(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
両面粘着テープにより養生シートを型枠に固定した後にコンクリートの打設を行い、前記型枠脱型の際に当該両面粘着テープにより前記養生シートを当該コンクリートに残置して養生を行う工法において使用する前記両面粘着テープを選定するための選定方法であって、
前記両面粘着テープ及び前記養生シートを前記型枠から剥離するために必要とされる剥離力を算出するステップと、
前記両面粘着テープ及び前記養生シートを前記コンクリートに残置するために必要とされる残置力を算出するステップと、
前記残置力が前記剥離力よりも大きくなる前記両面粘着テープを選定するステップと、を備え、
前記残置力は、前記打設されるコンクリートのコンクリート強度に基づいて算出される値である、固定用テープの選定方法。
前記両面粘着テープの前記コンクリートへの接着幅が前記両面粘着テープの前記型枠への接着幅よりも大きい、請求項1〜3の何れか一項に記載の固定用テープの選定方法。
前記両面粘着テープの前記型枠の外縁への接着幅は7mm以下であり、前記両面粘着テープの前記コンクリートへの接着幅は7mm以上である、請求項5に記載のコンクリート構造物の製作方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の工法では、上述したように圧縮強度や耐久性又は表面美観を従来の工法に比べて格段に向上させたコンクリート構造物を製作(構築等)することができるが、型枠脱型時に養生シートをコンクリート側に確実に残置することが必要とされる。この残置方法の1つとして、本出願人らの検討によれば、両面粘着テープを養生シートの端部と型枠とに跨がるように貼り付けることにより、型枠の内面に養生シートを固定する方法が検討されている。この方法によれば、型枠脱型の際、両面粘着テープにより、養生シートをコンクリートに残置することができる。しかしながら、型枠の脱型の仕方によっては養生シートの一部が剥がれてしまう可能性もあるため、より確実に養生シートをコンクリートに残置できる手法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために為されたものであり、型枠脱型の際に養生シートをコンクリート側により確実に残置することができる、固定用テープの選定方法、及び、当該選定方法によって選定された固定用テープを用いたコンクリート構造物の製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねる過程で、両面粘着テープを用いて養生シートを型枠に固定すると、型枠側とは逆側の粘着面(
図4の第1粘着層30a参照)がコンクリート表面に粘着しやすい傾向があることに気が付いた。そして、本発明者らは、更に検討を進めた結果、両面粘着テープのコンクリートへの粘着力が打設コンクリートの強度に相関していることを見いだし、コンクリート強度を指標として用いることにより、打設コンクリートへの養生シートの残置力を高めることができるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る固定用テープの選定方法は、両面粘着テープにより養生シートを型枠に固定した後にコンクリートの打設を行い、型枠脱型の際に当該両面粘着テープにより養生シートを当該コンクリートに残置して養生を行う工法において使用する両面粘着テープを選定するための方法であって、両面粘着テープ及び養生シートを型枠から剥離するために必要とされる剥離力を算出するステップと、両面粘着テープ及び養生シートをコンクリートに残置するために必要とされる残置力を算出するステップと、残置力が剥離力よりも大きくなる両面粘着テープを選定するステップと、を備え、残置力は、打設されるコンクリートのコンクリート強度に基づいて算出される値である。
【0009】
この固定用テープの選定方法では、養生シート等をコンクリートに残置するための残置力が養生シート等を型枠から剥離するための剥離力よりも大きくなるように両面粘着テープを選定するステップを備えており、この残置力が打設コンクリートのコンクリート強度に基づいて算出されるようになっている。本発明者らの検討によれば、両面粘着テープが貼り付けられるコンクリートの強度が高くなるのに応じて、その粘着力も増加する傾向があることが判明しており、この点を利用し、コンクリート強度に基づいて算出される残置力が剥離力よりも大きくなるように両面粘着テープを選定することにより、実際のコンクリート構造物を構築する際に、より確実に養生シートを打設コンクリートの表面に残置させることが可能となる。
