(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800128
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】Al合金の再生方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/06 20060101AFI20201207BHJP
C22B 9/10 20060101ALI20201207BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
C22B21/06
C22B9/10
C22B7/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-203367(P2017-203367)
(22)【出願日】2017年10月20日
(65)【公開番号】特開2019-77896(P2019-77896A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】岩田 靖
(72)【発明者】
【氏名】川原 博
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】上野 紀幸
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2019−077894(JP,A)
【文献】
特開昭51−006810(JP,A)
【文献】
特表平02−500600(JP,A)
【文献】
特許第6667485(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金原料の少なくとも一部を溶解して溶湯組成をCu:4質量%以上およびMn:2〜20質量%とした第1溶湯を調製する調製工程と、
Fe化合物が晶出する分離温度で該第1溶湯を保持する保持工程と、
該第1溶湯から晶出したFe化合物の少なくとも一部を除去した第2溶湯を抽出する抽出工程と、
を備えたAl合金の再生方法。
【請求項2】
前記第1溶湯は、その全体に対してMg:1質量%以上である請求項1に記載のAl合金の再生方法。
【請求項3】
前記第2溶湯は、その全体に対してSi:5質量%以下である請求項1または2に記載のAl合金の再生方法。
【請求項4】
前記Al合金原料は、Al合金展伸材のスクラップを含む請求項1〜3のいずれかに記載のAl合金の再生方法。
【請求項5】
前記Al合金展伸材は、2000番系Al合金を含む請求項4に記載のAl合金の再生方法。
【請求項6】
前記保持工程は、冷却速度が0.1〜2℃/分である請求項1〜5のいずれかに記載のAl合金の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラップ等から再生Al合金を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の環境意識等の高揚に伴い、様々な部材や装置の軽量化が進められており、アルミニウム合金(単に「Al合金」という。)の使用量は増加しつつある。新規なAlの製造(精錬)には多量のエネルギーが必要である。これに比べて、Al合金のスクラップの再溶解に必要なエネルギーは僅かである。このため、Al合金のスクラップをリサイクルして利用することが望まれる。
【0003】
Al合金スクラップを再溶解すると、通常、その溶湯中には、Fe、Si、Cu、Mg、Zn等の元素も混在する。スクラップから再生Al合金を得るためには不要元素(不純物元素)または過剰元素を取り除く必要がある。そのような元素の除去方法として、関連する記載が下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2464610号
【特許文献2】米国特許第5741348号
【特許文献3】特開2002−155322号
【特許文献4】米国特許第4734127号
【特許文献5】WO2013/168213
【特許文献6】WO2013/168214
