(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800467
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】リチウム金属をベースとする電池のためのホスホニウムをベースとするイオン液体
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20201207BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20201207BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】22
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-100591(P2018-100591)
(22)【出願日】2018年5月25日
(65)【公開番号】特開2018-200874(P2018-200874A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年12月12日
(31)【優先権主張番号】15/606,964
(32)【優先日】2017年5月26日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】511095676
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニクヒレンドラ・シン
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・エス・アーサー
(72)【発明者】
【氏名】武市 憲典
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ハウレット
(72)【発明者】
【氏名】マリア・フォーサイス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・カー
(72)【発明者】
【氏名】水野 史教
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−071499(JP,A)
【文献】
特開2016−213101(JP,A)
【文献】
特開2014−238935(JP,A)
【文献】
特開2018−200873(JP,A)
【文献】
特表2018−523260(JP,A)
【文献】
特開2012−230806(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2018/0358654(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、
カソードと、
電解質であって、
充電中に前記アノードで還元されるように構成されている活性金属カチオン、およびビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)を含む、塩;
イオン液体であり、FSIならびに
メチルトリエチルホスホニウム;
トリメチルイソブチルホスホニウム;
メチルトリブチルホスホニウム;および
トリへキシルテトラデシルホスホニウム
からなる群から選択される有機カチオンを含む、イオン液体;ならびに
50ppm以上50000ppm以下の濃度で存在する水
を含む、電解質と
を含み、
前記活性金属カチオンがLi+を含み、
前記電解質中において、Li+が、モル比でP+を5としたときに1以上で存在する、二次電気化学セル。
【請求項2】
前記電解質中において、Li+が、モル比でP+を2としたときに1以上で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記電解質中において、前記塩は前記イオン液体の飽和点以下で存在する、請求項1又は2に記載のセル。
【請求項4】
前記アノードがリチウム金属を含む、請求項1に記載のセル。
【請求項5】
前記塩が前記イオン液体に対して少なくとも1:1のモル比で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項6】
前記塩がその飽和点で前記イオン液体中に存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項7】
前記有機カチオンがトリメチルイソブチルホスホニウムを含む、請求項1に記載のセル。
【請求項8】
前記有機カチオンがメチルトリエチルホスホニウムを含む、請求項1に記載のセル。
【請求項9】
水が少なくとも100ppmの濃度で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項10】
水が少なくとも500ppmの濃度で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項11】
水が少なくとも1000ppmの濃度で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項12】
水が少なくとも4000ppmの濃度で存在する、請求項1に記載のセル。
【請求項13】
活性金属カチオンおよびビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)を含む、塩と、
イオン液体であって、FSIならびに
メチルトリエチルホスホニウム;
トリメチルイソブチルホスホニウム;
メチルトリブチルホスホニウム;および
トリへキシルテトラデシルホスホニウム
からなる群から選択される有機カチオンを含む、イオン液体と、
50ppm以上50000ppm以下の濃度で存在する水と
を含み、
前記活性金属カチオンがLi+を含み、
Li+が、モル比でP+を5としたときに1以上で存在する、電解質組成物。
【請求項14】
Li+が、モル比でP+を2としたときに1以上で存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項15】
前記塩は前記イオン液体の飽和点以下で存在する、請求項13又は14に記載の電解質組成物。
【請求項16】
