【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは先願発明(特許文献1)の改良をすすめ、
図3(a)に示す様な従来の複合型TIMとは全く異なる構造のTIMを開発して本発明をなすに至った。
図3(a)中、3aは柔軟性物質、3bはグラファイト膜である。本発明のTIMは特別な物性を持ったグラファイト膜とその表面を被覆する流動性を有する物質からなっている。本発明のTIMを凹凸のある部材間に狭持した場合の接合状況を
図3(b)に示した。部材表面の凸部はグラファイト膜の内部にくい込み熱的接点を形成している。一方、部材の凹部には流動性物質が入り込み凹部を満たしている。これにより凹部の空気層は除かれる事になる。後述する様に、本発明に用いられるグラファイト膜は膜面方向に極めて高い熱伝導特性を有しているので、一つの接合点から流れ込んだ熱は直ちに拡散し対向する多くの他の接点から熱を流す事が出来る。すなわち本発明のTIMでは多点での接合が実現できるために優れた熱抵抗特性を実現できると考えられる。多点接合が実現できればその熱接合は面接合と同じ効果を持つ事ができる。この様な熱伝導の機構は先の
図2(b)、(c)、(d)に示した従来のTIMの熱伝導機構とは全く異なるものである。
【0012】
また、本発明のグラファイト膜TIMは従来の複合型TIM以上に優れた耐久性を有している事が分かった。これはグラファイト膜が面方向に高い熱伝導性を有しており、さらにTIM全体に均一に存在しているので、従来の複合型TIMに用いられるフィラーよりも熱の集中によるブリーディングを防止する非常に優れた効果を持つ事によっている。さらには、本発明のグラファイト膜TIMは熱抵抗の圧力依存性が極めて小さいと言う、従来全く知られていなかった新たな事実も明らかになった。例えば本発明により、0.1MPaと0.5MPaの大きさで加圧した(荷重を加えた)場合の熱抵抗値の圧力依存性(R
0.1P/R
0.5P)を2.0以下にする事が出来る。熱抵抗値の圧力依存性が極めて小さく、小さな加圧力で低い熱抵抗特性を示すという事は、機械的な強い締め付けを必要としない事を意味し、さらに機械的な締め付けが緩んだとしても、その熱抵抗がほとんど影響されないと言う実用上極めて有用な特性となる。
【0013】
すなわち、本発明の層間熱接合
部は、2つの部材の層間で熱を伝達する層間熱接合
部であって、
該層間接合部は、該2つの部材の間に挟持された層間熱接合部材を含み、
該層間熱接合部材はグラファイト膜と該グラファイト表面を被覆する流動性物質を含み、
該流動性物質層は、流動性物質の層であり、
グラファイト膜は厚さが15μm超かつ50μm以下であり、グラファイト膜の密度は1.40g/cm
3〜2.26g/cm
3であり、グラファイト膜の面方向の熱伝導率が500W/mK〜2000W/mKであり、グラファイト膜の重量(B)と流動性物質の重量(A)の比(A/B)が0.01〜4.0であ
り、さらに、
該2つの部材の少なくとも一方の部材の表面は、凹部及び凸部を有し、算術平均粗さRa値が0.1μm〜10μmであり、かつ、十点平均粗さRz値が1.0μm〜30μmであり、またさらに、
該凸部は前記グラファイト膜の内部にくい込み熱的接点を形成し、かつ、該凹部には前記流動性物質が入り込み該凹部を満たしている、層間熱接合
部である。
このように、複合型TIMと比較してはるかに薄い事からそのバルクの熱抵抗は小さく、さらに流動性性のある柔軟性物質層を設ける事で凹凸を有する部材間の界面熱接合を極めて小さく出来る。
【0014】
本発明は上記グラファイト膜と流動性物質から形成され、流動性物質は部材との界面熱抵抗低減のために用いられる。本発明で言う流動性物質は常温で固体状の柔軟性物質と液体状の流動性物質に分けられる。常温で固体状である柔軟性物質とは加熱、常温での加圧、あるいは加圧と加熱の両方によって変形して流動性を示すものを言う。このような物質には柔らかい高分子材料以外に、ゲル状、グリース状、ワックス状の物質が含まれる。本発明で常温とは20℃の事を言い、また、柔軟性物質が常温で固体である物質の場合には、常温で無荷重の場合に示すその物質の厚さが、規定された温度・圧力で荷重を加えた場合に変形し、変形後の厚さが変形前の厚さの1/2以下になる事を言う。常温で固体である物質において、この様な定義による流動性が発現するための好ましい圧力は0.5MPa以下であり、流動性が発現する好ましい温度は上記圧力下で100℃以下である。
