(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載される、センサ、制御装置、アクチュエータなどからなる一連のシステムに含まれる電気・電子機器などのハードウェアおよびソフトウェアは、規格に適合することが求められており、自動車に搭載される電力変換装置もその例外ではない。そのため、自動車に搭載される電力変換装置は、機能の正常性を侵害する可能性のある状態を検出したとき、予め定められた動作状態に遷移するまでの時間であるFTTI(fault tolerant time interval)を短くすることが求められるとともに、確実にその予め定められた動作状態に遷移することが求められている。
【0003】
そこで、従来の自動車に搭載される電力変換装置は、各種部材の機能の状態の検出を間接的に行なうのではなく直接的に行なうことで、FTTIを短くするように構成されている。
【0004】
また、FTTIを考慮した従来の装置の例として、特許文献1に開示された従来の電子制御装置は、故障時の車両の動作を制御する主記憶装置を備え、主記憶装置は、機能ごとに区分けされた複数のレベルの領域を有し、複数のレベルの領域における判断に基づいて車両の故障を検出し、車両の故障を検出した場合に、エンジン回転速度が予め定められた値よりも大きいか否かと、点火遅延継続時間が予め定められた時間よりも大きいか否かと、に基づいてスロットルを閉状態に制御し、FTTIを短くするように構成されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、機能の正常性と利便性を両立させながらリスクを低減させることを目的として、車両が走行を継続する場合に発生し得るリスクを算出し、車両の走行に関する機能のうちの少なくとも一部の機能の制限を、リスクのレベルに応じて異なる制限度合いで実施するようにした車両の制御装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、従来の電力変換装置は、電力変換装置の機能の状態を直接検出することでFTTIの短縮を図っているが、それ以外にFTTIを短縮する手段を有していない。また、前述の機能の正常性を侵害する可能性のある状態を検出したとき、予め定められた動作状態へ確実に移行させるために、各種部材の機能のばらつき、ノイズなどを考慮して機能制約のマージンを多めに取ることとなり、その結果、過剰に機能を制約すること、もしくは異常状態を誤検出することなどのリスクが高くなるという課題があった。
【0008】
本願は、前述のような課題を解決するための技術を開示するものであり、FTTIの短縮を可能としつつ、性能を最大限に利用することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される電力変換装置は、
車両に搭載される電力変換装置であって、
前記電力変換装置の内部部材の機能の状態を示す機能情報と、前記電力変換装置に関与する外部部材の機能の状態を示す機能情報と、のうちの少なくとも一方の機能情報を検出し得るように構成された複数の検知機能部と、
前記複数の検知機能部がそれぞれ検出した前記機能情報が複数のレベル領域のうちの何れのレベル領域に属するかを判定するように構成されたレベル判定部と、
前記レベル判定部による前記判定の結果と、前記検知機能部が検出した前記機能情報と、に基づいて決定した動作モードにより、前記電力変換装置を制御するように構成された制御部と、
前記レベル判定部による前記判定の結果が変化したとき、前記複数の検知機能部が検出した
前記少なくとも一方の機能情報と前記動作モードの情報と時刻情報とを、メモリに保存して学習するように構成された自己学習機能部と、
前記自己学習機能部が学習した前記情報に基づいて、前記レベル判定部による前記判定の結果が変化した前記機能情報に対する正常性侵害の関連性を確認し、前記確認した関連性に応じて前記レベル判定部による前記判定の閾値と判定時間とのうちの少なくとも一方を変更し得るように構成された自己調整機能部と、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される電力変換装置によれば、FTTIの短縮を可能としつつ、性能を最大限に利用することができる電力変換装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、実施の形態1による電力変換装置について説明する。
図1は、実施の形態1による電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
