(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記厚肉部分は、前記複合材翼の翼頂側と翼根側とを結ぶ方向である翼長方向における前記翼根側、かつ、前記複合材翼の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向における中央部に設けられており、
前記薄肉部分は、前記翼根側の端部、及び、前記翼頂側に設けられており、前記翼頂側では、前記表層領域のみで構成される部分がそれ以外の部分よりも前記翼幅方向に広く形成されていることを特徴とする請求項3に記載の複合材翼。
前記複合材翼の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向と、前記複合材翼の翼頂側と翼根側とを結ぶ方向である翼長方向と、を含む面方向において、前記表層領域における複合材料層は、前記深層領域における複合材料層より、面積が大きいことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合材翼。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された複合材翼は、薄い複合材料層を大量に重ね合わせることで、輪郭度及び厚さの精度を確保している。また、特許文献1に記載された複合材翼は、場所に応じて複合材料層の積層枚数を変化させることで、翼厚方向の厚さの変化に対応している。しかしながら、薄い複合材料層を高い精度で準備する工程、薄い複合材料層を高い精度で大量に重ね合わせる工程、及び、場所に応じて高い精度で複合材料層の積層枚数を変化させる工程は、いずれも困難な工程であるため、特許文献1に記載された方法では、十分に複合材翼の輪郭度及び厚さの精度を確保することができないという問題があった。また、これらの工程は、いずれも困難な工程であるため、特許文献1に記載された方法では、複合材翼の製造の歩留まりが低くなり、その結果、複合材翼の製造のコストが高くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができ、かつ、製造のコストを低減できる複合材翼及び複合材翼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、複合材翼は、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層を積層して形成される複合材翼であって、前記複合材料層は、前記複合材翼の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に積層され、表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの表層領域と、前記表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い深層領域と、を含む厚肉部分を有し、前記表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、前記深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄いことを特徴とする。
【0007】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、複合材翼は、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層を積層して形成される複合材翼であって、前記複合材料層は、前記複合材翼の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に積層され、表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの表層領域と、前記表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い深層領域と、を含む厚肉部分を有し、前記表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、前記深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄いことを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、表層領域では比較的薄い複合材料層を用い、深層領域では比較的厚い複合材料層を用いるので、比較的薄い複合材料層により十分に輪郭度の精度を確保することができ、比較的厚い複合材料層により製造のコストを低減することができ、全体として、十分に厚さの精度を確保することができる。
【0009】
これらの構成において、前記複合材翼の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向と、前記複合材翼の翼頂側と翼根側とを結ぶ方向である翼長方向と、を含む面方向において、前記表層領域における複合材料層は、前記深層領域における複合材料層より、面積が大きいことが好ましい。この構成によれば、比較的薄い複合材料層を用いる表層領域で、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向におけるより広い範囲の輪郭度の精度を確保することができる。
【0010】
これらの構成において、前記厚肉部分よりも薄く、前記深層領域を含まない薄肉部分をさらに有することが好ましい。この構成によれば、比較的薄い複合材料層を用いる表層領域で、翼厚方向の厚さの薄い部分における厚さの精度を確保することができる。
【0011】
これらの構成において、前記背側の翼部分と、前記腹側の翼部分と、を有し、前記背側の翼部分と前記腹側の翼部分とが中立面において接合されており、前記背側の翼部分は、前記翼厚方向に、前記背側の表面から前記所定の深さまでの背側表層領域と、前記背側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い背側深層領域と、を含み、前記腹側の翼部分は、前記翼厚方向に、前記腹側の表面から前記所定の深さまでの腹側表層領域と、前記腹側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い腹側深層領域と、を含むことが好ましい。この構成によれば、背側及び腹側のそれぞれについて、比較的薄い複合材料層により十分に輪郭度の精度を確保することができ、比較的厚い複合材料層により製造のコストを低減することができ、全体として、十分に厚さの精度を確保することができる。
【0012】
