特許第6800413号(P6800413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800413シュウ酸塩の分解方法、及びシュウ酸塩の分解のための錯化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800413
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】シュウ酸塩の分解方法、及びシュウ酸塩の分解のための錯化合物
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/44 20060101AFI20201207BHJP
   C07C 55/06 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 211/09 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 215/08 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 217/08 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 211/21 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 211/03 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20201207BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20201207BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20201207BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20201207BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20201207BHJP
   C07F 15/04 20060101ALN20201207BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20201207BHJP
   C07F 9/00 20060101ALN20201207BHJP
   C07F 1/08 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C22B3/44
   C07C55/06CSP
   C07C211/09
   C07C215/08
   C07C217/08
   C07C211/21
   C07C211/03
   C07C211/27
   C22B47/00
   C22B23/00 102
   C22B15/00
   C22B19/20
   !C07F15/04
   !C07F15/02
   !C07F9/00 A
   !C07F1/08 C
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-256050(P2015-256050)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119891(P2017-119891A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正人
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 貴成
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−031542(JP,A)
【文献】 特開2014−040630(JP,A)
【文献】 特開2014−034690(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/060084(WO,A1)
【文献】 特開2012−012619(JP,A)
【文献】 特開2011−074410(JP,A)
【文献】 特開昭59−185770(JP,A)
【文献】 特開昭53−095139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位高分子構造を有する、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも一種の第一遷移金属のシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンを含む混合物とを、該シュウ酸塩の分解温度以下の温度で加熱して分解させる熱分解工程を含むことを特徴とする、シュウ酸塩の分解方法。
【請求項2】
前記熱分解工程が、配位高分子構造を有するシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンとの混合物を第一の温度に加熱してシュウ酸塩とアミンを含む錯化合物を生成させる第一工程と、当該錯化合物を第一の温度よりも高い第二の温度に加熱して分解させる第二工程を含み、該第二の温度が、該シュウ酸塩の分解温度以下の温度であることを特徴とする、請求項1に記載のシュウ酸塩の分解方法。
【請求項3】
前記熱分解工程の少なくとも一部を不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載のシュウ酸塩の分解方法。
【請求項4】
前記1級アミノ基を有するアミンが、更に電子供与性を示す他の置換基を少なくとも一種有するアミンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシュウ酸塩の分解方法。
【請求項5】
前記電子供与性を示す置換基が、1〜3級アミノ基、水酸基、アルコキシル基、カルボキシル基、フェニル基から選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項4に記載のシュウ酸塩の分解方法。
【請求項6】
配位高分子構造を有する、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも一種の第一遷移金属のシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンからなることを特徴とする錯化合物。
【請求項7】
前記1級アミノ基を有するアミンが、更に電子供与性を示す他の置換基を有するアミンであることを特徴とする請求項6記載の錯化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属のシュウ酸塩を分解することで金属又はその酸化物等を得る方法、及びその過程で使用する錯化合物に関するものである。また、当該方法において種々の形態の金属やその酸化物等を生成させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄された工業製品や工業製品の生産工程で生じる廃棄物には、種々の金属元素が様々な形態で含まれている。これらを回収して金属として工業原料に再利用することは特に環境保全や資源保護の観点から重要であり、各種の混合物から各種金属を分離して抽出する種々の方法が提案されている。また、金属の用途によっては、目的とする金属に含有される不純物を低減することが必要とされ、所定の純度を有する金属を容易に製造する方法が望まれている。このような金属の分離や精製の過程では、各金属元素が有する物性の違いを利用して、複数の化学的・物理的過程を経ることで目的とする金属を得ることが一般的である。
【0003】
上記金属の分離精製に使用される手段の一つとして、例えば、特許文献1には、各種の遷移金属イオンを含む水溶液に対して所定の条件でシュウ酸を加えて金属のシュウ酸塩を生成させ、このシュウ酸塩の溶解度が低いことを利用して目的金属をシュウ酸塩として沈殿させて分離する手段が記載されている。そして、分離された金属のシュウ酸塩は、その後に還元雰囲気で熱分解させて金属としたり、酸化雰囲気で熱分解させて金属酸化物等を生成させて、各種用途に使用される。当該手段によれば、金属の種類によって各種条件におけるシュウ酸塩の溶解度が異なることを利用して、容易に金属の種類に応じた分離が可能である。また、金属のシュウ酸塩は、その後の不純物やコスト増加の原因となる還元剤、酸化剤等を使用することなく加熱処理のみで熱分解するため(特許文献2〜4)、純度の高い金属や金属酸化物の原料として使用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51−125605号公報
【特許文献2】特開昭59−185770号公報
【特許文献3】特開2011−74410号公報
【特許文献4】特開2012−12619号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Schmitter, Crystal Res. Technol. 19(9) 1225-1230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記説明したように、特に水溶液中に存在する金属元素をシュウ酸塩を経由して回収し、金属や金属酸化物を得る方法は、溶融法を用いた精錬等と比較して小規模で効率的な金属原子の分離精製が可能となる点で有用である。
しかしながら、例えば、特許文献2〜4に記載されるように、遷移金属のシュウ酸塩を熱分解させて金属や金属酸化物を得るためには、依然として300〜800℃程度での熱処理が必要であり、実用面での障害になると共に、特に金属を得ようとする際には熱処理過程における再酸化等を防止するために所定の設備が必要となる。
そこで、本発明は、そのような問題点を解決するために、各種の遷移金属のシュウ酸塩をより低い温度で熱分解して、シュウ酸塩に含まれる遷移金属原子を金属等として得るための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下のことを特徴としている。
