特許第6800627号(P6800627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800627ガラスの製造方法、レンズの製造方法および溶融装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800627
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ガラスの製造方法、レンズの製造方法および溶融装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/02 20060101AFI20201207BHJP
   F27B 14/04 20060101ALI20201207BHJP
   F27B 14/08 20060101ALI20201207BHJP
   F27D 11/12 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C03B19/02 Z
   F27B14/04
   F27B14/08
   !F27D11/12
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-122980(P2016-122980)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-7934(P2017-7934A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-125151(P2015-125151)
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】江口 真悟
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−023110(JP,A)
【文献】 特開平08−012353(JP,A)
【文献】 特開平11−116252(JP,A)
【文献】 特開2002−201032(JP,A)
【文献】 米国特許第05762673(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 7/00−7/22
9/00−17/06
19/00−19/10
21/00−21/06
F27B 11/00−15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガス流路を有する溶融炉を用いて、ガラスを生成するための原料を前記ガス流路より噴出するガスにより前記溶融炉から浮上させた状態で、前記原料を加熱して溶融した後に、冷却することによりガラスを生成するガラスの製造方法であって、
前記溶融炉は、凹部を有し、
前記溶融炉は、前記凹部に鉛直方向へ向けてガスを噴出するための単数又は複数の第1のガス流路を有し、
前記溶融炉は、前記凹部に前記溶融炉の中心軸方向へ向けてガスを噴出するための複数の第2のガス流路を有し、
前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸を中心とする複数の円の円周上に設けられ、前記複数の円は各々、前記凹部の中心からの距離が異なる高さに設けられており、
前記溶融炉の第1のガス流路から出るガスと、前記溶融炉の第2のガス流路から出るガスとで前記原料が浮上している状態で、前記原料を加熱して溶融し、
溶融している原料を冷却してガラスを生成する
ことを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項2】
前記溶融炉から前記原料が浮上している状態で、前記原料を上方の高さから見て円運動させながら加熱して溶融することを特徴とする請求項1に記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
前記溶融炉から前記原料が浮上している状態で、前記原料を上方の高さから見て回転および円運動させながら加熱して溶融することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸に対して対向して設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸とのなす角が45°以上90°以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第1のガス流路から出るガスの流量と前記第2のガス流路から出るガスの流量をそれぞれ個別に制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のガラスの製造方法でガラスを製造する工程と、前記ガラスを成形してレンズを製造する工程と、を有することを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項8】