【0015】
本発明のTIMは熱接合を形成する時の圧力、あるいは圧力と加熱によって熱接合されるべき部材の凹凸の中に入り込む。これによって部在間に存在する空気層が除かれ、優れた熱抵抗特性が実現する。最適な流動性物質層の厚さは狭持されるべき部材の凹凸の大きさによって変わり、凹凸が大きい部材では必要な流動性層は厚くなり、凹凸の少ない部材では必要な流動性層は薄くなる。したがって、本発明において、優れた熱抵抗特性の実現には表面に形成された流動性層の量(厚さ)が重要である。検討の結果、本発明に用いられる流動性物質はその種類による影響は比較的少なく量による影響が大きい事が分かった。本発明において好ましい(流動性物質/グラファイト膜)の重量比は、0.01〜4.0の範囲である。本発明ではグラファイト面の両面に流動性層を設ける事が好ましいので、グラファイト膜の片面には最大でグラファイトの2倍の重量の流動性層が形成される事になる。低熱抵抗特性実現のために(流動性物質/グラファイト)の重量比は0.02〜3.0の範囲である事はより好ましく、0.04〜2.0の範囲である事はさらに好ましく、0.05〜1.0の範囲である事は最も好ましい。
【0016】
流動性層を形成する素材として、油などの常温で流動性を示す液状物質を使用する事も可能である。本発明において流動性物質が常温で液体である場合、沸点が150℃以上の液体物質を言う。通常の複合型TIMではこの様な液状物質をマトリックスとして使用する事は出来ない。それは、通常の複合型TIMの場合には高分子層で膜を形成する必要があるためである。しかしながら、本発明のTIMの場合には芯となる膜状のグラファイト層がすでに存在しているためこの様な液状物質の使用も可能となる。
【0017】
部材の表面凹凸がさらに大きくなった時には、本発明グラファイト膜TIMの厚さ(15μm超〜50μmの範囲)では流動性層を設けたとしても対応出来ないことがある。その様な場合に、本発明の層間熱接合部材を複数枚積層して用いる事は有効である。
図3(c)にはその一例として3枚積層した時のTIMを示した。この時グラファイト膜間の流動性層は最表面の層よりも薄くてもよい。それは最表面の流動性層は部材の凹凸に対応する必要があるが、グラファイト膜間の流動性層は単に接合のために用いられ、その様な役割(基板の凹凸に対応する)は必要ないからである。この様に、積層する事で広範囲の凹凸を有する部材間の熱接合が可能となるが、積層枚数が多くなり過ぎるとTIM自体の熱抵抗値が大きくなり過ぎると言う問題が発生する。本発明のTIMの場合に積層によって優れた熱抵抗特性(0.2MPaで加熱した場合の熱抵抗値が2.0℃cm
2/W以下)が実現できるTIMの厚さは400μm以下である。400μm以上であるとバルク熱抵抗が大きくなりすぎ良好な熱抵抗特性を実現できない。400μmという厚さは本発明にとっては最大の厚さとなるが、この様な厚さであっても従来の複合型TIMと比較すると十分に薄いTIMであることは言うまでもない。
【0018】
TIMの熱抵抗特性は先に述べた様に部材の凹凸によっても影響される。本発明のグラファイトTIMはその厚さが400μm以下であるので、部材のすべての大きさの凹凸に対応できる訳ではない。0.2MPaでの加圧時において2.0℃cm
2/W以下の特性を実現できる範囲は、部材の表面凹凸が算術平均粗さRa表示で10μm以下、十点平均粗さRz表示で30μm以下の場合である。
【0019】
この様な凹凸を越えるような凹凸に対しては、本発明のグラファイトTIMを用いても2.0℃cm
2/W以下の特性を実現する事は難しい。一方、部材表面の凹凸がRa表示で0.2μm以下、Rz表示で1.0μm以下である様な場合には必ずしも本発明の様な流動性層を必要とせず、流動性層が無くても2.0℃cm
