(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記録素子基板に接続され前記長手方向に延びる電気配線基板と、前記電気配線基板を保持する保持部材と、を有し、前記第1の部材は前記保持部材である、請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
前記記録素子基板に接続され前記長手方向に延びる電気配線基板と、前記電気配線基板を覆う保護プレートと、を有し、前記第1の部材は前記保護プレートである、請求項1から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明のいくつかの実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。本実施形態の液体吐出ヘッドでは、発熱素子により気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式が採用されているが、ピエゾ方式及びその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。本実施形態の液体吐出ヘッドはインクを吐出するが、本発明はインク以外の液体を吐出する液体吐出ヘッドにも適用することができる。
本実施形態では、インクを圧力室内で流動させて、吐出口から吐出しないインクを圧力室から回収しており、そのために、インクをインクタンクと液体吐出ヘッド間で循環させている。しかし、液体吐出ヘッドの上流側と下流側に2つのタンクを設け、インクを循環せずに、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで圧力室内のインクを流動させてもよい。
本実施形態は被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドであるが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用の記録素子基板とカラーインク用の記録素子基板が1つずつ搭載された構成があげられる。しかし、これに限らず、数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるよう配置し、被記録媒体の幅よりも短い短尺のラインヘッドを作成し、これを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであってもよい。
【0009】
以下の説明において、被記録媒体の幅方向を第1の方向Xといい、被記録媒体の搬送方向を第2の方向Yという場合がある。第1の方向Xと第2の方向Yは直交している。第1の方向Xは後述する第2の流路部材60の長手方向と一致している。本発明はラインヘッドに好適に適用できるが、被記録媒体の幅方向に移動するキャリッジに搭載された液体吐出ヘッドにも適用可能である。その場合、第1の方向Xは被記録媒体の搬送方向に一致し、第2の方向Yは被記録媒体の幅方向に一致していてもよい。吐出口が配列される方向、あるいは吐出口列の延びる方向を吐出口列方向という。本実施形態では、吐出口列方向は第1の方向Xに対してわずかに傾いているが、一致していてもよい。
【0010】
(液体吐出装置の説明)
図1に、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置の概念図を示す。液体吐出装置1はCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のインクにそれぞれが対応した、4つの単色用の液体吐出ヘッド3を備え、搬送手段4で第2の方向Yに搬送される被記録媒体2にフルカラー記録を行う。4つの液体吐出ヘッド3は第2の方向Yに沿って配置されている。各液体吐出ヘッド3は20の吐出口列を有しており、記録データを複数の吐出口列に振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。一部の吐出口からインクが吐出されないときは、第1の方向Xにおいて同じ位置にある他の吐出口列の吐出口から補間的にインクの吐出を行うため、印字の信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。本実施形態の各液体吐出ヘッド3は、第1の方向Xに500mm以上の幅を有している。
【0011】
(インクの循環経路の説明)
図2は、液体吐出装置1のインクの循環経路を示す模式図である。ここでは一つの液体吐出ヘッド3についてのインクの循環経路を示しているが、他の液体吐出ヘッド3についても同様である。本実施形態では下記に説明するように、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子15を内部に備える圧力室23内の液体が、圧力室23の外部との間で循環される構成を備える。
