(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料を密閉空間に収容した状態で加熱する装置本体には、装置本体内に過熱水蒸気を供給して金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料を全体に渡って加熱する過熱水蒸気供給機構と、装置本体内に熱風を供給して金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料の表面の水滴を蒸発させながら加熱する熱風供給機構と、装置本体内に配置される電気ヒータの輻射熱で金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料を加熱するヒータ機構と、装置本体のもつ蓄熱で金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料を加熱する蓄熱機構とを備え、
前記装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速は、0.05〜2m/秒であることを特徴とする金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料の加熱装置。
前記過熱水蒸気供給機構を構成する過熱水蒸気吹き出し用のノズルと、熱風供給機構を構成する熱風吹き出し用のノズルとを共用した請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属製品、炭素繊維材料又は樹脂材料の加熱装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を
図1〜
図7に基づいて詳細に説明する。
この第1実施形態では、金属製品として自動車部品であるシリンダヘッドを加熱する加熱装置について説明する。
【0018】
図1及び
図2(a)、(b)に示すように、加熱装置10の装置本体を構成する筒体11は頂壁12、底壁13及び両側壁14により四角筒状に形成され、底壁13に固定された支持レール15上に金属製品としてのシリンダヘッド16が載置されている。該支持レール15は、筒体11の両開口部から両側方へ延び、シリンダヘッド16を筒体11内へ案内するとともに、筒体11内から加熱されたシリンダヘッド16を案内して取り出すようになっている。シリンダヘッド16はアルミニウム製で、加熱装置10により約500℃まで加熱された後に冷却される。
【0019】
前記加熱装置10上部の支持枠17には、装置本体を構成するシャッター18がエアシリンダ19によって上下動可能に支持され、筒体11の両開口部を開閉可能にしている。筒体11の両開口部側の支持枠17には押えシリンダ20が固定され、シャッター18が筒体11の両開口部を覆った状態で、両シャッター18の外方からシャッター18を筒体11に押え付けて筒体11内を密閉できるように構成されている。従って、装置本体は前記筒体11とシャッター18とにより構成され、その内部に密閉空間が形成される。
【0020】
図3(a)及び(c)に示すように、前記筒体11の頂壁12及び底壁13には、それぞれ複数(各4つ)の過熱水蒸気又は熱風吹き出し用のノズル21が筒体11内に向けて突設されている。
図3(a)、(b)及び(e)に示すように、筒体11の両側壁14には、上下2段にそれぞれ複数(各7つ)の過熱水蒸気又は熱風吹き出し用のノズル21が筒体11内に向けて突設され、筒体11内のシリンダヘッド16を過熱水蒸気又は熱風で加熱するようになっている。このように、過熱水蒸気吹き出し用のノズル21と熱風吹き出し用のノズル21とは共用されている。なお、両側壁14にはこれらのノズル21に過熱水蒸気又は熱風を供給する給気通路22が設けられるとともに、頂壁12及び底壁13には装置本体内の高温流体の一部を排気する排気通路23が形成されている。
【0021】
図3(d)及び(e)に示すように、筒体11の頂壁12、底壁13及び両側壁14には、それぞれ温度センサ24が筒体11内に突出形成され、装置本体内の温度を検出し、装置本体内の温度調整を行うようになっている。なお、シリンダヘッド16表面の複数箇所には図示しない熱電対が配置され、シリンダヘッド16表面の温度を測定できるようになっている。
