(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
翼断面における取付角θを翼断面に垂直な翼型基準線(12)と直交しかつ回転基盤(14)の回転軸(15)と垂直な方向(16)を基準として取付角θの符号を翼断面の前縁が頭下げになる方向を正値と定義したとき、翼先端側における翼断面の取付角θは0°から15°の正値の角度範囲内にあり、翼基部側における翼断面の取付角θは0°から−45°の負値の角度範囲内にあって、翼断面の取付角θが翼先端から翼基部にかけて連続的に変化している請求項1記載の翼。
【背景技術】
【0002】
ビルディング等の高層建造物の屋上には空調用の冷却塔(クーリングタワー)が多数設置されており、空調の排熱と同時に、送風機による強制対流熱交換に伴う流体運動エネルギーも放出されている。かかる流体運動エネルギーは余剰エネルギーであり、これを小形風力発電機によって回収すれば、システム全体としての効率を向上することになり、環境配慮の観点からも有用である。
【0003】
通常、冷却塔は屋外に設置されることが多く、排出される気流は自然風による影響を受けるので、垂直軸型風力発電機を冷却塔の気流吐出口の前に設置し、冷却塔が運転されているときは送風機の風で回転し、冷却塔が停止している場合は自然の風でも回転する風車が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、垂直軸型風車と水平軸型風車を組合わせた風車システムも種々提案されており、冷却塔運転時は鉛直方向下側から上向きに吹く送風機の風で水平軸型風車を回転させ、冷却塔停止時には水平方向の様々な方向から吹く自然風によって、垂直軸風車と水平軸風車を協同して回転させるようにした風車が知られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0005】
風車を実用化するにあたっては低コスト化が最重点課題の1つであり、特に風車の主要要素である翼(ブレード)の低コスト化は重要である。
【0006】
例えば、厚みが均一な板状材料を曲げてブレードを構成し、翼の自由端が翼の基部に対して、ブレード回転方向にずれるように取付けて迎角を与えることによって、ブレードの形状を簡略化しながら、同時に回転効率を高めるようにした風車が提案されている(特許文献5)。
【0007】
また、厚みが均一なブレードの弾性変形を利用して、高風速状態で翼に作用する遠心力によって翼を起立させ、回転効率を高める技術が提案されている(特許文献6)。ただし、板状に厚みが均一な翼の場合は翼の前縁を過ぎた空気の流れが剥離しやすく、風車の性能向上を重視する場合には翼型は航空機等で使用されるような流線形の形状を持たせて、剥離を抑制することが望ましいと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1記載の風車では鉛直方向下側から上向きに排気流が吐出される冷却塔の吐出口前に、排気流に対して回転軸を垂直にして垂直軸風車を配置することによって冷却塔からの排気流に対して垂直な方向から吹く自然風とのどちらによっても回転し得るようにしているので、垂直軸風車の回転軸に平行な方向から吹いてくる自然風に対しては回転させることができない。
【0010】
また、特許文献2〜4記載の風車では特許文献1記載の風車における自然風に対して方向依存性があるという欠点を、垂直軸型風車と水平軸型風車を組み合わせた構造によって改善しているものの、2種類の風車を組み合わせる必要があるので、構造が複雑となっている。
【0011】
さらに、特許文献5、6記載の風車では厚みが均一な板を曲げて水平軸風車を構成して翼の低コスト化を実現しているものの、厚みが均一であるので、空気の流れが剥離しやすく、高い性能を得られない可能性があるばかりでなく、翼が弾性変形しやすい。