特許第6800008号(P6800008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800008
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20201207BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20201207BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20201207BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08K5/11
   C08K3/013
   !C08L101/16
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-245740(P2016-245740)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-100324(P2018-100324A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】南 徹也
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−069423(JP,A)
【文献】 特開平03−115324(JP,A)
【文献】 特開平10−017658(JP,A)
【文献】 特開2009−073976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08G 63/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)と、エステル化合物(B)とを含み、
前記エステル化合物(B)が、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート及びベンジルメチルジプロピレングリコールアジペートからなる群より選択される少なくとも一種であり、
成分(A)/成分(B)[重量比]が70/30〜97/3であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の含有量が20重量%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)及びエステル化合物(B)100重量部に対して充填材(C)を1〜50重量部含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
成形体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーを含む樹脂組成物および該樹脂組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。このため環境中や埋立て処分場、コンポスト中で微生物の作用によって分解される生分解性プラスチックが注目されてきた。生分解性プラスチックは、環境中で利用される農林水産業用資材、使用後の回収・再利用が困難な食品容器、包装材料、衛生用品、ゴミ袋などへの幅広い応用を目指して、開発が進められている。
【0003】
上述の生分解性プラスチックの中でも、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来のプラスチックとして脂肪族ポリエステル樹脂が注目されており、特にポリヒドロキシアルカノエート樹脂、更にはポリヒドロキシアルカノエート樹脂の中でもポリ(3−ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂(以下、P3HBと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)共重合樹脂(以下、P3HB3HVと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂(以下、P3HB3HHと称する場合がある)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)共重合樹脂(以下、P3HB4HBと称する場合がある)およびポリ乳酸(以下、PLAと称する場合がある)等が注目されている。
【0004】
しかしながら、前記ポリヒドロキシアルカノエート樹脂等の脂肪族ポリエステル樹脂は、シートやフィルムにした際の引き裂き強度が低いため、用途が限定されてしまう、という問題があった。
【0005】
特許文献1には、ポリ乳酸と特定の可塑剤とを含む樹脂組成物、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとを組み合わせて製造される脂肪族ポリエステルと特定の可塑剤とを含む樹脂組成物が、可塑剤のブリードがなく、また、引張弾性率が小さく伸び率が大きいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003―292474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にはポリ乳酸とポリブチレンサクシネートを用いた場合に引張特性が向上することが具体的に示されているが、ポリブチレンサクシネートの引き裂き強度の向上効果が実質的に得られないことを本発明者は確認済みである。事実、特許文献1には引き裂き強度向上に関する何の言及もない。さらに、特許文献1には、特に引き裂き強度を高めることが難しい微生物産生プラスチック(例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)ホモポリマー又はコポリマー)を用いた具体的態様の開示はない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ブリードアウトが抑制され、なおかつ成形性に優れ、高い引き裂き強度を有する成形体を得ることができる樹脂組成物及び前記成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(以下、P3HAと称する場合がある)と特定のエステル化合物とを特定の割合で含む樹脂組成物について、ブリードアウトが抑制され、なおかつ成形性に優れており、高い引き裂き強度を有する成形体を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[6]の樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体を提供する。
