特許第6800060号(P6800060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800060
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】光学積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20201207BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20201207BHJP
   G02B 5/22 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   B32B15/08 D
   B32B15/08 Q
   G02B5/26
   !G02B5/22
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-59212(P2017-59212)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-161771(P2018-161771A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 正隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】笹井 建典
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和巳
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−190409(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/016316(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/208745(WO,A1)
【文献】 特開2015−140379(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188913(WO,A1)
【文献】 特開平06−278244(JP,A)
【文献】 特開2015−180528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
G02B 5/26
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜層、前記金属薄膜層の一方面または両面に形成されたバリア薄膜層、前記金属薄膜層よりも屈折率の高い高屈折率層、光透過性基板、を有し、
前記高屈折率層が、トリアジン環を有する重合体およびグラフェンから選択される1種または2種以上の高屈折率材料とバインダーとを含み、
前記バリア薄膜層が、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成され、チタンの単体、酸化物および窒化物を含有せず、
前記バインダーは、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリルモノマーの重合体および反応物、シランカップリング剤の重合体および反応物、ビニルエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリル系およびシリコーン系のエラストマーから選択される1種または2種以上であり、
前記高屈折率層において、前記トリアジン環を有する重合体が含有される場合の含有量は、70体積%以上99体積%以下であり、前記グラフェンが含有される場合の含有量は、20体積%以上99体積%以下であり、前記バインダーの含有量は、1.0体積%以上であることを特徴とする光学積層体。
【請求項2】
さらに、被着体に貼り付けるための粘着層を有することを特徴とする請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記バインダーが粘着剤であり、前記高屈折率層が被着体に貼り付けるための粘着層であることを特徴とする請求項1に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記バインダーが、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、(メタ)アクリルモノマーから選択される1種または2種以上の重合体あるいは反応物で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記グラフェンが、酸化グラフェンを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記高屈折率層は、架橋されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記バインダーは、有機重合体であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の光学積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体に関し、さらに詳しくは、光透過性、断熱性および耐光性に優れる光学積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビル・住宅等の建築物の窓ガラスや自動車等の車両の窓ガラスなどには断熱性を有する光透過性積層フィルム(光透過性積層体)を施工することがある。光透過性積層体として、OPPフィルムの面上に有機薄膜と金属酸化物薄膜と金属薄膜とを有する光透過性積層体が知られている。有機薄膜としてトリアジン環含有重合体を含む有機薄膜が用いられ、金属酸化物薄膜としてチタン酸化物薄膜が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−190409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属酸化物薄膜として、チタン酸化物薄膜が用いられている場合があるが、チタン酸化物薄膜の成膜レートは遅く、必要膜厚をつけるためには、多くの電力が必要となり、基材が熱ダメージを受ける傾向にある。加えて、チタン酸化物の励起波長が可視光にもあり、光触媒反応等により、キセノン照射等の紫外線促進試験により隣り合う基材強度が低下し密着力が低下する可能性がある。これらを対策するには、成膜時の冷却効率を上げるために、加工線速を落としたり、粘着剤にも、通常の光学フィルムに要求されるUVカット性能以上に多くの紫外線吸収剤を添加したり、厚膜化する必要があり、生産性やコスト上のの問題から好ましくない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、光透過性、断熱性、耐光性に優れる光学積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る光学積層体は、金属薄膜層、前記金属薄膜層の一方面または両面に形成されたバリア薄膜層、前記金属薄膜層よりも屈折率の高い高屈折率層、光透過性基板、を有し、前記高屈折率層が、C,N,O,Sの少なくとも1種の元素を含む官能基を有する高屈折率ポリマー、グラフェンから選択される1種または2種以上の高屈折率材料とバインダーとを含み、前記バリア薄膜層が、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成されることを要旨とするものである。
【0007】
本発明に係る光学積層体は、さらに被着体に貼り付けるための粘着層を有してもよい。
【0008】
また、本発明に係る光学積層体は、前記バインダーが粘着剤であり、前記高屈折率層が被着体に貼り付けるための粘着層であってもよい。
【0009】
また、本発明に係る光学積層体は、前記バインダーが、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、(メタ)アクリルモノマーから選択される1種または2種以上の重合体あるいは反応物で構成されてもよい。
【0010】