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】古河電工時報104号(平成11年7月)25-30
【非特許文献2】Metallurgical Transactions 5(1974)785-787
【非特許文献3】Material Transactions, JIM.38(1997)622-699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)金属間化合物除去法
特許文献1、2および非特許文献は、Fe等の遷移金属元素を金属間化合物(単に「IMC」ともいう。)として溶湯から除去する方法に関する。具体的にいうと、特許文献1では、Al−(11.6〜13.5)%Si−(0.8〜9)%Fe合金に対し、Cr、Mn、Coを添加してFe系金属間化合物を晶出させ、溶湯中のFe量を低減させている。特許文献2では、Al−(0〜12)%Si−(0.49〜2.1)%Fe−(0.37〜1.91)%Mn合金(Cr<0.4%、Ti<0.41%、Zr<0.26%、Mo<0.01%)にMnを添加してFe量の低減を図っている。しかし、Siが8%以下の場合、金属間化合物の除去後も溶湯中に0.5%以上のFeが残存し、その除去効率は低い。非特許文献1は、Al合金溶湯(Fe<1.5%、Mn<1.5%、Si<10%、Cr<0.2%、Mg<1%、Cu<1%%、Ti<0.1%、Ni<1%、Zn<1%)から、FeとMnを同時に0.3%以下にはできないことを報告している。なお、特に断らない限り、本明細書でいう「%」は質量%を意味する。
【0007】
(2)偏析凝固法、結晶分別法
特許文献3〜6、非特許文献1、2は、Al相が晶出した半凝固状態の溶湯から、Al晶出物を残留液相から分離して不純物を低減する偏析凝固法または結晶分別法に関する。ちなみに、非特許文献1では、半凝固溶湯を圧搾して残留液相を除去している。また非特許文献2では、半凝固溶湯を撹拌してAl晶出物を球状化させて、残留液相と分離している。このような方法は、Al相が晶出するまで溶湯を冷却する必要があり、エネルギーロスが大きい。
【0008】
(3)半溶融精製法
非特許文献3は、Al合金(固体)を半溶融状態に加熱して液相と残留Al結晶とに分離し、Al相の固溶限を超える不純物を除去する半溶融精製法に関する。具体的にいうと、非特許文献3では、半溶融状態のAl−8.39%Si−0.06%Mn−0.05%Mg合金を加圧して液相を分離し、残留分からAl−0.96%Si−1.14%Mn−1.56%Mg合金を得ている。この方法では、金属間化合物によるFe、Mnの除去が難しい。また、半溶融状態の残留Al結晶量は温度に依存しているため、本方法を利用できる合金組成が限られる。
【0009】
(4)帯溶融法
なお、上述した方法以外にも、Al合金中から不純物を除去する方法として、インゴットを一端側から部分的に加熱・溶融させて、末端側に不純物を集め、加熱を開始した一端側の純度を高める帯溶融法もある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる方法により、Feを効率的に除去したAl合金(溶湯)を得ることができるAl合金の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、スクラップ等を溶解したAl合金溶湯中のCu濃度およびMn濃度を所定以上とすることにより、その溶湯中に含まれるFeの除去(濃度低減)に成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《Al合金の再生方法》
(1)本発明は、Al合金原料の少なくとも一部を溶解して溶湯組成をCu:4質量%以上およびMn:2質量%以上とした第1溶湯を調製する調製工程と、Fe化合物が晶出する分離温度で該第1溶湯を保持する保持工程と、該第1溶湯からFe化合物または鉄くず等の未溶解固体の少なくとも一部を除去した第2溶湯を抽出する抽出工程と、を備えたAl合金の再生方法である。
【0013】