無容器溶融法に用いる溶融装置であって、
凹部を有し、前記凹部に、原料を浮上させる複数のガス流路を有する溶融炉と、前記原料を加熱するための加熱手段と、
前記複数のガス流路からガスを噴出させるために、前記溶融炉に前記ガスを供給するガス供給手段と、を有し、
前記溶融炉は、前記溶融炉の鉛直方向に向かう単数又は複数の第1のガス流路と、前記溶融炉の中心軸方向に向かう複数の第2のガス流路を有し、
記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸を中心とする複数の円の円周上に設けられ、前記複数の円は各々、前記凹部の中心からの距離が異なる高さに設けられていることを特徴とする溶融装置。
【請求項9】
前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸に対して対向して設けられていることを特徴とする請求項に記載の溶融装置。
【請求項10】
前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸とのなす角が45°以上90°以下であることを特徴とする請求項又はに記載の溶融装置。
【請求項11】
前記第1のガス流路に導入するガス流量を制御する単数または複数の第一のガス流量制御手段と、前記第2のガス流路に導入するガス流量を制御する単数または複数の第二のガス流量制御手段とを備えることを特徴とする請求項乃至10のいずれか一項に記載の溶融装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無容器溶融法を用いたガラス材料の製造方法およびレンズの製造方法に関する。また、本発明は、溶融装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無容器溶融法は、容器を用いずに材料を溶融、固化させる製造方法であり、固液界面における核生成を避けられることから、従来の容器を用いた製造方法ではガラス化させることができなかった材料も一部ガラスとすることが可能である。しがって、従来実現できなかった新たな特性を有するガラス材料の製法として期待されている。
【0003】
無容器溶融法においては、原材料を空中に浮遊させることで周囲と非接触状態を維持するが、その浮遊の方法として静電浮遊方式、音波浮遊方式、電磁浮遊方式、ガス浮遊方式などが挙げられる。これらのうち、ガス浮遊方式は煩雑な設備を必要とせず比較的安定して非接触状態を作り出すことができる方式として有望である。
【0004】
ガス浮遊方式は加熱手段により溶融され粘性体となった材料をガス流の力で型上に浮遊させる手法であり、材料の浮上挙動の制御が重要な課題となる。特に容積が大きいガラスを作製する場合、この制御はより困難なものとなる。このような課題に対し、特許文献1は、垂直方向に複数のガス噴出孔を有する型を用いて無容器溶融法によるガラスの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−141389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のガラスの製造方法は、より大きなガラスを作製しようとする際、浮上しているガラス原料と型との接触を起こしやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラスの製造方法は、複数のガス流路を有する溶融炉を用いて、ガラスを生成するための原料を前記ガス流路より噴出するガスにより前記溶融炉から浮上させた状態で、前記原料を加熱して溶融した後に、冷却することによりガラスを生成するガラスの製造方法であって、前記溶融炉は、凹部を有し、前記溶融炉は、前記凹部に鉛直方向へ向けてガスを噴出するための単数又は複数の第1のガス流路を有し、前記溶融炉は、前記凹部に前記溶融炉の中心軸方向へ向けてガスを噴出するための複数の第2のガス流路を有し、前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸を中心とする複数の円の円周上に設けられ、前記複数の円は各々、前記凹部の中心からの距離が異なる高さに設けられており、前記溶融炉の第1のガス流路から出るガスと、前記溶融炉の第2のガス流路から出るガスとで前記原料が浮上している状態で、前記原料を加熱して溶融し、溶融している原料を冷却してガラスを生成することを特徴とする。
