特許第6800024号(P6800024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アズビル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000002
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000003
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000004
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000005
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000006
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000007
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000008
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000009
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000010
  • 特許6800024-制御装置および表示方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800024
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】制御装置および表示方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   G05B23/02 301P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-3070(P2017-3070)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-112908(P2018-112908A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 文仁
【審査官】 藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−148973(JP,A)
【文献】 特開平11−353017(JP,A)
【文献】 特開2015−022670(JP,A)
【文献】 特開2002−140114(JP,A)
【文献】 特開昭57−139811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、PID制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出するように構成された第1のPID制御部と、
前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、PID制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力するように構成された第2のPID制御部と、
前記カスケード制御系の状態監視中に、前記第1の設定値と前記第1の制御量とを表示すると共に前記第2の設定値と前記第2の制御量とを表示し、前記状態監視中の所定の状態のときに、監視対象ではない前記第2の設定値のみを非表示にするように構成された表示制御部とを備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の制御装置において、
前記第1の設定値と前記第1の制御量との差の絶対値が予め規定された閾値以上の場合に前記カスケード制御系が過渡状態であると判断し、前記絶対値が前記閾値未満の場合に前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断するように構成された過渡状態判断部をさらに備え、
前記表示制御部は、前記過渡状態判断部によって前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断された場合を前記所定の状態として、前記第2の設定値を非表示にすることを特徴とする制御装置。
【請求項3】
カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、PID制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出する第1のステップと、
前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、PID制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力する第2のステップと、