[1]ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)と、式(1)で表されるエステル化合物(B)とを含み、
成分(A)/成分(B)[重量比]が70/30〜97/3であることを特徴とする樹脂組成物。
OOC−(CH−COOR (1)
[R及びRは、互いに異なって、それぞれ式(2)で表される基を示す。mは0〜8の整数を示す。]
−(RO) (2)
[Rは、炭素数1〜6のアルキレン基を示す。Rは、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜15のアリールアルキル基又は炭素数7〜15のアルキルアリール基を示す。nは、0〜6の整数を示す。]
[2]ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の含有量が20重量%以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)及びポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)及びエステル化合物(B)100重量部に対して充填材(C)を1〜50重量部含有する、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
[5]エステル化合物(B)が、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート及びベンジルメチルジプロピレングリコールアジペートからなる群より選択される少なくとも一種である、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
[6]成形体である、[1]〜[5]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は上記構成を有するため、ブリードアウトが抑制され、なおかつ成形性に優れる。さらに、本発明の樹脂組成物を成形することにより得られる成形体は、高い引き裂き強度を有する。
本発明の樹脂組成物は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー自体と比較して成形性が悪化することなく、特定の化合物を含むにも関わらずそのブリードアウトが抑制されており、さらに引き裂き強度が改善されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の樹脂組成物の実施の一形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)と特定のエステル化合物(B)とを少なくとも含有する樹脂組成物である。
【0014】
[ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)]
本発明の樹脂組成物におけるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)は、3−ヒドロキシアルカノエートを必須のモノマー成分として含有するコポリマーである。特に、下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含むコポリマーであることが好ましい。
[−CHR−CH−CO−O−] (3)
【0015】
一般式(3)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1〜15の整数を示す。Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1〜10が好ましく、より好ましくは1〜8である。
【0016】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)としては、特に微生物から産生されるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーが好ましい。微生物から産生されるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーは、3−ヒドロキシアルカノエート繰り返し単位が、全て(R)−3−ヒドロキシアルカノエートであるポリ[(R)−3−ヒドロキシアルカノエート]である。
【0017】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)は、3−ヒドロキシアルカノエート繰り返し単位(特に一般式(3)の繰り返し単位)を、全繰り返し単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上)含んでいればよく、繰り返し単位(モノマー単位)として3−ヒドロキシアルカノエート繰り返し単位のみを含むコポリマーであってもよいし、3−ヒドロキシアルカノエート繰り返し単位に加えてその他の繰り返し単位(例えば、4−ヒドロキシアルカノエート繰り返し単位等)を含むコポリマーであってもよい。
【0018】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の分子量は、目的とする用途で、実質的に十分な物性を示すものであれば、特に制限されない。分子量が低いと得られる成形体の強度が低下する傾向がある。逆に高いと加工性が低下し、成形が困難になる傾向がある。これらを勘案して本発明の樹脂組成物におけるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の重量平均分子量は、20万〜250万が好ましく、25万〜200万がより好ましく、30万〜150万が更に好ましい。
【0019】
なお、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと称する場合がある)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0020】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)としては、3−ヒドロキシブチレートをモノマー単位として80モル%以上含むコポリマーが好ましく、より好ましくは85モル%以上含むコポリマーである。特に、これらコポリマーであって、3−ヒドロキシブチレートが全て(R)−3−ヒドロキシブチレートであるもの(微生物によって産生されたもの)が好ましい。具体例としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(P3HB3HV)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)等が挙げられる。特に、加工性又は成形体の物性の観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0021】
