特許第6800909号(P6800909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800909スピーカシステム及びスピーカシステムのエンクロージャ構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800909
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】スピーカシステム及びスピーカシステムのエンクロージャ構造
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20201207BHJP
   H04R 1/28 20060101ALI20201207BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   H04R1/02 102B
   H04R1/02 101B
   H04R1/28 310D
   H04R1/28 310Z
   B60R11/02 S
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-74183(P2018-74183)
(22)【出願日】2018年4月6日
(65)【公開番号】特開2019-186710(P2019-186710A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146330
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 博行
(72)【発明者】
【氏名】中村 将志
(72)【発明者】
【氏名】伊佐山 真人
(72)【発明者】
【氏名】森木 貴
(72)【発明者】
【氏名】浜田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 力
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐潟 浩司
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02043382(EP,A1)
【文献】 特開2015−227939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
H04R 1/02
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の所定方向に延在し、内部に仕切部材を有する中空の骨格部材と、
前記骨格部材の内部空間をバックキャビティとして利用できるように配設されるスピーカユニットと、
を備え、
前記仕切り部材は、前記骨格部材の途中を仕切ることで前記内部空間を形成し
前記スピーカユニットから、前記内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長が略等しい
スピーカシステム。
【請求項2】
前記スピーカユニットを搭載する筐体をさらに含み、前記スピーカユニットは前記筐体を介して前記骨格部材と接続される
請求項1に記載のスピーカシステム。
【請求項3】
前記筐体の内部は、他の中空の部材の内部とさらに直接的に連通する
請求項2に記載のスピーカシステム。
【請求項4】
前記スピーカユニットから、前記他の中空の部材の延在方向における両端までの空間上の経路長が略等しい
請求項3に記載のスピーカシステム。
【請求項5】
前記仕切部材は、板金又は吸音材によって形成される
請求項1から4のいずれか一項に記載のスピーカシステム。
【請求項6】
車両の所定方向に延在し、内部に仕切部材を有する骨格部材の内部空間をスピーカシステムのバックキャビティとして利用し、
前記仕切り部材は、前記骨格部材の途中を仕切ることで前記内部空間を形成し
前記内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長が略等しい位置にスピーカユニットを配置する
スピーカシステムのエンクロージャ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカシステム及びスピーカシステムのエンクロージャ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載スピーカシステムにおいて、音圧の節にサブスピーカを設置するものが提案されている(例えば、特許文献1)。また、スピーカユニットをバッフル板の最低共振定在波の節に対向する位置に設けるスピーカ装置が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0003】
