(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800087
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】鋼管継手
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20201207BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
E02D5/24 103
E02D5/28
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-94895(P2017-94895)
(22)【出願日】2017年5月11日
(65)【公開番号】特開2018-188928(P2018-188928A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】相和 明男
(72)【発明者】
【氏名】外山 征
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
【審査官】
田島 拳士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−036574(JP,A)
【文献】
特開2016−014317(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/049174(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/129163(WO,A1)
【文献】
特開2003−301546(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/000561(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/24−5/28
F16B 23/00−47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側鋼管と下側鋼管のうち一方の端部に備えられるボックス継手と、他方の端部に備えられ、前記ボックス継手に嵌合可能なピン継手と、前記ボックス継手の外周縁に形成されたボックス側切欠部と、前記ピン継手の外周縁のうち前記ボックス側切欠部に対応する位置に形成されたピン側切欠部とから構成されるキー配設部に配設され、前記ボックス継手と前記ピン継手とが管軸周りに相対回転することを抑止する回転抑止キーと、前記キー配設部及び前記回転抑止キーのそれぞれに管径方向に連通可能に形成された貫通孔に挿通不可能な頭部と前記貫通孔に挿通可能な軸部を有するボルトと、前記貫通孔を通り抜けた前記軸部の先端部に、前記貫通孔に挿通不可能な状態で取り付けられる脱落防止機構と、を備え、前記ボルトは前記軸部が、前記貫通孔に対して前記管径方向の内から外に向けて挿通される鋼管継手であって、
前記ボルトは、頭高が2mm以上6mm以下であることを特徴とする鋼管継手。
【請求項2】
前記ボルトは、頭高が2mm以上3mm以下である請求項1に記載の鋼管継手。
【請求項3】
前記ボルトは、呼び長さが35mm以上45mm以下である請求項1又は2に記載の鋼管継手。
【請求項4】
前記ボルトは、呼び径がM8である請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼管継手。
【請求項5】
前記ボルトは、降伏点が705N/mm2以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上側鋼管と下側鋼管のうち一方の端部に備えられるボックス継手と、他方の端部に備えられ、前記ボックス継手に嵌合可能なピン継手と、前記ボックス継手の外周縁に形成されたボックス側切欠部と、前記ピン継手の外周縁のうち前記ボックス側切欠部に対応する位置に形成されたピン側切欠部とから構成されるキー配設部に配設され、前記ボックス継手と前記ピン継手とが管軸周りに相対回転することを抑止する回転抑止キーと、前記キー配設部及び前記回転抑止キーのそれぞれに管径方向に連通可能に形成された貫通孔に挿通不可能な頭部と前記貫通孔に挿通可能な軸部を有するボルトと、前記貫通孔を通り抜けた前記軸部の先端部に、前記貫通孔に挿