【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の一実施例に係る実施例1の圧縮機1の軸方向における縦断面図である。圧縮機1は、電機子2、及び、例えば平板形状の永久磁石3aを有する可動子3を備える。なお、以下では、可動子3を界磁子と称する場合もある。
電機子2は、磁極4、磁極4それぞれに捲回される巻線6、及びブリッジ7を有する。磁極4は、例えば、積層した電磁鋼板からなり、供給部の一例である巻線6に交番電流を通電することにより、可動子3の永久磁石3aを往復運動させる電磁力を発生させることができるよう構成されている。
図1に示す圧縮機1は、その一例として、可動子3の軸方向(鉛直方向)に対し、その両側に空隙を介して可動子3を挟むよう対向配置される対をなす磁極4を二組有し、これら二組の対をなす磁極4は軸方向(鉛直方向)に沿ってブリッジ7により規定される間隔にて離間している。二組の対をなす磁極4に捲回される巻線6へ交番電流を制御装置5により通電することにより、永久磁石3aが各対をなす磁極4に交互に引き付けられることで、可動子3が往復運動する。なお、以下では、可動子3が鉛直方向に往復運動する場合を一例として説明するが、往復運動の方向は鉛直方向に限られるものではない。例えば、可動子3が水平方向に往復運動するよう構成しても良く、また、鉛直方向に対し任意の角度を有する方向に可動子3が往復運動する構成としても良い。これら、可動子3が往復運動する方向の総称として軸方向と称する。
【0010】
ブリッジ7は、例えば磁性体にて形成され、ブリッジ7は磁路となることから、軸方向に離間し配される2組の磁極4に捲回される
巻線6を直列に配線にて接続する構成とすることができる。また、ブリッジ7を非磁性体にて形成した場合、ブリッジ7は軸方向に離間し配される2組の磁極4を相互に磁気的に分離する構成となることから、これら2組の磁極4に捲回される
巻線6を並列に配線にて接続する構成とすることができる。すなわち、2組の磁極4に捲回される
巻線6を直列に通電可能に配線しても良く、または並列に配線しても良く、配線に関しては特に限定されるものではないが、
図1では、一例として、ブリッジ7を非磁性体にて形成し、2組の磁極4に捲回される
巻線6を並列に配線にて接続する構成を示している。
【0011】
可動子3は、平板形状の永久磁石3aを有し、一端がピストン12に固定され、他端が共振バネ14に接続されている。永久磁石3aの形状や個数は、適用する装置に応じて適宜設計でき、平板形状に限定されるものではない。例えば、可動子3を円筒形状或は円柱形状とし、永久磁石3aを可動子3の外周面に複数枚配置する構成としても良い。
電機子2及び可動子3の相対往復運動の方向において、可動子3の一端側にはピストン12が接続されている。このため、可動子3の往復運動に伴って、シリンダブロック11のシリンダ11a内において、ピストン12がシリンダブロック11の内面と摺動しつつ往復動可能である。シリンダ11a内のピストン12、シリンダブロック11の内面及びシリンダヘッド13で囲まれた領域は、流体が圧縮及び膨張される圧縮室となる。
【0012】
シリンダブロック11の端面には、ピストン12の端面に対向するシリンダヘッド13が接続しており、ピストン12の往復運動に伴って、シリンダ11a内のガスは圧縮、吐出を繰り返す。そのための構成としてシリンダヘッド13には、シリンダ11a内へ流入するガスが通過する吸入穴(図示せず)と、シリンダ11a外へ流出するガスが通過する吐出穴(図示せず)が設けられており、これら吸入穴及び吐出穴には逆止弁が設けられている。
【0013】
電機子2及び可動子3の相対往復運動の方向において、可動子3の他端側には共振ばね14が接続されており、可動子3の往復運動に伴って共振ばね14による復元力が可動子3に作用するよう構成されている。可動子3が鉛直方向(軸方向)に往復運動する場合、可動子3を含む往復運動する物体の質量及び共振ばね14のばね定数などで定まる共振周波数に一致した往復運動であれば、圧縮機1としてのエネルギー効率を高く維持することができる。
【0014】