【0022】
図1及び
図2(b)に示すように、前記筒体11の下方位置には、複数の過熱水蒸気タンク25と、複数の熱風タンク26とが配置されている。過熱水蒸気タンク25では飽和水蒸気が図示しないヒータで加熱されて形成された過熱水蒸気が収容され、熱風タンク26では常温の空気が図示しないヒータで加熱されて形成された熱風が収容されている。
【0023】
前記過熱水蒸気タンク25、給気通路22、ノズル21等により過熱水蒸気供給機構が構成され、熱風タンク26、給気通路22、ノズル21等により熱風供給機構が構成されている。
【0024】
図4に示すように、過熱水蒸気タンク25に接続された過熱水蒸気配管27と熱風タンク26に接続された熱風配管28とが切替機構を構成する切替コック29を介して、連結配管30に接続されている。この連結配管30が前記過熱水蒸気又は熱風吹き出し用のノズル21に接続されている。そして、切替コック29を切替操作することにより、ノズル21から過熱水蒸気又は熱風を装置本体内に吹き出すようになっている。
【0025】
そして、例えばシリンダヘッド16の加熱初期には過熱水蒸気供給機構を稼働させてノズル21から過熱水蒸気を吹き出し、その後切替コック29を切替操作し、過熱水蒸気供給機構を停止して熱風供給機構に切替え、ノズル21から熱風を吹き出すようになっている。
【0026】
この過熱水蒸気から熱風への切替は、予め過熱水蒸気供給機構により過熱水蒸気のみをシリンダヘッド16に供給して測定した加熱時間とシリンダヘッド16表面の温度との関係における温度勾配と、熱風供給機構により熱風のみをシリンダヘッド16に供給して測定した加熱時間とシリンダヘッド16表面の温度との関係における温度勾配とが一致する温度勾配に達したとき、過熱水蒸気供給機構を停止し、熱風供給機構を稼働させることが最も好ましい。
【0027】
図5の二点鎖線に示すように、前記ノズル21は、その吹き出し方向が変更可能に構成され、過熱水蒸気又は熱風をシリンダヘッド16の例えば肉厚部又は孔部に向けて吹付け可能になっている。
【0028】
図3(a)に示すように、筒体11の頂壁12及び底壁13には、ヒータ機構を構成する各々12本ずつのシーズヒータ31及び両側壁14には各々6本ずつのシーズヒータ31が筒体11内に突出形成され、筒体11内のシリンダヘッド16を輻射熱により加熱するようになっている。
【0029】
図3(a)及び
図5に示すように、筒体11内の頂壁12には半円筒状をなす一対の反射板32が、各円弧の内側がシリンダヘッド16に対向するように支持されている。また、筒体11内の底壁13には半円筒状をなす一対の反射板32が、各円弧の内側がシリンダヘッド16に対向するように支持されている。そして、
図6の二点鎖線に示すように、前記ノズル21から吹き出された過熱水蒸気又は熱風がシリンダヘッド16に当たった後、頂壁12側の反射板32に当たって再びシリンダヘッド16の上面に向けて吹付けられるとともに、底壁13側の反射板32に当たって再びシリンダヘッド16の下面に向けて吹付けられるように構成されている。
【0030】
前記頂壁12、底壁13、両側壁14及び両シャッター18で構成される装置本体が蓄熱機構を構成し、過熱水蒸気、熱風及びシーズヒータ31に基づく輻射熱によって加熱されて装置本体に蓄熱され、その蓄熱によっても装置本体内のシリンダヘッド16を加熱するようになっている。
【0031】
次に、前記のように構成された第1実施形態におけるシリンダヘッド16の加熱装置10について作用を説明する。
さて、シリンダヘッド16を加熱する場合には、筒体11の入口側のシャッター18を解放した状態で、
図2(a)の二点鎖線に示すように、支持レール15上にシリンダヘッド16を載せ、
図2(b)に示すように筒体11内へ案内する。その後、筒体11の入口側のシャッター18を閉め、装置本体内を密閉状態にする。
【0032】
図4の一点鎖線に示すように、切替コック29を回動させ、過熱水蒸気配管27が連結配管30に連通し、熱風配管28が連結配管30に連通しないように遮断する。
図3(a)及び
図4に示すように、その状態で過熱水蒸気が過熱水蒸気配管27及び連結配管30から筒体11の頂壁12、底壁13及び両側壁14のノズル21へ送られ、シリンダヘッド16に向けて吹き出される。