通不可能な状態で取り付けられる脱落防止機構と、を備え、前記ボルトは前記軸部が、前記貫通孔に対して前記管径方向の内から外に向けて挿通される鋼管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭や鋼管矢板は、油圧ハンマ等による打撃によって地盤に圧入する打撃工法、バイブロハンマによって振動を付与しつつ地盤に圧入する振動工法、鋼管杭や鋼管矢板の管内をスパイラルオーガ等を用いて掘削しながら地盤に圧入する中堀工法、打撃工法と中掘工法を組み合わせた中堀打撃工法、先端部に羽根を取り付け回転させながら地盤に圧入する回転圧入工法などにより地中に建て込まれる。その際、複数の鋼管が鋼管継手を用いて順次連結されながら建て込まれる。
【0003】
このような鋼管杭や鋼管矢板に用いられる鋼管継手として、特許文献1には、上側鋼管の下端部に備えられるボックス継手と、下側鋼管の上端部に備えられ、前記ボックス継手に嵌合可能なピン継手と、前記ボックス継手の外周縁に形成されたボックス側切欠部と、前記ピン継手の外周縁のうち前記ボックス側切欠部に対応する位置に形成されたピン側切欠部とから構成されるキー配設部に配設され、前記ボックス継手と前記ピン継手とが管軸周りに相対回転することを抑止する回転抑止キーと、前記キー配設部及び前記回転抑止キーのそれぞれに管径方向に連通可能に形成された貫通孔に挿通不可能な頭部と前記貫通孔に挿通可能な軸部を有するボルトと、前記貫通孔を通り抜けた前記軸部の先端部に、前記貫通孔に挿通不可能な状態で取り付けられる脱落防止機構と、を備え、前記ボルトは前記軸部が、前記貫通孔に対して前記管径方向の内から外に向けて挿通される鋼管継手が開示されている。
【0004】
該鋼管継手においては、回転抑止キーの外面側において貫通孔の周囲にナットを収容可能な座ぐりが形成されているのに加えて、キー配設部の裏面における貫通孔の周囲にもボルトの頭部を収容可能な座ぐりが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017−036574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、回転抑止キーを取り付けるためのボルトには、呼び径がM8の六角穴付きボルトが用いられた。該ボルトは、頭高が10mmであり、頭径が10mmである頭部を有している。特許文献1に開示の鋼管継手においては、キー配設部の裏面における貫通孔の周囲に、ボルトの頭部のすべてを収容可能な大きさの座ぐりを形成する必要があり、加工の手間が増え、コストアップの要因となっていた。
【0007】
他方、キー配設部の裏面における貫通孔の周囲に、ボルトの頭部を収容可能な座ぐりを形成しない構成も考えられる。しかしこの場合は、ボルトの頭部が鋼管杭や鋼管矢板の管内において、キー配設部の裏面から管径方向に大きく突出してしまう。
【0008】
そのため、たとえば打撃工法によって鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際には、鋼管杭の管内においてキー配設部の裏面から管径方向に突出したボルトの頭部が土からの抵抗を受け、円滑な建て込みが阻害される虞があった。
【0009】
また、中堀工法のようにスパイラルオーガを用いて、外径が800mmの鋼管から構成される鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際には、杭内径とスパイラルオーガとの間に2mmのクリアランスが必要である。しかし、ボルトの頭部が大きく突出すると、そのクリアランスが狭くなってしまうため、作業性が良いものではなかった。
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたもので、鋼管杭や鋼管矢板の円滑な建て込みを安価に可能とする鋼管継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するための、本発明に係る鋼管継手の特徴構成は、上側鋼管と下側鋼管のうち一方の端部に備えられるボックス継手と、他方の端部に備えられ、前記ボックス継手に嵌合可能なピン継手と、前記ボックス継手の外周縁に形成されたボックス側切欠部と、前記ピン継手の外周縁のうち前記ボックス側切欠部に対応する位置に形成されたピン側切欠部とから構成されるキー配設部に配設され、前記ボックス継手と前記ピン継手とが管軸周りに相対回転することを抑止する回転抑止キーと、前記キー配設部及び前記回転抑止キーのそれぞれに管径方向に連通可能に形成された貫通孔に挿通不可能な頭部と前記貫通孔に挿通可能な軸部を有するボルトと、前記貫通孔を通り抜けた前記軸部の先端部に、前記貫通孔に挿通不可能な状態で取り付けられる脱落防止機構と、を備え、前記ボルトは前記軸部が、前記貫通孔に対して前記管径方向の内から外に向けて挿通される鋼管継手であって、前記ボルトは、頭高が2mm以上6mm以下である点にある。