本実施例では、電機子2が鉛直方向(軸方向)において静止し、可動子3が鉛直方向(軸方向)に沿って往復運動する構成を示すが、これに限られるものでは無い。例えば、電機子2が鉛直方向(軸方向)に沿って往復運動し、可動子3が鉛直方向(軸方向)において静止する構成としても良く、また、電機子2及び可動子3が互いに異なる速度で鉛直方向(軸方向)に沿って往復運動する構成としても良い。何れの場合においても、鉛直方向(軸方向)に沿って移動する物体に共振ばね14の一端を接続することが好ましい。
或いは、界磁子としての可動子3が静止し、電機子2がシリンダブロック11と共に可動子3の軸方向に平行に往復運動する構成としても良い。この場合、例えば、界磁子としての可動子3のうち、共振ばね14と接続される側に支持部材の一端を接続固定し、支持部材の他端を接地(地面或いは床に固定)又は設置台上に固定する。これにより、可動子(界磁子)3は固定子として機能し、電機子2及びシリンダブロック11が、可動子(界磁子)3の軸方向に平行な方向に往復運動する。
【0015】
(共振周波数)
以下では、圧縮機1の動作状態が、無負荷の定常運転状態の場合、及び有負荷の定常運転状態の場合のそれぞれについて、共振ばね14の一端に接続される物体である可動子3の共振周波数がどのように決定されるかを説明する。
【0016】
[無負荷負の運転状態の場合]
次に圧縮機1の駆動方法について説明する。可動子3に作用する主な力として、巻線6に交番電流を通電することで発生する電磁加振力Felec、共振ばね14による復元力Fspring、シリンダ11a内外のガスの差圧によるガス圧縮力Fgasが挙げられる。
ガス圧縮力Fgasを無視する場合、すなわち、圧縮機1として負荷の無い運転条件(無負荷条件)においては、可動子3の質量M及び共振ばね14のばね定数Ksにより定まる共振周波数が電磁加振力Felecの周波数と一致したときに共振状態となる。このとき、他の駆動周波数と比較して小さい電磁加振力Felec、すなわち、実効値の小さな交番電流にて可動子3を往復運動させることが可能となる。ここで,電磁加振力Felecの周波数は可動子3に供給する交流磁界の周波数に等しく、電磁加振力Felecの周波数は、巻線6に印加する交番電流の周波数によって操作することができる。
【0017】
無負荷時の共振周波数ωnは、減衰係数が無視できるほど小さい場合、次式(1)で与えられる。
【0018】
【数1】
【0019】
なお、定常運転状態とは、可動子3の振動振幅及び振動周波数が所定時間以上略一定に、例えば、5秒間以上略一定に保たれた状態をいうことができる。また、ばね定数Ksは、ばね以外の弾性体を用いる場合においては、この弾性体が単位長さ変形した場合の復元力の大きさと置き換えることができる。
【0020】
[有負荷且つ定常運転状態の場合]
ガス圧縮力Fgasを考える場合、ガス圧縮力Fgasに含まれるガスばね成分Frによって、共振周波数は無負荷条件の場合の値から乖離する。ガスばね成分Frとは、ガス圧縮力Fgasのうち、可動子3の振動振幅に比例する復元力の成分を指す。ガスばね成分Frはピストン12のストローク方向の移動量をXとすると、次式(2)で与えられる。
【0021】
【数2】
【0022】
右辺Xの係数はガスばね定数Kgasであり、ガスの吐出圧力や吸入圧力、シリンダ径やガスの物性によって変化する。式(2)は、ガス圧縮力Fgasに関して、ピストン12のストローク移動量Xに関する一次の項を抜粋したものと捉えることができる。ここでガス圧縮力Fgasについて詳細に説明する。
【0023】
ガス圧縮力Fgasは、シリンダ11a内外の差圧とシリンダ11aの横断面の面積(鉛直方向に対し垂直な面における断面積)との積により定まる。ここでは、シリンダ11a外が吸入圧力であるとする。
図2は、
図1に示す圧縮機1の定常運転状態におけるガス圧縮力Fgasの履歴図である。すなわち、シリンダ11a内においてガスの吸入と吐出を繰り返す定常運転状態でのガス圧縮力Fgasの履歴である。
図2において、横軸は可動子3の位置xであり、上死点方向を正の向きとしている。なお、ここで上死点とは、圧縮時におけるシリンダ11a内におけるピストン12の最下方位置、すなわち、ピストン12が最もシリンダヘッド13に近い位置である。可動子位置xにおける「0」の位置は、可動子3を構成する永久磁石3aが軸方向に相互に離間し配される2組の磁極4の間(中間部)に位置する状態を示す。縦軸はガス圧縮力Fgasである。このガス圧縮力Fgasの履歴は「吸入工程」「圧縮工程」「吐出工程」「膨張工程」の4つの工程に分類することができる。
