特許第6800876号(P6800876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800876炭素繊維のためのナノ粒子を含む繊維サイズ処理系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800876
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】炭素繊維のためのナノ粒子を含む繊維サイズ処理系
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/79 20060101AFI20201207BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20201207BHJP
   D06M 23/08 20060101ALI20201207BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20201207BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   D06M11/79
   C08J5/06CFC
   D06M23/08
   D06M15/55
   D06M101:40
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-547505(P2017-547505)
(86)(22)【出願日】2016年3月7日
(65)【公表番号】特表2018-516315(P2018-516315A)
(43)【公表日】2018年6月21日
(86)【国際出願番号】EP2016054732
(87)【国際公開番号】WO2016142316
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2019年2月5日
(31)【優先権主張番号】15158364.8
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュプレンガー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ナウマン
【審査官】 橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−228248(JP,A)
【文献】 特開2011−213514(JP,A)
【文献】 特開2014−162856(JP,A)
【文献】 特開平07−233591(JP,A)
【文献】 特表2009−535530(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104389167(CN,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01634921(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
C08J5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料であって、コーティングが、コーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、コーティングが、さらなる反応をすることができ、ナノ粒子が、表面が疎水化された球形シリカナノ粒子である、炭素繊維材料。
【請求項2】
コーティングが、架橋性エポキシ基を含むことを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維材料。
【請求項3】
コーティングが、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の炭素繊維材料。
【請求項4】
ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための方法であって、炭素繊維材料を、浸漬もしくは噴霧によってまたは浴を用いて、ナノ粒子含有成膜剤を含む水性エマルションと接触させ、続いて、コーティングされた炭素繊維材料を乾燥させることを含み、コーティングが、コーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、水性エマルションが、表面が疎水化された球形シリカナノ粒子を含む、方法。
【請求項5】
炭素繊維材料が、経路中に直接浸漬されないこと、および代わりに、ナノ粒子含有成膜剤が、回転式アプリケーターロールによって炭素繊維材料に塗布されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水性エマルションが、エマルションの固形分に対して1重量%から50重量%までのナノ粒子を含むことを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
