特許第6800114号(P6800114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800114
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 17/02 20060101AFI20201207BHJP
   F02D 13/06 20060101ALI20201207BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20201207BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20201207BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20201207BHJP
   F01L 13/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   F02D17/02 U
   F02D13/06 F
   F02D41/02
   F02D43/00 301Z
   F02D45/00
   F01L13/00 303Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-171636(P2017-171636)
(22)【出願日】2017年9月7日
(65)【公開番号】特開2019-44743(P2019-44743A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187805
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 弘人
(72)【発明者】
【氏名】香取 裕人
(72)【発明者】
【氏名】林 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】塩見 大輔
(72)【発明者】
【氏名】増掛 佑一
(72)【発明者】
【氏名】横手 龍次
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−050511(JP,A)
【文献】 特開2015−040513(JP,A)
【文献】 特開2001−090564(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0172900(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0011828(KR,A)
【文献】 特開2016−137806(JP,A)
【文献】 特開2019−044742(JP,A)
【文献】 特開2019−031930(JP,A)
【文献】 特開2017−115612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/02
F01L 13/00
F02D 13/06
F02D 41/02
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、前記複数の気筒のそれぞれに設けられた吸気弁及び排気弁の少なくとも一方の弁作動位相を変更する弁作動位相可変機構と、前記複数気筒の一部の気筒を作動させる一部気筒運転と、全気筒を作動させる全筒運転との切換を行う気筒休止機構とを備える内燃機関の制御方法において、
全筒運転から一部気筒運転への切換要求がなされた場合に、
全筒運転から一部気筒運転への切換動作を実行する時点における前記機関の出力トルクの変動を抑制するための準備制御を実行するステップaと、
前記切換動作を実行する目標切換時期を、前記弁作動位相に応じて前記準備制御が完了した後に演算するステップbと、
前記目標切換時期に基づいて前記気筒休止機構へ切換指令信号を出力するステップcとを有し、
前記目標切換時期は、前記切換動作の実行時点において異音が発生しないクランク角度範囲の中心位置に対応することを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
前記ステップcでは、前記目標切換時期に前記切換動作が実行されるように、前記気筒休止機構の動作遅れ時間に応じて前記切換指令信号の出力時期である指令信号出力時期が演算されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
前記目標切換時期の算出後であって前記切換指令信号を出力する前に、前記指令信号出力時期に影響を及ぼす運転パラメータが変化したときは、前記目標切換時期及び指令信号出力時期の再演算を行うステップdをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
前記再演算の実行後直ちに前記切換指令信号を出力しても再演算された目標切換時期に実際の切換動作を実行できない可能性が高い場合であっても、前記再演算実行後直ちに前記切換指令信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項5】
前記気筒休止機構は、一部気筒運転において休止させる気筒の吸気弁及び排気弁の作動状態と休止状態とを切り換える切換機構部を備え、該切換機構部へ供給する作動油圧を変更することよって前記切換動作を行うものであり、