本発明に係る光学積層体は、前記高屈折率材料がグラフェンを含むことが好ましい。前記グラフェンは酸化グラフェンを含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る光学積層体は、前記高屈折率材料がトリアジン環を有する重合体を含んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光学積層体によれば、金属薄膜層の一方面または両面に形成されたバリア薄膜層がスズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成されることから、C,N,O,Sの少なくとも1種の元素を含む官能基を有する高屈折率ポリマー、グラフェンから選択される1種または2種以上の高屈折率材料とバインダーとを含む高屈折率層の紫外線による劣化が抑えられ、高屈折率層の密着性の低下が抑えられる。これにより、光透過性、断熱性、耐光性に優れる。
【0013】
本発明に係る光学積層体がさらに被着体に貼り付けるための粘着層を有していると、粘着層に紫外線吸収剤や顔料などを配合することによって紫外線透過を効率よく抑えることができる。
【0014】
本発明に係る光学積層体において、前記バインダーが粘着剤であり、前記高屈折率層が被着体に貼り付けるための粘着層であると、構成部材をより簡素化することができる。また、高屈折率材料が粘着剤の粘着性を調整する機能により被着体から光学積層体を剥がしやすくすることができる。
【0015】
本発明に係る光学積層体において、前記バインダーが、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、(メタ)アクリルモノマーから選択される1種または2種以上の重合体あるいは反応物で構成されていると、高屈折率層の形成が容易となる。前記バインダーがシランカップリング剤を含むと、高屈折率層の接着性が向上する。
【0016】
本発明に係る光学積層体において、前記高屈折率材料がグラフェンを含むと、光透過性により優れる。前記グラフェンが酸化グラフェンを含むと、高屈折率層の形成用の塗工液の分散性に優れ、高屈折率層の性状安定性に優れる。
【0017】
また、本発明に係る光学積層体において、前記高屈折率材料がトリアジン環を有する重合体を含むと、光透過性により優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る光学積層体の断面図である。
図2】本発明の第二実施形態に係る光学積層体の断面図である。
図3】本発明の第三実施形態に係る光学積層体の断面図である。
図4】本発明の第四実施形態に係る光学積層体の断面図である。
図5】本発明の第五実施形態に係る光学積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る光学積層体について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る光学積層体は、金属薄膜層、バリア薄膜層、高屈折率層、光透過性基板を有する。光透過性基板は、金属薄膜層などを積層する基板となる。金属薄膜層は、遠赤外線を反射しやすい金属で構成され、断熱層として機能することができる。高屈折率層は、金属薄膜層よりも高い屈折率を持ち、金属薄膜層とともに積層されて光透過性を高めることができる。屈折率は、633nmの光に対する屈折率をいう。バリア薄膜層は、金属薄膜層の一方面または両面に形成され、金属薄膜層の腐食を抑えることができる。
【0021】
高屈折率層は、高屈折率材料とバインダーとを含む。高屈折率材料としては、C,N,O,Sの少なくとも1種の元素を含む官能基を有する高屈折率ポリマーやグラフェンを挙げることができる。これらは、高屈折率層の高屈折率材料として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、より高屈折率を有するなどの観点から、グラフェンが好ましい。特に酸化グラフェンが好ましい。
【0022】
バリア薄膜層は、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成される。これらは、380nm以下の紫外領域に励起波長を有する無機材料であり、可視光域の380〜400nmに励起波長を有していない。なお、チタンの単体、酸化物は、可視光域の380〜400nmに励起波長を有する(387nm以下)。これらのうちでは、光透過性により優れるなどの観点から、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛から選択される1種の単体、酸化物または窒化物が好ましい。特に、スズの単体、酸化物または窒化物が好ましい。
【0023】
本発明に係る光学積層体は、上記構成において、380nm以下の紫外線透過率を3%以下に設定することが好ましい。より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。例えば被着体に貼り付けるための粘着層に紫外線吸収剤や顔料などを配合することにより、380nm以下の紫外線透過率を所定の範囲に調整することができる。
【0024】
本発明に係る光学積層体は、高屈折率層およびバリア薄膜層が所定の材料で構成されることにより、高屈折率層の紫外線による劣化が抑えられ、高屈折率層の密着性の低下が抑えられる。バリア薄膜層がチタンの酸化物で構成されていると、380nm以下の紫外線透過率を0.5%以下に設定していても、高屈折率層が紫外線および可視光により劣化し、高屈折率層の密着性が低下する。これは、光学積層体の性能としての紫外線カット率以上に粘着剤等に紫外線吸収剤を添加しないとチタンの酸化物の励起波長の光を十分に吸収することができず、チタンの光触媒効果により有機薄膜の劣化が進行してしまうためと推察される。スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物は、380nm以下の紫外領域に励起波長を有し、可視光域の380〜400nmに励起波長を有していないため、積層体全体における380nm以下の紫外線透過率を例えば3%以下に設定することで、高屈折率層の紫外線による劣化が抑えられる。
【0025】
したがって、上記構成により、本発明に係る光学積層体は、光透過性、断熱性、耐光性に優れる。
【0026】
本発明に係る光学積層体は、バリア薄膜層が、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成される。チタンの単体、酸化物または窒化物で構成されるバリア薄膜層よりも積層体全体が暗くなる傾向にある。このため、高い光透過性を維持するなどの観点から、高屈折率層の高屈折率材料は、より高い屈折率を持つことが好ましい。この観点から、高屈折率材料としては、トリアジン環含有重合体、グラフェンがより好ましい。また、極性基を有するバインダーとの分散性で酸化グラフェンが特に好ましい。
【0027】
また、本発明に係る光学積層体は、バリア薄膜層が、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成される。これらの成分は、チタン、その酸化物または窒化物よりも成膜レートが高くなり、低出力化によって低温成膜が可能となる。成膜のダメージ(熱ダメージ)が抑えられ、品質安定化につながる、また、高速成膜が可能となり、低コスト化につながる。
【0028】
本発明に係る光学積層体は、各層の積層形態は特に限定されるものではないが、以下に、本発明に係る光学積層体として好ましい実施形態を説明する。
【0029】
図1は、本発明の第一実施形態に係る光学積層体の断面図である。光学積層体10は、金属薄膜層16、バリア薄膜層22,24、高屈折率層14,18、光透過性基板12を有している。金属薄膜層16の両面にバリア薄膜層22,24が形成されている。光学積層体10は、光透過性基板12、高屈折率層14、バリア薄膜層22、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層18の順に積層されている。光透過性基板12の反対面(金属薄膜層16を有する側の面と反対面)には、表面保護層26が形成されている。高屈折率層18の面上には、粘着層28が形成されている。表面保護層26は、被着体に貼り付けた際に光学積層体10の表面に現れる層となり、光学積層体10が傷付くことを抑えることができる。粘着層28は、粘着剤を含み、光学積層体10を被着体に貼り付けるための粘着層となる。
【0030】
粘着層28には、紫外線吸収剤、顔料、高屈折率ポリマー、グラフェンなどを配合することができる。これにより、積層体全体で380nm以下の紫外線透過率を所定の範囲に調整することができる。これらのうちでは、紫外線吸収剤、顔料がより好ましい。顔料は、380nm以下の紫外線をカットできる顔料である。紫外線吸収剤は、室温において液状のものが相溶性の点で好ましい。
【0031】