【0008】
本発明のレンズの製造方法は、上記のガラスの製造方法でガラスを製造し、前記ガラスを成形してレンズを製造することを特徴とする。
【0009】
本発明の溶融装置は、無容器溶融法に用いる溶融装置であって、凹部を有し、前記凹部に、原料を浮上させる複数のガス流路を有する溶融炉と、前記原料を加熱するための加熱手段と、前記複数のガス流路からガスを噴出させるために、前記溶融炉に前記ガスを供給するガス供給手段と、を有し、前記溶融炉は、前記溶融炉の鉛直方向に向かう単数又は複数の第1のガス流路と、前記溶融炉の中心軸方向に向かう複数の第2のガス流路を有し、前記第2のガス流路は、前記溶融炉の中心軸を中心とする複数の円の円周上に設けられ、前記複数の円は各々、前記凹部の中心からの距離が異なる高さに設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無容器溶融法において径の大きいガラス材料を作製する際、浮上中の溶融されたガラス原料と型との接触頻度を低減することができる。即ち、無容器溶融法のような非接触溶融方法でのみガラス化可能となる組成において、大きなガラスを高い確率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態において用いる製造装置を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態において用いる溶融炉の断面図である。
図3】本発明の一実施形態において用いる溶融炉の平面図である。
図4】本発明の実施例1における浮上中のガラス原料塊を示す模式図である。
図5】実施例1で用いた溶融炉を示す図である。
図6】実施例2で用いた溶融炉を示す図である。
図7】比較例1で用いた溶融炉を示す図である。
図8】比較例2で用いた溶融炉を示す図である。
図9】実施例3で用いた製造装置を示す模式図である。
図10】実施例3で用いた溶融炉の平面図である。
図11】実施例3で用いた溶融炉の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
(溶融装置)
図1は、本発明の一実施形態において用いる溶融装置の模式図である。溶融装置9は、ガラス原料を浮上させる溶融炉2と、溶融炉2を設置するステージ3とを備えている。ステージ3にはガスボンベなどの浮上ガス供給源5からガスが導入され、溶融炉2に設けられたガス噴出口から浮上ガスを噴出できる。ステージ3と浮上ガス供給源5との間のガス配管上に設けた浮上ガス流量制御手段4により浮上ガスの流量を制御することができる。また、溶融炉2上に置いたガラス原料塊1を溶融するための溶融手段6を備えており、溶融炉2から浮上させて溶融中の原料の挙動を観察するためのカメラ8を備えている。
【0014】
本実施形態においては、加熱手段6として炭酸ガスレーザーを用いており、反射ミラー7を介してガラス原料1にレーザーを照射して加熱を行う。照射位置は反射ミラー7の位置や角度などにより調整することができる。加熱手段として輻射加熱などを用いてもよい。
【0015】
溶融装置は、ガラスを製造するガラス製造装置として好適に用いることができる。
【0016】
(溶融炉)
本発明の一実施形態で用いた溶融炉2の断面図及び平面図を図2図3にそれぞれ示す。溶融炉2の材質は特に限定されず、ガラス原料溶融時に受ける熱に耐えうることができればよい。例えば、ステンレス、アルミニウム、カーボン、窒化珪素、炭化ケイ素、窒化アルミなどで作製することが好ましい。
【0017】
溶融炉2の中央部にはガラス原料塊1を収容するための凹部13が設けられている。凹部13の形状は図2図3に示すように内壁が曲率をもつように凹形状となっており、その曲率は単一の曲率半径でもよいし、複数の曲率半径の組み合わせでもよい。凹部13には図2に示すように、凹部13の中心部に、鉛直方向へ向けてガスを噴出するための単数又は複数のガス流路(第1のガス流路)10が設けられている。鉛直方向とは、厳密に鉛直である方向だけでなく、鉛直方向から±5度の範囲も含む。
【0018】
