特許第6800130号(P6800130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800130
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20201207BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20201207BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20201207BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20201207BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20201207BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B60W10/02 900
   B60K6/445ZHV
   B60W20/14
   B60L7/24 D
   B60L15/20 K
   B60L15/20 S
   B60T8/17 C
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-223750(P2017-223750)
(22)【出願日】2017年11月21日
(65)【公開番号】特開2019-93844(P2019-93844A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 能人
【審査官】 吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−100590(JP,A)
【文献】 特開2007−253715(JP,A)
【文献】 特開2005−014692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0318728(US,A1)
【文献】 特開2004−090502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/445
B60L 7/24
B60L 15/20
B60T 8/17
B60W 20/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と車輪との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第1切替装置と、
前記内燃機関と第1回転電機との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第2切替装置と、
第2回転電機と前記車輪との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第3切替装置と、
車輪の回転に制動力を与える制動装置と、
前記第1回転電機及び又は前記第2回転電機により充電されるバッテリと、
を備える車両であって、
前記第1回転電機及び前記第2回転電機を、駆動力を発生する駆動モードと発電動作を行う発電モードとに切り替えて制御すると共に、発電モードに設定した前記第1回転電機及び又は第2回転電機により前記車輪の回転運動を制動する第1制動と、前記内燃機関が生ずる制動力により前記車輪の回転運動を制動する第2制動と、を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記バッテリの充電残量、前記制動装置の温度、及び前記第2回転電機の温度に基づいて、前記第1切替装置、前記第2切替装置、及び前記第3切替装置を接続と非接続とに切り替えることにより、前記第1制動の大きさを切り替え、及び前記第2制動の作動の有無を切り替えるよう構成されている、
車両。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記バッテリの充電量が所定値Rth1以下であって、前記第2回転電機の温度が所定値Tmth1以下であり、且つ前記制動装置の温度が所定値Toth1以下であるときは、前記第2制動を非作動とし、前記第2回転電機を用いた前記第1制動を行い、
前記バッテリの充電量が、前記所定値Rth1より大きな所定値Rth2より大きいときは、前記第1制動を停止し、前記第2制動を作動させる、
よう構成されている、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2回転電機の温度が前記所定値Tmth1より大きな所定値Tmth2を超えていないことを条件として、
前記制動装置の温度が前記所定値Toth2以下であるときは、前記第2回転電機により前記第1制動を行い、
前記制動装置の温度が前記所定値Toth2を超えるときは、前記第2回転電機に加えて前記第1回転電機を用いて前記第1制動を行う、
よう構成されている、
請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第2回転電機の温度が前記所定値Tmth2を超えているときは、
前記制動装置の温度が前記所定値Toth1以下であれば、前記第1制動を停止して前記第2制動を作動させ、
前記制動装置の温度が前記所定値Toth1より大きく且つ前記所定値Toth2以下であれば、前記第2制動を作動させ、且つ前記第1回転電機による第1制動を行う、
よう構成されている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と回転電機とを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、モータや発電機などの回転電機と、を備えるハイブリッド車両においては、降坂路等において車輪から得られる駆動力により回転電機を回すことでバッテリへの充電を行う回生動作が行われる。しかしながら、長い降坂路において回生動作を継続し続けると、満充電となったバッテリに更に回生動作が行われるという過充電の状態が発生し得る。
【0003】
このため、従来、長い降坂路等において回生動作によりバッテリが満充電状態になると、降坂路に沿って車両を走行させつつエンジンを停止させ、停止したエンジンを回転電機により無駄に回転させてバッテリを放電させるという動作が行われる。これにより、長い降坂路では、回生によるバッテリ充電と上記放電とが交互に行われて、バッテリの過充電が回避される。
【0004】
しかしながら、充放電サイクルの繰り返しに伴ってバッテリは劣化するため、上記のような無駄な放電を繰り返せば、バッテリ寿命の低下を招くこととなる。
【0005】
上記のような長い降坂路における充放電回数を低減するため、油圧ブレーキを多用することが考えられる。これにより、充放電回数の増加によるバッテリ寿命の短縮が防止されると共に、回生動作における発熱による回転電機の過熱状態の持続も回避することができる。しかしながら、油圧ブレーキの多用は油圧ブレーキ自身の過熱状態の持続を招き、得策ではない。
【0006】
一方、エンジンとモータと発電機とを備えるハイブリッド車両において、燃費及び又は走行性能を向上することを目的として、エンジンと発電機との間の回転力の伝達を断続するクラッチを備える車両が知られている(特許文献1)。この車両では、発電が不要な場合には上記クラッチを非接続にしてエンジン及び発電機の負荷を軽減することで、燃費の向上や、走行性能の向上が図られる。
【0007】