背側の翼部分と腹側の翼部分とを有する構成において、前記複合材翼の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向における端部は、前記背側表層領域と前記腹側表層領域とにより構成されており、前記背側表層領域における複合材料層の翼幅方向における端部と、前記腹側表層領域における複合材料層の翼幅方向における端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられていることが好ましい。この構成によれば、複合材料層の積層に伴って中立面の近傍に生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の翼幅方向における端部により分断して、小さくすることができる。これにより、翼幅方向における端部における強度及び信頼性を向上させることができる。
【0013】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、複合材翼は、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層を積層して形成される複合材翼であって、前記複合材料層は、前記複合材翼の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に積層され、前記背側の表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの背側表層領域と、前記背側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い背側深層領域と、前記腹側の表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの腹側表層領域と、前記腹側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い腹側深層領域と、を有し、前記背側表層領域及び前記背側深層領域と、前記腹側表層領域及び前記腹側深層領域とが中立面において接合されており、前記複合材翼の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向における端部は、前記背側表層領域と前記腹側表層領域とにより構成されており、前記背側表層領域における複合材料層の翼幅方向における端部と、前記腹側表層領域における複合材料層の翼幅方向における端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、複合材料層の積層に伴って中立面の近傍に生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の端部により分断し、低減することができる。これにより、翼幅方向における端部における強度及び信頼性を向上させることができる。このため、形状が安定化するので、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができる。また、中立面に対して翼厚方向に対称に複合材料層を重ね合わせる必要がないので、製造のコストを低減することができる。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、複合材翼の製造方法は、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層を積層して複合材翼を製造する方法であって、前記複合材翼の背側の表面を成形する背側成形面を有する背側成形型に、前記背側の表面から前記複合材翼の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に、所定の深さまでの背側表層領域を構成する複合材料層を積層する背側表層領域積層ステップと、前記背側成形型に積層した背側表層領域を構成する複合材料層の上に、前記背側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い背側深層領域を構成する複合材料層を積層する背側深層領域積層ステップと、前記複合材翼の腹側の表面を成形する腹側成形面を有する腹側成形型に、前記腹側の表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの腹側表層領域を構成する複合材料層を積層する腹側表層領域積層ステップと、前記腹側成形型に積層した腹側表層領域を構成する複合材料層の上に、前記腹側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い腹側深層領域を構成する複合材料層を積層する腹側深層領域積層ステップと、前記背側成形型に積層した背側表層領域及び背側深層領域をそれぞれ構成する複合材料層と、前記腹側成形型に積層した腹側表層領域及び腹側深層領域をそれぞれ構成する複合材料層と、を中立面において重ね合わせて接合する接合ステップと、含み、前記背側表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、前記背側深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄く、前記腹側表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、前記腹側深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄いことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、複合材翼の製造方法は、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層を積層して複合材翼を製造する方法であって、前記複合材翼の背側の表面を成形する背側成形面を有する背側成形型に、前記背側の表面から前記複合材翼の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に、所定の深さまでの背側表層領域を構成する複合材料層を積層する背側表層領域積層ステップと、前記背側成形型に積層した背側表層領域を構成する複合材料層の上に、前記背側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い背側深層領域を構成する複合材料層を積層する背側深層領域積層ステップと、前記複合材翼の腹側の表面を成形する腹側成形面を有する腹側成形型に、前記腹側の表面から前記翼厚方向に所定の深さまでの腹側表層領域を構成する複合材料層を積層する腹側表層領域積層ステップと、前記腹側成形型に積層した腹側表層領域を構成する複合材料層の上に、前記腹側の表面から前記翼厚方向に前記所定の深さより深い腹側深層領域を構成する複合材料層を積層する腹側深層領域積層ステップと、前記背側成形型に積層した背側表層領域及び背側深層領域をそれぞれ構成する複合材料層と、前記腹側成形型に積層した腹側表層領域及び腹側深層領域をそれぞれ構成する複合材料層と、を中立面において重ね合わせて接合する接合ステップと、含み、前記背側表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、前記背側深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄く、前記腹側表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、前記腹側深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄いことを特徴とする。
