特許第6800614号(P6800614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800614
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】プリント装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20201207BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B41J2/17 103
   B41J2/01 123
   B41J2/01 101
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-107523(P2016-107523)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-213712(P2017-213712A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有水 博
(72)【発明者】
【氏名】浅野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】今橋 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 有人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎宣
【審査官】 長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−180541(JP,A)
【文献】 特開2016−034702(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0238561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドで発生するミストを回収する複数のミスト回収ユニットの各々が、媒体の移動方向に沿って液体吐出口ヘッドと前記移動方向に隣接するように配置されているプリント装置であって、
前記複数のミスト回収ユニットはそれぞれ、筐体、前記筐体の底部に設けられミストを吸い込む吸込孔、前記吸込孔と連通し、吸い込んだミストを前記吸込孔から前記筐体の内部へと導く吸入流路、および前記筐体の下面に沿った底面と該底面から前記筐体の上面方向へ突出する側壁面とによって前記吸入流路と別空間として前記吸入流路と前記移動方向に並ぶように前記筐体内部に画成され、前記吸込孔から吸い込まれたミストが液化した液体を保持する保持部を備え、
前記複数のミスト回収ユニットに含まれる第1のミスト回収ユニットは、プリント装置を設置する床に垂直な垂直線に対して前記移動方向の上流側に傾いて設置されており、且つ第1のミスト回収ユニットでは前記保持部が前記吸および前記吸入流路よりも上流側に設けられ
前記複数のミスト回収ユニットに含まれる前記第1のミスト回収ユニットとは別の、前記移動方向において前記第1のミスト回収ユニットよりも下流に配置された第2のミスト回収ユニットは、前記垂直線に対して前記移動方向の下流側に傾いて設置されており、且つ前記第2のミスト回収ユニットでは前記保持部が前記吸込孔および前記吸入流路よりも下流側に設けられていることを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
前記媒体は円筒形状の転写体であって、前記転写体の周面に前記複数の吐出ヘッドにより形成された中間画像がシートに転写されるものであり、
前記複数の吐出ヘッドと前記複数のミスト回収ユニットは、前記転写体の周面方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする、請求項に記載のプリント装置。
【請求項3】
前記転写体の上半部において、前記転写体の回転中心を通る垂直線を基準として前記転写体の回転方向とは逆方向を上流側、順方向を下流側としたとき、前記上流側に配置されている前記第1のミスト回収ユニットは、前記転写体の回転方向において前記保持部、前記吸込孔の順序で配置され、
前記下流側に配置されている前記第2のミスト回収ユニットは、前記転写体の回転方向において前記吸込孔、前記保持部の順序で配置されていることを特徴とする、請求項2に記載のプリント装置。
【請求項4】
前記第1のミスト回収ユニットおよび前記第2のミスト回収ユニットの少なくとも一方は、前記転写体の回転中心を通る垂直線と、前記転写体の回転中心と前記筐体の中心とを結ぶ中心線とのなす角度θとし、前記筐体の底壁から上方へと突出する側壁部の下端部と前記筐体の中心とを結ぶ直線と平行する方向における前記側壁部の長さをH、前記保持部と関連する係数をαとするとき、前記側壁部の長さHは、
H=αtan|θ|
の関係を満たすことを特徴とする請求項またはに記載のプリント装置。
【請求項5】
前記第1ミスト回収ユニットが備える前記保持部の液体保持容積よりも、前記第2ミスト回収ユニットが備える前記保持部の液体保持容積のほうが大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記吐出ヘッドは、インクを吐出するインク吐出ヘッドと前記インクに反応する反応液を吐出する反応液吐出ヘッドと、を含み、
前記第1のミスト回収ユニットには前記インク吐出ヘッドが隣り合い且つ前記反応液吐出ヘッドは隣り合わず、前記第2のミスト回収ユニットには前記反応液吐出ヘッドが隣り合うことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項7】
前記媒体は円筒形状の転写体であって、前記転写体の周面に前記複数の吐出ヘッドにより形成された中間画像がシートに転写されるものであり、
前記ミスト回収ユニットと前記吐出ヘッドは、前記転写体の周面方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項8】
前記媒体は移動するシートであって、前記シートの上に前記複数の吐出ヘッドにより画像形成されるものであり、
前記ミスト回収ユニットと前記吐出ヘッドは、前記移動方向に沿って交互に配置されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項9】
前記吸込孔は前記媒体と対向する前記筐体の底部に形成され、
前記筐体の中には前記吸込孔から吸い込まれたミストが当たる面が設けられ、
前記保持部は前記面の下方に設けられ、前記面に付着したミストが液化した液体を受けることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項10】
前記複数のミスト回収ユニットはそれぞれ、前記筐体の底部にて前記吸込孔に隣接して設けられ媒体に向けて空気を吹き出す吹出孔を備えることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項11】