しかしながら、上記従来の車両は、燃費の向上や走行性能の向上のための施策を教示するものであり、上述のような、長い降坂路等における回生(充電)と放電との繰り返しによるバッテリ寿命の低下や回転電機及び油圧ブレーキの過熱状態の持続を回避する策を教示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−90502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景より、内燃機関と回転電機とを備える車両において、長い降坂路等での走行に伴う回転電機及び油圧ブレーキの過熱状態の持続を回避しつつ、バッテリ充放電の無駄な繰り返しを避けてバッテリ寿命の低下を防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は、内燃機関と車輪との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第1切替装置と、前記内燃機関と第1回転電機との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第2切替装置と、第2回転電機と前記車輪との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第3切替装置と、車輪の回転に制動力を与える制動装置と、前記第1回転電機及び又は第2回転電機により充電されるバッテリとを備える車両である。当該車両は、前記第1回転電機及び前記第2回転電機を、駆動力を発生する駆動モードと発電動作を行う発電モードとに切り替えて制御すると共に、発電モードに設定した前記第1回転電機及び又は第2回転電機により前記車輪の回転運動を制動する第1制動と、前記内燃機関が生ずる制動力により前記車輪の回転運動を制動する第2制動と、を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記バッテリの充電残量、前記制動装置の温度、及び前記第2回転電機の温度に基づいて、前記第1切替装置、前記第2切替装置、及び前記第3切替装置を接続と非接続とに切り替えることにより、前記第1制動の大きさを切り替え、及び前記第2制動の作動の有無を切り替えるよう構成されている。
本発明の他の態様によると、前記制御装置は、前記バッテリの充電量が所定値Rth1以下であって、前記第2回転電機の温度が所定値Tmth1以下であり、且つ前記制動装置の温度が所定値Toth1以下であるときは、前記第2制動を非作動とし、前記第2回転電機を用いた前記第1制動を行い、前記バッテリの充電量が、前記所定値Rth1より大きな所定値Rth2より大きいときは、前記第1制動を停止し、前記第2制動を作動させる、よう構成されている。
本発明の他の態様によると、前記制御装置は、前記第2回転電機の温度が前記所定値Tmth1より大きな所定値Tmth2を超えていないことを条件として、前記制動装置の温度が前記所定値Toth2以下であるときは、前記第2回転電機により前記第1制動を行い、前記制動装置の温度が前記所定値Toth2を超えるときは、前記第2回転電機に加えて前記第1回転電機を用いて前記第1制動を行う、よう構成されている。
本発明の他の態様によると、前記制御装置は、前記第2回転電機の温度が前記所定値Tmth2を超えているときは、前記制動装置の温度が前記所定値Toth1以下であれば、前記第1制動を停止して前記第2制動を作動させ、前記制動装置の温度が前記所定値Toth1より大きく且つ前記所定値Toth2以下であれば、前記第2制動を作動させ、且つ前記第1回転電機による第1制動を行う、よう構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の構成を示す図である。
図2図1に示す車両においてその一つが適宜選択される複数の減速走行モードの例を示す図である。
図3図1に示す車両における、バッテリのSOCと、第2回転電機の温度と、油圧ブレーキの温度と、に応じた減速走行モードの選択の一例を示す図である。
図4図1に示す車両における走行モード選択処理の手順を示すフロー図である。
図5図4に示す走行モード選択処理の手順の続きを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両の構成を示す図である。本車両100は、例えばハイブリッド車両であり、内燃機関であるエンジン(ENG)102と、第1回転電機104と、第2回転電機106と、を有する。第1回転電機104及び第2回転電機106は、モータとして動作する駆動モードと、発電機として発電動作を行う発電モードの、2つのモードで動作する。第1回転電機104は、主としてエンジン102の駆動力により発電モードで駆動される発電機であり、第2回転電機106は、主として駆動モードで車輪108を駆動するモータである。
【0013】
ここで、図1における図示太線は、エンジン102、第1回転電機104、第2回転電機106、及び車輪108の相互間で回転力(回転トルク)を伝達する回転力伝達経路を、模式的に示したものである。この回転力伝達経路は、例えば回転シャフトやギア等(いずれも不図示)で構成される。また、この回転力伝達経路についてのより詳しい構成については、例えば特許文献1に記載されている。
【0014】
図1において、エンジン102が出力する回転トルクは、第1分岐装置110、第1切替装置112、及び第2分岐装置114を介して車輪108に伝達される。第1切替装置112は、後述する電子制御装置150により制御される例えばクラッチであり、第1分岐装置110と第2分岐装置114との間の回転力伝達経路を接続状態と非接続状態とに切り替える。すなわち、第1切替装置112は、内燃機関であるエンジン102と車輪108との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える。
【0015】
第1分岐装置110には、また、トルクリミッタ116と第2切替装置118とを介して、第1回転電機104が接続されている。第1分岐装置110は、エンジン102の回転力及び又は車輪108から伝達される回転力を、第1回転電機104へ分岐して伝達する。
【0016】
トルクリミッタ116は、エンジン102と第1回転電機104との間での過剰な回転トルクの伝達を防止する。第2切替装置118は、後述する電子制御装置150により制御される例えばクラッチであり、第1分岐装置110と第1回転電機104との間の回転力伝達経路を接続状態と非接続状態とに切り替える。すなわち、第2切替装置118は、内燃機関であるエンジン102と第1回転電機104との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える。
【0017】
第2分岐装置114には、また、第3切替装置120を介して第2回転電機106が接続されている。第2分岐装置114は、第1分岐装置110が出力する回転力及び又は車輪108から伝達される回転力を第2回転電機106へ分岐して伝達する。
【0018】
第3切替装置120は、後述する電子制御装置150により制御される例えばクラッチであり、第2分岐装置114と第2回転電機106との間の回転力伝達経路を接続状態と非接続状態とに切り替える。すなわち、第3切替装置120は、第2回転電機106と車輪108との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える。
【0019】
図1に示すように、第1回転電機104は、第3切替装置120を介することなく、第1切替装置112と第2切替装置118とを介して車輪108と接続されている。また、第2回転電機106は、第1切替装置112及び第2切替装置118を介することなく、第3切替装置120を介して車輪108に接続されている。
【0020】
また、車輪108には、当該車輪108の回転に制動力を与える制動装置である油圧ブレーキ122が設けられている。油圧ブレーキ122は、例えばディスクブレーキであり、ユーザのブレーキペダル(不図示)の操作により車輪108の回転に抵抗を与えて車両100を減速させる。
【0021】
車両100は、また、バッテリ130を備える。バッテリ130は、第1回転電機104及び又は第2回転電機106が駆動モードで動作する場合には、第1回転電機104及び又は第2回転電機106に向けて放電し、電力を供給する。また、バッテリ130は、第1回転電機104及び又は第2回転電機106が発電モードで動作する場合には、第1回転電機104及び又は第2回転電機106が発電した電気により充電される。
【0022】
バッテリ130には、SOCセンサ132が設けられている。SOCセンサ132は、バッテリ130の充電状態(SOC、State Of Charge)、すなわち充電残量(バッテリ130内に蓄えられている放電可能な電力量、又は当該電力量の、満充電時の電力量に対するパーセンテージ)を検知する。