前記指令信号出力時期は、前記機関の回転数及び前記作動油圧に応じて演算されることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒を備える内燃機関の制御方法に関し、特に複数気筒の一部の気筒を作動させる一部気筒運転と、全気筒を作動させる全筒運転との切換を行う気筒休止機構と、各気筒に設けられる吸気弁及び/または排気弁の作動位相を変更する弁作動位相可変機構とを備える内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上記気筒休止機構及び吸気弁の作動位相を変更する弁作動位相可変機構を備える内燃機関の制御装置が示されている。この制御装置によれば、全筒運転から一部気筒運転へ移行する際に、全筒運転用の弁作動位相から一部気筒運転用の弁作動位相へ徐々に変化させる過渡制御が実行される。この過渡制御では、全筒運転時の機関出力トルクと、一部気筒運転時の機関出力トルクとの差分が大きいほど、弁作動位相の移行速度が低くなるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−337182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気筒休止機構の構造によっては、切換動作を実行するタイミングに依存して異音が発生する場合があり、全筒運転から一部気筒運転への切換動作を実行するタイミングは、弁作動状態可変機構の作動状態(弁作動位相)を考慮して決定する必要がある。特許文献1の制御装置は、全筒運転から一部気筒運転への切換を実行した後の吸気弁作動位相の制御方法に特徴を有する装置であり、切換動作に伴う異音の抑制については考慮されていない。
【0005】
本発明は、気筒休止機構及び吸気弁及び/または排気弁の作動位相を変更する弁作動位相可変機構を備える内燃機関において、全筒運転から一部気筒運転へ移行する際の過渡制御を適切に実行し、全筒運転から一部気筒運転への切換動作実行時点における異音の発生を防止することができる制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、複数の気筒と、前記複数の気筒のそれぞれに設けられた吸気弁及び排気弁の少なくとも一方の弁作動位相を変更する弁作動位相可変機構と、前記複数気筒の一部の気筒を作動させる一部気筒運転と、全気筒を作動させる全筒運転との切換を行う気筒休止機構とを備える内燃機関の制御方法において、全筒運転から一部気筒運転への切換要求がなされた場合に、全筒運転から一部気筒運転への切換動作を実行する時点における前記機関の出力トルクの変動を抑制するための準備制御を実行するステップaと、前記切換動作を実行する目標切換時期(NSTBST)を、前記弁作動位相(CAIN,CAEX)に応じて前記準備制御が完了した後に演算するステップbと、前記目標切換時期(NSTBST)に基づいて前記気筒休止機構へ切換指令信号を出力するステップcとを有し、前記目標切換時期(NSTBST)は、前記切換動作の実行時点において異音が発生しないクランク角度範囲の中心位置に対応することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、全筒運転から一部気筒運転への切換要求がなされた場合に、全筒運転から一部気筒運転への切換動作を実行する時点における機関の出力トルクの変動を抑制するための準備制御が実行され、切換動作を実行する目標切換時期が、弁作動位相に応じて準備制御が完了した後に演算され、演算された目標切換時期に基づいて気筒休止機構へ切換指令信号が出力される。切換動作を実行するタイミングに依存して異音が発生する場合、異音が発生しないタイミングは、弁作動位相に依存して変化することが確認されている。したがって、弁作動位相に応じて、異音が発生しないタイミング(最適切換時期)、すなわち切換動作実行時点において異音が発生しないクランク角度範囲の中心位置となるように目標切換時期を算出し、その目標切換時期に基づいて切換指令信号を出力することによって、異音の発生を防止することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御方法において、前記ステップcでは、前記目標切換時期(NSTBST)に前記切換動作が実行されるように、前記気筒休止機構の動作遅れ時間(DNSDLY)に応じて前記切換指令信号の出力時期である指令信号出力時期(NSTWAIT:NSTBST−DNSDLY)が演算されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、目標切換時期に前記切換動作が実行されるように、気筒休止機構の動作遅れ時間に応じて指令信号出力時期が演算されるので、実際の切換動作が実行されるタイミングを目標切換時期に正確に一致させ、異音の発生を確実に防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御方法において、前記目標切換時期(NSTBST)の算出後であって前記切換指令信号を出力する前に、前記指令信号出力時期(NSTWAIT)に影響を及ぼす運転パラメータ(CAIN,CAEX,NE,POIL)が変化したときは、前記目標切換時期(NSTBST)及び指令信号出力時期(NSTWAIT)の再演算を行うステップdをさらに含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、目標切換時期の算出後であって切換指令信号を出力する前に、指令信号出力時期に影響を及ぼす運転パラメータが変化したときは、目標切換時期及び指令信号出力時期の再演算が行われるので、運転パラメータの変化に対応して目標切換時期及び指令信号出力時期が変更され、異音の発生を防止することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御方法において、前記再演算の実行後直ちに前記切換指令信号を出力しても再演算された目標切換時期に実際の切換動作を実行できない可能性が高い場合であっても、前記再演算実行後直ちに前記切換指令信号を出力することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、再演算の実行後直ちに切換指令信号を出力しても再演算された目標切換時期に実際の切換動作を実行できない可能性が高い場合であっても、再演算実行後直ちに切換指令信号が出力されるので、異音が発生する可能性があっても一部気筒運転への切換動作を早期に行うことができ、燃費を向上させることがきる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2または3に記載の内燃機関の制御方法において、前記気筒休止機構(40)は、一部気筒運転において休止させる気筒の吸気弁及び排気弁の作動状態と休止状態とを切り換える切換機構部(43)を備え、該切換機構部へ供給する作動油圧を変更することよって前記切換動作を行うものであり、前記指令信号出力時期(NSTWAIT)は、前記機関の回転数(NE)及び前記作動油圧(POIL)に応じて演算されることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、気筒休止機構の切換機構部へ供給する作動油圧及び機関の回転数に応じて切換指令時期が決定される。