凹部13の周辺部に、中心軸(図2の点線)方向へ向けてガスを噴出するための複数のガス流路(第2のガス流路)11が設けられている。ステージ3を通してガス導入口12より図2中の矢印の方向にガスを導入することにより、鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路10及び中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11よりガスが噴出する。鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路10及び中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11は、溶融炉2の中心Cに対して対称になるように配置されていることが好ましい。中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11は、溶融炉2の中心軸に対して対向して設けられていることが好ましい。
【0019】
第1のガス流路及び第2のガス流路より噴出するガス流量を個別に制御する場合、溶融炉2内には隔壁等を設けることによりガスの経路を分岐し、それぞれのガス経路に対応した浮上ガス流量制御手段4を設ける必要がある。第1のガス流路及び第2のガス流路はそれぞれさらに複数系統に分岐し、分岐したガス流路群を個別に制御することも可能である。
【0020】
(ガラスの製造方法)
本実施形態では、例えば網目形成酸化物の含有量が少なく、容器を用いた溶融方法ではガラスとして得られない組成を有するガラス材料の製造方法について説明する。例えば、ホウ素−ランタン−ニオブ系ガラス材などであり、ホウ素の比率が40cat%以下であるような組成である。
【0021】
所望の組成となるよう混合したガラス原料粉末を用いてガラス原料塊1を準備する。ガラス原料塊1の形態は原料粉末をプレス成形した圧粉体や焼結させた焼結体、あるいはレーザー照射や溶解炉を用いて一度溶解させ結晶化させた多結晶体などでもよい。
【0022】
作製したガラス原料塊1を溶融炉2の凹部13内に設置し、ガス流量制御手段4を用いて所定の流量の浮上ガスを溶融炉2に設けられたガス流路より噴出する。浮上ガスの種類は特に限定されない。浮上ガスは、空気や酸素、あるいは窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0023】
浮上ガスの噴出後に加熱手段6によりガラス原料塊1を加熱溶融する。ここで、浮上ガスの噴出とガラス原料塊1の加熱はどちらか一方が先でもよいし、同時でもよい。噴出ガスの流量は、溶融して表面張力により球状又は碁石状になったガラス原料が溶融炉2の底面から離れるために十分な値となるように、浮上ガス流量制御手段4により調整する。
【0024】
図4に示した一実施形態における浮上中のガラス原料塊の挙動を示す模式図を用いて、本発明におけるガラス原料塊の浮上挙動について以下に説明する。ガス流路10からの鉛直方向のガス流により溶融炉の底面から離れたガラス原料は、わずかなガスの揺らぎによる摩擦力を受けて鉛直方向を回転軸として回転を始める。その後ガラスの回転に引きつられて回転系の空気流れが発生してそのまま自転状態を維持する。
【0025】
ガラス融液周囲に流れるガスの流れが乱れると、ガラス融液は水平方向に変位し溶融炉の内壁へと近づく。ここで仮に矢印14の方向に自転しているとすると、自転するガラス融液は近づいた内壁から吹き付けるガス流を受け、マグヌス効果により矢印15の方向の力を受ける。同時に近接する溶融炉の内壁の反対側では、鉛直方向から吹き上げるガス流により低圧状態となり、ガラス中心に向かう矢印16の方向へガラス融液を押し戻す力が働く。これらの二つの力が作用することにより、ガラス原料は矢印17の方向へ、上方の高さ方向から見て円運動を開始する。このとき、円運動による遠心力と中心へ戻す力がつり合うようにガラス融液と溶融炉の型内壁との距離が一定に保たれるため、非接触状態を得ることができる。
【0026】
一定距離を保つためには鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路10及び中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11からのガス流量分布は型中心に対してある程度対称性をもつことが必要となる。
【0027】
本発明のガラスの製造製法において、ガス流路10から鉛直方向に向かうガスと、ガス流路11から中心軸方向に向かうガスとのガラス原料に対する働きは異なっている。これらの浮上ガス流量に関する検討を重ねた結果、以下のようなことが解った。ガス流路10から鉛直方向に向かうガス流量は低すぎると浮上力が足りずにガラス原料が溶融炉底面に接触し易くなる。鉛直方法に向かうガス流量が高すぎると、水平方向の揺らぎが大きくなりガラス原料が溶融炉壁面と接触したり、溶融軟化したガラス原料にガスが巻き込まれたりといったことが生じる。また、ガス流路11から中心軸方向に向かうガス流量は、低すぎるとガラス原料が円運動を起こすことなく溶融炉壁面に接触し、高すぎると浮上ガス鉛直方向のガス流と同様に溶融軟化したガラス原料にガスが巻き込まれるといったことがある。このように、ガラス原料を安定的に浮上させるために必要となるガス流量は鉛直方向のガス流と中心軸方向のガス流とで異なり、ガラス原料の物性、大きさや溶融炉の形状に応じてそれぞれ調整する必要がある。そのため、これらの流路は個別で制御することが好ましい。