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑み、構造簡単でコスト高を招来することなく、回転軸に平行な風と垂直な風のどちらでも回転トルクを発生させることのできるようにした翼及びそれを用いた風車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明に係る翼は、回転基盤に対して該回転基盤の回転軸周りに配置された取付け構造、好ましくは円滑な回転を確保できるように回転軸周りに回転対称な取付け構造を有する複数の翼から構成される風車における翼であって、上記翼は円弧凸状長辺と短辺が前縁から延びて後縁で交わることによって厚みが連続的に変化する断面流線形状を有し、翼断面の円弧凸状長辺と短辺の間の中立線の湾曲の大きさは翼先端から翼基部にかけて連続的に変化しかつ上記翼断面に垂直な翼型基準線が連続的あるいは断続的に変化するか又は所定の曲率半径を持って曲がった形状をなし、翼断面形状の中立線の湾曲の符号を翼型基準線の曲率半径の中心から離れる向きに翼断面の中立線dが凸状となっている場合を正値と定義したとき、翼先端側における翼断面の中立線dの湾曲の大きさは0%以上8%以下の正値の範囲内にあり、翼基部側の翼断面の中立線dの湾曲の大きさは0%から−8%の負値の範囲内にあり、上記翼型基準線に沿って上記断面形状を有する翼型が配置されており、上記回転軸に平行な風と回転軸に垂直な風のいずれに対しても回転軸周りに同一方向の回転トルクが発生されるようになしたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る翼は、回転基盤に対して該回転基盤の回転軸周りに配置された取付け構造、好ましくは円滑な回転を確保できるように回転軸周りに回転対称な取付け構造を有する複数の翼から構成される風車における翼であって、上記翼は円弧凸状長辺と短辺が前縁から延びて後縁で交わることによって厚みが連続的に変化する断面流線形状を有し、翼断面における取付角の符号を翼断面に垂直な翼型基準線と直交しかつ回転基盤の回転軸と垂直な方向を基準として翼断面の前縁が頭下げになる方向を正値と定義したとき、翼先端側における翼断面の取付角は0°から15°の正値の角度範囲内にあり、翼基部側における翼断面の取付角は0°から−45°の負値の角度範囲内にあって、翼先端から翼基部にかけて連続的に翼断面の取付角が変化しており、翼型基準線が連続的あるいは断続的に変化をするか又は所定の曲率半径を持って曲がった形状であり、翼型基準線に沿って上記断面形状を有する翼型が配置されており、回転軸に平行な風と回転軸に垂直な風のいずれに対しても回転軸周りに同一方向の回転トルクが発生されるようになしたことを特徴とする。
【0015】
本発明の特徴の1つは翼をその翼断面に垂直な翼型基準線に沿って任意の曲線状に曲げて構成した点にある。
これにより、翼先端近傍では冷却塔からの排気流に対して水平軸風車として働く一方、翼基部側では自然風に対して垂直軸風車として働き、風車特性が自然風の風向には依存しない構造であるので、あらゆる方向からの自然風に対して回転可能である。
その結果、回転軸に平行な風と垂直な風の両方に対して回転可能な翼から風車を構成することができ、冷却塔の吐出部に、その排気流の主流方向に風車の回転軸を一致させて設置することで、冷却塔からの排気流のみならず、排気流に対して垂直な方向に吹いてくる自然風によっても回転可能となり、この回転トルクを発電に応用すると、高い効率での発電が可能となる。
【0016】
また、本発明の第2の特徴は1つの翼で垂直軸型風車と水平軸型風車の働きを実現できるようにした点にある。
これにより、風車構造は簡単であり、材料も少なくできる。
【0017】
さらに、本発明の第3の特徴は、翼断面は航空機等で使用される流線形状の0%から8%の湾曲をもった断面流線形状とした点にある。
これにより、空気の流れのはく離は厚みが均一な板状の翼断面に比べて発生しにくく、高い風車性能が期待できる。また、翼の厚みを大きくすれば、構造的強度も高めることが可能である。
【0018】
さらに、本発明の第4の特徴は翼断面に垂直な翼型基準線のまわりに翼断面を捻じるような取付角を与えている点にある。
これにより、翼基部から翼先端にかけて適切な迎角に設定すれば、より高い回転エネルギーの変換効率を得ることが可能となる。特に、翼先端側では0°から15°の頭下げの取付角とし、翼基部側では0°から−45°の頭上げの取付角とすることにより、回転軸と平行な方向の排気流に対しては翼先端部分が効率の高い水平軸風車として回転する一方、回転軸と垂直な方向の自然風に対しては翼基部部分が抗力型の垂直軸風車として働くことができる。
特許文献5、6記載の風車の翼ではその自由端が翼の根元に対してブレード回転方向にずれるように取付けて迎角を付けている点で、本願発明と相違している。
【0019】
ここで、翼断面に垂直な翼型基準線は風車回転軸とそれと垂直な半径方向を向く直線によって特定される平面内で任意に曲げて構成してもよく、翼先端を翼基部に対して回転方向にずらす必要はないので、設計や製作も容易になる可能性があり、翼の取付け方法においても容易な方法でしっかりと固定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る翼の好ましい実施形態における基本的な翼形状を説明するための斜視図である。