気筒休止機構の動作遅れ時間は、作動油圧に依存して変化することが確認されており、さらに切換指令時期は内燃機関の回転位相(クランク角度)で決定する必要があることから、作動油圧及び機関回転数に応じて切換指令時期を決定することにより、実際の切換動作実行時期を目標切換時期に正確に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
図2】弁作動位相可変機構の動作を説明するための図である。
図3】気筒休止機構の構成を説明するための模式図である。
図4】全筒運転と一部気筒運転との切換を行う際に発生する異音(切換ノイズ)を説明するために吸気弁のリフトカーブを示す図である。
図5】開弁指令時期(CAOP)と、切換ノイズが発生し易いクランク角度範囲(RNS)との関係を説明するためのタイムチャートである。
図6】一部気筒運転の実行条件が成立した時点から実際に一部気筒運転に移行する時点までの過渡制御を説明するためのタイムチャートである。
図7】一部気筒運転の実行条件が成立した時点から実際に一部気筒運転に移行する時点までの過渡制御を説明するためのタイムチャートである(再演算が行われる場合)。
図8図6及び図7に示す過渡制御を実行する処理のフローチャートである。
図9図8の処理で実行される切換指令制御処理のフローチャートである。
図10図9の処理で参照されるマップを示す図である。
図11図9の処理で実行されるNSTWAIT算出処理のフローチャートである。
図12図9の処理を説明するためのタイムチャートである。
図13図9の処理を説明するためのタイムチャートである。
図14図9の処理の変形例を示すフローチャートである。
図15図14の処理を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図であり、この図に示す内燃機関(以下「エンジン」という)1は、6気筒を有し、各気筒には、燃焼室内に直接燃料を噴射するインジェクタ6が設けられている。インジェクタ6の作動は電子制御ユニット(以下「ECU」という)5により制御される。またエンジン1の各気筒には点火プラグ8が装着されており、ECU5によって点火プラグ8による点火時期が制御される。エンジン1の吸気通路2にはスロットル弁3が配置されている。
【0018】
ECU5には、エンジン1の吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ21、吸気温TAを検出する吸気温センサ22、スロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ23、吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ24、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ25、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度センサ26、エンジン1の吸気弁及び排気弁を駆動するカムが装着されたカム軸(図示せず)の回転角度を検出するカム角度センサ27、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダル操作量APを検出するアクセルセンサ28、及び図示しない他のセンサ(例えば、空燃比AFを検出する空燃比センサ、車速センサなど)が接続されており、これらのセンサの検出信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ26は、クランク角度位置を示すパルス信号を例えばクランク角6度毎に出力するものであり、このパルス信号は、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、及びエンジン回転数(回転速度)NEの検出に使用される。
【0019】
エンジン1は、#1〜#3気筒の作動を一時的に休止させる気筒休止機構40を備えており、エンジン1の運転状態に応じて#4〜#6気筒のみを作動させる一部気筒運転と、全部の気筒を作動させる全筒運転との切換が可能に構成されている。気筒休止機構40は、例えば特開2011−214509号公報などに示されるような公知のものが適用可能である。一部気筒運転においては、休止気筒の吸気弁及び排気弁は閉弁状態を維持する。ECU5は、一部気筒運転と、全筒運転との切換制御を行う。一部気筒運転は、例えばエンジン1によって駆動される車両が比較的低いほぼ一定の車速で走行するクルーズ状態にあるときに実行される。
【0020】
さらにエンジン1は、各気筒の吸気弁及び排気弁の作動位相を変更する弁作動位相可変機構50を備えている。弁作動位相可変機構50は周知の構成を有し、吸気弁は図2に実線L1で示す作動特性を中心として、吸気弁用カムの作動位相の変化に伴って一点鎖線L2で示す最遅角位相から破線L3で示す最進角位相までの位相で駆動される。排気弁は、図2に実線L4で示す作動特性を中心として、排気弁用カムの作動位相の変化に伴って一点鎖線L5で示す最進角位相から破線L6で示す最遅角位相までの位相で駆動される。吸気弁作動位相CAINは、最遅角位相を基準「0」として、進角するほど増加するように定義され、排気弁作動位相CAEXは、最進角位相を基準「0」として、遅角するほど増加するように定義される。吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXは、対応するカム軸の回転角度を検出するカム角度センサ27の出力パルスと、クランク角度センサ26の出力パルスの相対関係から検出可能である。