液体吐出ヘッド3の上流側には第1循環ポンプ(高圧側)1001と第1循環ポンプ(低圧側)1002が配置されている。第1循環ポンプ(高圧側)1001はフィルタ221aを介して共通供給流路211に接続されている。第1循環ポンプ(低圧側)1002はフィルタ221bを介して共通回収流路212に接続されている。液体吐出ヘッド3の下流側には負圧制御ユニット230が配置されている。負圧制御ユニット230の下流側にはバッファタンク1003が配置され、バッファタンク1003は第1循環ポンプ1001,1002に接続されている。バッファタンク1003は補充ポンプ1005を介してインクタンク1006に接続されている。以上の構成によって、インクが液体吐出ヘッド3に流入し、液体吐出ヘッド3から流出し、再び液体吐出ヘッド3に流入する循環経路が形成される。
【0012】
負圧制御ユニット230は、互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。高圧側に設定された負圧制御ユニット230Hは、液体供給ユニット220を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211に接続されている。低圧側に設定された負圧制御ユニット230Lは、液体供給ユニット220を経由して、液体吐出ユニット300内の共通回収流路212に接続されている。2つの負圧制御ユニット230H,230Lにより、共通供給流路211の圧力が共通回収流路212の圧力より相対的に高くされる。これによって、共通供給流路211から個別流路213a、各記録素子基板10の内部流路及び個別流路213bを介して共通回収流路212へと流れる流れが発生する(
図2中の白抜き矢印)。負圧制御ユニット230の圧力調整機構は、所謂「背圧レギュレーター」と同等の作用を奏し、その上流側の圧力を、設定圧を中心とする一定の変動範囲内に制御する。負圧制御ユニット230は、液体吐出ヘッド3で記録を行う際の記録デューティの変化によって流量が変動しても、負圧制御ユニット230の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を上記変動範囲内に制御する。
【0013】
第2循環ポンプ1004は負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作動する。また、第2循環ポンプ1004はバッファタンク1003を加圧する。これによりバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるため、液体吐出装置1におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差で配置された水頭タンクを適用することも可能である。
【0014】
(液体吐出ヘッドの構造の説明)
液体吐出ヘッド3の構造について説明する。
図3(a)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3を吐出口側からみた斜視図であり、
図3(b)は液体吐出ヘッド3を吐出口の反対側からみた斜視図である。前述の通り、液体吐出ヘッド3は一色のインクを吐出するインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は第1の方向Xに沿って直線上に一列に配列された16個の記録素子基板10を備えている。液体吐出ヘッド3は、液体接続部111と、信号入力端子91と、電力供給端子92と、を備えている。信号入力端子91と電力供給端子92は液体吐出ヘッド3の両側に配置されている。これにより、記録素子基板10の配線部での電圧低下や信号伝送遅れが低減される。
【0015】
図4(a)は液体吐出ヘッド3の分解斜視図であり、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている。液体吐出ユニット300は流路部材210と複数の吐出モジュール200と、を有している。流路部材210は第1流路部材50と、その上に積層された第2流路部材60と、によって構成されている。第2流路部材60は共通供給流路211と共通回収流路212を内蔵している。液体供給ユニット220から供給されたインクは、流路部材210の共通供給流路211から各吐出モジュール200へ分配される。各吐出モジュール200から流出したインクは、流路部材210の共通回収流路212から液体供給ユニット220に戻される。第2流路部材60は共通供給流路211及び共通回収流路212を形成するとともに、記録素子基板10を間接的に支持し、液体吐出ヘッド3の剛性を高める機能を有している。このため、第2流路部材60は、SUS、Ti、アルミナなど、インクに対する十分な耐食性と高い機械強度を有する材質で形成されることが好ましい。
【0016】
負圧制御ユニット230を備える液体供給ユニット220は、第1支持部81aと第2支持部81bに支持されている。第1支持部81aと第2支持部81bは、第2流路部材60の長手方向における両端付近で第2流路部材60を固定的に支持している。記録素子基板10に接続された第1電気配線基板90aと第2電気配線基板90bが、それぞれ第1保持部材82aと第2保持部材82bを介し、第1支持部81a及び第2支持部81bに支持されている。第1保持部材82a及び第1電気配線基板90aと、第2保持部材82b及び第2電気配線基板90bとは、第2流路部材60を挟んで、第2流路部材60の互いに反対側に設けられている。第1保持部材82aは、第1支持部81a及び第2支持部81bの同じ方向を向く面、すなわち第1保持部材82aが延びる平面内に位置する面に支持されている。第2保持部材82bは、第1支持部81a及び第2支持部81bの、第1保持部材82aが支持されている面の反対面に支持されている。