炭素繊維複合材料の製造のための、請求項1から3のいずれかに記載のナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料および/または請求項4から6のいずれかに記載の方法の生成物の使用。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載のナノ粒子および/または請求項4から6のいずれかに記載の方法の生成物によってコーティングされた炭素繊維材料をポリマーマトリックス中に含む、炭素繊維複合材料。
【請求項9】
ポリマーマトリックスが、熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項8に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項10】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項9に記載の炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料であって、コーティングが、コーティングされた繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、コーティングが、さらなる反応に関与することができる炭素繊維材料、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための方法、および対応する炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量構造体は、21世紀における課題を克服するための最も重要な技術の一つである。繊維複合材料の使用は、軽量構造体のために必須である。輸送分野、例えば航空機製造、鉄道車両製造もしくは自動車製造、機械工学または建設分野における前記材料の使用が増えることにより、これらの繊維複合材料の実行性能の向上が常時求められている。風車用のローターブレードは、長さを増していきながら製造されており、したがって、これらのローターブレードに課される機械的安定性要件も絶えず増えている。
【0003】
特に高性能用途のための繊維複合材料の製造は、熱硬化性または熱可塑性ポリマーマトリックスを高頻度で使用する。前記ポリマーマトリックスは、繊維複合材料中に取り込まれたときの性能を最適化されている。使用される強化繊維、短繊維または連続フィラメント繊維、ならびに、織物、編物、レイドスクリムまたはプリフォームであってよいこれらの繊維から製造されたテキスタイル構造体の構造および設計も同様に、成分中に取り込まれて利用される場合に最適化されている。
【0004】
繊維複合材料の不具合は主に、繊維とポリマーマトリックスとの界面に依存する。必須要件は、熱硬化性または熱可塑性ポリマーマトリックスへの繊維の結合が良好であること、および繊維の湿潤が良好であることである。
【0005】
ナノ材料の添加によって上記課題を解決するものである、実現可能性のある2つの方法が原則として存在する。第一には、ナノ材料を、この上記課題の解決という目的のために比較的多量に使用してポリマーマトリックス中に組み込んでもよいし、第二には、繊維をナノ材料によってコーティングしてもよい。
【0006】
上記課題は、繊維を製造するためのプロセス中に繊維サイズ処理系(サイズとしても公知である)を使用することによって、解決される。サイズ処理系の機能は、第一には、さらなる加工ステップ中に繊維を保護すること、すなわち、個別のフィラメントだけでなく、繊維束(ロービング)をも保護することであり、さらには、後で繊維を、熱硬化性または熱可塑性ポリマーマトリックスに結合させることである。サイズ処理系は、他の繊維特性、例えば、帯電防止における振舞いにも影響し得る。サイズ処理系は、繊維、例えばガラス繊維または炭素繊維の種類、繊維の繊度および意図されている将来の用途、例えば、エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル樹脂中に取り込まれた状態での加工に適合する成分を含む。
【0007】
Sprenger(J.Mater.Sci.、44(2009)、342〜345頁)は、ポリマー中に一様に分配されたナノ粒子を含む繊維複合材料を開示している。マトリックス中の二酸化ケイ素粒子の含量が10重量%の場合でさえ、機械的特性には、他の粒子を使用した場合に比較して有意義となるほどの効果が及ぼされていない。
【0008】
Yang(Mat.Letters61(2007)、3601〜3604頁)は、SiOナノ粒子を有する炭素繊維サイズ処理系、および当該炭素繊維サイズ処理系によりASTM D2344による層間せん断強度に及ぼされる好ましい効果を開示しているが、繊維に付いた粒子の含量の計算を可能にするいかなる定量的なデータも開示されていない。他のラミネート特性の改善は、観察されていなかった。
【0009】
従来技術には、比較的多量のナノ材料が使用されるという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ナノ材料の使用量を少なくすることによって、従来技術による方法を単純化することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、サイズ中に存在するナノ材料は少量であっても、炭素繊維複合材料の機械的特性を格段に改善することが判明した。