【0021】
図3は、気筒休止機構40(吸気弁側)の構成を説明するための模式図であり、気筒休止機構40は、オイルポンプ30に接続された油路41と、油路41の途中に設けられた電磁弁42と、油路41を介して作動油圧が供給される切換機構部43とを備えている。電磁弁42が閉弁された状態では、吸気弁11がカムの回転によって駆動される作動状態となる一方、電磁弁42が開弁されて比較的高い作動油圧が切換機構部43に供給されると、切換機構部43内のピンが移動し、カムが回転しても吸気弁11が閉弁状態を維持する休止状態となる。油路41には作動油圧POILを検出する油圧センサ29が設けられており、その検出信号はECU5に供給される。気筒休止機構40の排気弁側も同様に構成されている。
【0022】
ECU5は、CPU、メモリ、入出力回路等を備える周知の構成を有するものであり、エンジン運転状態(主としてエンジン回転数NE及び目標トルクTRQCMD)に応じて、インジェクタ6による燃料噴射制御、点火プラグ8による点火時期制御、アクチュエータ3a及びスロットル弁3による吸入空気流量制御、弁作動位相可変機構50による弁作動位相制御、気筒休止機構40による一部気筒運転と全筒運転との切換制御を行う。目標トルクTRQCMDは、主としてアクセルペダル操作量APに応じて算出され、アクセルペダル操作量APが増加するほど増加するように算出される。また目標吸入空気流量GAIRCMDは、目標トルクTRQCMDに応じて算出され、目標トルクTRQCMDにほぼ比例するように算出される。実際の吸入空気流量GAIRが目標吸入空気流量GAIRCMDと一致するように、アクチュエータ3aによってスロットル弁3を駆動する吸入空気流量制御が行われる。吸入空気流量制御によって、各気筒の燃焼室内に1燃焼サイクル当たりに吸入される空気量が吸入空気流量の増減に伴って増減するので、吸入空気量制御ともいう。
【0023】
インジェクタ6による燃料噴射量(質量)GINJは、吸入空気流量GAIRを用いて算出される基本燃料量GINJBを、空燃比センサにより検出される空燃比AFに応じた空燃比補正係数KAFなどの補正係数を用いて補正することによって制御される。なお、燃料噴射量GINJは公知の手法を用いて、燃圧PF及び燃料の密度などに応じてインジェクタ6の開弁時間TOUTに変換され、1サイクル当たりに燃焼室内の供給する燃料量が燃料噴射量GINJとなるように制御される。
【0024】
全筒運転と一部気筒運転の切換を実行するときに、切換指令時期(電磁弁42の開弁指令時期CAOP)と、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXとの相対関係に依存して、異音(以下「切換ノイズ」という)が発生することがある。図4の実線は、吸気弁の通常作動時におけるリフトカーブを示し、破線はクランク角度CAOFFで休止状態へ移行したときのリフト量LFTの推移を示す。この図に示すように、リフト量LFTが比較的大きい状態で休止状態に移行すると、切換ノイズが発生する傾向がある。排気弁についても同様である。
【0025】
図5は、開弁指令時期CAOPと、切換ノイズが発生し易いクランク角度範囲RNS(以下「ノイズ発生範囲RNS」という)との関係を説明するためのタイムチャートであり、横軸はクランク角度CAで縦軸は吸気弁及び排気弁のリフト量LFTである。開弁指令時期CAOPがノイズ発生範囲RNS内にあると切換ノイズが発生するので、ノイズ発生範囲RNSの外側(以下「ノイズ無し範囲RNN」)にあってかつ、ノイズ無し範囲RNNの中心位置が最適開弁指令時期CABSTとなる。
【0026】
この図では、一部気筒運転中に作動を休止する#1〜#3気筒の吸気弁及び排気弁のリフト量推移をまとめて模式的に示しており、実線が吸気弁に対応し、破線が排気弁に対応する。分かり易くするために、吸気弁のリフト量の最大値が、排気弁のリフト量の最大値より僅かに大きく示されている。ノイズ発生範囲RNSが、リフト量LFTが比較的小さい角度範囲となっているのは、開弁指令時期CAOPから実際に切換機構部43内の油圧が高まって気筒休止状態へ移行する時期(以下「実移行時期CASW」という)までに時間遅れ(以下「応答遅れ時間TDLY」という)があるためである。
【0027】
図5(a)は、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXがともに0度である状態(以下「基準状態」という)に対応し、同図(b)はCAIN=50度、CAEX=0度である状態に対応し、同図(c)はCAIN=0度、CAEX=50度である状態に対応し、同図(d)はCAIN=50度、CAEX=50度である状態に対応する。
【0028】
横軸の0度は、図5(a)に示す基準状態における最適開弁指令時期CABSTに相当する。同図(b)に示すように吸気弁作動位相CAINのみ進角すると、最適開弁指令時期CABSTは進角側に移動する。同図(c)に示すように排気弁作動位相CAEXのみ遅角すると、最適開弁指令時期CABSTは遅角側に移動する。同図(d)に示す状態では、基準状態と同様に最適開弁指令時期CABSTは0度となるが、ノイズ無し範囲RNNが非常に狭くなって、僅かな開弁指令時期CAOPのずれによって切換ノイズが発生する可能性が高くなる。
【0029】
以上のように、開弁指令時期CAOPを最適開弁指令時期CABSTと一致させるためには、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXに応じて開弁指令時期CAOPを変更する必要がある。本実施形態では、後述するように、一部気筒運転の実行条件が成立した場合において、実移行時期CASWにおけるエンジン1の出力トルク変動を抑制するための準備制御を実行し、準備制御の完了時点(吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXが固定された時点)で、その時点の吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXに応じて開弁指令時期CAOPを決定する。その際には、応答遅れ時間TDLYが考慮され、応答遅れ時間TDLYは主として作動油圧POILに依存して変化することが考慮される。