【0012】
ボルトの頭高を2mm以上6mm以下としたことにより、キー配設部の裏面における貫通孔の周囲に、ボルトの頭部を収容する座ぐりを形成しなくても、ボルトの頭部が鋼管杭や鋼管矢板の管内において、キー配設部の裏面から管径方向に僅かに突出するに過ぎないため、たとえば打撃工法によって鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際において、鋼管杭の管内においてキー配設部の裏面から管径方向に突出したボルトの頭部が土から受ける抵抗が低減されることとなる。そして、座ぐりを形成する加工を不要としたことにより、経済的に優れる。また、たとえば中堀工法によって鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際には、ボルトの頭部とスパイラルオーガとの間に、従来よりも大きなクリアランスを設けることができるため、建て込みの作業性を向上させることができる。
【0013】
本発明においては、前記ボルトは、頭高が2mm以上3mm以下であると好適である。
【0014】
上述の構成によると、たとえば中堀工法によって鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際には、ボルトの頭部とスパイラルオーガとの間に、従来よりもより大きなクリアランスを設けることができるため、建て込みの作業性をより向上させることができる。
【0015】
本発明においては、前記ボルトは、呼び長さが35mm以上45mm以下であると好適である。
【0016】
発明者らは、ボルトは、頭高が2mm以上6mm以下であるときに、呼び長さが35mm以上45mm以下であることが好ましいという知見を得た。
【0017】
本発明においては、前記ボルトは、呼び径がM8の低頭六角穴付ボルトであると好適である。
【0018】
発明者らは、ボルトは、頭高が2mm以上6mm以下であるときに、呼び径がM8の低頭六角穴付ボルトことが好ましいという知見を得た。
【0019】
本発明においては、前記ボルトは、降伏点が705N/mm
2以上であると好適である。
【0020】
上述の構成によると、ボルトの頭部が鋼管杭や鋼管矢板の管内において、キー配設部の裏面から管径方向に僅かながら突出する態様でありながらも、鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際に、ボルトの頭部に働く荷重によって、ボルトが破損する虞を減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分又は対応する部分には、同一符号を付してある。
【0023】
図1には、二本の鋼管10が、本発明による鋼管継手2によって鋼管10の管軸方向に上下に連結されて構成された鋼管杭1が示されている。なお、上側に位置する鋼管10を上側鋼管10A、相対的に下側に位置する鋼管10を下側鋼管10Bと呼び分けて説明するが同一の構成である。本実施形態においては、鋼管10は、外径が800mmである。なお、鋼管10は、外径が400mm以上1600mm以下であることが好ましい。具体的には、外径が400mm、406.4mm、500mm、508.0mm、600mm、609.6mm、700mm、711.2mm、800mm、812.8mm、900mm、1000mm、1100mm、1200mm、1300mm、1400mm、1500mm、1600mmである鋼管が例示できる。
【0024】
図1及び
図2に示すように、上側鋼管10Aの下端には雌型のボックス継手30が、溶接部13において溶接されて取り付けられ、下側鋼管10Bの上端にはボックス継手30に嵌合可能な、雄型のピン継手20が、溶接部12において溶接されて取り付けられている。
【0025】