【0033】
このとき、過熱水蒸気は100℃近傍に到るまではその性質に基づく凝縮伝熱によりシリンダヘッド16を急速に昇温させることができるとともに、過熱水蒸気はシリンダヘッド16の隅々まで速やかに行き渡る。従って、シリンダヘッド16を短時間に、しかもシリンダヘッド16全体に渡って加熱することができる。
【0034】
加えて、
図5に示すように、シリンダヘッド16の上方位置及び下方位置には半円筒状をなす各一対の反射板32が配置されている。このため、
図6の二点鎖線に示すように、ノズル21から吹き出された過熱水蒸気はシリンダヘッド16に当たった後各反射板32に当たり、反射板32の内面に沿って流れ、再びシリンダヘッド16に当たる。従って、過熱水蒸気を有効に利用でき、過熱水蒸気によるシリンダヘッド16の加熱効率を一層高めることができる。
【0035】
また、
図3(a)に示すように、筒体11内の頂壁12、底壁13及び両側壁14には多数のシーズヒータ31が配置され、それらのシーズヒータ31から発せられる輻射熱によってシリンダヘッド16が上下左右から加熱される。
【0036】
続いて、シリンダヘッド16表面の温度が100℃近傍に達すると、過熱水蒸気の凝縮が始まり、シリンダヘッド16表面に水滴(ドレン)が生成し、その水滴が蒸発するまでシリンダヘッド16表面の温度が上昇しなくなる。このため、そのような状態に到る直前に、
図4の二点鎖線に示すように、切替コック29を回動させ、熱風配管28が連結配管30に連通し、過熱水蒸気配管27が連結配管30に連通しないように遮断する。すると、
図3(a)に示すように、熱風が筒体11の頂壁12、底壁13及び両側壁14のノズル21からシリンダヘッド16に向けて吹き出される。
【0037】
図7に示すように、前記切替コック29の切替操作は、予め過熱水蒸気供給機構により過熱水蒸気のみをシリンダヘッド16に供給して測定した加熱時間(秒)とシリンダヘッド16表面の温度(℃)との関係における温度勾配γと、熱風供給機構により熱風のみをシリンダヘッド16に供給して測定した加熱時間(秒)とシリンダヘッド16表面の温度(℃)との関係における温度勾配βとが一致する同一温度勾配αに達したときに行われる。このため、シリンダヘッド16表面に水滴の生成が微量ですみ、シリンダヘッド16表面の温度が連続的に上昇し、シリンダヘッド16を短時間のうちに加熱することができる。
【0038】
その上、頂壁12、底壁13、両側壁14及びシャッター18で構成される装置本体は、前記過熱水蒸気、熱風及びシーズヒータ31による輻射熱で加熱され、その装置本体の蓄熱によってシリンダヘッド16が加熱される。従って、シリンダヘッド16には過熱水蒸気、熱風、シーズヒータ31に基づく輻射熱及び装置本体による蓄熱が相俟って作用し、シリンダヘッド16は全体にわたって迅速に加熱される。
【0039】
ここで、第1実施形態における加熱時間とシリンダヘッド16表面の温度との関係を測定した。
(加熱条件)
過熱水蒸気又は熱風の流量:1200L/分、ノズル21(内径6mm、ノズル21の数22)からの過熱水蒸気又は熱風の流速:32m/秒、過熱水蒸気の温度:390℃、熱風の温度390℃、シーズヒータ31の温度:390℃、装置本体の容積:0.091m
3
上記加熱条件下にシリンダヘッド16を加熱したときの加熱時間(秒)とシリンダヘッド16表面の温度(℃)との関係を測定し、その結果を
図7に示した。
図7中の一点鎖線は過熱水蒸気のみを供給したときの温度曲線、破線は熱風のみを供給したときの温度曲線及び実線は過熱水蒸気から熱風に切替えたときの温度曲線である。
【0040】
図7に示した結果から、過熱水蒸気のみを供給したときの温度勾配γと熱風のみを供給したときの温度勾配βとが一致した同一温度勾配αで過熱水蒸気から熱風に切替えた場合には、過熱水蒸気のみを供給した場合や熱風のみを供給した場合に比べて、シリンダヘッド16表面の温度が高く、温度変化の上昇が滑らかであった。
【0041】