【0024】
「吸入工程」は、シリンダ11a内にガスが吸入される工程であり、圧縮機1としての負荷は小さい。「圧縮工程」は、シリンダ11a内のガスを吐出圧力にまで圧縮する工程であり、負荷が増大する区間となる。「吐出工程」は、圧縮されたシリンダ11a内のガスを吐出する工程である。「膨張工程」は、上死点にあるピストン12が下死点に向けて移動する工程であり、負荷が減少する区間となる。
【0025】
ここで、ガスばね定数Kgasについて考える。ガスばね定数Kgasは、以下の式(3)に示す通り、ガス圧縮力Fgasをピストン12のストローク方向の移動量X(可動子3の位置xの変化量)で微分した値である。
【0026】
【数3】
【0027】
そのため、「吸入工程」及び「吐出工程」では値は小さなものとなり、工程中に、圧力損失における負荷脈動がなければ略ゼロとなる。一方、「圧縮工程」及び「膨張工程」はそれぞれ、ピストン12の鉛直方向(軸方向)に沿った移動に伴い負荷がそれぞれ増大及び減少する区間であるため、ガスばね定数Kgasが比較的大きな値となる。このようにガスばね定数Kgasはピストン12が一往復する間に変動する周期変数となる。
【0028】
このように、ガス圧縮負荷が存在する場合における共振周波数ωLは、減衰力の効果を無視する場合、上述の式(1)に示す無負荷時の共振周波数ωnに、ガスばね定数Kgasの影響を加味する次式(4)で表すことができる。
【0029】
【数4】
【0030】
ガスばね定数Kgasはピストン12の位置に応じて変化する変数のため、共振周波数ωLもピストン12の位置に応じて変化する変数となる。そのため、厳密にピストン12を共振させるには、電磁加振力Felecの周波数をピストン12の位置に応じて変化させる必要がある
(ガス圧縮力及び電磁加振力のストローク移動量に対する非線形性)
次に可動子3に作用する外力であるガス圧縮力Fgas及び電磁加振力Felecのストローク移動量Xに対する非線形特性について説明する。
ガス圧縮力Fgasには
図2に示したように、上述のガスばね成分Frの他に、ストローク移動量X(可動子3の位置xの変化量)に関して高次の成分も含まれている。これは、ガス圧縮力Fgasがストローク移動量Xに比例しない事実からも明らかである。これは、可動子3に作用する外力(ガス圧縮力Fgas)に、基本波周波数以外の高次の周波数成分が含まれることを意味する。
電磁加振力Felecは、巻線6に印加する交番電流に略比例する励磁推力Fiとディテント力Fdの和で求められる。ここで、励磁推力Fiは、巻線6に交番電流が印加されることで発生する磁界と可動子3を構成する永久磁石3aとの相互作用によって発生する力である。また、ディテント力Fdは、巻線6への交番電流の通電(印加)の有無にかかわらず、永久磁石3aが磁極4に吸引されることによって発生する力である。
【0031】
励磁推力Fiは上述のとおり、巻線6に印加する交番電流に略概ね比例するが、この比例定数を推力定数と称する。ここで推力定数について説明する。可動子3のストローク移動量Xが大きい場合、永久磁石3aと電機子2の相互作用によって発生する電磁力が弱まるため、可動子3のストローク移動量Xが大きい領域では推力定数が小さくなる。
図3は
図1に示す圧縮機1の推力定数の可動子位置依存性を示す特性図であり、可動子3のストローク移動量Xと推力定数の関係を概略的に示したものである。
図3において、横軸は可動子3の位置xであり、縦軸は推力定数である。可動子位置xにおける「0」の位置は、可動子3を構成する永久磁石3aが軸方向に相互に離間し配される2組の磁極4の間(中間部)に位置する状態を示す。一定の励磁推力Fiを発生させることを想定した場合、
図3に示すように、可動子3が電機子2の端部に接近するほど推力定数は小さくなるため、可動子3のストローク移動量Xが大きい場合、巻線6に印加する交番電流の電流値を大きくする必要がある。そのため、正弦波形状の電磁加振力Felecを発生させるためには、電流波形を正弦波形状から歪んだ形状にする必要がある。これは、電流波形に高次成分を含ませることになることを意味している。
【0032】
次にディテント力Fdについて説明する。
図4は、
図1に示す圧縮機1のディテント力の可動子位置依存性を示す特性図である。