【0023】
また、第1回転電機104には、当該第1回転電機104の温度を検出する第1温度センサ134が設けられており、第2回転電機106には、当該第2回転電機106の温度を検出する第2温度センサ136が設けられている。
【0024】
さらに、油圧ブレーキ122には、当該油圧ブレーキ122の温度を検知する第3温度センサ138が設けられている。
【0025】
車両100は、また、車両100の車速を検知する車速センサ140、ユーザのアクセルペダル操作量を検知するアクセルセンサ142、及びユーザのブレーキペダル操作量を検知するブレーキセンサ144を備える。
【0026】
図1に示すように、車両100は、電子制御装置150を備える。電子制御装置150は、SOCセンサ132、第1温度センサ134、第2温度センサ136、第3温度センサ138、車速センサ140、アクセルセンサ142、及びブレーキセンサ144からの入力に基づいて、車両100の走行を制御する。
【0027】
すなわち、電子制御装置150は、これらの入力に基づいて、エンジン102、第1回転電機104、第2回転電機106、第1切替装置112、第2切替装置118、第3切替装置120、及び油圧ブレーキ122の動作を制御して、車両100の走行を制御する。
【0028】
電子制御装置150は、入出力部152と、処理装置154と、を備える。入出力部152は、電子制御装置150の外部にあるデバイス、センサ、あるいは装置と処理装置154との間の信号の授受を行う入出力インタフェースである。
【0029】
処理装置154は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、プログラムが書き込まれたROM(Read Only Memory)、データの一時記憶のためのRAM(Random Access Memory)等を有するコンピューターである。そして、処理装置154は、機能要素(又は機能ユニット)として、走行制御部160と、エンジン制御部162と、第1回転電機制御部164と、第2回転電機制御部166と、切替装置制御部168と、油圧ブレーキ制御部170と、を有する。
【0030】
処理装置154が備えるこれらの機能要素は、例えば、コンピューターである処理装置154がプログラムを実行することにより実現される。なお、上記コンピューター・プログラムは、コンピューターが読み取り可能な任意の記憶媒体に記憶させておくことができる。
【0031】
上記に代えて、処理装置154が備える上記機能要素の全部又は一部を、それぞれ一つ以上の電子回路部品を含むハードウェアにより構成することもできる。
【0032】
エンジン制御部162は、後述する走行制御部160からの指示により、エンジン102の動作を制御し、エンジン102の回転数、出力トルク等を制御する。第1回転電機制御部164は、後述する走行制御部160からの指示により、第1回転電機104の動作を制御する。より具体的には、第1回転電機制御部164は、第1回転電機104の動作モードを、バッテリ130からの給電により回転力を発生する駆動モードとエンジン102等から与えられる回転力により発電を行う発電モードとに切り替える動作モード切替制御を行う。また、第1回転電機制御部164は、第1回転電機104を駆動モードで動作させるときは、当該第1回転電機104に発生させる回転力(回転トルク)や回転数を、例えば走行制御部160から与えられる目標値に制御する。
【0033】
第2回転電機制御部166は、後述する走行制御部160からの指示により、第2回転電機106の動作を制御する。より具体的には、第2回転電機制御部166は、第2回転電機106の動作モードを、バッテリ130からの給電により回転力を発生する駆動モードとエンジン102等から与えられる回転力により発電を行う発電モードとに切り替える動作モード切替制御を行う。また、第2回転電機制御部166は、第2回転電機106を駆動モードで動作させるときは、当該第2回転電機106に発生させる回転力(回転トルク)や回転数を、例えば走行制御部160から与えられる目標値に制御する。
【0034】
切替装置制御部168は、後述する走行制御部160からの指示により、第1切替装置112、第2切替装置118、第3切替装置120を接続状態と非接続状態とに切り替える接続状態切替制御を行う。
【0035】
油圧ブレーキ制御部170は、後述する走行制御部160からの指示により、油圧ブレーキ122の動作を制御する。
【0036】
走行制御部160は、車速センサ140及びアクセルセンサ142からの信号に基づき、アクセルセンサ142からの信号に応じた(すなわち、アクセルペダルの操作量(押下量)に応じた)車速となるように、車両100の速度を制御する。
【0037】
また、走行制御部160は、第1回転電機104及び又は第2回転電機106を発電モードに設定し、バッテリ130を充電すると共に、第1回転電機104及び又は第2回転電機106により車輪108の回転に制動力を与える回生ブレーキにより、車両100を減速する。具体的には、走行制御部160は、第1回転電機制御部164及び又は第2回転電機制御部166により第1回転電機104及び又は第2回転電機106を発電モードに設定する。そして、走行制御部160は、切替装置制御部168により、車輪108と第1回転電機104及び又は第2回転電機106との間の回転力の伝達経路を接続して、回生ブレーキを実現する。
【0038】
本実施形態では、図1に示すように、第1回転電機104は、第1切替装置112と第2切替装置118とを介して車輪108と接続され、第2回転電機106は、第1切替装置112及び第2切替装置118を介することなく、第3切替装置120を介して車輪108に接続されている。すなわち、車輪108から第2回転電機106に到達するまでの回転力の伝達経路は、車輪108から第1回転電機104に到達するまでの伝達経路に比べて短い。従って、車輪108の回転エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は、第1回転電機104よりも第2回転電機106の方が大きい。このため、本実施形態では、走行制御部160は、第2回転電機106を主とし、第1回転電機104を補助的に用いて、回生動作を行う。
【0039】
走行制御部160は、ブレーキセンサ144によりブレーキペダルが操作されたことを検知したときは、回生ブレーキと油圧ブレーキ122とを用いて目標減速量を実現するいわゆる協調ブレーキ制御を行う。すなわち、走行制御部160は、ブレーキセンサ144からの信号に応じた(すなわち、ブレーキペダルの操作量(押下量)に応じた)目標減速量を実現するように、上記回生ブレーキの実行を制御すると共に、油圧ブレーキ制御部170により油圧ブレーキ122の動作を制御する。
【0040】
特に、例えば長く続く降坂路等を走行しているとき、運転者は必要に応じてブレーキペダルを押下して車両の減速に努めるが、このとき、本実施形態の車両100では、走行制御部160は、バッテリ130のSOC、第2回転電機106の温度、及び油圧ブレーキ122の温度を含む車両状態情報に基づいて、回生ブレーキの制動の大きさを制御し、及びエンジンブレーキの作動の有無を切り替える。ここで、バッテリ130のSOC、第2回転電機106の温度、及び油圧ブレーキ122の温度は、それぞれ、SOCセンサ132、第2温度センサ136、及び第3温度センサ138により検知される。
【0041】
より具体的には、走行制御部160は、上記車両状態情報に基づき、回生ブレーキの制動の大きさ及びエンジンブレーキの使用有無の組み合わせが異なる複数の減速走行モードの中から、一つの減速走行モードを選択する。これらの減速走行モードは、第1回転電機104及び第2回転電機106をそれぞれ回生ブレーキに用いるか否か、及びエンジンブレーキを用いるか否かの組み合わせが異なっている。
【0042】
ここで、発電モードに設定された第1回転電機104及び又は第2回転電機106により車輪108の回転運動を制動する回生ブレーキは、第1制動に対応する。また、内燃機関であるエンジン102が生ずる制動力により車輪108の回転運動を制動するエンジンブレーキは、第2制動に対応する。
【0043】