前記有機カチオンがトリメチルイソブチルホスホニウムを含む、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項17】
前記有機カチオンがメチルトリエチルホスホニウムを含む、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項18】
水が少なくとも100ppmの濃度で存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項19】
水が少なくとも500ppmの濃度で存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項20】
水が少なくとも1000ppmの濃度で存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項21】
水が少なくとも4000ppmの濃度で存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項22】
前記塩がその飽和点で前記イオン液体中に存在する、請求項13に記載の電解質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、Liイオン電池用の耐水性電解質、より特定的には、ホスホニウムをベースとするイオン液体を含有するかかる電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書に挙げる背景の記載は、本開示の状況を広く提示することを目的とする。この背景の欄に記載され得る程度までの、現在名前が挙がっている発明者の研究、ならびに他の点では出願時の先行技術とされ得ない記載の態様は、明示的にも暗にも本技術に対する先行技術と認められることはない。
【0003】
イオン液体はリチウム金属をベースとする電池技術に応用可能なクラスの電解質である。イオン液体、または「溶融塩」はイオン種で構成されており、殆どの例は単一の/単純なカチオン/アニオン対からなっている。その電池用途における主たる魅力には、100℃未満で殆どまたは全く蒸気圧がないこと、イオンの無制限の組合せ(デザイナー溶媒(designer solvent)に似ている)、広範な安定した電位窓、不燃性の特性、水を排除する能力、高い伝導性、および金属塩の高い溶解性がある。これらの魅力のため、イオン液体は有機溶媒と比較して大変興味深いものとなっている。
【0004】
水は、リチウム金属、ならびに他のアルカリおよびアルカリ土類金属と自発的に反応する。あったとしても僅かのイオン液体または他の電解質が、電解質中の水の存在下で有利なリチウムサイクリング結果をもたらす。これは、イオン液体の周知の水排除能力にもかかわらずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、電解質中にかなりの水が存在しながら安定した電気化学サイクリング性能を可能にするリチウム電解質用のイオン液体を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
この欄は本開示の一般的な概要を提供するものであり、その全範囲またはその全ての特徴の包括的な開示ではない。
【0007】
様々な態様において、本教示はLiイオンセルを提供する。セルは、アノード、カソード、および電解質を含む。電解質は、充電中にアノードで還元されるように構成されている活性金属カチオン;有機カチオン;ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン;および少なくとも50ppmの濃度で存在する水を有する。有機カチオンは、メチルトリエチルホスホニウム;トリメチルイソブチルホスホニウム;メチルトリブチルホスホニウム;およびトリへキシルテトラデシルホスホニウムからなる群から選択される。
【0008】
他の態様において、本教示は電解質を提供する。電解質は、充電中にアノードで還元されるように構成されている活性金属カチオン;有機カチオン;ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン;および少なくとも50ppmの濃度で存在する水を有する。有機カチオンは、メチルトリエチルホスホニウム;トリメチルイソブチルホスホニウム;メチルトリブチルホスホニウム;およびトリへキシルテトラデシルホスホニウムからなる群から選択される。
【0009】
応用可能なさらなる分野および上記結合技術を推進する各種の方法は本明細書の記載から明らかとなろう。本概要における記載および特定の実施例は例示の目的のみのものであり、本開示の範囲を制限するものではない。
【0010】
本教示は、以下の詳細な説明および添付の図面から、より十分に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2A-2D】本開示のホスホニウムカチオンの線画である。
【
図3】[P
6,6,6,14][FSI]イオン液体をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図4A】[P
1,4,4,4][FSI]イオン液体および1:1のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図4B】[P
1,4,4,4][FSI]イオン液体および1:2のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図4C】[P
1,4,4,4][FSI]イオン液体および1:5のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図5A】[P
1,2,2,2][FSI]イオン液体および1:1のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図5B】[P
1,2,2,2][FSI]イオン液体および1:2のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図5C】[P
1,2,2,2][FSI]イオン液体および1:5のLi
+:P
+モル比をもつ電解質を有するセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図6A】