【0012】
本発明は、コーティングが、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含む、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料であって、コーティングが、さらなる反応に関与することができる、炭素繊維材料を提供する。
【0013】
本発明の範囲において、ナノ粒子という用語は、有機粒子または無機粒子を意味し、好ましくは無機粒子、より好ましくは酸化物粒子および/または水酸化物粒子、さらにより好ましくは鉱物由来でない粒子を意味しており、このナノ粒子は、アルミニウム、チタン、亜鉛、スズ、バナジウム、セリウム、鉄、マグネシウムまたはケイ素の酸化物および/または水酸化物を含むことが特に好ましく、このナノ粒子は、SiO粒子であることがより特段に好ましい。SiO粒子は、沈降シリカ、コロイダルシリカ、珪藻土(キースラガー)およびヒュームドシリカから選択されることが好ましく、コロイダルシリカが特に好ましい。
【0014】
SiO粒子は、表面処理によって疎水化されていることが好ましい。EP2067811(US2009/0149573)の第60〜65段落において開示された表面改質粒子が特に好ましく、SiOナノ粒子は、アルキルアルコキシシランまたはアリールアルコキシシランによって表面処理されていることがより特段に好ましい。
【0015】
無機粒子は、表面処理されていることがより好ましい。表面処理は、トリアルキルクロロシラン、ジアルキルジクロロシラン、アルキルアルコキシシラン、アリールアルコキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、(メタ)アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、アミノプロピルトリアルコキシシラン、ポリジメチルシロキサン、ポリシロキサン、Si−H官能性ポリシロキサン、カルボン酸、キレート化剤およびフルオロポリマーならびにこれらの混合物等の有機ケイ素化合物から選択される化合物によって実施されていることが好ましい。
【0016】
ナノ粒子は、好ましくは球体形状または不規則的な形状であり、ナノ粒子は、より好ましくは球体形状である。
【0017】
コーティングが、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含む、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料であって、コーティングが、さらなる反応に関与することができ、ナノ粒子が、表面改質された球形シリカナノ粒子である、炭素繊維材料が特に好ましい。
【0018】
ナノ粒子の平均直径は、好ましくは1nmから300nm、より好ましくは1nmから200nmまで、さらにより好ましくは2nmから150nmまで、さらにより好ましくは3nmから100nmまで、特に好ましくは5nmから50nmまでである。
【0019】
炭素繊維への塗布前のナノ粒子の直径は、DLS(動的光散乱法)によって測定されることが好ましい。DLSの平均値は、重量平均値である。炭素繊維上のナノ粒子の直径は、電子顕微鏡写真によって判定される。このとき、平均値は、相加平均である。
【0020】
少なくともSiO粒子を含む、異なる種類のナノ粒子の混合物がさらに好ましく、これらの混合物が、すべてのナノ粒子の総質量に対して好ましくは50重量%超、より好ましくは80重量%超、さらにより好ましくは95重量%超、特に好ましくは99重量%超のSiO粒子を含む。
【0021】
直径が5nmから50nmまでであり、表面が、疎水性修飾されている、特に、アルキルアルコキシシランおよび/またはアリールアルコキシシランによって疎水化されている、SiOナノ粒子が特に好ましい。
【0022】
炭素繊維材料は好ましくは、個別のフィラメント、個別のフィラメントを含む繊維束、または、個別のフィラメントもしくは繊維束を含むヤーンである。炭素繊維材料は、個別のフィラメント、繊維束またはヤーンを含むレイドスクリムおよび織物等の製品であることがさらに好ましい。繊維束を含むレイドスクリムが特に好ましい。織物は、好ましくはリネン織り型のものである。好ましいレイドスクリムは、複数の層から構成されており、これらの層は、単一方向への配向(一軸配向)または多方向への配向(多軸配向)を有し得る。
【0023】
レイドスクリムには、層の繊維または繊維束が編組み手順によって曲げられないという利点がある。これにより、力を吸収する能力が向上する。
【0024】
炭素繊維材料は、炭素繊維から製造されたレイドスクリムであることが特に好ましい。
【0025】
炭素繊維材料は、清浄化済みの材料の形態のまたはあらかじめコーティングされた、半製品であることが好ましく、清浄化済みの炭素繊維材料を使用することが好ましい。清浄化方法は、材料に応じたものであることが好ましく、好ましい清浄化方法は熱処理であり、赤外線源を用いた照射が特に好ましい。熱処理は、不活性気体中で実施されることが好ましい。不活性気体は、酸素を含まず、不活性気体中に存在する酸素の量は、好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.1体積%未満、特に好ましくは50ppm未満であることが好ましい。
