(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持部材は、前記真空容器の外縁付近の底部から立設されて前記筒形電極の直下に延び、前記回転テーブルと前記筒形電極の間で前記電子誘導部材を支持する外側支持部材を含むことを特徴とする請求項4記載のプラズマ処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回転テーブルで搬送されるワークには絶縁物が含まれることもある。絶縁物を含むワークが筒形電極の下に位置すると、カソードに絶縁物が含まれることとなる。結果として、プラズマの電子がカソード側に流れにくくなり、プラズマが不安定となり、膜処理が適切にされないおそれがある。
【0008】
ここで、筒形電極に高周波電圧を印加するRF電源は、マッチングボックスを介して筒形電極及び真空容器に接続されている。ワークが筒形電極の下に位置している状態でも、マッチングボックスによって、入力側と出力側のインピーダンスを整合させれば、プラズマを安定化させることもできる。
【0009】
しかしながら、処理効率を向上させようとすれば、回転テーブルにできるだけ多くのワークを載置することになる。ワーク間の隙間が狭くなると、カソードは、絶縁物が含まれない状態と含まれる状態とが激しく入れ替わることとなる。この場合、マッチングボックスでのインピーダンスの調整が間に合わなくなる可能性がある。結果として、プラズマ放電が不安定となり、膜処理の品質に影響を及ぼすおそれがあった。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決するために、絶縁物が含まれるワークを処理する場合でも、プラズマ放電を安定化させることで、ワークの状態に左右されずに処理効率を向上させることができるプラズマ処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のプラズマ処理装置は、一端に開口部が設けられ、内部にプロセスガスが導入され、プラズマを発生させる筒形電極と、ワークを循環搬送させながら、電圧が印加された前記筒形電極の前記開口部の下を通過させる搬送部と、前記開口部と前記搬送部の間に配置され、前記筒形電極の内部で発生した前記プラズマに含まれる電子を誘導して、前記開口部の下を通過する前記ワークにプラズマを到達させる電子誘導部材と、を備え、
前記電子誘導部材は、導電性部材と、前記導電性部材にコーティングされたエッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤と、を含む。
【0012】
前記電子誘導部材は、中心に孔部を有するリング状部材としても良い。
【0013】
前記電子誘導部材は、前記開口部の、前記搬送部の搬送方向と直交する方向の中心部を横断する板状部材としても良い。
【0014】
前記搬送部は、
ワークを保持して循環搬送させる回転テーブルを有し、
前記回転テーブルと前記筒形電極は真空容器内に配置され、前記筒形電極は前記回転テーブルの前記ワークの保持位置の上方に配置され、前記プラズマ処理装置は、前記電子誘導部材を前記開口部と前記回転テーブルの間で支持する支持部材を更に備えるようにしても良い。
【0015】
前記支持部材は、前記真空容器の外縁付近の底部から立設されて前記筒形電極の直下に延び、前記回転テーブルと前記筒形電極の間で前記電子誘導部材を支持する外側支持部材を含むようにしても良い。
【0016】
前記真空容器の内部に立設され、先端部分が前記回転テーブルの中心を貫通する支柱を更に備え、前記回転テーブルは、転がり軸受を介して前記支柱に回転可能に支持され、前記支持部材は、前記支柱に取り付けられ、前記筒形電極の直下に延び、前記回転テーブルと前記筒形電極の間で前記電子誘導部材を支持する内側支持部材を含むようにしても良い。
【0017】
前記電子誘導部材は、絶縁材を介して前記筒形電極の先端に接続されるようにしても良い。
【0018】
前記電子誘導部材は、前記開口部の50%〜85%の面積を覆うようにしても良い。
【0019】
前記電子誘導部材は、導電性部材と、前記導電性部材にコーティングされたエッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤、とを含むようにしても良い。
【発明の効果】
【0020】
筒形電極の開口部とワークの搬送部の間に電子誘導部材を配置することによって、搬送部で搬送されるワークの性質や搬送状態に影響されず、プラズマで発生した電子を電子誘導部材に誘導することができ、プラズマ放電を安定化させることができる。プラズマ放電を安定化させることで、プラズマで発生したイオンやラジカル等がワークへ安定して到達する。結果として、処理効率を向上させることができると共に、品質の安定した製品を提供することができるプラズマ処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[構成]