前記カスケード制御系の状態監視中に、前記第1の設定値と前記第1の制御量とを表示すると共に前記第2の設定値と前記第2の制御量とを表示する第3のステップと、
前記状態監視中の所定の状態のときに、監視対象ではない前記第2の設定値のみを非表示にする第4のステップとを含むことを特徴とする制御装置の表示方法。
【請求項4】
請求項3記載の制御装置の表示方法において、
前記第1の設定値と前記第1の制御量との差の絶対値が予め規定された閾値以上の場合に前記カスケード制御系が過渡状態であると判断し、前記絶対値が前記閾値未満の場合に前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断する第5のステップをさらに含み、
前記第4のステップは、前記第5のステップで前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断した場合を前記所定の状態として、前記第2の設定値を非表示にするステップを含むことを特徴とする制御装置の表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に係り、特にカスケード制御を行なう場合の情報表示を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1個または複数の制御ループを備える装置を扱うために、多機能の汎用調節計(温調計)が使用されることがある(特許文献1参照)。調節計(温調計)が対象とする加熱装置の例を図6図7に示す。
【0003】
図6の例では、加熱装置は、被加熱物を加熱するための加熱処理炉100と、加熱処理炉100の内部に設置された複数のヒータH1〜H4と、それぞれヒータH1〜H4によって加熱される加熱処理炉100内の温度制御ゾーンZ1〜Z4の温度を測定する複数の温度センサS1〜S4と、ヒータH1〜H4に出力する操作量MV1〜MV4を算出する調節計101と、調節計101から出力された操作量MV1〜MV4に応じた電力をヒータH1〜H4に供給する電力調整器102−1〜102−4とから構成される。調節計101は、温度センサS1〜S4が計測した温度PV1〜PV4が温度設定値SP1〜SP4と一致するように操作量MV1〜MV4を算出する。この図6に示した加熱装置においては、温度PV1〜PV4を制御する制御ループが4個形成されていることになる。
【0004】
また、図7に示した加熱装置の例では、酸化拡散炉200内の石英管203の内部に、シリコンウェハ204が搬入される。温度センサS1〜S4は、それぞれヒータH1〜H4によって加熱される温度制御ゾーンZ1〜Z4の温度PV1〜PV4を測定する。調節計201は、温度センサS1〜S4が計測した温度PV1〜PV4が温度設定値SP1〜SP4と一致するように操作量MV1〜MV4を算出してヒータ電源202に出力する。ヒータ電源202は、操作量MV1〜MV4に応じた電力をヒータH1〜H4に供給する。こうして、酸化拡散炉200内の石英管203内に導入される酸素とシリコンウェハ204とを加熱することにより、シリコンウェハ204の表面に酸化膜を形成する。この図7に示した加熱装置においても、温度PV1〜PV4を制御する制御ループが4個形成されていることになる。
【0005】
調節計101,201や、調節計101,201を用いて例えば半導体の製造を行なう製造装置においては、オペレータに情報を伝えるために、液晶ディスプレイなどの表示器が使用される(特許文献2参照)。
【0006】
ところで、調節計の代表的な適用対象は、言うまでもなく上記のような加熱装置などの温度制御系である。温度制御では、被加熱流体がヒータ位置から温度センサ位置(温度制御されるべき場所のセンサ設置位置)まで搬送される時間が比較的長くなる場合などにおいて、カスケード制御と言われる、2重の制御ループ構造で実質的に1個の制御系を構成する制御が多く行なわれている(特許文献3参照)。
【0007】
特許文献3に開示されたカスケード制御システムの構成を図8に示す。マスタPIDコントローラ300は、マスタ側制御対象303の制御量PV_Mが設定値SP_Mと一致するように操作量SP_Sを算出する。スレーブPIDコントローラ301は、マスタPIDコントローラ300から出力された操作量SP_Sを設定値として、スレーブ側制御対象302の制御量PV_Sが設定値SP_Sと一致するように操作量MV_Sを算出してスレーブ側制御対象302に出力する。この図8の例では、マスタPIDコントローラ300とスレーブPIDコントローラ301とスレーブ側制御対象302とマスタ側制御対象303とがマスタ側の制御ループを構成し、スレーブPIDコントローラ301とスレーブ側制御対象302とがスレーブ側の制御ループを構成している。
【0008】
カスケード制御を加熱装置に適用すると、例えば図9のような構成になる。図9に示す加熱装置は、処理対象の被加熱物を加熱する加熱処理炉400と、電気ヒータ401と、加熱処理炉400内の空気循環出口付近の温度を計測する温度センサ402と、加熱処理炉400内の電気ヒータ付近の温度を計測する温度センサ403と、マスタ温調計404と、スレーブ温調計405と、電力調整器406と、電力供給回路407とから構成される。