(2)本発明のAl合金の再生方法(単に「再生方法」という。)によれば、Al合金原料を溶解した第1溶湯から、晶出した鉄化合物(単に「Fe化合物」という。)を容易に除去でき、Fe濃度を十分に低減させた再生Al合金を効率的に得ることできる。この再生Al合金は、固相状態ではなく液相状態(つまり溶湯状態)として得られるため、再溶解等を行わずに、そのまま再生地金として出荷したり、再利用することも可能である。
【0014】
本発明の再生方法により、Fe濃度を低減できるようになった理由は次のように考えられる。第1溶湯のMn濃度を所定以上とすることにより、その溶湯中に高融点なFe化合物が形成されるようになった。また、第1溶湯のCu濃度を所定以上とすることにより、Al相(特にα−Al)の晶出温度が低下するようになった。これらが相乗的に作用して、Fe化合物の晶出温度域が広がり、Fe化合物の晶出量が増加して、第1溶湯中からより多くのFe化合物を効率的に除去できるようになった。その結果、Fe濃度を十分に低減した第2溶湯が得られるようになったと考えられる。
【0015】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】溶湯温度または液相中のFe濃度と固相率との関係を示すグラフである。
【
図2】Cu濃度とMn濃度が低減可能なFe濃度に及ぼす影響を示す一覧表である。
【
図3】初期Mg濃度とFe濃度またはMn濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えば、再生Al合金、再生Al合金部材等)に関する構成要素ともなり得る。
【0018】
《Feの除去原理》
本発明の再生方法によりFeが除去される原理を
図1〜
図3を用いて説明する。
図1〜
図3は、解析ソフト(Thermo-Calc Software AB社製 Thermo-Calc)を用いて、Scheil式に基づいて計算した結果である。
【0019】
(1)Fe除去
Al−1%Si−1%Fe−1%Mn合金溶湯(単に「1%Mn溶湯」という。)と Al−1%Si−1%Fe−2%Mn合金溶湯(単に「2%Mn溶湯」という。)と Al−1%Si−1%Fe−2.5%Mn−5%Cu合金溶湯(単に「2.5%Mn−5%Cu溶湯」という。)とについて、溶湯温度または液相中のFe濃度と固相率との関係を
図1に示した。
【0020】
図1から明らかなように、1%Mn溶湯の場合、Fe化合物(金属間化合物)の融点が低く、Fe化合物(固相)は殆ど晶出しないため、溶湯中からFeを有効に除去できない。2%Mn溶湯の場合、Fe化合物(金属間化合物)の融点が高まり、晶出したFe化合物の除去が可能となるが、その除去後でも、Fe濃度は0.824%に留まる。2.5%Mn−5%Cu溶湯の場合、Fe化合物(金属間化合物)の融点がさらに上昇すると共にAl相(α−Al)の晶出温度も低下する。このため、Fe化合物の晶出量も増加し、634℃で保持した場合、Fe化合物および鉄くず等の未溶解固体の除去後の溶湯中のFe濃度は0.587%まで大幅に低下することがわかる。
【0021】
なお、Fe化合物は溶湯よりも比重が大きいため、溶湯の下層域へ沈降し、両者は容易に分離され得る。このため本発明によれば、不純物であるFeをFe化合物として効率的に除去できる。また、鉄くず等の未溶解固体が溶湯と接する場合にも、Feは溶湯中に溶け込むことができない。このため、Fe濃度を十分に低減したAl合金溶湯(第2溶湯)が得られる。
【0022】
ちなみに、本明細書でいうFe化合物は、Feを含む化合物(例えば、Feを含む金属間化合物)であれば、その組成や形態を問わない。代表的なFe化合物として、例えば、Al
13Fe
4や、Mnを含んだAl
15Si
2(Fe,Mn)
4等がある。
【0023】
(2)Mn濃度およびCu濃度とFe濃度との関係
Al−1%Si−1%Fe−(0〜20)%Mn−(0〜20)%Cu合金溶湯について、そのMn濃度およびCu濃度と、低減可能なFe濃度との関係を一覧表として
図2に示した。
【0024】
図2から明らかなように、Cu濃度が4%以上、5%以上さらには6%以上、Mn:2%以上、2.5%以上さらには3%以上となる範囲に第1溶湯の組成を調整することにより、Fe濃度を0.65%以下、0.6%以下、さらには0.5%以下にまで低下させ得ることがわかる。