図2は、走行制御部160においてその一つが選択される複数の減速走行モードの例を示す図である。図示の表には、最左列から順に、走行モードの名称、各減速走行モードにおける第1切替装置112、第2切替装置118、及び第3切替装置120のそれぞれの状態、第1回転電機104、第2回転電機106、及びエンジン102の動作設定、及びその減速走行モードにより実現されるバッテリ130の充電量の相対比較が示されている。
【0044】
なお、図示の表において、最左列から5列目及び6列目の空欄は、それぞれ第1回転電機104及び第2回転電機106が停止状態に設定されることを示す。また、当該5列目及び6列目における「発電」との記載は、それぞれ第1回転電機104及び第2回転電機106が発電モードに設定されることを示す。さらに、図示の表の最左列から7列目の空欄は、エンジン102が停止されてエンジンブレーキが非作動であることを示し、「作動」との記載は、エンジン102が動作状態であってエンジンブレーキが作動していることを示す。
【0045】
図2の表の第2行目の「第1減速走行モード」は、第1切替装置112及び第2切替装置118を非接続状態とし、第3切替装置120を接続状態として、第2回転電機106のみで回生を行い、エンジンブレーキを用いない走行モードである。また、第3行目に示す「第2減速走行モード」は、第1切替装置112及び第3切替装置120を接続状態とし、第2切替装置118を非接続状態として、第2回転電機106のみで回生を行うと共に、エンジンブレーキによる減速も行う走行モードである。
【0046】
図2の表の第4行目の「第3減速走行モード」は、第1切替装置112、第2切替装置118、及び第3切替装置120を全て接続状態として、第1回転電機及び第2回転電機106で回生を行い、エンジンブレーキも用いて減速する走行モードである。また、第5行目に示す「第4減速走行モード」は、第1切替装置112及び第2切替装置118を接続状態とし、第3切替装置120を非接続状態として、第1回転電機104のみで回生を行うと共に、エンジンブレーキによる減速も行う走行モードである。
【0047】
図2の表の第6行目の「第5減速走行モード」は、第1切替装置112を接続状態とし、第2切替装置118及び第3切替装置120を非接続状態として、回生動作を行わず、エンジンブレーキによる減速を行う走行モードである。
【0048】
なお、走行制御部160は、いずれかの回転電機による回生動作を伴う第1〜第4減速走行モードのいずれかの走行モードにおいて、ブレーキセンサ144によりブレーキペダルが操作されたことを検知したときは、その走行モードにおいて、上述した協調ブレーキ制御を実行する。
【0049】
すなわち、第1減速走行モードでは、車両100は、第2回転電機106の回生動作による回生ブレーキと油圧ブレーキ122との協調ブレーキ制御により実現される、ブレーキペダル操作量に応じた減速量で減速する。
【0050】
また、エンジン102がエンジンブレーキとして動作する第2、第3、及び第4減速走行モードでは、車両100は、協調ブレーキ制御による(すなわち、回生動作による回生ブレーキと油圧ブレーキ122とによる)ブレーキペダル操作量に応じた減速量と、エンジンブレーキによる減速量と、が加算された減速量で減速する。また、回生動作を行わない第5減速走行モードにおいてブレーキペダルが操作されたときは、車両100は、油圧ブレーキ122によるブレーキペダル操作量に応じた減速量と、エンジンブレーキによる減速量と、が加算された減速量で減速する。
【0051】
なお、図2の表の最右列の充電量の相対比較は一例である。油圧ブレーキ122が用いられないとした場合、エンジンブレーキを用いない第1減速走行モードでは、減速で失われる車両100の運動エネルギーのほとんどが回生に用いられることとなるため、一般に、第1減速走行モードでの充電量は、エンジンブレーキを用いる第2〜第4減速走行モードでの充電量に比べて多い。
【0052】
また、車両100の同じ量の運動エネルギーを、第1回転電機104単独、第2回転電機106単独、及び第1回転電機104と第2回転電機106の双方、でそれぞれ回生するとすれば、バッテリ130の充電量は、第1回転電機104と第2回転電機106の双方で回生する場合に最も少なくなる。これは、第1回転電機104と第2回転電機106の双方で回生する場合には、第1回転電機104又は第2回転電機106の単独で回生する場合に比べて、車輪108の回転力を伝達する機構部分が多くなり、回生に用いることのできる運動エネルギーが少なくなるためである。従って、第2〜第4減速走行モードの中では、バッテリ130の充電量は、第3減速走行モードが最も少なくなり得る。
【0053】
特に、本実施形態の車両100では、走行制御部160は、バッテリ130のSOCが所定値Rth1(例えば50%)より大きいときは、回生動作による充電量がより少なくなるように、第1減速走行モードを用いない。短時間のうちに満充電状態となって、その後の回生ブレーキの使用が制限されてしまうのを回避するためである。
【0054】
また、走行制御部160は、SOCがほぼ満充電状態に近い所定値Rth2(例えば95%)を超えるときは、第5減速走行モードに設定し、エンジンブレーキを作動させたまま、回生ブレーキを非作動としてバッテリ130の回生充電を行わない。これにより、車両100では、長い降坂路等におけるバッテリ130の無駄な放電を回避し、充放電の繰り返し回数を低減してバッテリ130の寿命低下を防止することができる。
【0055】
また、走行制御部160は、バッテリ130のSOCに加え、第2回転電機106の温度及び油圧ブレーキ122の温度にも基づいて、第1〜第5減速走行モードのいずれかを選択する。すなわち、走行制御部160は、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122がそれぞれ過熱状態にあるか又は過熱状態に接近しつつあるか否かを判断し、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122のうちいずれか過熱状態にあるものの発熱を抑制するように、第1〜第5減速走行モードのいずれかを選択する。これにより、車両100では、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122の過熱状態の持続が回避される。
【0056】
すなわち、車両100では、上記の制御により、例えば長い降坂路の走行において、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122の過熱状態の持続を回避しつつ、充放電の無駄な繰り返しを避けてバッテリ130の寿命低下を防止することができる。
【0057】
より具体的には、走行制御部160は、例えば、図3に示す表に従って、バッテリ130のSOC、第2回転電機106の温度Tm、及び油圧ブレーキ122の温度Toに応じて走行モードを選択する。すなわち、バッテリ130のSOCが所定値Rth1以下であって、第2回転電機106の温度Tm及び油圧ブレーキ122の温度Toがそれぞれ所定値Tmth1及びToth1以下の低温であるときは(ケース1)、充電量の多い第1減速走行モードを選択して走行し、バッテリ130を効率的に充電する。
【0058】
すなわち、走行制御部160は、SOCがRth1以下であるときは、例えば長い降坂路の初盤において未だ第2回転電機106及び油圧ブレーキ122が低温であるうちは、第2制動であるエンジンブレーキを非作動とし、第1制動である回生ブレーキを、第2回転電機106のみにより行う。これにより、走行制御部160は、車輪108により第2回転電機106を効率的に回してバッテリ130を充電する。
【0059】
そして、例えばケース1において第1減速走行モードの走行が開始された後、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いため第2回転電機106が低温のまま油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1より大きく所定値Toth2以下である高温となったときは(ケース2)、走行制御部160は、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を低減すべく、第2回転電機106による回生動作に加えエンジンブレーキを併用する第2減速走行モードを選択する。