つまり、本発明は、配位高分子構造を有するシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンとを含む混合物を加熱して分解させる熱分解工程を含むことを特徴とする、シュウ酸塩の分解方法に関する。当該発明によれば、当該シュウ酸塩が本来示す分解温度よりも低い温度でシュウ酸塩が分解可能となる。
【0008】
また、本発明は、上記のシュウ酸塩の分解方法において、更に以下の各特徴を有するシュウ酸塩の分解方法に関する。
(1)前記熱分解工程が、配位高分子構造を有するシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンの混合物を第一の温度に加熱してシュウ酸塩とアミンを含む錯化合物を生成させる第一工程と、当該錯化合物を第一の温度よりも高い第二の温度に加熱して分解させる第二工程を含む。
(2)前記熱分解工程の少なくとも一部を不活性ガス雰囲気中で行う。
(3)前記1級アミノ基を有するアミンとして、更に電子供与性を示す他の置換基を少なくとも一種有するアミンを使用する。
(4)前記電子供与性を示す置換基が、1〜3級のアミノ基、水酸基、アルコキシル基、カルボキシル基、フェニル基から選択される少なくとも一種の置換基である。
(5)前記配位高分子構造を有するシュウ酸塩が、第一遷移金属のシュウ酸塩である。
(6)前記第一遷移金属が、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも一種の金属である。
【0009】
また、本発明は、遷移金属のシュウ酸塩と1級アミノ基を有するアミンからなることを特徴とする錯化合物に関する。当該錯化合物を用いることで、錯化合物に含まれる遷移金属のシュウ酸塩が本来示す分解温度よりも低い温度でシュウ酸塩を分解して、シュウ酸塩に含まれる遷移金属原子を分離することが可能である。
更に、本発明は、上記錯化合物において、更に以下の各特徴を有する錯化合物に関する。
(1)前記遷移金属が第一遷移金属である。
(2)前記第一遷移金属が、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選択される少なくとも一種の金属である。
(3)前記1級アミノ基を有するアミンが、更に電子供与性を示す他の置換基を有するアミンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遷移金属のシュウ酸塩の熱分解を、液相中において従来よりも温和な条件で行うことが可能となり、より簡便に遷移金属のシュウ酸塩から金属等を得ることが可能となる。また、当該シュウ酸塩の熱分解を生じる環境に各種の物質を介在させることで、得られる金属等の形態を制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】シュウ酸銅における配位高分子構造を示す図である。
図2】本発明により得られたシュウ酸銅とアミンの錯化合物の構造を示す図である。
図3】(a)シュウ酸銅と、(b)本発明で得られたシュウ酸銅とアミンの錯化合物についての熱重量分析の結果を示す図である。
図4】(a)シュウ酸銅と、(b)本発明で得られたシュウ酸銅とアミンの錯化合物のX線回折パターンを示す図である。
図5】シュウ酸銅の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図6】シュウ酸銅の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図7】シュウ酸銅の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。Ar中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図8】シュウ酸銅の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。Ar中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図9】シュウ酸銅の分解(2−アミノエタノール。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図10】シュウ酸銅の分解(2−アミノエタノール。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図11】シュウ酸銅の分解(2−(2−アミノエトキシ)エタノール。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図12】シュウ酸銅の分解(2−(2−アミノエトキシ)エタノール。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図13】シュウ酸銅の分解(オレイルアミン。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図14】シュウ酸銅の分解(オレイルアミン。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図15】シュウ酸銅の分解(2−エチルヘキシルアミン。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図16】シュウ酸銅の分解(2−エチルヘキシルアミン。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図17】シュウ酸ニッケルの分解(2−(2−アミノエトキシ)エタノール。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図18】シュウ酸鉄の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図19】シュウ酸鉄の分解(N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン。大気中)で生成した生成物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
図20】シュウ酸オキソバナジウムの分解(2−(2−アミノエトキシ)エタノール。大気中)で生成した生成物のX線回折パターンを示す図である。
図21】シュウ酸オキソバナジウムの分解(2−(2−アミノエトキシ)エタノール。大気中)で生成した生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図22】シュウ酸銅の分解を、オクタン酸の存在下、Ar中で行った際の生成物のX線回折パターンを示す図である。
図23】シュウ酸銅の分解を、オクタン酸の存在下、Ar中で行った際の生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図24】シュウ酸銅の分解を、オクタン酸の存在下、Ar中で行った際の生成物を、Ar雰囲気中、220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図25】シュウ酸銅の分解を、各種アミン等の存在下、大気中で行った際の生成物のX線回折パターンを示す図である。
図26】シュウ酸銅の分解を、各種アミン等の存在下、大気中で行った際の生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図27】シュウ酸銅の分解を、各種アミン等の存在下、大気中で行った際の生成物を、還元雰囲気中、200℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図28】シュウ酸銅の分解を、エチレングリコールの存在下、Ar中で行った際の生成物のX線回折パターンを示す図である。
図29】シュウ酸銅の分解を、エチレングリコールの存在下、Ar中で行った際の生成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図30】シュウ酸銅の分解を、エチレングリコールの存在下、Ar中で行った際の生成した生成物を、Ar雰囲気中、220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図31】シュウ酸ニッケルを分解する反応系に設置した銅板表面の、(a)走査型電子顕微鏡像、(b)Ni元素マッピング像、(c)Cu元素マッピング像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る金属のシュウ酸塩の分解方法について説明する。
金属のシュウ酸塩は、シュウ酸([COOH])が電離して生じるシュウ酸イオン([COO]2−)(アニオン)と金属イオン(Mn+:ここで、Mは金属原子を表し、nは金属原子の価数である)(カチオン)から構成される塩であり、例えば2価の金属のシュウ酸塩の場合には化学式:MCで示される物質である。そして、金属のシュウ酸塩を所定以上の温度加熱した際には、一般にシュウ酸基(C)の部分が分解して二酸化炭素(CO)や一酸化炭素(CO)等として系外に脱離し、金属状態の金属原子が残留する分解反応を生じることが知られている。このため、金属酸化物等と比べて金属原子の供給源として使用しやすく、また分解の際に不純物を生じにくいため、各種の混合物から金属原子を分離する際に生成する中間物質等として各種金属のシュウ酸塩が広く活用されている。
【0013】
金属のシュウ酸塩は、その金属の種類に応じて様々な構造を有するが、特に第一遷移金属であるV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu又はZnのシュウ酸塩においては、シュウ酸塩の間で更に相互に配位結合を生じる結果、シュウ酸基と金属原子が交互に配置された配位高分子構造を有することが知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0014】
式(1)には、シュウ酸銅における配位高分子構造を示す。また、図1には、非特許文献1等に報告されているシュウ酸銅における配位高分子構造が形成する結晶構造の模式図を示す。
【化1】
【0015】