本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、プラズマ処理装置は略円筒型のチャンバ1を有する。チャンバ1には排気部2が設けられており、チャンバ1の内部を真空に排気可能になっている。すなわち、チャンバ1は真空容器として機能する。中空の回転軸3bが、チャンバ1の底部を貫通してチャンバ1の内部に立設されている。回転軸3bには略円形の回転テーブル3が取り付けられている。回転軸3bには不図示の駆動機構が連結される。駆動機構の駆動によって回転テーブル3は回転軸3bを中心に回転する。中空の回転軸3bの内部には、不動の支柱3cが配置されている。支柱3cは、チャンバ1の外部に設けられた不図示の基台に固定され、チャンバ1の底部を貫通してチャンバ1の内部に立設されている。回転テーブル3の中心には開口部が設けられている。支柱3cは回転テーブル3の開口部を貫通し、先端は回転テーブル3の上面と、チャンバ1の上面の間に位置する。なお、支柱3cの先端はチャンバ1の上面に接触していても良い。回転テーブル3の開口部と支柱3cとの間にはボールベアリング3dが配置されている。すなわち、回転テーブル3は、ボールベアリング3dを介して支柱3cに回転可能に支持されている。
【0024】
チャンバ1、回転テーブル3及び回転軸3bは、プラズマ処理装置においてカソードとして作用するので、電気抵抗の少ない導電性の金属部材で構成すると良い。回転テーブル3は、例えば、アルミニウム、ステンレス又は銅のような金属とすると良い。なお、回転テーブル3として、ステンレス鋼の板状部材の表面に酸化アルミニウムを溶射したものを用いてもよい。酸化アルミニウムは、絶縁物であるが、高周波プラズマの場合には、酸化アルミニウムの厚みが、マッチングボックスでインピーダンス整合がとれる範囲であれば、プラズマを形成することができる。このように酸化アルミニウムを溶射すると、回転テーブル3がプラズマでエッチングされ難くなり、エッチングされた粒子がワークWやチャンバ1の内壁などに付着することが防止され、パーティクルを低減できる。
【0025】
回転テーブル3の上面には、ワークWを保持する保持部3aが複数設けられる。複数の保持部3aは、回転テーブル3の周方向に沿って等間隔に設けられる。回転テーブル3が回転することによって、保持部3aに保持されたワークWが回転テーブル3の周方向に移動する。言い替えると、回転テーブル3の面上には、ワークWの円形の移動軌跡である搬送経路(以下、「搬送路P」という。)が形成される。保持部3aは、例えばワークWを載置するトレイとすることができる。トレイが、例えば、ワークWを2つ載置できるタイプのものであるときは、
図3に示すように、同じトレイに載置され2つのワークWの間の隙間は、他のトレイに載置されたワークWとの間の隙間よりも狭くなる。
【0026】
以降、単に「周方向」という場合には、「回転テーブル3の周方向」を意味し、単に「半径方向」という場合には、「回転テーブル3の半径方向」を意味する。また、本実施形態ではワークWの例として、平板状の基板を用いているが、プラズマ処理を行うワークWの種類、形状及び材料は特定のものに限定されない。例えば、中心に凹部あるいは凸部を有する湾曲した基板を用いても良い。また、金属、カーボン等の導電性材料を含むもの、ガラスやゴム等の絶縁物を含むもの、シリコン等の半導体を含むものを用いても良い。
【0027】
回転テーブル3の上方には、プラズマ処理装置における各工程の処理を行うユニット(以下、「処理ユニット」という。)が設けられている。各処理ユニットは、回転テーブル3の面上に形成されるワークWの搬送路Pに沿って、互いに所定の間隔を空けて隣接するように配置されている。保持部3aに保持されたワークWが各処理ユニットの下を通過することで、各工程の処理が行われる。
【0028】
図1の例では、回転テーブル3上の搬送路Pに沿って7つの処理ユニット4a〜4gが配置されている。本実施形態では、処理ユニット4a,4b,4c,4d,4f,4gはワークWに成膜処理を行う成膜ユニットである。処理ユニット4eは、成膜ユニットによってワークW上に形成された膜に対して処理を行う膜処理ユニットである。本実施形態では、成膜ユニットは、スパッタリングを行うものとして説明する。また、膜処理ユニット4eは、後酸化を行うものとして説明する。なお、後酸化とは、成膜ユニットで成膜された金属膜に対して、プラズマにより生成された酸素イオン等を導入することによって金属膜を酸化する処理である。処理ユニット4aと処理ユニット4gの間には、外部から未処理のワークWをチャンバ1の内部に搬入し、処理済みのワークWをチャンバ1の外部へ搬出するロードロック部5が設けられている。なお、本実施形態では、ワークWの搬送方向を、