【0009】
マスタ温調計404は、温度センサ402が計測した温度PV_M(制御量)が温度設定値SP_Mと一致するように操作量MV_Mを算出する。スレーブ温調計405は、マスタ温調計404から出力された操作量MV_Mを温度設定値SP_Sとし、温度センサ403が計測した温度PV_S(制御量)が温度設定値SP_Sと一致するように操作量MV_Sを算出する。電力調整器406は、操作量MV_Sに応じた電力を決定し、この決定した電力を電力供給回路407を通じて電気ヒータ401に供給する。
【0010】
以上のようなカスケード制御を実施するための汎用的なコントローラの代表的なものとして、マルチループ調節計がある。例えば、1台のマルチループ調節計が2ループタイプの場合は、PID制御を2ループ分備えており、内部アルゴリズムの選択によって1個のカスケード制御系に対応できる。また、1台のマルチループ調節計が4ループタイプの場合は、PID制御を4ループ分備えており、内部アルゴリズムの選択によって2個のカスケード制御系に対応できる。
【0011】
上記のようなマルチループ調節計は、標準的な用途を想定して2ループ分あるいは4ループ分の設定値SPと制御量PVの表示器を備えている。例えば図10に示すマルチループ調節計500は、4ループ分の情報表示が可能な表示器501を備えている。したがって、カスケード制御を実施する場合でも、表示器501を利用してマスタ側の制御ループとスレーブ側の制御ループの情報を表示することになる。また、シングルループ調節計を複数台組合せてカスケード制御を実施する場合には、個々のシングルループ調節計の表示器を利用してマスタ側の制御ループとスレーブ側の制御ループの情報を表示することになる。
【0012】
ここで、スレーブ側の設定値SP_Sは、最終目標値ではなく、中間目標値であり、マスタ側の設定値SP_Mとは性質が異なるものである。すなわち、スレーブ側の制御は、最終目標値となる設定値SP_M(例えば温度制御されるべき場所の温度設定値)を扱うマスタ側の制御とは性質が異なる。このようなマスタ側とスレーブ側の性質の差異を考慮する必要があるにもかかわらず、調節計の標準的な表示器をカスケード制御に流用すると、カスケード制御を監視する際にマスタ側とスレーブ側の差異を認識し難いという問題点があった。このように、調節計の表示器を利用する情報表示には問題点があり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012−048370号公報
【特許文献2】特開2001−154786号公報
【特許文献3】特開2012−089004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、複数のPID制御部を備えたマルチループの制御装置を利用してカスケード制御を行なう場合に、カスケード制御の状態監視中に誤認識が生じる可能性を低減することができる制御装置および表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の制御装置は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、PID制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出するように構成された第1のPID制御部と、前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、PID制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力するように構成された第2のPID制御部と、前記カスケード制御系の状態監視中に、前記第1の設定値と前記第1の制御量とを表示すると共に前記第2の設定値と前記第2の制御量とを表示し、前記状態監視中の所定の状態のときに、監視対象ではない前記第2の設定値のみを非表示にするように構成された表示制御部とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の制御装置の1構成例は、前記第1の設定値と前記第1の制御量との差の絶対値が予め規定された閾値以上の場合に前記カスケード制御系が過渡状態であると判断し、前記絶対値が前記閾値未満の場合に前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断するように構成された過渡状態判断部をさらに備え、前記表示制御部は、前記過渡状態判断部によって前記カスケード制御系が過渡状態でないと判断された場合を前記所定の状態として、前記第2の設定値を非表示にすることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の制御装置の表示方法は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを入力として、PID制御演算により前記マスタ側の制御ループの第1の操作