【0026】
好ましい赤外線源の長さは、1mである。炭素繊維材料は、5mmから10cmまで、好ましくは1cmから3cmまでの距離にわたって、赤外線源を通り過ぎるように誘導される。照射により、炭素繊維材料の表面上に配置された化合物の分解が起きる。この手順は、同一の条件下で照射を繰り返した後であっても、1つの試験試料の質量または複数の同一の試験試料の質量が、測定値に対して1%超相違することがないように最適化される。
【0027】
本発明のコーティングされた炭素繊維材料が、ナノ材料によってコーティングされている場合、炭素繊維材料は好ましくは、個別のフィラメント、繊維束、織物またはレイドスクリムの形態になっており、より好ましくは、繊維束が、ナノ材料によってコーティングされている。
【0028】
本発明の炭素繊維材料は、コーティングされた繊維の乾燥重量に対して好ましくは9重量%未満、より好ましくは8重量%未満、7重量%未満、6重量%未満、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満または2重量%未満のナノ材料を含む。
【0029】
さらにより好ましくは、本発明の炭素繊維材料は、コーティングされた繊維の乾燥重量に対して0.05重量%から1.6重量%まで、特に好ましくは0.1重量%から1.2重量%まで、特に好ましくは0.2重量%から1.0重量%までのナノ材料を含む。
【0030】
特に好ましくは、ナノ粒子によってコーティングされた本発明の炭素繊維材料は、エポキシ樹脂中に取り込まれた、アルキルアルコキシシランおよび/またはアリールアルコキシシランによって表面処理された球形SiOナノ粒子によってコーティングされた繊維束であり、コーティングされた繊維束が、コーティングされた繊維束の乾燥重量に対して0.1重量%から2重量%までのナノ粒子を含み、コーティングが、さらなる反応に関与することができる。
【0031】
炭素繊維材料のコーティングのさらなる反応は、架橋反応によってポリマーマトリックスへの化学結合を可能にする反応である。ポリマーマトリックスおよびナノ粒子によってコーティングされた本発明の炭素繊維材料は、コーティングの表面において炭素繊維材料のコーティングがポリマーマトリックスと反応することができる、炭素繊維複合材料を形成し得る。
【0032】
これらの反応は、エポキシドの開環重合を伴うことが好ましい。
【0033】
本発明は、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための方法であって、炭素繊維材料を、浸漬もしくは噴霧によってまたは浴を用いて、ナノ粒子含有成膜剤を含む水性エマルションと接触させ、続いて、コーティングされた炭素繊維材料を乾燥させることを含み、コーティングが、コーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、水性エマルションが、表面改質された球形シリカナノ粒子を含む、方法をさらに提供する。
【0034】
コーティングが、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、炭素繊維材料を、ナノ粒子含有成膜剤の水性エマルションを含む浴と接触させ、続いて、コーティングされた炭素繊維材料を乾燥させる、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための本発明の方法が好ましい。
【0035】
炭素繊維材料が、浴中に直接浸漬されず、代わりに、ナノ粒子含有成膜剤が、回転式アプリケーターロールによって炭素繊維材料に塗布されることが好ましい。アプリケーターロールの下側が浴中に浸漬され、回転中に、フィルムの形態のある特定の量の成膜剤を取り込み、炭素繊維材料が、ロールの上面に付いたナノ粒子含有成膜剤と接触することが好ましい。ここで、炭素繊維材料に塗布される量は、ナノ粒子含有成膜剤の水性エマルションに固有の特性、例えば、好ましくは粘度ならびにロールの回転速度、ロールの直径およびロール表面の性質に依存する。ロールの速度と炭素繊維材料の速度は、滑り摩擦が生じないように互いに対して合わせられていることが好ましい。
【0036】
成膜剤は、反応性の良い架橋性モノマーまたはオリゴマーであり、特に好ましくはエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0037】
コーティングが、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、浸漬もしくは噴霧によってまたは浴を用いて炭素繊維材料を、ナノ粒子含有成膜剤を含む水性エマルションと接触させ、続いて、コーティングされた炭素繊維材料を乾燥させる、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための方法であって、水性エマルションが、表面改質された球形シリカナノ粒子を含み、成膜剤が、エポキシ樹脂である、方法がより好ましい。
【0038】
