(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800534
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ダストカバーの組み付け構造
(51)【国際特許分類】
F16F 9/38 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
F16F9/38
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-34223(P2017-34223)
(22)【出願日】2017年2月26日
(65)【公開番号】特開2018-141475(P2018-141475A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154782
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知二
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−121445(JP,U)
【文献】
特開2001−271929(JP,A)
【文献】
特開2005−265154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のカップ状の枠体と、
先端が前記枠体の内側に嵌め込まれる合成樹脂製のダストカバーとを備え、
前記ダストカバーは、前記枠体の内周面と正対する面に形成された第1の突起と、
前記枠体の内周面と正対する面であって、前記第1の突起が形成された面に対して前記ダストカバーの延出方向に沿って離隔した面に形成された第2の突起とを有し、
前記枠体の前記内周面には、前記ダストカバーの前記第1の突起が係合される凹部又は貫通孔が形成され、
前記第2の突起は、前記枠体の前記内周面に弾性的に当接している、
車両のサスペンションにおけるダストカバーの組付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の輸送機器のサスペンション等に用いられるダストカバーの組み付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、自動車のストラット型サスペンションの構成を模式的に示す側面図である。なお、
図3はサスペンションの軸方向による断面図として示した。
【0003】
図3に示すように、ストラット型サスペンション100は、自動車の車体150を貫通するサスペンションのショックアブソーバのピストンロッド130に締結固定されるアッパサポート140及びリバウンドストッパ160を備える。
【0004】
アッパサポート140は車体150に形成された凹部内に緩衝体180aを介して配置され、リバウンドストッパ160は車体150の凹部に開口された貫通孔を介して一部が凹部に位置するとともに緩衝体180bを介してピストンロッド130の先端170に固定される。なお、アッパサポート140及びリバウンドストッパ160並び緩衝体180a及び180bは、ピストンロッド130の軸周りに対称をなす平面形状環状の外形を有する。
【0005】
更に、アッパサポート140の下方にはピストンロッド130を覆い、これを保護するための筒状のダストカバー110と、ダストカバー110に組み付けられるとともにアッパサポート140に固定されるカップ状の枠体120とが設けられる。
【0006】
ダストカバー110はブロー成形により成形される合成樹脂製の部材であって、これを金属製の枠体120の外側に嵌め込むことにより組み付けるようにしている。更に、枠体120の周壁に係合用の穴120xを設けるとともにダストカバー110の周面に、穴120xに対応した突起110aを設けることにより、ダストカバー110を枠体120に安定的に組み付けるようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−78080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のストラット型サスペンションにおけるダストカバー110の組み付けにおいては、以下のような課題があることを、本発明者は見いだした。すなわち、
図3に示すように金属製の枠体120に対して外側から合成樹脂製のダストカバー110を作業性よく嵌め込むことは一般に困難である一方、逆に枠体120の内側にダストカバーを嵌め合せる構成とした場合、車外の温度環境に起因してダストカバーが収縮して、枠体からの脱落、あるいは嵌め合せ不良に基づく異音の発生等の不具合が生じてしまう。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、作業性よく安定的にダストカバーを組み付けることが可能なダストカバーの組み付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、金属製のカップ状の枠体と、先端が前記枠体の内側に嵌め込まれる合成樹脂製のダストカバーとを備え、前記ダストカバーは、前記枠体の内周面と正対する面に形成された第1の突起と、前記枠体の内周面と正対する面であって、前記第1の突起
が形成された面に対して
前記ダストカバーの延出方向に沿って離隔した
面に形成された第2の突起とを有し、前記枠体の前記内周面には、前記ダストカバーの前記第1の突起が係合される凹部又は貫通孔が形成され、前記第2の突起は、前記枠体の前記内周面に弾性的に当接している、
車両のサスペンションにおけるダストカバーの組付構造である。
【0011】