【0017】
これらの構成によれば、背側及び腹側のそれぞれについて、表層領域では比較的薄い複合材料層を用い、深層領域では比較的厚い複合材料層を用いるので、比較的薄い複合材料層により十分に輪郭度の精度を確保することができ、比較的厚い複合材料層により製造のコストを低減することができ、全体として、十分に厚さの精度を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができ、かつ、製造のコストを低減できる複合材翼及び複合材翼の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る複合材翼10の概略平面図である。複合材翼10は、複合材料を含む。詳細には、複合材翼10は、複合材翼10の背側と腹側とを結ぶ方向である翼厚方向に、複合材料層を積層して形成されている。複合材翼10は、
図1に示すように、内部に、内部領域19を有する。内部領域19は、複合材翼10の軽量化のために、例えば、複合材料とは異なる材料、具体的には、発泡材料が用いられる領域である。複合材翼10は、内部領域19がある構成に限定されず、内部領域19がない構成であってもよい。
図1に示すL方向は、複合材翼10の翼頂側と翼根側とを結ぶ方向である翼長方向である。
図1に示すW方向は、複合材翼10の前縁側と後縁側とを結ぶ方向である翼幅方向である。
【0022】
複合材翼10に含まれる複合材料は、強化繊維と、強化繊維に含浸された樹脂と、を有する。この複合材料は、航空機、自動車及び船舶等に用いられる材料が例示される。強化繊維は、5μm以上7μm以下の基本繊維を数100本から数1000本程度束ねたものが例示される。強化繊維を構成する基本繊維は、ガラス繊維、カーボン繊維、及びアラミド繊維が好適なものとして例示される。強化繊維を構成する基本繊維は、これに限定されず、その他のプラスチック繊維又は金属繊維でもよい。なお、強化繊維は、
図1から
図4及び
図7では、図示が省略されているが、実際には、複合材翼10の内部で、細く、並んだ状態で配列されている。
【0023】
強化繊維に含浸される樹脂は、熱硬化性樹脂が好ましいが、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂が例示される。熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、及びポリフェニレンサルファイド(PPS)等が例示される。ただし、強化繊維に含浸される樹脂は、これに限定されず、その他の樹脂でもよい。
【0024】
強化繊維に含浸される樹脂が熱硬化性樹脂の場合、熱硬化性樹脂は、軟化状態と、硬化状態と、半硬化状態となることができる。軟化状態は、熱硬化性樹脂を熱硬化させる前の状態である。軟化状態は、自己支持性を有さない状態であり、支持体に支持されていない場合に形状を保持できない状態である。軟化状態は、加熱されて、熱硬化性樹脂が熱硬化反応をすることができる状態である。硬化状態は、熱硬化性樹脂を熱硬化させた後の状態である。硬化状態は、自己支持性を有する状態であり、支持体に支持されていない場合でも形状を保持できる状態である。硬化状態は、加熱されても、熱硬化樹脂が熱硬化反応をすることができない状態である。半硬化状態は、軟化状態と硬化状態との間の状態である。半硬化状態は、硬化状態よりも弱い程度の熱硬化を熱硬化性樹脂にさせた状態である。半硬化状態は、自己支持性を有する状態であり、支持体に支持されていない場合でも形状を保持できる状態である。半硬化状態は、加熱されて、熱硬化性樹脂が熱硬化反応をすることができる状態である。複合材翼10を形成する複合材料層は、熱硬化性樹脂が半硬化状態であるプリプレグであることが好ましい。
【0025】
複合材翼10を形成する複合材料層は、強化繊維の配向角度、すなわち、強化繊維の配列される方向の翼長方向に対する角度が異なるものが積層される。ここで、強化繊維の配向角度は、翼長方向を0度として、時計回りに+の方向となるように定義される。複合材翼10を形成する複合材料層は、具体的には、強化繊維の配向角度が0度、90度、+45度、−45度のものが、それぞれ適正な比率で積層されている。複合材翼10を形成する複合材料層は、強化繊維の配向角度に応じて各方向の弾性率が異なり、強化繊維の配向角度が0度のものが最も弾性率が高い。
【0026】
複合材翼10は、翼長方向を優先的に強化、すなわち0度方向の配向比率を高めることで、高い遠心力に対する耐性を向上させることができる。また、複合材翼10は、薄肉化することで、軽量化することができる。一方、複合材翼10は、長翼化かつ薄肉化する場合、曲げの固有振動数が低下してしまう。このため、複合材翼10は、風量を増加させ、且つ、軽量化するために、長翼化かつ薄肉化する場合、曲げ剛性の高い強化繊維の配向角度が0度の複合材料層の積層枚数を多くすることで、曲げの固有振動数の低下を抑制することができる。つまり、複合材翼10は、曲げ剛性の高い強化繊維の配向角度が0度の複合材料層の積層枚数を多くすることで、長翼化かつ薄肉化と、曲げの固有振動数の低下の抑制とを両立させることができる。
【0027】
図2は、第1の実施形態に係る複合材翼10の薄肉部分10aを含む断面における概略断面図である。
図2は、
図1におけるA−A断面図である。
図3は、第1の実施形態に係る複合材翼10の厚肉部分10bを含む断面における概略断面図である。
図3は、
図1におけるB−B断面図である。
図2及び
図3に示すT方向は、複合材翼10の翼厚方向である。薄肉部分10aは、
図2及び
図3に示すように、厚肉部分10bよりも、翼厚方向に薄い。
【0028】
複合材翼10は、
図2に示すように、薄肉部分10aを含む。薄肉部分10aは、背側表層領域12と、腹側表層領域14と、を有する。背側表層領域12は、翼厚方向に背側の表面から所定の深さまでの領域である。腹側表層領域14は、翼厚方向に腹側の表面から所定の深さまでの領域である。背側表層領域12及び腹側表層領域14は、いずれも、翼厚方向に表面から所定の深さまでの表層領域に含まれる。薄肉部分10aは、後述する深層領域、すなわち背側深層領域16及び腹側深層領域18を含まない。
【0029】
複合材翼10は、
図3に示すように、厚肉部分10bを含む。厚肉部分10bは、背側表層領域12と、腹側表層領域14と、背側深層領域16と、腹側深層領域18と、内部領域19と、を有する。背側深層領域16は、背側の表面から翼厚方向に所定の深さより深い領域である。腹側深層領域18は、腹側の表面から翼厚方向に所定の深さより深い領域である。背側深層領域16及び腹側深層領域18は、いずれも、表面から翼厚方向に所定の深さより深い表層領域に含まれる。
【0030】
複合材翼10は、
図2及び