第1電気配線基板90a、第2電気配線基板90b、第1保持部材82a及び第2保持部材82bは複数の吐出モジュール200に対して共通に設けられる長尺の部材であり、第2流路部材60の長手方向、すなわち第1の方向Xに延びている。本実施形態では、第1保持部材82aは、第1支持部81a及び第2支持部81bによって支持される第1の部材82aを構成する。第2保持部材82bは、第1支持部81a及び第2支持部81bによって支持される第2の部材82bを構成する。
【0017】
図4(b)は第1電気配線基板90aと第1保持部材82aの斜視図を示している。図示は省略するが、第2電気配線基板90bと第2保持部材82bの構成及び相互の位置関係は第1電気配線基板90aと第1保持部材82aと同じである。第1の部材である第1保持部材82aは、一つの平面内を第1の方向X(第2流路部材60の長手方向)に延びる枠状の部材である。第1保持部材82aは第1電気配線基板90aとほぼ同じ外形を有しているが、第1支持部81a及び第2支持部81との連結部88が長手方向に突き出している。第1保持部材82aと第1電気配線基板90aの四隅には穴87が設けられている(第1電気配線基板90aの穴は図示せず)。第1電気配線基板90aは、第1電気配線基板90aの穴と第1保持部材82aの穴87を通る留め具(図示せず)によって、第1保持部材82aに対して間隔を開けて、第1保持部材82aに保持されている。なお、第1保持部材82aの形状は枠状に限らず、板状の部材であっても良い。
【0018】
2つの液体供給ユニット220内にはフィルタ221aとフィルタ221b(
図2参照)がそれぞれ内蔵されている。高圧側の負圧制御ユニット230Hは液体吐出ヘッド3の一端部に、低圧側の負圧制御ユニット230Lは液体吐出ヘッド3の他端部に配置されている。このため、第1の方向Xに延びる共通供給流路211と共通回収流路212におけるインクの流れが対向流となる。共通供給流路211と共通回収流路212の間での熱交換が促進されるため、共通供給流路211及び共通回収流路212に沿って設けられる複数の記録素子基板10間で温度差がつきにくく、温度差による記録ムラが生じにくくなる。
【0019】
記録素子基板10の吐出口形成面24(
図6参照)はカバー部材130で覆われている。カバー部材130は複数の吐出口が露出する開口131を有している。インクの非吐出時にキャップ部材1007をカバー部材130に当接させることにより、吐出口からのインクの蒸発を防止する。キャップ部材1007を液体吐出ヘッド3に取り付けた状態でキャップ部材1007と液体吐出ヘッド3で囲まれた空間1010をポンプにより負圧にすることで、吐出口内から気泡や増粘したインクを吸引除去することができる。
【0020】
図5(a)は第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面を示し、
図5(b)は第1流路部材50の第2流路部材60が当接する裏面を示している。第1流路部材50は複数設けられ、それぞれの第1流路部材50が各吐出モジュール200に対応している。複数の第1流路部材50は互いに隣接して配置される。複数の第1流路部材50を備えることにより、様々な長さの液体吐出ヘッド3への対応が容易となり、例えばB2サイズ及びそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適である。第1流路部材50の連通口51は吐出モジュール200と流体的に連通しており、第1流路部材50の個別連通口53は第2流路部材60の連通口61と流体的に連通している。
図5(c)は第2流路部材60の、第1流路部材50と当接する面を示し、
図5(d)は第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、
図5(e)は第2流路部材60の、液体供給ユニット220と当接する面を示している。第2流路部材60の共通流路溝71の一方は共通供給流路211であり、他方は共通回収流路212である。インクは液体吐出ヘッド3の第1の方向Xの一端側から他端側に向けて供給される。
【0021】
図6(a)は、記録素子基板10と流路部材210におけるインクの流路を示す透視図である。流路部材210内には、第1の方向Xに延びる一組の共通供給流路211と共通回収流路212が設けられている。第2流路部材60の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と接続されている。第2流路部材60の連通口72(
図5(e)参照)から共通供給流路211を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材60の連通口72から共通回収流路212を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。
【0022】
図6(b)は、