図1において、自動車に搭載される電力変換装置10は、周知のように、電力変換装置の内部部材として、例えば複数個の半導体スイッチング素子からなる三相ブリッジ回路、平滑コンデンサ、フィルタ回路、シャント抵抗、および制御回路などの部材および回路を備えている。このように構成される電力変換装置は、その直流側端子が直流電源としての車載バッテリに接続され、交流側端子が交流回転電機に接続され、車載バッテリと交流回転電機との間の電力変換を行なうものである。また、電力変換装置には、外部部材としての前述の車載バッテリ、および各種センサなどが接続される。
【0013】
実施の形態1による電力変換装置10は、前述の内部部材、回路のほか、複数の検知機能部101と、レベル判定部102と、制御部103と、時刻情報部104と、自己学習機能部105と、自己調整機能部106と、を備えている。複数の検知機能部101と、レベル判定部102と、制御部103と、時刻情報部104と、自己学習機能部105と、自己調整機能部106との少なくとも一部は、メモリに保存されたプログラムからなるソフトウェアにより構成されている。
【0014】
複数の検知機能部101は、電力変換装置10の内部の機能の状態を示す機能情報と、電力変換装置10の外部の機能の状態を示す機能情報を検出し得るように構成されている。ここで、内部の機能の状態とは、電力変換装置10を構成する前述の半導体スイッチング素子などの部材、および三相ブリッジ回路などの回路の、電気的機能の状態および機械的機能の状態を指している。また、外部の機能の状態とは、電力変換装置10に接続される各種センサ、車載バッテリ、回転電機などの部材、機器、および電力変換装置10を支持する構造部材などの、電気的機能の状態および機械的機能の状態を指している。
【0015】
実施の形態1では、検知機能部101は、検知機能部_1、検知機能部_2、・・・検知機能部_n(nは正の整数)の、複数の機能検知部により構成されている。そして、例えば、機能検知部_1は、電力変換装置10の内部の三相ブリッジ回路の機能の状態を検出し、機能検知部_2は、電力変換装置10の内部の半導体スイッチング素子の機能の状態を検出し、機能検知部_nは、電力変換装置10に接続される外部の車載バッテリの機能の状態を検出するなどのように、それぞれの機能検知部ごとに検出する機能の状態が異なるように役割が分担されている。
【0016】
レベル判定部102は、複数の検知機能部101が検知した電力変換装置10の内部と外部の電気的状態および機械的状態の、それぞれの正常性を監視するものであり、後述するように、複数の検知機能部101が検知した電力変換装置10の内部と外部の電気的状態および機械的状態のレベルを、機能検出部_1、機能検出部_2、・・・機能検出部_nごとに判定する。制御部103は、検知機能部101とレベル判定部102からの情報に基づいて、電力変換装置10を複数の動作モードの何れかで制御する。
【0017】
RAM(Random Access Memory)などのメモリを備えた自己学習機能部105は、レベル判定部102のレベル判定の変化をトリガとして、複数の検知機能部101からの情報と、制御部103からの動作モードに関する情報と、時刻情報部104からの時刻に関する情報と、を取得してメモリの不揮発領域に保存することで学習する。自己調整機能部106は、レベル判定部102におけるレベル判定の閾値と、機能検知部による機能情報の判定に要する時間である判定時間と、のうちの少なくとも一方を自己調整するように構成されている。
【0018】
次に、レベル判定部102の動作について説明する。
図2は、実施の形態1による電力変換装置におけるレベル判定部の動作を示すフローチャートである。
図2において、まず、ステップ201では、レベル判定部102は、複数の検知機能部101が検出した機能情報を取得する。つぎに、ステップ202において、レベル判定部102は、複数の検知機能部101が検知した機能情報の正常性チェックを行なう。
【0019】
ステップ202における正常性チェックは、レベル判定部102により行われ、電力変換装置10の内部と外部の電気的状態および機械的状態を示す機能情報の正常性のチェック、ひいては複数の検知機能部101が機能情報の検出対象としている電力変換装置10の前述の内部部材、および外部部材の正常性のチェックを行なうものである。
【0020】
ステップ202にて行う機能情報の正常性チェックは、複数の検知機能部101ごとに自己調整機能部106から指定されたレベル判定のための閾値および判定時間にしたがって、各機能情報のレベルを、「正常レベル」、「異常レベル低」、「異常レベル高」などの領域にランク付けをおこなうレベル判定により実施する。ここで、「異常レベル低」とは、対象とする部材もしくは回路の単一の機能では正常性の侵害にはならないレベルの異常を意味し、「異常レベル高」とは、対象とする部材もしくは回路の単一の機能で正常性の侵害につながるレベルの異常を意味する。
