(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800959
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】カムシャフト調整器
(51)【国際特許分類】
F01L 1/352 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
F01L1/352
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-512528(P2018-512528)
(86)(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公表番号】特表2018-530695(P2018-530695A)
(43)【公表日】2018年10月18日
(86)【国際出願番号】DE2016200420
(87)【国際公開番号】WO2017041801
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2019年9月4日
(31)【優先権主張番号】102015217296.1
(32)【優先日】2015年9月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミーケ コーアス
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−209794(JP,A)
【文献】
特開2010−242585(JP,A)
【文献】
特開2014−74388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシャフトの作動装置であって、
ハウジング(2)と、
該ハウジング(2)に結合された入力車(3)と、
作動伝動装置(4)と、
駆動されるべきシャフトとの結合のために設けられた出力エレメント(10)と、
前記ハウジング(2)内に前記出力エレメント(10)を支持するために設けられた滑り軸受装置(8)と、
を備えた作動装置において、
前記出力エレメント(10)は、該出力エレメント(10)に相対回動不能に結合されかつ該出力エレメント(10)を半径方向で超えて突出しているフランジ(9)を、駆動されるべきシャフトの軸方向で見て、前記作動伝動装置(4)と前記入力車(3)との間に有しており、前記滑り軸受装置(8)は、前記フランジ(9)に隣接して前記入力車(3)の側に配置されていることを特徴とする、内燃機関のシャフトの作動装置。
【請求項2】
前記作動伝動装置(4)が、前記フランジ(9)に結合された出力リングギヤ(7)を有し、該出力リングギヤ(7)が、第2の滑り軸受装置(14)によって前記ハウジング(2)内に支持されていることを特徴とする、請求項1記載の作動装置。
【請求項3】
前記両滑り軸受装置(8,14)が、互いに異なる直径を有することを特徴とする、請求項2記載の作動装置。
【請求項4】
前記両滑り軸受装置(8,14)が、互いに異なる軸方向延在長さを有することを特徴とする、請求項2または3記載の作動装置。
【請求項5】
軸方向で前記作動伝動装置(4)と前記入力車(3)との間に配置された第1の滑り軸受(8)が、第2の滑り軸受(14)よりも小さな直径と、第2の滑り軸受(14)よりも大きな軸方向延在長さとを有することを特徴とする、請求項3または4記載の作動装置。
【請求項6】
前記出力エレメント(10)が、駆動されるべきシャフトの調節角度を制限するストッパディスクとして形成されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の作動装置。
【請求項7】
前記作動伝動装置(4)が、3軸伝動装置、特にウェーブ伝動装置として構成されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の作動装置。
【請求項8】
前記ハウジング(2)が、前記滑り軸受装置(8)の領域に、複数の軸方向溝(12)を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の作動装置。
【請求項9】
前記ハウジング(2)が、前記滑り軸受装置(8)の領域に、周方向に延びる少なくとも1つの溝(13)を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の作動装置。