図4の横軸は可動子3の位置xであり、可動子3を構成する永久磁石3aが軸方向に相互に離間し配される2組の磁極の間(中間部)に位置する状態を基準位置「0」とし、可動子3の軸方向に沿って一の方向(例えば、
図1において可動子3が下方へ向かう方向)を正、他の方向(反対側の方向:
図1において可動子3が上方へ向かう方向)を負とした場合を示している。また、
図4の縦軸はディテント力Fdであり、可動子3を構成する永久磁石3aが軸方向に相互に離間し配される2組の磁極の間(中間部)に位置する状態を基準位置「0」とし、可動子の軸方向に沿って一の方向(例えば、
図1において可動子3が下方へ向かう方向)を正、他の方向(反対側の方向:
図1において可動子3が上方へ向かう方向)を負とした場合を示している。
【0033】
図4に示すように、横軸(可動子位置x)の正側の領域において、可動子3を構成する永久磁石3aが軸方向に相互に離間し配される2組の磁極の間(中間部)に位置する状態では、永久磁石3aは上側の磁極4及び下側の磁極4の何れからも最も離れた位置にあることからディテント力Fdは「0」となる。その後、可動子3が軸方向に沿って下方に移動すると永久磁石3aの下端側が、下側の磁極4に近づくことで正のディテント力Fdが発生する。更に、可動子3が軸方向に沿って下方に移動し永久磁石3aの略中央部が、下側の磁極4の位置に到達すると正のディテント力Fdはピークとなり、その後、更に可動子3が軸方向に沿って下方に移動し永久磁石3aが下側の磁極4の位置から外れるとディカント力Fdは負に転じる。従って、ディテント力Fdの可動子位置xに対するプロファイルは、
図4に示すように非線形となる。すなわち、ディテント力Fdは永久磁石3aが磁極4に接近するほど大きくなるが、ある接近距離をピークに減少し始める。そのため、可動子3のストローク移動量X(可動子3の位置xの変位量)とディテント力Fdの関係は
図4のようになる。
図4より、ディテント力Fdは、ストローク移動量X(可動子3の位置xの変位量)に関して非線形関数であり、ピストン12が正弦波状に往復運動した場合、ディテント力Fdに高次の周波数成分が含まれることが推測される。
【0034】
以上に示した可動子3に作用する外力の非線形特性により、圧縮機1の駆動時において、ストローク移動量Xの時間変化波形、巻線6に印加される交番電流の電流波形または交番電圧の電圧波形に、駆動周波数の高次の周波数成分が含まれ得ることが理解できる。
【0035】
(圧縮機の駆動制御)
圧縮機1の駆動制御について説明する。一般にモータの駆動制御方式として、巻線への印加電流が所定の指令波形となるよう制御する電流指令制御と、巻線への印加電圧が所定の指令波形となる制御する電圧指令制御に大別することができる。本実施例では駆動制御方式として電圧指令制御を一例として用いるが、先ずは以下にそれぞれの制御方式について説明する。
【0036】
[電流指令制御]
電流指令制御では、巻線6に印加する交番電流の電流値の制御を行う。上述のように、励磁推力Fiは巻線6に印加する交番電流に略比例するため、電流指令制御はモータ推力を間接的に制御しているといえる。
図5に、圧縮機における電流指令制御における制御ブロック線図を示す。圧縮機1においては、上述のように可動子3を共振周波数ωLで駆動したときに、高効率な駆動が実現される。そのため、巻線6に印加する交番電流の周波数ωIが共振周波数ωLとなるように周波数制御を行う必要がある。
【0037】
図6は、電流一定条件における交番電流周波数ωIと可動子ストロークの関係を示す図であり、電流一定条件の下で、巻線6に印加する交番電流の周波数ωIを変化させたときの可動子3のストローク変化を示している。ここで電流一定条件とは、巻線6に印加する交番電流の実効値が時間依存せずに一定値であることを指す。
図6の横軸は交番電流の周波数ωIであり、縦軸は可動子3のストローク量である。一定電流条件下では、可動子3に作用する外力である電磁加振力Felecは、推力定数が可動子3のストロークに対して一定である場合、一定値となる。実際は
図3に示すように、推力定数は可動子3のストロークに対して多少変化するものの、ここでは、推力定数が一定と仮定する。