また、スピーカ本体をドアインナパネルに取付けてドア内に収納した自動車用ドアスピーカのスピーカボックスのドアヒンジ側の側面に開口部を形成するという技術も提案されている(例えば、特許文献3)。本技術では、ドアの車両前方側のドア側面パネルに開口部に連通する開口部を形成し、底面でロッカ内の空間部に連通するカウルサイドの車両後方側のカウル側面パネルに、ドア側面パネルの開口部にドア閉鎖時に連通する開口部を設ける。また、カウルサイドの車室内側のカウル側面パネルに、カウルサイドの空間部を車室内に連通させるバスレフポートを設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−59388号公報
【特許文献2】特開2008−131199号公報
【特許文献3】特開平8−253082号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0279733号明細書
【特許文献5】特開2009−118182号公報
【特許文献6】実開平5−82195号公報
【特許文献7】特開平6−1184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両にスピーカを搭載する場合、車室内の空間は限られているため、音圧レベルの周波数特性が可聴周波数領域において均一に近づくようなバックキャビティを設けるのは難しかった。また、例えば車両のドアは、スピーカのエンクロージャとしては剛性が低く、振動に弱いという問題があった。
【0006】
本発明は、車両に搭載されるスピーカシステムに対し、剛性が比較的高いエンクロージャの構造を提供するとともに、音圧の周波数特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスピーカシステムは、車両の前後方向に延在する中空の骨格部材と、骨格部材の内部空間をバックキャビティとして利用できるように配設されるスピーカユニットとを備える。また、骨格部材は、内部空間の少なくとも一端に仕切部材を有し、スピーカユニットから、内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長が略等しい。
【0008】
車両の骨格部材は比較的剛性が高いため、これをバックキャビティに利用することで、音漏れを低減させることができる。また、ドア等にスピーカシステムを搭載する必要がなくなるため、ドア等の他の部分についてデザインの自由度が向上する。また、仕切部材を設けることで、骨格部材内の任意の領域に、スピーカシステムのバックキャビティとして
利用する内部空間を形成することができる。また、車両の骨格部材を利用する場合は一方向に長い形状になりがちであるところ、仕切部材によって長手方向の長さを調節することにより低音域で生じる共鳴を抑制し、スピーカシステムの再生可能帯域を広げることができる。また、スピーカユニットから、内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長を略等しくすることにより、奇数次の共鳴における音圧の節に対向する位置にスピーカユニットを配置することができる。よって、奇数次の共鳴では音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。なお、バックキャビティに利用する骨格部材としては、例えばいわゆるロッカーのように、車両の左右に設けられ、車両の前後方向に延在する中空の部材が好ましいが、車両中央に設けられているセンターコンソール等をバックキャビティとして利用してもよい。
【0009】
また、スピーカユニットを搭載する筐体をさらに含み、スピーカユニットは筐体を介して骨格部材と接続されるようにしてもよい。筐体を有する場合は、スピーカユニットを搭載する筐体を骨格部材に取り付けることで、車両にスピーカシステムを取り付ける作業が完了する。
【0010】
また、筐体の内部は、他の中空の部材の内部とさらに連通するようにしてもよい。他の中空の部材をさらにバックキャビティとして利用することで、バックキャビティ全体として十分に空気の振動が得られるような容量を確保することができる。
【0011】
また、スピーカユニットから、他の中空の部材の延在方向における両端までの空間上の経路長が略等しくなるようにしてもよい。他の中空の部材の延在方向とは、換言すれば、他の中空の部材の長手方向である。このようにすれば、他の中空の部材の内部において生じる奇数次の共鳴について、音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。
【0012】
また、仕切部材は、板金又は吸音材によって形成されるようにしてもよい。板金で形成することにより、部材の剛性を向上させることができる。吸音材で形成することにより、急峻な音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。