前記保持部には液体を吸収する吸収体が収納されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項12】
前記保持部に保持されている廃液を前記筐体の外に排出させる排出手段が設けられていることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のプリント装置。
【請求項13】
前記筐体は、前記吐出ヘッドの長尺方向と同じ方向に長尺の形状を有するとともに、前記吸込孔における空気の吸込流量分布を均一に近づけるための圧力室を有することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のプリント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインク吐出ヘッドとインクに反応する反応液を吐出する反応液吐出ヘッドとを用いてプリントを行うプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリント装置における吐出ヘッドからは、画像を記録するためのインク滴以外に、ミストと呼ばれる画像の形成に寄与しない霧状の微小なインク滴が発生する。この微小なインク滴は空気中に浮遊し、吐出ヘッドをはじめ、プリント装置内の様々な部分に付着し、吐出ヘッドの吐出不良、プリント装置の機能低下、あるいは画像品質の低下を招く。画像を記録するインクの他に、インクと反応する反応液を吐出する吐出ヘッドを備えたプリント装置もある。この種のプリント装置では、反応液の吐出時に反応液のミストが発生し、吐出ヘッドの吐出口面などに付着することがある。吐出ヘッドの吐出口付近のインクに反応液が付着するとインクの固着が促進されるため、ミストによる不都合の発生はより顕著になる。
【0003】
特許文献1には、複数の吐出ヘッドが配置されたプリント装置において、各吐出ヘッド間に、ミストを吸引するための吸引ダクトと空気を吹き出す吹出ダクトとを互いに隣接して配置した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0238561号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すプリント装置では、複数の吐出ヘッド、吸引ダクト、吹出ダクトが円筒面に沿って放射状に配置されている。そのため場所によって鉛直に対する傾きの方向が異なる。そのため、場所によってはダクト内に付着したミストが液化した液体が重力によってダクトの吸込孔から媒体に垂れ落ちる可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、複数の吐出ヘッドと複数のミスト回収部を有するプリント装置において、それぞれのミスト回収部においてミストが液化した液体を確実に保持することができる装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの形態は、液体を吐出する複数の吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドで発生するミストを回収する複数のミスト回収ユニットの各々が、媒体の移動方向に沿って液体吐出口ヘッドと前記移動方向に隣接するように配置されているプリント装置であって、
前記複数のミスト回収ユニットはそれぞれ、筐体、前記筐体の底部に設けられミストを吸い込む吸込孔、前記吸込孔と連通し、吸い込んだミストを前記吸込孔から前記筐体の内部へと導く吸入流路、および前記筐体の下面に沿った底面と該底面から前記筐体の上面方向へ突出する側壁面とによって前記吸入流路と別空間として前記吸入流路と前記移動方向に並ぶように前記筐体内部に画成され、前記吸込孔から吸い込まれたミストが液化した液体を保持する保持部を備え、前記複数のミスト回収ユニットに含まれる第1のミスト回収ユニットは、プリント装置を設置する床に垂直な垂直線に対して前記移動方向の上流側に傾いて設置されており、且つ第1のミスト回収ユニットでは前記保持部が前記吸および前記吸入流路よりも上流側に設けられ、前記複数のミスト回収ユニットに含まれる前記第1のミスト回収ユニットとは別の、前記移動方向において前記第1のミスト回収ユニットよりも下流に配置された第2のミスト回収ユニットは、前記垂直線に対して前記移動方向の下流側に傾いて設置されており、且つ前記第2のミスト回収ユニットでは前記保持部が前記吸込孔および前記吸入流路よりも下流側に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の吐出ヘッドと複数のミスト回収部を有するプリント装置において、複数のミスト回収部のそれぞれにおいて、ミストが液化した液体が垂れ落ちるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態におけるプリント装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す吐出ヘッドとミスト回収装置の概略構成を示す図である。
図3】ミスト回収装置における第1、第2、第3のミスト回収ユニットを示す斜視図である。
図4図4に示す各ミスト回収ユニットの縦断面図である。
図5】第1ミスト回収ユニットの縦断面図、VA-VA線断面図、およびVB-VB線断面図である。
図6】第1ミスト回収ユニットの設置状態と、その拡大縦断面を示す図である。
図7】第3ミスト回収ユニットの設置状態と、その拡大縦断面を示す図である。
図8】第2ミスト回収ユニットの設置状態と、その拡大縦断面を示す図である。
図9】第2の実施形態におけるミスト回収ユニットの構成を示す縦断面図である。
図10】第3の実施形態における第1のミスト回収ユニットと転写体との位置関係と、その拡大縦断面を示す図である。
図11】第4の実施形態における第1のミスト回収ユニット、転写体および反応液吐出ヘッドの位置関係と、その拡大縦断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1はインクジェット方式を採るプリント装置の概略構成を示す。プリント装置100は、中間のプリント媒体(中間媒体)としての転写体の表面に中間画像を形成し、この中間画像を最終のプリント媒体であるシートに転写する転写方式のラインプリント装置である。
【0012】
プリント装置100には、円筒形状をなすドラム状の転写体101が設けられると共に、転写体101の周面(円筒曲面)に対向して液体を吐出して画像をプリントするプリント部103が設けられている。プリント部103は、液体を吐出するライン吐出ヘッドが、転写体101の周面方向(媒体の回転移動方向)に沿って放射状に複数配置されている。各吐出ヘッドには液体を吐出する複数の吐出口が図1の紙面と直交する方向(長尺方向)に長尺形状に配置され、これらの吐出口によって長尺の吐出口列が構成されている。各吐出ヘッドから吐出される液体としては、画像を形成するための複数色のインクと、そのインクに反応して形成された画像の品質を高めるための反応液などがある。