式(1)に示すように、シュウ酸銅においてはシュウ酸基と金属原子が鎖状に交互に配置された高分子状の分子構造を有することが知られている。また、図1に示すように、シュウ酸銅の結晶においては、上記高分子状のシュウ酸銅分子が比較的弱い力に基づいて相互に平行に配列することが知られている。
【0016】
本発明者が、金属のシュウ酸塩の分解する方法を種々検討したところ、意外にも、上記のような配位高分子構造を有するシュウ酸塩においては、所定のアミン分子を含む環境で加熱した際に、当該シュウ酸塩が本来的に示す分解温度よりも顕著に低い温度においてシュウ酸塩の分解を生じて金属原子を生成可能なことを見出し、本発明に至ったものである。
上記のような現象を生じる機構は必ずしも明らかでないが、配位高分子構造を有するシュウ酸塩と所定のアミンとを混合して加熱した際には、シュウ酸塩の分解反応に先立ってシュウ酸塩の色や粘度等の性状が変化すると共に、シュウ酸塩間の配位結合が分断されることが構造解析により示されており、この結果としてシュウ酸塩の構造が化学的に不安定となって分解温度が低下したものと推察することができる。
【0017】
上記の現象を利用して、本発明においては、配位高分子構造を有するシュウ酸塩を所定のアミン分子の存在する環境下で加熱して分解することで、通常のシュウ酸塩の分解温度よりも低温でシュウ酸塩に含まれる金属原子を様々な形態で回収することが可能となる。つまり、シュウ酸塩を分解させる際の雰囲気を制御したり、金属原子が析出する際の形状に影響を与える分子等を介在させることで、金属原子に由来して析出する析出物の状態を金属や酸化物等としたり、その形状を操作することが可能である。また、シュウ酸塩の分解反応を適宜の固体表面に接して行うことで、当該表面に選択的に金属原子等を析出させることが可能であり、固体表面の表面処理を行うことも可能である。
このように本発明の方法は、従来より廃棄物などからの金属を分離精製する際などに用いられるシュウ酸塩を容易に分解し、直接的に有用な金属やその酸化物等を生成可能であり、金属の再利用を容易にする点で有用である。
以下、本発明に係るシュウ酸塩の分解方法について、具体的に説明する。
【0018】
(本発明が適用されるシュウ酸塩)
本発明に係るシュウ酸塩の分解方法は、シュウ酸塩分子が配位結合によって鎖状に繋がった配位高分子構造を有する金属のシュウ酸塩に適用可能である。工業的に様々な目的で広く使用される第一遷移金属の多くは配位高分子構造を有するシュウ酸塩を形成するため、本発明が好ましく適用され、本発明により資源の再利用や高純度化が容易になると共に、各種機能材料の製造が可能になる。つまり、上記非特許文献1等に記載されるように、第一遷移金属の内でV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnは、配位高分子構造を有するシュウ酸塩を形成することが知られており、これらの金属のイオンを含有する水溶液に対して所定の条件でシュウ酸イオンを導入することで配位高分子構造を有するシュウ酸塩が形成され、本発明に係るシュウ酸塩の分解方法により金属等の状態で採取することが可能である。
【0019】
(シュウ酸塩の分解機構)
上記配位高分子構造を有するシュウ酸塩に対して、所定のアミノ基を含むアミン等を混合して適宜の温度に加熱することで、当該シュウ酸塩の分解温度よりも低い温度でシュウ酸塩が分解し、シュウ酸塩に含まれる金属原子を金属等の別の状態で析出させることが可能である。具体的には、室温付近で固体であるシュウ酸塩と液状のアミン等を混合した際には、シュウ酸塩とアミンが別相として存在するのに対して、その混合物を加熱する過程においてシュウ酸塩がアミン中に溶解して均一相を形成し、更に加熱をすることで二酸化炭素や一酸化炭素等の発生を伴う反応を生じて、新たな沈殿物等を生じることが観察される。そして、シュウ酸塩を分解する際の条件等により、当該沈殿物等を様々な形状の金属や酸化物等とすることができる。
【0020】
上記のような本発明に係るシュウ酸塩の分解機構を明らかにするため本発明者が様々な検討を行ったところ、シュウ酸塩が溶解したアミン中においては、シュウ酸塩の単分子に対してアミンが配位結合した錯化合物が存在することが確認された。つまり、配位高分子構造を有するシュウ酸塩に所定のアミンを混合して加熱することで、シュウ酸塩分子間に形成されている配位結合が切断されると共にアミン分子との配位結合を生じ、低分子量のシュウ酸塩や単分子のシュウ酸塩とアミンを含む錯化合物が生成するものと考えられた。そして、このような錯化合物におけるシュウ酸基の安定性が低いために、シュウ酸塩本来の分解温度よりも低い温度で分解を生じると考えられた。
【0021】
シュウ酸塩が有する配位高分子構造が所定のアミノ基を含むアミンにより切断され、アミンを含む錯化合物が生成する機構は明らかでないが、アミンがアミノ基を介してシュウ酸塩に含まれる金属原子に配位結合を生じやすいと共に、アミンの電子供与性により配位結合した金属原子に電子を供与しやすいために、シュウ酸塩分子間の配位結合に代わってアミンがシュウ酸塩と配位結合を生じるものと考えられる。
【0022】
つまり、所定の温度以上において配位高分子構造を有するシュウ酸塩に1級アミノ基を含むアミンが接した際に、そのアミノ基がシュウ酸塩内の金属原子に配位結合を生じることでシュウ酸塩間の配位結合が切断され、シュウ酸塩内の金属原子にアミンが配位結合してなる錯化合物を生じるものと考えられる。そして、アミンとの配位結合が、シュウ酸基と金属原子の結合を不安定にして活性化させるために、本来よりもより低温でシュウ酸塩が分解されると考えられる。
【0023】
(シュウ酸塩の配位高分子構造を切断するためのアミン)
本発明において、配位高分子構造を分断して分子量の小さい錯化合物を生成することでシュウ酸塩を活性化するために使用するアミンとしては、1級アミノ基を含むアミン(又は、1級アミンとも表記される)が好ましく用いられる。本発明において、1級アミノ基を含むアミンの語は、一つの炭化水素基と二つの水素が結合した窒素原子(1級アミノ基)を、分子内に少なくとも一つ有する分子を意味するものとする。このような1級アミノ基を有するアミンにおいては、シュウ酸塩に配位結合する際の立体障害が小さいために、シュウ酸塩への配位結合を生じやすい。このため、シュウ酸塩とアミンの錯化合物を容易に形成可能であり、これによりシュウ酸塩を活性化して分解温度を低下できることが観察されている。なお、本発明においては、1又は複数の1〜3級のアミノ基を含む分子を、その通称等によらず、アミンと総称する。
【0024】
本発明において使用される1級アミノ基を含むアミンとして、その分子内に電子供与性を示す置換基を有するものを使用することも好ましい。電子供与性を示す置換基は、例えば、1〜3級アミノ基、水酸基、アルコキシル基、カルボキシル基、フェニル基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。1級アミノ基を更に有する場合に相当する、ジアミン又はトリアミン等のポリアミンを用いることもできる。また、電子求引性を示す置換基はアミンの示す電子供与性を低下させる傾向を示すが、アミンの電子供与性を調節するために、電子吸引性基を有していてもよい。単独又は他のアミンと混合した状態でシュウ酸塩分子間の配位結合を切断できるアミンであれば使用することができる。
【0025】
1級アミノ基を含むアミンにおいては、その分子量が大きくなるに従い、配位高分子構造を切断するための加熱温度が上昇し、また配位高分子構造の切断に要する時間が長くなる傾向が見られる。これは、分子量が大きくなるに従い一般に極性が低下し、また分子運動性が低下するためと考えられる。効率良く配位高分子構造を切断するアミンとしては、分子に含まれる他の官能基の種類や配置にも依存するが、炭素数として概ね18個以下の炭素を含むアミンであれば、シュウ酸塩の分解を容易にすることができる。また、炭素数として12個以下の炭素を含むアミンを使用することで、更に効率的に配位高分子構造を切断することが可能である。また、所定の目的で他の物質をアミンに混合したり、低温で配位高分子構造の切断を生じさせる際には、炭素数として6個以下の炭素を含む短鎖アミンを使用することが望ましい。
【0026】
また、以下に説明するように、所定の物質をシュウ酸塩の分解の際に混合することで、シュウ酸塩が分解して生じる金属原子を酸化して酸化物としたり、析出物に所定の形状を付与することが可能である。このような目的で所定の物質を上記アミンと共にシュウ酸塩と混合する場合には、当該物質との混合を容易にするために、当該物質が示す極性に応じて上記アミンの有する極性の強弱等を考慮することが好ましい。
【0027】
本発明において好ましく使用される1級アミノ基を含むアミンとしては、具体的に以下のような分子が例示され、これらを単独又は複数を混合して用いることができる。