【0060】
同様に、例えばケース1において第1減速走行モードの走行が開始された後、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が低いか又はそれほど高くなく、第2回転電機106による回生動作が続いたことにより、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth1より大きく所定値Tmth2以下である高温となる一方、油圧ブレーキ122が低温のまま維持されたときも(ケース4)、走行制御部160は、第2回転電機106の動作量を低減すべく、第2回転電機106による回生動作に加えエンジンブレーキを併用する第2減速走行モードを選択する。
【0061】
また、同様に、例えばケース1において第1減速走行モードの走行が開始された後、第2回転電機106による回生動作が続いたことにより、第2回転電機106の温度Tmが高温となる一方、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量がやや高く、油圧ブレーキ122の温度も高温となったときは(ケース5)、走行制御部160は、第2回転電機106の動作量を低減し及び油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を低減すべく、第2回転電機106による回生動作に加えエンジンブレーキを併用する第2減速走行モードを選択する。
【0062】
また、例えばケース2において第2減速走行モードの走行が開始された後、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いまま維持され、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth2を超える過熱状態となる一方、第2回転電機106が低温のまま維持されたときは(ケース3)、走行制御部160は、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を更に低減して油圧ブレーキ122を冷却すべく、第2回転電機106による回生とエンジンブレーキとに加えて、第1回転電機104をも回生動作に用いて減速量を高める第3減速走行モードを選択する。
【0063】
同様に、例えばケース5において第2減速走行モードの走行が開始された後、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いまま維持され、油圧ブレーキ122の温度Toが過熱状態となる一方、第2回転電機106が高温のまま維持されたときも(ケース6)、走行制御部160は、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を更に低減して油圧ブレーキ122を冷却すべく、第2回転電機106による回生とエンジンブレーキとに加えて、第1回転電機104をも回生動作に用いて減速量を高める第3減速走行モードを選択する。
【0064】
すなわち、走行制御部160は、油圧ブレーキ122の温度が所定値Toth2を超えて過熱状態となったときは、第2回転電機106が過熱状態でないこと(すなわち、第2回転電機106の温度が所定値Tmth2を超えていない高温又は低温であること)を条件として、第2回転電機106に加えて第1回転電機104を用いて回生ブレーキを行うことで、油圧ブレーキ122の温度が過熱状態でないとき(すなわち、所定値Toth2以下であるとき)に比べて、回生ブレーキによる制動力を大きな値に設定する(即ち、第1制動を大きな値に設定する)
【0065】
これにより、回生ブレーキによる制動力が大きくなる分、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が低減され、油圧ブレーキ122の過熱状態が解消され得る。
【0066】
一方、例えばケース4において第2減速走行モードの走行が開始された後、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が低いまま第2回転電機106の回生動作が継続し、油圧ブレーキ122が低温のまま第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超える過熱状態となったときは(ケース7)、走行制御部160は、第2回転電機106の動作を停止して第2回転電機106を冷却すべく、第2回転電機106による回生を行わずエンジンブレーキだけを残す第5減速走行モードを選択する。
【0067】
また、例えばケース7において第5減速走行モードを開始した後に油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高くなったことにより、第2回転電機106が過熱状態のまま油圧ブレーキ122が高温状態となったときは(ケース8)、走行制御部160は、第2回転電機106を停止して冷却したまま、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を低減して油圧ブレーキ122を冷却すべく、エンジンブレーキに加えて、第1回転電機104の回生動作による回生ブレーキを行う第4減速走行モードを選択する。
【0068】
すなわち、走行制御部160は、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超えて過熱状態にあるときは、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1以下である低温状態であれば、第1制動である回生ブレーキを停止して第2制動であるエンジンブレーキを作動させる。また、走行制御部160は、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超えて過熱状態にあるときは、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1より大きく且つ所定値Toth2以下である高温状態であれば、第2制動であるエンジンブレーキを作動させることに加えて、第1回転電機104のみにより第1制動である回生ブレーキを行う。
【0069】
これにより、過熱状態にある第2回転電機106を停止し、当該第2回転電機106の過熱状態の持続を防止することができる。
【0070】
さらに、例えばケース6において第3減速走行モードの走行が開始された後に油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いまま第2回転電機106の回生動作が継続されたことにより、又は、例えばケース8において第4減速走行モードの走行が開始された後に第2回転電機106が冷却されないうちに油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高くなることにより、油圧ブレーキ122及び第2回転電機106の双方が過熱状態となったときは(ケース9)、走行制御部160は、第5減速走行モードを選択して減速すると共に、例えば車両100内に設けられたスピーカ(不図示)などにより、パーキングブレーキを操作して停車するよう運転者に警告を発する。
【0071】
なお、パーキングブレーキを操作して停車するよう運転者に警告を発することに代えて、車両100が電動パーキングブレーキを備えるものとし、走行制御部160は、第5減速走行モードに設定した後、当該電動パーキングブレーキを動作させて車両100を自動停止させるものとしてもよい。
【0072】
一方、バッテリ130のSOCが所定値Rth1より大きく所定値Rth2以下であって、第2回転電機106の温度Tm及び油圧ブレーキ122の温度Toが共に低温であるときは(ケース11)、走行制御部160は、第2減速走行モードを選択し、第2回転電機106の回生動作を行いつつエンジンブレーキにより減速する。すなわち、バッテリ130のSOCが所定値Rth1以下であるケース1とは異なり、充電量の多い第1減速走行モードは用いられない。これにより、上述したように、短時間のうちに満充電状態となってその後の回生ブレーキの使用が制限されてしまうことが回避される。