また、前記ノズル21とシリンダヘッド16との距離は70〜90mm、シーズヒータ31とシリンダヘッド16との距離は10〜20mmであるとともに、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速は0.1m/秒であった。このような加熱条件と前述した加熱条件とによってシリンダヘッド16の加熱効率を高くすることができる。特に、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速を0.1m/秒に維持することにより、シリンダヘッド16表面において過熱水蒸気又は熱風の適切な流れを得ることができ、シリンダヘッド16を連続的に昇温させることができる。従って、過熱水蒸気のみ又は熱風のみでシリンダヘッド16を加熱する場合に比べて装置本体を小型化することができる。
【0042】
以上の第1実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
(1)この第1実施形態の加熱装置10において、装置本体には過熱水蒸気供給機構と、熱風供給機構と、ヒータ機構と、蓄熱機構とを備えている。このため、過熱水蒸気供給機構による過熱水蒸気の凝縮伝熱効果によりシリンダヘッド16全体を迅速に加熱でき、熱風供給機構による熱風によりシリンダヘッド16表面の水滴を蒸発させながら加熱を促進し、ヒータ機構による輻射熱と蓄熱機構による装置本体の蓄熱でシリンダヘッド16の加熱を加速させることができる。
【0043】
従って、第1実施形態の金属製品の加熱装置10によれば、シリンダヘッド16を均一かつ急速に加熱することができる。
(2)前記シリンダヘッド16の加熱初期には過熱水蒸気供給機構を稼働させ、途中で過熱水蒸気供給機構を停止し、熱風供給機構を稼働させるように切り替える切替機構が設けられている。このため、過熱水蒸気の凝縮による水滴の生成を抑え、シリンダヘッド16を一層迅速に加熱することができる。
【0044】
(3)前記切替機構は、予め過熱水蒸気供給機構により過熱水蒸気のみをシリンダヘッド16に供給して測定した温度勾配γと、熱風供給機構により熱風のみをシリンダヘッド16に供給して測定した温度勾配βとが一致する同一温度勾配αに達したとき、過熱水蒸気供給機構を停止し、熱風供給機構を稼働させるように構成されている。従って、温度上昇の低下を招くことなく、シリンダヘッド16を最も有効に加熱することができる。
【0045】
(4)前記過熱水蒸気供給機構を構成する過熱水蒸気吹き出し用のノズル21と、熱風供給機構を構成する熱風吹き出し用のノズル21とは共用されている。そのため、ノズル21を単一にすることができて加熱装置10の構成を簡易にすることができる。
【0046】
(5)前記装置本体には、シリンダヘッド16に対向して配置され、過熱水蒸気又は熱風を反射させてシリンダヘッド16に吹付ける反射板32が設けられている。このため、シリンダヘッド16に当たった過熱水蒸気又は熱風を反射板32で反射させて再度シリンダヘッド16に吹付けることができて、熱の有効利用を図ることができ、シリンダヘッド16の加熱効率を向上させることができる。
【0047】
(6)前記過熱水蒸気供給機構を構成する過熱水蒸気吹き出し用のノズル21は、その吹き出し方向が変更可能に構成されている。そのため、過熱水蒸気をシリンダヘッド16の肉厚部や孔部に向けて吹付けることができ、シリンダヘッド16全体の昇温効果を向上させることができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を
図8〜
図10に基づいて説明する。なお、この第2実施形態においては、主に前記第1実施形態と相違する部分について説明する。
【0049】
図8(a)に示すように、装置本体としての筒体11は、周壁141と頂壁12とにより有蓋円筒状に形成されている。該筒体11の頂壁12内面の中心位置には
図9(a)に示す有底円筒状のノズル用筒体33が、その開口部が頂壁12の貫通孔34に連通させて固定されている。このノズル用筒体33には、周方向に90°間隔をおいてかつ上下方向に一定間隔で過熱水蒸気又は熱風のノズル21が多数形成されている。筒体11の頂壁12外面の中心位置には、有蓋円筒状の供給筒35が接合され、該供給筒35の周壁部351の一部には導入筒36が接続されている。
【0050】
そして、