前記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)において、3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)と、これと共重合しているコモノマー、例えば、3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと称する場合がある)、4−ヒドロキシブチレート(以下、4HBと称する場合がある)との構成比、即ちコポリマー中のモノマー比率としては、加工性や生産性、あるいは成形体品質等の観点から、3−ヒドロキシブチレート/コモノマー=97/3〜80/20(モル%/モル%)であることが好ましく、より好ましくは95/5〜85/15(モル%/モル%)である。
【0022】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)中の各モノマー比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号に記載の方法により求めることができる。
【0023】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物産生による製造方法であってもよい。中でも、上述のように微生物産生による製造方法が好ましい。微生物により産生する方法については、公知乃至慣用の方法を適用できる。
【0024】
3−ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)に合わせて、各種ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0025】
本発明の樹脂組成物においてポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
本発明の樹脂組成物におけるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の含有量は、樹脂組成物(100重量%)中、20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。上限は特に限定されず、例えば80重量%以下とすることができる。ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーの含有量を20重量%以上とすることにより、樹脂組成物がいっそう優れた生分解性を発揮する傾向がある。
【0027】
[エステル化合物(B)]
本発明の樹脂組成物におけるエステル化合物(B)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
OOC−(CH−COOR (1)
【0028】
一般式(1)中、R及びRは、互いに異なる基であり、それぞれ一般式(2)で表される基を示す。なお、式(1)に示される2つの「COO」はエステル結合を示す。
−(RO) (2)
【0029】
一般式(2)中、Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示し、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、メチルジメチレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。中でも、炭素数2〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。また、Rは炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜15のアリールアルキル基または炭素数7〜15のアルキルアリール基を示す。炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。また、炭素数6〜12のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。炭素数7〜15のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。炭素数7〜15のアルキルアリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基等が挙げられる。nは0〜6の整数を示し、0〜4が好ましく、より好ましくは0〜3である。
【0030】
一般式(1)中、mは0〜8の整数を示す。mとしては、2〜7が好ましく、より好ましくは4〜6である。
【0031】
特に、Rとしては、nが0であってRが炭素数7〜15のアリールアルキル基である基、又はnが1以上であってRが炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である基;Rとしては、nが1以上であってRが炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である基、が好ましい。
【0032】
エステル化合物(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、二塩基酸とアルコール又はエーテルアルコールとを反応させる方法(二塩基酸のエステル化)により得られる。すなわち、エステル化合物(B)としては、二塩基酸とアルコール又はエーテルアルコールとの反応生成物を用いることができる。エステル化合物(B)の原料である二塩基酸としては、例えば、アジピン酸、コハク酸、蓚酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。中でも、アジピン酸、コハク酸が好ましい。
【0033】
エステル化合物(B)の原料であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、フェノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が好ましく、ベンジルアルコール、1−ブタノール、オクタノール、フェネチルアルコールがより好ましい。
【0034】