【0073】
同様に、バッテリ130のSOCが所定値Rth1より大きく所定値Rth2以下であって、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122の一方が低温で他方が高温の場合(ケース12、14)、及び第2回転電機106及び油圧ブレーキ122の双方が高温の場合も(ケース15)、走行制御部160は、第2減速走行モードを選択し、第2回転電機106の回生動作を行いつつエンジンブレーキにより減速する。これにより、走行制御部160は、第2回転電機106による充電量を抑制し且つ第2回転電機106の発熱を抑制すると共に、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を低減してその発熱も抑制することができる。
【0074】
そして、例えば第2回転電機106が低温又は高温であって油圧ブレーキ122が高温であるケース12又はケース15の状況において第2減速走行モードの走行中に油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いまま維持され、油圧ブレーキ122が過熱状態となったときは(ケース13又は16)、走行制御部160は、第3減速走行モードを選択し、エンジンブレーキの使用を継続しつつ、第2回転電機106に加えて第1回転電機104による回生も行う。これにより、走行制御部160は、エンジンブレーキによる減速に加え、回生ブレーキによる減速量を高めて、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を更に低減する。
【0075】
すなわち、走行制御部160は、ケース3及びケース6の場合と同様に、油圧ブレーキ122の温度が所定値Toth2を超える過熱状態となったときは、第2回転電機106が過熱状態でないこと(すなわち、第2回転電機106の温度が所定値Tmth2を超えていないこと)を条件として、第2回転電機106に加えて第1回転電機104を用いて回生ブレーキを行うことで、油圧ブレーキ122の温度が過熱状態でないとき(すなわち、所定値Toth2以下であるとき)に比べて、回生ブレーキによる制動力を大きな値に設定する(即ち、第1制動を大きな値に設定する)
【0076】
これにより、回生ブレーキによる制動力が大きくなる分、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が低減され、油圧ブレーキ122の過熱状態が解消され得る。
【0077】
また、例えばケース14において第2減速走行モードで走行しているときに、油圧ブレーキ122があまり使用されることなく第2回転電機106による回生が継続されたことにより、第2回転電機106が過熱状態となったときは(ケース17)、走行制御部160は、第2回転電機106の動作を停止して第2回転電機106を冷却すべく、第2回転電機106による回生を行わずエンジンブレーキだけを残す第5減速走行モードを選択する。
【0078】
また、例えばケース17において第5減速走行モードを開始した後に油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高くなったことにより、第2回転電機106が過熱状態のまま油圧ブレーキ122が高温状態となったときは(ケース18)、走行制御部160は、第2回転電機106を停止して冷却したまま、油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量を低減して油圧ブレーキ122を冷却すべく、エンジンブレーキに加えて、第1回転電機104の回生動作による回生ブレーキを行う第4減速走行モードを選択する。
【0079】
すなわち、走行制御部160は、ケース8及びケース9の場合と同様に、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超えて過熱状態にあるときは、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1以下である低温状態であれば、第1制動である回生ブレーキを停止して第2制動であるエンジンブレーキを作動させる。また、走行制御部160は、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超えて過熱状態にあるときは、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1より大きく且つ所定値Toth2以下である高温状態であれば、第2制動であるエンジンブレーキを作動させることに加えて、第1回転電機104のみにより第1制動である回生ブレーキを行う。
【0080】
これにより、過熱状態にある第2回転電機106を停止し、当該第2回転電機106の過熱状態の持続を防止することができる。
【0081】
さらに、例えばケース16において第3減速走行モードの走行が開始された後に油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高いまま第2回転電機106の回生動作が継続されたことにより、又は、例えばケース18において第4減速走行モードの走行が開始された後に第2回転電機106が冷却されないうちに油圧ブレーキ122の使用頻度や仕事量が高くなることにより、油圧ブレーキ122及び第2回転電機106の双方が過熱状態となったときは(ケース19)、上述したケース9と同様に、走行制御部160は、第5減速走行モードを選択して減速すると共に、例えば車両100内に設けられたスピーカ(不図示)などにより、パーキングブレーキを操作して停車するよう運転者に警告を発する。
【0082】
なお、ケース9の場合と同様に、パーキングブレーキを操作して停車するよう運転者に警告を発することに代えて、車両100が電動パーキングブレーキを備えるものとし、走行制御部160は、上記のとおり第5減速走行モードに設定した後、当該電動パーキングブレーキを動作させて車両100を停止させるものとしてもよい。
【0083】
さらに、走行制御部160は、バッテリ130のSOCがほぼ満充電状態を示すRth2より大きいときは(ケース21)、第2回転電機106の温度Tm及び油圧ブレーキ122の温度Toにかかわらず、走行モードを第5減速走行モードに設定して、第1制動である回生ブレーキを停止し、第2制動であるエンジンブレーキにより車両100を減速する。
【0084】
これにより、走行制御部160は、例えば長い降坂路の終盤においてバッテリ130がほぼ満充電となったときは、バッテリ130を回生充電することなく、かつ、いずれかの回転電機に通電してバッテリ130を放電させることなく、エンジンブレーキ、又はエンジンブレーキと油圧ブレーキ122とにより車両100を減速する。したがって、車両100では、バッテリ130の過充電が防止されると共に、従来のような無駄な放電による過剰な充放電サイクルが防止されて、バッテリ130の寿命低下が防止される。
【0085】
次に、走行制御部160における走行モード選択処理の手順について、図4及び図5に示すフロー図に従って説明する。本処理は、例えば長く続く降坂路等を走行していることにより、ブレーキペダルを押下する頻度が高い状態、あるいは一回あたりのブレーキペダル押下時間が長い状態が繰り返されているときに開始する。また、ブレーキペダルを押下する頻度が低くなったとき、あるいは一回あたりのブレーキペダル押下時間が長い状態が繰り返す回数が少なくなったときに終了する。なお、ブレーキペダルを押下する頻度が高い状態かどうか、あるいは一回あたりのブレーキペダル押下時間が長い状態が繰り返されているかどうかは、例えば、ブレーキセンサ144からの押下頻度および押下時間情報を基に、電子制御装置150に内蔵されるカウンタにて、それぞれ集計して判断する。
【0086】
図4及び図5の説明において、各減速走行モードにおけるエンジン102、第1回転電機104、第2回転電機106、第1切替装置112、第2切替装置118、及び第3切替装置120の具体的な設定については、図2の表、及び当該表についての上述の記載を援用するものとする。