図3に示すように、背側表層領域12と、腹側表層領域14と、背側深層領域16と、腹側深層領域18と、内部領域19と、を有する。背側表層領域12及び背側深層領域16は、いずれも、翼厚方向の中間に対して背側にある領域であり、背側の翼部分に含まれる。腹側表層領域14及び腹側深層領域18は、いずれも、翼厚方向の中間に対して腹側にある領域であり、腹側の翼部分に含まれる。すなわち、複合材翼10は、背側の翼部分と、腹側の翼部分と、を有する。複合材翼10は、背側の翼部分と腹側の翼部分とが中立面において接合されている。詳細には、複合材翼10は、背側の翼部分における背側深層領域16と、腹側の翼部分における腹側深層領域18とが、中立面において接合されている。
【0031】
複合材翼10は、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14が、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18より、面積が大きい。すなわち、複合材翼10は、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層が、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18における複合材料層より、面積が大きい。
【0032】
図4は、第1の実施形態に係る複合材翼10の端部の拡大断面図である。
図4は、
図2における領域Cの拡大図である。複合材翼10は、
図4に示すように、翼長方向に直交する面で切った断面において、翼幅方向における端部、すなわち複合材翼10の前縁側の端部及び後縁側の端部が、表層領域である背側表層領域12と腹側表層領域14とによって構成されている。複合材翼10は、翼幅方向における端部において、背側表層領域12における複数の複合材料層12sの端部と、腹側表層領域14における複数の複合材料層14sの端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられている。具体的には、複合材翼10は、翼幅方向における端部において、複合材料層12sの端部が複合材料層14sの面に接触している接触部分21と、複合材料層14sの端部が複合材料層12sの面に接触している接触部分22と、が交互に配列されている。
【0033】
複合材翼10は、翼幅方向における端部において接触部分21と接触部分22とが交互に配列されているので、複合材料層12sの端部と複合材料層14sの端部とが接触する場合と比較して、複合材料層の積層に伴って中立面近傍に生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の端部により分断して、小さくすることができる。これにより、複合材翼10は、翼幅方向における端部において強度及び信頼性が向上する。このため、複合材翼10は、形状が安定化するので、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができる。また、複合材翼10は、中立面に対して翼厚方向に対称に複合材料層を重ね合わせる必要がないので、製造のコストを低減することができる。
【0034】
図5は、第1の実施形態に係る複合材翼10を構成する複合材料層の厚さの範囲を説明する説明図である。複合材翼10は、複合材翼10を構成する複合材料層の厚さの範囲のパターン1では、
図5の(1)の欄に示すように、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲S1と、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲D1と、を有する。範囲S1の中央値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、範囲D1の中央値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄い。また、範囲S1の平均値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、範囲D1の平均値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄い。このため、パターン1では、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さは、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さよりも薄い傾向を有する。なお、パターン1では、範囲S1と範囲D1が重なりを有する。このため、パターン1では、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さと、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さとの間には、傾向が入れ替わっている箇所がある。例えば、パターン1では、表層領域における複合材料層のうち最も厚い層は、深層領域における複合材料層のうち最も薄い層よりも厚くなっている。
【0035】
複合材翼10は、複合材翼10を構成する複合材料層の厚さの範囲のパターン2では、
図5の(2)の欄に示すように、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲S2と、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲D2と、を有する。範囲S2の中央値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、範囲D2の中央値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄い。また、範囲S2の平均値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、範囲D2の平均値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄い。このため、パターン2では、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さは、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さよりも薄い傾向を有する。なお、パターン2では、範囲S2と範囲D2が特定の厚さのみで重なりを有する。このため、パターン2では、表層領域における複合材料層のうち最も厚い層は、深層領域における複合材料層のうち最も薄い層と同じ厚さとなっている。
【0036】
複合材翼10は、複合材翼10を構成する複合材料層の厚さの範囲のパターン3では、