エステル化合物(B)の原料であるエーテルアルコールとしては、上記アルコールのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノベンジルエーテルのようなエチレンオキサイド付加物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピングレリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノベンジルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノベンジルエーテルのようなプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。中でも、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0035】
エステル化合物(B)の具体例としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート、ベンジルメチルジプロピレングリコールアジペート、ベンジルブチルジエチレングリコールアジペート、ベンジルブチルジプロピレングリコールアジペート、メチルジエチレングリコールブチルジエチレングリコールアジペート、メチルジプロピレングリコールブチルジプロピレングリコールアジペート等が挙げられる。
【0036】
本発明の樹脂組成物においてエステル化合物(B)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
エステル化合物(B)の数平均分子量は、200〜1500が好ましく、より好ましくは300〜1000である。数平均分子量を200以上とすることにより、成形体表面へのブリードアウトがいっそう抑制される傾向がある。一方、数平均分子量を1500以下とすることにより、大量に添加することなく(例えば、ブリードアウトを抑制するために少量用いた場合であっても)優れた引き裂き強度の向上効果を得ることができる傾向がある。
【0038】
本発明の樹脂組成物におけるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)とエステル化合物(B)の割合[成分(A)/成分(B);重量比]は、70/30〜97/3であり、好ましくは75/25〜95/5、より好ましくは80/20〜90/10である。エステル化合物(B)の割合を3重量%以上とすることにより、成形体の引き裂き強度がいっそう向上する傾向がある。一方、エステル化合物(B)の割合を30重量%以下とすることにより、ブリードアウトが高度に抑制されながら、成形体の引き裂き強度がいっそう高くなる傾向がある。
【0039】
[充填材(C)]
本発明の樹脂組成物における充填材(C)としては、特に限定されず、例えば、無機充填材、有機充填材のいずれも使用することができる。充填材(C)を含有することにより、樹脂組成物の機械物性向上や表面平滑性、金型転写性向上等の成形上のメリットを享受できる傾向がある。
【0040】
無機充填材としては各種のものを使用することができ、特に限定されないが、汎用性が高く、機械的強度向上効果が高く、また粒径分布が小さく表面平滑性や金型転写性を阻害しにくいため、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩、酸化物、水酸化物、窒化物、及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0041】
珪酸塩としては、例えば、タルク、マイカ、カオリナイト、セリサイト等の粘土鉱物、パイロフェライト、ワラストナイト、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸第二鉄等が挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。燐酸塩としては、例えば、燐酸カルシウム、燐酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム等が挙げられる。酸化物としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化鉄等が挙げられる。水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0042】
無機充填材の中でも、特に入手性および効果の点でシリカ、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、カオリナイト、硫酸バリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、カーボンブラックが特に好ましい。
【0043】
また、無機充填材は、1種のみならず2種以上を混合してもよく、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)やエステル化合物(B)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0044】
無機充填材の吸油量は、特に限定されないが、5〜250ml/100gが好ましく、より好ましくは10〜200ml/100gである。前記吸油量は、JIS−K5101に準拠して求められる量である。
【0045】
無機充填材の水分量は、特に限定されないが、0.01〜10%が好ましく、より好ましくは0.01〜5%、さらに好ましくは0.01〜1%である。水分量が0.01%未満では無機充填材から水分を低下させるためのユーティリティー費が高くなる傾向があり、また、10%を超えるとポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の加水分解を促進することによって分子量を低下させる可能性がある。なお、上述の無機充填材の水分量は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0046】
無機充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。平均粒子径が0.1μm未満ではハンドリング性が悪くなる傾向があり、また、100μmを超えると樹脂組成物の引き裂き強度が低くなる傾向がある。なお、上述の無機充填材の平均粒子径は、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」等のレーザー回折・散乱式の装置を用いることで求められる。
【0047】