【
図3】上記翼と回転基盤との関係を示す斜視図である。
【
図5】一般的な翼型において発生する揚力、抗力および迎角の定義を説明するための図である。
【
図6】翼型における空力データの一例を示す図である。
【
図7】翼先端側の翼型No.1の翼断面における回転軸に平行な風A、それによる風力f
A 、翼の回転方向D、翼の相対回転による相対風力f
D、迎角α、取付角θ、揚力f
CLの関係を示す図である。
【
図8】翼先端側の翼型No.1の翼断面における回転軸に垂直な風B、取付角θとそれによる抗力f
CDの関係を示す図である。
【
図9】翼基部側の翼型No.7の翼断面における回転軸に垂直な風B、取付角θとそれによる抗力f
CDの関係を示す図である。
【
図10】翼基部側の翼型No.7の異なる形状の翼断面における回転軸に垂直な風B、取付角θとそれによる抗力f
CDの関係を示す図である。
【
図11】
図3及び
図4に示される翼5枚で構成された風車の好ましい実施形態を示す図である。
【
図12】
図3及び
図4に示される翼5枚で構成された風車の他の実施形態を示す図である。
【
図13】
図3及び
図4に示される翼3枚で構成された風車の冷却塔の排気流吹出し口の鉛直上部に設置した例を示す図である。
【
図14】3枚翼で構成された他の風車の冷却塔の排気流吹出し口の鉛直上部に設置した例を示す図である。
【
図15】
図11に示した5枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図16】上記5枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図17】上記5枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図18】上記5枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図19】翼枚数を3枚とし、翼型を対称翼のNACAOO18で均一と仮定した風車の概形を示す図である。
【
図20】
図19に示された3枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図21】上記3枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図22】上記3枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【
図23】上記3枚翼の風車の風洞実験により得られた風車特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1ないし
図14(但し、
図10は除く)は本発明に係る風車の好ましい実施形態を示す。まず、
図1を用いて翼の構成の仕方の一例を説明する。翼型基準線12として一つの直線を想定し、この翼型基準線12に翼断面が垂直になるようにし、かつ円弧凸状長辺10と短辺11が前縁から延びて後縁で交わることによって厚みが連続的に変化する断面流線形状の7つの翼型No.1〜No.7が翼型基準線12に沿って配置されて基礎となる翼形状が構成される。
翼先端となる翼型No.1はその円弧凸状長辺10と短辺11の間の中立線dが上向きに湾曲し、湾曲比(湾曲量f÷翼弦長c)が6%のNACA6518の翼型とされている。湾曲量fは翼断面の中立線dの最大湾曲位置x
f における中立線dと翼弦線13(翼弦長c)の距離として定義される。
【0022】
ここで、NACA4桁系列の翼型では4桁の数字のうち、最初の数字は湾曲比%:f/cを示し、2番目の数字は中立線dの最大湾曲位置x
f の、翼弦線13の前縁と後縁の間の翼弦長c に対する比:x
f/cのパーセンテージを10で除した値を示す。したがって、NACA6518の場合は最大湾曲位置x
f が前縁から翼弦長の50%の位置となる。第3番目と第4番目からなる2桁の数字は円弧凸状長辺10と短辺11間の最大翼厚みtの翼弦長cに対する割合、すなわち厚み比:t/cのパーセンテージを示す。NACA6518の場合は厚み比は18%である。
【0023】