【0030】
図6は、一部気筒運転の実行条件が成立した時点から実際に一部気筒運転に移行する時点(CASW)までの過渡制御を説明するためのタイムチャートであり、図6(a)〜(f)は、それぞれスロットル弁開度TH、吸入空気流量GAIR、点火時期IG、吸気弁作動位相CAIN、排気弁作動位相CAEX、及び電磁弁42の開弁指令フラグFSOLの推移を示す。図6に示す動作例では、エンジン1の目標トルクTRQCMDは一定値に維持されている。
【0031】
時刻t0において一部気筒運転の実行条件が成立すると、エンジン1の目標トルクTRQCMDに基づいて、全筒運転から一部気筒運転への切換実行時における目標値として、切換時目標スロットル弁開度THTGT及び切換時目標吸入空気流量GAIRTGTを算出する処理を実行するとともに、エンジン1のクランク軸に接続された自動変速機(図示せず)のロックアップクラッチの係合度合を低下させる処理を実行する。
【0032】
時刻t1においてスロットル弁開度THを切換時目標スロットル弁開度THTGTまで増加させる。これに伴って、吸入空気流量GAIRが徐々に増加し始めるので、エンジン出力トルクTRQを目標トルクTRQCMDに維持するために、吸入空気流量GAIRの増加に対応して、点火時期IGを遅角させる点火時期遅角制御と、エンジン負荷を示すパラメータ(例えば、吸入空気流量GAIR、目標トルクTRQCMD、または充填効率ηcの何れか一つ)及びエンジン回転数NEに応じて吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXを変化させる弁作動位相制御とを協調して実行する。この図に示す動作例では、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXが共に増加する弁作動位相制御が実行される。
【0033】
時刻t2において、吸入空気流量GAIRが切換時目標吸入空気流量GAIRTGTに達し、切換動作実行時における出力トルク変動を抑制するための準備制御が完了し、最適開弁指令時期CABSTの演算を行う。その後、エンジン1の回転位相が最適開弁指令時期CABSTと一致する時刻t3まで待機する。最適開弁指令時期CABSTに対応する時刻t3において、電磁弁42の開弁指令を行うことにより、切換機構部43における切換動作が時刻t4(実移行時期CASWに相当する)に実行されて、一部気筒運転に移行する。時刻t3からt4までの期間が気筒休止機構40の応答遅れ時間TDLYに相当する。時刻t4以後、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXは、一部気筒運転に適した作動位相へ速やかに移行し、点火時期IGは一部気筒運転に適した点火時期IGCSに速やかに移行する。
【0034】
このように過渡制御を実行することによって、実移行時期CASWにおけるトルク変動を抑制するとともに、切換ノイズの発生を防止できる。
【0035】
図7は、図6に示す動作例と同様に時刻t2から待機状態に移行し、エンジン1の回転位相が最適開弁指令時期CABSTと一致する前に、スロットル弁開度THが若干変化し、それに伴って吸気弁作動位相CAIN及び点火時期IGが変化した動作例を示すタイムチャートである。この例では、時刻t12において最適開弁指令時期CABSTの再演算が実行され、エンジン1の回転位相が最適開弁指令時期CABSTと一致する時刻t13まで待機する。図7には、再演算の結果、最適開弁指令時期CABSTは、元の最適開弁指令時期CABSTより進角した例が示されている。時刻t13において電磁弁42の開弁指令が行われ、時刻t14に切換動作が実行されて、一部気筒運転に移行する。
【0036】
このように、最初に最適開弁指令時期CABSTを演算した時刻t2の待機状態で、エンジン1の運転状態が変化したときは、最適開弁指令時期CABSTの再演算を行うことで、切換ノイズの発生を確実に防止することが可能となる。
【0037】
図8は、上述した過渡制御を実行する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5において、一部気筒運転の実行条件が成立した時点から所定クランク角度(例えば30度)毎に実行される。この処理で使用されるフラグの初期値はすべて「0」に設定されている。
【0038】
ステップS11では目標値算出完了フラグFTGTEが「1」であるか否かを判別する。この答は最初は否定(NO)であり、ステップS12に進んで、切換時目標開度THTGT、及び切換時目標吸入空気流量GAIRTGTを算出する。ステップS13では、目標値算出完了フラグFTGTEを「1」に設定し、ステップS14に進む。したがって、以後は、ステップS11から直接ステップS14へ進む。
【0039】
ステップS14では、吸入空気流量到達フラグFGAIROKが「1」であるか否かを判別する。この答は最初は否定(NO)であり、ステップS15に進んで、スロットル弁開度THを切換時目標開度THTGTに設定する吸入空気量増加制御と、点火時期IGを吸入空気流量GAIRの増加に伴って遅角させる点火時期遅角制御と、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXを変更する弁作動位相制御とを協調して実行することによって、エンジン1の出力トルクTRQを目標トルクTRQCMDに維持するトルク維持制御を実行する。本実施形態では、図6(d)及び(e)に示すように、吸入空気流量GAIRの増加にともなって吸気弁及び排気弁の開弁期間が重複するオーバラップ期間が増加する弁作動位相制御が実行される。