光学積層体10において、光透過性基板12の材料は、特に限定されるものではないが、断熱性により優れるなどの観点から、ポリオレフィンが好ましい。光学積層体10では、粘着層28により被着体に貼り付けた際に、金属薄膜層16の外側に光透過性基板12が配置されるので、外側からの浸水が抑えられ、防水性に優れる。被着体としての窓ガラスの室内側に貼り付けた際には、光透過性基板12が金属薄膜層16よりも室内側に配置されるが、ポリオレフィンはPETなどと比べて室内の熱を吸収しにくいため、優れた断熱性を確保することができる。
【0032】
光学積層体10において、高屈折率層14,18は、光透過性により優れる、断熱性により優れるなどの観点から、薄膜であることが好ましい。例えば厚さが5〜50nmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
光学積層体10において、高屈折率層14,18のバインダーは、特に限定されるものではないが、薄膜にしやすい、密着性に優れるなどの観点から、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、(メタ)アクリルモノマーから選択される1種または2種以上の重合体あるいは反応物で構成されることが好ましい。
【0034】
図2は、本発明の第二実施形態に係る光学積層体の断面図である。光学積層体20は、金属薄膜層16、バリア薄膜層22,24、高屈折率層18、光透過性基板12を有している。金属薄膜層16の両面にバリア薄膜層22,24が形成されている。光学積層体20は、光透過性基板12、バリア薄膜層22、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層18の順に積層されている。光透過性基板12の反対面(金属薄膜層16を有する側の面と反対面)には、表面保護層26が形成されている。高屈折率層18の面上には、粘着層28が形成されている。
【0035】
第二実施形態に係る光学積層体20は、第一実施形態に係る光学積層体10と比較して、金属薄膜層16を基準にして表面保護層26側(光透過性基板12側)の高屈折率層14が省略されている点が相違しており、これ以外の構成は同じである。
【0036】
図3は、本発明の第三実施形態に係る光学積層体の断面図である。光学積層体30は、金属薄膜層16、バリア薄膜層22,24、高屈折率層32、光透過性基板12を有している。金属薄膜層16の両面にバリア薄膜層22,24が形成されている。光学積層体30は、光透過性基板12、バリア薄膜層22、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層32の順に積層されている。光透過性基板12の反対面(金属薄膜層16を有する側の面と反対面)には、表面保護層26が形成されている。
【0037】
第三実施形態に係る光学積層体30は、第二実施形態に係る光学積層体20と比較して、高屈折率層32の面上に粘着層28が形成されていない。高屈折率層32のバインダーが粘着剤であり、高屈折率層32が被着体に貼り付けるための粘着層となっている。この点が相違しており、これ以外の構成は同じである。高屈折率層32が粘着層を兼ねている、あるいは粘着層が高屈折率層32を兼ねているため、構成部材をより簡素化することができる。また、高屈折率材料が粘着剤の粘着性を調整する機能により被着体から光学積層体30を剥がしやすくすることができる。
【0038】
光学積層体30においては、粘着層を兼ねている高屈折率層32に、紫外線吸収剤、顔料、高屈折率ポリマー、グラフェンなどを配合することができる。これにより、積層体全体における380nm以下の紫外線透過率を所定の範囲に調整することができる。
【0039】
図4は、本発明の第四実施形態に係る光学積層体の断面図である。光学積層体40は、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層14,18、光透過性基板12を有している。金属薄膜層16の一方面にバリア薄膜層24が形成されている。光学積層体40は、光透過性基板12、高屈折率層14、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層18の順に積層されている。光透過性基板12の反対面(金属薄膜層16を有する側の面と反対面)には、表面保護層26が形成されている。高屈折率層18の面上には、粘着層28が形成されている。
【0040】
第四実施形態に係る光学積層体40は、第一実施形態に係る光学積層体10と比較して、金属薄膜層16を基準にして表面保護層26側(光透過性基板12側)のバリア薄膜層22が省略されている点が相違しており、これ以外の構成は同じである。
【0041】
図5は、本発明の第五実施形態に係る光学積層体の断面図である。光学積層体50は、金属薄膜層16、バリア薄膜層22,24、高屈折率層14,18、光透過性基板12を有している。金属薄膜層16の両面にバリア薄膜層22,24が形成されている。光学積層体50は、光透過性基板12、高屈折率層14、バリア薄膜層22、金属薄膜層16、バリア薄膜層24、高屈折率層18の順に積層されている。光透過性基板12の反対面(金属薄膜層16を有する側の面と反対面)には、粘着層28が形成されている。高屈折率層18の面上には、表面保護層26が形成されている。
【0042】
第五実施形態に係る光学積層体50は、第一実施形態に係る光学積層体10と比較して、光透過性基板12の反対面に粘着層28が形成され、高屈折率層18の面上に表面保護層26が形成されている点が相違しており、これ以外の構成は同じである。
【0043】
光学積層体50において、光透過性基板12の材料は、特に限定されるものではないが、強度により優れるなどの観点から、PETが好ましい。光学積層体50では、被着体としての窓ガラスの室内側に貼り付けた際に、光透過性基板12が金属薄膜層16よりも室外側に配置されるので、室内の熱が光透過性基板12に吸収されにくく、優れた断熱性を確保することができる。
【0044】
本発明に係る光学積層体は、上記の第一実施形態〜第五実施形態に限定されるものではない。例えば、光学積層体10〜40において、表面保護層26がなくてもよい。この場合、光透過性基板12の材料がポリオレフィンであると、表面に傷が付きやすいが、光透過性基板12の材料がPETであると、表面に傷が付きにくい。また、光学積層体20、30、50において、光学積層体40と同じく、バリア薄膜層22がなく、金属薄膜層16の一方面にバリア薄膜層24が形成されているものであってもよい。また、光学積層体30において、光学積層体10と同じく、高屈折率層14がある構成であってもよい。また、光学積層体50において、光学積層体20と同じく、高屈折率層14がない構成であってもよい。また、光学積層体10〜50において、金属薄膜層と高屈折率層の積層順、積層数などは特に限定されない。例えば光透過性基板12側から順に、金属薄膜層/高屈折率層/金属薄膜層/高屈折率層・・・のように合計で2層以上積層されていてもよいし、光透過性基板12側から順に、高屈折率層/金属薄膜層/高屈折率層/金属薄膜層/高屈折率層・・・のように合計で2層以上積層されていてもよい。
【0045】
以下、光透過性基板、金属薄膜層、バリア薄膜層、高屈折率層、粘着層、表面保護層の詳細について説明する。
【0046】
光透過性基板の材料としては、光透過性を有し、その表面に薄膜を支障なく形成でき、柔軟性を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、光透過性高分子フィルムやフレキシブルガラスなどが挙げられる。ここでいう光透過性とは、波長領域360〜830nmにおける透過率の値が50%以上であることをいう。
【0047】
光透過性高分子フィルムの材料としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン共重合体、シクロオレフィンポリマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、セルロースナノファイバーなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、光透過性、耐久性、加工性に優れるなどの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン共重合体、シクロオレフィンポリマーがより好ましい材料として挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−αオレフィン共重合体、シクロオレフィンポリマーなどのポリオレフィン(鎖状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン)がより好ましい材料として挙げられる。