ナノ粒子含有成膜剤の水性エマルションは、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースであるのが好ましい粘度調整剤、湿潤剤および分散剤ならびに乳化剤から選択されることが好ましいさらなる成分を含むことが好ましい。
【0039】
水性エマルションの固形分は、水を除外した成分全体から計算される。
【0040】
水性エマルションは、エマルションの固形分に対して1重量%から50重量%まで、好ましくは5重量%から30重量%まで、特に好ましくは10重量%から20重量%までのナノ粒子を含むことが好ましい。
【0041】
コーティングが、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の乾燥重量に対して0.01重量%から10重量%未満までのナノ粒子を含み、浸漬もしくは噴霧によってまたは浴を用いて炭素繊維材料を、ナノ粒子含有成膜剤を含む水性エマルションと接触させ、続いて、コーティングされた炭素繊維材料を乾燥させる、ナノ粒子によってコーティングされた炭素繊維材料の製造のための方法であって、水性エマルションが、表面改質された球形シリカナノ粒子を含み、成膜剤が、エポキシ樹脂であり、水性エマルションが、エマルションの固形分に対して10重量%から20重量%までのナノ粒子を含む、方法が特に好ましい。
【0042】
本発明の方法における乾燥は、室温より高い温度、好ましくは30℃から95℃まで、より好ましくは35℃から90℃まで、さらにより好ましくは40℃から85℃まで、さらにより好ましくは45℃から80℃まで、特に好ましくは50℃から75℃まで、特に好ましくは55℃から70℃までで実施されることが好ましい。
【0043】
乾燥は、0.5分から10分以内で、好ましくは1分から3分以内で実施されることが好ましい。
【0044】
乾燥は、向流の熱風によって実施されることが好ましい。
【0045】
特に、本発明の方法における乾燥は、55℃から70℃までの温度において、向流の熱風によって1分から3分以内で実施される。
【0046】
本発明の方法におけるコーティング手順および乾燥は、繰り返し実施してもよい。
【0047】
ナノ粒子含量を測定するために、本発明の方法の最後に、炭素繊維材料を恒量になるまで乾燥させることが好ましい。前記乾燥は、好ましくは55℃から70℃までで実施されるが、室温に冷却した後で材料を秤量し、連続した少なくとも2回の秤量の差が測定値に対して0.5%未満になるまで乾燥および秤量手順を繰り返す。
【0048】
本発明は、炭素繊維複合材料の製造のための、ナノ粒子によってコーティングされた本発明の炭素繊維材料および/または本発明の方法の生成物の使用をさらに提供する。
【0049】
本発明は、ナノ粒子によってコーティングされた本発明の炭素繊維材料をポリマーマトリックス中に含む、炭素繊維複合材料および/または本発明の方法の生成物をさらに提供する。
【0050】
ポリマーマトリックスは、熱硬化性樹脂であり、好ましくはエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂または不飽和ポリエステル樹脂であり、特にエポキシ樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0051】
ナノ粒子によってコーティングされた本発明の炭素繊維材料の利点は、繊維サイズ処理系へのナノ粒子の添加が、繊維の特性を改善するだけでなく、驚くべきことに、当該炭素繊維材料から製造された炭素繊維複合材料の特性もさらに改善するという点である。特に、サイクル応力下での破壊靱性および疲労挙動が改善される。従来技術によれば、この種類の改善は、ナノ粒子による樹脂マトリックス全体の改質の結果としてのみ認められる。
【0052】
ここで、別の利点は、炭素繊維材料のコーティング中のナノ材料の量が格段に少ない場合でさえ、所望の効果がもたらされるという点、および、ナノ材料の質量を増大させても、当該炭素繊維材料から製造された炭素繊維複合材料の機械的特性がさらに改善されることが決してないという点である。
【0053】
別の利点は、本発明によって特許請求された範囲を超える質量のナノ材料を有する炭素繊維材料を含む炭素繊維複合材料が、本発明の炭素繊維複合材料より悪い特性を有するという点である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
例により、本発明の炭素繊維材料の使用が有利であることが明らかにされている。
【0055】
ラミネートにおいて特に重要な特性は、疲労挙動である。この疲労挙動は、サイクル式3点曲げ試験の使用によって研究される。この試験は、炭素繊維複合材料のシートを荷重サイクルに晒し、回収されたエネルギーを測定する。この結果は、ラミネートを損傷させ、最後には破断させることになる、ラミネート内で散逸したエネルギーを計算するために用いる。散逸エネルギーが大きくなるほど、ラミネートが耐え切るサイクス数が少なくなっていき、すなわち、ラミネートの寿命が短くなっていく。
【0056】
これらの少量のナノ材料を有する炭素繊維材料のコーティングは、従来技術を上回る改善を示し、コーティング法を単純化する。
【0057】
