【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の一例であり、本発明はこれに限定されず種々の形態を採用することが可能である。
【0047】
[実施例1]
硫酸銅・五水和物(関東化学、特級)の水溶液中にシュウ酸二水和物(関東化学、特級)を混合することで、銅のシュウ酸塩であるシュウ酸銅0.5水和物を生成して沈殿させ、濾過により分離した後、純水で十分に洗浄して乾燥させ、以下の各評価に使用した。
1級アミノ基を有するアミンとしてのN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)と、上記で合成したシュウ酸銅1.00g(6.23mmol)を混合した後、大気下で120℃に調整されたホットスターラー上で約1時間、加熱撹拌した。加熱により、淡青色のシュウ酸銅は徐々に溶解して濃青色のペースト状物を生じた。その後、ホットスターラーより取り出し自然放冷により反応を終了させ濃青色の固体を得た。
【0048】
図2には、得られた濃青色の固体を加熱して融解後に徐冷し、再結晶させて得られた結晶粒をX線構造解析することにより得られた分子構造を示す。
図2に示すように、上記混合後にはシュウ酸銅が本来有する配位高分子構造は観察されず、一対のシュウ酸基と銅原子からなるシュウ酸銅分子の銅原子に、2分子のアミンがアミノ基により配位結合した単核錯体構造が観察された。
図4には、使用したシュウ酸銅(a)と上記で得られた濃青色の固体(b)の粉末X線回折(リガク MiniFlexII)の結果を示す。
図4に示すように、上記混合によって得られた固体は、本来のシュウ酸塩が示す回折パターンと異なる回折パターンを示し、この点からもアミンとの混合によりシュウ酸銅の構造が変化したことが示される。
次に、上記で得られた濃青色の固体を160℃に調整されたホットスターラー上で加熱撹拌したところ、二酸化炭素を放出する反応を生じた。3時間の加熱撹拌の後、自然放冷し、ヘキサン(関東化学、一級)3mLを加えて遠心分離を行い、沈殿物を得た。さらに、得られた沈殿物に1−プロパノール(関東化学、特級)3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥して生成物を得た。得られたサンプルは、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡(JEOL JSM7600F)により評価した。
図5に、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅と酸化銅(I)の混合物であると同定された。
図6に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。生成物は、粒子径が50〜100nm程度の結晶が凝集したものであった。
図3に示した重量変化は、上記の様にして得られた濃青色の固体(b)と、未処理のシュウ酸銅(a)をAr中で加熱した際の重量変化である。
図3に示すように、処理をしないシュウ酸銅では分解に伴う重量減少が300℃程度で生じるのに対して、上記で得られた濃青色の固体は140℃付近から重量減少を生じることが示された。
以上、説明したように、シュウ酸銅と1級アミノ基を有するアミンの一種であるN,N−ジエチル−1、3−ジアミノプロパンを混合して加熱することで、その錯化合物が形成され、この錯化合物を加熱することで、本来のシュウ酸銅の分解温度より著しく低い温度でシュウ酸銅が分解して銅原子を生成し、金属銅等が析出することが示された。
【0049】
[実施例2]
混合したN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパンとシュウ酸銅の混合物の加熱をAr気流中で行ったこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。
N,N−ジエチル−1、3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0050】
図7には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、微量の酸化銅(I)を含む金属銅であると同定された。
図8に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が100nm〜数μm程度の粗大な粒子状のものであった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解の過程において、雰囲気からの酸素の供給を遮断することにより、酸化銅の生成が抑制されて金属銅が生成されることが示された。
【0051】
[実施例3]
シュウ酸銅の分解に用いる1級のアミノ基を有するアミンとして、2−アミノエタノールを用いたこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。
2−アミノエタノール(和光純薬、特級)1.23g(20.1mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において60℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、蒸留水3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物に蒸留水3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0052】
図9には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定され、酸化銅(I)等に起因する回折ピークは観察されなかった。
図10に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数μm程度の粗大な粒子であった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして2−アミノエタノールを用いることにより、大気下でシュウ酸銅の分解を行った際にも銅の酸化が抑制され、酸化銅を含まない金属銅が生成されることが示された。
【0053】