【0013】
本発明の他の側面に係るスピーカシステムのエンクロージャ構造は、車両の前後方向に延在する骨格部材の内部空間をスピーカシステムのバックキャビティとして利用し、骨格部材は、内部空間の少なくとも一端に仕切部材を有し、内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長が略等しい位置にスピーカユニットを配置する。
【0014】
なお、課題を解決するための手段に記載の内容は、本発明の課題や技術的思想を逸脱しない範囲で可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
車両に搭載されるスピーカシステムに対し、剛性が比較的高いエンクロージャの構造を提供するとともに、音圧の周波数特性を向上させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車両の構造の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係るスピーカシステムを模式的に表す斜視図である。
図3】本実施形態に係るスピーカシステムの模式的に表す分解斜視図である。
図4】第1の比較例に係るスピーカシステムの一例を示す図である。
図5】第2の比較例に係るスピーカシステムの一例を示す図である。
図6】第3の比較例に係るスピーカシステムの一例を示す図である。
図7】閉管の共鳴について説明するための図である。
図8A】音圧がスピーカの振動板に与える影響を説明するための図である。
図8B】音圧がスピーカの振動板に与える影響を説明するための図である。
図8C】音圧がスピーカの振動板に与える影響を説明するための図である。
図9】比較例1〜3に係るスピーカシステムについての音圧の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
図10】比較例1〜3に係るスピーカシステムについての機械インピーダンス特性のシミュレーション結果を示す図である。
図11】第2の実施形態に係るスピーカシステムを模式的に表す分解斜視図である。
図12】第2の実施形態に係るスピーカシステムを水平に切断した断面図である。
図13】変形例に係るスピーカシステムを水平に切断した断面図である。
図14】比較例1並びに実施形態1及び2に係るスピーカシステムの音圧レベルの周波数特性のシミュレーション結果を説明するための図である。
図15】第3の比較例に係る音圧レベルの周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図16】ドアに搭載されるスピーカシステムの一例を示す斜視図である。
図17】変形例に係るスピーカシステムの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ実施形態に係る構成を説明する。
【0018】
<実施形態1>
図1は、車両の構造の一例を示す図である。図1の例は、乗用車の骨格構造の一例を示している。本実施形態では、車両1の前後方向に延在する中空の骨格部材2を、スピーカシステムのバックキャビティとして用いる。骨格部材2は、車両1の側面に設けられるドア(図示せず)の下方に位置しており、車両の左右にそれぞれ存在する。また、骨格部材2は、断面が例えば略六角形のような多角形であり、内部にキャビティを有する。なお、骨格部材2は、「ロッカー」、「ロッカーパネル」、「サイドパネル」、「サイドシル」等とも呼ばれる。
【0019】
また、車両1は、例えば車両の横(左右)方向に延在する他の中空の部材3等を有する。図1に示す部材3は、座席(図示せず)の下方に位置し、座席を支持する部材であり、「シートクロス」等とも呼ばれる。図1の骨格部材2と他の部材3とは接続されている。また、部材3も中空である。
【0020】
なお、車両の骨格構造は、モノコックであってもラダーフレームであってもよい。いずれの場合も、例えば車両の前後方向に延在する中空の部分をスピーカシステムのバックキャビティとして用いる。
【0021】
図2は、第1の実施形態に係るスピーカシステムを模式的に表す斜視図である。図3は、本実施形態に係るスピーカシステムの模式的な分解斜視図である。スピーカシステム4は、骨格部材2と筐体5とを接続して形成される。すなわち、スピーカシステム4は、図1に示した車両1の左右のドア付近の床下に設けられる。
【0022】