図1の時計回りに、処理ユニット4aの位置から処理ユニット4gへ向かう方向とする。もちろん、これは一例であり、搬送方向、処理ユニットの種類、並び順及び数は特定のものに限定されず、適宜決定することができる。
【0029】
成膜ユニットである処理ユニット4aの構成例を
図2に示す。他の成膜ユニット4b,4c,4d,4f,4gも、成膜ユニット4aと同様に構成しても良いが、その他の構成を適用しても良い。
図2に示すように、成膜ユニット4aは、スパッタ源としてチャンバ1の内部の上面に取り付けられたターゲット6を備えている。ターゲット6は、ワークW上に堆積させる材料で構成された板状の部材である。ターゲット6は、ワークWが成膜ユニット4aの下を通過する際に、ワークWと対向する位置に設置される。ターゲット6には、ターゲット6に対して直流電圧を印加するDC電源7が接続されている。また、チャンバ1の内部の上面の、ターゲット6を取り付けた箇所の近傍には、スパッタガスをチャンバ1の内部に導入するスパッタガス導入部8が設置されている。スパッタガスは、例えば、アルゴン等の不活性ガスを用いることができる。ターゲット6の周囲には、プラズマの流出を低減するための隔壁9が設置されている。なお、電源に関してはDCパルス電源、RF電源等周知のものが適用できる。
【0030】
膜処理ユニット4eの構成例を
図2及び
図3に示す。膜処理ユニット4eは、チャンバ1の内部の上面に設置され、筒形に形成された電極(以下、「筒形電極」という。)10を備えている。筒形電極10は、角筒状であり、一端に開口部11を有し、他端は閉塞されている。筒形電極10はチャンバ1の上面に設けられた貫通孔を貫通して、開口部11側の端部がチャンバ1の内部に位置し、閉塞された端部がチャンバ1の外部に位置するように配置される。筒形電極10は、絶縁材を介してチャンバ1の貫通孔の周縁に支持されている。筒形電極10の開口部11は、回転テーブル3上に形成された搬送路Pと向かい合う位置に配置される。すなわち、回転テーブル3は、搬送部として、ワークWを循環搬送させながら、開口部11の直下を通過させる。そして、開口部11の直下の位置が、ワークWの通過位置となる。
【0031】
図1に示すように、筒形電極10は上から見ると回転テーブル3の半径方向における中心側から外側に向けて拡径する扇形になっている。ここでいう扇形とは、扇子の扇面の部分の形を意味する。筒形電極10の開口部11も、同様に扇形である。回転テーブル3上に保持されるワークWが開口部11の下を通過する速度は、回転テーブル3の半径方向において中心側に向かうほど遅くなり、外側へ向かうほど速くなる。そのため、開口部11が単なる長方形又は正方形であると、半径方向における中心側と外側とでワークWが開口部11の直下を通過する時間に差が生じる。開口部11を半径方向における中心側から外側に向けて拡径させることで、ワークWが開口部11を通過する時間を一定とすることができ、後述するプラズマ処理を均等にできる。ただし、通過する時間の差が製品上問題にならない程度であれば、長方形又は正方形でもよい。
【0032】
上述したように、筒形電極10はチャンバ1の貫通孔を貫通し、一部がチャンバ1の外部に露出している。この筒形電極10におけるチャンバ1の外部に露出した部分は、
図2に示すように、外部シールド12に覆われている。外部シールド12によってチャンバ1の内部の空間が気密に保たれる。筒形電極10のチャンバ1の内部に位置する部分の周囲は、内部シールド13によって覆われている。
【0033】
内部シールド13は、筒形電極10と同軸の角筒状であり、チャンバ1の内部の上面に支持されている。内部シールド13の筒の各側面は、筒形電極10の各側面と略平行に設けられる。内部シールド13の下端は筒形電極10の開口部11と高さ方向において同じ位置であるが、内部シールド13の下端には、回転テーブル3の上面と平行に延びたフランジ14が設けられている。このフランジ14によって、筒形電極10の内部で発生したプラズマが内部シールド13の外部に流出することが抑制される。回転テーブル3によって搬送されるワークWは、回転テーブル3とフランジ14の間の隙間を通って筒形電極10の開口部11の直下に搬入され、再び回転テーブル3とフランジ14の間の隙間を通って筒形電極10の開口部11の直下から搬出される。
【0034】