つまり、メチルアミン、エチレンジアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、イソプロピルアミン、2−ブチルアミン、イソブチルアミン、tert−ブチルアミン、1−メチルブチルアミン、1−エチルプロピルアミン、2−メチルブチルアミン、イソアミルアミン、1、3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、2−アミノヘプテン、3−アミノヘプテン、2−エチルヘキシルアミン、1,5−ジメチルヘキシルアミン、tert−オクチルアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、DYTEK EP Diamine、ヘキサエチレンジアミン、DYTEK A AMINE、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、C,C,C,トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、n−プロピルエチレンジアミン、N−イソプロピルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジブチルエチレンジアミン、N,N−ジプロピルエチレンジアミン、N,N−ジヘキシルエチレンジアミン、N,N−ジオクチルエチレンジアミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−エチル−1,3−プロパンジアミン、N−ブチル−1,3−プロパンジアミン、N−プロピル−1,3−プロパンジアミン、N−イソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N−ヘキシル−1,3−プロパンジアミン、N−オクチル−1,3−プロパンジアミン、3−ジメチルアミノプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、3−ジプロピルアミノプロピルアミ3−ジブチルアミノプロピルアミン、N,N,2,2,−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、2−ブチル−エチル−1,5−ペンタンジアミン、2−アミノ−5−ジエチルアミノペンタン、ジエチレントリアミン、N1−イソプロピルエチレントリアミン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、3,3−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、N−(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、スペルミジン、ビスヘキサメチレントリアミン、4−(アミノメチル)−1,8−オクタンジアミン、トリエチレンテトラミン、1,4,7,11,テトラアザウンデカン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、スペルミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、シクロプロピルアミン、アミノメチルシクロプロパン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、5−アミノ−2,2,4−トリメチルペンタンエチルアミン、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、2−ブチルシクロヘキシルアミン、2−プロピルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、4−プロピルシクロヘキシルアミン、4−ブチルシクロヘキシルアミン、4,4’−メチレンビス(ヘキシルアミン)、2、3−ジメチルシクロヘキシルアミン、cis−1,2−ジアミノシクロヘキサン、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサン、cis−1,4−ジアミノシクロヘキサン、trans−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シクロヘキサンメチルアミン、1−シクロヘキシルエチレンアミン、1,3−シクロヘキサンビスメチルアミン、N−シクロヘキシル−1,3−プロパンジアミン、1,8−ジアミノ−p−メタン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン、シクロドデシルアミン、exo−アミノルボルネート、ボルニルアミン、cis−ミルタニルアミン、イソピノカンフェニルアミン、3−ノルアダマンタナミン、1−アダマンタナミン、2−アダマンタナミン、3−アダマンタナミン、アリルアミン、オレイルアミン、ゲラニルアミン、2−(1−シクロヘキシル)エチルアミン、1−フルオロエチルアミン、2−フルオロエチルアミン、2,2,2−トリフルオロエチルアミン、2,2,2−トリクロロエチルアミン、2−クロロエチルアミン、2,2,2−トリブロモエチルアミン、2−ブロモエチルアミン、3−クロロプロピルアミン、3−ブロモプロピルアミン、3−フルオロプロピルアミン、2,5−ジクロロプロピルアミン、2,5−ジブロモプロピルアミン、2−メトキシエチルアミン、2−ブトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、2−アミノ−1−メトキシプロパン、3−イソプロポキシプロピルアミン、3−イソメトキシプロピルアミン、3−イソエトキシプロピルアミン、2,2’−オキシビス(エチルアミン)、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン、3−アミノ−1−プロパノールビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルアミン、2,5−ジヒドロ−2,5−ジメトキシフルフリルアミン、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール、アミノブチルアルデヒドジエチルアセタール、メトキシルアミン、エトキシルアミン、o−アリルヒドロキシルアミン、エタノールアミン、3-アミノ−1−プロパノール、2-アミノ−1−プロパノール、1-アミノ−2−プロパノール、4−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチル−プロパノール、5−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール、2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、2−アミノ−1−ヘキサノール、イソレウシノール、tert−レウシノール、6−アミノ−2−メチル−2−ヘプタノール、セリノール、1−アミノ−1−シクロペンタンメタノール、2−アミノ−3−シクロヘキシル−1−プロパノール、trans−2−アミノシクロヘキサノール、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサノール、2−2−アミノメチルエタノール、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(プロピルアミノ)エタノール、2−(tert−ブチルアミノ)エタノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、セリノール、セリノールオキサレート、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、bis−ホモトリス、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(2−アミノエチルアミノ)−エタノール、1−アミノ−1−デオキシ−D−ソルビトール、N−メチル−D−グルカミン、1−デオキシ−1−(オクチルアミノ)−D−グルシトール、D−ガラクトサミン、D−グルコサミン、D−マンノサミン、2−アミノエタンチオール、1−アミノ−2−メチル−2−プロパンチオール、2−(エチルチオ)エチルアミン、シスタミン、メチオニノール、1−アミノピルロリジン、3−アミノピロリジン、2−(アミノメチル)−ピロリジン、1−(2−アミノエチル)−ピロリジン、2−(2−アミノエチル)−ピロリジン、2−(2−アミノエチル)−1−メチルピロリジン、1−アミノピペリジン、1−(2−アミノエチル)ピペリジン、1−(3−アミノプロピル)−2−ピペコリン、3−アミノピペリジン、4−(アミノメチル)−ピペリジン、4−(アミノエチル)−ピペリジン、4−(アミノブチル)−ピペリジン、4−(アミノプロピル)−ピペリジン、4−(アミノヘキシル)−ピペリジン、1−アミノ−2,6−ジメチルピペリジン、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、1−(2−アミノメチル)ピペラジン、1−(2−アミノブチル)ピペラジン、1−(2−アミノプロピル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノメチル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノブチル)ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノプロピル)ピペラジン、ヘキセチジン、3−アミノキヌクリジン、2−(アミノメチル)15−クラウン−5、4−(3−アミノプロピルメチル)モルフォリン、4−(3−アミノエチル)モルフォリン、4−(3−アミノプロピル)モルフォリン、4−(3−アミノブチル)モルフォリン、4−(3−アミノペンチル)モルフォリン、4−(3−アミノヘキシル)モルフォリン、cis−4−アミノ−シクロヘキサンカルボン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、ヒスチジン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、ドーパミン、ドーパ、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、tert−ロイシン、ノルバリン、2−アミノ−ペントノイックアシッド、イソロイシン、ノルロイシン、2−アミノカプリックアシッド、3−アミノイソブチリックアシッド、5−アミノバレリックアシッド、6−アミノカプロイックアシッド、7−アミノヘプタノイックアシッド、8−アミノカプリックアシッド、11−アミノウンデカノイックアシッド、12−アミノドデカノイックアシッド、カルボキシルメチルアミン、イソセリン、ホモセリン、カナバニン、4−アミノ−3−ヒドロキシブチリックアシッド、ムラミックアシッド、ヒドロキシリシン、1−アミノ−1−シクロプロパンカルボキシリックアシッド、1−アミノ−1−シクロヘキサンカルボキシリックアシッド、trans−4−アミノシクロヘキサンカルボキシリックアシッド、1−アミノ−1−シクロペンタンカルボキシリックアシッド、5−アミノ−1,3−シクロヘキサンジエン−1−カルボキシリックアシッド、2−アミノ−2−ノルボルナンカルボキシリッックアシッド、βアラニン、4−アミノブチリックアシッド、3−アミノブチリックアシッド、α−アミノシクロヘキサンプロピオニックアシッド、2−(メチルアミノ)イソブチリックアシッド、2−(メチルアミノ)ブチリックアシッド、2−(メチルアミノ)エチリックアシッド、2−(メチルアミノ)プロピオニックアシッド、2,4−ジアミノブチリックアシッド、オルニチン、N−ε−メチル−L−リシン、2−メチル−グルタミン酸、アミノアジピン酸、ジアミノピメリックアシッド、アミノアジピン酸、ペニシラミン、ホモシステイン、エチオニン、カルボキシメチルシステイン、シスチン、エチル−4−アミノ−1−ピペリジンカルボキシレート、6−アミノペニシラニックアシッド、シクロセリン、タウリン、アミノメタンスルフォニックアシッド、3−アミノ−1−プロパンスルフォニッアシッド、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2−イソプロピルアニリン、2−プロピルアニリン、2−ブチルアニリン、2−sec−ブチルアニリン、2−tert−ブチルアニリン、2−フルオロアニリン、2−ブロモアニリン、2−クロロアニリン、2−メチルメルカプトアニリン、2−アミノベンジルアルコール、2−アミノフェネチルアルコール、2−フェネチジン、2−メチルメルカプトアニリン、2−アミノフェノールジスルフィド、2−イソプロピルアニリン、トルジン、3−エチルアニリン、3−フルオロアニリン、3−(トリフルオロメチル)アニリン、3−クロロアニリン、3−ブロモアニリン、3−アイオードアニリン、M−アニシジン、M−フェネチジン、3−(トリフルオロメトキシ)アニリ