No.2の位置には翼断面の中立線dが上向きに湾曲した湾曲比4%のNACA4518の翼型が配置され、同様に、No.3の位置には翼断面の中立線dが上向きに湾曲した湾曲比2%のNACA2518の翼型が配置されている。No.4の位置の翼型は基準となる対称翼型のNACA0018であり、No.5の位置から、No.6,No.7にかけては湾曲方向をNo.1〜No.3とは逆向きにした翼型が配置されている。翼はこれら7つの位置の翼型の輪郭を翼型基準線12の方向に沿って滑らかに接続して形成されている。
【0024】
図2は
図1に示される翼の各断面を、翼型基準線12を捩じりの中心軸線として取付角θを与えた例である。
図2において、翼先端の位置No.1では翼型基準線12と直交しかつ回転基盤14の回転軸15と垂直な方向である直線16に対して頭下げの方向に2°の取付角θが付与され、位置No.2から翼基部の位置No.7までの各断面において、順番に、θ=+2°,+1°,0,−15°,−30°,−30°の取付角となっている。翼はこれら7つの位置の取付角θが付いた状態の翼型の輪郭を翼型基準線12の方向に沿って滑らかに接続して形成されている。
【0025】
図3は
図2に示される翼が、その翼型基準線12を曲げた状態で翼基部の位置No.7の翼断面を回転軸15のまわりに回転しうる回転基盤14の表面に重畳させ、かつ
図2に示される取付角θの基準となった直線16が回転基盤14の回転軸15方向と回転基盤14の半径方向の両者に垂直となる関係に結合されている。この時、翼先端の翼型No.1の翼断面は他の位置の翼断面に比べて回転軸15から最も離れた位置になる。
【0026】
図4は
図3に示される翼型基準線12を曲げた状態で回転基盤14に取付けられた1つの翼の三面図を示す。この例では位置No.1から位置No.7の翼断面が一定の曲率半径で曲げられた翼型基準線12、すなわち円弧に沿って中心角15°で等間隔に配置された例を示すが、翼型基準線12の曲げの曲率半径は一定ではなく、変化させるようにしてもよい。また、翼型形状を特定する翼断面の数は7個である必要はなく、翼断面の数はこれより少なくてもよく、多くてもよい。さらに、翼形状を特定する断面の間隔は等間隔である必要はなく、非等間隔に配置した複数の翼断面で特定してもよい。さらにまた、
図1〜4に示した例では翼弦長cを一定としているが、翼弦長cは変化させてもよい。翼型もNACA4桁系列の翼である必要はなく、その他の翼型でもよい。
【0027】
次に、
図3および
図4で示される翼が回転軸15に平行な風Aと垂直な風Bのどちらに対しても回転力を発生する理由を説明する。
図5は一般的な翼型において発生する揚力f
CL(揚力係数CL)と抗力fCD(抗力係数CD)および迎角αの定義を説明するための図である。
図5では翼型の前縁と後縁を結ぶ翼弦線13が相対風17に対して角度αだけ傾斜した状態を示す。この角度αが迎角であり、翼型には相対風17に平行な方向に抗力f
CDが作用し、相対風17に対して垂直な力向に揚力f
CLが作用する。なお、空気力である揚力f
CLや抗力f
CDは迎角αの大きさによって変化し、翼型、周囲流体の粘性や相対風17の風速の大きさによってそれら空気力の大きさの迎角依存性も変わる。
【0028】
図6はNACA6518の空力データの一例を示している。翼弦長cと相対風速Vに基づくレイノルズ数Re (=cV/ν:νは動粘性係数)が360000の場合のデータであり、翼型NACA6518が湾曲比6%を持ったキャンバー翼(反り翼)であるため、揚力係数CLと抗力係数CDの両者とも、迎角αの縦軸に関して左右非対称な空力特性となっている。
【0029】
図3及び
図4に示される翼が回転軸15に平行な風Aを受ける場合、主として翼先端に近い部分で通常の水平軸風車と同じ状態になり、回転力が発生する。そこで、翼先端のNo.1の翼断面を例にとって図示したものが
図7である。この図では翼の下面側から鉛直上向きに、回転軸に平行な風Aが吹いている状態を仮定しており、すでに揚力f
CLの作用で翼が左向き(回転方向D)に移動している状態を仮定している。
【0030】
この翼の移動方向Dが左向きになることは、
図7において、水平方向に描いた直線を基準として、翼型に頭下げとなるように、反時計方向に取付角θを付けることによって(図では+2°の取付角を仮定)、回転の始動において、より確かなものとなる。したがって、一定の風速状態で、定常な回転状態になった場合には、鉛直上向きの風Aと翼の移動Dによる相対風(Dと逆向き)の合成によって、翼から見た場合の合成相対風力f
G 、
すなわち迎角αが決まり、この合成された相対風に垂直な方向に揚力f
CLが作用する。