交番電流の周波数ωIが共振周波数ωLとなるときを考えると、電磁加振力Felecによる共振が発生するため、可動子3のストローク量が急激に増大する。圧縮機1のような往復動圧縮機においては、可動子3のストローク量は圧縮媒体の吐出流量に関連するパラメータであるため、その制御が重要である。また、可動子3のストローク量が過剰に大きくなると、ピストン12がシリンダヘッド13に衝突する虞が生じる。そのため、可動子3のストローク量を、圧縮機1に接続するシステムまたは機器にて要求される圧縮媒体の吐出流量に応じて制御する必要がある。
ここで、圧縮機1における回路方程式を考える。巻線6に印加する交番電圧をV、巻線6に流れる電流をI、巻線6のインダクタンスをL、電気抵抗をR、可動子3の位置をx、推力定数をK、時間をtとすると、以下の式(5)が成立する。
【0038】
【数5】
【0039】
図5に示すように、電流指令制御における制御ブロックは、ストローク制御部51、位置推定部52、周波数制御部53、電流制御部54、電圧変換部55、及びインバータ56から構成されている。
電流検出部(
図1及び
図5において図示せず)にて検出された巻線6を流れる電流値Iは、位置推定部52、周波数制御部53、及び電流制御部54へそれぞれ入力される。
【0040】
位置推定部52は、入力された電流値I及び巻線6に印加される交番電圧Vを用いて上記式(5)を演算し、可動子3の推定位置x^をストローク制御部51へ出力する。
ストローク制御部51は、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として求め、求めたストローク指令x
**を電流制御部54へ出力する。ここで、ストローク指令x
**は、x
**=X
**sin(ωI・t+φ)で表される。X
**は可動子3の指令ストローク振幅値である。ストローク制御部51が、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として求めることにより、上述の圧縮機1に接続するシステムまたは機器にて要求される圧縮媒体の吐出流量(負荷)に応じた制御が実行される。
【0041】
電流制御部54は、ストローク制御部51より入力されるストローク指令x
**(必要ストローク量)に対して、その可動子3のストロークに応じた電流値を電流指令値I
*として生成する。すなわち、電流制御部54は、指令されたストローク量に相当する電流指令値I
*を算出し、実際にインバータ56を介して巻線6に印加される電流量がその算出された電流指令値I
*に近づくように制御する。電流制御部54は、生成した電流指令値I
*を電圧変換部55へ出力する。
電圧変換部55は、電流制御部54より電流指令値I
*を入力すると、最終的にモータ端子または巻線6に印加されるのは電圧であるため、電流指令値I
*を出力電圧指令値vに変換する。電圧変換部55は、変換後の出力電圧指令値vをインバータ56へ出力する。
【0042】
一方、高効率に圧縮機1を駆動するためには、上述のとおり、交番電流の周波数ωIが共振周波数ωLに合わせる必要がある。共振周波数ωLは上述のとおり、圧縮するガスのガスばね成分Frに依存するため、ピストン12のストローク量やシリンダ11aへのガス吸入圧力、ガス吐出圧力などの諸条件によって変化し得る。よって、高効率に圧縮機1を駆動するために、周波数制御部53は、入力された電流値I(交番電流)の周波数ωIをその都度、運転状態に応じた共振周波数ωLに合わせる制御を実行する。すなわち、周波数制御部53は、共振周波数ωLとなるよう入力された電流値I(交番電流)の周波数ωIを調整し、電流制御部54へ出力する。
【0043】
以上から、圧縮機駆動の際は「ストローク制御」と「周波数制御」を平行して実行する必要があるが、
図6に示した通り、交番電流の周波数ωIを僅かに変化させると、可動子3のストローク量が大きく変化してしまうため制御が難しく、制御の収束性が悪いことが懸念される。
【0044】
[電圧指令制御]
電圧指令制御では、巻線6に印加する交番電圧の電圧値の制御を行う。
図7に圧縮機における電圧指令制御における制御ブロック線図を示す。上述の
図5に示した電流指令制御における制御ブロックと異なる点は、電流制御部54及び電圧変換部55に代えて、電圧制御部57を有する点にある。
【0045】
図8は、電圧一定条件における交番電圧周波数ωvと可動子ストロークの関係を示す図であり、電圧一定条件の下で、巻線6に印加する交番電圧の周波数ωvを変化させたときの可動子3のストローク変化を示している。ここで電圧一定条件とは、巻線6に印加する交番電圧の実効値が時間依存せずに一定値であることを指す。