無機充填材として、タルクを用いる場合は、汎用のタルク、表面処理タルク等が挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社等のタルクが例示される。シリカを用いる場合は、親水性シリカ、疎水性シリカ、表面処理シリカ等が挙げられ、具体的には東ソー・シリカ社の「Nipsil」(登録商標)、エボニック社の「カープレックス」(登録商標)、富士シリシア社の「サイリシア」(登録商標)、「サイロホービック」(登録商標)、日本アエロジル社の「アエロジル」(登録商標)、トクヤマ社の「レオロシール」(登録商標)、「エクセリカ」(登録商標)等のシリカが例示される。炭酸カルシウムを用いる場合は、重質炭酸カルシウム、軟質炭酸カルシウム等が挙げられ、具体的には、竹原化学工業社の「サンライト」(登録商標)、「ホワイトシール」(登録商標)や丸尾カルシウム社や白石カルシウム社等の炭酸カルシウムが例示される。マイカを用いる場合は、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカ等が挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社等のマイカが例示される。カオリナイトを用いる場合は、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリン等が挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や啓和炉材社等のカオリナイトが例示される。硫酸バリウムを用いる場合は、沈降性硫酸バリウム、粉砕硫酸バリウム等が挙げられ、具体的には、竹原化学工業社や堺化学工業社等の硫酸バリウムが例示される。酸化チタンを用いる場合は、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン等が挙げられ、具体的には、石原産業社や堺化学工業社や富士チタン工業社等の酸化チタンが例示される。窒化ホウ素を用いる場合は、六方晶型窒化ホウ素、立方晶型窒化ホウ素等が挙げられ、具体的には、昭和電工社の「SHOBN」(登録商標)や電気化学工業社やESK Ceramics社やMOMENTIVE社等の窒化ホウ素が例示される。カーボンブラックを用いる場合は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられ、具体的には、旭カーボン社や三菱カーボンブラック社や東海カーボン社や新日化カーボン社やキャボットジャパン社等のカーボンブラックが例示される。
【0048】
充填材(C)としては、入手性、価格、ハンドリングの観点からは、無機充填材を用いることが好ましい。一方、有機充填材は、無機充填材に対して比較的比重が小さいものやアスペクト比が高いものが多い。この場合、より機械特性向上効果があるため、有機充填材を用いることが好ましい場合もある。
【0049】
有機充填材は、1種のみならず2種以上混合してもよく、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0050】
有機充填材に用いられる材料としては、例えば、木屑、木粉、オガ屑などの木質系材料、米殻、米粉、澱粉、コーンスターチ、稲わら、麦わら、天然ゴム等の天然由来の材料および、有機物からなる天然繊維や合成繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0051】
有機繊維としては、天然繊維、合成繊維いずれも使用することができる。天然繊維としては植物性天然繊維及び動物性天然繊維のいずれも使用することができる。植物性天然繊維としては、例えばケナフ繊維、アバカ繊維、竹繊維、ジュート繊維、麻繊維、リネン繊維、ヘネケン(サイザル麻)、ラミー繊維、ヘンプ、綿、バナナ繊維、ココナッツ繊維、ヤシ、パーム、コウゾ、ミツマタ、バガス等が挙げられる。また、植物繊維から加工されたパルプやセルロース繊維(セルロースファイバー)、レーヨン等の再生繊維も挙げられる。動物性天然繊維としては、羊毛、絹、カシミア、モヘヤ等が挙げられる。一方、合成繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアクリル、ポリアリレート繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アセチルセルロース、ポリベンザゾール、PBO(ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などが例示できる。
【0052】
前記有機繊維の中でも特に、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)との複合物のバイオマス度を高める目的で、また環境性能を阻害しない目的で天然繊維を用いることが好ましく、更に、栽培に要するコストが安価であるため植物性の天然繊維を用いることがより好ましい。なお、有機繊維は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。使用する有機繊維の繊度は特に限定されず、用途等によって適宜の繊度の繊維を用いることが好ましい。
【0053】
有機充填材の中でもポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)との相溶性の観点から、天然由来の材料や有機繊維から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。更にそれらの中でもコストを改善する目的や入手性の観点から木質系材料や有機繊維から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、生分解性の点で、木質系材料や天然繊維より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0054】
本発明の樹脂組成物において用いる有機充填材の水分は、特に限定されないが、1〜15%が好ましく、より好ましくは1〜13%、さらに好ましくは1〜10%である。水分が1%未満では、水分を低下させるためのユーティリティー費が高くなる傾向があり、また、15%を超えると、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の加水分解を促進することによって分子量を低下させたり、充填材の分散不良や発泡により成形体にボイド等の欠点が形成されたりする可能性がある。なお、前記水分量は、JIS−K5101に準拠して求められる。
【0055】
有機充填材としてセルロースファイバーを用いる場合は、例えば、CreaFill Fibers Corp.の「TC150」、Celite社のFibra−Cel SWシリーズ、BHシリーズ、CBRシリーズ、Terracel TM社やAmerican Wood Fibers社のセルロースファイバー等を使用できる。また、木粉を用いる場合は、例えば、日東粉化商事株式会社の木粉や渡辺ケミカル社セルロシンが挙げられる。
【0056】