【0013】
画像を形成する際には、転写体101がD1方向へと回転しつつ、プリント部103に設けられた複数の吐出ヘッドから異なる色のインクおよび後述の反応液を吐出する。本例では、転写体101は0.9mの直径を有し、0.6m/sの線速度で回転するが、これら数字は例示であって必須ではない。転写体101の回転と吐出ヘッドからのインクの吐出および反応液の吐出によって連続的に転写体101の表面にインクによる中間画像が形成される。
【0014】
一方、転写体101の下方部に対向して、回転体106が設けられている。回転体106は、図外のシート供給部から供給されたシートSを転写体101の表面に圧接させつつ転写体の回転に同期してD2方向へと回転する。これにより、転写体101の表面に形成された中間画像がシートの表面に転写され、搬送方向D3へと搬送される。シートへの画像の転写が終了した転写体101は、その表面がクリーニング部107によってクリーニングされ、次のプリント動作に備える。
【0015】
図2は、図1に示すプリント装置100におけるプリント部103の内部構成および、プリント装置100に設けられたミスト回収装置の構成を概略的に示す図である。プリント部103内には、9個の吐出ヘッド10〜18が転写体101の周面から所定の間隔を介して対向するように配置されている。また、吐出ヘッド18の直前および吐出ヘッド10の直後、並びに各吐出ヘッド10〜18の間には、それぞれ後述のミスト回収部19〜28が配置されている。クリーニング部107でクリーニングされた転写体101には、吐出ヘッドの配列順序10、11、12、・・・18に従って、液体の吐出が行なわれる。このように、プリント部103は、複数のミスト回収部と複数の吐出ヘッドが媒体(転写体)の移動方向(曲面)に沿って交互に、放射状に配置された基本構成となっている。そしてプリント部103において、最上流と最下流はミスト回収部が配置されている。
【0016】
以下の説明では、転写体101がクリーニング部107を脱する位置を基準位置107aとし、転写体101の回転方向D1とは逆の回転方向において基準位置107aに向かう方向を前方、基準位置107aから離れる方向を後方とする。また、前方を上流、後方を下流ともいう。この定義に従えば、吐出ヘッド10は最上流位置に配置された吐出ヘッド、吐出ヘッド18は最下流位置に配置された吐出ヘッドとなる。さらに、後述のミスト回収部19〜28においても、前方、後方、上流、下流に関する定義は吐出ヘッドと同様とする。
【0017】
ここで、複数の吐出ヘッド10〜18の種類について述べる。吐出ヘッド11〜17は、滴状のインクを吐出するインク吐出ヘッドである。インクの種類(色)は吐出ヘッド毎に分けられている。最上流に設置された先頭の吐出ヘッド10は、前処理液(反応液)を吐出する前処理液吐出ヘッド(反応液吐出ヘッド)である。前処理液は、転写体101上の画像形成部分に予め付与することで、続いて付与されるインク滴と反応し、インクの凝集性や画質(光沢性など)を向上させることを目的としたものである。また、最下流に設置された最後尾の吐出ヘッド18は、後処理液(反応液)を吐出する後処理液吐出ヘッド(反応液吐出ヘッド)である。後処理液は、転写体101上に形成された画像上に付与することで、インクと反応し、画像の耐侯性や定着性を向上させることを目的としたものである。これらの吐出ヘッド10〜18と転写体101との間の距離は最狭部で約1mm以下である。
【0018】
次に、プリント装置100に搭載されているミスト回収部19〜28について説明する。ミスト回収装置200は、吐出ヘッド10〜18から吐出されたインクおよび反応液のミストを吸引して回収するミスト回収部19〜28と、ミスト回収部においてミストを回収させるための空気の吸引、排出を行なう吸引排出機構300とを備える。
【0019】
まず、ミスト回収部19〜28について説明する。プリント装置100には3種類のミスト回収ユニット500、600、700が設置されている。ミスト回収部19、20には第1のミスト回収ユニット(第1のミスト回収部)500が用いられている。また、ミスト回収部21〜25には第2のミスト回収ユニット(第2のミスト回収部)600が用いられている。さらに、ミスト回収部26〜28には第3のミスト回収ユニット(第1のミスト回収部)700が用いられている。第1のミスト回収ユニット500(19、20)および第3のミスト回収ユニット700(26〜28)は、いずれも、吹出気流と吸込気流を発生させるよう構成され、吹出気流および吸込気流によって空気中に浮遊するミストの吸引・回収を行う。また、第2のミスト回収ユニット600(21〜25)は、空気の吸引のみを行う構成を有し、ここで発生させた吸込気流によって空気中に浮遊するミストの吸引・回収を行う。
【0020】
吹出気流と吸込気流を用いる2種類のミスト回収ユニット(第1のミスト回収ユニット500、第3のミスト回収ユニット700)は、ミスト回収部の既プリント領域側に対してミストが漏れ出すと、比較的大きな影響が生じる吐出ヘッドの前後に隣り合い隣接して配置されている。特に、前処理液吐出ヘッド10から発生した前処理液のミストはインクに反応して固着する特性を有する。このため、前処理液のミストが吐出ヘッド11〜17や後処理液吐出ヘッド18に到達すると、吐出ヘッドの吐出口あるいは吐出口が形成されている面(吐出口面)に固着して吐出口の吐出不良を発生させ、画像劣化を引き起こすおそれがある。また、前処理液のミストが前方に漏れ出すと、プリント装置100内を浮遊して様々な個所に付着することが懸念される。そのため、前処理液吐出ヘッド10の前後に配置されているミスト回収部19、20には第1のミスト回収ユニット500を適用し、前処理液吐出ヘッド10の前後に吹出気流と吸込気流を発生させるようになっている。これによれば、前処理液吐出ヘッド10から発生したミストの前後方向への漏れ出しを、エアーカーテンとして作用する吹出気流によって遮断することができ、浮遊しているミストを、第1のミスト回収部19、20の吸込気流によって十分に回収することができる。
【0021】
さらに、前処理液のミストは、前処理液を吐出した前処理液吐出ヘッド10自身の吐出口面にも付着し、吐出口に吐出不良を発生させることもある。前処理液のミストが前処理液吐出ヘッド10の吐出口面に付着するのを抑制するためには、吐出ヘッドの未プリント領域側から、吐出ヘッドとプリント媒体との間に気流を流すことが有効である。そのため、前処理液吐出ヘッド10の前方(未プリント領域側)に配置されている第1のミスト回収部19には、第1のミスト回収ユニットが適用されている。これにより、第1のミスト回収部19から吹出された吹出気流の一部が転写体101と吐出ヘッドとの間に流入し、前処理液吐出ヘッド10の吐出口面に前処理液のミストが付着するのを抑制することができる。