【0040】
ステップS16では、吸入空気流量GAIRが切換時目標吸入空気流量GAIRTGTに達したか否かを判別し、その答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了する。したがって、トルク維持制御が継続される。ステップS16の答が肯定(YES)となると、吸入空気流量到達フラグFGAIROKを「1」に設定し(ステップS17)、ステップS18に進む。したがって、以後はステップS14の答が肯定(YES)となってステップS18が繰り返し実行される。ステップS18では、図9に示す切換指令制御処理が実行される。
【0041】
図9は、図8のステップS18で実行される切換指令制御処理のフローチャートである。本実施形態では、電磁弁42の開弁指令時期CAOPの制御が、クランク角度30度を1ステージとして定義されるステージ数NSTを用いて行われる。ステージ数NSTは、「0」を基準値として、クランク角度30度毎に「1」ずつ「23」までカウントアップされ、「23」の次はまた「0」に戻るパラメータである。
【0042】
ステップS30では、待機ステージ数セットフラグFNSWSETが「1」であるか否かを判別する。この答は最初は否定(NO)となり、ステップS32に進んで、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXに応じて、最適切換時期変化量DNSVTCを算出する。最適切換時期変化量DNSVTCは、基準状態(CAIN=CAEX=0)における最適切換時期からの変化量である。具体的には、吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXに応じて予め設定されたDNSVTCマップ(図示せず)を検索することによって、最適切換時期変化量DNSVTCが算出される。最適切換時期変化量DNSVTCは、ステージ数NSTで定義される。DNSVTCマップは、図5を参照して説明したように、切換ノイズの発生を防止する観点での最適切換時期の変化量が設定されており、例えば吸気弁作動位相CAINが増加するほど、最適切換時期変化量DNSVTCが減少し、排気弁作動位相CAEXが増加するほど、最適切換時期変化量DNSVTCが増加するように設定されている。
【0043】
ステップS33では、最適切換時期変化量DNSVTCを下記式(1)に適用し、最適切換ステージ数NSTBSTを算出する。
NSTBST=NSTB+DNSVTC (1)
ここでNSTBは、基準状態における最適切換時期に相当する最適切換ステージ数であり、予め設定されている。
【0044】
ステップS34では、エンジン回転数NE及び作動油圧POILに応じて図10に示すDNSDLYマップを検索し、気筒休止機構40の応答遅れ時間TDLYに相当する遅延ステージ数DNSDLYを算出する。図10に示す所定エンジン回転数NE1,NE2,NE3は、NE1<NE2<NE3なる関係を満たす。したがって、DNSDLYマップは、エンジン回転数NEが高くなるほど遅延ステージ数DNSDLYが増加し、作動油圧POILが高くなるほど遅延ステージ数DNSDLYが減少するように設定されている。
【0045】
ステップS35では、図11に示すNSTWAIT算出処理を実行し、電磁弁42の開弁指令信号を出力するステージまでの待機ステージ数NSTWAITを算出する。
図11のステップS51では、最適切換ステージ数NSTBST及び遅延ステージ数DNSDLYを下記式(2)に適用し、待機ステージ数NSTWAITを算出する。
NSTWAIT=NSTBST−DNSDLY−NSTPR (2)
ここで、NSTPRは今回の演算処理を実行しているステージ数である。
【0046】
ステップS52では、パラメータ変化フラグFPCHGが「1」であるか否かを判別する。パラメータ変化フラグFPCHGは、待機ステージ数NSTWAITに影響を及ぼすパラメータである吸気弁作動位相CAIN、排気弁作動位相CAEX、作動油圧POIL、及びエンジン回転数NEのうちの少なくとも1つが、待機ステージ数セットフラグFNSWSETが「1」である状態において、予め設定されている所定変化量以上変化したときに、「1」に設定される。
【0047】
最初はステップS52の答が否定(NO)となり、ステップS53に進んで、インデクスパラメータiの値を「0」に設定する。ステップS54では、待機ステージ数NSTWAITが「0」以上であるか否かを判別する。上述したようにステージ数NSTは、「0」から「23」までの値をとるパラメータであるため、式(2)によって算出された待機ステージ数NSTWAITが負の値となる可能性がある。したがって、ステップS54の答が否定(NO)であるときは、待機ステージ数NSTWAITに所定数NNXTを加算し、インデクスパラメータiを「1」だけ増加させる処理(ステップS55)を、ステップS54の答が肯定(YES)となるまで繰り返す。所定数NNXTは、切換ノイズ防止の観点で最適な次の切換指令時期までのステージ数(例えば「8」)に設定される。ステップS54の答が肯定(YES)であるときは処理を終了する。インデクスパラメータiの値は、ステップS55の実行回数を示す。
【0048】
パラメータ変化フラグFPCHGが「1」に設定されると、ステップS52の答が肯定(YES)となり、ステップS56に進んで下記式(3)にインデクスパラメータiを適用して、待機ステージ数NSTWAITの更新を行う。なお、最初の演算実行時にインデクスパラメータiが「0」である場合には、式(3)の演算を行っても待機ステージ数NSTWAITの値は変化しない。
NSTWAIT=NSTWAIT+i×NNXT (3)
【0049】
ステップS57では、更新された待機ステージ数NSTWAITが「0」以上であるか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、再演算された最適切換ステージ数NSTBSTに切換動作を実行可能である。そこでそのことを示すインタイムフラグFINTMを「1」に設定する(ステップS58)。ステップS57の答が否定(NO)であって、電磁弁42の開弁指令信号を直ちに出力しても最適切換ステージ数NSTBSTに切換動作を実行できないときは、インタイムフラグFINTMを「0」に設定する(ステップS59)。
