、新設緊張材を挿通することができるシースを配置して床版を修復するコンクリートを打設する。そして、コンクリートが硬化した後に新設緊張材を配置して緊張力を導入することができる。
また、その他の事項に関しても、本発明は、実施の形態として以上に説明した内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:鋼桁, 2:プレキャストコンクリート版,
11:上フランジ, 12:下フランジ, 13:ウェブ, 14:スタッドジベル,
21:孔, 22:床版の損傷部分, 23:取り替えるプレキャストコンクリート版の他の取り替えないプレキャストコンクリート版との隣接部分, 24:モルタル, 25:切り欠き, 26:新設緊張材を配置するための貫通孔, 27:切り欠き内に打設したコンクリート, 28,29:切り欠き, 30:切り欠き内に打設したコンクリート,
31:既設緊張材, 32:中間定着具, 33:新設緊張材,
41:中間固着部,41a:第1の鋼ブロック, 41b:第2の鋼ブロック, 41c:ボルト, 41d:中間固着部の貫通孔, 41e:貫通孔の内径が拡大された範囲, 42:筒状部, 43:雌コーン, 44:雄コーン, 45:くさび,
51:中間定着具, 52:中間固着部, 53:筒状部, 54:くさび,
61:中間定着具, 62:中間固着部, 63:筒状部, 64:くさび,
71:中間定着具, 72,73:ダクト, 74:アンカー部材, 75,76:筒状部, 77:接続具