【請求項10】
当該作動装置が、電気式のカムシャフト調整器の一部または内燃機関の圧縮比を変えるための装置の一部であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の作動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のカムシャフト調整器のために適した作動装置であって、作動装置が、ハウジングと、ハウジングに結合された入力車と、調節伝動装置、特に3軸伝動装置、たとえばウェーブ(波動)伝動装置と、シャフト、特に内燃機関のカムシャフト、に結合するために設けられた出力エレメントと、を有する作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カムシャフト調整器における、このような作動装置は、たとえば米国特許出願公開第2007/0051332号明細書ならびに国際公開第2006/018080号に基づき公知である。両事例は、電気的に操作可能なカムシャフト調整器である。
【0003】
カムシャフト調整器内部の回転可能な部分または複数のコンポーネントによってカムシャフト調整器に結合されている回転可能な部分を支持するためには、原理的に、転がり軸受装置または滑り軸受装置が適している。米国特許出願公開第2013/0081587号明細書に基づき、滑り軸受装置を備えたカムシャフト調整器が知られている。
【0004】
内燃機関における電気操作式の作動装置は、カムシャフト調整器において使用可能であるだけでなく、たとえば弁行程および/または圧縮比を調節する装置においても使用可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底を成す課題は、カムシャフト調整器のために適した作動装置を、上に挙げた公知技術に比べて、特に頑丈で信頼性の良い軸受装置が得られると同時にコンパクトな構造が得られるように改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有する作動装置により解決される。有利な構成は、従属形式の請求項の対象である。
【0007】
特にカムシャフト調整器のために、しかしその他の調節機構、特に内燃機関の弁行程調節または圧縮比調節のための調節機構のために適した作動装置は、任意の個数の個別部分から構成されたハウジングと、このハウジングに結合されるかまたはハウジングの一体の構成要素として形成される入力車と、特に3軸伝動装置、たとえばウェーブ伝動装置(波動伝動装置)の形の作動伝動装置と、駆動されるべきシャフト、特にカムシャフト、との結合のために設けられた出力エレメントと、を有する。ハウジング内に出力エレメントを支持するために、滑り軸受装置が設けられており、この滑り軸受装置は、駆動されるべきシャフトの軸方向で見て、作動伝動装置と入力車との間に配置されている。出力エレメントには、端面側でフランジが結合されており、このフランジは、出力エレメントを半径方向で超えて突出している。滑り軸受装置は、作動伝動装置の一部であってよいフランジに隣接している;特に、滑り軸受装置は、軸方向でフランジと入力車との間に配置されている。こうして、滑り軸受装置は、特にスペース節約的に、入力車に対して軸方向の極めて小さな間隔を有するだけでハウジング内に収容されており、このことは、有効てこ腕長さが小さくなることに基づいて、傾倒によるひっかかりを起こしにくくなることを意味する。
【0008】
好適な実施態様では、出力エレメントが、駆動されるべきシャフト、特にカムシャフトのためのストッパディスクとしても形成されている。駆動されるべきシャフトの調節角度を制限するストッパディスクは、好ましくは、入力車と出力エレメントとの回転軸線に対して同心的な円筒状の切欠きを有し、この切欠き内には、相対回動不能な結合を形成するために、駆動されるべきシャフトの端部またはこのシャフトに結合された中間ピースが配置可能となる。
【0009】
好適な実施態様では、作動装置のハウジングが、滑り軸受装置の領域に、複数の軸方向溝および/または周方向に延びる少なくとも1つの溝を有する。このような溝は、特に作動装置内部での潤滑剤流を促進する。
【0010】