図5の(3)の欄に示すように、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲S3と、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18における複合材料層の1層あたりの厚さの範囲D3と、を有する。範囲S3の中央値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値は、範囲D3の中央値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値よりも薄い。また、範囲S3の平均値、すなわち、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値は、範囲D3の平均値、すなわち、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの平均値よりも薄い。このため、パターン3では、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さは、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さよりも薄い傾向を有する。なお、パターン3では、範囲S3と範囲D3との間に一定の厚さの間隙を有する。このため、パターン3では、表層領域における複合材料層のうち最も厚い層であっても、深層領域における複合材料層のうち最も薄い層よりも薄くなっている。
【0037】
複合材翼10は、上記のいずれのパターンであっても、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの傾向が単調ではない。すなわち、複合材翼10は、表層領域において、翼厚方向にいくにつれて複合材料層が厚くなる箇所もあれば、複合材料層が薄くなる箇所もある。また、複合材翼10は、上記のいずれのパターンであっても、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの傾向が単調ではない。すなわち、複合材翼10は、深層領域において、翼厚方向にいくにつれて複合材料層が厚くなる箇所もあれば、複合材料層が薄くなる箇所もある。
【0038】
複合材翼は、積層される複合材料層の1層あたりの厚さが薄ければ薄いほど、輪郭の精度が良くなるが、複合材料層の積層枚数が多くなってしまうため、製造コストが上昇してしまう。一方、複合材翼は、積層される複合材料層の1層あたりの厚さが厚ければ厚いほど、複合材料層の積層枚数が少なくなるため、製造コストが低減できるが、輪郭の精度が悪くなってしまう。そこで、上記のように、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さが、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さよりも薄い傾向を有するという少ない拘束条件を課すことで、複合材翼10は、設計の自由度をほとんど落とすことなく、十分に輪郭度を確保することと、製造のコストを低減することとを両立して実現することができるものとなっている。また、複合材翼10は、全体として、十分に厚さの精度を確保することができるものとなっている。
【0039】
表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層は、強化繊維が、強化繊維を構成する繊維束を開いて幅広とした開繊系の織物であることが好ましい。この場合、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層は、強化繊維を構成する繊維束を薄くすることができるため、より高い精度で輪郭度を確保することができる。
【0040】
複合材翼10は、背側の翼部分を背側表層領域12と背側深層領域16との2つの領域に分けて、背側表層領域12に1層あたりの厚さが比較的薄い複合材料層を積層し、背側深層領域16に1層あたりの厚さが比較的厚い複合材料層を積層している。複合材翼10は、翼幅方向における翼根側の中央部において、背側表層領域12の全体の厚さが背側深層領域16の全体の厚さよりも薄い、すなわち背側表層領域12の全体の厚さと背側深層領域16の全体の厚さとの背側厚さ割合が1以下であることが好ましい。複合材翼10は、翼幅方向における翼根側の中央部において、この背側厚さ割合が0.5以下であることがより好ましく、0.33以下であることがより好ましい。この場合、複合材翼10は、背側の翼部分について、十分に輪郭度及び厚さの精度をより確実に確保することができ、かつ、製造のコストをより低減することができる。
【0041】
複合材翼10は、腹側の翼部分を腹側表層領域14と腹側深層領域18との2つの領域に分けて、腹側表層領域14に1層あたりの厚さが比較的薄い複合材料層を積層し、腹側深層領域18に1層あたりの厚さが比較的厚い複合材料層を積層している。複合材翼10は、翼幅方向における翼根側の中央部において、腹側表層領域14の全体の厚さが腹側深層領域18の全体の厚さよりも薄い、すなわち腹側表層領域14の全体の厚さと腹側深層領域18の全体の厚さとの腹側厚さ割合が1以下であることが好ましい。複合材翼10は、翼幅方向における翼根側の中央部において、この腹側厚さ割合が0.5以下であることがより好ましく、0.33以下であることがより好ましい。この場合、複合材翼10は、腹側の翼部分について、十分に輪郭度及び厚さの精度をより確実に確保することができ、かつ、製造のコストをより低減することができる。
【0042】
複合材翼10は、背側の翼部分を背側表層領域12と背側深層領域16との2つの領域に分けているが、これに限定されることなく、3つ以上の領域に分けてもよい。複合材翼10は、背側の翼部分を3つ以上の領域に分ける場合、背側の表面から翼厚方向に浅い方の層には1層あたりの厚さが比較的薄い複合材料層を積層し、背側の表面から翼厚方向に深い方の層に行くにつれて、1層あたりの厚さが次第に比較的厚い複合材料層を積層する。この場合、複合材翼10は、背側の翼部分について、輪郭度及び厚さの精度の確保と、製造のコストの低減とを、細かいレベルで調整することができる。
【0043】
複合材翼10は、腹側の翼部分を腹側表層領域14と腹側深層領域18との2つの領域に分けているが、これに限定されることなく、3つ以上の領域に分けてもよい。複合材翼10は、腹側の翼部分を3つ以上の領域に分ける場合、腹側の表面から翼厚方向に浅い方の層には1層あたりの厚さが比較的薄い複合材料層を積層し、腹側の表面から翼厚方向に深い方の層に行くにつれて、1層あたりの厚さが次第に比較的厚い複合材料層を積層する。この場合、複合材翼10は、腹側の翼部分について、輪郭度及び厚さの精度の確保と、製造のコストの低減とを、細かいレベルで調整することができる。
【0044】
図6は、第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法を示すフローチャートである。
図7は、第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法におけるフローの途中の状態を説明する説明図である。
図7は、
図2及び
図3と同様に、断面図である。
図6及び
図7を用いて、第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法を説明する。第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法は、第1の実施形態に係る複合材翼10を得る方法の一例である。複合材翼10の製造方法は、