本発明によって提供された主題は、以下において例示として記述されているが、これらの例示的な実施形態に限定するいかなる意図もない。範囲、一般式または化合物の種類が以下において指定されている場合、これらは、明示的に言及された前記範囲または化合物の群だけでなく、個別の値(範囲)または化合物の抜出しによって得ることができるすべての部分範囲および化合物の亜族も含むように意図されている。文献が本明細書において引用されている場合、当該文献の全内容、特に、当該文献が引用された文脈における事実に基づいた内容は、本発明の開示の一部をなすように意図されている。そうではないとの記載がない限り、百分率は、重量百分率である。そうではないとの記載がない限り、以下において報告されている平均値は、重量平均である。そうではないとの記載がない限り、以下において記載されているパラメータが測定によって決定されている場合、測定は、25℃の温度および101325Paの圧力で実施された。
【実施例】
【0058】
材料
最初に、直径20nmの40重量%(数平均)のSiO粒子を含むNanopox(登録商標)F400(Evonik Hanse GmbH、ドイツの商標)を、水中に乳化させた。次いで、前記エマルションを、実施例において記載されている値に希釈した。
【0059】
Neoxil965(DSM複合材料樹脂)は常に、エマルション全体に対して6重量%の水中エマルションの形態で使用した。
【0060】
繊維材料の脱サイズ処理
炭素繊維束は、2cmの距離にわたって、赤外線源を通り過ぎるように誘導された。速度は、元々のサイズ系が完全に除去されるように最適化した。これは、質量損失として測定された。
【0061】
一般的なコーティング法
回転式アプリケーターロールを使用して、成膜剤を繊維材料に塗布する。アプリケーターロールの下側がサイズ処理浴中に浸漬され、回転中に、ある特定の量の成膜剤を取り込み、繊維材料がロールの上面に付いた成膜剤と接触する。ロールの速度と繊維材料の速度は、速度差が生じないように互いに対して合わせられていることが好ましい。
【実施例1】
【0062】
脱サイズ処理された炭素繊維へのサイズ処理
T700SC−24000(Toray Carbon Fibres、フランス)炭素繊維材料を赤外線照射によって脱サイズ処理し、室温に冷却した後、秤量した。次いで、繊維束を直接コーティングした。浸漬浴は、エポキシ樹脂成膜剤と、必要に応じてSiOナノ粒子とが入った水性エマルションを含んでいた。浸漬後、繊維を恒量になるまで60℃で乾燥させた。次いで、塗布されたサイズ系の量を、差異の秤量によって確認した。
【0063】
塗布された各サイズ系の質量は、(清浄化後の繊維+塗布されたコーティングの総質量に対して)1.8重量%であった。3種のサイズ系を調査した。
【0064】
浸漬浴の組成物は、次のとおりである。
1.Neoxil965のみ
2.50重量%のNeoxil965と50重量%のNanopox F400(2重量%のSiOの水性エマルションの形態)との混合物
3.50重量%のNeoxil965と50重量%のNanopox F400(4重量%のSiOの水性エマルションの形態)との混合物
4.50重量%のNeoxil965と50重量%のNanopox F400(24重量%のSiOの水性エマルションの形態)との混合物
【0065】
したがって、秤量後のコーティングを恒量にするための計算は、次のとおりである。
系1:1.8重量%のNeoxil965、本発明によらない
系2:1.35重量%のNeoxil965および0.45重量%のNanopox F400、0.18重量%のSiOに対応する
系3:1.08重量%のNeoxil965および0.72重量%のNanopox F400、0.288重量%のSiOに対応する
系4:0.36重量%のNeoxil965および1.44重量%のNanopox F400、0.576重量%のSiOに対応する
【0066】
次に、コーティングされた繊維材料を使用して、試験試料を、DU材料の形態になるように巻き取り、次いで、これらの試験試料にエポキシ樹脂/硬化剤混合物を含浸させ、製造業者の指示書に従って硬化させた。使用されたエポキシ樹脂は、硬化剤RIMH137(Hexion)と組み合わせたInfusion Resin MGS(登録商標)RIM135(Hexion、ドイツの商標)であった。選択された含浸法は、VARI(真空支援樹脂注入:Vacuum Assisted Resin Infusion)であった。得られたラミネートの機械的特性を試験した。
【0067】
破壊靱性(GIc)を、DIN EN ISO15024:2001に従って、65mm「層間剥離強度」というパラメータによって測定した。
【0068】
横引張強度を、DIN EN ISO527−5:2008に従って測定した。
【0069】
散逸エネルギーを、DIN EN ISO13003:2003に従って、3点曲げ試験の3000サイクル後に測定した。
【0070】
層間せん断強度(ILSS)を、ASTM−D2344に従って測定した。
【0071】
曲げ弾性率を、DIN EN ISO14125:1998に従って測定した。
【0072】
【表1】
【0073】
結果は、本発明の炭素繊維材料の使用が有利であることを示している。