特許第6800568号(P6800568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800568
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】金属光沢膜を製造する方法。
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20201207BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C08G61/12
   C08J5/18CEZ
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-177110(P2015-177110)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-52856(P2017-52856A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気化学会第82回大会講演要旨集
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】徳田 琢也
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04986886(US,A)
【文献】 特開2003−243028(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/115305(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102856080(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104359996(CN,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00315559(EP,A1)
【文献】 特開平02−209497(JP,A)
【文献】 特開2009−209259(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103149258(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G61/00−61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオフェンモノマーを、負電位と正電位の間で掃引する電位掃引法を用いて導電体上に電解重合することでチオフェン重合体からなる膜厚が0.4μm以上の金属光沢を有する膜を製造する方法。
【請求項2】
前記負電位は、−1.5V以上−0.01V以下の範囲であり、
前記正電位は、+1.0V以上+3.0V以下の範囲である、請求項1記載の金属光沢を有する膜を製造する方法。
【請求項3】
前記電位掃引法は、掃引速度を、0.1mV/秒以上10V/秒以下の範囲とする請求項1記載の金属光沢を有する膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を有する膜(金属光沢膜)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は一般に硬く、家電や自動車等、機械的強度が必要な部品に使用されているだけでなく、金属光沢を有するため質感に優れ、家具や雑貨等、日常生活のありとあらゆる物品において使用されている。特に金は、高級感を出すことができ人気が高い。しかしながら、金属は材料そのものが高価であるだけでなく加工も容易ではなく、高価となってしまうといった課題がある。
【0003】
上記の課題を解決するための手段として、例えば、高分子やガラスといった物品の表面に金属の薄膜を被覆する金属めっき方法や、微粒子又はフレーク状の金属を添加した塗料を物品の表面に塗布する方法等の表面処理技術がある。この技術を用いると、高分子化合物で物品を製造する一方、その表面に金属薄膜又は金属を含む塗料を被覆することで、安価に金属光沢を有する物品を製造することができるといった効果がある。
【0004】
しかしながら、上記金属めっき方法は、表面処理を行うことができる材質に制限が少なからずある。また上記表面技術は結局のところ金属を使用するものであり、物品全部を金属で使用する場合よりは少なくて済むが結局高価となってしまう。特に、上記金属を添加した塗料は塗料中のポリマーバインダーと金属との比重の違いにより、金属粒子が沈降し、塗膜にしたときに斑が生じやすくなってしまうといった課題もある。
【0005】
そこで、金属以外の物質を用いて金属光沢を示す物質が存在すれば、上記課題を解決することができると考えられており、金属光沢を示す非金属物質に関する技術として、例えば下記特許文献1に記載の技術がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/21405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、化学重合法のみを開示しており、複雑な形状の基板上に均一な金属光沢膜を形成することができないといった課題がある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、非平面等の複雑な形状の基板であっても均一に金属光沢膜を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るチオフェン重合体からなる金属光沢膜を製造する方法は、チオフェンモノマーを、電位掃引法を用いて導電体上に電解重合する。
【0010】
また本観点において、限定されるわけではないが、電位掃引法は、負電位と正電位の間で掃引することが好ましい。
【0011】
また本観点において、限定されるわけではないが、負電位は、−1.5V以上−0.01V以下の範囲であり、正電位は、+1.0V以上+3.0V以下の範囲であることが好ましい。
【0012】