図6に示すように、背側表層領域積層ステップ(ステップS12)と、背側深層領域積層ステップ(ステップS14)と、腹側表層領域積層ステップ(ステップS16)と、腹側深層領域積層ステップ(ステップS18)と、接合ステップ(ステップS20)と、を含む。
【0045】
まず、複合材翼10の背側の表面を成形する背側成形面32aと、背側成形面32aの周囲に設けられた平坦な背側型合わせ面32bと、を有する背側成形型32を準備する。背側成形型32を、背側成形面32aを鉛直方向上側に向けるように載置する。そして、背側成形型32の背側成形面32aに、背側表層領域12を構成する複合材料層を積層する(ステップS12)。
【0046】
次に、背側成形型32に積層した背側表層領域12を構成する複合材料層の上に、背側深層領域16を構成する複合材料層を積層する(ステップS14)。その後、背側成形型32に積層した背側深層領域16を構成する複合材料層の上に、内部領域19の背側部分を構成する発泡材料を積層して、中立面を形成する。
【0047】
また、複合材翼10の腹側の表面を成形する腹側成形面34aと、腹側成形面34aの周囲に設けられた平坦な腹側型合わせ面34bと、を有する腹側成形型34を準備する。腹側成形型34を、腹側成形面34aを鉛直方向上側に向けるように載置する。そして、腹側成形型34の腹側成形面34aに、腹側表層領域14を構成する複合材料層を積層する(ステップS16)。
【0048】
次に、腹側成形型34に積層した腹側表層領域14を構成する複合材料層の上に、腹側深層領域18を構成する複合材料層を積層する(ステップS18)。その後、腹側成形型34に積層した腹側深層領域18を構成する複合材料層の上に、内部領域19の腹側部分を構成する発泡材料を積層して、中立面を形成する。
【0049】
ここで、ステップS12からステップS18の順序は、ステップS12の後にステップS14が施され、ステップS16の後にステップS18が施されれば、適宜入れ替えることができる。例えば、ステップS12、ステップS16、ステップS14及びステップS18の順に施してもよいし、ステップS16、ステップS18、ステップS12及びステップS14の順に施してもよい。
【0050】
ステップS12からステップS18で積層される複合材料層は、いずれも、熱硬化性樹脂が、軟化状態または半硬化状態である。これらの複合材料層は、いずれも、熱硬化性樹脂が半硬化状態であるプリプレグであることが好ましい。
【0051】
第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法におけるステップS12及びステップS16は、翼幅方向における端部において、背側表層領域12における複数の複合材料層12sの端部と、腹側表層領域14における複数の複合材料層14sの端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられるように、複数の複合材料層12s及び複数の複合材料層14sをそれぞれ積層することが好ましい。具体的には、第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法におけるステップS12及びステップS16は、翼幅方向における端部において、複合材料層12sの端部が複合材料層14sの面に接触している接触部分21と、複合材料層14sの端部が複合材料層12sの面に接触している接触部分22と、が交互に配列されるように、複数の複合材料層12s及び複数の複合材料層14sをそれぞれ積層することが好ましい。
【0052】
ステップS12からステップS18が全て施された後、
図7に示すように、背側成形型32に積層した背側表層領域12及び背側深層領域16をそれぞれ構成する複合材料層、並びに、背側成形型32に積層した内部領域19の背側部分を構成する発泡材料と、腹側成形型34に積層した腹側表層領域14及び腹側深層領域18をそれぞれ構成する複合材料層、並びに、腹側成形型34に積層した内部領域19の腹側部分を構成する発泡材料と、を中立面において重ね合わせる。これにより、
図7に示すように、背側表層領域12及び背側深層領域16をそれぞれ構成する複合材料層が、それぞれプレ背側表層領域12P及びプレ背側深層領域16Pとなる。また、腹側表層領域14及び腹側深層領域18をそれぞれ構成する複合材料層が、それぞれプレ腹側表層領域14P及びプレ腹側深層領域18Pとなる。また、内部領域19を構成する発泡材料が、プレ内部領域19Pとなる。
【0053】
この中立面において重ね合わせる際、背側成形型32の背側型合わせ面32bと、腹側成形型34の腹側型合わせ面34bと、が重ね合わせられることで、複合材翼10の輪郭度及び厚さの精度を確実に確保することができる。
【0054】
この中立面において重ね合わせた後、重ね合わせた複合材料層を加熱して、複合材料層に含まれる熱硬化性樹脂を、軟化状態または半硬化状態から、半硬化状態または硬化状態に硬化させることで、複合材料層を接合する(ステップS20)。これに伴い、プレ背側表層領域12P、プレ腹側表層領域14P、プレ背側深層領域16P、プレ腹側深層領域18Pは、それぞれ、複合材料が接合された背側表層領域12、腹側表層領域14、背側深層領域16及び腹側深層領域18となる。また、プレ内部領域19Pは、内部領域19となる。このようにして、複合材翼10が得られる。
【0055】
複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、以上のような構成を有するので、表層領域では比較的薄い複合材料層を用い、深層領域では比較的厚い複合材料層を用いる。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、比較的薄い複合材料層により十分に輪郭度の精度を確保することができ、比較的厚い複合材料層により製造のコストを低減することができ、全体として、十分に厚さの精度を確保することができる。
【0056】
複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域における複合材料層が、深層領域における複合材料層より、面積が大きい。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、比較的薄い複合材料層を用いる表層領域で、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向におけるより広い範囲の輪郭度の精度を確保することができる。
【0057】
複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、厚肉部分10bよりも薄く、深層領域を含まない薄肉部分10aをさらに有する。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、比較的薄い複合材料層を用いる表層領域で、翼厚方向の厚さの薄い部分における厚さの精度を確保することができる。