更に、本発明は他の側面として、前記筒体の前記第1の突起及び前記第2の突起は、前記筒体の延出方向に沿って縦列配置されているものとしてもよい。
【0012】
更に、本発明は他の側面として、車両のサスペンションに含まれるショックアブソーバであって、ピストンロッドと、前記ピストンロッドの先端に固定されるアッパサポートと、上記本発明の各側面のダストカバーの組み付け構造とを備え、前記ピストンロッドは前記ダストカバーに内挿され、前記アッパサポートは、前記枠体の底面に固定されている、ショックアブソーバであるとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上のような本発明は、作業性よく安定的にダストカバーを組み付けることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るダストカバーの組み付け構造の構成を示す部分断面図
【
図2】本発明の実施の形態に係るダストカバーの組み付け構造の構成を示す平面図
【
図3】従来のストラット型サスペンションの構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るダストカバーの組み付け構造1の構成を示す側面図であり、
図2は
図1のA矢視に基づく平面図である。ただし、各図において
図3に示す従来例の構成と同一又は相当する構成については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。また、
図1は、右半分は表面を示し左半分は内部構成を示す部分断面図として示した。
【0017】
各図に示すように、本実施の形態のダストカバーの組み付け構造1は、ストラット型サスペンションのショックアブソーバにおいて実装され、サスペンションのピストンロッド130を覆い、これを保護するための筒状のダストカバー10と、ダストカバー10に組み付けられるとともにサスペンションのアッパサポート140に固定されるカップ状の枠体20とを主要な構成として備える。
【0018】
ダストカバー10は、従来例同様ブロー成形により成形される合成樹脂製の部材であって、枠体20の内側に先端部分が嵌め込まれることにより、枠体20に組み付けられる。
【0019】
ダストカバー10において、枠体20との嵌合部分は、ダストカバー10の突端に位置して、枠体20の内径と略同一の外径を有する第1の外周面10aと、ダストカバー10の延出方向に沿って第1の外周面10aの直下に位置する、枠体20の内径未満の外径を有する第2の外周面10bとに区画される。更に、底面10cは、筒形の端面部分に相当する部位であって、少なくともピストンロッド130を挿通させるだけの開口が形成される。ただし底面10cは必須でなく省略した構成であるとしてもよい。
【0020】
第1の外周面10aと第2の外周面10bとの境界には、ダストカバー10の全周を略3等分する位置に係合突起11が突設される。係合突起11は、略矩形の平面形状を有するとともにダストカバー10の突端へ向かって突出寸法が漸減する略台形の断面形状を有する部位であり、後述する枠体20の開口20xに嵌合して、その先端の全体が外部に露出する。
【0021】
第2の外周面10bの周上には、ダストカバー10の全周を略6等分する位置に当接突起12が突設される。当接突起12は、略円形の平面形状を有する略球殻状の断面形状を有する部位である。当接突起12の頂上とダストカバー10の中心軸との距離は、後述する枠体20の内周面20bの半径よりも大きく定められる。したがって、ダストカバー10が枠体20に嵌め込まれた状態において、第2の外周面10bは中心軸に向かって収縮する向きに変形し、当接突起12は内周面20bに対して弾性的に当接する。
【0022】
更に、係合突起11及び当接突起12の一部は、
図2の平面視において同一位置、すなわち
図1に示すように、ダストカバー10の延出方向に沿った同一線上に所定間隔をもって縦列配置される。
【0023】
枠体20は、従来例同様の金属製の部材であって、ダストカバー10との嵌合状態において、第1の外周面10a及び第2の外周面10bと正対して内径部分を構成する内周面20bと、外形部分を構成する外周面20aと、ダストカバー10の底面10cに正対する底面20cとに区画される。外周面20a及び内周面20bは、カップ形の側壁部分に相当する部位であって、ダストカバー10の係合突起11の位置及び形状に対応した、平面形状略矩形の貫通孔としての開口20xが形成される。なお、底面20cは少なくともピストンロッド130を挿通させるともに、アッパサポート140と接合可能な面積を有していればよい。
【0024】
以上の構成において、ダストカバーの組み付け構造1は本発明のダストカバーの組み付け構造に相当し、ダストカバー10は本発明のダストカバーに、枠体20は本発明の枠体にそれぞれ相当する。また、係合突起11は本発明の第1の突起に相当し、当接突起12は本発明の第2の突起に相当する。
【0025】
本実施の形態に係るダストカバーの組み付け構造1は、以上の構成を備えたことにより、ダストカバー10が枠体20の内周面20bに嵌め込まれた状態において、係合突起11にて枠体20の開口20xに係合するとともに当接突起12が枠体20の内周面20bに弾性的に当接する。これにより、作業性よく安定的にダストカバーを組み付けることが可能となる。
【0026】
すなわち、本実施の形態においては、剛性の小さいダストカバー10が同軸内周側となるよう、金属製の枠体20の内周面20bに合成樹脂製のダストカバー10を嵌め込む構成としたことにより、嵌め込みの作業性が向上する。
【0027】