量を算出する第1のステップと、前記第1の操作量を前記カスケード制御系のスレーブ側の制御ループの第2の設定値として受け取り、この第2の設定値と前記スレーブ側の制御ループの第2の制御量とを入力として、PID制御演算により前記スレーブ側の制御ループの第2の操作量を算出して制御対象に出力する第2のステップと、前記カスケード制御系の状態監視中に、前記第1の設定値と前記第1の制御量とを表示すると共に前記第2の設定値と前記第2の制御量とを表示する第3のステップと、前記状態監視中の所定の状態のときに、監視対象ではない前記第2の設定値のみを非表示にする第4のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カスケード制御系の状態監視中に、マスタ側の制御ループの第1の設定値と第1の制御量とを表示すると共にスレーブ側の制御ループの第2の設定値と第2の制御量とを表示し、状態監視中の所定の状態のときに、第2の設定値を非表示にすることにより、スレーブ側の制御ループの第2の制御量が第2の設定値に追従しない状態が長時間継続したとしても、オペレータが異常状態と誤認識してしまう可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図3】本発明の実施例において過渡状態判断部によってカスケード制御系が過渡状態と判断されたときの情報表示の例を示す図である。
図4】本発明の実施例において過渡状態判断部によってカスケード制御系が過渡状態でないと判断されたときの情報表示の例を示す図である。
図5】シングルループ調節計の外観図である。
図6】複数の制御ループを備えた加熱装置の構成例を示す図である。
図7】複数の制御ループを備えた加熱装置の別の構成例を示す図である。
図8】カスケード制御システムの構成を示すブロック図である。
図9】カスケード制御を適用した加熱装置の構成例を示す図である。
図10】マルチループ調節計の1例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の原理1]
カスケード制御のスレーブ側の設定値SP_Sは、制御系の構成上は中間目標値であるが、さらに本質的な捉え方をすれば、スレーブ側の制御ループを操作するための指示値である。すなわち、スレーブ側の制御量(計測値)PV_Sは、フィードバック制御で補償され、スレーブ側の設定値SP_Sに追従するような構成になってはいるが、必ずしも追従することが求められているとは限らない。
【0021】
上記の点に着眼すると、制御量PV_Sが設定値SP_Sに追従していない様子が調節計の標準的な表示方法で表示されることは、オペレータにとっての“監視の難しさ”に繋がる一要因と言わざるを得なくなる。特にスレーブ側に積分動作(I動作)を含まないP制御あるいはPD制御を採用すると、正常な整定状態でも設定値SP_Sと制御量(計測値)PV_Sにオフセット(定常偏差)が生じる。
【0022】
そこで、発明者は、特に設定値SP_Sと制御量PV_Sの追従の必要性がないことを認識できるような表示に変更することで、カスケード制御を監視する際の誤認識を低減できることに想到した。具体的には、整定状態のときにスレーブ側の設定値SP_Sを表示せずに空白にすれば、誤認識を低減できることに想到した。
【0023】
[発明の原理2]
マスタ側の設定値SP_Mと制御量(計測値)PV_Mとの偏差ER_Mが大きいときは、カスケード制御系全体が過渡状態であるので、この場合はスレーブ側への指示値としての設定値SP_Sを監視できることが好ましい。
カスケード制御系全体が過渡状態、すなわちマスタ側が追従不十分な過渡状態と認識できるのであれば、スレーブ側が追従不足のように見えたとしても、オペレータがそのことを異常状態だと誤認識する危険性は低い。
【0024】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係る制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例は、上記発明の原理1、発明の原理2に対応する例である。ここでは、小型の表示素子を備えるマルチループ調節計への適用例として説明する。
【0025】
制御装置は、カスケード制御系のマスタ側の制御ループの設定値SP_Mと制御量PV_Mとを入力として、PID制御演算によりマスタ側の制御ループの操作量MV_Mを算出するマスタPID制御部1と、操作量MV_Mをカスケード制御系のスレーブ側の制御ループの設定値SP_Sとして受け取り、この設定値SP_Sとスレーブ側の制御ループの制御量PV_Sとを入力として、PID制御演算によりスレーブ側の制御ループの操作量MV_Sを算出して制御対象に出力するスレーブPID制御部2と、設定値SP_Mと制御量PV_Mとの差の絶対値が予め規定された閾値以上の場合にカスケード制御系が過渡状態であると判断する過渡状態判断部3と、カスケード制御系の状態監視中に、設定値SP_Mと制御量PV_Mとを表示すると共に設定値SP_Sと制御量PV_Sとを表示し、過渡状態判断部3によってカスケード制御系が過渡状態でないと判断された場合に、設定値SP_Sを非表示にする表示制御部4と、情報表示のための液晶パネル等の表示素子5と、オペレータが制御装置に指示を与えるための操作部6とを備えている。