【0050】
図9に戻り、ステップS36では、待機ステージ数セットフラグFNSWSETを「1」に設定する。ステップS37では、パラメータ変化フラグFPCHGが「1」であるか否かを判別する。最初はステップS37の答が否定(NO)となり、直ちにステップS40に進む。ステップS40では、待機ステージ数NSTWAITが「0」であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、ステップS43に進んで、待機ステージ数NSTWAITを「1」だけ減少させる。ステップS40の答が肯定(YES)であるときは、電磁弁42の開弁指令信号(切換指令信号)を出力し、待機ステージ数セットフラグFNSWSETを「0」に戻す(ステップS42)。
【0051】
ステップS36の実行後は、ステップS30の答が肯定(YES)となり、ステップS31に進んで、パラメータ変化フラグFPCHGが「1」であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、ステップS40に進む。したがって、パラメータ変化フラグFPCHGが「1」にならない限り、待機ステージ数NSTWAITが「1」ずつ減少して、ステップS40の答が肯定(YES)となったときに、ステップS42に進み、開弁指令信号を出力する。
【0052】
一方、待機ステージ数NSTWAITの減算を行っている待機状態で、パラメータ変化フラグFPCHGが「1」に設定されたときは、ステップS31からステップS32に進み、最適切換時期変化量DNSVTC、最適切換ステージ数NSTBST、及び待機ステージ数NSTWAITの再演算が実行される。このときステップS37の答は肯定(YES)となるので、ステップS38に進んで、パラメータ変化フラグFPCHGを「0」に戻し、図11の処理で設定されるインタイムフラグFINTMが「1」であるかを判別する(ステップS39)。その答が肯定(YES)であるときは、ステップS40に進む。
【0053】
ステップS39の答が否定(NO)であるとき、すなわち直ちに開弁指令信号を出力しても再演算された最適切換ステージ数NSTBSTにおいて切換動作を実行できず、切換ノイズが発生する可能性があるが、燃費優先の観点で一部気筒運転への移行を遅らせないために、直ちにステップS42に進む。
【0054】
図12及び図13は、図9の処理を説明するためのタイムチャートである。これらの図においてCA0及びCA10が待機ステージ数NSTWAITの当初の演算時期であり、CA1及びCA11が再演算が実行される再演算時期に対応する。
【0055】
図12(a)は、待機状態でパラメータ変化フラグFPCHGが「0」に維持された例に相当する(図6に示した動作例に対応する)。この例では、演算時期CA0から当初の待機ステージ数NSTWAIT0経過後の時期CA2において開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY0経過後の時期CA3において実際の切換(一部気筒運転への移行)が行われる。時期CA3は、切換ノイズが発生しないOK範囲ROKのほぼ中心に位置するタイミングであり、切換ノイズの発生を確実に防止できる。
【0056】
図12(b)は、時期CA1においてパラメータ変化フラグFPCHGが「1」に設定され、再演算が実行された例に相当する(図7に示した動作例に対応する)。再演算時期CA1から再演算された待機ステージ数NSTWAIT1(>0)経過後の時期CA4に開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY1経過後の時期CA5において実際の切換が行われる。時期CA5は、切換ノイズが発生しないOK範囲ROKのほぼ中心に位置するタイミングであり、再演算によって最適開弁指令時期が早まっても(待機ステージ数NSTWAITが減少しても)、切換ノイズの発生が確実に防止される。
【0057】
図13(a)は、図12(a)と同様に、演算時期CA10から当初の待機ステージ数NSTWAIT2経過後の時期CA12において開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY2経過後の時期CA13において実際の切換が行われた例に相当する。図13(b)は、再演算された待機ステージ数NSTWAITが負の値となり、直ちに(時期CA11直後に)開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY3経過後の時期CA15において実際の切換が行われた例に相当する。図13(b)に示す例では、OK範囲ROK内ではあるが、その中心より遅れた時期CA15において実際の切換が行われる。同図に示す時期CA14が最適切換時期に相当する。
【0058】
以上のように本実施形態では、全筒運転から一部気筒運転への切換要求がなされた場合に、全筒運転から一部気筒運転への切換動作を実行する時点におけるエンジン1の出力トルクの変動を抑制するための準備制御が実行され、切換動作を実行する目標切換時期に相当する最適切換ステージ数NSTBSTが吸気弁作動位相CAIN及び排気弁作動位相CAEXに応じて、準備制御が完了した後に演算され、演算された最適切換ステージ数NSTBSTに基づいて気筒休止機構40への切換指令信号(電磁弁42の開弁指令信号)が出力される。切換動作を実行するタイミングに依存して切換ノイズが発生する場合、切換ノイズが発生し難いタイミングは、吸気弁及び排気弁の弁作動位相に依存して変化することが確認されている。したがって、弁作動位相に応じて、切換ノイズが発生し難いタイミング(最適切換時期)となるように最適切換ステージ数NSTBSTを算出し、その最適切換ステージ数NSTBSTに基づいて開弁指令信号を出力することによって、切換ノイズの発生を防止することが可能となる。