【0048】
ポリオレフィンは、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような官能基を有していないので、フィルム自体の赤外線の吸収が小さくなる。そうすると、熱を吸収しにくく、断熱性をより高める。また、ポリオレフィンフィルムは柔軟性に優れるので、柔軟性が求められる用途への適用に好適である。フィルムは、薄い膜状のものであり、一般には200μm以下あるいは250μm以下の厚みのものである。ロール状に巻けるほどの柔軟性を有するものであればよく、そのようなものであれば、200μm以上あるいは250μm以上の厚いものであってもよい。フィルムは、一般にロール状物として供出される。
【0049】
ポリオレフィンとしては、光透過性、耐久性、加工性などの観点から、ポリプロピレンが好ましい。特に、光透過性などの観点から、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)が好ましい。二軸延伸ポリプロピレンは、ポリオレフィンフィルムの中で比較的弾性率が高い点でも好ましい。
【0050】
ポリオレフィンフィルムは、その一方あるいは両方の表面に、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理などが挙げられる。表面処理により、ポリオレフィンフィルムの表面には水酸基やカルボン酸基などの官能基が形成され、塗工液・膜中に適切な極性基や反応性官能基持つ薬剤を配合することでポリオレフィンフィルムに接する層との接着性が向上する。
【0051】
光透過性高分子フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、耐久性などの観点から、10μm以上であることが好ましい。より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。また、ロールtoロールでの生産性に優れるなどの観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以下である。
【0052】
金属薄膜層の金属としては、銀、銀合金、金、白金、銅、錫、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金などが挙げられる。これらは、金属薄膜層の金属として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。これらのうちでは、光透過性、日射遮蔽性、熱線反射性が優れるなどの観点から、銀、銀合金がより好ましい。そして、熱、光、水蒸気などの環境に対する耐久性が向上するなどの観点から、銀合金がさらに好ましい。銀合金としては、銀を主成分とし、銅、ビスマス、金、パラジウム、白金、チタンなどの金属元素を少なくとも1種以上含んだ銀合金が良い。さらに好ましくは、銅を含む銀合金(Ag−Cu系合金)、ビスマスを含む銀合金(Ag−Bi系合金)、チタンを含む銀合金(Ag−Ti系合金)等が良い。
【0053】
金属薄膜層の膜厚は、安定性、日射遮蔽性などの観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは4nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。また、光透過性、経済性などの観点から、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。
【0054】
金属薄膜層は、緻密な膜を形成できる、数nm〜数十nm程度の薄膜を均一に形成できるなどの観点から、気相法で形成することが好ましい。気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーション法などといった物理的気相法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相法(CVD)などが挙げられる。これらのうちでは、膜厚制御が容易であるなどの観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法が好ましい。
【0055】
バリア薄膜層は、厚すぎると光透過性が低下するため、光透過性の観点から薄い(薄膜である)ほうが好ましい。例えば成膜レートの換算より0.3〜5.0nmの範囲内が好ましい。より好ましくは0.5〜3.0nmの範囲内である。バリア薄膜は、緻密な膜を形成できる、数nm〜数十nm程度の薄膜を均一に形成できるなどの観点から、気相法で形成することが好ましい。気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーション法などといった物理的気相法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相法(CVD)などが挙げられる。これらのうちでは、膜厚制御が容易であるなどの観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法が好ましい。
【0056】
高屈折率層の高屈折率ポリマーは、C,N,O,Sから選択される少なくとも一種の元素を含む官能基を有する有機ポリマーからなる。このような官能基を有する有機ポリマーは、屈折率が比較的高い傾向にある。N、S、Oの中でも特にN、Sを含む有機ポリマーは、屈折率が特に高い傾向にある点で好ましい。また、これらの元素は金属と結びつきの強い元素であり、これらの元素を含む官能基により、金属薄膜層やバリア薄膜層と強く接着し、接着性が良好になる。
【0057】
Sを含む官能基としては、スルホニル基(−SO−)、チオール基、チオエステル基などが挙げられる。これらのうちでは、金属薄膜層やバリア薄膜層との接着性により優れるなどの観点から、スルホニル基、チオール基などがより好ましい。そして、Sを含む官能基を有するポリマーとしては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン、ポリフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0058】
Oを含む官能基としては、カルボキシル基、エステル基、ケトン基、ヒドロキシル基などが挙げられる。これらのうちでは、金属薄膜層やバリア薄膜層との接着性により優れるなどの観点から、カルボキシル基、エステル基などがより好ましい。そして、Oを含む官能基を有するポリマーとしては、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0059】
Nを含む官能基としては、カルバゾール基、イミド基、ニトリル基などが挙げられる。これらのうちでは、金属薄膜層やバリア薄膜層との接着性により優れるなどの観点から、カルバゾール基、イミド基などがより好ましい。そして、Nを含む官能基を有するポリマーとしては、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリイミドなどが挙げられる。また、トリアジン環を有する重合体が挙げられる。トリアジン環を有する重合体は、その構造から、屈折率が比較的高い(1.70以上である)ため、特に好ましい。
【0060】
高屈折率ポリマーの含有量は、特に限定されるものではないが、高屈折率層の屈折率を1.7以上に設定しやすいなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し70体積%以上であることが好ましい。より好ましくは90体積%以上である。一方、高屈折率層の接着性に優れるなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し99体積%以下であることが好ましい。また、高屈折率層の接着性により優れるなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し95体積%以下であることが好ましい。より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。そして、高屈折率ポリマーの含有量が高屈折率層の全体量に対し70〜99体積%の範囲内であると、屈折率および接着性を高度に両立できる。
【0061】