【0022】
また、後処理液吐出ヘッド18から生じた後処理液のミストは、インク吐出ヘッド11〜17や前処理液吐出ヘッド10などに到達すると、それらの吐出ヘッドの吐出口面や吐出口に固着し、吐出不良を引き起こす可能性がある。さらに、後処理液のミストが後処理液吐出ヘッド18の後方(下流側)に漏れ出すと、プリント装置100内を浮遊し、内部機構に付着することが懸念される。そのため、後処理液吐出ヘッド18の前後に配置されたミスト回収部27、28にも、吹出気流と吸込気流とを発生させる第3のミスト回収ユニット700が適用されている。これによれば、後処理液吐出ヘッド18から発生した後処理液のミストを、ミスト回収部27、28によって発生させた吹出気流と吸込気流とを用いて、より確実に回収することが可能になる。さらに、ミスト回収部27から生じる吹出気流の一部が後処理液吐出ヘッド18の吐出口面と転写体101との間に流入することにより、後処理液を吐出した後処理液吐出ヘッド18自身の吐出口面にミストが付着するのを抑制することも可能になる。
【0023】
また、本実施形態では、プリント部103の中で、最下流位置に配置されている吐出ヘッドが後処理液工程ヘッドとなっている。しかし、最下流位置に配置されている吐出ヘッドがインク吐出ヘッドであった場合にも、第3のミスト回収ユニット700を設置することが望ましい。すなわち、最下流位置に配置されている吐出ヘッドがインク吐出ヘッドである場合、インク吐出ヘッドから発生したインクミストは後方へと漏れ出し、プリント装置の内部に浮遊して様々な部分に付着することが懸念される。このため、最下流位置に配置された吐出ヘッドがインク吐出ヘッドであった場合にも、その前後に配置されているミスト回収部には第3のミスト回収ユニット700を適用する。これによれば、インクミストの下流側への漏れ出しをより確実に抑制することが可能になる。
【0024】
さらに、ミストの発生量が多いことが想定される吐出ヘッドの前後に、吹出気流と吸込気流を用いる第3のミスト回収ユニット700を配置してもよい。本実施形態では、インク吐出ヘッド17は他の吐出ヘッドに対してミストの発生量が多いことが想定されたため、インク吐出ヘッド17の前に配置されるミスト回収部26にも、吹出気流と吸込気流を発生させる第3のミスト回収ユニット700を適用している。従って、吐出ヘッド17から多量のインクミストが発生した場合にも、ミスト回収能力の高い第3のミスト回収部26、27によって、より確実にインクミストを回収することができる。さらに、ミスト回収部26から生じる吹出気流の一部がインク吐出ヘッド17の下部に流入することにより、インク吐出ヘッド17の吐出口面にミストが付着するのを抑制することができる。
【0025】
吸込気流のみを発生させる第2のミスト回収ユニット600は、吐出ヘッドから生じるミスト量が少ない場合に用いる。ただし、より確実にミスト回収を行いたい場合には、吹出気流と吸込気流を発生させる第1のミスト回収ユニット500もしくは第3のミスト回収ユニット700を用いることも可能である。第2のミスト回収ユニット600は、第1、第3のミスト回収部より幅(転写体101の回転方向111の長さ)を短くすることができる。そのため、隣接する吐出ヘッドの間の距離を狭めることが可能となり、プリント装置をコンパクトに構成することが可能になる。また、第2のミスト回収ユニット600では吹出気流を発生させないため、ミスト回収のための総風量を抑制することが可能となる。
【0026】
次に、吸引排出機構300について説明する。ミスト回収部には、吸引排出機構300が接続され、ここで発生させた吸気力、排気力によってミスト回収部での吸気、排気が行われる。吸引排出機構300は、吸気動作を行うポンプ33(送気手段)、ポンプ36(吸気手段)、廃液の排出動作を行うポンプ39(排出手段)と、流量調整用のバルブ32、35、38と、配管29、30、31とを備える。配管29はミスト回収部19、20、26、27、28に空気を供給するために設置され、配管30はミスト回収部19〜28より空気を吸引するために設置されている。さらに、配管31は、ミスト回収部19〜28の内部に回収されたミストが集合して液化した液体(ミスト液)と内部を洗浄するための洗浄液(以下、これらの液体をまとめて廃液と記す)とミストを含んだ空気(以下、廃気と記す)を外部に排出するための配管である。
【0027】
配管29は、第1のミスト回収ユニット500(19、20)および第3のミスト回収ユニット700(26、27、28)に空気を供給するためのポンプ33に接続されている。配管30は、第1、第2、第3のミスト回収ユニット500、600、700(19〜28)から空気を吸引するための吸引力を発生するポンプ36に接続されている。さらに、配管31は、ミスト回収部19〜28に回収されたミスト液およびミスト回収部内を洗浄するための洗浄液などが混在した廃液を廃気と共に排出するための吸引力を発生させるポンプ39に接続されている。また、配管29、30、31には、内部を流れる流体の流量を調整するためのバルブ32、35、38がそれぞれ接続されている。さらにバルブ34、38とミスト回収部19〜28とを接続する配管30、31には、廃液および廃気に含まれる塵埃などを除去するための清浄機構34、37が接続されている。また、清浄機構34とミスト回収部19〜28とを接続されている配管30の途中には、切換バルブ231が接続され、切換バルブ231には洗浄液注入機構230が接続されている。切換バルブ231は、ミスト回収部19〜28に対し、清浄機構34と洗浄液注入機構230とを選択的に連通させるように構成されている。洗浄液注入機構230は、ミスト回収部19〜28との連通時において洗浄液を送出し、ミスト回収部19、20、26〜28内の洗浄を行なう。
【0028】
図3は、第1、第2、第3のミスト回収ユニットの外観を示す斜視図であり、(a)は第1の回収ユニット500を、(b)は第2の回収ユニット600を、(c)は第3の回収ユニット700をそれぞれ示している。
第1のミスト回収ユニット500は、幅d1を有する略直方体形状の筐体501(第1の筐体)を備える。筐体501の内部には、後述する圧力室、流路などの空間が画成されている。筐体501の底壁502には、スリット状の吸込孔40および吹出孔56が互いに平行して形成されている。吸込孔40および吹出孔56は、吐出ヘッド10〜18に形成されている吐出口列91の長さ以上の範囲に亘って形成されている。筐体501の側壁503には排気孔(第1の排気孔)49、空気供給孔(第1の空気供給孔)50および、廃液排出孔(第1の廃液排出孔)41が設けられている。排気孔49は配管30に、空気供給孔50は配管29に、廃液排出孔41は配管31にそれぞれ接続されている。
【0029】