筐体5は、スピーカユニット6が搭載される箱状の筐体であり、図3に示すように、筐体5内においてスピーカユニット6の後方に設けられた空間を骨格部材2の内部空間と連通させるための開口部51が設けられている。すなわち、骨格部材2内の空間をスピーカシステム4のバックキャビティとして利用できるように、スピーカユニット6は筐体5を介して骨格部材2と接続される。図3の例では、開口部51は、直方体状の筐体5の一面の全体に設けられているが、その形状は特に限定されない。なお、スピーカユニット6は、電気信号を振動に変換する部品であり、コーン型、ドーム型、ホーン型、リボン型等の
構造は特に限定されない。
【0023】
また、図3に示すように、骨格部材2には、その内部空間22を筐体5の内部と連通させるための開口部21が設けられている。開口部21の形状は特に限定されず、例えば骨格部材2の強度とスピーカシステムの音響設計とのバランスに基づいて決定することができる。開口部21は、骨格部材2と筐体5との接合のために設けられる切欠きであってもよい。また、開口部21は、例えば円形の穴とすることで骨格部材2の強度の低下を抑えられる。
【0024】
また、骨格部材2は、内部のキャビティをさらに仕切り、所定の内部空間22を形成するための仕切部材23を備える。換言すれば、仕切部材23は、骨格部材2の内部に設けられスピーカシステムのバックキャビティとして用いられる内部空間22の、長手方向の端部を閉塞する。また、スピーカユニット6は、内部空間22の長手方向の略中央と対向する位置に配置されている。換言すれば、スピーカユニット6から所定の内部空間22の長手方向の両端までの空間上の経路長は略等しい。
【0025】
仕切部材23は、板金で形成されていてもよいし、吸音材で形成されていてもよい。板金で形成することにより、部材の剛性を向上させることができる。吸音材で形成することにより、急峻な音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。
【0026】
以上のように、スピーカシステムのエンクロージャ構造は、車両の前後方向に延在する骨格部材の内部空間をスピーカシステムのバックキャビティとして利用する。また、骨格部材は、内部空間の少なくとも一端に仕切部材を有し、内部空間の長手方向における両端までの空間上の経路長が略等しい位置にスピーカユニットが配置される。
【0027】
<比較例>
図4は、第1の比較例(比較例1)に係るスピーカシステムの一例を示す図である。本比較例では、筐体5は、骨格部材2の長手方向の略中央に接続されている。すなわち、スピーカシステムの閉管状のバックキャビティの略中央に音源が存在する。なお、骨格部材2の長手方向の両端は閉じられているものとする。
【0028】
図5は、第2の比較例(比較例2)に係るスピーカシステムの一例を示す図である。本比較例では、筐体5は、骨格部材2の長手方向の一方の端部に接続されている。すなわち、スピーカシステムの閉管状のバックキャビティの端部に音源が存在する。
【0029】
図6は、第3の比較例(比較例3)に係るスピーカシステムの一例を示す図である。本比較例では、筐体5は、骨格部材2の一方の端部からその全長の4分の1程度の位置に接続されている。すなわち、スピーカシステムの閉管状のバックキャビティの端部から4分の1程度の位置に音源が存在する。
【0030】
また、図7は、閉管の共鳴について説明するための図である。図7の閉管は骨格部材2の内部を模式的に表している。上述の通り、骨格部材2は、両端が閉じた管状の構造体であり、その内部にキャビティを有する。実線の波は、長手方向の長さがLの閉管において共鳴が生じるm次(m=1,2,3,・・・)の波長の変位を表している。破線の波は、各定在波において生じる圧力の変化を表している。
【0031】
波長λは、以下の式(1)で求められる。
λ=2L/m ・・・(1)
【0032】
また、周波数fは、以下の式(2)で求められる。なお、vは音速である。
=m(v/2L) ・・・(2)
【0033】
図7に示すように、閉管の長手方向の両端は、次数がいずれの場合であっても音圧の腹に当たる。一方、閉管の長手方向の中央は、偶数次の共鳴では音圧の腹に当たるが、奇数次の共鳴においては音圧の節に当たる。したがって、音源を閉管の端部に配置した場合は、いずれの次数においても音圧の周波数特性にピークやディップが生じてしまう。一方、音源を閉管の中央に配置した場合は、奇数次の共鳴では音圧のピークやディップの影響は生じない。換言すれば、音圧のピークやディップの影響を受けるのは2次の共鳴以上の偶数次の場合のみとなる。
【0034】