図6(a)のF−F線に沿った断面を示している。共通供給流路211は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール200に接続されている。図示は省略するが、共通回収流路212も同様の経路で吐出モジュール200へ接続されている。各吐出モジュール200と記録素子基板10には、各吐出口13に連通する流路が形成されている。供給したインクの一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口13(圧力室23)を通過して循環する。記録素子基板10の吐出口13が形成される面は吐出口形成面24となっている。
【0023】
(吐出モジュールの説明)
図7(a)に、吐出モジュール200の斜視図を、
図7(b)にその分解図を示す。記録素子基板10の第1の方向Xに沿った両辺(記録素子基板10の各長辺部)に沿って、それぞれ複数の端子16が配置されている。電気配線部材(フレキシブル配線基板)40が複数の端子16に電気的に接続されている。電気配線部材40と端子16の接続部は封止剤110で覆われている。電気配線部材40は1つの記録素子基板10に対して2枚配置されている。これは記録素子基板10に20列の吐出口列が設けられており、それに伴って配線数が多くなっているためである。記録素子基板10の両側に電気配線部材40を設けることで、端子16からエネルギー発生素子15までの最大配線距離を短縮し、内部の配線で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することができる。記録素子基板10は支持部材30に支持されている。支持部材30には、それぞれが全ての吐出口列を横断して延びる複数の液体連通口31が形成されている。
【0024】
(記録素子基板の構造の説明)
図8(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される吐出口形成面24の模式図、
図8(b)は記録素子基板10の裏面の模式図、
図8(c)は記録素子基板10を覆う蓋部材20の模式図である。
図8(d)は
図8(a)のA部を拡大した、記録素子基板10の部分拡大図である。記録素子基板10は隅部が非直角の略平行四辺形の形状を有しているが、長方形、台形、その他の形状であってもよい。記録素子基板10には、複数の吐出口列14が形成されている。液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子15を内部に備える圧力室23が、隔壁22によって区画されている。エネルギー発生素子15は吐出口13と対向して配置されている。エネルギー発生素子15はインクを発泡させるための熱エネルギーを発生する発熱素子である。エネルギー発生素子15は記録素子基板10に設けられた電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。端子16は第1または第2電気配線基板90a,90bと電気配線部材40を介して、液体吐出装置1の制御回路に電気的に接続されている。制御回路から伝送される電力及び吐出制御信号に基づいてエネルギー発生素子15が発熱し、インクを沸騰させる。この沸騰で生じた発泡の力でインクが吐出口13から吐出する。記録素子基板10の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19が交互に設けられている。液体供給路18と液体回収路19は吐出口列方向に延びる流路であり、それぞれ供給口17aと回収口17bを介して吐出口13と連通している。蓋部材20には、支持部材30の液体連通口31と連通する開口21が設けられている。
【0025】
(記録素子基板間の位置関係の説明)
図9は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示す平面図である。複数の吐出口列14a〜14dは、第1の方向Xに対してわずかに傾くように配置されている。記録素子基板10同士の隣接部において、隣接するそれぞれの記録素子基板10の少なくとも1つの吐出口13が第2の方向Yにオーバーラップしている。
図9では、D線上の2つの吐出口13が互いにオーバーラップしている。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口13の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。本実施形態のように複数の吐出口列に画像データを振り分けて記録する場合は、吐出口13がオーバーラップしていなくてもよい。隣接する記録素子基板間で異なる吐出口列に画像を振り分けることで、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。
【0026】
(支持部の構成)
上述のように、第1支持部81aと第2支持部81bは第2流路部材60を固定的に保持している。また、本実施形態において第2流路部材60と第1及び第2保持部材82a,82bは線膨張係数が異なっている。従って、第1及び第2保持部材82a,82bが第1及び第2支持部81a,81bに長手方向(第1の方向X)に固定されている場合、線膨張係数の差により、第2流路部材60と第1及び第2保持部材82a,82bが互いを長手方向に拘束する。これにより、液体吐出ヘッド3の変形(反り、歪み、捻じれ等)が引き起される場合がある。この現象は、本実施形態のライン型ヘッドのように構成部材が大型化、長尺化されるほど顕著であり、特に全長が500mmを超える記録ヘッドでは影響が大きい。液体吐出ヘッド3が変形することで、吐出モジュール200の位置精度が悪化し、吐出した液滴の着弾位置ズレを発生させ、画像品位が劣化する。このため、本実施形態では、第1及び第2保持部材82a,82bの長手方向の熱変形を吸収する構成を備えている。