図8の横軸は交番電圧の周波数ωvであり、縦軸は可動子3のストローク量を示す。
【0046】
ここで、圧縮機1における回路方程式を考える。巻線6に印加する交番電圧をV、巻線6に流れる電流をI、巻線6のインダクタンスをL、電気抵抗をR、可動子3の位置をx、推力定数をK、時間をtとすると、上述の式(5)が成立する。
一般的に、モータ効率が良いように設計されたモータにおいては、抵抗による電圧降下RIや、インダクタンスによる誘導起電力L(dI/dt)よりも、可動子3の移動によって発生する誘起電圧K(dx/dt)が交番電圧Vの成分の中で支配的となる。そのため、交番電圧Vが一定の条件下では可動子3の速度(dx/dt)が略一定とみなすことができる。これは電圧指令制御が実質的に可動子3の速度制御に近似することを意味する。ここで可動子3の位置xが次式(6)のような正弦波で表すことができるとする。
【0047】
【数6】
【0048】
このとき、可動子3の速度(dx/dt)は次式(7)となる。
【0049】
【数7】
【0050】
よって交番電圧の周波数ωvを大きく変化させない限りは、可動子3の速度(dx/dt)の制御は、可動子3の振動振幅(ストローク量)X0の制御に略近似できる。これは交番電圧Vが一定の条件下では可動子3のストローク量が略一定であることを意味する。
【0051】
以上の回路方程式、式(5)〜式(7)より明らかな通り、電圧一定条件において巻線6に印加する交番電圧Vの周波数ωvを変化させたときの可動子3のストローク変化は、
図5に示した電流一定条件のときと比較して緩やかとなり、
図8に示すようになる。なお、交番電圧Vの周波数ωvに応じて可動子3のストローク量が増加するか減少するかについては、運転条件やモータパラメータに依存するため、この限りではない。
以上から、電圧指令制御においては、交番電圧の周波数ωvを変化させても、電流指令制御のときとは異なり、可動子3のストローク量が大きく変化することはない。よって、「ストローク制御」と「周波数制御」を平行して実行することが容易となる。
【0052】
図7に示すように、電圧指令制御における制御ブロックは、ストローク制御部51、位置推定部52、周波数制御部53、電圧制御部57、及びインバータ56から構成されている。
電流検出部(
図1及び
図7において図示せず)にて検出された巻線6を流れる電流値Iは、位置推定部52、周波数制御部53、及び電圧制御部57へそれぞれ入力される。
【0053】
位置推定部52は、入力された電流値I及び巻線6に印加される交番電圧Vを用いて上記式(5)を演算し、可動子3の推定位置x^をストローク制御部51へ出力する。
ストローク制御部51は、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として求め、求めたストローク指令x
**を電流制御部54へ出力する。ここで、ストローク指令x
**は、x
**=X
**sin(ωv・t+φ)で表される。X
**は可動子3の指令ストローク振幅値である。ストローク制御部51が、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として求めることにより、上述の圧縮機1に接続するシステムまたは機器にて要求される圧縮媒体の吐出流量(負荷)に応じた制御が実行される。
【0054】
電圧制御部57は、ストローク制御部51より入力されるストローク指令x
**(必要ストローク量)に対して、その可動子3のストロークに応じた電圧値を出力電圧指令値vとして生成する。すなわち、電圧制御部57は、指令されたストローク量に相当する出力電圧指令値vを算出し、実際にインバータ56を介して巻線6に印加される電圧がその算出された出力電圧指令値vに近づくように制御する。電圧制御部57は、生成した出力電圧指令値vをインバータ56へ出力する。
周波数制御部53は、入力された電流値I(交番電流)を用いて上述の式(5)により、共振周波数ωLとなるよう交番電圧Vの周波数ωvを調整し、電圧制御部57へ出力する。
【0055】
次に、電圧指令制御時における電流波形について説明する。
図9は、電圧指令制御時における電圧波形と電流波形の一例を示す図である。