本発明の樹脂組成物において充填材(C)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。例えば、後者の場合は、例えば無機充填材と有機充填材を組み合わせて用いることができる。二種以上の充填材(C)を用いる場合、例えばポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーの種類や目的の効果に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0057】
本発明の樹脂組成物における充填材(C)の含有量は、特に限定されないが、良好な外観性を維持しながら機械物性が向上する効果を得る事ができ、表面平滑性や金型転写性を改善できる効果が得られやすい点で、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)及びエステル化合物(B)100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは3〜30重量部である。
【0058】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、上記ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)、エステル化合物(B)、更に必要に応じて充填材(C)の他に、酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;可塑剤;滑剤;無機充填材;有機充填材;または帯電防止剤などの他の成分を含有してもよい。これらの他の成分の添加量としては、本発明の効果を損なわない程度であればよく、特に限定されない。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)以外の樹脂成分(「その他の樹脂成分」と称する)を含んでいてもよい。その他の樹脂成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル又は脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。なお、その他の樹脂成分は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の樹脂組成物がその他の樹脂成分を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)100重量部に対して、0〜800重量部の範囲から適宜選択でき、例えば、0〜20重量部とすることができる。その他の樹脂成分を用いる場合、例えば、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)100重量部に対して、25〜400重量部が好ましく、より好ましくは50〜150重量部である。
【0060】
[樹脂組成物及び成形体の製造方法]
本発明の樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体は、特に限定されず、公知乃至慣用の方法を適用することにより製造することができる。例えば、まず、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)、エステル化合物(B)、更に必要に応じて充填材(C)や他の成分を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して、まずは樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットすることにより、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状の樹脂組成物からなるペレットを得ることができる。
【0061】
本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)、エステル化合物(B)、更に必要に応じて充填材(C)等を溶融混練する温度は、使用するポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)の融点や溶融粘度等や、使用するエステル化合物(B)の量によるため一概には規定できないが、例えば、溶融混練物のダイス出口での樹脂温度が150〜200℃であることが好ましく、より好ましくは160〜195℃、さらに好ましくは170〜190℃である。溶融混練物の樹脂温度が150℃未満であると、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)が未溶融となる場合があり、200℃を超えるとポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)が著しく熱分解する場合がある。
【0062】
前記方法によって作製したペレットを、40〜80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、公知の成形加工方法で成形加工することにより、任意の成形体を得ることができる。
【0063】
成形温度としては、着色などの外観に優れる点で、樹脂温度は、160〜200℃が好ましく、より好ましくは170〜190℃である。本発明の樹脂組成物を溶融させた後の成形時の冷却温度は25〜55℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。
【0064】
成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、フィルム成形、シート成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0065】
フィルム成形体の製造方法としては、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形が挙げられる。ただし、フィルム成形法はこれらに限定されるものではない。また、本発明の樹脂組成物から得られたフィルムは、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。
【0066】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、その他目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、射出成形法はこれらに限定されるものではない。