【0058】
複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、背側の翼部分と腹側の翼部分とを有し、背側の翼部分と腹側の翼部分とが中立面において接合されており、背側の翼部分が背側表層領域12と背側深層領域16とを含み、腹側の翼部分が腹側表層領域14と腹側深層領域18とを含む。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、背側及び腹側のそれぞれについて、比較的薄い複合材料層により十分に輪郭度の精度を確保することができ、比較的厚い複合材料層により製造のコストを低減することができ、全体として、十分に厚さの精度を確保することができる。
【0059】
複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、さらに、翼幅方向における端部が、背側表層領域12と腹側表層領域14とにより構成されており、背側表層領域12における複合材料層12sの端部と、腹側表層領域14における複合材料層14sの端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられている。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、複合材料層12sの端部と複合材料層14sの端部とが接触する場合と比較して、複合材料層の積層に伴って中立面の近傍に生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の端部により分断して、小さくすることができる。これにより、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、翼幅方向における端部における強度及び信頼性を向上させることができる。このため、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、複合材翼10の形状を安定化させることができるので、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができる。また、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法は、中立面に対して翼厚方向に対称に複合材料層を重ね合わせる必要がないので、製造のコストを低減することができる。
【0060】
[第2の実施形態]
特許文献1に記載された複合材翼は、中立面に対して翼厚方向に対称に、薄い複合材料層を大量に重ね合わせている。このため、特許文献1に記載された複合材翼は、中立面において、複合材料層の積層に伴って中立面の近傍に生じる間隙であるプライドロップが大きく形成されてしまうという問題があった。特許文献1に記載された複合材翼は、大きく形成されてしまうプライドロップにより、翼幅方向における端部における強度及び信頼性が低下するという問題があった。第2の実施形態に係る複合材翼は、これらの問題に鑑みてなされたものであって、翼幅方向における端部における強度及び信頼性を向上させた複合材翼及び複合材翼の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0061】
第2の実施形態に係る複合材翼は、第1の実施形態に係る複合材翼10において、
図5に示すような、複合材翼を構成する複合材料層の1層あたりの厚さの傾向がないものである。すなわち、第2の実施形態に係る複合材翼は、第1の実施形態に係る複合材翼10において、表層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値または平均値が、深層領域における複合材料層の1層あたりの厚さの中央値または平均値よりも薄いという傾向がないものである。第2の実施形態に係る複合材翼は、その他の構成については、複合材翼10と同様である。第2の実施形態の説明では、第1の実施形態と同様の構成に第1の実施形態と同一の符号群を用い、その詳細な説明を省略する。
【0062】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、強化繊維に樹脂が含浸された複合材料層が翼厚方向に積層されて形成されたものである。第2の実施形態に係る複合材翼に含まれる複合材料層を構成する強化繊維及び樹脂は、複合材翼10に含まれる複合材料層を構成する強化繊維及び樹脂と同様である。
【0063】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、
図2及び
図3に示すように、背側表層領域12と、腹側表層領域14と、背側深層領域16と、腹側深層領域18と、内部領域19と、を有する。背側表層領域12は、背側の表面から翼厚方向に所定の深さまでの領域である。背側深層領域16は、背側の表面から翼厚方向に所定の深さより深い領域である。腹側表層領域14は、腹側の表面から翼厚方向に所定の深さまでの領域である。腹側深層領域18は、腹側の表面から翼厚方向に所定の深さより深い領域である。
【0064】
第2の実施形態に係る複合材翼における背側表層領域12及び腹側表層領域14は、いずれも、複合材翼10と同様に、翼厚方向に表面から所定の深さまでの表層領域に含まれる。第2の実施形態に係る複合材翼における背側深層領域16及び腹側深層領域18は、いずれも、複合材翼10と同様に、翼厚方向に表面から所定の深さより深い深層領域に含まれる。
【0065】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、
図2及び
図3に示すように、薄肉部分10aと厚肉部分10bとを有する。薄肉部分10aは、表層領域、すなわち背側表層領域12と、腹側表層領域14と、を有する。薄肉部分10aは、深層領域、すなわち背側深層領域16及び腹側深層領域18を含まない。厚肉部分10bは、背側表層領域12と、腹側表層領域14と、背側深層領域16と、腹側深層領域18と、内部領域19と、を有する。
【0066】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、背側の翼部分と、腹側の翼部分と、を有する。背側の翼部分は、翼厚方向の中間に対して背側にある領域であり、背側表層領域12と背側深層領域16とを含む。腹側の翼部分は、翼厚方向の中間に対して腹側にある領域であり、腹側表層領域14と腹側深層領域18とを含む。第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、背側の翼部分と腹側の翼部分とが中立面において接合されている。詳細には、第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、背側の翼部分における背側深層領域16と、腹側の翼部分における腹側深層領域18とが、中立面において接合されている。