高屈折率層のグラフェンは、ナノカーボン材料に分類される2次元シート状の物質であり、六員環で敷き詰められた(炭素原子が六角形の格子状に並んだ)構造をしている。グラフェンは、屈折率が高く、単体では2.6〜2.7の屈折率を有する。また、非常に薄いシート状の物質である(厚みが2〜3nm程度である)ため、光透過性に優れる。このため、グラフェンを含むことで、屈折率、光透過性を良好にすることができる。グラフェンは、sp炭素による六員環で敷き詰められた構造の非変性のグラフェンや、グラフェンシートに水酸基、エポキシ基、カルボキシル基などの変性基を持つ酸化グラフェンや他の元素がドーピングされたものが含まれる。酸化グラフェンは、sp炭素が含まれるため、絶縁体の性質を示す。酸化グラフェンには、上記変性基を持つものを出発原料として他の官能基を持つようにしたものも含まれる。非変性のグラフェンや酸化グラフェンの還元体は、導電性を持つ。グラフェンとしては、非導電性である、水や極性溶媒への分散性に優れ、塗布によって基板上に成膜することができる、変性基による接着性の向上などの観点から、酸化グラフェンがより好ましい。導電性は、体積抵抗率が108Ω・cm以下となるものをいう。
【0062】
高屈折率層は、グラフェンを含むことで、より高い屈折率を持つ。屈折率は、633nmの光に対する屈折率をいう。高屈折率層の屈折率は、光学特性などの観点から、1.8以上であることが好ましい。より好ましくは1.9以上、さらに好ましくは2.0以上である。高屈折率層は、高い誘電率を有する酸化グラフェンを含むことで、誘電体層や絶縁体層、非導電層とすることができる。
【0063】
グラフェンの含有量は、特に限定されるものではないが、高屈折率層の屈折率を1.7以上に設定しやすいなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し20体積%以上であることが好ましい。また、高屈折率層の屈折率を2.0以上に設定しやすいなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し40体積%以上であることが好ましい。一方、高屈折率層の接着性に優れるなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し99体積%以下であることが好ましい。また、高屈折率層の接着性により優れるなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し95体積%以下であることが好ましい。より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。そして、グラフェンの含有量が高屈折率層の全体量に対し20〜99体積%の範囲内であると、屈折率および接着性を高度に両立できる。
【0064】
高屈折率層のバインダーは、高屈折率材料を含む高屈折率層の接着性を確保することができる。バインダーは、高屈折率材料を含む高屈折率層の接着性を確保することができるものであれば特に限定されるものではなく、有機重合体、非重合体のいずれであってもよい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリルモノマーの重合体あるいは反応物、シランカップリング剤の重合体あるいは反応物、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリル系やシリコーン系等の各種エラストマ−などが挙げられる。これらは、高屈折率層のバインダーとして1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされてもよい。高屈折率層のバインダーがこれらであると、薄膜にしやすく、密着性にも優れる。
【0065】
高屈折率層のバインダーは、粘着剤であってもよい。高屈折率層のバインダーとしての粘着剤は、粘着層を構成する粘着剤で挙げられたものを好適に用いることができる。粘着層を被着体よりも高屈折率にすることで、光透過性を向上させることができる。
【0066】
バインダーとしての有機重合体がポリビニルアルコールであると、水溶性であるため、水分散性に優れる酸化グラフェンとの組成物では、有機溶媒を用いなくてよい。また、高屈折率層を塗工によって形成する際に、光硬化や熱硬化などの硬化工程を経ないで溶媒(水など)を除去するだけでよく、高屈折率層を容易に形成できる。バインダーとしての有機重合体が(メタ)アクリル樹脂であると、(メタ)アクリルモノマーが溶媒となるので、有機溶媒の量を減らすことができる。また、高屈折率層を塗工によって形成する際に、光硬化や熱硬化などの硬化工程を経ることで光学薄膜を容易に形成できる。バインダーとしてシランカップリング剤を含むと、高屈折率層の接着性が向上する。
【0067】
高屈折率層におけるバインダーの含有量は、優れた接着性を確保しやすいなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し1.0体積%以上であることが好ましい。また、高屈折率層の接着性がより優れるなどの観点から、高屈折率層の全体量に対し5.0体積%以上であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。
【0068】
シランカップリング剤は、アルコキシシリル基以外の官能基を有するものであってもよいし、それ以外の官能基を有していないものであってもよい。接着性の向上の観点から、シランカップリング剤は、アルコキシシリル基以外の官能基をさらに有するものがより好ましい。アルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基などが挙げられる。シランカップリング剤は、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの官能基のうちでは、接着性の向上効果が特に高いなどの観点から、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ビニル基が好ましい。また、高屈折率層の形成用の塗工液の安定性が特に高いなどの観点から、極性の低いエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基が好ましい。
【0069】
ビニル基を有するシランカップリング剤(ビニル系)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリング剤(エポキシ系)としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤(メタクリル系)としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。アクリロキシ基を有するシランカップリング剤(アクリル系)としては、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。アミノ基を有するシランカップリング剤(アミン系)としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。スルフィド基を有するシランカップリング剤(スルフィド系)としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどが挙げられる。
【0070】
高屈折率層におけるシランカップリング剤の含有量は、接着性向上などの観点から、高屈折率層の全体量に対し1.0体積%以上であることが好ましい。より好ましくは5.0体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上、15体積%以上である。一方、シランカップリング剤の含有量を多くしても、高屈折率層の屈折率への影響は小さい。これは、高屈折率層を塗布する基板側にシランカップリング剤が偏在しているためと推察される。したがって、屈折率の観点から、シランカップリング剤の含有量が特に限定されるものではない。高屈折率層におけるバインダーとして必要以上に配合しないなどの観点から、高屈折率層におけるシランカップリング剤の含有量は、高屈折率層の全体量に対し80体積%以下であることが好ましい。より好ましくは70体積%以下、さらに好ましくは60体積%以下である。
【0071】