【0025】
(3)Mg濃度
初期のMg濃度が異なるAl−1%Si−1%Fe−2.5%Mn−5%Cu−(0〜10)%Mg合金溶湯(第1溶湯)について、そのMg濃度と溶湯中(液相中)に溶解可能なFe、Mnの限界濃度(いわゆる溶解限/単に「Fe濃度」、「Mn濃度」という。)との関係を
図3に示した。
図3から明らかなように、Mg濃度が増加するほど、溶湯中のFe濃度が低減され得ることがわかる。
【0026】
また、第1溶湯中のMg濃度を高めることにより、Fe濃度の低減に用いたMnの濃度も大幅に低下することもわかった。これによりMn濃度が低いAl合金(展伸材等)を製造する場合にも、第2溶湯を利用し易くなる。以上を踏まえて、例えば、第1溶湯中のMg濃度を1%以上、1.5%以上、2%以上さらには3%以上とすると好ましい。なお、Mn濃度の低下は、Fe化合物に限らず、それ以外の化合物(例えばAlMn化合物、AlSiMn化合物)の晶出・除去に起因していてもよい。
【0027】
《調製工程》
(1)Al合金原料の少なくとも一部を溶解した溶湯中のCu濃度とMn濃度を所望範囲とした第1溶湯を調製する。この際、Al合金原料の溶解後の溶湯成分を分析してから、その溶湯へ適量なCu源原料(例えば純Cu、Cu合金、Cu化合物)および/またはMn源原料(例えば純Mn、Mn合金、Mn化合物)を添加して、第1溶湯の組成を調整しても良い。勿論、Al合金原料とCu源原料および/またはMn源原料とを同時に溶解して、第1溶湯を調製してもよい。溶解温度(第1溶湯温度)は、原料全体が溶解する温度でも良いが、Al合金スクラップを用いる場合には、鉄くず等が溶け残る温度でもよく、例えば、570〜760℃さらには590〜730℃程度とすればよい。
【0028】
(2)Al合金原料には、主にAl合金のスクラップを用いるとよい。そのAl合金原料は、展伸材でも鋳物でもよい。もっとも、本発明の再生方法では、Cu濃度が比較的高い第1溶湯から第2溶湯を抽出している。従って、通常、Cuを多く含むAl合金展伸材(Al−Cu系合金である2000番系Al合金)のスクラップが、Al合金原料に含まれていると好ましい。ちなみに、Al合金名(番数)は、国際アルミニウム合金名または日本工業規格(JIS H4140)に基づく。なお、Al合金原料は、Al合金以外の金属(例えば鉄鋼材)からなる部材等を伴うものでもよい。
【0029】
ちなみに、第1溶湯中にSiが多く含まれる場合(例えば5%以上)でも、上述した除去原理(メカニズム)により、Feは十分に除去され得る。但し、第2溶湯を展伸材の再生に利用する場合を考えると、第2溶湯は、その全体に対してSi:5%以下、3%以下さらには2%以下であると好ましい。
【0030】
《保持工程》
調製工程で得られた第1溶湯は、Fe化合物が晶出し、それら固相と残部液相との分離が可能となる温度に保持する。この際、α−Alが晶出する温度まで第1溶湯を冷却すると、晶出したFe化合物の効率的な分離が困難となる。そこで、Alが晶出しない温度範囲内であって、Fe化合物が晶出する範囲の温度(分離温度)で第1溶湯を保持するとよい。分離温度は、第1溶湯の合金組成に応じて調整され得るが、例えば、(α−Alの晶出開始温度)+(5〜30℃さらには10〜20℃)とすると好ましい。より具体的にいうと、例えば、600〜660℃さらには620〜640℃の範囲内で調整されるとよい。
【0031】
保持工程は、Fe化合物の晶出とその粒成長を促すために、徐冷工程であると好ましい。例えば、冷却速度が0.1〜2℃/分さらには0.5〜 1.5℃/分の範囲で徐冷されると好ましい。ここでいう冷却速度は、保持工程の開始時から次の抽出工程の開始時に至るまでの間において、その温度差を所要時間で除した平均値である。なお、第1溶湯の初期温度から分離温度へ至るまで間の温度域で保持時間を設けて、Fe化合物の晶出を促したり、その粗大化を図ってもよい。このときの保持工程は、保持時間に応じて冷却速度がより小さくなった徐冷工程となる。
【0032】
《抽出工程》