【0028】
円運動状態のガラス融液が加熱手段による加熱により完全に溶融した後、加熱を止めると溶融した原料が固化しガラスが得られる。ガラス原料は加熱初期には、内部に未溶解部分が存在するため、円運動が開始されても完全に溶融するまで加熱を継続する必要がある。そのためレーザーを用いて加熱溶融する場合、レーザーの照射位置はガラス融液の円運動の軌道上に位置しなければならない。
【0029】
(レンズの製造方法)
上記のガラスの製造方法で得られたガラスを、ガラスモールド成形等の公知の成形方法により成形することによりレンズを製造することができる。
【0030】
以下に、本発明について、具体的な実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
実施例1では、構成されるカチオン成分の比率がB3+が30cat%、La+3が60cat%、Nb5+が5cat%、Ti4+が5cat%となるように酸化物原料を秤量、混合して原料とした。混合した原料粉をCIP成形により棒状に成形し、成形体を1400℃で熱処理した。熱処理後の成形体を切断し、質量0.4gのガラス原料塊を得た。
【0032】
このガラス原料塊1を図1に示すような溶融装置により溶融した。加熱手段6として100Wの二酸化炭素レーザーを2つ用いた。レーザーは反射ミラー7を用いて型中心に照射されるように調整した。溶融炉2は材質がアルミであり、ガラス原料塊1を収容するための凹部13を要している。
【0033】
実施例1で用いた溶融炉2の形状を図5に示す。図5(a)は溶融炉2を上から見た平面図であり、図5(b)は横方向から見た断面図である。凹部13は底面が半径5.6mm、外周部が半径3.0mmとなるように湾曲しており、その内径は8mmである。凹部13には、鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第1のガス流路)10と中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第2のガス流路)11が設けられている。ガス流路はいずれも直径0.3mmであり、鉛直方向に41個、壁面に60個設けられている。鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第1のガス流路)10は型の中心に1個、型中心を中心として直径2mmの円周上の等間隔に8個、同じく直径3.5mmの円周上に等間隔に16個、同じく直径5mmの円周上に等間隔に16個設けられている。中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第2のガス流路)11は、型底面中心より1.1mm、1.8mm、2.5mmの高さ位置に、型中心軸に対してそれぞれ60度、75度、90度の向きに設けられている。それぞれ型中心を中心軸とした円周上に等間隔に20個ずつ設けられている。
【0034】
ガラス原料塊1を溶融炉2の収容部の略中心に設置させ、3.0l/minの流量の酸素を浮上ガス導入口12より導入し、各噴出口より酸素を噴出させた。次に二酸化炭素レーザーによりガラス原料塊1の加熱溶融を行った。ガラス原料塊1は溶融が進行するとともに表面張力により球に近い形状となるとともに、底面からの噴出ガスにより浮上する。ガラス原料塊1は浮上して間もなく円運動状態になり、その後15秒加熱を継続した後に、レーザーを停止、冷却させた。その結果、直径5.4mmのガラスが得られた。
【0035】
同量のガラス原料塊1にて、同様の工程を繰り返し10回行った結果、9回は同様に原料融液と型が非接触のまま冷却でき、ガラスとして得られたが、1回は回転および円運動中に融液と型が接触したため結晶化した。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様のガラス原料塊1、溶融装置9を用いてガラスの作製を行った。ガラス原料塊1は0.47gとなるよう調整した。溶融炉2は材質が実施例1と同様にアルミであり、凹部13は底面が半径6.6mm、外周部が半径3.0mmとなるように湾曲しており、その内径は10mmである。実施例2で用いた溶融炉2の形状を図6に示す。