[実施例4]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとして、2−(2−アミノエトキシ)エタノールを用いたこと以外、実施例1と同様にしてシュウ酸銅の分解を行った。つまり、2−(2−アミノエトキシ)エタノール(東京化成、1級)2.10g(20.0mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において60℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、メタノール(関東化学、特級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0054】
図11には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定され、酸化銅(I)等に起因する回折ピークは観察されなかった。
図12に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数μm程度の粗大な粒子であった。
実施例1との対比から明らかなように、本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノールを用いることにより、大気下でシュウ酸銅の分解を行った際にも銅の酸化が抑制され、酸化銅を含まない金属銅が生成されることが示された。
【0055】
[実施例5]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとしてオレイルアミンを用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
オレイルアミン(関東化学、純度80〜90%)5.31g(19.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に180℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン(関東化学、1級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にヘキサン3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0056】
図13には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅と酸化銅(I)の混合物であると同定された。
図14に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数10nm程度の粒子が凝集したものであった。
本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして分子量の大きいオレイルアミンを用いることにより、シュウ酸銅の分解に必要な温度が上昇する傾向が見られると共に、生成物中の酸化銅の割合が増加して、酸化が生じやすいことが示された。
【0057】
[実施例6]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとして2−エチルヘキシルアミンを用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
2−エチルヘキシルアミン(東京化成、純度98%以上)2.57g(19.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン(関東化学、1級)3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にヘキサン3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0058】
図15には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、一部に金属銅を含む酸化銅(I)であると同定された。
図16に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、微細な粒子が凝集したものであった。
本発明によるシュウ酸銅の分解に用いるアミンとして、2−エチルヘキシルアミンを用いることにより、シュウ酸塩の分解中にほぼ全ての銅原子が酸化され、酸化銅の製造に適することが示された。
【0059】
[実施例7〜10]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンとしてイソプロピルアミン(実施例7)、ヘキシルアミン(実施例8)、ドデシルアミン(実施例9)、フェニルエチルアミン(実施例10)をそれぞれ用いて、シュウ酸銅の分解を行った。
実験は、シュウ酸銅0.5水和物に対して、上記の各アミンをそれぞれ約3倍等量混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
【0060】
その結果、イソプロピルアミン、ヘキシルアミンを使用した場合には、室温でシュウ酸銅と混合した際にシュウ酸銅の色が淡い水色から青色に変わり始め、120℃での撹拌によって完全に青色に変化して混合物の粘度にも変化を生じた。一方、ドデシルアミン、フェニルエチルアミンを使用した場合には、室温での混合した際にはシュウ酸銅に変化が見られず、120℃での撹拌によって青色に変化して混合物の粘度に変化を生じた。そして、その後の160℃での撹拌により、いずれも二酸化炭素の放出を伴い沈殿物を生じシュウ酸銅の分解を生じることが観察された。
【0061】
[比較例1〜4]
シュウ酸銅の分解に用いる1級アミノ基を有するアミンに換えて、2級のアミノ基を有するジエチルアミン(比較例1)、ジプロピルアミン(比較例2)及び3級のアミノ基を有するトリエチルアミン(比較例3)を用いてシュウ酸銅の分解を試みた。また、1価のカルボン酸であるオレイン酸(比較例4)を用いてシュウ酸銅の分解を試みた。
比較例1〜3では、シュウ酸銅0.5水和物に対して、上記の各アミンのそれぞれ約3倍等量に該当する量を混合し、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
比較例4では、シュウ酸銅に対してオレイン酸を2.3倍等量混合し、大気中において200℃に調整されたホットスターラー上で2時間撹拌した後、更に250℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷することで、シュウ酸銅の分解の可否を確認した。