【0021】
つぎに、ステップ203において、レベル判定部102は、各検知機能部101が検出した機能情報に対するレベル判定の結果を制御部103に通知する。そして前述の一連の動作を繰り返す。
【0022】
自己調整機能部106から指定されたレベル判定のための閾値および判定するまでの時間は、対象とする部材の機能不全によって正常性を侵害しないために満たすべき閾値及び時間をベースとするものであり、製品のばらつき、およびノイズの重畳も加味し、より厳しい閾値及び時間に設定される。
【0023】
次に、制御部103の動作について説明する。
図3は、実施の形態1による電力変換装置における制御部の動作を示すフローチャートであって、電力変換装置10の内部部材もしくは外部部材の機能の正常性を侵害する可能性のある状態を検出したとき、予め定められた動作モードへ移行する動作を示している。
図3において、まず、制御部103は、ステップ301において、複数の検知機能部101およびレベル判定部102から情報を取得する。つぎに、ステップ302において、制御部103は、レベル判定部102から取得したレベル判定の結果の通知に、正常レベル判定以外の通知があるか否か、つまり全ての検知機能部101からの検知機能が正常レベルであるか否かを確認する。
【0024】
ステップ302での確認の結果、全てのレベル判定の結果が正常レベルである場合(NO)は、ステップ307に進み、検知機能部101からの情報に基づいて、制御部103は電力変換装置10の通常制御を実施する。一方、ステップ302での確認の結果、複数の検知機能部101のうちの何れかの検知機能が正常レベルでないと判定されていた場合(YES)は、ステップ303に進む。
【0025】
ステップ303では、制御部103は、現在の動作モードを確認し、正常レベル判定以外となった機能情報の判定レベルと、その正常レベル以外となった判定レベルが連続した回数とが、予め定められた規定条件を超えたか否かを確認する。ステップ303での確認の結果、正常レベル判定以外となった機能情報の判定レベルと、その正常レベル以外となった判定レベルが連続した回数とが、予め定められた規定条件を超えたことを確認した場合(YES)は、ステップ305に進む。
【0026】
ステップ305において、制御部103は、正常レベル判定以外となった機能情報に正常性の侵害につながる故障が発生していると判断して、電力変換装置10を予め定められた動作モードに移行させる。ここで、予め定められた動作モードとは、例えば、故障が発生している部材の機能に一定の制限を加えるような電力変換装置10の動作モードであって、特に問題のない動作モードである。次に、ステップ306において、制御部103は、自己学習機能部105へ学習不可であることを通知して、そのままの動作モードで待機する。
【0027】
一方、ステップ303での確認の結果、正常レベル判定以外となった機能情報の判定レベルと、その判定レベルが連続した回数が、予め定められた規定条件を超えていないことを確認した場合(NO)は、ステップ304に進み、制御部103は、自己学習機能部105に学習許可を通知してステップ307に進む。ステップ307では、制御部103は、検知機能部101からの情報に基づいて電力変換装置10を通常制御し、一連のフローを繰り返す。
【0028】
次に、自己学習機能部105の動作について説明する。
図4は、実施の形態1による電力変換装置における自己学習機能部の動作を示すフローチャートである。
図4において、まず、ステップ401において、自己学習機能部105は、レベル判定部102からレベル判定の変化を検知したかを確認し、レベル判定の変化を検知しなかった場合(NO)は、自己学習モードを終了する。一方、ステップ401においてレベル判定部102からレベル判定の変化を検知した場合(YES)は、ステップ402に進み、複数の検知機能部101が検出した機能情報と、制御部103の動作モードと、時刻情報部104から時刻情報を取得する。
【0029】
次に、ステップ403において、自己学習機能部105は、制御部103から自己学習許可の通知を受けたか否かを確認し、自己学習許可の通知を受けた場合(YES)は、ステップ405に進んで、各種のデータ、すなわちステップ402で取得した複数の検知機能部101が検出した機能情報と、制御部103の動作モードと、時刻情報部104から時刻情報をメモリの不揮発領域に保存して自己学習し、次の自己調整モードに移行する。一方、ステップ403での確認の結果、制御部103から自己学習許可の通知を受けていない場合(NO)は、ステップ404に進んで、ステップ402で取得した情報を保存せず、つまり自己学習せず、モードを終了する。