ン、3−(1,1,2,2,−テトラフルオロエトキシ)アニリン、3−アミノフェノール、3−(1−ヒドロキシエチル)アニリン、3−アミノチオフェノール、3−(メチルメルカプト)アニリン、トルイジン、4−エチルアニリン、4−プロピルアニリン、4−ペンチルアニリン、4−ヘキシルアニリン、4−ヘプチルアニリン、4−ヘキサデシルアニリン、4−シクロへキシルアニリン、3,3’−メチレンジアミン、4,4’−メチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(3−クロロ2,6ジエチルアニリン)、4−フルオロアニリン、4−トリフルオロメチルアニリン、4−クロロアニリン、4−アミノフェノール、4−ブロモアニリン、4−アイオードアニリン、4−アミノチオフェノール、4−アミノフェノール、4−メチルメルカプトアニリン、4−アミノチオフェニルジスルフィド、2,3−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン、1−アミノ−5,6,7,8,テトラヒドロナフタレン、2,6−ジメチルアニリン、6−エチル−o−トルイジン、2,6−ジエチルアニリン、2−イソプロピル−6−メチルアニリン、2,6−イソプロピルアニリン、2,6−イソプロピルアニリン、フェネチルアミン、フェニルプロピルアミン、ジフェニルプロピルアミン、フェニルエチレンジアミン、フェニルブチルアミン、フェニルグリシノール、フェニルブチルアミン、4−アミノベンジルアミン、4−メチルベンジルアミン、4−キシレンジアミン、4−メトキシベンジルアミン、4−メトキシフェニルエチルアミン、4−アミノベンジルアミン、4−(ジメチルアミノ)ベンジルアミン、3−メトキシフェネチルアミン、ノルフェニルエフリン、ジメトキシベンジルアミン、ジヒドロキシベンジルアミン等から選択されるアミンを単独又は複数を混合して用いることができる。
【0028】
上記1級アミノ基を有するアミンは、単独で又は他の物質と混合した状態で分解しようとするシュウ酸塩と混合して使用される。シュウ酸塩との混合の際には、アミン濃度が高い場合に配位高分子構造の切断を早期に生じるため、1級アミノ基を有するアミンのみとシュウ酸塩とを混合することが望ましい。一方、所定の目的でアミン以外の物質を混合して用いる場合には、シュウ酸塩の分解を阻害しない範囲で適宜混合して使用することができる。使用するアミンの種類にも依存するが、アミンとそれ以外の物質の混合物(以下、「アミン浴」と呼ぶことがある。)中の1級アミノ基を有するアミンの濃度が概ね5mol%以上であれば配位高分子構造を切断して錯化合物を生成可能であるため好ましい。当該1級アミンの濃度を10mol%以上、特に30mol%以上とすることで、十分な速度で錯化合物を生成することができるため、より好ましい。
【0029】
また、アミン浴には、シュウ酸塩の分解によって生じる金属原子の酸化や析出形態の制御等を目的とする物質を、シュウ酸塩の切断による活性化に関係しないものであれば、添加剤として混合して用いることができる。シュウ酸塩を活性化した後に更にそれらの添加剤としての物質を混合してシュウ酸塩の分解を生じさせることも望ましい。
【0030】
配位高分子構造が切断されて生じるシュウ酸塩の一分子に対して、そこに含まれる金属原子の種類(サイズ・価数)に応じて、通常は1〜4分子のアミンが配位して錯化合物を形成する。このため、使用するアミンの量は当該シュウ酸塩に対する配位数を考慮して、使用するシュウ酸塩の全てを錯化合物とする量(以下、「等量」という。)以上とすることが好ましい。使用するアミンの量に上限はなく適宜の割合で過剰量のアミンを使用することができるが、実際的には2〜5倍等量のアミンをシュウ酸塩に混合して用いることが好ましい。なお、シュウ酸塩にアミンが配位してなる錯化合物を更に加熱してシュウ酸塩を熱分解した際には、生じた金属原子が金属等として凝集することで配位していたアミンが系内に放出されることが観察されている。このため、シュウ酸塩と等量以下のアミンを使用した場合においても、継続的に加熱を行うことで全てのシュウ酸塩を分解することが可能である。
【0031】
(配位高分子構造の切断工程)
本発明に係るシュウ酸塩の分解方法は、配位高分子構造を有するシュウ酸塩に対して、1級アミノ基を有するアミンのみ、又は当該アミンと他の物質を含むアミン浴を混合し、アミンによって配位高分子構造を切断して活性化する工程を含む。使用するアミンの種類に依存してシュウ酸塩とアミンとの反応が室温付近において一部進行すると考えられるが、実施例に示すとおり、一般に遷移金属のシュウ酸塩は安定であり室温付近において活性化を完了することは困難であるため、活性化されないシュウ酸塩を残留させない観点から、本発明においては所定の加熱をした状態でシュウ酸塩のアミンによる活性化を行うことが好ましい。
【0032】
シュウ酸塩の配位高分子構造をアミンにより切断して活性化するには、使用するアミンの種類や濃度、使用するシュウ酸塩の種類や凝集の程度等にも依存するが、概ね40〜200℃の範囲であり、典型的には50〜120℃の範囲で30分〜1時間程度の撹拌を行うことで活性化が完了する。具体的な加熱温度の決定は、均一な反応を生じさせる観点から、シュウ酸塩の配位高分子構造が切断されて錯化合物を良好に生成する温度の直上付近を選択することが好ましい。
【0033】
シュウ酸塩の活性化の完了は、典型的には固体状のシュウ酸塩が消失し、シュウ酸塩とアミン等の混合物の色や粘度等が変化することにより判断することが可能である。つまり、配位高分子構造のシュウ酸塩はアミンに溶解せずに固体として存在するのに対して、活性化によりシュウ酸塩とアミンからなる錯化合物を生成して均一相を形成するために、一般に異なる色や粘性を呈するものと考えられる。
シュウ酸塩の分解により生じる金属原子を金属状態で析出させたり、溶存する酸素濃度を抑制したい場合には、系内への酸素等の溶解を防止するため、錯化合物の生成をAr雰囲気等の不活性雰囲気で行うことが好ましい。
【0034】
図2には、本発明の実施例においてアミンを用いた処理を行って得られたシュウ酸銅とアミンの錯化合物の構造の一例を示す。図2は、N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパンによりシュウ酸銅を処理して得られた物質を再結晶して得られた単結晶をX線構造解析して得られた構造である。図2に示すとおり、アミンによる処理によりシュウ酸銅は単分子となって、その銅原子と2分子のN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパンの1級アミノ基とが配位結合を生じていることが分かる。
【0035】
(シュウ酸塩の分解)
上記で得られるシュウ酸塩とアミンの錯化合物を、単独又は適宜の反応媒中において加熱することで、配位高分子構造を有するシュウ酸塩が熱分解を生じる温度よりも低い温度でシュウ酸塩を熱分解させることができる。この熱分解においては、シュウ酸塩を構成するシュウ酸基が分解して二酸化炭素等として放出されることで、シュウ酸基に結合していた金属原子が放出される。放出された金属原子は、その後の利用の目的に応じて、熱分解時の雰囲気を調整すること等により金属状態で析出させたり、酸化物、硫化物等の形態で析出させることが可能である。
【0036】
シュウ酸塩の配位高分子構造を切断して活性化する工程と、それによって生じるシュウ酸塩とアミンの錯化合物を加熱により熱分解する工程は、シュウ酸塩とアミンの混合物を徐々に加熱する過程で連続して行うことも可能であり、また、それぞれ分離して行うことも可能である。両工程を連続して行う場合には、アミンとシュウ酸塩との錯化合物の生成が完了した後に当該錯化合物の分解開始温度に到達するように温度変化をさせることが好ましい。一方、特に錯化合物の生成に時間を要する場合等には、アミンとシュウ酸塩との錯化合物を生成する第一の温度に維持して生成を完了させ、その後に第一の温度よりも高い第二の温度に加熱する等の操作を行うことでシュウ酸塩を分解させることが好ましい。
【0037】
また、例えば、シュウ酸塩の分解により金属の酸化物を析出させる等の目的で、シュウ酸塩の分解の際に所望の物質を介在させる場合には両工程を分離して、シュウ酸塩の配位高分子構造を分断してシュウ酸塩の錯化合物を生成させた後、当該物質を加えてから加熱を行ってシュウ酸塩を分解することも可能である。また、例えば、シュウ酸塩の分解によって生じる金属原子により所望の物品の表面の被覆を行う場合には、予め生成させたシュウ酸塩の錯化合物を当該物品の表面に接触させて加熱する等も可能である。特に、物品の表面に電極や配線等の所定の形状で金属層を付着させる際には、予め生成させたシュウ酸塩の錯化合物で所望の形状を描画してから加熱を行うことも可能である。