上記検討の結果、いずれの場合も二酸化炭素の放出を伴う反応を生じることが無く、有効なシュウ酸銅の分解は確認できなかった。
【0062】
[実施例11]
ニッケルのシュウ酸塩であるシュウ酸ニッケルについて、本発明の方法により分解を行って金属ニッケルを得た。
シュウ酸ニッケル2水和物(三津和化学 純度99%以上)0.73g(4.0mmol)に、1級のアミノ基を含むアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノール2.52g(24.0mmol)を混合し、大気中において90℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に200℃で5時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0063】
図17には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、全て金属ニッケルに帰属され、酸化物相は確認されなかった。
【0064】
[実施例12]
鉄のシュウ酸塩であるシュウ酸鉄について、本発明の方法により分解を行って酸化鉄を得た。
シュウ酸鉄2水和物(和光純薬株式会社)1.44g(8.0mmol)に、1級アミノ基を含むアミンとしてN,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン4.32g(33.2mmol)を混合し、更にオレイン酸0.1g(0.35mmol)を加えたものを、大気中において120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で5時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、透過型電子顕微鏡で評価した。
【0065】
図18には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、スピネル型の酸化鉄に帰属された。
図19には、上記生成物の透過型電子顕微鏡像を示す。
図19に示すとおり、上記生成物は粒子径が10nmの微粒子が単分散したものであった。
【0066】
[実施例13]
バナジウムのシュウ酸塩であるシュウ酸オキソバナジウムについて、本発明の方法により分解を行って酸化物を得た。
オキシシュウ酸バナジウム・n水和物(三津和化学(無水物含有率 70.6%))0.869g(4.0mmol)に、1級アミノ基を含むアミンとして2−(2−アミノエトキシ)エタノール1.68g(16.0mmol)を混合したものを、大気中において100℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に190℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、エタノール3mLを加えた後、遠心分離を行い、得られた沈殿物にメタノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、透過型電子顕微鏡で評価した。
【0067】
図20には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物の回折ピークは、酸化バナジウム(VO
2、V
3O
7)等に帰属される回折線が確認された。
図21には、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。
図21に示すとおり、上記生成物は数100nmの結晶が数μmに集合したものであった。
【0068】
[実施例14]
以下の実施例では、上記でシュウ酸塩の分解が観察された系において、特に生成物の形状に影響を与える物質を添加することにより生成物の形状操作を行った。
本実施例では、1価のカルボン酸であるオクタン酸を、シュウ酸銅を分解する際の反応系に添加し、金属銅が析出する際の粗大化を防止するキャッピング分子とし、析出する銅微粒子の形状を操作した。
N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)3.24g(24.9mmol)とシュウ酸銅0.5水和物1.00g(6.23mmol)を混合し、更にキャッピング分子としてのオクタン酸(東京化成)0.9g(6.24mmol)を加えたものを、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0069】
図22には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定された。
図23に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が数100nm程度の粒子状であった。
次に上記の方法により析出した銅微粒子をテルソルブTHA90に対して約50wt%になるよう加えて含銅ペーストとし、ガラス基板にバーコート法により塗布した後、アルゴンガス置換された赤外炉を用いて表1に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置(共和理研 K−705RS)により評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、180℃程度での焼成によっても実質的な導電性を生じると共に、特に220℃以上での焼成をすることで、バルクの金属銅と比べて1/10程度以上の導電性を発現することが分かる。
図24には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。
図24に示すように、焼成により各銅微粒子が粒成長をしないままに相互に融着しており、これによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に、キャッピング分子を混合することで析出する金属銅を微粒子状にすることが可能であること及び、当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0072】
[実施例15]
本実施例では、実施例14と比較して、キャッピング分子を変更すると共に、シュウ酸銅の分解に関与するアミンを複数種使用し、大気中でシュウ酸銅の分解を行った。