第2のミスト回収ユニット600は、第1のミスト回収ユニット500より狭い幅d2を有する略直方体形状の筐体601(第2の筐体)を備える。筐体601の内部には、後述の圧力室、流路などが画成されている。筐体601の底壁602には、スリット状の吸込孔60が、吐出ヘッド10〜18に形成されている吐出口列91の長さ以上の範囲に亘って形成されている。また、筐体601の側壁603には排気孔(第2の排気孔)69および廃液排出孔(第2の廃液排出孔)61が設けられ、排気孔69は配管30に、廃液排出孔61は配管31にそれぞれ接続されている。
【0030】
第3のミスト回収ユニット700は、幅d3を有する略直方体形状の筐体701(第3の筐体)を有する。筐体701の底壁702には、第1のミスト回収ユニット500における吸込孔40、吹出孔56と略同様に、スリット状の吸込孔(第1の吸込孔)70、吹出孔(吹出孔)86が設けられている。また、筐体701の側壁703には、排気孔(第1の排気孔)79、空気供給孔(第1の空気供給孔)80、廃液排出孔(第1の廃液排出孔)71が設けられている。排気孔79は配管30に、空気供給孔80は配管29に、廃液排出孔71は配管31にそれぞれ接続されている。
【0031】
図4は、第1、第2、第3のミスト回収ユニット500、600、700それぞれの内部構造を示す縦断側面部図であり、(a)は第1のミスト回収ユニット500を、(b)は第2のミスト回収ユニット600を、(c)は第3のミスト回収ユニット700をそれぞれ示している。
【0032】
図4(a)に示す第1のミスト回収ユニット500は、内部を前後方向(図4において左右方向)に2分する分離壁505によって、ミストを含んだ空気を吸い込むための構造部500Aと気流を吹き出すための構造部500Bとに分離されている。
まず、ミストを含んだ空気を吸い込むための構造部500Aについて説明する。構造部500Aには、筐体501の底部に形成された吸込孔40に連通する吸込流路43、廃液保持部(保持部)42、第1、第2の圧力室(圧力室)46、48などが互いに連通した状態で画成されている。第2圧力室48は、筐体501の側壁503に形成された排気孔49を介して配管30に連通している。従って、第2圧力室48内の空気は、ポンプ36の吸引力により配管30を介して外部へと排出される。第2の圧力室48内の空気が排出されることにより、構造部500A内の空気は、排気孔49に向けて流動する。その結果、外部の空気が吸込孔40から構造部500A内へと吸い込まれる。
【0033】
吸込孔40より吸い込まれた空気は吸込流路43を通過し、一部は筐体501の内部に設けられた板部材の表面であるミストトラップ面44に吹き付けられる。吹き付けられたミストの一部は、分離壁505から斜め下方へと突出するミストトラップ面44に付着する。ミストの付着量が多くなるとミストが集合して液体(廃液)となり、ミストトラップ面44から滴下して廃液保持部42に保持される。第1のミスト回収ユニット500における筐体501の側壁503(図3参照)には廃液排出孔41が設けられている。廃液排出孔41は配管31を介してポンプ39に接続され、ポンプ39を所定のタイミングで駆動することにより、廃液保持部42に保持した廃液、廃気および筐体の洗浄液などが廃液保持部42から排出される。廃液保持部42から排出された廃液および廃気は清浄機構37にて清浄化された後、バルブ38を通過してポンプ39から外部へと排出される。
【0034】
一方、吸込流路43に流入した空気は、ミスト回収ユニット500の長手方向(図4の紙面と直交する方向)の吸込流量分布を均一に近づけるために設けられた第1の圧力均一化部材45を通過した後、第1圧力室に流入する。この第1の圧力室46も長手方向の吸込流量分布を均一に近づけるために設置されたものである。なお、圧力均一化部材と圧力室については後に図5を参照して説明を行う。第1の圧力室46内に流入した空気は、さらに、第2の圧力均一化部材47を通過して、第2の圧力室48に流入する。第2の圧力室48は、ミスト回収ユニット500の側壁503に設けられた排気孔49に連通している。このため、第2の圧力室48に流入した空気は、排気孔49から配管30(図2参照)へと排出される。配管30に流入した空気は、清浄機構34でミストが捕集されて清浄化された後、バルブ35を通過し、ポンプ36から外部に廃棄される。
【0035】
次に、空気を吹き出すための構造部500Bについて説明する。構造部500Bには第3の圧力室51、第4の圧力室53、および吹出流路55が互いに連通するように画成されている。第3の圧力室51は、筐体501の側壁503に形成された空気供給孔50を介して配管29に連通している。このため、ポンプ33から送出された空気は、配管29およびバルブ32を通過した後、空気供給孔50から第3圧力室51へと流入する。第3の圧力室51はミスト回収ユニットの長手方向の吹出流量分布を均一化するために設置されている。第3の圧力室51に流入した空気は、第3の圧力均一化部材52、第4の圧力室53、および第4の圧力均一化部材54を通過し、長手方向における吹出流量分布が、さらに均一化されて吹出流路55に送られ、吹出孔56から吹き出される。吹き出された空気は、転写体101の表面に吹き付けられる。
【0036】
図4(b)に示す第2のミスト回収ユニット600には、筐体601の底壁602に形成された吸込孔60に連通する吸込流路63、第5の圧力室66、第6の圧力室68が形成されている。第6の圧力室68は、筐体601の側壁603に形成された吸込孔60を介して配管30に連通しており、ポンプ36の吸引力によって第6の圧力室68の空気は外部へと排出される。第6の圧力室68内の空気が排出されることにより、第2のミスト回収ユニット600内の空気は排気孔69に向けて流動する。その結果、外部の空気が吸込孔40から第2のミスト回収ユニット600内へと吸い込まれる。
【0037】
吸込孔40より吸い込まれた空気は吸込流路43を通過し、一部はミストトラップ面64に吹き付けられる。吹き付けられたミストの一部は、筐体601の側壁603から斜め下方へと突出する第2のミストトラップ面64に付着し、付着量が多くなると、液体(廃液)となってミストトラップ面64から滴下し、廃液保持部62に保持される。第2のミスト回収ユニット600の筐体601の側壁603には廃液排出孔61が設けられている。廃液排出孔61は配管31を介してポンプ39に接続されており、ポンプ39を所定のタイミングで駆動することにより、廃液保持部62に保持した廃液および廃気が廃液保持部62から排出される。廃液保持部62から排出された廃液および廃気は清浄機構37にて清浄化された後、バルブ38を通過してポンプ39から外部へと排出される。
【0038】
図4(c)に示す第3のミスト回収ユニット700は、内部を前後方向(図4において左右方向)に2分する分離壁705によって、ミストを含んだ空気を吸い込むための構造部700Aと気流を吹き出すための構造部700Bとに分離されている。
【0039】