図8(c)の矢印に示すように、過熱水蒸気又は熱風が導入筒36から供給筒35内に導入され、筒体11の貫通孔34からノズル用筒体33内に供給され、ノズル21から吹出されるように構成されている。
【0051】
前記供給筒35の上壁352の中心位置にはシーズヒータ31が貫通状態で支持され、シーズヒータ31の先端部はノズル用筒体33内の下部まで延びている。そして、シーズヒータ31の輻射熱がノズル用筒体33のノズル21から外部へ導かれるように構成されている。
【0052】
一方、
図8(a)に示すように、筒体11の底壁13上に固定された保持部材37には、
図9(b)に示すような金属製品としての円筒状のスリーブ38が支持されている。このスリーブ38は、アルミニウムダイカスト製のエンジン部品である。
【0053】
そして、
図8(b)、(c)に示すように、筒体11の底壁13を上昇させて周壁141の下面に当接させたとき、スリーブ38が前記ノズル用筒体33の外周に一定間隔をおいて配置されるようになっている。前記筒体11の頂壁12、周壁141及び底壁13によって装置本体が構成され、その装置本体内が密閉空間となっている。
【0054】
さて、スリーブ38を加熱する場合には、
図8(a)に示すように、スリーブ38を筒体11の底壁13の保持部材37にセットする。次いで、
図8(b)に示すように、底壁13を真直ぐ上昇させ、スリーブ38をノズル用筒体33に嵌挿する。
図8(c)に示すように、筒体11の底壁13を周壁141の下面に当接させ、筒体11内を密閉状態にする。その状態で、
図8(c)の矢印に示すように、過熱水蒸気を導入筒36から導入し、供給筒35及びノズル用筒体33を経てノズル21から筒体11内へ吹き出すと、過熱水蒸気はスリーブ38の内周面に当たって上昇又は下降し、スリーブ38の外周面へと流れる。このため、スリーブ38を過熱水蒸気により内周面及び外周面の双方からスリーブ38全体を速やかに加熱することができる。
【0055】
そして、過熱水蒸気から熱風への切替は、予め過熱水蒸気供給機構により過熱水蒸気のみをスリーブ38に供給して測定した加熱時間とスリーブ38表面の温度との関係における温度勾配と、熱風供給機構により熱風のみをスリーブ38に供給して測定した加熱時間とスリーブ38表面の温度との関係における温度勾配とが一致する温度勾配に達したときに行われる。
【0056】
加えて、ノズル用筒体33内に配置されたシーズヒータ31に基づく輻射熱と装置本体の蓄熱とにより、スリーブ38が加熱される。
従って、この第2実施形態によれば、スリーブ38表面に水滴の生成が微量ですみ、スリーブ38表面の温度を連続的に上昇させることができ、スリーブ38を短時間のうちに加熱することができる。
【0057】
ここで、第2実施形態における加熱時間とスリーブ38表面の温度との関係を測定した。
(加熱条件)
過熱水蒸気又は熱風の流量:1200L/分、ノズル21(内径5mm、ノズル21の数24)からの過熱水蒸気又は熱風の流速:42m/秒、過熱水蒸気の温度:390℃、熱風の温度390℃、シーズヒータ31の温度:390℃、筒体11の容積:0.0017m
3
上記加熱条件下にスリーブ38を加熱したときの加熱時間(秒)とスリーブ38表面の温度(℃)との関係を測定し、その結果を
図10に示した。
図10中の一点鎖線は過熱水蒸気のみを供給したときの温度曲線、破線は熱風のみを供給したときの温度曲線及び実線は過熱水蒸気から熱風に切替えたときの温度曲線である。
【0058】
図10に示した結果から、過熱水蒸気のみを供給したときの温度勾配γと熱風のみを供給したときの温度勾配βとが一致した同一温度勾配αで過熱水蒸気から熱風に切替えた場合には、過熱水蒸気のみを供給した場合や熱風のみを供給した場合に比べて、スリーブ38表面の温度を高く維持でき、温度変化の上昇が滑らかであった。
【0059】