2/W以下の特性を実現できる場合がある。すなわち本発明は、少なくとも一方の部材の表面の粗度を表すRa値が0.1μm〜10μm、Rz値が1.0μm〜30μm以下である2つの部材間の熱接合を行なうのに好ましいTIMであって、本発明のTIMを用いる事により熱抵抗値を2.0℃cm
2/W以下(ただし、0.2MPaで加圧した場合)とする事が出来る。
【0020】
本発明のグラファイトTIMを作製する方法は特に限定されないが、グラファイトフィルムの部分は高分子膜を炭素化、黒鉛化する工程によって製造されることが好ましい。また、前記炭素化、黒鉛化の少なくとも1つの処理工程で、高分子膜、炭素化膜、またはグラファイト膜を複数の点で保持し、加圧しつつ熱処理しても良い。さらに、前記炭素化、黒鉛化の少なくとも1つの処理工程で、高分子膜、炭素化膜、又はグラファイト膜の少なくとも片方の面とスペーサーを積層し、加圧しつつ熱処理しても良い。スペーサーについては必要な凹凸と耐久性、耐熱性をもつものであれば特に限定されないが、スペーサーが炭素繊維またはグラファイト繊維等の炭素材料からなるフェルトである事は、好ましいスペーサーの一例である。
【0021】
前記、高分子原料の種類については特に限定されないが、縮合系芳香族高分子を含むものである事が好ましい。さらに、前記縮合系芳香族高分子が、30μm〜100μmの範囲の厚さの芳香族ポリイミド膜であり、ポリイミド膜を2400℃以上の温度で熱処理する事が好ましい。
【0022】
すなわち上記課題を解決し得た本発明は以下の通りである。
(1)2つの部材の層間で熱を伝達する層間熱接合部材であって、層間熱接合部材はグラファイト膜とグラファイト膜の表面を被覆する流動性物質を含み、グラファイト膜は厚さが15μm超かつ50μm以下であり、グラファイト膜の密度は1.40g/cm
3〜2.26g/cm
3であり、グラファイト膜の面方向の熱伝導率が500W/mK〜2000W/mKであり、グラファイト膜の重量(B)と流動性物質の重量(A)の比(A/B)が0.01〜4.0である層間熱接合部材。
(2)流動性物質は20℃で固体であり、20℃環境下で0.5MPaの荷重を加えて変形し、変形後の厚さが変形前の厚さの1/2以下になる物質である(1)に記載の層間熱接合部材。
(3)流動性物質が20℃で液体であり、流動性物質の沸点が150℃以上である(1)に記載の層間熱接合部材。
(4)流動性物質がアクリル系高分子、エポキシ系樹脂またはシリコン系高分子から選択された少なくとも1種類を含む(1)または(2)に記載の層間熱接合部材。
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の層間熱接合部材を複数枚積層した層間熱接合部材であって、総厚さが400μm以下である層間熱接合部材。
(6)0.2MPaの荷重を加えたときの熱抵抗値が2.0℃cm
2/W以下であり、0.1MPaの荷重を加えたときの熱抵抗値(R
0.1P)と0.5MPaの荷重を加えたときの熱抵抗値(R
0.5P)の比(R
0.1P/R
0.5P)が1.0〜2.0である(1)〜(5)のいずれか1つに記載の層間熱接合部材を用いた層間熱接合方法。
(7)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の層間熱接合部材によって接合する層間熱接合方法であって、2つの部材の少なくとも一方の部材の表面は算術平均粗さRa値が0.1μm〜10μmであり、かつ、十点平均粗さRz値が1.0μm〜30μmである層間熱接合方法。
(8)高分子膜を炭素化して炭素化膜を得る炭素化工程および炭素化膜を黒鉛化してグラファイト膜を得る黒鉛化工程を有する(1)〜(5)のいずれか1つに記載の層間熱接合部材の製造方法。
(9)高分子膜は縮合系芳香族高分子を含み、黒鉛化工程の温度は2400℃以上である(8)に記載の層間熱接合部材の製造方法。
(10)炭素化工程および黒鉛化工程の少なくとも1つの工程で、高分子膜、炭素化膜またはグラファイト膜の少なくともいずれかの膜はスペーサーで狭持され、スペーサーと加圧され熱処理される(8)または(9)に記載の層間熱接合部材の製造方法。
(11)スペーサーの算術平均粗さRaは0.1μm〜20μmである(10)に記載の層間熱接合部材の製造方法。