【0027】
図10(a)は、第1支持部81a及び第2支持部81bと、第1保持部材82aの模式的側面図、
図10(b)は
図10(a)のA方向からみた上面図である。以下、主に第1保持部材82aについて説明するが、第2保持部材82bについても第1保持部材82aと同様である。
前述のように、第1電気配線基板90aは、第1保持部材82aを介して、第1支持部81a及び第2支持部81bに支持されている。第2電気配線基板90bは、第2保持部材82bを介して、第1支持部81a及び第2支持部81bに支持されている。第1支持部81a及び第2支持部81bの一側面には2つのねじ穴を有し、その裏面である他側面にも2つのねじ穴を有する。また第1保持部材82a及び第2保持部材82bの夫々の一端側には2つの長穴85aを有し、夫々の他端側には2つの丸穴85bを有する。第1支持部81aのねじ穴と第1保持部材82aの長穴とをねじ87aで固定し、第2支持部81bのねじ穴と第1保持部材82aの丸穴85bとをねじ87bで固定する。本実施形態において、長穴85aの長手方向長さをねじ87aの長手方向長さより大きくし、ねじ87aの締め付け力を調整することで、第1保持部材82aは第1支持部81aに対し長手方向に相対移動することができるように構成されている。この相対移動により、第1保持部材82aの長手方向の熱変形を吸収することができる。第1保持部材82aの他端側の丸穴85bの径はねじ87bの径と同程度の大きさとすることで、第1保持部材82aは第2支持部81bに対し、実質的に長手方向に相対移動することができないように構成している。
このように、第1支持部81aは、第1の部材である第1保持部材82aを第1支持部81aに対して長手方向に相対移動可能に支持する。また、第2支持部81bは、第1の部材である第1保持部材82aを、第2支持部81bに対して長手方向に相対移動不能に支持する。
【0028】
第1保持部材82aは、第1支持部81aに、長手方向と直交する方向に相対移動不能に支持されていることが望ましい。これにより、第1保持部材82aの振動を抑え、第1電気配線基板90aの信頼性を高めることができる。具体的には、長穴85aの長手方向と直交する幅方向寸法をねじ87aの径とほぼ同じとすることで、第1保持部材82aの長穴85aの短手方向の振動を抑えることができる。第1支持部81aの長手方向の相対変位を阻害しないように、ねじ87aと長穴85aの間に、長穴85aの短手方向にわずかな隙間を設けることが望ましい。また、ねじ87aで略固定することにより、ねじの頭部(図示せず)により、第1保持部材82aのねじ87aの軸方向の振動を抑えることができる。ねじ87aの頭部と第1保持部材82aの間にもわずかな隙間を設けることが望ましい。
上述したねじによる固定以外にも下記構成が適用可能である。例えば、第1支持部81aに長手方向に長軸を有する長穴を設け、第2支持部81bに丸穴を設け、第1保持部材82aには第1支持部材の長穴85aに滑動可能に挿入された円筒形の突起を設ける構成が適用可能である。
【0029】
第1支持部81aと第2支持部81bはそれぞれ、液体吐出ユニット300を液体吐出装置1のキャリッジ(不図示)と機械的に結合し、液体吐出ヘッド3の位置決めを行うための長穴開口86aと丸穴開口86bを有している。丸穴開口86bは液体吐出装置1のキャリッジの位置決め側(基準側)となる。本実施形態では、キャリッジの位置決め側に丸穴開口86bを備える第2支持部81bが設けられている。しかし、キャリッジの位置決め側に第1支持部81aが設けられていてもよく、いずれの構成でも部材間の線膨張係数差の影響を低減することができる。
【0030】
第1支持部81aに、長穴85aの代わりにねじ87aの径より十分に径が大きい丸穴を設けることもできる。第1保持部材82aが第1支持部81aに対し長手方向に相対移動することができる限り、第1支持部81aの穴の形状は限定されない。
長穴85aとねじ87aとで略固定状態とする構成について説明したが、第1支持部81aと第1保持部材82aとが相対移動可能な状態に保持されていれば各種保持機構が適用可能である。例えば、かしめ、ボルトとナット等が適用可能である。第2支持部81bと第1保持部材82aとの間の固定は、上述の構成に限定されず、接着などの方法でもよい。
第1支持部81aは両側に長穴85aを備え、第2支持部81bは両側に丸穴85bを備えている。しかし、第1支持部81aと第2支持部81bは一方の面に長穴85aを、反対面に丸穴85bを備えていてもよい。すなわち、第1保持部材82aの熱膨張と第2保持部材82bの熱膨張が長手方向に関し互いに反対側で吸収される構造であっても、線膨張係数の差の影響を軽減することができる。また2枚の保持部材を備える構成に限られず、1枚もしくは3枚以上の保持部材を備える構成であっても良い。
【0031】
図11は
図10の実施形態の変形例を示している。
図11(a)は、第1支持部81a及び第2支持部81bと、第1保持部材82aの模式的側面図、
図11(b)は