【0010】
また、本発明は、別の側面として、コンクリート構造物の製作方法に係り、この製作方法は、コンクリート打設用の型枠を設置する設置工程と、両面粘着テープが養生シートの端部と型枠とに跨がるように貼り付けることにより、型枠の内面に養生シートを固定する固定工程と、養生シートが両面粘着テープにより型枠に固定された状態でコンクリートの打設を行う打設工程と、コンクリートの打設後に型枠を脱型する脱型工程と、脱型工程の後に養生シートをコンクリートの表面に残置させてコンクリートを所定期間養生する養生工程と、を備える。そして、このコンクリート構造物の製作方法(構築方法)では、上述した選定方法により選定されたテープを、養生シートを固定するための両面粘着テープとして用い、これにより、養生シートをコンクリートに確実に残置することができるようになり、構築されるコンクリート構造物の圧縮強度や耐久性又は表面美観を向上させることができる。
【0011】
上記の固定用テープの選定方法において、残置力は、打設されるコンクリートの環境温度に更に基づいて算出される値であることが好ましい。両面粘着テープ及び養生シートをコンクリートに残置するために必要とされる残置力は、コンクリート強度に強い相関を有するが、これに加えて、打設されるコンクリートの環境温度(打設された際の温度やその温度での積算時間(積算温度))にも相関を有していることが、本発明者らの検討によれば明らかになってきた。このため、コンクリート強度に加えてコンクリートの環境温度も含めて残置力を算出することにより、より確実な残置を実現することができる固定用テープ(両面粘着テープ)を選定することが可能となり、上述した製作方法により適した両面粘着テープを選定することができる。なお、「環境温度」とは、打設されたコンクリートが硬化する過程での温度である。
【0012】
また、上記の固定用テープの選定方法において、剥離力は、型枠と養生シートとの間の粘着力を含むことが好ましい。型枠と養生シートとの間の粘着力はそれほど強固なものではないことが一般的であるが、この粘着力も含めて固定用テープを選定することにより、より確実な残置を実現することができる固定テープを選定することが可能となる。
【0013】
また、上記の固定用テープの選定方法において、両面粘着テープのコンクリートへの接着幅が両面粘着テープの型枠への接着幅よりも大きくてもよい。この場合、両面粘着テープによる養生シートのコンクリート表面への残置をより確実に実現することができる両面粘着テープを選定することが可能となる。
【0014】
上記の固定用テープの選定方法によって選定された固定用テープを用いたコンクリート構造物の製作方法においては、両面粘着テープの型枠外縁への接着幅は7mm以下であってもよく、また両面粘着テープのコンクリートへの接着幅は7mm以上であってもよい。また、両面粘着テープの基材の厚みが1.0mmよりも薄くてもよく、この場合は、両面粘着テープの跡がコンクリート表面に残ってしまうことを抑制して、コンクリート表面の美観をより一層、向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、型枠脱型の際に養生シートをコンクリート側により確実に残置することができる、固定用テープの選定方法、及び、当該選定方法によって選定された固定用テープを用いたコンクリート構造物の製作方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る固定用テープの選定方法及び当該選定方法によって選定された固定用テープを用いたコンクリート構造物の製作方法について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
【0018】
最初に、本発明に係る固定用テープの選定方法によって選定された両面粘着テープを用いて養生シートを型枠に固定した後にコンクリートの打設を行い、型枠脱型の際に当該両面粘着テープにより養生シートを当該コンクリートに残置して養生を行う工法の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の製作方法の概要を示すフローチャートであり、
図2は、本発明の一実施形態に係るコンクリート構造物の製作方法の概要を示す断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係るコンクリート構造物の製作方法は、コンクリート打設用の型枠、養生シート及び両面粘着テープを準備する準備工程(ステップS1)、型枠を設置する設置工程(ステップS2)、両面粘着テープにより型枠の内面に養生シートを固定(配置)した状態でコンクリートの打設を行う打設工程(ステップS3)、コンクリートの打設後に型枠を脱型する脱型工程(ステップS4)、及び、脱型工程の後に養生シートを両面粘着テープによりコンクリート表面に残置させ、コンクリートを所定期間養生する養生工程(ステップS5)を含む。