【0059】
また、最適切換ステージ数NSTBSTに切換動作が実行されるように、気筒休止機構40の動作遅れ時間TDLYに相当する遅延ステージ数DNSDLYに応じて、指令信号出力時期に相当する待機ステージ数NSTWAITが演算されるので、実際の切換動作が実行されるタイミングを最適切換ステージ数NSTBSTに正確に一致させ、切換ノイズの発生を確実に防止することができる。
【0060】
また、最適切換ステージ数NSTBSTの算出後であって開弁指令信号を出力する前、すなわち待機ステージ数NSTWAITのカウントダウンを行っている待機中に、開弁指令信号の出力時期に影響を及ぼす運転パラメータである吸気弁作動位相CAIN、排気弁作動位相CAEX、エンジン回転数NE、及び作動油圧POILの少なくとも一つが所定変化量以上が変化したときは、待機ステージ数NSTWAITの再演算が行われるので、運転パラメータの変化に対応して待機ステージ数NSTWAITが変更され、切換ノイズの発生を防止することができる。
【0061】
また図11のステップS56で再演算された待機ステージ数NSTWAITが負の値となって、再演算の実行後直ちに開弁指令信号を出力しても再演算された最適切換ステージ数NSBSTに実際の切換動作を実行できない可能性が高い場合(ステップS39の答が肯定(YES)となる場合)であっても、再演算実行後直ちに開弁指令信号が出力されるので、切換ノイズが発生する可能性があっても一部気筒運転への切換動作を早期に行うことができ、燃費を向上させることがきる。
【0062】
また、遅延ステージ数DNSDLYは、気筒休止機構40の切換機構部43へ供給する作動油圧POIL及びエンジン回転数NEに応じて決定される。気筒休止機構40の応答遅れ時間TDLYは、作動油圧POILに依存して変化することが確認されており、さらに切換指令時期はエンジン1の回転位相(クランク角度)で決定する必要があることから、作動油圧POIL及びエンジン回転数NEに応じて遅延ステージ数DNSDLYを決定することにより、実際の切換動作実行時期を最適切換時期に正確に一致させることができる。
【0063】
本実施形態では、図8のステップS12及びS15が請求項1のステップaに相当し、図9のステップS32及びS33が請求項1のステップbに相当し、図9のステップS34〜S42が請求項1及び2のステップcに相当し、ステップS31からステップS32に移行してステップS39までを実行する処理が、請求項3のステップdに相当する。
【0064】
[変形例]
図9に示す切換指令制御処理は、図14に示す処理に代えてもよい。図14に示す処理は、図9の処理にステップS43及びS44を追加したものである。
【0065】
待機ステージ数NSTWAITの再演算後において、ステップS39の答が否定(NO)であるときは、ステップS43に進み、燃費優先フラグFFEFが「1」であるか否かを判別する。燃費優先フラグFFEFは、切換ノイズの防止より、一部気筒運転への早期の移行を優先する場合に「1」に設定されるフラグであり、例えばエンジン1によって駆動される車両の運転モード(燃費優先モードか、静粛性優先モードか)に応じて設定される。
【0066】
ステップS43の答が肯定(YES)であるときは、ステップS42に進んで直ちに開弁指令信号を出力する。一方、ステップS43の答が否定(NO)であって、切換ノイズの発生防止を優先する場合は、ステップS44に進んで、待機ステージ数NSTWAITを所定数NNXTだけ増加させる。すなわち、切換ノイズ防止の観点で直近の最適切換時期に間に合わない場合には、次の最適切換時期まで切換実行時期を遅らせることによって、切換ノイズの発生を確実に防止する。
【0067】
図15は、図14の処理を説明するためのタイムチャートであり、燃費優先フラグFFEFが「0」に設定されている例に相当する。図15(a)は図13(a)と同様に再演算が行われなかった場合に対応し、時期CA20において算出された待機ステージ数NSTWAIT4経過後の時期CA22において開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY4経過後の時期CA23において実際の切換が行われる。
【0068】
図15(b)は、再演算が実行された場合に対応する。時期CA21において再演算された待機ステージ数NSTWAITが負の値となり、所定数NNXTが加算された待機ステージ数NSTWAIT5経過後の時期CA25において開弁指令信号が出力され、その時点から遅延ステージ数DNSDLY5経過後の時期CA26において実際の切換が行われる。なお、時期CA24は、再演算直後に開弁指令信号を出力した場合における実際の切換時期を示す。
【0069】
本変形例によれば、再演算後の待機ステージ数NSTWAITが負の値となった場合に、燃費を優先するか、切換ノイズの抑制を優先するかに応じて開弁指令信号の出力時期を変更することが可能となる。
【0070】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、弁作動位相可変機構50が、吸気弁のみまたは排気弁のみの作動位相を変更するものであっても本発明を適用可能である。また上述した実施形態では、6気筒の内燃機関において一部気筒運転では3気筒を作動させるものを示したが、本発明は、6気筒の内燃機関に限らず複数の気筒を有する内燃機関において、一部の気筒のみを作動させる一部気筒運転を実行する場合に適用可能である。
また上述した実施形態では、エンジン1は排気還流機構を備えていないものであるが、本発明は排気還流機構を備えている内燃機関の制御方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 内燃機関
2 吸気通路
3 スロットル弁
3a アクチュエータ
5 電子制御ユニット
8 点火プラグ
40 気筒休止機構
50 弁作動位相可変機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15