図5Aのセルであるが、電解質に様々な量の水を加えたセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図6B】
図5Bのセルであるが、電解質に様々な量の水を加えたセルのサイクリックボルタモグラムである。
【
図7A】
図4Aのセルに対する、水含量の関数としてのリチウム析出の最大電流密度のプロットである。
【
図7B】
図4Bのセルに対する、水含量の関数としてのリチウム析出の最大電流密度のプロットである。
【
図7C】
図5Aのセルに対する、水含量の関数としてのリチウム析出の最大電流密度のプロットである。
【
図7D】
図5Bのセルに対する、水含量の関数としてのリチウム析出の最大電流密度のプロットである。
【
図8A】P
1,4,4,4:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:1のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図8B】P
1,4,4,4:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:2のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図8C】P
1,4,4,4:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:5のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図9A】P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:1のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図9B】P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:2のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図9C】P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、1:5のLi
+:P
+のモル比における5000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間のプロットである。
【
図10】1:1のLi
+:P
+をもつP
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、2000ppmの水の不在または存在下でのセル電圧対時間の一対の長期プロットである。
【
図11A】電流密度を一定に保ちつつ増大するステップ時間を有する、P
1,1,1,i4:FSIイオン液体を有する対称セルに対するセル電圧対時間のプロットである。
【
図11B】電流密度を一定に保ちつつ増大するステップ時間を有する、P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する対称セルに対するセル電圧対時間のプロットである。
【
図11C】ステップ容量を一定に保ちつつ増大する電流密度を有する、
図11Aのセルに対するセル電圧対時間のプロットである。
【
図11D】ステップ容量を一定に保ちつつ増大する電流密度を有する、
図11Bのセルに対するセル電圧対時間のプロットである。
【
図12】様々なサイクリング時間に対して、電解質中の様々な水含量で、P
1,1,1,i4:FSIイオン液体を有するセルに対するセル電圧対時間の9つのプロットのパネルである。
【
図13】様々なサイクリング時間に対して、電解質中の様々な水含量で、P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有するセルに対するセル電圧対時間の9つのプロットのパネルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に挙げた図は幾つかの態様の説明の目的で本技術のうち方法、アルゴリズム、および装置の一般的な特徴を例示することを意図したものであることに留意されたい。これらの図は、いずれかの所与の態様の特徴を正確に反映したものではなく、本技術の範囲内の特定の実施形態を規定または限定することを必ずしも意図したものではない。さらに、幾つかの態様はこれらの図を組み合わせた特徴をもっていてもよい。
【0013】
詳細な説明
本教示は、有利な電気化学特性を保有し、電解質組成物中における水に対する高い耐性を可能にする、Li金属をベースとする電池系のための電解質成分としてのイオン液体を提供する。開示されているイオン液体は高い塩溶解性、優れたイオン伝導性、およびアノード還元に対する強い安定性を示す。さらに、本教示は、開示されているイオン液体が、通例水の存在に伴う実質的な過電圧増大および不具合なしに、水の存在下での多数の電気化学サイクリングを容易にする通常でない強力な能力を保有することを示している。
【0014】
本開示のイオン液体は、4つの開示されているホスホニウムカチオンの1つおよびビス(フルオロスルホニル)イミドを含む。電解質組成物で溶媒として使用されたとき、水に対する劇的な安定化を電池アノードに提供することができる。
【0015】
図1は、二次電気化学セル100を図解する。本開示のセル100は、アノード110、カソード120、およびアノード110と接触している電解質130を含むことができる。用語「アノード」は、本明細書で使用されるとき、セル100の放電中電気化学酸化が起こり、セル100の充電中電気化学還元が起こる電極を意味すると理解される。同様に、用語「カソード」は、本明細書で使用されるとき、セル100の放電中電気化学還元が起こり、セル100の充電中電気化学酸化が起こる電極を意味する。
【0016】
様々な実施において、セル100はLiイオンセルである。多くのかかる実施において、アノード110はリチウム金属であるが、無制限に、Li
4Ti
5O
12、Mo
6S
8、Cu
2V
2O
7、TiS
4、NbS
5、テレフタル酸Li(C
8H
4Li
2O