筒形電極10には、高周波電圧を印加するためのRF電源15が接続されている。RF電源15の出力側には整合回路であるマッチングボックス21が直列に接続されている。RF電源15はチャンバ1にも接続されている。筒形電極10がアノード、チャンバ1から立設された回転テーブル3がカソードとして作用する。マッチングボックス21は、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。なお、チャンバ1や回転テーブル3は接地されている。フランジ14を有する内部シールド13も接地される。
【0035】
また、筒形電極10にはプロセスガス導入部16が接続されており、プロセスガス導入部16を介して外部のプロセスガス供給源から筒形電極10の内部にプロセスガスが導入される。プロセスガスは、膜処理の目的によって適宜変更可能である。例えば、エッチングを行う場合は、エッチングガスとしてアルゴン等の不活性ガスを用いることができる。酸化処理又は後酸化処理を行う場合は酸素を用いることができる。窒化処理を行う場合は窒素を用いることができる。RF電源15及びプロセスガス導入部16はともに、外部シールド12に設けられた貫通孔を介して筒形電極10に接続する。
【0036】
筒形電極10の開口部11と回転テーブル3との間に、電子誘導部材17が設置されている。
図4に、電子誘導部材17の一例を示している。電子誘導部材17は、中心に孔部17aを有するリング状部材である。電子誘導部材17の外形と、中心の孔部17aの形は共に、筒形電極10の開口部11と相似した扇形である。電子誘導部材17の外形は、開口部11よりも若干小さい。電子誘導部材17を筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間に設置すると、電子誘導部材17は、開口部11の中心は空けて、その周囲の外縁部分に配置され、外縁部分を概ね覆う形になる。ただし、電子誘導部材17の外形は、開口部11よりも若干小さいため、
図4に図示するように、筒形電極10と電子誘導部材17の間には隙間が空く。
【0037】
なお、電子誘導部材17は開口部11の中心を空けてその周囲を覆うものであればよいため、電子誘導部材17の外形は開口部11よりも大きくしても良い。この場合は、電子誘導部材17は、開口部11の外縁部分を隙間なく覆う形となる。
【0038】
電子誘導部材17は、カソードである回転テーブル3の補助電極として作用する。すなわち、筒形電極10とカソードとして作用する回転テーブル3との間でプラズマ放電が生じ、プラズマがカソードの近傍、つまり、回転テーブル3の直上に形成される。そして、このようにして生じたプラズマの下を、ワークWが通過することでワークWが処理される。ところが、ワークWが絶縁性であり、筒形電極10と対向して位置する回転テーブル3の部分が絶縁性のワークWで覆われている場合、プラズマ放電が不安定になり、処理が適切に行えないおそれが生じる。そこで、このような場合でも、電子誘導部材17は、筒形電極10の内部で発生したプラズマに含まれる電子を誘導して、最終的に孔部17aの下を通過するワークWにプラズマを到達させる。プラズマがワークWの全体に到達するように、孔部17aの半径方向幅は、ワークWの半径方向幅よりは大きくすると良い。孔部17aの周方向幅は、ワークWが搬送方向に移動することによって全体をプラズマ処理することができるので、ワークWの周方向幅よりも小さくても良い。
【0039】
電子誘導部材17を筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間に設置したとき、電子誘導部材17が開口部11の50%〜85%の面積を覆うものであると良い。50%を下回ると、プラズマが電子誘導部材17によって十分に誘導されない可能性がある。85%を超えると、開口部11の覆われる面積が多くなり、プラズマが却ってワークWに到達しにくくなる。
【0040】
図4に示したように、電子誘導部材17の外形が開口部11よりも若干小さい場合は、電子誘導部材17の面積を開口部11の面積に対して50%〜85%とすると良い。電子誘導部材17の外形が開口部11より大きい場合は、開口部11の下に位置する部分の面積を、開口部11の面積に対して50%〜85%とすると良い。
【0041】