構造部700A内には、吸込孔70に連通する吸込流路73、廃液保持部72、第1の圧力室76、第2の圧力室78などが互いに連通した状態で画成されている。第1の圧力室78は、排気孔79を介して配管30に連通し、廃液保持部72は、廃液排出孔71を介して配管31に連通している。
【0040】
ポンプ36の吸引力によって第2の圧力室78内の空気が外部へと排出されると、構造部700A内の空気は、排気孔79に向けて流動する。これに伴って外部の空気が吸込孔70から構造部700A内へと吸い込まれる。吸込孔70から吸い込まれた空気に含まれるミストは、吸込流路73に設けられたミストトラップ面74に付着した後、液化して液体(廃液)となって廃液保持部72内に滴下し、保持される。廃液は、ポンプ39の駆動によって配管31へと吸引され、清浄機構37で清浄化された後、バルブ38を通過してポンプ39から排出される。
【0041】
また、吸込孔70から吸込流路73に流入した空気は、第1の圧力均一化部材75、第1の圧力室76、第2の圧力均一化部材77を通過して第2の圧力室78に流入する。第2の圧力室78に流入した空気は、排気孔79から配管30へと排出され、清浄機構34で清浄化された後、バルブ35を通過してポンプ36から外部へと排出される。
【0042】
一方、構造部700B内には、第3、第4の圧力室81、83および吹出流路85などが互いに連通した状態で画成されている。第3の圧力室81は、筐体701の側壁703に形成された空気供給孔80を介して配管29に接続されている。従って、ポンプ33から送出された空気は、空気供給孔80から構造部700Bの第3の圧力室81に流入した後、第3の圧力均一化部材82、第4の圧力室83、第4の圧力均一化部材84および吹出流路85を経て吹出孔86より吹き出される。吹き出された空気は、転写体101の表面に吹き付けられる。
【0043】
本実施形態では、ミスト回収部19、20として第1のミスト回収ユニット500を、ミスト回収部21〜25として第2のミスト回収ユニット600を、ミスト回収部26〜28として第3のミスト回収ユニット700を用いている。しかし、第1、第2、第3のミスト回収部を、上記実施形態とは異なる組み合わせで用いることも可能である。例えば、より確実にミストを回収したい場合にはミスト回収部19〜23に第1のミスト回収ユニット500を用い、ミスト回収部24〜28に第3のミスト回収ユニット700を用いることも可能である。
【0044】
図5は、図4(a)に示す第1のミスト回収ユニット500における圧力室および圧力均一化部材の構成を示す断面図であり、(a)は図4(a)のVA-VA線断面図、(b)は図4(a)のVB−VB線断面図である。前述のように、第1、第2の圧力均一化部材45、47および第1、第2の圧力室46、48は、第1のミスト回収ユニット500における長手方向の吸込流量分布を均一化するために用いる。
【0045】
第1の圧力均一化部材45は、第1の圧力室46と吸込流路43とを画成するための壁部の一端部と分離壁505との間に設けられ、第2の圧力均一化部材は、第1の圧力室46と第2の圧力室48とを画成するための壁部の一端部と、筐体の前面部との間に設けられている。第1、第2の圧力均一化部材は、いずれも長手方向に延在する空間を形成する部材となっており、その空間を形成する上面部と下面部とに、図5(a)、(b)に示すような複数の貫通孔207、208が形成されている。本実施形態では、貫通孔207、208の開口幅woは約1mmとしている。これらの貫通孔207、208を通過することによって空気は長手方向に分散され、通過する空気の圧力は均一化される。
【0046】
また、第1、第2の圧力室は、長手方向に延在する空間を形成しているため、各々の空間に流入した空気は長手方向へと均等に分散され、これによっても空気圧の均一化を図ることができる。
【0047】
以上、第1のミスト回収部における第1、第2の圧力均一化部材および第1、第2の圧力室について説明したが、第1、第2の圧力均一化部材の構成、作用は、第3の圧力均一化部材52、第4の圧力均一化部材54や、他の圧力均一化部材においても同様である。また、第1、第2の圧力室の作用は、他の圧力室においても同様である。
【0048】
また、ミスト回収部内に設ける圧力室および圧力均一化部材の個数は、必ずしも複数に限定されない。すなわち、単一の圧力均一化部材あるいは単一の圧力室によって吸込孔の長手方向における吸込流量分布が均一となる場合には、複数の圧力均一化部材および圧力室を設ける必要はない。また逆に、長手方向における吸込流量分布をさらに均一化するために、圧力均一化部材、圧力室を追加してもよい。
【0049】
次に、ミスト回収部の配置位置と、ミスト回収部に形成されている廃液保持部、吸込孔および吹出孔との関係について説明する。図4に示すように、第1のミスト回収ユニット500と第3のミスト回収ユニット700とは、廃液保持部42と72、吸込孔40と70、吹出孔56と86の位置が、それぞれ転写体101の回転方向D1において逆転している。そして、本実施形態では、ミスト回収部19、20に対して第1のミスト回収ユニット500を用い、ミスト回収部26、27、28に対しては第3のミスト回収ユニット700を用いている。これは、以下の理由による。
【0050】
図6は、ミスト回収部20、28に第1のミスト回収ユニット500を適用した例を示す図である。図中、斜線で示す部分V1、V2は、ミスト回収部20、28のそれぞれの廃液保持部42の内部に保持可能な廃液の体積を示している。V1とV2を比較すると、明らかに、V1の体積の方が大きいことが分かる。いま、転写体101の上半部において、転写体101の回転中心を通る、装置の設置床に対して垂直な垂直線VLを基準として転写体101の回転方向とは逆方向を上流側、順方向を下流側と定義する。プリント装置は水平または水平とみなせる床に設置されるので、垂直線VLは鉛直方向(重力方向)と一致する。
【0051】
ここで上流側においては、吸込孔40の上流側(前方)に廃液保持部42を設置すると、より多くのミストを保持することが可能となる。従って、基準より上流側に配置されているミスト回収部19、20には、第1のミスト回収ユニット500を適用している。これにより、廃液保持部42に保持されている廃液の排出動作を行う回数を低減することが可能になると共に、廃液保持部42から廃液が溢れて吸込孔40から転写体101上に流れ落ちるのを抑制することができる。
【0052】
また、図7はミスト回収部20、28に対して、第3のミスト回収ユニット700を適用した例を示す断面図である。図中、斜線で示す部分V3、V4は、ミスト回収部20、28のそれぞれの廃液保持部72の内部に保持可能な廃液の体積を示している。V3とV4を比較すると、明らかに、V4の体積の方が大きいことが分かる。すなわち、下流側においては吸込孔(吸込孔)70の下流側(後方)に廃液保持部72を設置すると、より多くの廃液を保持することが可能となる。従って、基準より下流側に配置されているミスト回収部26、27、28には、第3のミスト回収ユニット700を適用している。これにより、廃液保持部72に保持されている廃液の排出動作を行う回数を低減することが可能になる。また、廃液保持部72から廃液が溢れて吸込孔70から転写体101上に流れ落ちるのを抑制することも可能になる。