4)、ケイ素、硫黄、グラファイト、ニッケル、およびこれらの混合物のような他の適切なアノード材料も含むことができる。カソード120はLiイオンセルの電気化学と適合性であるあらゆる種類のカソード活物質を含むことができる。カソード材料の適切な例としては、無制限に、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiFe(PO
4)、LiMn
1/3Ni
1/3Co
1/3O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiCoPO
4、白金、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0017】
他の実施において、セル100はナトリウムセル、マグネシウムセル、または別の二次電気化学セルであることができる。かかる実施において、アノード110は活性金属、または別の適切なアノード材料から形成することができ、カソード130は適合性のカソード材料から形成することができる。
【0018】
電解質130は活性金属カチオンおよびビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)の塩を含んでおり、この活性金属カチオンはセル100の充電中にアノードで還元されるように構成されている。たとえば、Liイオン電池の場合、電解質はLiFSIを含む。電解質は、さらに、FSIアニオンならびにトリへキシルテトラデシルホスホニウム(P
6,6,6,14;
図2A)、メチルトリブチルホスホニウム(P
1,4,4,4;
図2B)、メチルトリエチルホスホニウム(P
1,2,2,2;
図2C)、およびトリメチルイソブチルホスホニウム(P
1,1,1,i4;
図2D)を含む群からの少なくとも1種のホスホニウムカチオンを有するイオン液体を含む。いくつかの実施において、塩は、イオン液体に対して、少なくとも1:5;または少なくとも1:2;または少なくとも1:1のモル比で存在する。いくつかの実施において、塩はイオン液体中でその飽和点で存在する(すなわち、電解質130はイオン液体中塩の飽和溶液である)。
【0019】
様々な実施において、電解質130は少なくとも50ppm;または少なくとも100ppm;または少なくとも200ppm;または少なくとも300ppm;または少なくとも400ppm;または少なくとも500ppm;または少なくとも600ppm;または少なくとも700ppm;または少なくとも800ppm;または少なくとも900ppm;または少なくとも1000ppm;または少なくとも2000ppm;または少なくとも3000ppm;または少なくとも4000ppmの量で存在する水を含むことができる。いくつかの実施において、電解質130は前述の最小値のいずれかで、そして最大5000ppmで水を含むことができる。いくつかの実施において、電解質130は5000−10000ppm(両端含む)の範囲内で存在する水を含むことができる。50ppm未満の水を有する電解質130は本明細書では「乾燥」といわれる。本明細書で述べる水含量はKarl Fischer滴定により決定することができる。
【0020】
図3は、ニッケル作用電極ならびに0.75mol/kgのLiFSIおよび[P
6,6,6,14][FSI]のイオン液体を有するLi
+:P
+モル比が1:2の電解質に対する電流密度対電位のサイクリックボルタンメトリープロットを示す。結果により、開示されているイオン液体が、[P
6,6,6,14][FSI]の場合比較的低い速度ではあるが、可逆のリチウム析出/ストリッピングを支持することが確かめられる。
【0021】
図4A−4Cは、LiFSIがそれぞれ約2.5、1.25、および0.5mol/kgで存在する(Li
+:P
+モル比はそれぞれ1:1、1:2、および1:5である)[P
1,4,4,4][FSI]を用いた類似の結果を示す。結果は、[P
1,4,4,4][FSI]が、ずっと高い速度ではあるが類似の電気化学窓を横切る可逆のリチウム析出/ストリッピングを支持することを示している。さらに、速度は低下するLiFSI濃度と共に増大する。
図5A−5Cは、LiFSIがそれぞれ約3.2、1.6、および0.65mol/kgで存在する(Li
+:P
+モル比は、ここでも、それぞれ1:1、1:2、および1:5である)[P
1,2,2,2][FSI]を用いた類似の結果を示している。結果は、[P
1,2,2,2][FSI]がさらにより高い析出/ストリッピング速度を支持し、速度がここでもまた低下するLiFSI濃度と共に増大することを示している。いかなる理論にも縛られることはないが、より小さいホスホニウムカチオンを用いて、またより低いLiFSI濃度で得られた増大した電流密度は少なくとも部分的に粘度効果に起因すると考えられる。
【0022】
図6Aおよび6Bは、
図5Aおよび5Bのセルであるが、それぞれの凡例に示されているように様々な量の水を電解質に添加したセルのサイクリックボルタモグラムを図解する。結果は、電解質が水の存在下で可逆のリチウム析出/ストリッピングを支持し続けることを示している。驚くべきことに、これらの結果は、さらに、いくらかの水を添加するとリチウム析出の速度が増大し、中間の水含量で最大の析出速度が得られることを示している。さらに、低下したLiFSI濃度では最大の析出速度を提供する水の濃度が低下する。
【0023】
この効果をまとめて
図7A−7Dに示す。これらの図は、それぞれ1:1のLi
+:P
1,4,4,4;1:2のLi
+:P
1,4,4,4;1:1のLi
+:P
1:2,2,2;および1:2のLi
+:P
1,2,2,2を有する3電極セルに対するピーク還元(析出)電流密度を水含量の関数としてプロットして示す。
【0024】
図8A−8Cは、P
1,4,4,4:FSIイオン液体を有する対称セルに対する、5000ppmの水の不在または存在下で、それぞれ1:1、1:2、および1:5のLi
+:P
+のモル比におけるサイクリングデータを図解する。高リチウムセル(
図8A)は水の不在または存在下で全サイクリング時間中安定したサイクリングを示す。中間のリチウム濃度のセル(
図8B)は5000ppmの水の存在下で不規則なサイクリングを示し、低リチウム濃度セル(