また本観点において、限定されるわけではないが、電位掃引法は、掃引速度を、0.1mV/秒以上10V/秒以下の範囲とすることが好ましい。
【0013】
また本観点において、限定されるわけではないが、膜厚を0.4μm以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明により、複雑な形状の基板であっても均一に金属光沢膜を製造することのできる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る金属光沢を有する膜の概略を示す図である。
図2】実施例において用いる電解セルの概略を示す図である。
図3】実施例におけるリニアスイープボルタンメトリーの結果を示す図である。
図4】実施例におけるサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図5】実施例において作製した金属光沢膜の写真図である。
図6】実施例において作製した金属光沢膜の反射スペクトルを示す図である。
図7】実施例において作製した金属光沢膜の写真図及びレーザーによる表面形状測定結果を示す図である。
図8】実施例において作製した金属光沢膜の反射スペクトルを示す図である。
図9】実施例において作製した再生前の金属光沢膜の写真図である。
図10】実施例において作製した再生後の金属光沢膜の写真図である。
図11】再生前と再生後の金属光沢膜の反射スペクトルを示す図である。
図12】酸化側で掃引停止した場合と還元側で掃引停止した場合の金属光沢膜の写真図である。
図13】酸化側で掃引停止した場合と還元側で掃引停止した場合の金属光沢膜の反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本実施形態に係るチオフェン重合体を含む金属光沢を有する膜(以下「金属光沢膜」という。)が形成されてなる物品の断面の概略図である。
【0018】
本実施形態に係る物品としては、金属光沢を有する膜が形成できる限りにおいて特に限定されるものではなく、家電や自動車等の電子機械部品だけでなく、家具や玩具等の日常生活において用いる雑貨、衣類、紙製品等、ありとあらゆるものを挙げることができるが、少なくとも表面の材質は導電体となっている。本実施形態では、基材に導電体を用いることで、チオフェンモノマーを電解重合することができ、チオフェン重合体からなる金属光沢膜を製造することができる。
【0019】
本実施形態において、導電体としては、電気を通すことができる限りにおいて限定されず、例えば鉄やアルミニウム等の金属(合金を含む)や、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)等の導電性金属酸化物、カーボン電極等を採用することができるがこれに限定されない。また本実施形態において導電体は、表面に設けられていればその表面の形状は特に限定されず複雑な非平面であっても良い。
【0020】
また本実施形態において金属光沢膜の厚さとしては、金属光沢を発揮することができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.4μm以上あれば金属光沢を有する膜とすることができ、より好ましくは0.6μm以上であり、さらに好ましくは1μm以上あればより十分な金属光沢を有する膜となる。
【0021】
また、本実施形態に係る金属光沢を有する膜は、チオフェン重合体を含む。
【0022】
本実施形態において「チオフェン重合体」は、二以上のチオフェンが互いに結合して重合したものをいい、下記一般式で示される化合物である。
【化1】
【0023】
上記式において、Rは置換基であり、膜に金属光沢を付与できる限りにおいて限定されるわけではないが、アルコキシ基、アミノ基、アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、シアノ基、又は、ハロゲンのいずれかであることが好ましい。また、Rは一つのチオフェン環に一つであっても、二つであってもよい。また、本実施形態に係るチオフェン重合体において、各チオフェンの上記Rは同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
なお「チオフェン」は、上記の記載からも明らかなように、硫黄を含む複素環式化合物であって、下記一般式で示される化合物である。式中Rの定義は上記と同様である。
【化2】
【0025】
なお、上記式中Rがアルコキシ基である場合、限定されるわけではないが、炭素数は1以上8以下であることが好ましく、より具体的には、3−メトキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン等を例示することができる。
【0026】
また、上記式中Rがアルキル基である場合、限定されるわけではないが、炭素数は1以上12以下であることが好ましく、より具体的には、3−メチルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3,4−ジエチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−ノニルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ウンデシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−ブロモ−4−メチルチオフェン等を例示することができる。
【0027】
また、上記式中Rがアミノ基である場合、3−アミノチオフェン、3,4−ジアミノチオフェン、3−メチルアミノチオフェン、3−ジメチルアミノチオフェン、3−チオフェンカルボキシアミド、4−(チオフェン−3−イル)アニリン等を例示することができる。
【0028】
また本実施形態において、「チオフェン重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、GPC測定法により求められる重量平均分子量の分布のピークが200以上30000以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは500以上10000以下の範囲内である。