【0087】
処理を開始すると、走行制御部160は、まず、SOCセンサ132により検知されるバッテリ130のSOCが所定値Rth1(例えば、50%)以下であるか否かを判断する(S100)。そして、SOCがRth1以下であるときは(S100、YES)、走行制御部160は、第2回転電機106が低温であるか否かを判断する(S102)。具体的には、走行制御部160は、第2温度センサ136により検知される第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth1以下であるか否かを判断する。
【0088】
そして、TmがTmth1以下であるとき、すなわち、第2回転電機106が低温であるときは(S102、YES)、走行制御部160は、油圧ブレーキ122が低温であるか否かを判断する(S104)。具体的には、走行制御部160は、第3温度センサ138により検知される油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1以下であるか否かを判断する。
【0089】
そして、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1以下であるとき、すなわち、油圧ブレーキ122が低温であるときは(S104、YES)、走行制御部160は、走行モードを第1減速走行モードに設定した後(S106)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0090】
一方、ステップS100においてSOCがRth1以下でないときは(S100、NO)、走行制御部160は、次に、SOCがほぼ満充電状態を示すRth2(例えば、95%)を超えているか否かを判断する(S130)。そして、SOCがRth2を超えているときは(S130、YES)、走行制御部160は、走行モードを第5減速走行モードに設定した後(S132)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0091】
一方、ステップS104において、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth1を超えており、油圧ブレーキ122が低温ではないと判断されるときは(S104、NO)、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が高温状態であるか否かを判断する(S108)。具体的には、走行制御部160は、所定値Toth1を超えた油圧ブレーキ122の温度Toが、所定値Toth2以下であるか否か、すなわち、Toが所定値Toth1より大きく所定値Toth2以下の範囲であるか否かを判断する。
【0092】
そして、油圧ブレーキ122が高温であるときは(S108、YES)、走行制御部160は、走行モードを第2減速走行モードに設定した後(S110)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0093】
一方、ステップS108において油圧ブレーキ122が高温でないとき(S108、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth2より大きいときは(すなわち、過熱状態であるときは)、走行制御部160は、走行モードを第3減速走行モードに設定した後(S112)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0094】
また、一方、ステップS102において第2回転電機106が低温でないとき(S102、NO)、すなわち第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth1を超えているときは、走行制御部160は、次に、第2回転電機106が高温であるか否かを判断する(S114)。具体的には、走行制御部160は、所定値Tmth1を超えている第2回転電機106の温度Tmが、所定値Tmth2以下であるか否か、すなわち、Tmが所定値Tmth1より大きく所定値Tmth2以下の範囲であるか否かを判断する。
【0095】
そして、第2回転電機106が高温であるときは(S114、YES)、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が過熱状態であるか否かを判断する(S116)。具体的には、走行制御部160は、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth2より大きいか否かを判断する。
【0096】
そして、油圧ブレーキ122が過熱状態でないとき(S116、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122の温度Toが所定値Toth2以下であって、油圧ブレーキ122が低温又は高温であると判断できるときは、走行制御部160は、ステップS110に処理を移して、走行モードを第2減速走行モードに設定した後、ステップS100に戻って処理を繰り返す。一方、油圧ブレーキが過熱状態であるとき(S116、YES)、走行制御部160は、ステップS112に処理を移して、走行モードを第3減速走行モードに設定した後、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0097】
一方、ステップS114において第2回転電機106が高温でないとき(S114、NO)、すなわち、第2回転電機106の温度Tmが所定値Tmth2を超えていて、第2回転電機106が過熱状態であると判断できるときは、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が高温(すなわち、Toth1<To≦Toth2)であるか否かを判断する(S118)。そして、油圧ブレーキ122が高温であるときは(S118、YES)、走行制御部160は、走行モードを第4減速走行モードに設定した後(S120)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0098】
一方、ステップS118において油圧ブレーキ122が高温でないとき(S118、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122の温度ToがToth1<To≦Toth2の範囲でないときは、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が低温(すなわち、To≦Toth1)であるか否かを判断する(S122)。そして、油圧ブレーキ122が低温であるときは(S122、YES)、走行制御部160は、走行モードを第5減速走行モードに設定した後(S124)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0099】
一方、ステップS122において油圧ブレーキ122が低温でないとき(S122、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122が高温(Toth1<To≦Toth2)でも低温(To≦Toth1)でもなく、従って過熱状態(To>Toth2)であると判断できるときは(すなわち、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122が共に過熱状態であるときは)、走行制御部160は、走行モードを第5減速走行モードに設定して車両100を減速させる(S126)。そして、車両100の運転者に、パーキングブレーキを用いて車両100を停車するように警告を発して車両100を停車させた後(S128)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0100】
これにより、車両100では、第2回転電機106が過熱状態(ステップS102、114が共にNO)であって、且つ油圧ブレーキ122も過熱状態(ステップS118、122が共にNO)であるという、走行にとって危険な異常状態が生じた場合には、安全に停車して第2回転電機106及び油圧ブレーキ122を冷却することができる。