【0067】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14が、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18より、面積が大きい。すなわち、第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域である背側表層領域12及び腹側表層領域14における複合材料層が、深層領域である背側深層領域16及び腹側深層領域18における複合材料層より、面積が大きい。
【0068】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、
図4に示すように、翼幅方向における端部が、表層領域である背側表層領域12と腹側表層領域14とによって構成されている。複合材翼10は、翼幅方向における端部において、背側表層領域12における複数の複合材料層12sの端部と、腹側表層領域14における複数の複合材料層14sの端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられている。具体的には、第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、翼幅方向における端部において、複合材料層12sの端部が複合材料層14sの面に接触している接触部分21と、複合材料層14sの端部が複合材料層12sの面に接触している接触部分22と、が交互に配列されている。
【0069】
第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、翼幅方向における端部において接触部分21と接触部分22とが交互に配列されているので、複合材料層12sの端部と複合材料層14sの端部とが接触する場合と比較して、複合材料層の積層に伴って生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の端部により分断して、小さくすることができる。これにより、第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、翼幅方向における端部において強度及び信頼性が向上する。このため、第2の実施形態に係る複合材翼は、複合材翼10と同様に、形状が安定化するので、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができる。また、複合材翼10は、中立面に対して翼厚方向に対称に複合材料層を重ね合わせる必要がないので、製造のコストを低減することができる。
【0070】
第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、第2の実施形態に係る複合材翼を得る方法の一例である。第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、第1の実施形態に係る複合材翼10の製造方法と同様に、
図6に示すように、背側表層領域積層ステップ(ステップS12)と、背側深層領域積層ステップ(ステップS14)と、腹側表層領域積層ステップ(ステップS16)と、腹側深層領域積層ステップ(ステップS18)と、接合ステップ(ステップS20)と、を含む。
【0071】
第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法におけるステップS12及びステップS16は、第1の実施形態と同様に、翼幅方向における端部において、背側表層領域12における複数の複合材料層12sの端部と、腹側表層領域14における複数の複合材料層14sの端部と、が交互に他方の表層領域の複合材料層の中立面側表面に接触して設けられるように、複数の複合材料層12s及び複数の複合材料層14sをそれぞれ積層する。具体的には、第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法におけるステップS12及びステップS16は、第1の実施形態と同様に、翼幅方向における端部において、複合材料層12sの端部が複合材料層14sの面に接触している接触部分21と、複合材料層14sの端部が複合材料層12sの面に接触している接触部分22と、が交互に配列されるように、複数の複合材料層12s及び複数の複合材料層14sをそれぞれ積層する。これにより、第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、第2の実施形態に係る複合材翼を得ることができる。
【0072】
第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、以上のような構成を有するので、複合材料層の積層に伴って生じる間隙であるプライドロップを複合材料層の端部により分断して、小さくすることができる。これにより、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、翼幅方向における端部において強度及び信頼性が向上する。このため、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、形状が安定化するので、十分に輪郭度及び厚さの精度を確保することができる。また、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、中立面に対して翼厚方向に対称に複合材料層を重ね合わせる必要がないので、製造のコストを低減することができる。
【0073】
第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法と同様に、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向において、表層領域における複合材料層が、深層領域における複合材料層より、面積が大きい。このため、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、複合材料層の翼幅方向における端部が交互に接触して設けられる端部において、強度及び信頼性がより向上する。このため、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向においてより広い範囲で形状が安定化するので、翼幅方向と翼長方向とを含む面方向におけるより広い範囲の輪郭度の精度を確保することができる。
【0074】
第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、複合材翼10及び複合材翼10の製造方法と同様に、厚肉部分10bよりも薄く、深層領域を含まない薄肉部分10aをさらに有する。このため、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、複合材料層の翼幅方向における端部が交互に接触して設けられる端部において、翼厚方向の厚さの薄い部分において強度及び信頼性がより向上する。このため、第2の実施形態に係る複合材翼及び第2の実施形態に係る複合材翼の製造方法は、翼厚方向の厚さの薄い部分において形状が安定化するので、翼厚方向の厚さの薄い部分における厚さの精度を確保することができる。