図6(a)は溶融炉2を上から見た平面図であり、図6(b)は横方向から見た断面図である。凹部13には、実施例1と同様に、鉛直方向及び中心方向のガス流路が設けられている。ガス流路はいずれも直径0.3mmであり、鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路10が41個、中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11が90個設けられている。鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路10は型の中心に1個、型中心を中心として直径2mmの円周上の等間隔に8個、同じく直径3.5mmの円周上に等間隔に16個、同じく直径5mmの円周上に等間隔に16個設けられている。中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路11は型底面中心より0.9mm、1.6mm、2.5mmの高さ位置に、型中心軸に対してそれぞれ49度、69度、90度の向きに設けられている。それぞれ型中心を中心軸とした円周上に等間隔に30個ずつ設けられている。
【0037】
ガラス原料塊1を溶融炉2の凹部13の略中心に設置させ、8.0l/minの流量の酸素を浮上ガス導入口12より導入し、各流路より酸素を噴出させた。次に二酸化炭素レーザーによりガラス原料塊1の加熱溶融を行った。ガラス原料塊1は溶融が進行するとともに表面張力により球に近い形状となるとともに、底面からの噴出ガスにより浮上する。浮上して間もなく回転および円運動状態になり、その後15秒加熱を継続した後に、レーザーを停止、冷却させた。その結果、直径5.6mmのガラスが得られた。
【0038】
同量のガラス原料塊1にて、同様の工程を繰り返し10回行った結果、8回は同様に原料融液と型が非接触のまま冷却でき、ガラスとして得られたが、2回は自公転浮上中に融液と型が接触したため結晶化した。
【0039】
(実施例3)
実施例1と同じガラス原料塊1を用いてガラスの作製を行った。ガラス原料塊1は0.66gとなるように調整した。ガラス原料塊1を図9に示すような溶融装置により溶融した。加熱手段6として200Wの二酸化炭素レーザーを1つ用いた。レーザーは反射ミラー7を用いて型中心に照射されるように調整した。実施例3で用いた溶融炉2の形状を図10図11に示す。図10は溶融炉2を上から見た平面図であり、図11は横方向から見た断面図である。溶融炉2は材質が実施例1と同様にアルミであり、凹部13は底面が半径6.6mm、外周部が半径3.0mmとなるように湾曲しており、その内径は10mmである。凹部13には、実施例1と同様に鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第1のガス流路)10と中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第2のガス流路)11が設けられている。ガス流路はいずれも直径0.3mmであり、第1のガス流路10が71個、第2のガス流路11が120個設けられている。第1のガス流路10は型の中心に1個、型中心を中心として直径1mmの円周上の等間隔に6個、同様に直径2mm、3mm、4mm、5mmの円周上に等間隔にそれぞれ8個、16個、16個、24個設けられている。第2のガス流路11は、型底面中心より0.9mm、1.4mm、2.2mm、3.0mmの高さ位置に、型中心軸に対してそれぞれ42.5度、58.2度、75.6度、90度の向きに設けられている。それらは、溶融炉の中心を中心軸とした円周上に等間隔にそれぞれ30個ずつ設けられている。図11に示すように、溶融炉2には第1のガス流路と第2のガス流路を分岐するための隔壁18が設けられており、ステージ3に形成した2つの浮上ガス導入路19を介して浮上ガスが導入した。各々の流路を通る浮上ガスの流量は流量調整手段4として用いた2つのマスフローコントローラにより、個別で制御した。
【0040】
ガラス原料塊1を溶融炉2の凹部13の略中心に設置させ、第1のガス流路には2.0l/min、第2のガス流路には4.0l/minの流量の酸素を導入し、各噴出口より酸素を噴出させた。次に二酸化炭素レーザーによりガラス原料塊1の加熱溶融を行った。ガラス原料塊1は溶融が進行するとともに表面張力により球に近い形状となるとともに、底面からの噴出ガスにより浮上する。浮上して間もなく回転および円運動状態になり、その後15秒加熱を継続した後に、レーザーを停止、冷却させた。その結果、直径6.7mmのガラスが得られた。
【0041】