【0020】
ステップS1の準備工程では、まず、
図2の(a)に示すように、コンクリート構造物を製作する際に用いる、型枠10、養生シート20、及び、両面粘着テープ30を準備する。ここで準備する両面粘着テープ30は、後述する選定方法によって選定される所定の粘着力を有するテープである。なお、一般的なコンクリート構造物を製作する際、通常は多数の型枠や養生シートを用いるが、本実施形態では説明を容易にするため、1組の型枠10及び養生シート20を用いた場合を例にとって説明する。但し、2組以上の型枠10及び養生シート20を用いた場合でも同様である。
【0021】
本実施形態に用いられる養生シート20は、例えば平面視矩形のシートで型枠10の表面(内面12)と略同じ広さ(やや小さい)を有し、また0.02mm〜2.0mm程度の厚みを有する。養生シート20としては、熱可塑性樹脂シートを用いることが好ましく、ここで用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂;ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。養生シート20としては、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、エチレンープロピレン共重合体又はポリプロピレンとエチレンープロピレンゴムの溶融混合物又は重合反応物であり、例えば、株式会社プライムポリマー製「プライムTPO(登録商標)」、日本ポリプロ株式会社製「ニューコン(登録商標)」、サンアロマー株式会社製「キャタロイ」、三菱化学社製「ゼラス(登録商標)」等が挙げられる。
【0022】
準備工程では、養生シート20を型枠10の内面12(型枠10におけるコンクリート打設側の面)側に配置し、その後、両面粘着テープ30を養生シート20の端部(外縁)と型枠10の外縁とに跨がるように貼り付けることにより、養生シート20を型枠10に固定する。この際、養生シート20の外縁の4辺若しくは少なくとも上下端の2辺に沿って両面粘着テープ30を養生シート20に貼り付けることが好ましい。養生シート20の一方の内面22が養生シート20におけるコンクリート打設側の面となる。
【0023】
型枠10、養生シート20及び両面粘着テープ30の設置準備が終了すると、
図2の(b)に示すように、ステップS2の型枠の設置工程に進み、養生シート20が両面粘着テープ30により固定された型枠10を所定の箇所に設置する。このように養生シート20が両面粘着テープ30により型枠10の内面12側に固定された状態で型枠10の設置を行ってもよいし、逆に、型枠10を所定の位置に設置した後に、上述したのと同様に、両面粘着テープ30により養生シート20を型枠10の内面12側に固定するようにしてもよい。
【0024】
続いて、ステップS3の打設工程に進み、
図2の(c)に示すように、型枠10の内面12に養生シート20が固定され、更に養生シート20の内面22の外縁に沿うように両面粘着テープ30が貼り付けられた状態でコンクリートCの打設を行う。その後、コンクリートの締固めが終了すると、型枠10をはめたまま、コンクリートCの養生を例えば3日〜28日程度行い、コンクリートの水和反応を促進させる。コンクリートCの養生が完了するまでそのままの状態を維持する。
【0025】
続いて、打設工程でのコンクリートの打設及びその養生が完了したら、ステップS4の型枠を脱型する脱型工程に進み、
図2の(d)に示すように、硬化したコンクリートCの表面を養生シート20が覆うように残置したまま型枠10を脱型し、コンクリートCから引き離す。この際、準備工程で準備された両面粘着テープ30が所定の選定方法により選定されていることで、養生シート20及び両面粘着テープ30が型枠10から剥離するために必要とされる剥離力FKよりも養生シート20及び両面粘着テープ30がコンクリートCと接着している状態を維持するために必要とされる残置力FCの方が強くなるようになっているため、型枠10を脱型した際、両面粘着テープ30により養生シート20がコンクリートCの表面に確実に残置される。
【0026】