【0030】
なお、自己学習機能部105の不揮発領域へのアクセスは、前述の自己学習時以外に、通常動作モードでは移行できず、デバックモード時のみでアクセス可能とするように構成されている。したがって、製造ラインで測定した製品ばらつきを加味してレベル判定の閾値及び判定時間に変更することができる。
【0031】
次に、自己調整機能部106の動作について説明する。
図5は、実施の形態1による電力変換装置における自己調整機能部の動作を示すフローチャートである。まず、ステップ501において、前述のように自己学習許可の通知を受けてメモリの不揮発領域に保存した各種データに対して、過去に自己学習した条件との類似性の有無を判断し、類似性があると判断した場合(YES)は、ステップ504に進み、類似性がないと判断した場合(NO)は、ステップ502に進む。
【0032】
ステップ504に進むと、自己調整機能部106は、複数の検知機能部101のうちレベル変化した何れかの検知機能部が検出した機能情報と正常性侵害との関連性と、制御部103の動作モード、レベル区分に基づいて、レベル判定の閾値とレベル判定部102での判定時間を見直す。すなわち、現在の判定の閾値および判定時間は、過剰な機能の制約となる条件又は誤検出し易い条件であるとみなし、複数の検知機能部101のうちの該当の検知機能部からの機能情報と正常性侵害の関連性とを確認する。正常性侵害の条件が複数存在する場合は、正常性侵害の関連性が一番強い条件から順に、レベル判定の閾値および判定時間の見直しを実施する。
【0033】
一方、ステップ501において、自己学習許可の通知を受けてメモリの不揮発領域に保存した各種データに対して、過去に自己学習した条件との類似性がないと判断した場合(NO)は、ステップ502に進んで、該当の検知機能部101からの機能情報のレベル判定に変化があった周期を確認し、その発生周期が短くなっている傾向があるかどうかを確認する。ステップ502での確認の結果、検知機能部101からの機能情報のレベル判定に変化が発生した周期が短くなっている傾向が有ることを確認した場合(YES)は、ステップ505に進み、検知機能部101からの機能情報のレベル判定に変化が発生した周期が短くなっている傾向がないことを確認した場合(NO)は、ステップ503に進む。
【0034】
ステップ502からステップ505に進むと、劣化していると判定として、検知機能部からの機能情報と正常性侵害との関連性、動作モード、レベル区分に基づいて、レベル判定の閾値とレベル判定の時間を見直す。すなわち、該当の検知機能部101からの機能情報が劣化しているとみなし、該当の検知機能部101からの機能情報と正常性侵害との関連性を確認する。正常性侵害の条件が複数ある場合は、関連性の一番強い条件から順に、劣化を考慮しながらレベル判定の閾値および判定時間の見直しを実施する。
【0035】
一方、ステップ502での確認の結果、該当の検知機能部101からの機能情報に対するレベル判定に変化が発生した周期が短くなる傾向性がなかった場合(NO)は、ステップ503に進んで自己調整すべき条件はないと判断して自己調整を行わず、自己調整モードを終了する。
【0036】
ステップ504又はステップ505にて自己調整した場合、ステップ506に進み、見直した検知機能部と関連する検知機能部の有無を確認し、関連する検知機能部がある場合(YES)は、ステップ507に進んで該当の検知機能部101についても、ステップ504又はステップ505で見直した検知機能部と同様のフローでレベル判定の閾値および判定時間の見直しを実施する。次にステップ508において、見直した数値をレベル判定部102に通知し、レベル判定の閾値と判定時間を変更し、自己学習機能部105の不揮発領域に保管して、自己調整モードを終了する。一方、ステップ506での確認の結果、見直した検知機能部と関連する検知機能部がなければ(NO)、自己調整モードを終了する。
【0037】
以上のように、実施の形態1によれば、正常性侵害につながる検知機能部101からの機能情報に対応する部材もしくは回路の機能不全をレベル判定部102が判定し、制御部103が最短条件で予め定められた動作モードへ移行するため、FTTIを短くすることを可能とし、且つ誤検出及び劣化による影響を自己学習機能部105及び自己調整機能部106により低減しつつ、性能を最大限使えるように自己調整できる電力変換装置を提供することができる。
【0038】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるものではない。従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。