図8C)はうまくサイクルしない。P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有するセルに対する類似のデータ(
図9A−9C)は水の不在または存在下で全てのLiFSI濃度において安定したサイクリングを示す。5000ppmの水の添加の結果、1:1および1:2のLi
+:P
+の場合セル電圧がおよそ15mVのほんの僅かだけ増大する。驚くべきことに、セル電圧は、最も低いリチウム濃度セル(
図9C)に水を導入するとおよそ20mV低下する。本明細書で使用されるとき、語句「安定したサイクリング」は、いくつかの実施において、100サイクル後±1V未満の過電圧を示すセルを意味することができる。いくつかの実施において、語句「安定したサイクリング」は、100サイクル後±0.5V未満;または±0.3V未満;または±0.2V未満の過電圧を示すセルを意味することができる。
【0025】
図10は、Li
+:P
+が1:1のP
1,2,2,2:FSIイオン液体を有するセルに対して2000ppmの水の不在または存在下で行った長期にわたるサイクリング測定のプロットを示す。電圧プロフィールは、両方のセルで、電極分極が150時間の間50mV付近で一定であることを示している。この時点の後、両方のセルは不規則な挙動を示し、過電圧の低下に至る。
【0026】
図11Aおよび11Bは、電流密度を一定に保ったまま増大するステップ時間を有する、それぞれP
1,1,1,i4:FSIイオン液体またはP
1,2,2,2:FSIイオン液体を有するセルに対するサイクリングデータのプロットを図解する。
図11Cおよび11Dは、同一のセルであるが、ステップ容量を一定に保ったまま増大する電流密度でのサイクリングデータを表す。いずれの電解質も、1mA・cm
−2でサイクルさせると10サイクルの間4mAh・cm
−2まで、そして1mAh・cm
−2でサイクルさせると4mA・cm
−2までLiサイクリングを持続することができるという類似の性能限界を示す。
【0027】
図12および13は、それぞれP
1,1,1,i4:FSIイオン液体またはP
1,2,2,2:FSIイオン液体を有するセルに対する、様々なサイクリング時間、電解質130中様々な水含量で、リチウムカチオンに対して1:1のモル比で存在するホスホニウムカチオンを用いた各サイクリングデータの9つのプロットを図解する。水の不在下で両方の電解質中のリチウムのサイクリングは250サイクルにわたって良好な安定性を示す。両方の電解質の初期の過電圧は同様であり、70〜100mVである。P
1,2,2,2をベースとするイオン液体では、250サイクルの試験の初期および中期の間、おそらくは人為的な、不安定性のいくつかのエピソードがある。しかし、これは、エピソードが弱まった後セルの長期の挙動に影響しないようである。1000ppmの添加は225hの後P
1,1,1,i4電解質で短絡を起こすようであり、セルの短絡は5000ppmで300hのサイクリングの後である。これは、P
1,2,2,2:FSIイオン液体を有する電解質が本明細書に開示されている中で最良であり得るということを示唆している。
【0028】
上記記載は実際上単なる例示であり、いかなる意味でも本開示、その適用、または使用を制限するものではない。本明細書で使用されるとき、語句A、B、およびCの少なくとも1つは非排他的な論理的「または」を使用する論理(AまたはBまたはC)を意味すると解釈されたい。方法内の様々なステップは本開示の原理を変えることなく異なる順序で実行することができると理解されたい。範囲の開示は全ての範囲および全範囲内で細分割される範囲の開示を含む。
【0029】
本明細書で使用される見出し(たとえば「背景」および「概要」)および小見出しは、単に本開示内の主題の全般的な組織化を意図したものであり、技術の開示またはそのいずれかの態様を限定することを意図したものではない。規定された特徴を有する多数の実施形態の記述は、追加の特徴を有する他の実施形態、または規定された特徴のいろいろな組合せを含む他の実施形態を排除することを意図したものではない。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「含む(comprise)」および「含む(include)」およびその変形は限定されないことを意図したものであり、したがって連続した項目の列挙またはリストはこの技術の装置および方法に同様に有用であり得る他の類似の項目を排除しない。同様に、用語「することができる」および「あり得る」ならびにその変形は、限定されないことを意図したものであり、したがってある実施形態がある種の要素もしくは特徴を含むことができる、または含み得るという記述はその要素もしくは特徴を含有しない本技術の他の実施形態を排除しない。
【0031】
本開示の広範な教示は、様々な形態で実行することができる。したがって、本開示は特定の実施例を含んでいるが、本明細書および以下の特許請求の範囲を読んだ当業者には他の変更が明らかとなるので、本開示の真の範囲は制限されることはない。本明細書で1つの態様または様々な態様への言及は、ある実施形態または特定の系に関連して記載されている特定の特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態または態様に含まれることを意味している。語句「1つの態様において」(またはその変化形)の出現は必ずしも同一の態様または実施形態を意味するものではない。本明細書で述べられている様々な方法ステップは記載された通りの同じ順序で実施する必要はなく、各々の方法ステップが各々の態様または実施形態で必要とされるわけではないと理解されたい。
【0032】
以上の実施形態の説明は例示および説明の目的で提供されたものであり、徹底的なものではないし、本開示を制限する意図はない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は一般にその特定の実施形態に限定されることはなく、適用可能であれば互換的であり、具体的に示すかまたは記載されていなくても、ある選択された実施形態で使用することができる。同様に、多くのやり方で変形させることもできる。かかる変形は本開示から逸脱するものではなく、全てのかかる変更は本開示の範囲内に含まれるものである。