続いて、型枠10を脱型した後、ステップS5の養生工程に進み、コンクリートCの貼付面に両面粘着テープ30により残置された養生シート20を用いて、コンクリートCを所定期間養生する。養生シート20による養生は、型枠10の脱型後28日以上養生を続けてもよいし、型枠10の脱型後91日以上養生を続けてもよい。更に、コンクリート構造物の引き渡しに至るまで(例えば脱型後1年以上)養生を続けてももちろんよい。このような長期の養生を続けることにより、コンクリートCの強度や耐久性を飛躍的に高めて、その品質を向上することができる。所定期間の養生が終了すると、
図2の(e)に示すように、養生シート20を両面粘着テープ30と共にコンクリート構造物CSから取り外し、これにより、コンクリート構造物CSが完成する。
【0027】
ここで、
図3及び
図4を参照して、本工法に用いる固定用テープである両面粘着テープ30の選定方法について説明する。
図3は、両面粘着テープによる養生シートの型枠への固定状態を示す模式的な断面図である。
図4は、両面粘着テープにより型枠に固定された養生シートにコンクリートが打設された状態を示す模式的な部分断面図である。
【0028】
図3に示すように、本工法では、まず両面粘着テープ30が養生シート20の外縁と型枠10の外縁とに跨がるように貼り付けを行い、これにより、養生シート20を型枠10に固定する。そして、このように養生シート20が固定された型枠10を用いてコンクリートCの打設を行う。両面粘着テープ30は、
図3に示すように、例えばコンクリートC側の第1粘着層30aと、型枠10側の第2粘着層30bと、第1及び第2粘着層30a,30b間に配置される基材30cとから構成されているが、基材がない構成でもよい。また、基材30cは不織布又は合成樹脂フィルム(例えばポリエステルフィルム等)から構成されていてもよい。なお、
図4は、コンクリートの打設が行われて硬化した状態での各部材同士の粘着の状態や粘着力を示す図である。
【0029】
図4に示すように、両面粘着テープ30のコンクリートCへの粘着力は、両面粘着テープ30の第1粘着層30aによる粘着力をA(N/mm)、その幅をd
1、その長さ(図示直交方向への長さ)をLとすると、「Ad
1L」と表すことができる。また、養生シート20のコンクリートへの粘着力をC(N/mm)、その接触面積S
1(両面粘着テープ30の領域除く)とすると、「CS
1」と表すことができる。よって、コンクリート面側の付着力である養生シート20の残置力FC(N)は、以下の式(1)で表すことができる。
コンクリート面側への付着力(残置力FC)=Ad
1L+CS
1 ・・・(1)
【0030】
一方、型枠10への付着力は、両面粘着テープ30の第2粘着層30bによる型枠10への粘着力をB(N/mm)、その幅をd
2、その長さをLとすると、「Bd
2L」と表すことができる。また、養生シート20の型枠10への粘着力をD(N/mm)、その面積S
2(S
1<S
2)とすると、「DS
2」と表すことができる。よって、型枠側の付着力である養生シート20の剥離力FK(N)は、以下の式(2)で表すことができる。
型枠側への付着力(剥離力FK)=Bd
2L+DS ・・・(2)
【0031】
そして、型枠10をコンクリートから脱型する際に養生シート20を両面粘着テープ30等によりコンクリート側に残置させるためには、上述した養生シート20の残置力FCと剥離力FKとが以下の関係を満たす必要がある。
残置力FC>剥離力FK ・・・(3)
【0032】
ところで、本発明者らの検討によれば、コンクリートに養生シート20を残置させるための両面粘着テープ30のコンクリートへの粘着力は、粘着テープ一般において規定されている粘着力のカタログ値(対ステンレス)をそのまま適用することができないことが徐々に分かってきた。すなわち、本発明者らの検討によれば、
図5の表に示すように、貼り付けられるコンクリートの強度(型枠脱型時)や打設されたコンクリートの環境温度及びその積算温度(環境温度×時間(打設〜脱型まで))に応じて変化(増減)することが分かってきた。本発明者らの検討によれば、これは、コンクリートの強度が増し、両面粘着テープが付着しているコンクリート表面部の引張強度も高くなることで、テープ剥離時においてコンクリート表面部が破壊されにくくなるためであると推察される。そこで、本発明者らは、以下に示すように、両面粘着テープ30を用いて養生シート20をコンクリートCに、より確実に残置させるため、以下の評価を行って、本発明を完成させた。
【0033】
[コンクリートと両面粘着テープ(残置テープ)との粘着力A]
まず、本発明者らは、市販されている複数の両面粘着テープの種類(粘着力のカタログ値(対ステンレス))や貼り付けられるコンクリートの強度や環境温度・積算温度等の条件を変更させ、「JIS Z 0237:2009 粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠して、実際のコンクリートへの粘着力A(引き剥がし力・実測値(N/mm)をそれぞれ実測し、