図8A図8Cは、音圧がスピーカユニットの振動板に与える影響を説明するための図である。図8A図8Cにおいては、バックキャビティの音圧の絶対値をドットの密度で表している。また、スピーカユニットの振動板の変位を破線の曲線で表している。また、矢印は、音圧の圧力場がスピーカの振動板に作用する力の方向を表している。図8Aは、音圧の腹に配置したスピーカに対し、正の音圧が影響する例を示している。図8Aの例では、振動板の振動と音圧とが同相であり、音圧が振動板の駆動を促進する。図8Bは、音圧の腹に配置したスピーカに対し、負の音圧が影響する例を示している。図8Bの例では、振動板の振動と音圧とが逆相であり、音圧が振動板の駆動を抑制する。図8Cは、音圧の節に配置したスピーカに対する音圧の影響を示している。図8Cの例では、振動板の振動に対し音圧が影響せず、バックキャビティの容積が無限大の場合と等価になる。
【0035】
図9は、比較例1〜3に係るスピーカシステムについての音圧の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。図10は、比較例1〜3に係るスピーカシステムについての機械インピーダンス特性のシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションは、数値解析により骨格部材2内のキャビティの機械インピーダンスを近似的に算出し、その結果を用いて無限大のバッフルを有するスピーカユニットの前方1メートル(m)の位置における音圧レベルを求めることにより行った。
【0036】
図9のグラフは、縦軸が音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)[dB]を示し、横軸が周波数[Hz]を示す。図10のグラフは、縦軸が機械インピーダンス[N・s/m]を示し、横軸が周波数[Hz]を示す。また、図9の実線は、バックキャビティの体積が無限大の場合の理論上の周波数特性を示す。図9及び図10の図形がプロットされていない破線は、バックキャビティの体積が40.0リットル(L)の場合の理論上の周波数特性を示す。円がプロットされた破線は、比較例1に係るスピーカシステムの場合の周波数特性を示す。四角形がプロットされた破線は、比較例2に係るスピーカシステムの場合の周波数特性を示す。星印がプロットされた破線は、比較例3に係るスピーカシステムの場合の周波数特性を示す。比較例1〜3に係るスピーカシステムのバックキャビティの体積は、39.5Lである。また、図9及び図10において縦の破線で示す200Hzの周波数は、一般的なミッドウーファの再生帯域の上限の目安である。比較例1に係るスピーカシステムは、端部に筐体5を接続する比較例2等と比較し、1次共鳴周波数(約90Hz)でのピーク及びディップを回避することができる。
【0037】
<作用・効果>
図9及び図10からわかる通り、比較例1のように閉管状のバックキャビティの長手方向の略中央に筐体5を接続する場合は、音圧レベルや機械インピーダンスのディップが発生する周波数がより高くなる。また、比較例1の場合は、比較例1及び2の場合よりも、平均的な音圧レベルや機械インピーダンスからの振れ幅が小さくなっている。よって、スピーカシステムのバックキャビティとして機能する骨格部材2の内部のキャビティの略中央に音源を配置することで、例えばキャビティの端に音源を配置する場合よりも、共鳴により生じる音圧のピーク及びディップの影響を小さくすることができ、再生帯域を拡大す
ることができる。
【0038】
上述した実施形態1に係るスピーカシステム4は、スピーカユニット6から所定の内部空間22の長手方向の2つの端部までの空間上の経路長が略等しい。すなわち、奇数次の共鳴によって生じる音圧の節に音源を配置することができ、音圧のピーク及びディップの影響を小さくすることができる。
【0039】
また、骨格部材2内には強度を担保するためにリブ等が設けられることもあり、骨格部材2内のキャビティの全体をスピーカシステムのバックキャビティとして利用しにくい場合もある。上述した実施形態1では、仕切部材23を設けることにより、骨格部材2内の任意の領域に、スピーカシステム4のバックキャビティとして利用する内部空間を形成することができる。また、管状の構造体における共鳴周波数は、管の長手方向の長さに反比例する。したがって、例えば仕切部材23により管の長さを短くすることで低音域における共鳴を低減させることができ、スピーカシステムの再生可能帯域を拡大することができる。
【0040】
また、例えば図1に示したロッカーのように、車両の左右に設けられ、車両の前後方向に延在する中空の骨格部材をバックキャビティとして利用すれば、車内に設けられるスピーカシステム4の位置も好ましいものになる。このように、車両に搭載されるスピーカシステムに対し、剛性が比較的高いエンクロージャの構造を提供するとともに、音圧の周波数特性を向上させることができる。
【0041】
<実施形態2>
図11は、第2の実施形態に係るスピーカシステムを模式的に表す分解斜視図である。本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0042】