電子誘導部材17は、導電性材料で構成すると良い。また、電気抵抗が低い材料としても良い。そのような材料として、アルミニウム、ステンレス又は銅が挙げられる。回転テーブル3と同じ材料で構成しても良く、異なる材料で構成しても良い。なお、上述の回転テーブル3の場合と同様に、電子誘導部材17を、例えば、ステンレス鋼の板状部材の表面に、絶縁物の酸化アルミニウムを溶射したものとしても、パーティクルの低減効果が得られるので良い。電子誘導部材17は、筒形電極10と回転テーブル3の間に位置することで、ワークWと同様にプラズマ処理される。プラズマ処理によって電気特性が変わりプラズマの電子を誘引する力が弱まれば、交換する必要がある。そこで、プラズマ処理の内容に応じて、エッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤でコーティングしても良い。それによって、電気特性の変化を抑制し、交換頻度を減らすことができる。
【0042】
図2に示すように、電子誘導部材17は支持部材によって、筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間に位置するように固定されている。支持部材は、外側支持部材18と内側支持部材19から構成される。外側支持部材18は、回転テーブル3の外側から、電子誘導部材17の半径方向外側を固定する。内側支持部材19は、回転テーブル3の中心部から延びて、電子誘導部材17の半径方向内側を固定する。
【0043】
外側支持部材18は、支持棒18aと支持棒18aの先端に設けられた取付け金具18bとから構成される。支持棒18aは、逆L字形であり、そのL字の垂直部分が、回転テーブル3の外周とチャンバ1の外周壁との間に位置し、チャンバ1の底部から立設されている。支持棒18aのL字の垂直部分は、L字の水平部分が回転テーブル3の上面、つまりワークWが載置される面よりも上側に位置する程度に上方に伸びている。L字の水平部分は、回転テーブル3の面の直上に位置し、その先端が、回転テーブル3の中心方向に向かって延びてフランジ14及び内部シールド13の下を通り、開口部11の直下に至っている。この先端に、
図4に示すように、取付け金具18bが設けられている。
【0044】
取付け金具18bは、電子誘導部材17を固定できるものであれば良く、特定の構成に限定されない。
図4は、取付け金具18bをボルトとナットとした一例である。その場合は、電子誘導部材17にボルト穴を設けると良い。取付け金具18bは、あるいは、バネの弾性力により電子誘導部材17を挟持するクリップとしても良い。
【0045】
内側支持部材19は、支持棒19aと支持棒19aの先端に設けられた取付け金具19bとから構成される。支持棒19aは、回転テーブル3の中心の開口部を貫通する支柱3cの、回転テーブル3の上面から突き出た先端部分に、ボルト等の固定金具を用いて取り付けられている。支持棒19aは回転テーブル3の半径方向外方の、膜処理ユニット4eの位置に向かって延びる。支持棒19aの先端が到達する位置は、筒形電極10の周方向幅の中央付近とすると良い。支持棒19aは、フランジ14及び内部シールド13の下を通り、開口部11の直下に至る。
【0046】
支持棒19aの先端の取付け金具19bは、外側支持部材18と同様に、電子誘導部材17を固定できるものであれば良く、特定の構成に限定されない。また、内側支持部材19と外側支持部材18とを、異なる構成の取付け金具19bとしても良い。例えば、内側支持部材19をクリップとし、外側支持部材18をボルトとナットにしても良い。電子誘導部材17の交換の際は、例えば、チャンバ1の上面部分をジャッキで持ち上げ、チャンバ1の外側から身体を入れて交換作業を行う。チャンバ1の中心側にある内側支持部材19の方が、交換作業がしにくい。そこで、内側支持部材19は取付け作業が容易となるように、電子誘導部材17を差し込むことで固定できるクリップとしても良い。そして、作業が比較的容易な外側支持部材18は、強固に固定できるように、ボルトとナットにしても良い。もちろん、内側支持部材19又は外側支持部材18のいずれかのみで電子誘導部材17を固定することができれば、どちらか一方だけを設けても良い。
【0047】
プラズマ処理装置は、さらに制御部20を備えている。制御部20はPLCやCPUなどの演算処理装置から構成される。制御部20は、チャンバ1へのスパッタガスおよびプロセスガスの導入および排気に関する制御、DC電源7及びRF電源15の制御、および、回転テーブル3の回転速度の制御などの制御を行う。なお、DC電源7やRF電源15等の電源は、プラズマ処理装置の基本構成とは別構成として、既存の電源又は別途用意された電源を接続して用いてもよい。
【0048】
[動作]
本実施形態のプラズマ処理装置の動作と、電子誘導部材17の作用を説明する。ロードロック室から未処理のワークWをチャンバ1内に搬入する。搬入したワークWは、回転テーブル3の保持部3aによって保持される。チャンバ1の内部は、排気部2によって排気されて真空状態にされている。回転テーブル3を駆動することにより、ワークWを搬送路Pに沿って循環搬送させて、各処理ユニット4a〜4gの下を繰り返し通過させる。つまり、後述するように、ワークWは、円形の搬送路Pに沿って循環移動して、各処理ユニット4a〜4gの下を複数回通過する間に膜が形成される。