【0031】
図7では翼の取付角を+2°と想定しているので、迎角αは合成相対風の方向と水平方向の間の角度から取付角θを引いた角度となり、迎角は10°以下の小さな値が期待される。この場合、
図6の空力データを参照すれば、迎角αが5°〜10°の範囲では、抗力係数CDはゼロに近い非常に小さい値である一方、揚力係数CLは1〜1.5程度の大きな値を持っている。したがって、翼型には回転方向(
図7では左向き)に大きな力の成分を持つ揚力f
CLが支配的に作用して、水平軸風車として動作する。
【0032】
次に、回転軸に垂直な方向に吹く風Bの場合を考える。
図8は翼先端であるNo.1の場所での抗力f
CDの状態を図示している。翼は回転軸まわりの360°のあらゆる位置に存在しうるが、
図8では回転軸に垂直な、ある一定の風向(
図8では右側から左側に吹くことを想定)Bに対して、抗力f
CDが最大となる場合と最小になる場合の2つのケースを回転基盤の回転軸に垂直な方向から見た図を描いている。
【0033】
翼の取付角θを+2°と想定しているため、抗力f
CDが最大となる場合の迎角はα=178°であり、この場合の抗力係数はNACA6518を仮定すれば、
図6のデータより、CD=0.08731 であり、一方、抗力f
CDが最小となる場合の迎角はα=−2°であり、この場合の抗力係数は、
図6のデータより、CD=0.01342 である。両者の抗力係数の差から、翼の先端近傍においても、回転軸に垂直な風によって、翼の前縁方向に回転力が発生するが、その値は小さいので(
図8の例ではCDの最大値と最小値の差は0.07389 )、回転軸の摩擦抵抗や発電機の負荷等が大きければ、回転はしない可能性が高い。
【0034】
図9は翼基部に近い部分を代表して、翼基部に相当するNo.7の翼断面を図示する。翼は回転軸まわりの360°のあらゆる位置に存在しうるが、
図9では回転軸に垂直な、ある一定の風向B(
図9では右側から左側に吹くことを想定)に対して、抗力f
CDが最大となる場合と最小になる場合の2つのケースを、回転基盤の回転軸に垂直な方向から見た図を描いている。翼の取付角θを−30°と想定しているため、抗力f
CDが最大となる場合の迎角はα=150°であり、この場合の抗力係数はNACA6518を仮定すれば、
図6のデータより、CD=0.67363 であり、一方、抗力f
CDが最小となる場合の迎角はα=−30°であり、この場合の抗力係数は、
図6のデータより、CD=0.54571 である。両者の抗力係数の差が大きいため(
図9の例では抗力係数CDの最大値と最小値の差は0.12792 )、翼基部近傍においては抗力型風車として作用しうることになる。
【0035】
図10は
図9と同様に、回転軸に垂直な風Bに対して、翼基部に相当するNo.7の翼断面を図示しているが、
図9の場合とは翼の形状が異なり、翼根元の取付角θが+30°となった場合を想定している。したがって、
図10のケースでは抗力f
CDが最大となる場合の迎角はα=30°であり、この場合の抗力係数はNACA6518を仮定すれば、
図6のデータより、CD=0.62137 である一方、抗力f
CDが最小となる場合の迎角はα=−150°であり、この場合の抗力係数は
図6のデータより、CD=0.61749 である。両者の抗力係数の差はCD=0.00388 であり、小さい値であるが、
図10に示されるように、その回転トルクの発生方向は時計方向となり、翼の後縁方向に向かって移動する回転力が発生し、
図8で示した翼先端において発生する回転力とは逆向きとなる。したがって、翼基部の取付角θは0°から−45°の負値の範囲内であることが望ましい。
【0036】
図11は
図3と
図4に示された翼を回転基盤上に5枚配置して構成した風車の例を示す。回転軸に平行な風Aと回転軸に垂直な風Bの両者に対して、風車は鉛直上から見て反時計方向に回転するトルクを発生する。
【0037】
図12は
図11の風車の5枚の翼の先端部にリング状のつば20を取付けた例である。これによって、風レンズ風車と同様な、つば20の後流に負圧が生じる原理によって集風効果が期待できる。
【0038】
図13は