【0026】
なお、カスケード制御機能はマルチループ調節計の周知の機能として搭載されている。カスケード制御機能によれば、複数のPID制御部のうち特定のPID制御部をマスタPID制御部1として指定し、別のPID制御部をスレーブPID制御部2として指定すれば、マスタPID制御部1の出力をスレーブPID制御部2の入力に接続するカスケード制御構造が自動的に設定される。
【0027】
図2は本実施例の制御装置の動作を説明するフローチャートである。マスタ側の制御ループの設定値SP_M(例えば最終目標値となる温度設定値)は、オペレータによって設定され、マスタPID制御部1に入力される(図2ステップS100)。
マスタ側の制御ループの制御量PV_M(例えば温度計測値)は、制御対象のマスタ側のセンサ(例えば図9の温度センサ402)によって計測され、マスタPID制御部1に入力される(図2ステップS101)。
【0028】
マスタPID制御部1は、設定値SP_Mと制御量PV_Mとを入力として、制御量PV_Mが設定値SP_Mと一致するように周知のPID制御演算によりマスタ側の制御ループの操作量MV_Mを算出する(図2ステップS102)。
【0029】
マスタPID制御部1から出力された操作量MV_Mは、スレーブ側の制御ループの設定値SP_SとしてスレーブPID制御部2に入力される(図2ステップS103)。
スレーブ側の制御ループの制御量PV_S(例えば温度計測値)は、制御対象のスレーブ側のセンサ(例えば図9の温度センサ403)によって計測され、スレーブPID制御部2に入力される(図2ステップS104)。
【0030】
スレーブPID制御部2は、設定値SP_Sと制御量PV_Sとを入力として、制御量PV_Sが設定値SP_Sと一致するように周知のPID制御演算によりスレーブ側の制御ループの操作量MV_Sを算出して制御対象に出力する(図2ステップS105)。図9に示した加熱装置の場合、操作量MV_Sの実際の出力先は電力調整器406となる。
【0031】
次に、過渡状態判断部3は、マスタ側の制御ループの設定値SP_Mと制御量PV_Mとの差の絶対値E_M=|SP_M−PV_M|を算出する(図2ステップS106)。過渡状態判断部3は、算出した絶対値E_Mが予め規定された閾値T_M以上(例えば5℃以上)である場合に(図2ステップS107においてYES)、カスケード制御系が過渡状態であると判定し、カスケード制御系が過渡状態であることを示す信号Xを出力する(図2ステップS108)。
【0032】
表示制御部4は、表示すべき情報を所定の規則に従って表示素子5に表示させる。表示モードは、予め定められた規則に従って自動的に設定されるか、あるいはオペレータの操作に応じて設定される。表示制御部4は、表示すべき情報の中に設定値SPが含まれない表示モードになっている場合(図2ステップS109においてNO)、この表示モードに応じた情報表示を行なう(図2ステップS110)。このときの表示の例としては、例えば設定パラメータの表示などがある。
【0033】
また、表示制御部4は、表示すべき情報の中に設定値SPが含まれる表示モードになっている場合(ステップS109においてYES)、設定値SPを含む情報表示を行なう。ここでは、設定値SPと制御量PVとを表示する一般的な表示モードになっているものとする。表示制御部4は、マスタ側の制御ループの設定値SP_Mと制御量PV_Mとを表示素子5に表示させる(図2ステップS111)。
【0034】
さらに、表示制御部4は、信号Xが出力されたとき、すなわち過渡状態判断部3によってカスケード制御系が過渡状態と判断されたときには(図2ステップS112においてYES)、スレーブ側の制御ループの設定値SP_Sと制御量PV_Sとを表示素子5に表示させ(図2ステップS113)、過渡状態判断部3によってカスケード制御系が過渡状態でないと判断されたときには(ステップS112においてNO)、スレーブ側の制御ループの設定値SP_Sの表示を停止して制御量PV_Sを表示素子5に表示させる(図2ステップS114)。
【0035】
以上のようなステップS100〜S114の処理を、制御装置の表示動作が終了するまで(図2ステップS115においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行する。
【0036】
図3は過渡状態判断部3によってカスケード制御系が過渡状態と判断されたときの情報表示の例を示す図、図4はカスケード制御系が過渡状態でないと判断されたときの情報表示の例を示す図である。図3図4の例は、4つのPID制御部を備えた4ループの調節計において、No.1〜No.4の番号で区別される各制御ループの設定値SPと制御量PVとを表示素子5の画面50上の対応する区画50−1〜50−4に1ループ分ずつ表示する表示モードの例を示している。
【0037】