【0049】
成膜ユニット4aでは、スパッタガス導入部8からスパッタガスを導入し、DC電源7からスパッタ源に直流電圧を印加する。直流電圧の印加によってスパッタガスがプラズマ化され、イオンが発生する。発生したイオンがターゲット6に衝突すると、ターゲット6の材料が飛び出す。飛び出した材料が成膜ユニット4aの下を通過するワークWに堆積することで、ワークW上に薄膜が形成される。他の成膜ユニット4b,4c,4d,4f,4gでも、同様の方法で成膜が行われる。ただし、必ずしもすべての成膜ユニットで成膜する必要はない。一例として、ここでは、ワークWに対してSi膜をDCスパッタリングにより成膜する。
【0050】
成膜ユニット4a〜4dで成膜が行われたワークWは、引き続き搬送路P上を回転テーブル3によって搬送され、膜処理ユニット4eにおいて、筒形電極10の開口部11の直下の位置、すなわち膜処理位置を通過する。上述したように、本実施形態では、膜処理ユニット4eにおいて後酸化を行う例を説明する。膜処理ユニット4eでは、プロセスガス導入部16から筒形電極10内にプロセスガスである酸素ガスを導入し、RF電源15から筒形電極10に高周波電圧を印加する。高周波電圧の印加によって酸素ガスがプラズマ化され、電子、イオン及びラジカル等が発生する。プラズマはアノードである筒形電極10の開口部11から、カソードである回転テーブル3へ流れる。プラズマ中のイオンが開口部11の下を通過するワークW上の薄膜に衝突することで、薄膜が後酸化される。
【0051】
ここで、回転テーブル3に搬送されたワークWが開口部11の下に位置するとき、ワークW自体がカソードとして機能する。絶縁物が含まれるワークWを用いた場合、カソードに絶縁物が含まれることとなると、入力側インピーダンスが高くなる。結果として、プラズマのカソード側への流れが阻害され、プラズマ放電が不安定になる可能性が有る。
【0052】
上述したように、RF電源15にはマッチングボックス21が接続されている。絶縁物を含むワークWが開口部11の下に位置している状態でも、マッチングボックス21により出力側インピーダンスを入力側インピーダンスに整合させれば、プラズマをカソード側に流れさせることもできる。
【0053】
しかしながら、
図3に示すように、ワークW同士の隙間が非常に狭かったり、あるいは隙間の大きさが変動する状態で搬送されることもある。このような状態では、カソードは、絶縁物が含まれない状態と含まれる状態とが激しく入れ替わり、入力側インピーダンスも激しく変動する。激しい変動に対してはマッチングボックス21での整合処理が追いつかない可能性がある。
【0054】
本実施形態では、筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間に、電子誘導部材17が配置されている。電子誘導部材17はカソードの補助電極として作用する。すなわち、電子誘導部材17は、筒形電極10と回転テーブル3及びワークWとの中間の位置に配置され、筒形電極10の内部で発生したプラズマを、回転テーブル3の方に誘導する。誘導されたプラズマは、電子誘導部材17の孔部17aを通って、開口部11の下を通過するワークWに到達する。また、電子誘導部材17が開口部11の外縁部分を覆うことで、ワークWが筒形電極10と対向する面積、すなわちワークWの電子が流れる面積が低減される。したがって、ワークWの絶縁物が入力側インピーダンスに与える影響も低減させ、プラズマ放電の安定化に寄与する。結果として、絶縁物を含むワークWが、マッチングボックス21での整合処理が追いつかないような状態で搬送されていても、ワークWの性質に影響されず、安定したプラズマ処理を行うことができる。
【0055】
なお、電子誘導部材17は、あくまでも電極としての回転テーブル3の補助であり、筒形電極10と回転テーブル3がそれぞれ電極である。仮に、電子誘導部材17がカソードであり、回転テーブル3が絶縁体であって、筒形電極10と回転テーブル3との間に放電が生じない、つまり、回転テーブル3が電極として機能しない場合、以下のような理由から、後酸化等のプラズマ処理が弱くなってしまう。
(a)筒形電極10と電子誘導部材17の間にプラズマが形成されるので、回転テーブル3が電極として機能する場合と比べて、プラズマが回転テーブル3から遠ざかる。このため、プラズマがワークWに到達し難くなる。
(b)回転テーブル3にセルフバイアスがかからなくなるので、イオンを回転テーブル3に引き寄せる力が弱まる。