本実施形態に係るスピーカシステム4は、他の中空の部材3をさらに備える。部材3としては、例えば図1に示したシートクロス等を利用することができる。スピーカユニット6が搭載された筐体5の内部と、他の中空の部材3の内部との間も、開口部31を介して連通している。このように他の部材3の内部をさらにバックキャビティとして利用することで、バックキャビティの容量を増大させることができ、全体として十分に空気の振動が得られるような容量を確保することができる。
【0043】
図12は、本実施形態に係るスピーカシステム4の模式的な断面図である。図12の例は、スピーカシステム4を上方から見た内部構造を表している。図12に示すように、骨格部材2はその長手方向における略中央に開口部21を有し、部材3はその長手方向における略中央に開口部31を有する。そして、スピーカユニット6は、骨格部材2の長手方向における略中央であって且つ部材3の長手方向における略中央に対向する位置に配置される。換言すれば、スピーカユニット6から内部空間22の両端までの空間上の経路長は略等しく、且つスピーカユニット6から他の中空の部材3の内部空間32の両端までの空間上の経路長も略等しい。なお、部材3の内部にも仕切部材33を設けるようにしてもよい。本実施形態によれば、部材3の内部に設けられるバックキャビティにおいて共鳴が生じることを抑制できる。このようにすれば、他の中空の部材の内部において生じる奇数次の共鳴について、音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。なお、骨格部材2と他の部材3とは接続されていなくてもよい。
【0044】
図13は、変形例に係るスピーカシステム4の模式的な断面図である。図13の例は、スピーカシステム4を上方から見た内部構造を表している。図13に示すように、骨格部材2の内部と部材3の内部とがさらに連通する構成としてもよい。本実施形態でも、スピ
ーカユニット6は、骨格部材2の長手方向における略中央に対向する位置に設けられる。また、本実施形態では、スピーカユニット6は、部材3が延在する方向における両端間の略中央に対向する位置に配置される。図13に示すように、他の部材3の一端が骨格部材2の側面と接続されている場合は、他の部材3の他端(仕切部材33)と、部材3の長手方向の延長上に位置する骨格部材2の側面との間の長さを半波長とする共鳴が生じる。よって、当該2端間の略中央に音圧の節が生じるため、節に対向する位置にスピーカユニット6を設けている。換言すれば、スピーカユニット6から骨格部材2の内部空間22の両端までの空間上の経路長は略等しく、且つスピーカユニット6から他の中空の部材3の延在方向の両端までの空間上の経路長も略等しくなっている。このようにすれば、他の中空の部材の内部において生じる奇数次の共鳴について、音圧のピークやディップの影響を抑制することができる。
【0045】
図14は、比較例1並びに実施形態2及び3に係るスピーカシステムの音圧レベルの周波数特性のシミュレーション結果を説明するための図である。図14の実線は、バックキャビティの容量が40Lの理論上のスピーカシステム周波数特性の一例を示すグラフである。また、白い三角形がプロットされた破線は、比較例1に係る骨格部材2をバックキャビティとして利用する場合の周波数特性を示すグラフである。なお、バックキャビティの長手方向の長さは1900mm、容量は42L、筐体5の内部と骨格部材2の内部とを接続する開口部の面積は46cmとした。また、黒い三角形がプロットされた破線は、実施形態1に係る仕切部材23を有する骨格部材2をバックキャビティとして利用する場合の周波数特性を示すグラフである。なお、2つの仕切部材23間に形成される内部空間22の長手方向の長さは690mm、容量は20L、筐体5の内部と骨格部材2の内部とを接続する開口部の面積は46cmとした。また、円がプロットされた破線は、実施形態2に係る他の中空の部材3をさらに接続し且つ仕切部材23を有する骨格部材2をバックキャビティとして利用する場合の周波数特性を示すグラフである。なお、2つの仕切部材23間に形成される内部空間22の長手方向の長さは690mm、バックキャビティ全体の容量は22L、筐体5の内部と骨格部材2及び部材3の内部とを接続する開口部の面積は68cmとした。
【0046】
図14に示すように、実施形態1に係るスピーカシステムは、200Hz付近まで音圧レベルが均一な領域を拡大することができる。したがって、ミッドウーファ帯域をカバーする用途にも利用できる。また、実施形態2に係るスピーカシステムは、バックキャビティの容量を増大させることができ、実施形態1の場合よりも全体として音圧レベルを上げることができる。また、筐体5とバックキャビティとの接続面積を増大させることで、共鳴時の筐体5内部の音圧を低下させることができ、ディップを軽減する効果がある。