本発明の改良形では、作動伝動装置が、フランジに結合された出力リングギヤまたはフランジと一体に形成された出力リングギヤを有し、この出力リングギヤは、第2の滑り軸受装置によってハウジング内に支持されている。出力リングギヤは、内側歯列を備えているか、または内側歯列を備えたスリーブ状の構成部分に固く結合されていてよい。いずれの場合でも、二重の滑り軸受装置によって作動装置の特に頑丈な構造が実現されている。この場合、両滑り軸受装置は、互いに異なる軸方向延在長さを有していてよい。好適には、軸方向で作動伝動装置と入力車との間に配置された第1の滑り軸受が、出力リングギヤを支持する第2の滑り軸受よりも小さな直径と、第2の滑り軸受よりも大きな軸方向延在長さとを有する。生じるてこ長さは、再度短縮される。
【0011】
軸方向で入力車と作動伝動装置、特にウェーブ伝動装置との間に第1の滑り軸受装置を配置することの利点は、歯列を有する構成部分、特に出力リングギヤをハウジング内にスライド式に支持する、原理的に可能になる滑り軸受装置に比べて、以下のような特別の利点を有する。すなわち、カムシャフト調整器の軸方向で測定して、特に小さなてこ長さが与えられており、したがって、カムシャフト調整器内部の、潜在的に摩擦を高める望ましくない傾倒モーメントが、多くとも小規模でしか発生しない。
【0012】
作動装置の少なくとも1つの滑り軸受装置は、摩擦および/または摩耗を減少させる被覆体を有していてよい。また、滑り材料中に潤滑剤を組み込むか、または相応する材料を潤滑剤で含浸することも可能であるので、摩擦技術的に特に好都合な潤滑剤コンパウンドが与えられている。
【0013】
以下に、本発明の複数の実施形態を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】カムシャフト調整器用の作動装置の第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】カムシャフト調整器の作動装置に用いられる構成部分の1変化形を示す斜視図である。
【
図3】カムシャフト調整器の作動装置に用いられる構成部分の別の変化形を示す斜視図である。
【
図4】カムシャフト調整器の作動装置の第2実施形態を示す、
図1と同様の図である。
【
図5】カムシャフト調整器の作動装置の、特許請求されていない構造を示す、
図1および
図4と同様の図である。
【
図6】
図1に示した作動装置と、
図5に示した作動装置との間の比較を表す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、まず
図5につき説明を行う。
図5には、内燃機関のカムシャフト調整器の作動装置1の、原理的に可能となる、特許請求されていない構造が示されている。一般に、
図5に関連して、かつ
図1〜
図4に示した実施形態において、原理的に同一機能の部分には同じ符号を使用する。
【0016】
種々の図面に図示した作動装置1について共通しているのは、この作動装置1がハウジング2を有し、歯列を備えた入力車3が、ハウジング2の一体の構成要素であるか、またはハウジング構成部分に固く結合されていることである。入力車3は、引張手段(図示しない)、すなわちチェーンまたは歯付きベルトを介して、自体公知の形式で内燃機関のクランクシャフトにより駆動される。原理的には、複数の歯車および/またはベベルギヤタワーのように両端に歯車を備えたシャフト(Koenigswelle)を介した作動装置1の駆動も考えられる。
【0017】
ハウジング2の内部には、作動伝動装置4が設けられている。この作動伝動装置4は、3軸伝動装置、つまりウェーブ伝動装置(波動伝動装置)として構成されている。入力車3に対して付加的に、作動軸5が設けられており、この作動軸5は、カムシャフト調整器の電動モータ(図示しない)によって操作される。電動モータのシャフトが、内燃機関のカムシャフト(同じく図示しない)の回転数と同じ回転数で回転する場合には、内燃機関のカムシャフトとクランクシャフトとの間の位相関係は一定のままである。作動伝動装置4は、高い減速比を有する伝動装置であり、カムシャフトと作動軸5との間の回転数偏差により、カムシャフトとクランクシャフトとの間の位相関係の比較的小さな変化が生じる。
【0018】