【0056】
[試験]
電子誘導部材17が筒形電極10の開口部11を覆う面積とプラズマ放電の関係を検証するために、プラズマ処理装置の膜処理ユニット4eにおいて後酸化処理を行った。膜処理ユニット4eは上述の実施形態と同様の構成であるが、試験において電子誘導部材17は設置していない。試験条件は以下の通りである。
・ワーク…絶縁性の樹脂基板
・回転テーブルの回転数…60rpm
・プロセスガス:…O
2 300sccm 3Pa
・高周波電力:13.56MHz 300W
【0057】
後酸化は、回転テーブル3で搬送する成膜ユニットでSi膜を成膜済みの絶縁性基板の個数を変更して複数回行った。そして、各試験における反射波電力を測定した。絶縁性基板の個数を変更することで、カソードにおける回転テーブル3の導電材料とワークWの絶縁物の割合が変更される。導電材料と絶縁物の割合と、反射波電力の関係を検証することで、結果として、電子誘導部材17が筒形電極10の開口部11を覆う面積と反射波電力の関係も検証することができる。なお、Si膜のDCスパッタリングは、後酸化と同時に行った。また、条件は公知のものと同じなので省略する。
【0058】
図5に試験結果を示している。絶縁性基板が3枚の状態では、カソードにおける導電性材料の面積は、43%である。このとき、進行波電力300Wに対して反射波電力は60Wであり、20%ものリターンロスが生じている。一方、絶縁性基板の枚数が少なくなる、すなわち、カソードにおける導電性材料の面積が増えると、反射波電力が小さくなり、リターンロスも小さくなる。絶縁性基板が2枚で、導電性材料の面積が62%の例では、反射波電力は20W、絶縁性基板が1枚で、導電性材料の面積が81%の例では、反射波電力は10Wとなっている。
【0059】
すなわち、電子誘導部材17が開口部11の50%の面積を覆えば、絶縁物のインピーダンスに対する影響を低減し、効果的なプラズマ処理を行うことができる。絶縁性基板が0枚の状態、すなわち電子誘導部材17が開口部11の100%を覆う状態では、反射波電力は0Wとなるが、当然プラズマがワークWに到達しなくなってしまう。プラズマのワークWへの経路を確保するために、電子誘導部材17の開口部11に対する面積の上限は、85%とすると良い。
【0060】
[効果]
(1)本実施形態のプラズマ処理装置は、一端に開口部11が設けられ、内部にプロセスガスが導入される筒形電極10と、ワークWを循環搬送させながら、電圧が印加された筒形電極10の開口部11の下を通過させる搬送部としての回転テーブル3と、開口部11と回転テーブル3の間に配置される電子誘導部材17と、を備える。
【0061】
筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間に電子誘導部材17を配置することによって、ワークWの性質や搬送状態に影響されず、プラズマで発生した電子を電子誘導部材17に誘導することができ、プラズマ放電を安定化させることができる。プラズマ放電を安定化させることで、プラズマで発生したイオンやラジカル等がワークWへ安定して到達する。結果として、ワークWの性質や搬送状態に影響されずに処理効率を向上させることができると共に、ワークW上に形成される膜の品質を安定させることができるプラズマ処理装置を提供することができる。
【0062】
(2)電子誘導部材17は、中心に孔部17aを有するリング状部材である。電子誘導部材17が開口部11と回転テーブル3の間に位置することで、ワークWが筒形電極10と対向する面積、すなわち電子が流れるワークWの面積が低減される。したがって、ワークWが絶縁物を含んでいる場合でも、入力側インピーダンスに与える影響も低減させ、プラズマ放電の安定化に寄与する。また、電子誘導部材17に誘導されたプラズマは、孔部17aを介してワークWに到達させることができる。
【0063】
(3)電子誘導部材17は、開口部11の50%〜85%の面積を覆うようにしても良い。50%を下回ると、プラズマで発生した電子が電子誘導部材17によって十分に誘導されない可能性がある。85%を超えると、開口部11の覆われる面積が多くなり、プラズマで発生したイオンやラジカル等が却ってワークWに到達しにくくなる。電子誘導部材17が開口部11を覆う面積を開口部11の50%〜85%の面積とすることで、プラズマで発生した電子を十分に誘導することができ、プラズマで発生したイオンやラジカル等もワークWへ十分に到達させることができる。このため、放電を安定させつつワークWの処理効率も確保する良好なワーク処理を行うことができる。
【0064】