【0047】
<比較例>
図15は、第3の比較例(比較例3)に係る音圧レベルの周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。図15の実線は、バックキャビティの容量が40Lの理論上のスピーカシステム周波数特性の一例を示すグラフである。また、四角形がプロットされた破線は、比較例3に係るスピーカシステムの周波数特性一例を示す。比較例3に係るスピーカシステムは、車両のドアに搭載される。
【0048】
図16は、ドアに搭載されるスピーカシステムの一例を示す斜視図である。図16の例では、ドア7の内部にスピーカシステムのバックキャビティを設け、スピーカユニット6が車室内を向くように埋め込まれている。なお、比較例3において、バックキャビティの容量は約68Lとした。また、円がプロットされた破線は、実施形態3に係るスピーカシステムの周波数特性の一例を示す。
【0049】
実施形態3に係るスピーカシステムと比較例3に係るスピーカシステムとではバックキ
ャビティの容量が異なるため、実施形態3に係るスピーカシステムは比較例3よりも低音域の利得はやや低いが、約80Hz以上の帯域においては高くなっている。また、実施形態3の方が、ピーク及びディップが生じるまでの周波数帯を広くとることができ、再生可能帯域が拡大している。
【0050】
以上のように、本実施形態に係るスピーカシステムは、ドアに搭載されるスピーカ比較し、同等以上の性能を実現することが可能である。また、ドアは軽く剛性も比較的低いため、車外へ音が漏れることもあるが、車両の骨格部材2をバックキャビティに利用することで音漏れを低減させることができる。さらに、ドアにスピーカシステムを搭載する必要がないためドアのデザインの自由度が向上し、ドアポケットの容量を増大させたり、軽量化させることもできる。
【0051】
<その他>
以上、本発明に係るスピーカシステムの実施形態を示したが、これらは本発明の一例であり、本発明は上述した態様には限定されない。また、各実施形態の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において組み合わせることができる。また、本発明は、上述したスピーカシステムのエンクロージャ構造として特定することもできる。
【0052】
図17は、変形例に係るスピーカシステムの一例を示す斜視図である。図17に示すように、骨格部材2は、内部空間22の一端を仕切部材23によって閉塞され、内部空間22の他端には骨格部材2が備える端壁24を有する構成であってもよい。すなわち、骨格部材2は、内部空間22の少なくとも一端に仕切部材23を有する。なお、図17の例においても、スピーカユニット6から内部空間22の長手方向の両端までの空間上の経路長は略等しい。このような構成であっても、スピーカシステム4のバックキャビティの長手方向の長さを調節でき、再生可能周波数帯を広げることができる。
【0053】
スピーカユニット6は、箱状の筐体5を介することなく骨格部材2に接続されてもよい。例えば、スピーカユニット6が、骨格部材2に設けられた開口部に直接接続されてもよいし、バッフル板等の部材を介して接続されてもよい。このような構成であっても、骨格部材2の内部空間22をスピーカシステムのバックキャビティとして利用することができるように、スピーカユニット6を配設することができる。一方、筐体5を有する場合は、本システムの部品となるユニットを形成することができ、骨格部材2への取り付け作業を容易にし得る。
【0054】
なお、車室内の前方中央に設けられるセンターコンソール等をバックキャビティとして利用してもよい。
【0055】
また、上述した実施形態に係るスピーカシステムをバスレフ型としてもよい。例えば、スピーカシステムのバックキャビティに所定の共鳴振動数を有するダクトをさらに設ける。共鳴振動数は、周波数特性の均一な帯域が低音域側に拡大するように適宜決定することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 :車両
2 :骨格部材
21 :開口部
22 :内部空間
23 :仕切部材
24 :端壁
3 :他の中空の部材
31 :開口部
32 :内部空間
33 :仕切部材
4 :スピーカシステム
5 :筐体
51 :開口部
6 :スピーカユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
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図14
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図16
図17