【0038】
シュウ酸塩の錯化合物を加熱して分解させる温度は、分解反応を生じる範囲において特に限定はされないが、系内において均一な反応を生じさせる点からは、各錯化合物の分解開始温度の直上で行うことが好ましい。
【0039】
シュウ酸塩の分解により生成する金属原子を金属として回収しようとする際には、当該金属原子の酸化等を防止するため、一連の工程をAr等の不活性ガス雰囲気中で行うことが有効である。一方、酸化物として回収しようとする場合、大気中で分解を行う他、酸素分圧を高めた雰囲気でシュウ酸塩の分解を行ったり、水や過酸化水素などを混合した状態でシュウ酸塩の分解を行う等が有効である。また、硫化物として回収する場合にはチオ尿酸等の硫化剤を混合する等、回収しようとする物質に応じて適宜の環境でシュウ酸塩の分解をすることができる。
【0040】
本発明によりシュウ酸塩を分解させて得られる金属等は、シュウ酸塩の分解の際に分離するアミン等を含む反応媒中に存在するため、これを洗浄して除去することにより容易に単離することが可能である。また、特に酸化剤等の混入を行わない場合には、配位高分子構造の切断に使用したアミンはシュウ酸塩の分解反応に関与せず、またシュウ酸塩の分解で生じる副生成物は二酸化炭素等として系外に放出されるため、シュウ酸塩の分解により錯化合物から分離して生じるアミンは回収して、再度、配位高分子構造の切断等に使用することが可能である。
【0041】
図3には、配位高分子構造のシュウ酸銅を直接熱分解させた場合と、予め配位高分子構造を切断してシュウ酸銅を含む錯化合物とした場合とについて、熱分解挙動の一例として熱重量分析の結果を示す。図3に示すように、未処理のシュウ酸銅(a)は約300℃において熱分解を生じて二酸化炭素を放出することで重量減少が起こるのに対して、アミンを用いた処理を行ったシュウ酸銅(b)は、120〜170℃程度の温度範囲で二酸化炭素を放出して重量減少が起こることから、本発明の方法により処理を行うことでシュウ酸銅の熱分解温度が低下することが分かる。
【0042】
図3に示される結果から明らかなように、本発明によれば未処理のシュウ酸塩と比べて顕著に低い温度で分解することが可能となり、シュウ酸塩を介した金属元素の分離回収をより簡便に低エネルギーで行うことが可能となる。特に、100〜200℃程度の低温において分解を生じるため、工業的過程の廃熱等を利用して反応を行うことが可能であり、低環境負荷で有用物質を生成する手段であると考えられる。また、本発明によるシュウ酸塩の分解方法はシュウ酸塩自体の熱分解反応であるため、基本的に当該方法に関与するアミン等の物質に消耗がなく、分解により得られる生成物への不純物の混入が少ないことからも、低環境負荷、低コスト、高品質の手段であると考えられる。
【0043】
本発明によれば、金属のシュウ酸塩を原料として、これを分解することによりシュウ酸塩に含まれる金属原子を金属の形態の他、酸化物や硫化物などとして回収することが可能であり、各種の工業材料として使用することができる。
また、本発明によるシュウ酸塩の分解は比較的低温で穏やかな条件で行われるため、その分解の際に金属原子等の析出過程に対して各種の影響を与える有機分子や物質表面等を介在させることで、シュウ酸塩の分解により析出する金属等の形態を容易に制御することが可能である。
【0044】
例えば、シュウ酸塩の分解により金属を析出させる場合には、析出する金属の表面に配位結合等を生じることで金属表面を被覆して一定以上の成長を妨げるキャッピング分子として機能する成分を混在させることで、数百nm以下の粒子径を有する金属微粒子を生成することができる。本発明によりシュウ酸塩を分解させて得られる金属微粒子は不純物成分が抑制されるため、適宜のキャッピング分子を選択して生成後の表面酸化等を抑制することにより、高純度の金属微粒子として活用可能である。また、媒体中で所定の配置となるような極性分子が存在する環境でシュウ酸塩を分解させることで、金属原子が析出する際のテンプレートを構成し、適宜の形状の金属粒子等を析出することができる。これらの粒子を適宜の分散媒と混合することにより、焼結して金属被膜を生成するインクやペースト等として有用である。また析出する金属微粒子の比表面積が大きいことを利用して、金属触媒等を形成する際にも本発明は有用である。一方、金属等の表面でシュウ酸塩の分解を生じさせることで、生成する金属原子が当該金属を表面に析出させることが可能であり、当該表面の被覆などを行うことが可能である。
【0045】
また、酸化雰囲気においてシュウ酸塩を分解させることにより、各種金属の酸化物微粒子を析出させることができる。これらの酸化物微粒子の内、例えば磁性粒子であれば、磁性材料、電子材料や磁性流体の素材として使用される他、各種の生理活性物質を表面に固定することでバイオメディカル用に好適に用いる粒子を生成することができる。また、他の金属酸化物等の支持体に酸化物として析出させたり、析出した酸化物微粒子を固定することで触媒として使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の一例であり、本発明はこれに限定されず種々の形態を採用することが可能である。
【0047】
[実施例1]
硫酸銅・五水和物(関東化学、特級)の水溶液中にシュウ酸二水和物(関東化学、特級)を混合することで、銅のシュウ酸塩であるシュウ酸銅0.5水和物を生成して沈殿させ、濾過により分離した後、純水で十分に洗浄して乾燥させ、以下の各評価に使用した。
1級アミノ基を有するアミンとしてのN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)と、上記で合成したシュウ酸銅1.00g(6.23mmol)を混合した後、大気下で120℃に調整されたホットスターラー上で約1時間、加熱撹拌した。加熱により、淡青色のシュウ酸銅は徐々に溶解して濃青色のペースト状物を生じた。その後、ホットスターラーより取り出し自然放冷により反応を終了させ濃青色の固体を得た。
【0048】
図2には、得られた濃青色の固体を加熱して融解後に徐冷し、再結晶させて得られた結晶粒をX線構造解析することにより得られた分子構造を示す。図2に示すように、上記混合後にはシュウ酸銅が本来有する配位高分子構造は観察されず、一対のシュウ酸基と銅原子からなるシュウ酸銅分子の銅原子に、2分子のアミンがアミノ基により配位結合した単核錯体構造が観察された。
図4には、使用したシュウ酸銅(a)と上記で得られた濃青色の固体(b)の粉末X線回折(リガク MiniFlexII)の結果を示す。図4に示すように、上記混合によって得られた固体は、本来のシュウ酸塩が示す回折パターンと異なる回折パターンを示し、この点からもアミンとの混合によりシュウ酸銅の構造が変化したことが示される。
次に、上記で得られた濃青色の固体を160℃に調整されたホットスターラー上で加熱撹拌したところ、二酸化炭素を放出する反応を生じた。3時間の加熱撹拌の後、自然放冷し、ヘキサン(関東化学、一級)3mLを加えて遠心分離を行い、沈殿物を得た。さらに、得られた沈殿物に1−プロパノール(関東化学、特級)3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥して生成物を得た。得られたサンプルは、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡(JEOL JSM7600F)により評価した。
図5に、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅と酸化銅(I)の混合物であると同定された。図6に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。生成物は、粒子径が50〜100nm程度の結晶が凝集したものであった。
図3に示した重量変化は、上記の様にして得られた濃青色の固体(b)と、未処理のシュウ酸銅(a)をAr中で加熱した際の重量変化である。図3に示すように、処理をしないシュウ酸銅では分解に伴う重量減少が300℃程度で生じるのに対して、上記で得られた濃青色の固体は140℃付近から重量減少を生じることが示された。
以上、説明したように、シュウ酸銅と1級アミノ基を有するアミンの一種であるN,N−ジエチル−1、3−ジアミノプロパンを混合して加熱することで、その錯化合物が形成され、この錯化合物を加熱することで、本来のシュウ酸銅の分解温度より著しく低い温度でシュウ酸銅が分解して銅原子を生成し、金属銅等が析出することが示された。
【0049】
[実施例2]
混合したN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパンとシュウ酸銅の混合物の加熱をAr気流中で行ったこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。
N,N−ジエチル−1、3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0050】
図7には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、微量の酸化銅(I)を含む金属銅であると同定された。図8に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が100nm〜数μm程度の粗大な粒子状のものであった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解の過程において、雰囲気からの酸素の供給を遮断することにより、酸化銅の生成が抑制されて金属銅が生成されることが示された。
【0051】
[実施例3]
シュウ酸銅の分解に用いる1級のアミノ基を有するアミンとして、2−アミノエタノールを用いたこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。