また、図3図4の例は、番号No.1のPID制御部がマスタPID制御部で、番号No.2のPID制御部が番号No.1のPID制御部と組み合わせて使用されるスレーブPID制御部となるように予め設定され、番号No.3のPID制御部がマスタPID制御部で、番号No.4のPID制御部が番号No.3のPID制御部と組み合わせて使用されるスレーブPID制御部となるように予め設定されている例を示している。つまり、この例では、2つのカスケード制御系が構築されている状態となっている。
【0038】
図3の例は、例えば閾値T_M=5℃に対し設定値SP_Mと制御量PV_Mとの差の絶対値E_Mが5℃以上で、カスケード制御系が過渡状態と判断されたときの表示例を示しており、番号No.1のマスタ側の制御ループの設定値SP(SP_M)と制御量PV(PV_M)とが表示されると共に、番号No.2のスレーブ側の制御ループの設定値SP(SP_S)と制御量PV(PV_S)とが表示されている。また、番号No.3のマスタ側の制御ループの設定値SP(SP_M)と制御量PV(PV_M)とが表示されると共に、番号No.4のスレーブ側の制御ループの設定値SP(SP_S)と制御量PV(PV_S)とが表示されている。
【0039】
一方、図4の例は、閾値T_M=5℃に対し設定値SP_Mと制御量PV_Mとの差の絶対値E_Mが5℃未満で、カスケード制御系が過渡状態でないと判断されたときの表示例を示しており、番号No.2,No.4のスレーブ側の制御ループの設定値SP(SP_S)が非表示状態となっている。
【0040】
カスケード制御系が過渡状態でない場合(すなわち整定状態の場合)、番号No.1,No.3のマスタ側の制御ループについては、制御量PV(PV_M)が設定値SP(SP_M)とほぼ一致している。一方、整定状態においても番号No.2,No.4のスレーブ側の制御ループについては、制御量PV(PV_S)が設定値SP(SP_S)に一致するように追従しているとは限らない。したがって、図4の例のように、スレーブ側の制御ループの設定値SP(SP_S)を非表示状態にすることは、スレーブ側の制御ループの制御量PV(PV_S)の設定値SP(SP_S)への追従性については明示せずに、監視対象の状態量である制御量PV(PV_S)のみを表示するという状態になる。
【0041】
以上のように、本実施例では、カスケード制御系が過渡状態でない場合にスレーブ側の制御ループの設定値SP(SP_S)を非表示状態にすることにより、仮にスレーブ側の制御ループの制御量PV(PV_S)が設定値SP(SP_S)に追従しない状態が長時間継続したとしても、オペレータが異常状態と誤認識してしまう可能性を低減することができる。
【0042】
なお、本実施例では、表示素子5として液晶パネルが使用されている例を挙げて説明しているが、PID制御部を複数備え(最低2ループ分)、表示素子5として、複数ループ分の情報を同時に表示可能な7セグメントLEDを備えたマルチループ調節計であれば本発明を適用することが可能である。
【0043】
また、表示素子5として液晶パネルを備えたマルチループ調節計であれば、複数の制御ループのうち特定の制御ループがスレーブ側として使用されていることを認識できるような特別な表示方法が可能である。しかし、図5に示すように7セグメントLEDの表示素子5aを備えたシングルループ調節計10が汎用調節計として産業界で多く採用されている。このようなシングルループ調節計10の表示素子5aでは表示に限界がある。
【0044】
仮に2台のシングルループ調節計を用いる場合には、マスタ側のシングルループ調節計の操作量出力とスレーブ側のシングルループ調節計の設定値入力とを配線で接続し、過渡状態判断部3をマスタ側のシングルループ調節計の内部または上位階層側のコントローラに設け、過渡状態判断部3の出力をスレーブ側のシングルループ調節計に入力すれば、本発明の構成を実現可能である。マルチループ調節計やシングルループ調節計には、通常、設定値SPと制御量PVの偏差の絶対値が閾値以上になったときにオンになるイベント出力機能があるので、このような機能を利用すれば、過渡状態判断部3を実現可能である。そして、この過渡状態判断部3の出力でスレーブ側のシングルループ調節計の設定値SP(SP_S)の表示のオン/オフを行なうようにすればよい。
【0045】
本発明は、液晶パネルあるいはLEDのいずれの表示素子でも共通して適用できる点に特徴があり、製造装置や製造ラインによって液晶パネルやLEDの表示素子が混在する形でカスケード制御が稼働する場合でも、カスケード制御について一定の規則に統一することが可能になる。
【0046】
上記の実施例で説明した制御装置のうち、マスタPID制御部1とスレーブPID制御部2と過渡状態判断部3と表示制御部4とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…マスタPID制御部、2…スレーブPID制御部、3…過渡状態判断部、4…表示制御部、5…表示素子、6…操作部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10