図9の横軸は時間であり、縦軸は電圧値・電流値である。ここでは代表的に、電圧指令波形として正弦波状の指令を出した場合の波形を示している。電圧指令制御の場合、電圧制御によって実際の電圧波形(
図9中破線)は指令通り、正弦波状の波形となる。一方、電流波形は上述した可動子3に作用する外力の非線形特性により、電流波形に駆動周波数の高次の周波数成分を含む結果となるため、
図9中実線のような波形となる。このように高次の周波数成分の電流は、モータ部の磁極4を構成する積層電磁鋼板にて発生する渦電流損失量を増加させ、モータ効率を悪化させる要因となり得ると共に振動騒音増加の悪化要因となり得る。
【0056】
(制御装置5の構成)
図10は、
図1に示す制御装置のブロック線図である。
図10に示すように、制御装置5は、ストローク制御部51、位置推定部52、周波数制御部53、電圧制御部57、基本波抽出部58、電流制御部(高調波減衰部)59、及びインバータ56を備える。
電流検出部(
図1及び
図5において図示せず)にて検出された巻線6を流れる電流値Iは、基本波抽出部58に入力される。基本波抽出部58は、入力された電流値Iを基本波成分(基本波)と高周波成分(高調波)とに分離する。そして、基本波抽出部58は、分離した基本波を、位置推定部52、周波数制御部53、及び電圧制御部57へそれぞれ出力する。また、基本波抽出部58は、分離した高調波を電流制御部(高調波減衰部)59へ出力する。ここで基本波とは、圧縮機1の駆動周波数成分である。基本波抽出の方法としては、例えば、フーリエ変換により時間領域の信号を周波数領域の信号に変換した後に、該当する周波数域の信号を抽出する。なお、本実施例では、基本波抽出部58により分離された基本波を位置推定部52へ出力する構成を示すが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、電流検出部にて検出された巻線6を流れる電流値Iを、基本波抽出部58及び位置推定部52へ入力するよう構成しても良い。すなわち、位置推定部52へ電流値Iの基本波成分及びその高次成分を含んだ信号を入力する構成としても良い。
【0057】
位置推定部52は、基本波抽出部58より入力される基本波、及び巻線6に印加される交番電圧Vを用いて上記式(5)を演算し、可動子3の推定位置x^をストローク制御部51へ出力する。上述の通り、式(5)は交番電圧の電圧値Vと交番電流の電流値I、可動子3の位置xの関係を示す微分方程式であり、電圧値Vと電流値I(ここでは、基本波抽出部58より入力される基本波)が与えられれば、可動子3の位置x(可動子3の推定位置x^)を求めることができる。電圧値Vは巻線6に印加される交番電圧Vの検出値を用いても良く、また、電圧値Vとして後述する出力電圧指令値vを用いても良い。
【0058】
ストローク制御部51は、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として求め、求めたストローク指令x
**を電圧制御部57へ出力する。すなわち、ストローク制御部51は、圧縮機1に接続されるシステム又は機器にて要求される圧縮媒体の吐出流量(負荷)に応じて決定されるストローク量に、可動子3のストロークを近付ける制御を実行する。なお、本実施例では、ストローク制御部51が、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^との差分(偏差)をストローク指令x
**として電圧制御部57へ出力する構成を示すが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ストローク制御部51が、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^に基づき、可動子3のストロークをストローク指令x
*に近付けるようPI制御によりストローク指令x
**を求めても良い。また、PID制御等その他のフィードバック制御を用いて、負荷に応じて設定されるストローク指令x
*と位置推定部52より入力される可動子3の推定位置x^に基づき、可動子3のストロークをストローク指令x
*に近付けるようストローク指令x
**を求める構成としても良い。
【0059】
周波数制御部53は、基本波抽出部58より入力される基本波に基づき、生成する電圧波形の周波数ωv