同量のガラス原料塊1にて、同様の工程を繰り返し10回行った結果、9回は同様に原料融液と型が非接触のまま冷却でき、ガラスとして得られたが、1回は自公転浮上中に融液と型が接触したため結晶化した。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様のガラス原料塊1、溶融装置を用いてガラスの作製を行った。ガラス原料塊1は0.38gとなるよう調整した。用いた溶融炉2は、実施例1で用いた溶融炉2と材質、凹部13の形状、流路の口径、鉛直方向のガス流路10の配置は同一であるが、中心方向のガス流路11を有していない。比較例1で用いた溶融炉2の形状を図7に示す。図7(a)は溶融炉2を上から見た平面図であり、図7(b)は横方向から見た断面図である。
【0043】
ガラス原料塊1を溶融炉2の凹部13の略中心に設置させ、1.9l/minの流量の酸素を浮上ガス導入口12より導入し、各ガス流路より酸素を噴出させた。次に二酸化炭素レーザーによりガラス原料塊1の加熱溶融を行った。ガラス原料塊1は溶融が進行するとともに表面張力により球に近い形状となるとともに、底面からの噴出ガスにより浮上した。浮上したガラス融液は5秒ほど微小振動しながらも型との非接触状態を維持していたが、その後大きく揺れて型と接触した。接触した融液はその後も型から離れず、レーザーを停止すると結晶体となっていた。結晶体は直径が5.3mmであった。
【0044】
同量の原料塊にて、同様の工程を繰り返し10回行ったが、10回ともガラス原料1と溶融炉が接触したためガラスが得られなかった。
【0045】
(比較例2)
実施例1と同様のガラス原料塊1、溶融装置を用いてガラスの作製を行った。ガラス原料塊1は0.40gとなるよう調整した。用いた溶融炉2は、実施例1で用いた溶融炉2と材質、凹部13の形状、ガス流路の口径は同一ある。
【0046】
比較例2で用いた溶融炉2の形状を図8に示す。図8(a)は溶融炉2を上から見た平面図であり、図8(b)は横方向から見た断面図である。凹部13には鉛直方向のガス流路10が113個設けられており、中心方向のガス流路11は設けられていない。鉛直方向のガス流路10は、型の中心に1個設けられている。また、型中心を中心として直径1mmの円周上の等間隔に6個、同じく直径2mmの円周上に等間隔に10個、同じく直径3mm、4mmの円周上に等間隔に16個ずつ、同じく直径5mm、6mmの円周上に等間隔に32個ずつ設けられている。
【0047】
ガラス原料塊1を溶融炉2の凹部13の略中心に設置させ、4.0l/minの流量の酸素を浮上ガス導入口12より導入し、各ガス流路より酸素を噴出させた。次に二酸化炭素レーザーによりガラス原料塊1の加熱溶融を行った。ガラス原料塊1は溶融が進行するとともに表面張力により球に近い形状となるとともに、底面からの噴出ガスにより浮上した。浮上したガラス原料1は5秒ほど微小振動しながらも型との非接触状態を維持していたが、その後大きく揺れて型と接触した。ガラス原料1はその後も型から離れず、レーザーを停止すると結晶体となっていた。結晶体は直径が5.4mmであった。
【0048】
同じガラス原料塊1にて、同様の工程を繰り返し10回行ったが、10回ともガラス原料1と溶融炉2が接触したためガラスが得られなかった。
【0049】
(評価)
実施例1、2及び3では、複数の鉛直方向のガス流路10と複数の中心軸方向のガス流路11を有する溶融炉2を用いて無容器溶融法によりガラスを製造することで、高い確率で直径が5.0mm以上のガラスを製造することができた。溶融炉の中心軸に向かう前記第2のガス流路は、溶融炉の中心軸とのなす角が45°以上90°以下であるときにガラスを高い確率で得られることが解った。また、鉛直方向のガス流路と中心軸方向のガス流路から噴出するガス流量を個別に制御することにより、より大きなガラスを製造することができた。
【0050】
比較例1および2では、複数の鉛直方向のガス流路10だけを有して、中心軸方向のガス流路11を有さない溶融炉2を用いると、ガラス原料1と溶融炉2が接触しやすく直径が5.0mm以上のガラスを製造することが困難であることが解った。
【符号の説明】
【0051】
1 ガラス原料(塊)
2 溶融炉
4 浮上ガス流量制御手段
5 浮上ガス供給源
6 加熱手段
7 反射ミラー
10 鉛直方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第1のガス流路)
11 中心軸方向へ向けてガスを噴出するためのガス流路(第2のガス流路)
12 浮上ガス導入口
13 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11