図11(a)のA方向からみた上面図である。第1支持部81aと第2支持部81bはともに長手方向に長軸を有する長穴85aを有し、第1の部材である第1保持部材82aは、各長穴85aに滑動可能に挿入されたねじ87aとねじ87bを有している。この結果、第1支持部81aは、第1保持部材82aを第1支持部81aに対して長手方向に相対移動可能に支持する。また、第2支持部81bは、第1保持部材82aを第2支持部81bに対して長手方向に相対移動可能に支持する。本変形例では、第1の部材が第1支持部81aと第2支持部81bの両者に対して長手方向に相対移動可能なため、より大きな相対変位を吸収することができる。このように、保持部材と各支持部材とはすべての個所で相対移動が可能なように略固定状態とされる構成であっても良い。
【0032】
(支持部の他の変形例)
図12には段付きねじを用いた変形例を示している。
図12(a)は第1支持部81a側の第1保持部材82aを、
図12(b)は第2支持部81b側の第1保持部材82aを示している。第1保持部材82aには、第1支持部81a側に第1の丸穴95が、第2支持部81b側に第2の丸穴96がそれぞれ形成されている。穴の形状は丸でなくてもよく、六角形、四角形などでもよい。
第1の段付きねじ93は第1の穴95を通り第1支持部81aに固定されている。第2の段付きねじ94は第2の穴96を通り第2支持部81bに固定されている。第1の段付きねじ93は頭部の大径部93aと、第1支持部81aにねじ込まれたねじ部93cと、大径部93aとねじ部93cの間に位置し、第1の穴95を通る小径部93bと、を有している。第2の段付きねじ94は頭部の大径部94aと、第2支持部81bにねじ込まれたねじ部94cと、大径部94aとねじ部94cの間に位置し、第2の穴96を通る小径部94bと、を有している。第1の段付きねじ93の小径部93bは第1の穴95との間に間隙を有し、第2の段付きねじ94の小径部94bは第2の穴96と密着している。また、第1の段付きねじ93の大径部93aは第1保持部材82aから離れているが、第2の段付きねじ94の大径部94aは第1保持部材82aと密着している。小径部93b,94bの高さと径を異ならせることでこのような構成が可能となる。本変形例でもねじ93の小径部93bと第1の穴95との間で第1保持部材82aの熱変形を吸収することができる。なお、第2の段付きねじ94を第1の段付きねじ93と同じ構成することも可能である。
【0033】
図13(a)は、第1及び第2支持部81a,81bと、保持部材182の模式的側面図、
図13(b)は
図13(a)のA方向からみた上面図である。本実施形態では、保持部材182が第1電気配線基板90aと第2電気配線基板90bで共用されている。第1の部材である保持部材182は、第1の部分182aと、第2の部分182bと、第3の部分182cと、を有している。第1の部分182aは第1支持部81aと第2支持部81bの間を延びている。第2の部分182bは、第1支持部81aの第1の面81cに支持されている。第3の部分182cは、第2支持部81bの、第1の面81cの反対面81dと同じ方向を向いた面81eに支持されている。
図10,11に示す実施形態では、第1電気配線基板90aと第2電気配線基板90bが第1支持部81aと第2支持部81bの外側に設けられているため、液体吐出ヘッドの被記録媒体の搬送方向の幅が広くなりやすい。本実施形態では第1電気配線基板90aと第2電気配線基板90bが第1支持部81aと第2支持部81bの間に設けられるため、上記幅を抑えることが容易である。保持部材182は第1支持部81aと第2支持部81bの周囲を点対称になるように折り曲げられて第1支持部81aと第2支持部81bに結合されるため、保持部材182の剛性が増し、液体吐出ヘッドの変形を抑制することができる。
【0034】
以上述べた実施形態では、第1及び第2の部材は電気配線基板を保持する第1及び第2保持部材82a,82bである。しかし、本発明において、第1及び第2の部材は第1及び第2保持部材82a,82bに限らない。例えば、
図3(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両側、特に電気配線部材40や第1及び第2電気配線基板90a,90bが一対の保護プレート140a,140bで覆われる場合がある。保護プレート140a,140bは金属、樹脂などから形成され、液体吐出ヘッド3を電気的ノイズ、機械的圧力などから保護する。保護プレート140a,140bは両端を第1支持部81aと第2支持部81bに支持され、長手方向に延びている、第1及び第2の部材はこのような保護プレート140a,140bであってもよい。
【0035】
このように複数種類の第1及び第2の部材が取り付けられている場合、各部材の線膨張係数の差による影響を軽減するため、第2流路部材60の線膨張係数は、第1及び第2の部材の線膨張係数よりも小さいことが好ましい。第2流路部材60の線膨張係数が大きいと、スリット85aの長手方向寸法の制約で、複数の第1及び第2の部材に対して熱膨張を十分に吸収することが難しくなる場合がある。第2流路部材60の線膨張係数が小さい場合、第2流路部材60の熱膨張による第1支持部81aと第2支持部81bの間隔の変化が抑えれられるため、複数の第1及び第2の部材に対して熱膨張を吸収することが容易となる。