【0101】
一方、図4のステップS130においてSOCが所定値Rth2を超えていない場合(S130、NO)、すなわち、SOCがRth1<SOC≦Rth2の範囲にあるときは、走行制御部160は、図5のステップS200に処理を移し、第2回転電機106が低温(即ち、Tm≦Tmth1)であるか否かを判断する(S200)。
【0102】
そして、第2回転電機106が低温であるときは(S200、YES)、走行制御部160は、油圧ブレーキ122が過熱状態(即ち、To>Toth2)であるか否かを判断する(S202)。その結果、油圧ブレーキ122が過熱状態でないとき(S202、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122が低温(To≦Toth1)又は高温(Toth1<To≦Toth2)であるときは、走行制御部160は、走行制御部160は、走行モードを第2減速走行モードに設定した後(S210)、図4のステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0103】
一方、ステップS202において、油圧ブレーキ122が過熱状態であるときは(S202、YES)、走行制御部160は、走行モードを第3減速走行モードに設定した後(S212)、図4のステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0104】
また、一方、ステップS200において第2回転電機106が低温(Tm≦Tmth1)でないときは(S200、NO)、走行制御部160は、次に、第2回転電機106が高温(Tmth1<Tm≦Tmth2)であるか否かを判断する(S214)。
【0105】
そして、第2回転電機106が高温であるときは(S214、YES)、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が過熱状態(To>Toth2)であるか否かを判断する(S216)。
【0106】
そして、油圧ブレーキ122が過熱状態でないとき(S216、NO)、すなわち、油圧ブレーキ122が低温又は高温であるときは、走行制御部160は、ステップS210に処理を移して、走行モードを第2減速走行モードに設定した後、図4のステップS100に戻って処理を繰り返す。一方、油圧ブレーキが過熱状態であるとき(S216、YES)、走行制御部160は、ステップS212に処理を移して、走行モードを第3減速走行モードに設定した後、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0107】
一方、ステップS214において第2回転電機106が高温でないとき(S214、NO)、すなわち、第2回転電機106が過熱状態であるときは、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が高温(すなわち、Toth1<To≦Toth2)であるか否かを判断する(S218)。そして、油圧ブレーキが高温であるときは(S218、YES)、走行制御部160は、走行モードを第4減速走行モードに設定した後(S220)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0108】
一方、ステップS218において油圧ブレーキ122が高温でないとき(S218、NO)、走行制御部160は、次に、油圧ブレーキ122が低温(To≦Toth1)であるか否かを判断する(S222)。そして、油圧ブレーキ122が低温であるときは(S222、YES)、走行制御部160は、走行モードを第5減速走行モードに設定した後(S224)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0109】
一方、ステップS222において油圧ブレーキ122が低温でないとき(S222、NO)、すなわち、第2回転電機106及び油圧ブレーキ122が共に過熱状態であると判断されるときは、走行制御部160は、走行モードを第5減速走行モードに設定して車両100を減速させる(S226)。そして、車両100の運転者にパーキングブレーキを用いて車両100を停車するように警告を発して車両100を停車させた後(S228)、ステップS100に戻って処理を繰り返す。
【0110】
これにより、車両100では、Rth1<SOC≦Rth2であるときも、第2回転電機106が過熱状態(ステップS102、114が共にNO)であって、且つ油圧ブレーキ122も過熱状態(ステップS118、122が共にNO)であるという、走行にとって危険な異常状態が生じた場合には、安全に停車して第2回転電機106及び油圧ブレーキ122を冷却することができる。
【0111】
以上説明したように、本実施形態に係る車両100は、エンジン102と車輪108との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第1切替装置112と、エンジン102と第1回転電機104との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第2切替装置118と、第2回転電機106と車輪108との間の回転力の伝達を接続状態と非接続状態とに切り替える第3切替装置120と、を備える。そして、処理装置154の走行制御部160は、バッテリ130の充電残量SOC、第2回転電機106の温度Tm、及び油圧ブレーキ122の温度Toに基づいて、第1切替装置112、第2切替装置118、及び第3切替装置120を接続と非接続とに切り替えることにより、第1回転電機104及び又は第2回転電機106により行われる回生ブレーキの制動力の大きさを切り替えると共に、エンジン102によるエンジンブレーキの使用有無を切り替える。
【0112】
これにより、車両100では、長い降坂路等での走行に伴う第2回転電機及び油圧ブレーキ122の過熱状態の持続を回避しつつ、バッテリ充放電の無駄な繰り返しを避けてバッテリ寿命の低下を防止することができる。
【0113】
なお、上述した実施形態では、第1温度センサ134により第1回転電機104の温度を取得するものとしたが、これには限られない。第1温度センサ134に代えて、例えば、第1回転電機104の現在の直流抵抗値その他の電気的特性値等に基づいて第1回転電機104の温度を推定する温度推定器により、第1回転電機104の温度を取得するものとしてもよい。
【0114】
同様に、上述した実施形態では、第2温度センサ136により第2回転電機106の温度を取得するものとしたが、これには限られない。第2温度センサ136に代えて、例えば、第2回転電機106の現在の直流抵抗値その他の電気的特性値等に基づいて第2回転電機106の温度を推定する温度推定器により、第2回転電機106の温度を取得するものとしてもよい。
【0115】
また、上述した実施形態では、第3温度センサ138により油圧ブレーキ122の温度を取得するものとしたが、これには限られない。第3温度センサ138に代えて、例えば、油圧ブレーキ122の材料物性値等に基づいて油圧ブレーキ122の温度を推定する温度推定器により、油圧ブレーキ122の温度を取得するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
100…車両、102…エンジン、104…第1回転電機、106…第2回転電機、108…車輪、110…第1分岐装置、112…第1切替装置、114…第2分岐装置、116…トルクリミッタ、118…第2切替装置、120…第3切替装置、122…油圧ブレーキ、130…バッテリ、132…SOCセンサ、134…第1温度センサ、136…第2温度センサ、138…第3温度センサ、140…車速センサ、142…アクセルセンサ、144…ブレーキセンサ、150…電子制御装置、152…入出力部、154…処理装置、160…走行制御部、162…エンジン制御部、164…第1回転電機制御部、166…第2回転電機制御部、168…切替装置制御部、170…油圧ブレーキ制御部。
図1
図2
図3
図4
図5