【0029】
ところで、本実施形態におけるチオフェン重合体からなる金属光沢膜を製造する方法は、上記チオフェンモノマーを、電位掃引法を用いて導電体上に電解重合する。
【0030】
本実施形態において、電解重合とは、上記の記載から明らかであるが、重合体の前駆体となる物質(モノマー)を支持電解質を含む溶液に溶解し、その後モノマーを電極酸化することにより、導電体上に溶液不溶性重合体膜を形成する手法をいう。
【0031】
また、本実施形態において、電位掃引法とは、支持電解質を含む溶液に一対の電極を浸漬し、一定の速度で電位を変化させつつ印加する処理をいう。
【0032】
また本実施形態において用いられる溶液の溶媒としては、特に限定されるわけではないが、例えば水、アルコールの他、藤島昭、相澤益男、井上 徹、電気化学測定法、技報堂出版、上巻107―114頁、1984年に記載の溶媒を採用できる。また、種々の溶媒の混合溶媒も好ましい。
【0033】
また本実施形態において用いられる溶液の支持電解質は、電気分解において必須の成分であり、溶媒に十分溶解し、電気分解されにくいカチオン又はアニオンを構成要素とするものが好ましく、限定されるわけではないが、カチオンに注目すれば例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩の少なくともいずれかを用いることが好ましく、アニオンに注目すれば例えばハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、三フッ化ホウ素塩、六フッ化リン酸塩の少なくともいずれかを用いることが好ましい。支持電解質の濃度は、限定されるわけではないが0.001M以上溶解度以下であることが好ましく、0.01M以上1M以下であることがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態において、電解重合で用いられるチオフェンモノマーの電解溶液中における濃度は、限定されるわけではないが、0.1mM以上溶解度以下であることが好ましく、より具体的には1mM以上1M以下であることがより好ましい。
【0035】
また本実施形態において、電解重合は溶液を入れた電解容器に導電体(動作電極として機能させる)を浸漬し、これに対向電極、必要に応じて電位の基準となる参照電極の3本の電極を用いる3電極式、又は、導電体と対向電極だけを用いる2電極式を採用することができる。なお、導電体の電位を基準となる参照電極に対して厳密に規定することのできる3電極式は、電解重合により形成される金属光沢膜を再現性良く作製することができる点においてより好ましい。
【0036】
動作電極としての導電体は、3電極式及び2電極式のいずれの場合においても、電極酸化に対して安定な物質であれば良く、限定されるわけではないが、例えば上記したように、酸化インジウムスズ(以下「ITO」と略記する。)や酸化錫が塗布された透明ガラス電極、金属電極、グラシーカーボン電極等を好適に用いることができる。また、対向電極としては、上記電極材料に加え、ステンレスや銅板などの金属電極を好適に用いることができる。また参照電極は、限定されるわけではないが例えば銀・塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、飽和カロメル電極を好適に用いることができる。
【0037】
また、本実施形態において電解重合における電位掃引法は、負電位と正電位の間で掃引することが好ましい。またこの場合において、負電位は、−1.5V以上−0.01V以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは−1.0V以上−0.1V以下の範囲、さらに好ましくは−0.7V以上−0.2V以下の範囲である。また、正電位は、+1.0V以上+3.0V以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは+1.0V以上+2.0V以下の範囲、さらに好ましくは+1.0V以上+1.5V以下の範囲内である。
【0038】
また本実施形態において、電位掃引法は、掃引速度について、金属光沢膜を製造することができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.1mV/秒以上10V/秒以下の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは1mV/秒以上1V/秒以下の範囲、さらに好ましくは2mV/秒以上300mV/秒以下の範囲内である。
【0039】
また電解重合の時間としては、金属光沢膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、上記印加電圧の範囲内において1秒以上5時間以下の範囲内において行うことが好ましく、10秒以上1時間以下の範囲内において行うことがより好ましい。
【0040】
また、この電気分解の温度としては電解重合により金属光沢膜を析出させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、−20℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0041】
また、この電気分解は、大気中の成分物質が関与することの少ない反応でありまた比較的低電位で行われるため、大気中で行うことができる。電解液中の不純物の酸化など、生成した膜を汚染する可能性を回避する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましいが、汚染の心配はほとんど無い。しかしながらそれでもやはり、電解重合を形成する場合、溶液中に酸素が多く存在すると電極反応に影響を与えてしまうおそれがあるため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)によるバブリングを行うことも有用である。
【0042】