【0053】
一方、図8はミスト回収部22、25に対して第2のミスト回収ユニット600を適用した例を示す断面図である。図中、斜線で示す部分V5、V6は、ミスト回収部22、25に適用した第2のミスト回収ユニット600それぞれの廃液保持部62の内部に保持可能な廃液の体積を示している。本例では、図6に示した例と同様に、基準より上流側においては吸込孔60の上流側(前方)に廃液保持部62が位置するように第2のミスト回収ユニット600を設置している。また、下流側においては、図7に示した例と同様に、吸込孔60の下流側(後方)に廃液保持部62が位置するように第2のミスト回収ユニット600を配置している。これによれば、廃液保持部62で保持し得る廃液の体積を十分に確保することが可能になる。従って、第2のミスト回収ユニット600においても、廃液保持部62に保持されている廃液の排出動作を行う回数を低減することが可能になると共に、廃液保持部62から廃液が溢れて吸込孔60から転写体101上に流れ落ちるのを抑制することができる。
【0054】
なお、第1、第2、第3のミスト回収ユニット500、600、700は、吐出ヘッド10〜18もしくは、吐出ヘッド10〜18を保持する金具との間に隙間が設けられていることが望ましい。このような隙間を設けることにより、その隙間から気流が流入するため、転写体101および、転写体101に対するミスト回収部の対向面にミストが付着するのを抑制することができる。特に、吐出ヘッドもしくは吐出ヘッドを保持する部材と第2のミスト回収ユニット600との間に隙間90を設けることは有効である。すなわち、第2のミスト回収ユニット600には吹出孔が設けられていないが、隙間90を設けることにより、これが吹出孔としての役割を果たすこととなる。このため、吸込孔60に対して空気の吸引がスムーズに行われると共に、隙間90より吹き出した気流が転写体101に到達することにより実質的に吹き出しの気流として作用することとなる。このため、効率的にミストを回収することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、吸引排出機構300を用いて、ミスト回収部19〜28に適用したミスト回収ユニット500、600、700の内部を清掃することが可能になっている。ミスト回収ユニット500の清掃時には、配管30の途中に設置した切換バルブ231を切り替えて洗浄液注入機構230とミスト回収ユニット500とを連通させ、ミスト回収ユニット500と清浄機構34との連通を遮断する。その後、洗浄液注入機構230から洗浄液を送出し、排気孔49からミスト回収ユニット500の構造部500A内に洗浄液を流入させる。洗浄液は第2圧力室48、第1圧力室46を経て吸込流路43および廃液保持部42に流入し、最終的に排出孔41から排出される。これにより、構造部500A内に固着したミストや塵埃は洗浄液によって洗い流され、構造部500A内の空気の流動性は良好な状態に保たれる。以上、第1のミスト回収ユニットの内部洗浄方法について述べたが、第2、第3のミスト回収ユニット600、700についても同様に洗浄を行うことが可能である。
【0056】
また、プリント装置100の駆動中にミスト回収ユニットの清掃とミスト回収とを同時に行うようにすることも可能である。これは、ミスト回収ユニットの上部に清掃液注入のための専用の孔を形成し、その孔から、適宜、洗浄液を注入するように構成することで実現可能である。なお、ミスト回収ユニットの洗浄を行った場合、廃液保持部41、62、72には洗浄液が溜まるため、洗浄作業後もしくは洗浄作業と同時にポンプ39を駆動し、内部に溜まった洗浄液を排出口41、62、71から吸引することが望ましい。但し、排出動作を行った後にも、ミストトラップ面44、64、74およびミスト回収ユニット500、600、700の内面に付着していた洗浄液が流下することがある。しかし、この洗浄液は廃液保持部42、62、72に保持されて、ミスト液と混合されて廃液となる。従って、プリント動作中には、先に述べたミスト液と同様に、洗浄液が吸込孔40、60、70から転写体101上に流れ落ちることはない。そして、所定のタイミングで、ポンプ39を駆動することにより、ミスト液と共に廃液保持部42、62、72から排出することができる。
【0057】
ここで、各ミスト回収部の吹出気流と吸込気流の速度、吹出孔、および吸込孔の幅について具体例を示す。第1のミスト回収ユニット500の吸込孔40、第2のミスト回収ユニット600の吸込孔60、および第3のミスト回収ユニット700の吸込孔70の幅は、それぞれ3〜5mm程度が好ましい。また、第1のミスト回収ユニット500の吹出孔56の幅、第3のミスト回収ユニット700の吹出孔86の幅は、それぞれ0.5〜2mm程度が好ましい。第2のミスト回収ユニット600の隙間90の幅は0.5mm以上が好ましい。第1のミスト回収ユニット500の吸込孔40、第2のミスト回収ユニット500の吸込孔60、第3のミスト回収ユニット700の吸込孔70における空気の吸い込み速度は、それぞれ0.3〜1.0m/s程度が好ましい。また、第1のミスト回収ユニット500の吹出孔56、第3のミスト回収ユニット700の吹出孔86から吹き出される空気の流速は0.5〜1.0m/s程度が好ましい。
【0058】
以上のように、本実施形態では、ミスト回収部内に付着したミストや洗浄液などが吸込孔から流れ落ちるのを抑制することが可能になるため、転写体に形成される画像が汚れることはない。また、廃液が一箇所(廃液保持部)に集められるため、廃液の排出も容易になり、洗浄作業の簡略化を実現することができる。
【0059】
本実施形態の構成を一般化すると、複数のミスト回収ユニットに含まれる第1のミスト回収ユニットは、床に垂直な垂直線に対して媒体の移動方向の上流側に傾いて設置されており、且つ第1のミスト回収ユニットでは液体の保持部がミストを吸い込む吸孔よりも上流側に設けられている。更に、第1のミスト回収ユニットとは別の第2のミスト回収ユニットは垂直線に対して移動方向の下流側に傾いて設置されており、且つ前記第2のミスト回収ユニットでは廃液の保持部が吸孔よりも下流側に設けられている。この構成により、複数のミスト回収部のそれぞれにおいて、保持部は十分な容量をもって液体を保持することができ、ミストが液化した液体が垂れ落ちることが抑制される。
【0060】