図5の表にまとめた。ここで用いられているテープの種類(
図5)に記載のNo.1〜No.3、No.5及びNo.7〜11の両面粘着テープは株式会社寺岡製作所製のテープであり、No.4及びNo.12〜21の両面粘着テープは日東電工株式会社製のテープであり、No.6のテープは日東電工CSシステム株式会社製のテープであった。また、これらの引き剥がし試験の諸条件および結果より、重回帰式を用いて、両面粘着テープの粘着力のカタログ値(対ステンレス)から、コンクリートでの引き剥がしの理論値(粘着力A)を算出した。この関係を
図6に示す。そして、
図6に示す両面粘着テープのカタログ値(対ステンレス)とコンクリート引き剥がし力との関係を式にまとめ、以下の重回帰式(4)にて、両面粘着テープのコンクリートへの粘着力Aを以下の式(4)として近似した。
A=0.903−2.65×10
−2×a−4.54×10
−5×b
+3.36×10
−2×c−2.68×10
−1×d・・・(4)
ここで、「a」は環境温度(℃)を示し、「b」は積算温度(時間・℃)を示し、「c」は推定コンクリート強度(N/mm
2)を示し、「d」は両面粘着テープの粘着力のカタログ値(N/mm)を示す。なお、「環境温度」は、打設されたコンクリートが硬化する過程での温度であり、「積算温度」は、環境温度をコンクリートの硬化時間で乗じた値である。
【0034】
[型枠と両面粘着テープ(残置テープ)との粘着力B]
また、型枠と両面粘着テープとの粘着力Bについても上記同様にして実測を行った。
図7の表に型枠と両面粘着テープとの引き剥がし試験結果を示す。なお、両面粘着テープの型枠への粘着力は、カタログ値と同じではないが、同様の傾向を示すことが確認できた。ここで用いられているテープの種類(
図7)に記載のNo.1及びNo.10〜15の両面粘着テープは日東電工株式会社製のテープであり、No.2〜No.5及びNo.7〜No.9の両着粘着テープは株式会社寺岡製作所製のテープであり、No.6のテープは日東電工CSシステム株式会社製のテープであった。また、上記同様に、
図7の表に示す数値から重回帰分析にて、両面粘着テープの粘着力のカタログ値(対ステンレス)から、型枠への粘着力の理論値(粘着力B)を算出した。この関係を
図8に示す。そして、
図8に示す両面粘着テープのカタログ値(対ステンレス)と型枠への粘着力(実測)との関係を式にまとめ、両面粘着テープの型枠への粘着力Bを以下の式(5)として近似した。
B=0.211+0.780×d ・・・(5)
ここで、「d」は両面粘着テープの粘着力のカタログ値(N/mm)を示す。なお、上記の式では、環境温度およびテープ幅はすべて一定の値で行ったため、重回帰分析からは除外している。
【0035】
[養生シートとコンクリートとの粘着力C]
養生シートとコンクリートとの間の粘着力は通常は生成されないことが多いため、本実施形態ではゼロとして以降の算出を行った。但し、この粘着力Cを定めて算出を行ってもよい。
【0036】
[養生シートと型枠との粘着力D]
養生シートと型枠との粘着力Dは、実測値として、例えば以下の値を参照値として用いることができる。
D(N/mm)=350(g)×9.8(m/s
2)/30(mm)×1000(mm)・・・(6)
なお、上記の基準値350(g)は、一例であり、養生シートの種類によって異なる値を採用することができる。
【0037】
次に、上記の粘着力A〜Dの実測値又は理論値(算出値)を踏まえて、両面粘着テープ及び養生シートを型枠から剥離するために必要とされる「剥離力FK」を算出すると共に、両面粘着テープ及び養生シートをコンクリートに残置するために必要とされる「残置力FC」を算出する。そして、打設されるコンクリートの強度等との関係を考慮して算出される残置力FCが剥離力FKよりも大きくなるように、両面粘着テープの何れかを例えば
図5の表の中から選定する。
【0038】
図9は、このような選定方法の一例を示す表である。上述した式(1)〜(6)に基づいて、都度、好ましい両面粘着テープを選択するようにしてもよいし、