バインダーとしての(メタ)アクリルモノマーの重合体としては、多官能アクリレートの重合体、多官能メタクリレートの重合体、単官能アクリレートの重合体、単官能メタクリレートの重合体、または、これらのモノマーを組み合わせた共重合体などが挙げられる。多官能アクリレートの重合体や多官能メタクリレートの重合体は、添加することで3次元架橋を導入し、耐熱性の向上と膜強度の向上を図り、シランカップリング剤や表面処理官能基と反応し接着性を向上させることができる。また、これらの重合体および共重合体は、熱、電子線、放射線、光架橋が可能である。中でも光架橋は、低温で架橋することができ、耐熱性の低い基材、例えばポリオレフィンフィルムの熱変形を抑えることができる。また、光による短時間での架橋が可能となる。
【0072】
多官能アクリレートまたは多官能メタクリレートとしては、(メタ)アクリル基を一分子中2個以上有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリメタクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリグリセリンモノエチレンオキサイドポリアクリレート、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0073】
単官能アクリレートの重合体または単官能メタクリレートの重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルアクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0074】
アクリレートまたはメタクリレートを用いる場合には、光ラジカル重合開始剤を用いることもできる。光ラジカル重合開始剤としても、公知のものから適宜選択して用いればよく、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのベンゾイルベンゾエート、アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイドおよびチオキサントン類等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤を用いる場合、アクリレートまたはメタクリレート100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0075】
高屈折率層は、高屈折率材料およびバインダーの他に、添加剤などを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0076】
高屈折率層の膜厚は、日射遮蔽性、視認性、反射色などを考慮して調節することができる。高屈折率層の膜厚は、反射色の赤色や黄色の着色を抑制しやすくなる、高い光透過性が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、高屈折率層の膜厚は、反射色の緑色の着色を抑制しやすくなる、高い光透過性が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは90nm以下、より好ましくは85nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。高屈折率層がグラフェンを含む場合、高屈折率層の厚みは、光透過性などの観点から、10〜40nmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは10〜30nmの範囲内である。グラフェン1層の厚みは1〜3nmであることから、グラフェンは単層であってもよいし、光透過性を低下させない範囲であれば複数層であってもよい。
【0077】
高屈折率層は、高屈折率材料およびバインダーを含むことから、塗布(塗工)によって形成することが好ましい。高屈折率層は、高屈折率層を形成するための塗工液を基板上に塗工し、必要に応じて、乾燥、架橋などの処理を行うことにより形成することができる。
【0078】
高屈折率層を形成するための塗工液は、高屈折率材料、バインダーあるいはバインダーの前駆体化合物、溶媒を含む。高屈折率材料およびバインダーは、上記する通りである。
【0079】
溶媒は、高屈折率材料が溶解性あるいは分散性を示す溶媒と、バインダーあるいはバインダーの前駆体化合物が溶解性あるいは分散性を示す溶媒を含むことが好ましい。例えば高屈折率ポリマーが溶解性あるいは分散性を示す溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどの有機酸エステル、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのシクロエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ヘキサンなどの炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族類などが挙げられる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。また、例えばグラフェンが分散性を示す溶媒としては、水、アセトン、MIBK、THF、アセチルアセトン、シクロペンタノン、アルコール類などが挙げられる。酸化グラフェンは、非変性のグラフェンよりも水などの極性溶媒への分散性に優れる。ポリビニルアルコールは水に可溶である。(メタ)アクリレートは、非極性溶媒に溶解あるいは分散しやすい。シランカップリング剤は、アルコキシシラン基(極性基)以外の基として非極性基(ビニル基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基)を有するものは、非極性溶媒を用いることで、溶液安定性が向上する。非極性溶媒としては、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノンなどが挙げられる。エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)などが挙げられる。これらのうちでは、短時間成膜性、生産性などの観点から、アセトンが特に好ましい。
【0080】
高屈折率材料としてグラフェンを用いる場合、溶媒としては、水/ケトン系溶媒の混合溶媒が特に好ましい。混合溶媒とすることで、段階的に乾燥することができ、均一膜を形成しやすい。この場合、混合比率は、質量比で、水/ケトン系溶媒=1/99〜10/90の範囲内が好ましい。水が1質量部以上であると、グラフェンの分散性が良好となる。水が10質量部以下であると、シランカップリング剤の分解が抑えられ、溶液安定性に優れる。混合比率は、より好ましくは水/ケトン系溶媒=2/98〜7/93の範囲内である。
【0081】
溶媒の除去方法は、特に限定されるものではないが、加熱蒸発、自然揮発、減圧留去などの方法を用いることができる。これらのうちでは、コストに優れるなどの観点から、加熱蒸発の方法が好ましい。
【0082】
粘着層の粘着剤は、表面の粘着性を利用して圧力をかけて接着するものであり、感圧接着剤として、固化により剥離抵抗力を発揮する接着剤とは区別される。粘着剤としては、アクリル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。これらのうちでは、光透過性に優れるなどの観点から、アクリル樹脂系粘着剤が好ましい。
【0083】
粘着層は、比較的粘着力の弱い粘着剤を用いて構成することが好ましい。弱い粘着力とすることで、積層体を板ガラスなどの被着体に貼り直ししやすくする。粘着力が強いと、剥がして貼り直しする際に積層体にかかる力が強くなり、積層体が折れて貼り直しできない問題が生じやすい。
【0084】
粘着層の厚みは、粘着力を確保するなどの観点から、5μm以上であることが好ましい。より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。一方、厚みムラによって歪みが生じるのを抑える、コストを抑えるなどの観点から、50μm以下であることが好ましい。より好ましくは40μm以下である。
【0085】
なお、ここでは、粘着剤を含む粘着層としているが、粘着層に代えて接着剤を含む接着層としてもよい。接着層の接着剤としては、ヤング率の観点から、ゴム系接着剤が挙げられる。ゴム系接着剤としては、クロロプレンゴム系接着剤、スチレンブタジエンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、シリコーンゴム系接着剤、フッ素ゴム系接着剤などが挙げられる。
【0086】
粘着層の紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤などが挙げられる。これらは、粘着層の紫外線吸収剤として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。粘着層の紫外線吸収剤は、バリア薄膜層の成分の励起波長領域に高い吸収能を有するものがより好ましい。また、結晶化しヘイズアップしない液状の紫外線吸収剤がより好ましい。