2−アミノエタノール(和光純薬、特級)1.23g(20.1mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において60℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、蒸留水3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物に蒸留水3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0052】
図9には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定され、酸化銅(I)等に起因する回折ピークは観察されなかった。図10に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数μm程度の粗大な粒子であった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして2−アミノエタノールを用いることにより、大気下でシュウ酸銅の分解を行った際にも銅の酸化が抑制され、酸化銅を含まない金属銅が生成されることが示された。
【0053】
[実施例4]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとして、2−(2−アミノエトキシ)エタノールを用いたこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。つまり、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(東京化成、1級)2.10g(20.0mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において60℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、メタノール(関東化学、特級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0054】
図11には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定され、酸化銅(I)等に起因する回折ピークは観察されなかった。図12に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数μm程度の粗大な粒子であった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノールを用いることにより、大気下でシュウ酸銅の分解を行った際にも銅の酸化が抑制され、酸化銅を含まない金属銅が生成されることが示された。
【0055】
[実施例5]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとしてオレイルアミンを用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
オレイルアミン(関東化学、純度80〜90%)5.31g(19.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に180℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン(関東化学、1級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にヘキサン3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0056】
図13には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅と酸化銅(I)の混合物であると同定された。図14に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数10nm程度の粒子が凝集したものであった。
本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして分子量の大きいオレイルアミンを用いることにより、シュウ酸銅の分解に必要な温度が上昇する傾向が見られると共に、生成物中の酸化銅の割合が増加して、酸化が生じやすいことが示された。
【0057】
[実施例6]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとして2−エチルヘキシルアミンを用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
2−エチルヘキシルアミン(東京化成、純度98%以上)2.57g(19.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン(関東化学、1級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にヘキサン3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0058】
図15には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、一部に金属銅を含む酸化銅(I)であると同定された。図16に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、微細な粒子が凝集したものであった。
本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして、2−エチルヘキシルアミンを用いることにより、シュウ酸塩の分解中にほぼ全ての銅原子が酸化され、酸化銅の製造に適することが示された。
【0059】
[実施例7〜10]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとしてイソプロピルアミン(実施例7)、ヘキシルアミン(実施例8)、ドデシルアミン(実施例9)、フェニルエチルアミン(実施例10)をそれぞれ用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
実験は、シュウ酸銅0.5水和物に対して、上記の各アミンをそれぞれ約3倍等量混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
【0060】
その結果、イソプロピルアミン、ヘキシルアミンを使用した場合には、室温でシュウ酸銅と混合した際にシュウ酸銅の色が淡い水色から青色に変わり始め、120℃での撹拌によって完全に青色に変化して混合物の粘度にも変化を生じた。一方、ドデシルアミン、フェニルエチルアミンを使用した場合には、室温での混合した際にはシュウ酸銅に変化が見られず、120℃での撹拌によって青色に変化して混合物の粘度に変化を生じた。そして、その後の160℃での撹拌により、いずれも二酸化炭素の放出を伴い沈殿物を生じシュウ酸銅の分解を生じることが観察された。
【0061】
[比較例1〜4]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンに換えて、2級のアミノ基を有するジエチルアミン(比較例1)、ジプロピルアミン(比較例2)及び3級のアミノ基を有するトリエチルアミン(比較例3)を用いてシュウ酸銅の分解を試みた。また、1価のカルボン酸であるオレイン酸(比較例4)を用いてシュウ酸銅の分解を試みた。
比較例1〜3では、シュウ酸銅0.5水和物に対して、上記の各アミンのそれぞれ約3倍等量に該当する量を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
比較例4では、シュウ酸銅に対してオレイン酸を2.3倍等量混合し、大気中において200℃に調整されたホットスターラー上で2時間撹拌した後、更に250℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
上記検討の結果、いずれの場合も二酸化炭素の放出を伴う反応を生じることが無く、有効なシュウ酸銅の分解は確認できなかった。
【0062】
[実施例11]
ニッケルのシュウ酸塩であるシュウ酸ニッケルについて、本発明の方法により分解を行って金属ニッケルを得た。
シュウ酸ニッケル2水和物(三津和化学 純度99%以上)0.73g(4.0mmol)に、1級のアミノ基を含むアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノール2.52g(24.0mmol)を混合し、大気中において90℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に200℃で5時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0063】
図17には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、全て金属ニッケルに帰属され、酸化物相は確認されなかった。
【0064】
[実施例12]
鉄のシュウ酸塩であるシュウ酸鉄について、本発明の方法により分解を行って酸化鉄を得た。
シュウ酸鉄2水和物(和光純薬株式会社)1.44g(8.0mmol)に、1級アミノ基を含むアミンとしてN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン4.32g(33.2mmol)を混合し、更にオレイン酸0.1g(0.35mmol)を加えたものを、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で5時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、透過型電子顕微鏡で評価した。
【0065】
図18には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、スピネル型の酸化鉄に帰属された。図19には、上記生成物の透過型電子顕微鏡像を示す。図19に示すとおり、上記生成物は粒子径が10nmの微粒子が単分散したものであった。
【0066】
[実施例13]
バナジウムのシュウ酸塩であるシュウ酸オキソバナジウムについて、本発明の方法により分解を行って酸化物を得た。