図9に示すように、左側の各入力項目(粘着力のカタログ値やテープ幅等)に所定の数値を入力し、それらの数値を上述した式(1)〜(6)に挿入してコンピュータ処理等により、各粘着力A,B(N/mm)や剥離力FK(N)、残置力FC(N)、及び、剥離力FKと残置力FCとの大小関係などを自動的に表の右側に算出するようにしてもよい。このようなコンピュータ処理は、例えばパーソナル・コンピュータなどの情報処理装置によって実行することが可能である。なお、コンピュータ処理を一部にだけ用いて算出してもよい。そして、打設されるコンクリートの強度(計算値)に応じて、残置力FCが剥離力FKよりも大きくなるような両面粘着テープを選択して、これを用い、上述したコンクリート構造物の構築方法を行うことにより、コンクリートの打設前から設置されている養生シートがコンクリートの表面に確実に残置されて、長期の養生をより確実に実施することができる。
【0039】
また、本発明者らは、コンクリート強度と剥離力FK/残置力FC等との関係を更に詳細に検討し、
図10に示すようにまとめた。
図10には、同じ両面粘着テープ(ケースNo.1〜No.7、No.8〜No.14、No.15〜No.19)を用いた場合であっても、打設されるコンクリート強度(脱型時)によって、粘着力Aや残置力FCが変わることが示されており、理論的な残置の可否判定を行っている。つまり、打設されるコンクリートの強度(型枠脱型時)を計算により予め求めておき、その計算されたコンクリート強度に基づいて数式(1)〜(6)に基づいて残置力FC等を算出して、残置力FCが剥離力FKよりも大きくなるように両面粘着テープを選択することにより、コンクリートを打設して硬化した後に型枠10をコンクリートから脱型する際、養生シート20をより確実にコンクリート表面に残置することができ、コンクリート構造物の圧縮強度や耐久性又は表面美観を向上させることが可能となる。
図10における判定Aは残置力FCの方が剥離力FKよりも大きな場合を示し、判定Bは残置力FCが剥離力FKよりも小さくなってしまった場合を示す。なお、
図11には、
図10に示す算出値と、実際に残置できなかった例を示している。
図11から明らかなように、算出値で残置OK(判定A)と判定されたものについては、実際にコンクリートに貼り付けた場合であっても確実に残置されることが確認された。つまり、本判定手法を用いることにより、実際の施工現場で、より確実に養生シートをコンクリート側に残置させることを実現できることが確認できた。
【0040】
以上、本実施形態に係る固定用テープの選定方法では、養生シート20等をコンクリートCに残置するための残置力FCが養生シート20等を型枠10から剥離するための剥離力FKよりも大きくなるように両面粘着テープ30を選定するステップを備えており、この残置力FCが打設コンクリートCのコンクリート強度に基づいて算出されるようになっている。本発明者らの検討によれば、上述したように、両面粘着テープ30が貼り付けられるコンクリートCの強度が高くなるのに応じて、その粘着力が増加する傾向があるため、コンクリート強度に基づいて算出される残置力FCが剥離力FKよりも大きくなるように両面粘着テープ30を選定することにより、実際のコンクリート構造物を構築する際に、より確実に養生シート20を打設コンクリートの表面に残置させることが可能となる。
【0041】
また、コンクリート打設用の型枠10を設置する設置工程と、両面粘着テープ30が養生シート20の端部と型枠10とに跨がるように貼り付けることにより、型枠10の内面に養生シート20を固定する固定工程と、養生シート20が両面粘着テープ30により型枠10に固定された状態でコンクリートCの打設を行う打設工程と、コンクリートの打設後に型枠10を脱型する脱型工程と、脱型工程の後に養生シート20をコンクリートCの表面に残置させてコンクリートCを所定期間養生する養生工程とを備えるコンクリート構造物の製作方法(構築方法)において、上述した選定方法により選定されたテープを、養生シート20を固定するための両面粘着テープ30として用いることにより、養生シート20がコンクリートCに確実に残置されることになり、構築されるコンクリート構造物の圧縮強度や耐久性又は表面美観を向上させることができる。
【0042】
また、この固定用テープの選定方法では、残置力FCは、打設されるコンクリートCの環境温度に更に基づいて算出される値である。両面粘着テープ30及び養生シート20をコンクリートCに残置するために必要とされる残置力FCは、コンクリート強度に強い相関を有するが、これに加えて、打設されるコンクリートCの環境温度(打設された際の温度やその温度での積算時間(積算温度))にも相関を有していることが分かってきた。このため、コンクリート強度に加えてコンクリートの環境温度も含めて残置力FCを算出することにより、より確実な残置を実現することができる固定用テープ(両面粘着テープ)を選定することが可能となる。
【0043】