一方で、車外の温度環境、具体的には寒冷地、走行風等の影響により低温下にある場合、金属製である枠体20に対して合成樹脂製のダストカバー10は相対的に大きく収縮し、第1の外周面10a及び第2の外周面10bは枠体20の内周面20bから中心軸に向かって後退するが、係合突起11が枠体20の開口20xとの係合状態を保持することにより、ダストカバー10は枠体20からの脱落が抑制される。
【0028】
更に、第1の外周面10a及び第2の外周面10bが後退する一方で、第2の外周面10bにおいては当接突起12が内周面20bに対して弾性的に当接した状態が保たれることにより、ダストカバー10と枠体20との嵌め合せ不良は解消され、異音の発生を抑制することが可能となる。特に、
図2に示すように、係合突起11と当接突起12とが、同一線上に所定間隔をもって縦列配置される構成としたことにより、サスペンションの揺動に対して係合突起11及び当接突起12の2箇所が同時に枠体20に接触することとなり、ダストカバー10を安定的に保持することが可能となる。
【0029】
更に、本実施の形態においては、係合突起11がダストカバー10の突端へ向かって突出寸法が漸減する略台形の断面形状を有することにより、ダストカバー10の、枠体20への挿入方向における第1の外周面10a及び第2の外周面10bの変形を容易とさせ、嵌め込みの作業性を向上させることが可能となる。
【0030】
更に、本実施の形態においては、係合突起11はその先端の全体が開口20xを介して外部へ露出することにより、以下の効果を奏する。すなわち、枠体20の開口20xを例としてプレス加工により作成した場合、周縁20x1が鋭利な形状に形成されることがあり、完成後のサスペンションの取扱いに注意を要する恐れがある。本実施の形態によれば、係合突起11は開口20xの周縁20x1より任意の位置で突出することとなり、開口20xの周縁20x1が直接外部に接する恐れを軽減して、完成後のサスペンションの取扱いを容易にすることが可能となる。
【0031】
なお、係合突起11の高さ、すなわち根元から先端までの寸法は、ダストカバー10の収縮寸法を考慮して所定の締め代を有するようにすることが好ましい。一例として、係合突起11の、根元からの寸法は、(枠体20の膨張率−ダストカバー10の膨張率)×ダストカバー10の半径×(常温−下限使用温度)以上に設定することが好ましい。ここで「ダストカバー10の半径」とは、係合突起11の根元の位置であって、係合突起11が設けられたダストカバー10の、側面上の位置に基づき定まる。本実施の形態の場合は、第1の外周面10a及び第2の外周面10bの各半径の総和の平均を用いることが好ましい。
【0032】
このように、本実施の形態のダストカバーの組み付け構造1によれば、作業性よく安定的にダストカバーを組み付けることが可能となる。
【0033】
しかしながら、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。上記の説明においては、係合突起11はダストカバー10の全周を略3等分する位置に、当接突起12は、ダストカバー10の全周を略6等分する位置に、それぞれ突設されるものとしたが、各突起の個数、周上の配置は任意であってよく、また、平面形状もそれぞれ任意であってよい。更に、係合突起11及び当接突起12の一部は、
図2の平面視において同一位置に配置されるものとしたが、全てが平面視において異なる位置に配置されるものとしてもよい。
【0034】
更に、上記の説明においては、ダストカバー10の係合突起11は枠体20上の貫通孔としての開口20xに係合するものとしたが、枠体20には内周面20bに凹部を設け、係合突起11は当該凹部に嵌合する程度の高さを有するものとしてもよい。
【0035】
更に、上記の説明においては、本実施の形態のダストカバーの組み付け構造1は、ストラット型サスペンションのショックアブソーバにおいて実装されるものとしたが、本発明は、金属製のカップ状の枠体と、先端が前記枠体の内側に嵌め込まれる合成樹脂製のダストカバーとを備えたダストカバーの組み付け構造を含むものであれば、任意の機械類において適用してもよい。
【0036】
以上のように、本発明は、
車両のサスペンションにおけるダストカバーの組み付け構造であって、金属製のカップ状の枠体と、先端が前記枠体の内側に嵌め込まれる合成樹脂製のダストカバーとを備え、前記ダストカバーは、前記枠体の内周面と正対する面に形成された第1の突起と、前記枠体の内周面と正対する面であって、前記第1の突起
が形成された面に対して
前記ダストカバーの延出方向に沿って離隔した
面に形成された第2の突起とを有し、前記枠体の前記内周面には、前記ダストカバーの前記第1の突起が係合される凹部又は貫通孔が形成され、前記第2の突起は、前記枠体の前記内周面に弾性的に当接しているものであればよく、その他の具体的な目的、用途、構成によって限定されるものではない。
【0037】
したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内であれば、以上説明したものを含め、上記実施の形態に種々の変更を加えたものとして実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のような本発明は、作業性よく安定的にダストカバーを組み付けることが可能になるという効果を有し、例えば自動車のストラット型サスペンションへの適用において有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 ダストカバーの組み付け構造
10 ダストカバー
10a 第1の外周面
10b 第2の外周面
10c、20c 底面
11 係合突起
12 当接突起
20 枠体
20a 外周面
20b 内周面
20x 開口
20x1 周縁
130 ピストンロッド
140 アッパサポート