ピン継手20は、下側鋼管10Bの外径とほぼ同径の筒部22Bに連続して、筒部22Bよりも小径の嵌挿部22Aが延設された筒状部材である。嵌挿部22Aの基端部の外周には、ボックス継手30の下端部に全周にわたって設けられた係合凸部33が挿入される係合凹部23が全周にわたって設けられている。嵌挿部22Aの上端部には、ボックス継手30の基端部の内周に全周にわたって設けられた係合凹部34に挿入するための係合凸部24が全周にわたって設けられている。さらに、ピン継手20の嵌挿部22Aの外周には、ボックス継手30に配設された荷重伝達キー31を嵌め込むためのキー溝21が、全周にわたって設けられている。なお、荷重伝達キー31の厚さのほうがキー溝21の深さよりも大きく設定されている。
【0026】
ボックス継手30は、上側鋼管10Aの外径とほぼ同径の外径を有する筒状部材である。ボックス継手30の内周は、ピン継手20の嵌挿部22Aの非嵌挿部であり、ボックス継手30の基端部の内周に設けられた係合凹部34にピン継手20の係合凸部24が挿入される。また、係合凸部33はピン継手20の係合凹部23に挿入される。ボックス継手30の内周には、周方向にキー溝35が形成されている。キー溝35には、全周にわたって適宜分割された円弧状の荷重伝達キー31が配設されている。
【0027】
ボックス継手30の外周には、キー溝35に連通するボルト穴32が、周方向に沿って間隔をおいて複数穿孔されている。そして、ボルト穴32には、六角孔付き植え込みボルト等で構成されたセットボルト36が螺合させてあり、セットボルト36はボックス継手30の外からの締め込み操作によって管径方向に螺進可能である。
【0028】
上側鋼管10Aのボックス継手30に下側鋼管10Bのピン継手20を挿入した後、セットボルト36を締め込み操作することによって、セットボルト36の先端部に配設された荷重伝達キー31がキー溝35から管径方向に突出し、ピン継手20の嵌挿部22Aに設けられたキー溝21に嵌め込まれる。これにより、荷重伝達キー31はキー溝35とキー溝21の両方に跨って配置され、ピン継手20とボックス継手30は、鋼管杭1の管軸方向に沿った方向への相対移動が不可能に連結される。
【0029】
なお、荷重伝達キー31は、一段に限らず、二段以上の複数であってもよく、その段数、個数、さらにはその厚みや幅も、上側鋼管10Aと下側鋼管10Bの連結に要求される垂直方向の結合の強さに応じて適宜設計される。
【0030】
上側鋼管10Aと下側鋼管10Bとの管軸周りの相対回転は、ピン継手20とボックス継手30の外周面の継ぎ目14に跨るように配設された回転抑止キー50によって抑止される。回転抑止キー50は、継ぎ目14の周方向に沿って等間隔で複数箇所に備えられたキー配設部40に配設される。なお、回転抑止キー50及びキー配設部40の大きさ、数、配置箇所等は、鋼管杭1の直径や、建て込み工法等に基づいて設計によって適正に定めることができる。
【0031】
図1から
図4に示すように、回転抑止キー50は、正面視矩形状の平板状部材であり、キー配設部40に配設された際に、ピン継手20とボックス継手30の相対回転を防止するために用いられる。本実施形態においては、回転抑止キー50の厚みは13mmである。
【0032】
回転抑止キー50には、ピン継手20側に備えられた、回転抑止キー50をキー配設部40に固定するためのボルト15を挿通するための貫通孔52が鋼管杭1の管径方向に沿って穿設されている。なお、貫通孔52は、ボルト15の直径より僅かに大径に形成されている。回転抑止キー50の外面には、貫通孔52の周囲にボルト15と螺合するナット60,61を収容可能な座ぐり53が形成されている。貫通孔52及び座ぐり53は、ピン継手20側に備えられたボルト15を挿通できるように、回転抑止キー50の上下方向中央よりも、ピン継手20側に寄った位置に設けられている。
【0033】
図3及び