【0087】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−5’−ジ−第三ペンチル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2H −ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類などが挙げられる。
【0088】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルフォン酸3ハイドレイト、2−ヒロドキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類などが挙げられる。
【0089】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(3−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(3−トリデシルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−[3−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルオキシ]フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジビフェニル−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−[1−(i−オクチルオキシカルボニル)エチルオキシ]フェニル]−4,6−ジビフェニル−s−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−ビス(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−s−トリアジン等のトリアリールトリアジン類などが挙げられる。
【0090】
これらのうちでは、相溶性、非晶性などの観点から、常温で液状のものが特に好ましい。
【0091】
粘着層の高屈折率ポリマーやグラフェンは、高屈折率層において用いられるものを好適に用いることができる。粘着層における高屈折率ポリマーやグラフェンの含有量は、屈折率、耐光性などの観点から、粘着層の全体に対し、10体積%以上であることが好ましい。より好ましくは20体積%以上である。また、粘着性、相溶性などの観点から、粘着層の全体に対し、70体積%以下であることが好ましい。より好ましくは50体積%以下である。
【0092】
粘着層は、粘着剤を構成する成分、紫外線吸収剤や顔料、高屈折率ポリマー、グラフェンなどの添加成分、必要に応じて溶媒などを混合し、所定部位に塗布(塗工)し、必要に応じて硬化や乾燥などの処理を行うことにより形成することができる。
【0093】
表面保護層は、硬化性樹脂や有機無機ハイブリッド材料などで構成することができる。硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂やアクリル樹脂などが挙げられる。シリコーン樹脂やアクリル樹脂は、熱硬化性であっても良いし、光硬化性であっても良いし、水硬化性であっても良い。アクリル樹脂としては、アクリル・ウレタン樹脂、シリコンアクリル樹脂、アクリル・メラミン樹脂などが挙げられる。
【0094】
有機無機ハイブリッド材料としては、有機材料中に無機粒子が配合されたものが挙げられる。この場合における有機材料としては、硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされてもよい。これらのうちでは、透明性、可撓性などから、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。また、この場合における無機粒子としては、金属粒子、金属酸化物粒子などが挙げられる。これらのうちでは、光透過性などから金属酸化物粒子が好ましい。金属粒子、金属酸化物粒子の金属としては、Si、Ti、Zrなどが挙げられる。無機粒子としては、耐擦傷性、耐摩耗性、汎用性などの観点から、シリカ粒子が好ましい。無機粒子としては、分散性、光透過性などの観点から、ナノ粒子が用いられる。ナノ粒子は、粒径1μm未満のナノサイズの無機粒子である。この場合、無機粒子が表面保護層における無機成分となる。
【0095】
また、有機無機ハイブリッド材料としては、有機材料(有機成分の原料)と無機材料(無機成分の原料)により形成され、有機材料と無機材料とがナノレベルあるいは分子レベルで複合化しているものが挙げられる。このような有機無機ハイブリッド材料は、例えば、有機材料中に分散させた無機材料と有機材料とが重合反応などの反応を起こし、化学結合を介して無機成分が有機成分中に高分散した網目状の架橋構造を有するものである。この場合における有機材料としては、硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされてもよい。また、この場合における無機材料としては、金属化合物などが挙げられる。金属化合物としては、Si化合物、Ti化合物、Zr化合物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされてもよい。これらのうちでは、耐擦傷性、耐摩耗性、汎用性などの観点から、Si化合物がより好ましい。金属化合物は、Si、Ti、Zrなどの無機成分を含有する化合物で、有機成分の原料と重合反応などの反応を起こすなどにより複合化できるものからなる。金属化合物としては、より具体的には、有機金属化合物などが挙げられる。有機金属化合物としては、シランカップリング剤、金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレート、シラザンなどが挙げられる。
【0096】
表面保護層は、有機無機ハイブリッド材料からなることがより好ましい。無機成分を含まない材料と比べ、有機無機ハイブリッド材料からなることで、表面保護層の形成時の硬化収縮が抑えられる。これにより、歪みが小さくなり、表面保護層の剥離が抑えられやすくなる。また、耐擦傷性が向上する。この場合、表面保護層における無機成分の含有量は、1.0〜30質量%の範囲内であることが好ましい。無機成分の含有量を少なくすることで、断熱性が確保されやすい。しかし、無機成分の含有量が少ないと、表面保護層の形成時の硬化収縮を抑える効果が小さい。そうすると、表面保護層の剥離が生じやすい。これに対し、高屈折率層が、N,O,Sから選択される少なくとも1種の元素を含む官能基を有する高屈折率ポリマーやバインダーを含有するので、高屈折率層の柔軟性が向上する。高屈折率層の柔軟性により、表面保護層の形成時の硬化収縮による応力が緩和されるため、無機成分の含有量が少なくても、表面保護層の剥離が抑えられる。これにより、表面保護層の接着性と断熱性を両立できる。そして、表面保護層における無機成分の含有量を2.0〜10質量%の範囲内とすることで、表面保護層の接着性と断熱性をより高度に両立できる。
【0097】
表面保護層の厚みは、断熱性に優れる(熱貫流率を低く抑える)などの観点から、2.5μm以下であることが好ましい。より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下である。また、耐擦傷性に優れるなどの観点から、0.4μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.6μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上である。
【0098】
本発明に係る光学積層体は、例えば、ビル・住宅等の建築物の窓ガラスや自動車等の車両の窓ガラスなどに用いられる断熱フィルム、遮熱フィルム、遮断熱フィルムなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0100】
<高屈折率薄膜層用塗工液Aの調製>
グラビアコーターで塗工可能な粘度(0.1〜3.0mPa・s)にトリアジン環含有重合体(日産化学工業社製「UR−108NPT3」、光重合開始剤、多官能アクリレートを含有する)を希釈(溶媒:PGMEA)することにより、高屈折率薄膜層用塗工液Aを調製した。
【0101】
<高屈折率薄膜層用塗工液Bの調製>