第1溶湯から晶出したFe化合物または鉄くず等の未溶解固体の少なくとも一部を除去することより、Feの濃度を低減した第2溶湯を得ることができる。第2溶湯の抽出は、溶湯の入った坩堝中から固相であるFe化合物を、フィルター等で漉して除去して行うこともできる。もっとも、溶湯よりも比重が大きいFe化合物は溶湯下層に沈降し易い。そこで、第2溶湯の抽出は、溶湯の入った坩堝の中間(中層域〜上層域)から、Feの濃度が低下した(上澄み)溶湯だけを取り出して行ってもよい。いずれにしても、液相状態の第2溶湯を抽出する本工程は、分離温度と同様の温度域でなされるとよい。なお、調製工程で未溶解であった残留固体(例えば、Al合金原料の一部に含まれていた鉄くず等)も、抽出工程で除かれると好ましい。
【0033】
抽出した第2溶湯は、一旦凝固させることなく、そのまま展伸材等の製造に供されると好ましい。第2溶湯は、その利用前に、さらに精製されたり、純Al(新塊)や合金源が添加されて、所望成分に調整されてもよい(成分調整工程)。勿論、第2溶湯は、一旦凝固された後、展伸材等の原料となる再生鋳塊(インゴット)として供給されてもよい。
【実施例】
【0034】
本発明でいう第1溶湯を想定して、Fe、CuおよびMnを含むAl合金溶湯を調製した。その各層域から抽出した溶湯を凝固させた試料を用いて、それぞれの金属組織観察と成分測定を行った。このような具体例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【0035】
《試料の製造》
(1)調製工程
原料を黒鉛坩堝(高さ158mm×口径120mm×底径80mm、口厚11mm)に入れて710℃まで加熱して溶解した。原料は、溶湯の合金組成がAl−1%Si−1%Fe−2.5%Mn−5%Cuとなるように配合した。こうして、約1.5kgの初期溶湯(第1溶湯)を調製した。
【0036】
初期溶湯の一部を分析用型(φ40mm×30mm)に注湯し、室内で放冷して自然凝固させた。こうして初期溶湯分析用の試料0を得た。
【0037】
(2)保持工程
初期溶湯を640℃(α−Alの晶出開始温度+5℃)まで、55分間かけて炉冷した。この冷却後の溶湯から、上層部、中層部および下層部分の各領域にある溶湯を次のようにして抽出し、凝固させた。
【0038】
溶湯の上層部(厚さ約10mmの表層部分)はスプーンで採取し、分析用型(φ40mm×30mm)内で自然凝固させた。こうして上層部分析用の試料1を得た。
【0039】
上層部を除去した後の溶湯は、JIS H 5202:2010に記載の金型試験片採取用供試材製造鋳型(約30mm×40mm×200mm)へ注湯し、自然凝固させた。こうして中層部分析用の試料2を得た。
【0040】
中層部の注湯後に坩堝底に残留した凝固部をそのまま坩堝ごと室内で放冷して凝固させた。こうして下層部分析用の試料3を得た。
【0041】
《試料の分析》
各試料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で組織観察すると共に、蛍光X線分析によりFe濃度とMn濃度を分析した。この結果をまとめて
図4に示した。なお、試料0〜2の観察・分析は、試料底面から高さ10mmの位置における水平断面の中央部(φ20mm)について行った。また試料3の観察・分析は、試料底面から高さ5mmの位置における水平断面の中央部(φ20mm)について行った。
【0042】
《評価》
図4から明らかなように、上層部の試料1は、Fe濃度(組成)やMn濃度(組成)が初期状態の試料0と同程度である。一方、下層部の試料3では、Fe化合物が多く晶出しており、Fe濃度やMn濃度が初期状態の試料0よりも大幅に増加していることがわかる。それらの中間である試料2では、Fe化合物の晶出は殆どなく、Fe濃度およびMn濃度が大幅に低減されていることがわかる。具体的にいうと、中層部では、Fe濃度が0.902%(初期)→0.412%まで低減し、Mn濃度が2.17%(初期)→1.09%まで低減していた。
【0043】
以上のことから、本発明の再生方法によれば、スクラップ等のAl合金原料から、Fe濃度(さらにはMn濃度)を十分に低減した再生Al合金(溶湯)を得ることができることが確認された。