図4に示すように、ナット60,61のうち、ナット60は、ボルト15の管軸方向に、ボルト15の管軸心に対して偏心した先細り形状をなす凸状テーパ部62を備えている。他方、ナット61は、凸状テーパ部62に対向し、かつ、ボルト15の管軸心に同心の奥細り凹状テーパ部63を備えている。したがって、回転抑止キー50をキー配設部40に配設するにあたり、凸状テーパ部62と凹状テーパ部63とが接するように両ナットを締め付けた際に、ナット60,61の対向面間の距離に応じてナット60,61には、ボルト15の管径方向を向いた力が発生する。この力によってボルト15に螺合されたナット60,61は建て込み施工時の振動等によって緩むことなくボルト15に固定される。ナット60,61によって、回転抑止キー50はキー配設部40から脱落することが防止される。したがって、ナット60,61が、本発明の、貫通孔25,52を通り抜けたボルト15の先端部に備えられる脱落防止機構を構成する。なお、ナット60,61のボルト15に対する締め付けトルクは、19.7〜27.7Nm(軸力12.3〜17.3kN)であることが好ましい。この範囲であれば、ボルト15が破損することなく、ナット60,61を締め付けることができる。なお、ボルト15の頭部16とピン継手の内周面との間や、ナット60と座ぐり53との間には、ワッシャが適宜設けられる。
【0034】
キー配設部40は、ボックス継手30に形成された、係合凸部33の外方で、継ぎ目14を構成する上側接合面37の外周縁にボックス側切欠部40Aと、ピン継手20に形成された、係合凹部23の外方で、継ぎ目14を構成する下側接合面27の外周縁、かつ、ピン継手20をボックス継手30に挿入した状態のときに、ボックス側切欠部40Aに対応する位置にピン側切欠部40Bとから構成される。
【0035】
なお、ボックス側切欠部40Aの周方向の長さとピン側切欠部40Bの周方向の長さは互いに一致させてあり、ボックス側切欠部40Aの垂直方向長さとピン側切欠部40Bの垂直方向長さも互いに一致させてあり、キー配設部40の内寸は、内部に配設される回転抑止キー50の外寸より僅かに大きい形状となっている。
【0036】
図3に示すように、ピン側切欠部40Bには、回転抑止キー50をキー配設部40に固定するためのボルト15を挿通するための貫通孔25が鋼管杭1の管径方向に沿って穿設されている。貫通孔25には、ボルト15と螺合する雌ネジ部26が備えられている。
【0037】
ボルト15は、貫通孔25に対してピン継手20の内から外に向けて挿通される。その際、ボルト15は、貫通孔25において雌ネジ部26に螺合するので、上側鋼管10Aと下側鋼管10Bの連結前の状態において当該貫通孔25に予め挿通させておくことができる点でその後の作業性が向上する。ただし、貫通孔25に雌ネジ部26が備えられていなくてもよい。
【0038】
本実施形態において、ボルト15は、クロムモリブデン鋼(SCM435)から製作された呼び径がM8の低頭六角穴付ボルトであり、頭高が2mmであり、呼び長さが35mmであり、軸部17に形成されたネジのピッチは1.25mmであり、降伏点が705N/mm
2以上となっている。
【0039】
本実施形態においては、ボルト15の頭高を2mmとしたことにより、キー配設部40の裏面における貫通孔25の周囲に、ボルト15の頭部16を収容する座ぐりを形成しなくても、ボルト15の頭部16が鋼管杭1の管内においてキー配設部40の裏面から管径方向に僅かに突出するに過ぎないため、たとえば打撃工法によって鋼管杭1を地中に建て込む際において、鋼管杭1の管内においてキー配設部40の裏面から管径方向に突出したボルト15の頭部16が土から受ける抵抗が低減されることとなる。
【0040】
換言すると、ボルト15の頭部16が鋼管杭1の管内において、キー配設部40の裏面から管径方向に僅かながら突出する態様でありながらも、鋼管杭1を地中に建て込む際に、ボルト15の頭部16に働く荷重によって、ボルト15が破損する虞を減らすことができる。
【0041】
そして、ボルト15の頭部16を収容する座ぐりを形成する加工を不要としたことにより、経済的に優れる。また、たとえば中堀工法によって鋼管杭1を地中に建て込む際には、ボルト15の頭部16とスパイラルオーガとの間に、従来よりも大きなクリアランスを設けることができるため、作業性が向上した。
【0042】
頭高が2mm、6mm、10mmと異なる三種のボルトについて、ピン継手20の内径が720mmである鋼管杭1の回転抑止キー50の取り付けに用いた際に、各ボルトの頭部にかかる力についての解析を行った。なお、各ボルトは、頭径が10mmである。また、呼び径がM8であり、引抜力は2200kNであり、したがって、軸部のせん断耐力は20460Nである。
【0043】
頭高が2mmのボルトの頭部にかかる支圧面積は20mm