【0067】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ペレットの形態で他の樹脂に対してブレンドする用途に使用することもできる。例えば、本発明の樹脂組成物かなるペレットとポリ乳酸をブレンドして使用することができる。ポリ乳酸にエステル化合物(B)を直接混合しようとすると、ブロッキングが生じて成形加工時にハンドリング性が著しく悪化するが、本発明の樹脂組成物からなるペレットをポリ乳酸にブレンドすることで、ポリ乳酸にエステル化合物(B)が配合された樹脂組成物をハンドリング性良く成形加工することが可能である。
【0068】
本発明の樹脂組成物及び成形体は、加工性と耐ブリードアウト性と引き裂き強度に優れるので、例えば、包装材、食器類、農業用資材、海洋資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、各種ボトル成形品、押出シートや異型押出製品、などの基材として好適に使用され得る。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0070】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A):以下の製造例1にて製造したもの(P3HA−1と称する場合がある)および製品(P3HB4HB(Ecomann社製EM5400);P3HA−2と称する場合がある)を用いた。
【0071】
<製造例1>
国際公開第2013/147139号に記載の方法に準じ、KNK−631株および炭素源としてパーム核油を用いて、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーであるP3HB3HHを得た。重量平均分子量は65万、3HH組成は11.4モル%であった。
【0072】
その他、実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
[ポリ乳酸]
NatureWorks社製Ingeo 4043D
[ポリブチレンサクシネート;PBSと称する場合がある]
昭和電工社製ビオノーレ 1001MD
[エステル化合物(B)]
エステル化合物−1:ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート(大八化学工業社製DAIFATTY−101)
エステル化合物−2:グリセリンジアセトモノラウレート(理研ビタミン社製リケマールPL−012)
エステル化合物−3:アセチルクエン酸トリブチル(旭化成ファインケム社製ATBC)
エステル化合物−4:ジイソノニルアジペート(DIC株式会社製モノサイザーW−242)
[充填剤(C)]
充填材−1:炭酸カルシウム(白石カルシウム社製RK−75NC)
充填材−2:シリカ(東ソー・シリカ社製Nipsil LP)
【0073】
<実施例1>
(樹脂組成物の製造)
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(A)としてP3HA−1、エステル化合物(B)としてエステル化合物−1を、表1に示した配合比率(以下、表中の配合比は、重量部を示す)で、同方向噛合型2軸押出機(東芝機械社製:TEM−26SS)を用いて、シリンダー設定温度140〜160℃、スクリュ回転数100rpmで溶融混練し、樹脂組成物を得た。この際、樹脂温度(ダイスから出てくる溶融した樹脂を直接K型熱電対で測定)は162℃であった。溶融した樹脂組成物をダイスからストランド状に引き取り、ペレット状にカットした。得られたペレットを80℃で除湿乾燥し、水分を除去した。
【0074】
(成形体の製造)
上記で得られたペレットを原料として、横幅が150mm、リップ幅が0.25mmのT型ダイスを装着した単軸押出機(東洋精機製作所製:20C200型ラボプラストミル)を用いて、シリンダー設定温度は140〜160℃、チルロールの設定温度は47℃として、厚み100μmのフィルムを得た。この際の成形性および得られたシートについて、以下の評価を行なった。結果を表1に示した。
【0075】
(成形性の評価)
前記成形体の製造において、得られたペレットを押出機に投入した際に、ペレットがスクリュに食い込む場合を○(成形性良好)、食い込まない場合を×(成形性不良)と評価した。
【0076】
(ブリードアウトの評価)
フィルムを23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、フィルムを重ね合わせた際にフィルム同士がくっつかない場合を○(ブリードアウトがない又は抑制されている)、くっつく場合を×(ブリードアウトが顕著である)とした。
【0077】
(引き裂き強度)
フィルムを23℃、湿度50%雰囲気下にて1ヶ月保存した後、エルメンドルフ引き裂き強度測定器(熊谷理機工業社製)を用い、JIS 8116に準拠して、MD方向の引き裂き強度を測定した。
【0078】
<実施例2〜6、比較例1〜9>
樹脂組成物の配合比を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットおよびフィルムを作製し、実施例1と同様の評価を実施した。
なお、PLAやPBSを用いた場合(比較例)は、溶融時のシリンダー設定温度を200℃、水槽及びチルロールの設定温度を30℃としてペレット及びフィルムを作製した。評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーのみの比較例1では、引き裂き強度が低いのに対し、実施例1〜6は、引き裂き強度が高い。
エステル化合物−2またはエステル化合物−3またはエステル化合物−4を使用している比較例2と4と5は、エステル化合物がフィルムからブリードアウトしているためフィルム同士がくっついてしまった。エステル化合物−2の量が少ない比較例3は、ブリードアウトしていないが、引き裂き強度の改善効果が小さい。エステル化合物−1が過剰量となっている比較例4は、エステル化合物がペレットからブリードアウトしているため押出機のスクリュに食い込まずフィルムを作製できなかった。PLAとエステル化合物−1の組み合わせである比較例5は、得られたペレットがブロッキングしているため押出機のスクリュに食い込まずフィルムが作製できなかった。PBSとエステル化合物−1の組み合わせである比較例6は、PBSのみの比較例7よりも引き裂き強度が低下している。更にエステル化合物がフィルムからブリードアウトしているためフィルム同士がくっついてしまった。
このように本発明の樹脂組成物は、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)コポリマーからなる成形体の欠点である引き裂き強度が改善されるとともに、フィルム成形などの成形性を悪化させず、またブリードアウトが起こり難いことがわかる。