以上、本発明により、より製造が容易で、経時劣化の少ない、金属光沢膜の製造方法を提供することができる。特に、本方法では、電解重合を行うため、複雑な形状の基板であっても隅々まで均一に金属光沢膜を製造することのできる方法となる。
【実施例】
【0043】
ここで、上記実施形態にかかる膜を実際に作製し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0044】
まず、電解重合用の溶液を作製した。溶液の組成は、3−メトキシチオフェン(Aldrich、>98%)114.17g/mol(0.1M)、1−ブタノール(関東化学特級、>99%)74.12g/ml(96vol%)、純水18.02g/mol(Vvol%)、ドデシル硫酸ナトリウム(Wako)288.38g/mol(0.1M)、過塩素酸リチウム(無水)(Wako)106.39g/mol(0.1M)とした。
【0045】
また、本実施例では図2で示す電解セルを組立て、上記電解セルに溶液を入れ、一方の容器に金属光沢膜を形成するためのITOからなる導電体(動作電極)と白金の対向電極を、他方の容器に飽和カロメル参照電極(SCE)を挿入し、二つの容器の間に塩橋を配置し、動作電極、対向電極、参照電極を電気化学電源(ポテンショスタット、ALS/CH Insturments製、Model 600DH)に接続した。
【0046】
(実施例1)
まず、上記配置にした後、掃引速度10mV/秒で、0Vから電圧を高くするリニアスイープボルタンメトリーを行った。この結果を図3に示しておく。この結果、+1.0V付近から酸化波が観測されたため、電解重合の進行にはSCEに対して+1.0V以上の電圧印加が必要であることが確認された。
【0047】
次に、掃引範囲の検討を行った。本検討では、正電位として上記で求めた+1.0Vの他+1.3V、+1.5Vを採用し、0Vのほか負電位として−0.2V、−0.5V、−0.8V、−1.0Vを採用し、これらの電位の組み合わせで重合膜の変化について確認した。なお、−0.5V〜+1.3V(vs.SCE)、掃引速度10ms、掃引回数11回の電解重合時のサイクリックボルタモグラムについて図4に示しておく。
【0048】
この結果、−1.0V〜+1.3Vの場合、−0.8V〜+1.3V、−0.5V〜+1.3V、−0.2V〜+1.3Vの場合は金属光沢膜を得ることができたが、0V〜+1.5V、0V〜+1.3Vでは、濃青色で無光沢の膜となっていた。すなわち、SCEに対して負方向の電位掃引範囲を設定したときのみ金属光沢膜が製造できることを確認した。なお、これらの膜について図5に示しておく。なお各膜においてスケールバーは1mm/辺である。
【0049】
またここで、上記製造した膜に対し、反射率を計測した。この反射スペクトルを図6に示しておく。反射スペクトルは、日本分光社、顕微分光光度計(MSV−370)を用いて行った。なお測定ベースはアルミニウム平面鏡を用いた。本図で示すように、負方向の電位掃引範囲を設定したときの膜はいずれも500nm以上の波長範囲において高い反射率を示している一方、0V〜+1.3V、0V〜+1.5Vの場合は上記範囲において高い反射率を示さなかった。この結果からも、負方向の電位掃引範囲を設定したときは金属光沢を示す一方、0Vと負ではない場合は異なる状態となっていることを確認した。
【0050】
さらにここで、電位掃引範囲を−0.5V〜+1.3Vとし、掃引速度を変化させて製造される膜がどのように変化していくか検討を行った。具体的には、掃引速度2mV/秒、5mV/秒、25mV/秒、50mV/秒、100mV/秒、200mV/秒とそれぞれ異ならせて行った。この結果を図7に示しておく。なお図中、光学顕微鏡の写真図と、レーザーによる表面形状測定結果(キーエンス社、レーザー顕微鏡VK−9700)を示している。この結果、いずれの掃引速度であっても膜厚が1μm程度で金色光沢が発現することを確認した。
【0051】
また、上記製造した膜に対し反射スペクトルについても上記図6と同様に測定を行った。この結果を図8に示しておく。この結果、掃引速度としては、5〜25mV/秒程度が好ましい範囲であることを確認した。
【0052】
(実施例2)
とこで、上記実施例1により電解重合によって製造された金属光沢膜は、再利用が可能である。具体的には、ニトロメタン等の回収用溶媒によって金属光沢膜を溶解させ、撹拌及び静置することで再生インクとして使用可能である。具体的には、上記実施例において、−0.5V〜+1.3V(vs.SCE)、掃引速度10mV/秒、掃引回数11回の条件下で製造した金属光沢膜を、ニトロメタン溶媒(1.0wt%)に溶解し、その後撹拌して静置して再生インクとした。その後、ガラス基板上に塗布し、自然乾燥させ、再生した金属光沢膜を得た。この再生前の金属光沢膜を図9に、再生後の金属光沢膜を図10に示しておく。また、図11に、再生前及び再生後の金属光沢膜の反射スペクトルを示しておく。この結果、電解重合による金属光沢膜が可能であることを確認するとともに、この金属光沢膜が溶媒によって溶解し、さらに再生可能であるということが確認できた。
【0053】
(実施例3)
ところで、電位掃引において、酸化側にて掃引を停止した場合と、還元側にて掃引を呈した場合とでは、同じ金属光沢であってもその状態が異なる。酸化側で掃引停止した場合、還元側にて掃引呈した場合の写真図を図12に、それぞれの場合における正反射スペクトルについて図13に示しておく。この結果、酸化側にて掃引停止した場合は金又は銅類似の金属光沢を、還元側にて掃引停止した場合は銀類似の金属光沢を示していた。
【0054】
以上、これら実施形態により、電解重合により、より複雑な形状のものであっても導電体であれば金属光沢膜を形成することができるのを確認した。特に、電解重合の掃引条件等を調整することで、金、銀、銅類似の金属光沢膜を製造することもできる。さらに、この金属光沢膜は溶媒によって溶解、回収、再生が可能であることも確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、金属光沢膜の製造方法として産業上利用可能性がある。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13