また、前記ノズル21とスリーブ38との距離は10mm、シーズヒータ31とスリーブ38との距離は30mmであるとともに、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速は1m/秒であった。このような加熱条件と前述の加熱条件とによってスリーブ38の加熱効率を高くすることができる。特に、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速を1m/秒に維持することにより、スリーブ38表面において過熱水蒸気又は熱風の適切な流れを得ることができ、スリーブ38を速やかに昇温させることができる。従って、過熱水蒸気のみ又は熱風のみでスリーブ38を加熱する場合に比べて装置本体を小型化することができる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を
図11〜
図14に基づいて説明する。なお、この第3実施形態においても、主に前記第1実施形態と相違する部分について説明する。
【0061】
図11に示すように、この第3実施形態の加熱装置10は、金属製品としての2つの金型39、40が開口部を有する両側面に密接されることにより加熱されるように構成されている。これらの金型39、40はアルミニウム製で、樹脂成形用金型、ダイカスト用金型等として使用される。
図12及び
図13(a)に示すように、装置本体としての筒体11は四角筒状に形成され、頂壁12及び底壁13にはそれぞれ一対の過熱水蒸気又は熱風吹き出し用のノズル21が固着されている。これらのノズル21から過熱水蒸気又は熱風が筒体11内に吹き出されるようになっている。
【0062】
図12及び
図13(b)に示すように、筒体11の両側壁14間には、複数本のシーズヒータ31が架設され、輻射熱によって装置本体内を加熱するように構成されている。
図12及び
図13(c)に示すように、前記各シーズヒータ31の端部にはリード線41が接続され、それらのリード線41が束ねられて接続端子43に接続されている。
【0063】
図11及び
図12に示すように、筒体11の開口部を有する両側面に2つの金型39、40が密接されることによって装置本体内が密閉され、その密閉空間内が加熱されることにより、両金型39、40が加熱される。
【0064】
さて、金型39、40を加熱する場合には、
図11に示すように、2つの金型39、40を筒体11の両開口部に対向させて配置した後、両金型39、40を筒体11の両開口部を塞ぐように密着させる。続いて、
図12に示すように、上下のノズル21から過熱水蒸気を装置本体内に吹き出すとともに、シーズヒータ31による輻射熱で装置本体内を加熱する。さらに、筒体11の頂壁12、底壁13及び両側壁14に蓄えられた蓄熱により装置本体内を加熱する。
【0065】
このとき、両金型39、40の側面が装置本体内に臨んでいることから、両金型39、40の各側面は急速に加熱される。
従って、この第3実施形態によれば、両金型39、40の各側面を迅速に加熱することができ、加熱された両金型39、40の側面同士を対向させることにより、樹脂成形やダイカスト成形に利用することができる。
【0066】
ここで、第3実施形態における加熱時間と金型39、40表面の温度との関係を測定した。
(加熱条件)
過熱水蒸気又は熱風の流量:1200L/分、ノズル21(内径16mm、ノズル21の数4)からの過熱水蒸気又は熱風の流速:25m/秒、過熱水蒸気の温度:390℃、熱風の温度390℃、シーズヒータ31の温度:390℃、装置本体の容積:0.011m
3
上記加熱条件下に金型39、40を加熱したときの加熱時間(秒)と金型39、40表面の温度(℃)との関係を測定し、その結果を
図14に示した。
図14中の一点鎖線は過熱水蒸気のみを供給したときの温度曲線、破線は熱風のみを供給したときの温度曲線及び実線は過熱水蒸気から熱風に切替えたときの温度曲線である。
【0067】
図14に示した結果から、過熱水蒸気のみを供給したときの温度勾配γと熱風のみを供給したときの温度勾配βとが一致した同一温度勾配αで過熱水蒸気から熱風に切替えた場合には、過熱水蒸気のみを供給した場合や熱風のみを供給した場合に比べて、金型39、40表面の温度を高く設定でき、温度変化の上昇が滑らかであった。
【0068】