1級のアミノ基を有するアミンとして、N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)2.89g(22.2mmol)、オクチルアミン(Acros Organics)2.00g(15.5mmol)、ドデシルアミン(東京化成、特級)0.460g(2.48mmol)の3種を混合したものを使用した。この混合物にシュウ酸銅0.5水和物2.00g(12.5mmol)を混合し、更にキャッピング分子としてのオレイン酸(東京化成、特級)0.15g(0.531mmol)を加えたものを、大気中で120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に170℃で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0073】
図25には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、一部に酸化銅(I)を含む金属銅であると同定された。
図26に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、粒子径が100nm程度の粒子状であった。
次に上記の方法により析出した銅微粒子を、ブタノール:オクタン=1:4(体積比)となるように混合した混合溶媒に約50wt%になるよう加えて銅インクとし、ガラス基板にスピンコート法により塗布した後、水素5%/窒素95%還元雰囲気に置換された赤外炉を用いて表2に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置により評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、160℃程度での焼成によっても良好な導電性を生じると共に、特に200℃以上での焼成をすることで、バルクの金属銅に近い体積抵抗を発現することが分かる。
図27には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。
図27に示すように、焼成により銅微粒子が粒成長すると共に相互に融着しており、これによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に使用するアミンやキャッピング分子等を考慮することで、大気中においても金属銅微粒子の生成が可能であること及び当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0076】
[実施例16]
本実施例では、テンプレート材としてエチレングリコールを用いて、実施例14と同様にシュウ酸銅の分解を行い、得られた生成物の焼結性を評価した。
N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(東京化成)1.72g(13.2mmol)とシュウ酸銅0.5水和物0.5g(3.1mmol)を混合し、更にテンプレート材としてのエチレングリコール(関東化学、特級)4mLを加えたものを、Arガスを通気させながら120℃に調整されたホットスターラー上で1時間撹拌した後、更に160℃で3時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。冷却後、ヘキサン3mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿物にプロパノール3mLを加え再分散させた後、再度遠心分離し、得られた沈殿物を減圧乾燥し生成物を得た。得られた生成物を、粉末X線回折計、走査型電子顕微鏡で評価した。
【0077】
図28には、上記生成物の粉末X線回折計による回折パターンを示す。上記生成物は、金属銅であると同定された。
図29に、上記生成物の走査型電子顕微鏡像を示す。上記生成物は、10μm程度の広がりを有するフレーク状であった。
次に上記の方法により析出したフレーク状の金属銅をテルソルブTHA90に対して約30wt%になるよう加えて含銅ペーストとし、ガラス基板にバーコート法により塗布した後、アルゴンガス置換された赤外炉を用いて表3に示す各温度で1時間焼成して銅薄膜を得た。得られた銅薄膜は走査型電子顕微鏡により評価し、導電性を面抵抗測定装置により評価した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、本実施例で得られたフレーク状の銅微粒子は、上記銅微粒子と比較して焼成による抵抗値の低下は小さいものの、200℃程度での焼成により十分な導電性を発現することが分かる。
図30には、上記含銅ペーストを塗布後に220℃で焼成して得られた銅薄膜表面の走査電子顕微鏡像を示す。
図30に示すように、フレーク状の金属銅が表面積を減らすように変形することが観察され、部分的に融着することによってマクロ的な導電性を生じるものと考えられた。
上記の結果に示されるように、本発明によってシュウ酸銅を分解する際に、テンプレート材を混合することで析出する金属銅をフレーク状にすることが可能であること及び当該銅微粒子が高い焼結性を示すことが明らかになった。
【0080】
[実施例17]
本実施例では、銅の基材が存在する環境でシュウ酸ニッケルの分解を行い、銅表面に金属ニッケルを析出させた。
シュウ酸ニッケル2水和物(三津和化学 純度99%以上)0.10g(0.5mmol)に、2−アミノエタノール(関東化学 特級)2.00g(32.7mmol)を混合し、更に市販の銅板を投入して、大気中において170℃に調整されたホットスターラー上で2時間加熱撹拌し、その後に自然放冷した。その後、銅板を取り出し、メタノールで表面を洗浄した。
【0081】
上記処理により銅板の色は、銀色に変化した。
図31には、上記処理後の銅板表面の(a)走査型電子顕微鏡像及び同視野の(b)Ni元素マッピング像と(c)Cu元素マッピング像を示す。走査型電子顕微鏡像においては、銅板表面が上記処理により生成した層により被覆され、一部に粒状の析出物が付着していることが観察された。また、元素マッピング像からは、銅板表面に略均一にNiが分布していることが観察された。更に、上記処理を行った銅板が磁石に吸着したことから、上記処理によって銅板表面が金属Niによって被覆されたものと推察された。
【0082】
本実施例の結果に示されるように、本発明の方法によって金属のシュウ酸塩を分解する際に、所定の物質の表面を介在させることによって、分解によって生じる金属を当該表面に析出させることが可能であり、当該物質表面を被覆することができる。