(4)回転テーブル3は、真空容器であるチャンバ1の内部に配置され、面上にワークWを保持する。筒形電極10は、回転テーブル3のワークWの保持位置の上方に配置される。プラズマ処理装置は、チャンバ1に取り付けられ、電子誘導部材17を筒形電極10の開口部11と回転テーブル3の間で支持する支持部材として、内側支持部材19と外側支持部材18を備えるようにしても良い。支持部材を用いることで、回転するテーブル上で電子誘導部材17を固定することができる。
【0065】
(5)外側支持部材18は、チャンバ1の外縁付近の底部から立設されて筒形電極10の直下に延び、回転テーブル3と筒形電極10の間で電子誘導部材17を支持する。チャンバ1の外縁付近に設置することで、電子誘導部材17を交換する際に、作業が容易となる。
【0066】
(6)チャンバ1の内部に立設されて、先端部分が回転テーブル3の中心を貫通する支柱3cを更に備える。回転テーブル3は、軸受であるボールベアリング3dを介して支柱3cに回転可能に支持される。内側支持部材19は、支柱3cに取り付けられ、筒形電極10の直下に延び、回転テーブル3と筒形電極10の間で電子誘導部材17を支持する。回転テーブル3を支持する不動の支柱3cに内側支持部材19を取り付けることで、回転テーブル3の上で電子誘導部材17を固定することができる。
【0067】
(7)電子誘導部材17は、導電性部材と、導電性部材の周囲にコーティングされたエッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤とを含むようにしても良い。筒形電極10の下に配置した電子誘導部材17もワークWと同様にプラズマ処理され、特性が変化してしまうと、交換が必要となる。プラズマ処理の態様に合わせてエッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤でコーティングすることで、特性の変化を抑え、交換頻度を減らすことができる。
【0068】
[その他の実施形態]
(1)本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、電子誘導部材17の形状を、筒形電極10の開口部11の外縁を覆うリング状としたが、プラズマの電子をワークWに誘導できるものであれば、この形状に限られない。例えば、
図6に示すように、電子誘導部材17を矩形の板状部材170としても良い。板状部材170の周方向の幅は、開口部11の周方向幅よりも小さくすると良い。また、扇形の開口部11に合わせて、板状部材170の周方向の幅を、半径方向中心側から外側に向けて拡径するようにしても良い。板状部材170は、開口部11の半径方向中心を横断するように設置する。半径方向は、回転テーブル3によるワークWの搬送方向と直交する方向である。このように設置することによって、板状部材170は開口部11の半径方向中心部を覆い、中心部の両端部分が開放される。筒形電極10の内部で発生したプラズマは、板状部材170に誘導され、開口部11の両端部分を通って、ワークWに到達する。これによって、上述の実施形態と同様に、ワークWの性質に影響されず、安定したプラズマ処理を行うことができる。なお、板状部材170の半径方向の幅は、プラズマを均一に誘導することができるように、開口部11の半径方向幅に近い幅を有すると良い。
【0069】
(2)また、上述の実施形態は、電子誘導部材17を外側支持部材18及び内側支持部材19を用いてチャンバ1に取りけるようにしたが、
図7に示すように、電子誘導部材17を、筒形電極10の先端に、絶縁
材22を介して取り付けても良い。電子誘導部材17は、チャンバ1の上面部分あるいは、内部シールド13と電気的に接続されることで接地されている。絶縁材
22を介して接続することによって、筒形電極10と電子誘導部材17が電気的に接続されることがないため、電子誘導部材17をカソード側の補助電極として作用させることができる。筒形電極10に取り付けることによって、別途支持部材を用意する必要がないため、部品点数を削減することができる。
【0070】
(3)上述の実施形態では、電子誘導部材17の外側支持部材18及び内側支持部材19をチャンバ1の底部に取り付ける態様を説明したが、底部に限られず、例えばチャンバ1の上面あるいは壁面に取り付けても良い。
【0071】
(4)循環搬送の軌跡は、円周には限定されない。無端状の搬送経路により、循環搬送される態様を広く含む。例えば、矩形や楕円であってもよいし、クランクや蛇行する経路を含んでいてもよい。無端状の搬送経路は、例えば、コンベア等により構成してもよい。
【0072】
(5)回転テーブル3にバイアス電圧を印加してもよい。また、回転テーブル3の下に磁石を配置してもよい。これらにより、電子がトラップされるので、回転テーブル3上に、よりプラズマが形成され易くなる。