また、この固定用テープの選定方法では、剥離力FKは、型枠10と養生シート20との間の粘着力を含んで算出されている。型枠10と養生シート20との間の粘着力はそれほど強固なものではないことが一般的であるが、ある程度は存在するため、この粘着力も含めて固定用テープを選定することにより、より確実な残置を実現することができる固定テープを選定することが可能となる。
【0044】
また、この固定用テープの選定方法では、両面粘着テープ30のコンクリートCへの接着幅d
1が両面粘着テープ30の型枠10への接着幅d
2よりも大きくてもよい。この場合、両面粘着テープ30による養生シート20のコンクリート表面への残置をより確実に実現することができる両面粘着テープを選定することが可能となる。
【0045】
なお、上記の固定用テープの選定方法によって選定された固定用テープを用いたコンクリート構造物の製作方法では、一例として、両面粘着テープ30の型枠10の外縁への接着幅d
2は7mm以下であってもよく、また両面粘着テープ30のコンクリートCへの接着幅d
1は7mm以上であってもよい。このように両面粘着テープ30のコンクリートCへの接着幅d
1が両面粘着テープ30の型枠10の外縁への接着幅d
2と同等又はそれよりも幅広であることにより、養生シート20のコンクリートへの残置をより確実に実現することができる。
【0046】
また、両面粘着テープ30の基材30cの厚みが1.0mmよりも薄くてもよい。この場合は、両面粘着テープ30の跡がコンクリート表面に残ってしまうことを抑制して、コンクリート表面の美観をより一層、向上させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な実施形態に適用することができる。例えば、上記実施形態では、養生シート20として、上記では特に限定していないが、養生シート20のコンクリートC側の接触面の水との接触角が50度以上であるものを採用することが好ましい。具体的には、養生シート20の接触面の水との接触角θが69度以上であることが好ましく、接触角θが80度以上であることが更に好ましく、接触角θが90度以上であることがより一層好ましい。ここで、「接触角θ」とは、
図12の(a)に示されるように、液滴の接線と固体表面(養生シート20の表面)とのなす角度であり、以下の式(7)で示される。
【数1】
γ
S:固体の表面張力
γ
L:液体の表面張力
γ
SL:固体と液体の界面張力
【0048】
そして、「接触角θ」は、例えば、θ/2法で測定することができる。具体的には、
図12の(b)に示されるように、液滴の半径rと高さhを求める。そして、以下の式(8)、式(9)から、接触角θを求めることができる。
【数2】
【数3】
【0049】
通常、セメントの当初の硬化に必要な量以上の余剰な水がコンクリートCに含まれていると、打設後にコンクリートCが硬化する際、ブリージング水が発生することがある。上述のように、水との接触角が50度以上の養生シート20を打設時に用いることにより、ブリージング水が発生することを効果的に抑制することができる。このようにブリージング水の発生が抑制されるのは、コンクリートCの表面を覆っている養生シート20のシート面(接触面)の接触角(濡れ角とも言う)が大きいと、コンクリートC内に含まれていてその表面から外に出ようとする水や当該水中に存在する空気がシート接触面においてコンクリートC内部に押し戻される作用が働き、その結果、水及びその内部の空気がコンクリートC内に残存したまま硬化が進むためと考えられる。そして、この養生シート20によれば、このようにしてブリージング水の発生が抑制されるため、脱型後の水和反応に必要な水をコンクリートCが含有していることになり、コンクリート養生の際に外部から養生水を供給することなく又は養生水をそれほど用いることなく、所定の圧縮強度や耐久性などの品質を発現できるコンクリート構造物を製造することができる。
【0050】
また、養生シート20は、シートの水蒸気透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの水蒸気透過性が10g/m
2・24h以下であることが好ましく、シートの水蒸気透過性が5g/m
2・24h以下であることがより一層好ましい。また、養生シート20は、シートの二酸化炭素透過性の小さいものを用いることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が10万cc/m
2・24h・atm以下であることが好ましく、シートの二酸化炭素透過性が5万cc/m
2・24h・atm以下であることがより一層好ましい。素材の表面を各種表面加工技術によって加工することで、水蒸気透過性又は二酸化炭素透過性を小さくしたシートを作製することができる。