図11と同様な翼を有する風車において、翼枚数を3枚とし、さらにこの風車を冷却塔21の排気流吹出し口22の鉛直上部に設置した例である。風車の最大直径(翼先端部の回転直径)は750mmを仮定している。風車の翼は1/4円弧状に曲げられており、その曲率半径は300mmとしている。翼の基部には直径200mmの回転基盤14があり、その下部には風車を支持する部分として、長さが約200mmの風車胴体部23が設けられ、風車胴体部23は支持アーム25と支柱26によって冷却塔21に支持されている。風車胴体部23のさらに鉛直下側には、発電機を内蔵するノーズコーン部24があるが、排気流から風車が受ける抵抗を少なくし、排気流に大きな乱れを与えないようにして、流れを上部の風車翼の方に導くために、ノーズコーンの下側は先端を丸めた先細構造になっている。
【0039】
この風車構造により、冷却塔21から排出される鉛直上向きの、風車回転軸に平行な風Aの流れによって、風車は主として翼先端近傍の部分で、大きな回転力を発生して、水平軸風車として回転し、図には示さないが、同軸とした動力伝達軸によって、ノーズコーン24に内蔵された発電機と結合されていて、発電を行う。また、冷却塔21が止まっていて、鉛直下側からの排気流が存在しない場合でも、回転軸に垂直な任意の方向から自然の風Bが吹けば、主として、翼基部近傍の部分において大きな抗力差が発生して、抗力型の風車として回転が可能である。
【0040】
なお、風車を冷却塔21の上部に設置することで、排気流の吐出における流動抵抗が増えるという影響があるので、回転直径の大きい風車の先端部分は、排気流の吹出し口直径(700mmを想定)の約1.5倍程度離れた位置に設置することが望ましく、
図13では排気流の吹出し口22から風車の翼先端までの鉛直距離が約1000mmとなるように構成されている。
【0041】
図14は冷却塔が止まっている場合に、回転軸に垂直な自然風が吹いた場合に、風車の回転力を増加させるために、
図13に示される風車胴体部に、抗力型の風車として、クロスフロー風車27を設置した例である。このクロスフロー風車27を風車と発電機を結合する動力伝達軸と同軸に結合して、クロスフロー風車27の回転トルクを発電機の回転駆動力に加えることができる。なお、抗力型の風車はクロスフロー風車以外のタイプ、例えばサボニウス型の風車としてもよい。
【0042】
図15〜
図18は
図11に示される5枚翼の風車ロータ(最大直径750mmを想定)の1/6のモデルを3Dプリンターで製作し、風洞実験により、風速5m/sの条件の下で、風車特性を計測した結果である。
図15及び
図16は回転軸に平行な方向から風車に風Aをあてた場合(水平配置)の結果であり、水平軸風車として働いているため、広い回転数範囲あるいは広い先端周速比(翼先端の周速度と風速の比:λ)範囲でプラスのトルクおよび出力が得られている。
【0043】
一方、
図17及び
図18は回転軸に垂直な方向から風車に風Bをあてた場合(垂直配置)の結果であり、垂直軸風車として働いているが、回転数において約1000rpm、先端周速比λでは約1.3までの広い範囲でプラスのトルクと出力が発生することが示されている。これは、この風車が、回転軸に平行な風Aと垂直な風Bの両者において、良好に回転しうることを示しており、実際に回転する。
【0044】
図19は翼枚数を3枚とし、翼型を対称翼のNACAOO18で均一と仮定した風車の概形を示す。翼先端の取付角は水平軸風車として動作した場合に最大出力が予想されるθ=7°としてある。翼型基準線に沿った取付角は均一に7°に設定してあるため、翼基部の取付角度もθ=7°であり、回転方向が逆配置で描いてあるが、
図10の場合と同様に、翼基部の翼断面の前縁が回転中心から離れるように、頭上げの取付け状態となっている風車である。
【0045】
図20〜
図23は
図19に示される3枚翼の風車ロータ(最大直径750mmを想定)の1/6のモデルを3Dプリンターで製作し、風洞実験により、風速5m/sの条件の下で、風車特性を計測した結果である。
図20及び
図21は回転軸に平行な方向から風車に風Aをあてた場合(水平配置)の結果であり、水平軸風車として働いているため、広い回転数範囲あるいは広い先端周速比(翼先端の周速度と風速の比:λ)範囲でプラスのトルクおよび出力が得られている。
【0046】
一方、
図22及び
図23は回転軸に垂直な方向から風車に風Bをあてた場合(垂直配置)の結果であり、垂直軸風車の配置であるが、ほぼすべての回転数状態において、計測されたトルクと出力はマイナスの値であり、これは、風車としては機能しておらず、実験で用いたモータによって駆動されているだけであることを示している。すなわち、翼基部の翼断面の前縁が頭上げの状態、すなわち取付角が正値である場合には、回転軸に平行な風に対しては、風車として回転しても、回転軸と垂直な風に対しては、回転しないことを示している。