ハウジング2には、ひいては入力車3にも、ハウジング2の内部に位置する入力リングギヤ6が固く結合されている。この入力リングギヤ6は、作動伝動装置4の入力軸として機能する。入力リングギヤ6の回転は、作動伝動装置4によって出力リングギヤ7の回転に変換される。出力リングギヤ7は、ハウジング2の角速度とは異なる角速度(つまり、カムシャフトの調節の場合)を有する場合があるので、ハウジング2の内部では、出力リングギヤ7とハウジング2との間に滑り軸受装置8が設けられている。出力リングギヤ7は、その回転を、フランジ9を介して出力エレメント10へ伝達する。出力リングギヤ7は、フランジ9と一体に形成されていてよい。出力エレメント10は、図示のいずれの構造においても(特許請求されている事例においても、特許請求されていない事例においても)、ストッパディスクとして形成されている。このストッパディスクは、カムシャフトに結合可能であり、カムシャフトの調節角度を制限している。したがって、出力エレメント10は常に二重機能を満たしている。
【0019】
軸方向で見て入力車3の中心部と、同じ方向で規定された、滑り軸受装置8の中心部との間には、軸方向の間隔が与えられている。ここでは、相応するてこ腕長さが「lk」で示されている。
図5と
図1を比較した場合、てこ腕長さlkは、
図5の場合のほうが
図1の場合よりも著しく長いことが判る。このことは、機械的な負荷や摩擦発生の点で、より好ましくない。
【0020】
図1に示した実施形態では、滑り軸受装置8が、軸方向で作動伝動装置4と入力車3との間に配置されており、このことは、小さなてこ腕長さlkを得るために大きく寄与する。滑り軸受装置8は、出力エレメント10と、歯列を備えた入力車3を含む、全体を符号11で示した伝動装置構成部分との間に形成されている。出力エレメント10の端面側に配置されたフランジ9は、出力リングギヤ7にも出力エレメント10にも、相対回動不能に結合されており、出力リングギヤ7と出力エレメント10とカムシャフトとの共通の回転軸線に関して半径方向で、出力エレメント10を超えて突出している。出力リングギヤ7は、フランジ9の周面においてこのフランジ9に結合されており、すなわち出力リングギヤ7は、フランジ9の半径方向外側に配置されている。
【0021】
図2および
図3には、それぞれ
図1に示したカムシャフト調整器1において使用可能である伝動装置構成部分11の種々の変化形が示されている。
図2の場合には、滑り軸受装置8の軸受面を形成する、伝動装置構成部分11の内周面に、複数の軸方向溝12が設けられていることが判る。それに対して、
図3の場合には、滑り軸受装置8の領域に、軸方向に延びる溝は設けられていない。しかし、滑り軸受装置8の領域では、伝動装置構成部分11の内周面に、周方向に延びる1つの溝13が設けられている。この溝13は、
図2の場合の軸方向溝12と同様に、潤滑剤の分配を促進するだけではなく、滑り軸受装置8の、周方向に延びる環状の溝13により減少された軸受面の加工をも容易にする。
【0022】
図4には、カムシャフト調整器の作動装置1のさらに発展された実施形態が示されている。この場合には、軸方向で入力車3と作動伝動装置4、つまりウェーブ伝動装置との間に位置する滑り軸受装置8に対して付加的に、別の滑り軸受装置14が設けられていることが判る。この滑り軸受装置14を用いて、出力リングギヤ7は、
図5に示した構造と比較可能に、ハウジング2内にスライド式に支持されている。したがって、特に安定した二重の滑り軸受装置8,14が与えられている。第2の滑り軸受装置14の直径は、第1の滑り軸受装置8の直径よりも大きい。それと同時に、作動装置1の軸方向における第1の一次的な滑り軸受装置8の延在長さは、同じ方向で測定された、第2の二次的な滑り軸受装置14の延在長さよりも大きい。
【0023】
図6に示した線図は、
図1に示した作動装置1と、
図5に示した構造との間の比較に関するものである。ここで、「K」は、入力車3を駆動する引張手段、つまりチェーンにおいて作用するチェーン力を表す。「L」によって、滑り軸受装置8における軸受摩擦が表されている。
図6における上側の一点鎖線は、
図5に示した、特許請求されていない構造に関するものである。下側の破線は、
図1に示した実施形態に関するものである。全ての作動状態において、
図1に示した実施形態の軸受摩擦が減じられていることが良く判る。
図4に示した実施形態と、
図5に示した構造との間の比較にも、原理的には同じ関係性が云える。
【符号の説明】
【0024】
1 作動装置
2 ハウジング
3 入力車
4 作動伝動装置
5 作動軸
6 入力リングギヤ
7 出力リングギヤ
8 第1の滑り軸受装置
9 フランジ
10 出力エレメント
11 伝動装置構成部分
12 軸方向溝
13 環状の溝
14 第2の滑り軸受装置
lk てこ腕長さ
K チェーン力