また、前記ノズル21と金型39、40との距離は200〜300mm、シーズヒータ31と金型39、40との距離は20〜70mmであるとともに、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速は0.6m/秒であった。このような加熱条件と前述の加熱条件とによって金型39、40の加熱効率を高くすることができる。特に、装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速を0.6m/秒に維持することにより、金型39、40表面において過熱水蒸気又は熱風の適切な流れを得ることができ、金型39、40を迅速に昇温させることができる。従って、過熱水蒸気のみ又は熱風のみで金型39、40を加熱する場合に比べて装置本体を小型化することができる。
【0069】
以上の第1〜第3実施形態に示したように、本発明の実施形態においては、ノズル21と金属製品との距離は1〜300mm、シーズヒータ31と金属製品との距離は5〜300mmが好ましく、ノズル21及びシーズヒータ31は1〜100本、シーズヒータ31の熱量は1〜100kWが好ましい。また、過熱水蒸気又は熱風の流量は100〜10000L/分、温度は100〜600℃が好ましい。
【0070】
加えて、前記装置本体内における過熱水蒸気又は熱風の平均流速は、0.05〜2m/秒であることが好ましい。過熱水蒸気又は熱風の平均流速をこのような範囲に設定することにより、金属製品表面において過熱水蒸気又は熱風の適切な流れを得ることができ、金属製品表面での過熱水蒸気の撹拌効果により、熱伝達を良好にでき、金属製品の加熱効率を向上させることができる。
【0071】
過熱水蒸気又は熱風の平均流速が0.05m/秒を下回る場合には、金属製品表面における過熱水蒸気又は熱風の流れが弱く、金属製品の加熱効率が低下する。その一方、過熱水蒸気又は熱風の平均流速が2m/秒を上回る場合には、過熱水蒸気又は熱風の過剰な流量を必要とするとともに、それに見合う金属製品の加熱効率が得られず、好ましくない。
【0072】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・
図15に示すように、第1実施形態において、前記筒体11の挿通孔44に空気供給配管45を挿通し、その空気供給配管45を筒体11内の側壁14に沿うように蛇行部451とし、さらに3つの分岐配管452、453、454に分岐し、各分岐配管452、453、454の先端部をシリンダヘッド16に対向する吹き出し部455、456、457としてもよい。この場合、空気は筒体11内の蛇行部451で装置本体内の温度まで加熱される。前記空気供給配管45、吹き出し部455、456、457等により乱流生成機構が構成される。
【0073】
そして、各吹き出し部455、456、457から空気をシリンダヘッド16に吹付けてシリンダヘッド16の表面に乱流を生じさせる。この乱流生成機構により、シリンダヘッド16表面における熱の皮膜形成を抑制でき、伝熱効果を高めることができる。
【0074】
・前記切替機構による過熱水蒸気から熱風への切替えを、金属製品表面における温度勾配が低下し始めたときや、金属製品表面に水滴が生成し始めたとき等に設定してもよい。
・前記ノズル21を、過熱水蒸気用ノズルと熱風用ノズルとに分離して構成してもよい。
【0075】
・前記金属製品として、鉄製、ニッケル製等のものを使用したり、自動車部品以外の機械部品、電気部品等を使用したりしてもよい。
・前記第2実施形態において、ノズル用筒体33のノズル21の大きさ、形状、数等をスリーブ38に応じて適宜変更してもよい。
【0076】
・前記第3実施形態において、装置本体としての筒体11の開口部の一方を封鎖して開口部を1つのみとし、金型39、40のうちの1つを加熱装置10で加熱するように構成してもよい。
【0077】
・前記金属製品に代えて、炭素繊維、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の炭素繊維材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド(ナイロン)等の樹脂材料を使用してもよい。
【0078】
・前記高温流体として過熱水蒸気供給機構により過熱水蒸気のみを使用したり、或いは高温流体として熱風供給機構により熱風のみを使用したりすることも可能である。
・前記高温流体として、過熱水蒸気や熱風に代えてアルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを使用することも可能である。