*を決定する。すなわち、周波数制御部53は、交番電圧の周波数ωvが共振周波数ωLに近づくよう制御を実行し、電圧波形の周波数ωv
*を電圧制御部57へ出力する。周波数制御部53は、例えば、巻線6に流れる交番電流I(ここでは、基本波抽出部58より入力される基本波)と交番電圧V、可動子3の位置xの位相関係を用いる。共振運転時において無負荷時においては、可動子3に作用する摩擦減衰力、及びモータのインダクタンス成分の影響を無視すれば、交番電流Iと交番電圧Vは同位相となり、可動子3の位置xは電流Iに対して90°位相が遅れる関係にある。このような関係に基づき、負荷時における位相関係を推測し、出力電圧Vの位相を制御することで、駆動周波数の制御を行うことができる。例えば、本実施例では簡易的に、周波数制御部53にて、電流値Iの基本波成分(基本波)の位相と出力電圧Vの位相差をゼロに近付ける構成を想定しているが、可動子3に作用する摩擦減衰力、及びモータのインダクタンス成分の影響を考慮した演算を実行する構成としても良い。また、可動子3の位置推定値x^の位相と出力電圧Vの位相差の関係を用いて出力電圧Vの位相を制御する構成としても良い。なお、電流値Iの基本波成分(基本波)の位相と出力電圧Vの位相差をゼロに近付ける制御などは、例えば、PI制御、PID制御等その他のフィードバック制御を用いれば良い。
このように、出力電圧Vの位相を制御することは、実質的に出力電圧Vの周波数ωvを制御することと同等である。例えば、出力電圧Vの位相を進めるためには、出力電圧Vの周波数ωvに対して正のフィードバックを行う(周波数を大きくする)ことで達成でき、出力電圧Vの位相を遅延させるためには、出力電圧Vの周波数ωvに対して負のフィードバックを行う(周波数を小さくする)ことで達成できる。
【0060】
電圧制御部57は、周波数制御部53より入力される出力電圧Vの指令周波数ωv
*、及びストローク制御部51より入力されるストローク指令値x
**に基づき、出力電圧振幅(指令電圧振幅V
*)を決定する。具体的には、上述の式(5)に示した圧縮機1における回路方程式を用いる。本実施例では、上述のとおり、可動子3の移動によって発生する誘起電圧K(dx/dt)が交番電圧Vの成分の中で支配的であるとから、指令電圧振幅V
*を指令ストローク振幅値X
**を用いて次式(8)のように決定する。
【0061】
【数8】
【0062】
但し、更なる高精度化を目的に、上述の式(5)を用いて電流値I(基本波抽出部58より入力される基本波)を用いた演算により、指令電圧振幅V
*(出力電圧振幅)を決定しても良い。
【0063】
電流制御部(高調波減衰部)59は、基本波抽出部58により分離された高周波成分(高調波)を入力し、当該高周波成分(高調波)をゼロに近付けるための電圧補正量を決定し、高調波減衰電圧として出力する。具体的には、上述の式(5)に示した圧縮機1における回路方程式に基づき、基本波抽出部58により分離された電流値Iの高周波成分から電圧補正量を算出する。
電圧制御部57より出力された指令電圧振幅V
*(出力電圧振幅)と電流制御部(高調波減衰部)59より出力された高調波減衰電圧とが加算され、出力電圧指令値vとしてインバータ56に入力され、インバータ56により巻線6に交番電圧が印加される。
【0064】
本実施例の制御装置5により生成された出力電圧指令値vによると、「ストローク制御」と「周波数制御」を平行して実行することが容易であり、更に、電流制御部(高調波減衰部)59によって電流波形に駆動周波数の高次の周波数成分を減衰させる電圧補正が実行されることから、巻線6に流れる交番電流に駆動周波数の高次の周波数成分が含まれることを抑制することができる。
【0065】
図11は、
図10に示す制御装置のブロック線図の変形例を示す図である。
図11に示す制御装置5では、位置推定部52より可動子3の推定位置x^が周波数制御部53へ入力される構成とした点が、
図10に示す制御装置と異なる。
図11に示す制御装置5を構成する周波数制御部53は、基本波抽出部58により分離された電流値Iの基本波、交番電圧V、及び位置推定部52より入力される可動子3の位置推定値x^のうち、少なくとも2つに基づき、上述の式(5)により、生成する電圧波形の周波数ωv
*を決定する。
【0066】
以上の通り本実施例によれば、駆動効率及び振動騒音特性を向上し得るリニアモータ制御システムを提供することが可能となる。