オキシシュウ酸バナジウム・n水和物(三津和化学(無水物含有率 70.6%))0.869g(4.0mmol)に、1級アミノ基を含むアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノール1.68g(16.0mmol)を混合したものを、大気中において100℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に190℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、透過型電子顕微鏡で評価した。
【0067】
図20には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、酸化バナジウム(VO、V)等に帰属される回折線が確認された。図21には、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。図21に示すとおり、上記生成物は数100nmの結晶が数μmに集合したものであった。
【0068】
[実施例14]
以下の実施例では、上記でシュウ酸塩の分解が観察された系において、特に生成物の形状に影響を与える物質を添加することにより生成物の形状操作を行った。
本実施例では、1価のカルボン酸であるオクタン酸を、シュウ酸銅を分解する際の反応系に添加し、金属銅が析出する際の粗大化を防止するキャッピング分子とし、析出する銅微粒子の形状を操作した。
N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)3.24g(24.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、更にキャッピング分子としてのオクタン酸(東京化成)0.9g(6.24mmol)を加えたものを、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0069】
図22には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定された。図23に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数100nm程度の粒子状であった。
次に上記の方法により析出した銅微粒子をテルソルブTHA90に対して約50wt%になるよう加えて含銅ペーストとし、ガラス基板にバーコート法により塗布した後、アルゴンガス置換された赤外炉を用いて表1に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置(共和理研 K−705RS)により評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、180℃程度での焼成によっても実質的な導電性を生じると共に、特に220℃以上での焼成をすることで、バルクの金属銅と比べて1/10程度以上の導電性を発現することが分かる。図24には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。図24に示すように、焼成により各銅微粒子が粒成長をしないままに相互に融着しており、これによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に、キャッピング分子を混合することで析出する金属銅を微粒子状にすることが可能であること及び、当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0072】
[実施例15]
本実施例では、実施例14と比較して、キャッピング分子を変更すると共に、シュウ酸銅の分解に関与するアミンを複数種使用し、大気中でシュウ酸銅の分解を行った。
1級のアミノ基を有するアミンとして、N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)2.89g(22.2mmol)、オクチルアミン(Acros Organics)2.00g(15.5mmol)、ドデシルアミン(東京化成、特級)0.460g(2.48mmol)の3種を混合したものを使用した。この混合物にシュウ酸銅0.5水和物2.00g(12.5mmol)を混合し、更にキャッピング分子としてのオレイン酸(東京化成、特級)0.15g(0.531mmol)を加えたものを、大気中で120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0073】
図25には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、一部に酸化銅(I)を含む金属銅であると同定された。図26に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が100nm程度の粒子状であった。
次に上記の方法により析出した銅微粒子を、ブタノール:オクタン=1:4(体積比)となるように混合した混合溶媒に約50wt%になるよう加えて銅インクとし、ガラス基板にスピンコート法により塗布した後、水素5%/窒素95%還元雰囲気に置換された赤外炉を用いて表2に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置により評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、160℃程度での焼成によっても良好な導電性を生じると共に、特に200℃以上での焼成をすることで、バルクの金属銅に近い体積抵抗を発現することが分かる。図27には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。図27に示すように、焼成により銅微粒子が粒成長すると共に相互に融着しており、これによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に使用するアミンやキャッピング分子等を考慮することで、大気中においても金属銅微粒子の生成が可能であること及び当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0076】
[実施例16]
本実施例では、テンプレート材としてエチレングリコールを用いて、実施例14と同様にシュウ酸銅の分解を行い、得られた生成物の焼結性を評価した。
N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)とシュウ酸銅0.5水和物0.5g(3.1mmol)を混合し、更にテンプレート材としてのエチレングリコール(関東化学、特級)4mLを加えたものを、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0077】
図28には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定された。図29に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、10μm程度の広がりを有するフレーク状であった。
次に上記の方法により析出したフレーク状の金属銅をテルソルブTHA90に対して約30wt%になるよう加えて含銅ペーストとし、ガラス基板にバーコート法により塗布した後、アルゴンガス置換された赤外炉を用いて表3に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置により評価した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、本実施例で得られたフレーク状の銅微粒子は、上記銅微粒子と比較して焼成による抵抗値の低下は小さいものの、200℃程度での焼成により十分な導電性を発現することが分かる。図30には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。図30に示すように、フレーク状の金属銅が表面積を減らすように変形することが観察され、部分的に融着することによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に、テンプレート材を混合することで析出する金属銅をフレーク状にすることが可能であること及び当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0080】
[実施例17]
本実施例では、銅の基材が存在する環境でシュウ酸ニッケルの分解を行い、銅表面に金属ニッケルを析出させた。
シュウ酸ニッケル2水和物(三津和化学 純度99%以上)0.10g(0.5mmol)に、2−アミノエタノール(関東化学 特級)2.00g(32.7mmol)を混合し、更に市販の銅板を投入して、大気中において170℃に調整されたホットスターラー上で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。その後、銅板を取り出し、メタノールで表面を洗浄した。
【0081】
上記処理により銅板の色は、銀色に変化した。図31には、上記処理後の銅板表面の(a)走査型電子顕微鏡像及び同視野の(b)Ni元素マッピング像と(c)Cu元素マッピング像を示す。走査型電子顕微鏡像においては、銅板表面が上記処理により生成した層により被覆され、一部に粒状の析出物が付着していることが観察された。また、元素マッピング像からは、銅板表面に略均一にNiが分布していることが観察された。更に、上記処理を行った銅板が磁石に吸着したことから、上記処理によって銅板表面が金属Niによって被覆されたものと推察された。
【0082】
本実施例の結果に示されるように、本発明の方法によって金属のシュウ酸塩を分解する際に、所定の物質の表面を介在させることによって、分解によって生じる金属を当該表面に析出させることが可能であり、当該物質表面を被覆することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
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図29
図30
図31