2である。該ボルトの頭部にかかる力は、内径が720mmのピン継手20において10mm幅に引抜力がかかると想定すると、6111Nとなる。この値は、該ボルトの軸部のせん断耐力である20460Nよりも小さく、また、頭部のせん断耐力である20460Nよりも小さいため、ボルトが破損する虞はない。
【0044】
頭高が6mmのボルトの頭部にかかる支圧面積は60mm
2である。該ボルトの頭部にかかる力は、内径が720mmのピン継手20において10mm幅に引抜力がかかると想定すると、20460Nとなる。この値は、該ボルトの軸部のせん断耐力である20460Nと同じであり、また、頭部のせん断耐力である61379Nよりも小さいため、ボルトが破損する虞はない。なお、本明細書において、ボルトの頭部の寸法には、公差があり、小数点以下を表していない。実際のボルトの軸部のせん断耐力の値から算出されるボルトの頭高は、約6.69mmまで許容される。ボルトの頭高がこれ以下であると、ボルトが破損する虞はないが、安全をとってボルトの頭高の上限を6mmに設定した。
【0045】
頭高が10mmのボルトの頭部にかかる支圧面積は100mm
2である。該ボルトの頭部にかかる力は、内径が720mmのピン継手20において10mm幅に引抜力がかかると想定すると、30556Nとなる。この値は、該ボルトの頭部のせん断耐力である102298Nよりも小さいが、該ボルトの軸部のせん断耐力である20460Nを超える。このように頭高が10mmであるようなボルトは破損する虞がある。
【0046】
以上のことから、ボルト15は、頭高は2mm以上6mm以下に設定した。なお、ボルト15の頭高は、たとえば中堀工法によって鋼管杭や鋼管矢板を地中に建て込む際には、ボルト15の頭部16とスパイラルオーガとの間に、従来よりもより大きなクリアランスを設ける観点から、特に2mm以上3mm以下であることが好ましい。また、ボルト15は、呼び長さは35mm以上45mm以下であることが好ましい。なお、各寸法は設計値であり、実際には公差を有する。
【0047】
以上のとおり、ピン継手20とボックス継手30との継ぎ目14に構成されたキー配設部40に回転抑止キー50を配設することによって、ピン継手20とボックス継手30とが、即ち上側鋼管10A及び下側鋼管10B同士が相対的に回転することが抑止される。
【0048】
本実施形態では、ボルト15は、ピン継手20に、貫通孔25に対して鋼管杭1の内から外に向けて挿通されて備えられ、ナット60,61は、回転抑止キー50側に備えられているため、鋼管杭の建て込み施工時に、回転抑止キー50を配設した後に鋼管杭1の外からナット60,61を操作することができるため、作業性が良い。
【0049】
なお、上述の実施形態では、脱落防止機構を構成するナット60,61が凸状テーパ部62と凹状テーパ部63を備える構成について説明したがこれに限らない。脱落防止部材は、凸状テーパ部62や凹状テーパ部63を備えない二つの六角ナットで構成してもよい。この場合、二つの六角ナットを互いに接するように両ナットを締め付けると、両六角ナット間にはボルト15の管軸方向に沿った方向に引張力が発生する。この引張力によって両六角ナットは建て込み施工時の振動等によって緩むことなくボルト15に固定される。ボルト15の頭部16及び六角ナットが貫通孔25,52の周囲に当接し続けるため回転抑止キー50はキー配設部40から脱落することが防止される。また、脱落防止機構は、一つの六角ナットであってもよく、その際、六角ナットの緩みを防止するワッシャを備えることが好ましい。
【0050】
本発明に係る鋼管継手2は、上述のような鋼管杭1に限らず、鋼管10や該鋼管継手2の外周面に長手方向に沿って、隣り合う鋼管矢板に同じく設けられた継手と連結可能な、継手が設けられた鋼管矢板にも採用することができる。
【0051】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲において適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 :鋼管
10A :上側鋼管
10B :下側鋼管
15 :ボルト
16 :頭部
17 :軸部
20 :ピン継手
25 :貫通孔
26 :雌ネジ部
30 :ボックス継手
40 :キー配設部
40A :ボックス側切欠部
40B :ピン側切欠部
50 :回転抑止キー
52 :貫通孔
60 :ナット(脱落防止機構)
61 :ナット(脱落防止機構)