また本実施形態の構成を別の観点で一般化すると、複数の吐出ヘッドはインクを吐出するインク吐出ヘッドとインクに反応する反応液を吐出する反応液吐出ヘッドを含み、媒体の移動方向における最上流と最下流の少なくとも一方には反応液吐出ヘッドが配置される。そして、反応液吐出ヘッドの上流側と下流側にそれぞれ隣り合って、筐体の底部に空気の吹出孔と空気の吸込孔とを備えたミスト回収ユニットが設けられている。この構成により、反応液のミストを発生直後に効率よく回収するので周囲への反応液ミストの付着が抑制される。反応液ミストがインクミストと混ざり合うと強固な汚れとして固着しやすい。本構成のように反応液吐出ヘッドの上下流をシールドするようにミスト回収することで、反応液吐出ヘッドから隣接するインク吐出ヘッドにミストが流れることが抑制され、ヘッド吐出口付近に強固な汚れが固着することが抑制される。
【0061】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態を示す断面図であり、(a)は第1のミスト回収ユニット500、(b)は第2のミスト回収ユニット600、(c)は第3のミスト回収ユニット700をそれぞれ示している。第1、第2、第3のミスト回収ユニット500、600、700の廃液保持部(保持部)42、62、72には、それぞれインク吸収体である多孔質体201、202、203が収納されている。これにより、廃液保持部42、62、72内の廃液は、多孔質体に吸収・保持されるため、吸込孔40、60、70への廃液の漏出は抑制される。また、本実施形態によれば、多孔質体の体積によって、保持可能な廃液量が決定される。このため、ミスト回収部の配置位置に関わりなく多孔質体の体積に応じた一定量の廃液を保持することが可能になる。なお、多孔質体を配置する範囲を、第1の圧力均一化部材45、第5の圧力均一化部材65、第7の圧力均一化部材75に接する位置まで延長してもよい。さらに、多孔質体は流体の抵抗要素として作用するため、これを設けることにより、吹出気流および吸込気流の流量分布をより均一化することが可能になる。
【0062】
(第3の実施形態)
図10は、第1のミスト回収ユニット500と転写体の位置関係を示す断面図である。転写体101の回転中心を通る垂直線VLに対し、転写体101とミスト回収部20、28それぞれの中心線L1と、垂直線VLとのなす角度をθとする。また、転写体101の回転中心を通る垂直線VLを基準として転写体101の回転方向とは逆方向を上流側、順方向を下流側とし、上流側に位置する中心線L1と垂直線VLとのなす角度を正の角度とする。さらに、下流側に位置する中心線L1と垂直線VLとのなす角度を負の角度とする。また、ミスト回収部内部の廃液保持部42を画成する側壁部42aの下端部から上端部までの長さをHとする。なお、側壁部42aは、第1のミスト回収ユニット500の底壁502と直交する方向に延出しているものとする。ここで、角度θの絶対値が大きくなるにつれて側壁部の長さHを長くすることにより、廃液保持部42の内部に保持可能な廃液量を多くすることが可能となる。あるいは、−θの絶対値が大きくなると、Hを長くすることにより廃液保持部内部に保持可能なミスト量を多くすることが可能となる。すなわち、θとHの関係は、αを保持体積に関連する係数とする場合、
= α × tan |θ| (式1)
と表すことができる。
【0063】
なお、図10では第1のミスト回収ユニット500について示したが、第2、第3のミスト回収ユニット600、700についても同様である。すなわち、廃液保持部62、72の底壁602、702と直交する方向に延出する側壁部67a、67b(図4(a)、(b)参照)の長さを、角度に応じて変化させるようにしてもよい。これによれば、廃液保持部のミスト保持量を適正化することが可能である。
【0064】
(第4の実施形態)
図11は、ミスト回収部20に第1のミスト回収ユニット500を適用した例を示す断面図であり、第1のミスト回収ユニット500と、転写体101と、吐出ヘッド10との位置関係を示している。ミスト回収部20の上流側に位置する吐出ヘッド10の中心と転写体101の回転中心とを結ぶ直線(中心線)L1と、ミスト回収部20の吸込孔40の中心と転写体101の回転中心とを結ぶ直線L2とのなす角度をθ1とする。吐出ヘッド10から生じたミストがプリント装置の内部機構へ拡散する前にミストを回収するためには、θ1をなるべく小さくすることが望ましい。つまり、吐出ヘッド10の中心とミスト回収部20の吸込孔40の中心とをなるべく接近させることが望ましい。θ1は、第1のミスト回収ユニット500を配置する位置、例えば、第2、第3の実施形態で述べたように、
上流側のθ1>下流側のθ1 (式2)
とすることにより、より多くの廃液を廃液保持部42に保持することが可能になる。また、ミスト回収部20に設定すべき廃液の保持量は、廃液保持部42からのミスト排出方法によって決定される。例えば、廃液排出孔41から常に廃液を排出する排出方法においては、廃液保持部42の液体保持容積を小さくしてθ1を小さくすることができる。また、廃液排出孔41からの廃液の排出を間欠的に行う排出方法においては、排出動作と排出動作との間にミストなどからなる廃液が廃液保持部42に溜められるため、廃液保持部42の液体保持容積をある程度確保する必要がある。すなわちθ1の角度をある程度の大きさにする必要がある。ここでは第1のミスト回収ユニット500について述べたが、第2、第3のミスト回収ユニット600、700についても、それらの配置位置、および廃液の排出方法などに応じて、適宜、角度θ1を定めればよい。
【0065】
(他の実施形態)
以上説明した各実施形態において、第1、第2、第3のミスト回収ユニット500、600、700の廃液保持部42、62、72の液体保持容積を、各ミスト回収ユニットに隣接して配置された吐出ヘッドから吐出される液体の種類によって設定してもよい。例えば、前処理液吐出ヘッドまたは後処理液吐出ヘッドの前後、あるいはミストが多く生じる吐出ヘッドの前後に配置するミスト回収ユニットは、他のインク吐出ヘッドの間に設けられるミスト回収ユニットよりも、廃液保持部の体積を大きくする。これによれば、廃液が空気吸孔から流れ落ちを抑制することが可能になる。
【0066】
上記実施形態では、円筒形状をなす転写体101の周面に形成された画像をシートSに転写してプリントするプリント装置について説明した。しかし、本発明は、円筒ドラム状の転写体を用いるものに限定されない。例えば、ベルトのような回転転写体に画像を形成する転写方式や、移動するシート(プリント媒体)に対してインクを付与して直接画像を形成する直描方式のプリント装置などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 前処理液吐出ヘッド(反応液吐出ヘッド)
11〜17 インク吐出ヘッド
18 後処理液吐出ヘッド(反応液吐出ヘッド)
19〜28 ミスト回収部
40、60、70 吸込孔
42、62、72 廃液保持部(保持部)
56、86 吹出孔
101 転写体(中間)
500、600、700 第1、第2、第3のミスト回収ユニット
501、601、701 筐体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11