酸化グラフェンの10mg/ml水分散液(東京化成工業製「G0444」)1000質量部、バインダー:シランカップリング剤(アクリル系、信越シリコーン製「KBM−5103」)1.0質量部、バインダー:アクリルモノマー(アイカ工業製「Z−729−35」)8.5質量部を混合し、固形分が凡そ1質量%となるようにアセトンで希釈し、高屈折率薄膜層用塗工液Bを調製した。
【0102】
<高屈折率薄膜層用塗工液Cの調製>
グラフェン(東京化成工業製「G0442」)5.0質量部、バインダー:シランカップリング剤(アクリル系、信越シリコーン製「KBM−5103」)0.1質量部、アセトン500質量部を混合し、固形分が凡そ1質量%となるように高屈折率薄膜層用塗工液Cを調製した。
【0103】
<粘着層用組成物の調製>
アクリル樹脂系粘着剤(東洋インキ社製「主剤:BPS5260、硬化剤:BHS8515」)100質量部に対し、紫外線吸収剤(UVA、BASF製「TINUVIN 384−2」)2.5質量部を配合して、粘着層用組成物を調製した。
【0104】
(実施例1)
<光学積層体の作製>
OPPフィルム(東洋紡製「P2111」、厚み:40μm、両面コロナ処理)の一方面上に、マイクログラビアコーターを用いて、高屈折率薄膜層用塗工液Aを塗工し、70℃で1分間乾燥後、200mJ/cmの紫外線を照射して架橋処理することにより、1層目の高屈折率薄膜層(膜厚20nm)を形成した。
次いで、この1層目の高屈折率薄膜層上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、スパッタリングにより1層目のSn薄膜層(膜厚2nm)を成膜した。次いで、この1層目のSn薄膜層上に、スパッタリングによりAg−Cu合金薄膜層(膜厚7.8nm)を成膜した。次いで、このAg−Cu合金薄膜層上に、スパッタリングにより2層目のSn薄膜層(膜厚2nm)を成膜した。
次いで、この2層目のSn薄膜層上に、1層目の高屈折率薄膜層と同様にして2層目の高屈折率薄膜層(膜厚20nm)を形成した。
次いで、2層目の高屈折率薄膜層上に、粘着層用組成物を塗布して、粘着剤層(厚み1.5μm)を形成した。
また、OPPフィルムの反対面に、紫外線硬化性のアクリル樹脂(DIC(株)製、「UVTクリア−TEF046」)を塗工し、70℃で30秒間乾燥し、さらに400mJ/cmの紫外線を照射して、表面保護層(厚み1.1μm)を形成した。
次に、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより(後酸化処理)、Sn薄膜層を熱酸化させ、Sn酸化物薄膜とした。以上により、光学積層体を作製した。
【0105】
(実施例2〜3)
高屈折率薄膜層用塗工液Aに代えて高屈折率薄膜層用塗工液BまたはCを用いた以外は実施例1と同様にして、光学積層体を作製した。
【0106】
(実施例4〜10)
Sn酸化物薄膜に代えて表1,2に記載のバリア薄膜とした以外は実施例2と同様にして、光学積層体を作製した。
【0107】
(実施例11〜12)
OPPフィルムの一方面上に高屈折率薄膜層を形成しないで直接1層目のSn薄膜層を成膜した以外は実施例1〜2と同様にして光学積層体を作製した。
【0108】
(実施例13〜14)
<光学積層体の作製>
OPPフィルムに代えてPETフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」))を用い、その一方面上に、実施例1〜2と同様、順に1層目の高屈折率薄膜層、1層目のSn薄膜層、Ag−Cu合金薄膜層、2層目のSn薄膜層、2層目の高屈折率薄膜層を形成した。
次いで、2層目の高屈折率薄膜層上に、紫外線硬化性のアクリル樹脂(DIC(株)製、「UVTクリア−TEF046」)を塗工し、70℃で30秒間乾燥し、さらに400mJ/cmの紫外線を照射して、表面保護層(厚み1.1μm)を形成した。
また、PETフィルムの反対面に、粘着層用組成物を塗布して、粘着剤層(厚み1.5μm)を形成した。
次に、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより(後酸化処理)、Sn薄膜層を熱酸化させ、Sn酸化物薄膜とした。以上により、光学積層体を作製した。
【0109】
(実施例15)
<高屈折率粘着層用組成物の調製>
アクリル樹脂系粘着剤(東洋インキ社製「主剤:BPS5260、硬化剤:BHS8515」)100質量部に対し、紫外線吸収剤(UVA、BASF製「TINUVIN 384−2」)2.5質量部、グラフェンナノプレートレット(東京化成工業製「G0441」)10質量部を配合して、高屈折率粘着層用組成物を調製した。
<光学積層体の作製>
高屈折率薄膜層を形成しないで、UVAを含む上記粘着層用組成物に代えてUVAおよび酸化グラフェンを含む高屈折率粘着層用組成物を用いて粘着層を形成した以外は実施例2と同様にして光学積層体を作製した。
【0110】
(実施例16)
UVAを含まない粘着層用組成物(アクリル樹脂系粘着剤(東洋インキ社製「主剤:BPS5260、硬化剤:BHS8515」))を用いて粘着層を形成した以外は実施例1と同様にして、光学積層体を作製した。
【0111】
(比較例1)
1層目のバリア薄膜層としてSnOx薄膜層に代えてTiOx薄膜層を形成し、2層目のバリア薄膜層を形成しなかった以外は実施例16と同様にして、片面Ti酸化物バリアの光学積層体を作製した。
【0112】
(薄膜の膜厚の測定)
各薄膜の膜厚は、上記電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)による試験片の断面観察から測定した。
【0113】
作製した光学積層体について、光透過性、断熱性、耐光性、紫外線透過性の測定・評価を行った。その結果を表1〜3に示す。
【0114】
(光透過性)
光学積層体の粘着層を板ガラスの片面に貼り付けた後、JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜1000nmの透過スペクトルを測定し、計算により可視光透過率を求めた。可視光透過率65%以上を特に良好「◎」とし、可視光透過率60%を良好「○」とし、60%未満を劣る「×」とした。
【0115】
(断熱性)
光透過性積層体の粘着層を板ガラスの片面に貼り付けた。JIS R3106に準拠し、ガラス面およびフィルム面の垂直放射率を求め、JIS A5759に準拠して熱貫流率(W/mK)を求めた。測定光は、光学積層体側から入射させた。熱貫流率が4.7W/mK以下の場合を良好「○」、4.7W/mK超の場合を不良「×」とした。
【0116】
(耐光性)
光学積層体の粘着層を板ガラスの片面に貼り付けた後、光学積層体にキセノンランプを500時間照射後(測定波長300〜390nm)、高屈折率層の劣化を確認した。具体的には、JIS A5759に準拠して、フィルム全体を把持し、180度引きはがし試験を行い、剥離界面の確認と剥離力(N/25mm)を求めた。引きはがし試験後にガラス側に金属薄膜が残っていない場合を特に良好「◎」とし、ガラス側に金属膜が残っているが剥離力が4N/25mm以上の場合を良好「○」とし、ガラス側に金属膜が残っており、剥離力が4N/25mm未満の場合を不良「×」とした
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
比較例1は、バリア薄膜層がチタンの酸化物で構成されており、耐光性評価において高屈折率薄膜層とバリア薄膜層の界面で剥離が生じた。これに対し、実施例は、バリア薄膜層が、スズ、ケイ素、クロム、亜鉛、アルミニウム、インジウムから選択される1種または2種以上の単体、酸化物または窒化物で構成されており、耐光性評価において高屈折率薄膜層とバリア薄膜層の界面での剥離が抑えられた。そして、光透過性、断熱性も満足することが確認された。
【0121】
実施例同士の比較では、断熱性および耐光性を満足しつつ光透過性により優れるなどの観点から、高屈折率層の高屈折率材料としては、酸化グラフェンまたはグラフェンがよいことがわかる。バリア薄膜層の金属としては、Snが特によいことがわかる。また、Si,Cr,Znが比較的よいことがわかる。さらに、片面バリアよりも両面バリアの方がよいことがわかる。
【0122】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0123】
10〜50 光学積層体
12 光透過性基板
14、18 高屈折率薄膜層
16 金属薄膜層
22、24 バリア薄膜層
26 粘着層
28 表面保護層
図1
図2
図3
図4
図5